「じゃあスキッドは翼辺りな! 俺は足の方狙うから!」
「今度はおれが偉そうにされんのか……。わぁったよ! 行くぞ!」

 一瞬立場逆転と言う事態が起こったが、それでもハンターとしての志に劣化は無い。

 桜竜の突進は近距離を専門にするハンターにとっては攻撃が不可能な一刻と化すが、逆にガンナーであれば直線状にさえ並ばなければいつでも狙えるのである。



「走ってばっかじゃあダメなんだぜ!!」

 スキッドはグレネードボウガンに装填されたままの通常弾を、無我夢中でその巨体を前方へと走らせている脚部へ向かって発射する。

 時間差も考えて少し前の方に発射された弾は見事に命中し、決定打に至らなくとも、脚部に刺さるような痛みを走らせる事でその場で強引にその動きを止める事が出来る。

「そんじゃ、次は俺ね!」

 アビスはデスパライズを構えて膝をつきそうになっている桜竜の右脚を狙って斬りつける。弾の刺さる痛み、そして斬り付けられる痛みの2種類の攻撃が合わさり、右脚の力が抜ける。



「うわっとっと!!」

 アビスは咄嗟に倒れてくると察知し、一旦その場から離れ、そして倒れる様子を目にする。

「よっしゃ! 行くなら今だな!!」
「あ、ちょっと待ってくれるか? こいつにおやつあげようと思ってんだが」

 アビスは床に崩れた所を狙おうと、桜竜の頭に狙いをつけるが、やや遠くからテンブラーの止める声が聞こえ、アビスはそのまま立ち止まる。



「おやつ? 何すんのさ? 呑気に食べ物なんて与えてる場合じゃないんじゃないの?」
「アビス〜、お前なぁ、こんな時にホントに食いもんなんてやるって思ってんのか? ぜってぇなんかあんだろ」

 アビスはテンブラーの提案をそのままの意味で受け止め、一体この男が何を考えているのか分からなくなったのだが、スキッドはこの場の空気を考えて男が一体何をしようと考えているのか、大体見当はついていた。



「え? あぁ? じゃあ何あげんのさ? なんか全然意味分かんないんだけど……」
「ま、こういう事だ」

 アビスとスキッドが言い合っている間にまたテンブラーは行動を終わらせていた。どこからともなく転がしてきた大型の樽爆弾を桜竜の顔面付近に設置していたのである。そして再び無造作に散らばっている小石を拾い、そして距離を取ってテンブラーにとっての餌、即ち、樽爆弾に向かって小石を投げ付けようと、標的に狙いを定める。

 しかし、桜竜は即座に立ち上がり、そして目の前に置いてある樽に対して何か違和感を覚えたのか、樽爆弾に小石が当たる直前に桜竜は後方に飛ぶようにジャンプし、そのまま翼を使ってやや遅めに地面へと着地する。

 距離を取られてから爆発した樽爆弾は、その爆風の範囲の都合である程度は桜竜にその爆風を与える事は出来たが、所詮はかすり傷程度に過ぎず、元々強靭な甲殻を有する桜竜にとっては殆ど無傷に等しい。



「ちぇっ……最悪だな……。折角の御馳走大無しにしちゃって……」

 普段はやや温厚な様子を見せるテンブラーも、今回ばかりは折角の過激な爆撃を外してしまい、彼としては珍しく、舌打ちをする。だが、彼の戦法は樽爆弾による爆撃に限られた事では無い。それを踏まえての事なのか、舌打ちした後に怒りの感情を見せると言う事は無く、やはりいつものように落ち着いている。

「やっぱりここは普通に行った方がいい……かな?」

 アビスは折角の強力な兵器を破壊されて少し気分が落ちたテンブラーにやや申し訳無さそうな態度で提案を投げかける。テンブラーは普通に振り向いて、



「だろうな。たまには俺の大剣にもちょ〜っくら暴れてもらわんとな」

 テンブラーは一瞬だけ凛々しい笑みを浮かべてそして後方に下がった桜竜に走り向かう。

「あ、そうだ、あんたらもちゃんと協力、してくれよ!」

 走り出して即座にアビスやスキッドと少し離れた場所にいるこの村に居合わせていた別のハンター達に言葉を投げる。



「はい! 任せて下さい!」
「任せとけ!」
「勿論行くぜ!」

 そして桜竜は今、目の前に走り寄ってくる邪魔者を始末しようと、灼熱の炎の塊を口から飛ばそうと口から洩れるほどの炎のエネルギーを溜め込んでいる。そして、その溜め込んだエネルギーを一気に外の世界へと放出し、塊となった凶悪な炎がテンブラーに向かって一直線へ向かっていく。



「そんな単純な攻撃当たんないよぉ」

 余裕気に炎を横に避けて回避する。

「うぉーーらよっとーー!!!!!」

 そして、気合いと共に愛用の剣、ジークリンデを再び、その巨体を軽々と空中へと持ち上げる機能を持った翼、それの右翼の方に向かって背中から一気に振り落とす。

「うぁーーー!!!!」

 再び翼に傷は付けられたが、だが再びその強靭な骨と筋肉組織によって再び弾かれるが、その弾かれた反動を逆に利用し、再び跳ね返った剣を上手く振り回し、今度は首元にその斬激を浴びせる。

 何度も重たい斬撃を受け、攻撃の余地を与えられない桜竜の隙をついて、その他のハンター達もテンブラーに協力しようと、攻撃され放題の桜竜に接近する。



「そんじゃ、頼むぜ! でもあんまり俺には近づかんでくれよ!」

 大剣を振り回しながら警告を飛ばした後、一気にその他のハンターの攻撃も始まる。とは言え、テンブラーの持つ大剣はリーチも長い為、本人が意識しなくても誤ってその重厚な刃が周囲の仲間、即ちハンター達にぶつけてしまう危険性がある。それを伝えられたハンター達はテンブラーの位置する右翼側には決して近づかないよう、その状況で誰もいない左側を他のハンター達は狙いをつける。

 太刀を持ったハンターがやや高い場所に位置する翼を斬りつけ、そして頭部はハンマーを持ったハンターが狙いをつける。

 両方の翼を攻撃され、そして頭部を殴られ続けた桜竜はそれだけでは決して参るまいと、一瞬飛びそうになった意識を何とか保ちながら顔面を狙い続けるハンターを頭突きで跳ね飛ばす。



「うわぁ!!」

 咄嗟に何か嫌な予感を感じたハンマーを扱うハンターは元々はハンター自身を守るように設計はされていないハンマーではあるが、それでも良いからある程度は自身を守ろうと、目の前にハンマーをかざし、その桜竜の飛んでくる頭部を防ぐが、完全には防ぎきれず、そのまま飛ばされる。

「ん? どうした!? おっと、危ねっ!!」

 突然聞こえた男の悲鳴に、テンブラーは一瞬その目が桜竜の頭部の方へ向けるが、今度はその悲鳴を聞いたテンブラーに危機が迫る。

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