アビスにとっては結果が良ければそれで全てが良しであると思っているのだろうか。そのあっと言う間に終わった1頭目の飛竜との戦いが終わったからと言ってボヤボヤしてはいられないと思ったのか、アビスは残った桜竜を思い浮かべる。

「そうだな。樽爆弾の威力に惚れてる暇なんて無いからな。こんなとこでベラベラ喋ってる間にもきっと他のハンターが別の桜竜どもと戦ってるんだろうし、早く飛竜ども探して、またぶっ飛ばしてやんないとなぁ」

 テンブラーはやや離れた騒がしい場所、恐らくそこでは別のハンター達が戦っているであろう、その方向に音だけを頼りに顔を向ける。そして言い切ったと同時にその止めてた足を軽く走らせる。

「あのさぁ、テンブラー、残りの桜竜も例のあの爆弾使ってやっちまうのか?」

 スキッドはテンブラーの横に付きながら話しかける。



「場所によるかもな。一応色んなとこに樽爆弾予め置いといたんだが、あんまりその場所から離れてたら運ぶのに面倒だし、それに運んでる最中に攻撃なんかされたらこっちが丸焦げになっちまう」

 流石にテンブラーは爆発物の扱いには慣れている為に、逆にその危険性も充分に理解しているのである。移動させる際は当然転がすのだが、段差等にきつくぶつけたりすると爆発する危険があるのは当然として、いつ襲ってくるか分からない飛竜の目の前で堂々と樽爆弾なんて転がしている余裕等恐らくは無いであろう。

「だったら、その背中に背負ってるでかい剣で戦うの?」

 スキッドと反対側の隣に並んでいるアビスはテンブラーの背中に背負われている大型の剣を見て、言った。



「ああ、これか。大剣ってんだけどな。そうだな、ここに来てまだ1回も使ってないから次使ってみようかって思ってた所だ。よし、あそこに協力しに行くぞ」

 テンブラーの目の前に映ったのは、別の淡い赤色をした甲殻を身に纏った飛竜だ。今その飛竜は恐らくこの村に居合わせていた者達であろう、そのハンター達と激闘を繰り広げている。残りの1頭は今どこにいるのかは分からないが、兎に角目の前に飛竜が映った以上、共に戦うのがハンターと言うものである。



*** ***



「クソッ!! こいつ! なかなか硬いな!!」

「いきなり悪いが、俺らもやらせてもらうぜ」

 上手く足元に潜り込んだ片手剣を持ったやや若い男性のハンターが想像以上のその甲殻の堅さに舌打ちをしている時だった。紫色の防具を纏った大剣装備の男がやや平然とした態度で助太刀に現れたのは。その傍らには、ハンター装備と言う雰囲気的にまだまだ未熟者と言う感じを出す少年と、ギザミと言う鋭く、蒼い甲殻を使った防具を纏ったややベテラン的な雰囲気を出すボウガンを背負った少年の姿があった。



「そんじゃアビス、適当に頭とか狙ってくれ! こっちも適当に頭とか狙ってるから」

「いや、2人とも頭狙うって……ちょっと無理じゃね?」

 モンスターは大体頭部が弱点である場合が多い。その理由としては身体全体を仕切る脳が存在するからである。脳を破壊されてしまえばいかなる屈強な生物もその時点で死が確定する。その為、頭部を狙う戦法は有効と言えば有効である。その為にスキッドはアビスに真っ先に最も有効な部分を攻撃するように指示をする。

 しかし、アビスもスキッドも同じ場所を狙っていると、特にこの場合、遠距離と近距離であり、このままやっていると確実に近距離の方が遠距離の攻撃を誤って受けてしまい、そのまま仲間にやられてしまうのがオチだろう。咄嗟にそれに気付いたアビスは2人とも弱点を狙うと言う戦法を取り消そうとする。



「そりゃそうだろ。ちょっと今言い間違えただけだって。やっぱこっちは翼狙ってるからアビス、お前は頭頑張ってくれ!」

「なんだよ……随分偉そうに……って、んな事言ってる間にもうテンブラー行っちゃってるぞ。俺らも急がないとやばいんじゃねぇか?」

 久々に再会した少年同士でどの部位を狙うかで揉めている間に既にテンブラーはその巨大な剣を豪快に振り下ろし、肉質のやや薄い翼に傷を残していた。



 攻撃を受けた桜竜はその衝撃で一瞬だけ怯んだが、だが、飛竜の非常に強固な骨がそれ以上の刃の攻撃を防ぎ、翼そのものの機能を停止させるに至る事は無かった。

「あのなぁ……お前らなぁ、相談は別にいいんだが、戦ってる時はさっさとやってくれよ」

 テンブラーはやや呆れたような顔をしながら、そして大剣を背負い直しながら2人の少年に呼びかける。

 大剣はその重量が非常に強力な威力を生み出す反面、その重量そのものもハンターにとっては大きな負担となる。実際大剣を扱うハンターは何とか両腕を使ってかろうじて支えられていると言う感じだ。一度振るえば地面に叩き落とすか、或いは体が大きくねじれるほどに剣が横へと振られていく。それだけの恐ろしい重量を誇る大剣を持ちながら動き回るのは非常に大きな負担となる為、大抵のハンターは移動、或いは逃げる時は背負って両腕を自由にするのが一般的である。



「あ、すんません……」
「悪い……。今やるから」

 まだ初対面だからか、テンブラーは表にあまり感情を出そうとせずにただ言葉だけで2人に言うと、アビスは単刀直入に謝り、スキッドはやや馴れ馴れしいような態度ではあるが、一応謝り、今自分達がややその場に相応しくない行為をした事に対して僅かながらの謝罪をする。

 そして同時に、遅れを取り戻すべく、2人の少年は気持ちを切り替え、そして……

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