★★☆★★   優しいお姉さんによる楽しい楽しいお話劇場ですw   ★★☆★★

どうも皆さん! いつもいつも当小説をご覧頂いてまことにありがとうございます。
本日は感謝の気持ちを込めて、一つ皆さんにお話を提供したいと思います。

至らない内容になるかもしれませんが、お気楽にお読み頂ければ光栄です。
決して過激な物語であると言う自信はございませんが、心に刻まれる事を祈り、つづった作品であります。
もしこれが、後世に語り継がれる物語になれば、私が申し上げる事は何もございません。

一度、戦争と言う血生臭い世界を忘れて、心和やかに耳を澄ませてみてはいかがでしょうか?
きっと、新しい世界が見えてくるはずです。



  〜〜タイトル〜〜

■◆ 恋人同士? ◆■

とあるファミリーレストランに訪れた青年のお話です。

店に入り、生真面目そうな顔付きをしたウェイターに席を案内され、水を2杯用意されました。
そこで青年はふと思いました。
自分は1人だけなのに、どうして2杯用意されるんだろう? と。

この店には青年の友達も働いており、その友人がメニューを2枚持ってきました。
置き場所は、水の時と同じく、青年の目の前と、正面の席でした。

その友達に、どうして余分にメニューを置いていくのかを青年は問い質しました。

すると、作業員の友達はこう言い返してきました。



「お前赤い服来た女の子と一緒に入ってきただろ? お前彼女出来たのか、羨ましいぜ。でも今はトイレかなんかでいないだろ?」

しかし、青年は反論しました。自分は1人で入店したのだと。
それでも作業員の友達はそのまま仕事場へと戻っていきました。



青年は少し気味が悪くなりました。1人で来たはずなのに、どうして女と一緒に来た事にされているのか。
そんな事を考えている間に、作業員の友達が戻ってきました。

「ああ悪いな。実はちょっと暇だったからわざと2人分置いてお前の事からかってやろうと思ってさあ。夜ってやっぱ人少ないし、でもお前も一応客だから、のんびりしてってくれよ」

作業員の友達の言う通りである。実際に女の子がいる訳も無く、青年は多少呆れながら、コップの水に手を出した。
これはただのふざけ半分だったのだ。



■◆ おしまい ◆■





今回の短編物語ショートストーリーには、薄気味悪い背景が憑依ひょういされているのだ。
世の中の文献には読み返すと非常に残酷な裏側が表面化される事だって珍しくない。
ここでも、現存している可能性は極めて高いし、ここで話す意味自体散在している。

友達がふざけ半分でメニューを置くシチュエーションは多いかもしれない。
人間は友達が相手だと時折力を抜いてしまう事がある。
だけど、本当にふざけていたとすれば、今回のシチュエーションではどれ程嬉しい事だっただろうか。

もし友達がふざけていたとしたら、何故最初のウェイターは水を2人分用意したのだろうか?
生真面目ならば、そんな事はしないだろうし、ましてや青年の友達の口車にも乗らないはずだ。
それなのに、置かれていた理由はただ一つ、かもしれない……。







本当は、ウェイターも青年の友達も実際に赤い服の女の子を見ていたのだ……

ただただ、ただ1人が気付いていないだけであり……




お話はおしまいだよ。
早速本編へと戻りましょう。
前回のお話を折り返し読んだ場合、何かが分かるよ。






                ―― 辻斬亡霊ヴェパールの姿が闇に溶けるその時を…… ――
                      ≪Twitching sense / Black pearls





 夜のこの空が暗くなったその時間帯であると、ギルドの収容所の雰囲気はより一層悪くなるものである。

 この世界には刑務所と言う一般社会で重罪を犯した悪人を閉じ込める存在があるが、ハンター業の世界で罪を犯した人間は、ギルドナイトが管理する収容所に閉じ込められる。

 石造りの無機質な印象、そして冷たい雰囲気、娯楽的な空気を当然のように遮断した地獄のような空間で、収容されている囚人は何を思うのか。罪を償う為に、日夜無限に近い反省でも続けているのだろうか。



 覚えているだろうか?

 炎上するアーカサスの終結の際に捕らえられた、赤殻蟹の武具を纏った凶悪ガンナーを。男は現在、牢獄に入れられ、武具も外された状態で毎日を過ごしている所だ。

 その石で造られた壁や床、そして妙に白く輝く鉄格子で非常に堅く閉ざされており、武器1つ存在しないその場所では、確実に脱獄は不可能である。内部の設置物もあまりにも寂しく、洗面台や簡易トイレ、そして薄汚れた薄い布団が用意されている程度であり、部屋として呼ぶにもあまりにも粗末である。

 これが、囚人の扱われ方なのだ。

 ただ、この男こと、ノーザンにとって幸福だったのは、この石で造られた通路には彼の姿しか無かった事である。他にも牢獄自体は設置されているが、そこに囚人の姿は無い。

 そう、これが……



タン……タン……タン……



 通路にただ1つだけ響く足音だった。通路の外ではギルドナイト達が巡視をしているから、ひょっとしたらギルドナイトの1人でもやって来たのかと考える事も出来るだろう。足音だって、特別な響きがある訳でも無い、至って普通の音である。

 その近寄ってくる音を聞き続けるノーザンであるが、きっと彼は再び取り調べでも受けるのかと想像し、妙に腹立たしくなってくる。



「けっ、何だよ。またしつけぇ聞き込み……ってあ……」

 ネーデルの兄であるノーザンであるが、妹の年齢を考えればそこまで歳を取っていないであろう彼の顔はどこか厳つい。まさに殺人行為を何とも思わない人間に相応しい顔立ちではあるが、現れたその誰か・・を見るなり、苛々させていた顔を硬直させた。



――白装束を纏った人間がおり……――



「わたしが来る事を分かっててそんな言葉遣いをするのね貴方は」

 その老女の雰囲気の中に多少の優しさも混ぜ込んだような声をかけてきたのは、白い装束を纏った女だった。腕を組みながら、牢獄の中で胡坐あぐらをかいて座っているノーザンを見下ろしている。

 その真っ黒な目――黒い瞳と言う意味では無い――でじっとノーザンを見下ろしている。

「お前……ヴェパールじゃねえか……。どうやって来たんだよこんなとこ……」

 ノーザンも容姿は厳つく、暴力的な意味で怖い印象を持っているが、そんなノーザンでさえも、ヴェパールと呼ばれた女性を見るなり、その声の調子が途端に弱くなっていく。深紫≪ふかむらさき≫の長い髪が女性らしいのだが、真っ黒な両目が恐ろしい雰囲気でも受け渡しているのかもしれない。



――ヴェパールの奇妙な笑顔は消えず、だが……――



「口の利き方がなってないわねえ。ヴェパール様、でしょ? 対象を殺す事しか能が無いのに、少しは下司げしとして自覚してみてはどうなの? 今ここにいる時点でそれを充分に証明してる事になってるからねえ」

 内容を見れば多少怒りを混ぜているのかもしれないが、ヴェパールの表情は笑顔のままである。

 不覚にも捕らえられたノーザンを見下す、と言うよりは上層の者が目下の者へ叱責するかのような態度でヴェパールは淡々と口を動かし続ける。陶磁器のような独特な肌の色が人間と同じように見えて、別な感覚を伝えてくる。

「……どうして……こんなとこに来たん……ですか?」

 言われたノーザンは、反抗一つせず、突然敬語なんかを使いながら、ここに来た目的を聞こうとする。彼の性格を考えればあまりにも素直過ぎる態度である。



「それはいちいち聞く事かしら? 関係者の立ち入りが禁止されてる場所にわざわざわたしがやって来た理由を敢えて聞くその頭の悪さを褒めてあげようかしら?」

 ヴェパールの人相は、一般社会の女性と比べればじわじわと迫ってくるような恐怖を携えたものではあるが、これでもノーザンとは仲間である様子だ。

「俺を……助ける為に来たんですか?」

 常にノーザンの一つ先を見通したかのような態度を見せ続けるヴェパールに向かって、やや一歩下がった態度でノーザンは自分の為にわざわざこの薄暗い牢獄に来たのかと訊ねる。

 しかし、逆にそれ以外の目的は想像したくも無いだろう。



「分かってるなら聞く必要は無かったはずよ? まあ、そうね、貴方を連れ戻す為にここに来たの。それでもギルドナイトの皆の目を盗むのは容易だったけどね。強調して横草之功そうおうのこう、とでも言っておこうかしらね?」

 ヴェパールにとってはもうこの場所に訪れる理由が1つしか無いのだから、それをわざわざ口で言わせようとしてくるノーザンの行動が煩く感じたのかもしれない。

 奇妙な笑顔をまるで崩さず、そして困難であったに違いないこの道筋を、非常に軽い態度で説明する。一体どのようにしてあのギルドナイトの監視網を潜り抜けてきたのだろうか。話している内容を見ると、まるでギルドナイトそのものを赤子のように扱っているかのようだ。

「見つかったら、死刑なんじゃないんですか?」

 ノーザンは、もし途中でギルドナイトに捕らわれてしまったら、なんて事を考え、ヴェパールを心配するかのように、胡坐あぐらをかいていた脚を崩した。



「貴方ってもっと気が利いた返事も出来ないようねえ。それに、既に死んでる相手に死刑なんて出来ないでしょ? 事情が分かってる貴方がどうしてしつこく繰り返すの?」

 死刑を恐れていない、と言うよりはまるで死刑の苦しみ自体を素通りでもしているかのような言い方をヴェパールは見せ付けてくる。だが、その死刑を恐れていない真の理由を深く追求しようとすると、更なる恐怖が湧き上がる。

「……すいません。でも、どうやってここ開けんですか?」

 機嫌を損ねたとして、ノーザンは普段の態度を堪えながら謝罪を渡し、そして格子ごうしをどうやって開くのかを訊ねる。人間に似て人間とは異なるオーラを放つこの女ならば、想像すら出来ないような手段で開くのだろうかと思ったのだろう。



「鍵が無いとひらかないでしょ? まさか折を破壊して助けろとでも? 手荒な事をしたら見回りがやって来るじゃない? それこそ貴方の刑期が延長される原因になるんじゃないの? もう少し考えなさい」

 ヴェパールは外見こそは薄気味悪くさびに似た汚れのようなものが目立つ顔をしているが、彼女は魔術師では無いのだから、科学的に信用し難い奇観を披露出来るはずが無いようである。ましてや、力で突破するような野蛮な一面を見せるような事もしなかった。

 考え方の浅いノーザンを、相変わらずの途切れない笑顔で見詰め続ける。

おっしゃる……通りですね……」

 納得したノーザンであるが、それ以上の事は何も言えなかった。



「さてと、無駄な時間を過ごしてしまったけど、貴方にとって肝要な話をさせてもらうわね。しっかり聞いてね」

 下らない質問ばかりをされた為に、きっとここで使う時間の予定を大幅に狂わされてしまったであろうヴェパールは、一度ノーザンから視線を反らす為に身体を横へと向ける。白い装束が僅かに揺れるが、その『白』と言う色はヴェパールの陶磁器を思わせる独特な顔立ちを強く表現しているようにも見える。

「話、ですか?」

 ノーザンのこれからに直接関わる事情だと思われたからか、ノーザンの細い目の色が大きく変わる。きっと、聞き逃せば大きな損失になると意識し、絶対に聞き逃してはいけないと集中力を高めているに違いない。。



「貴方が捕まる事は、組織にとっては致命傷にもなり兼ねないの。組織の情報を奪われたらこっちにとっては不利益としかならないでしょ? だから、今ナディア様が凄いお怒りになられてるの。失態を犯した貴方がのこのこ戻ったら、何されるか分からないわよ? それにネーデルも今はあの対立陣に加わってる訳だし、貴方の立場は今相当危急な状態ね」

 身体を横に向けたまま、顔だけを牢獄内にいるノーザンに合わせ、組織内の現在の事情について説明を施した。

 そして、ヴェパールはノーザンの妹の姿もうっすらと頭に思い浮かべた。長髪と言う意味ではヴェパールと共通点を持つが、髪の色は異なっている。

「ナディア……様、がか?」

 元々『さま』付けされていたヴェパールでさえも敬称を付けている辺り、そのナディアと言う人物は偉大な存在なのだろうか。それだけに、ノーザン達を見る目は非常に重苦しいものがある。



「そうよ。もしこのまま普通に帰還したら、貴方が顔面に受けた打撃以上に苦しい思いをする事になるんじゃないかしら? まあネーデルも連れ戻されたら何されるか凄い気になるけどね」

 きっとナディアから裁定を下されるだろうとヴェパールは判断し、そこに苦痛も加わるだろうと予測を立てる。一応ノーザンはこのアーカサスでとあるハンターから顔面にパンチを受け、白い仮面を破壊されていたが、ヴェパールはそれを見ていたのだろうか。

「じゃあ……どうすれば……いいんですか?」

 ノーザンは制裁が怖いのだろうか、そこから逃げ切る為にヴェパールに助けを求めるように訊ねかける。きっとヴェパールならば、良い案を渡してくれるだろうと信用しているのだ。



「一つだけ手段はあるわね。ネーデルを連れ戻す事ね。実は貴方より、相手側に付いたネーデルの方が危ない状態でね、ナディア様も貴方よりネーデルの方の奪還を優先にしてるし、それにあのは裏切り者だから、拷問は免れないかもね」

 表面上だけを見ればあまりにも簡単過ぎる任務である。ネーデルは囚われたのでは無く、自分の意志で敵側であるはずのアビス達に付いたのだ。それは裏切り行為以外の何物でも無く、ナディアからの目もノーザンに対するものとは確実に別物だろう。

 だが、逆に言えばそれでノーザンの身の安全が保証される可能性があるのだ。

「それで、俺は助かんですか?」

 自分が助かった時に自分の妹ネーデルが受ける責め苦等、まるで気にも留めずにノーザンは本当に助かるのかを疑うかのようにヴェパールにややしつこく問い質す。



「そうね、助かるわよ、率直に言うとね。貴方がネーデルを連れ戻した事にすれば、ナディア様も賠償として認めてくれるでしょうし、貴方への制裁もきっと緩和、いや、制裁すらされなくなるかもしれないわね」

 ネーデルの存在は、ノーザンにとっては今後の彼の立場を大きく変えてくれるだけの力があるようである。勿論それは協力的な、と言う意味合いでは無くて殆どモノ・・のような意味合いで、なのだが。

 賄賂わいろのように扱われるネーデルが可愛そうに見えてくる。

「ですが……、今はあの連中と一緒で……」

 ノーザンにとってはネーデルの周りに付いている人間があまりにも強大で、とても対抗出来るような相手では無いのだから、またそこに足を踏み入れるのかと考え、ぞっとしてしまう。



「そうね。貴方程度の実力ならまたあの者達に包囲されてまた同じ事の繰り返しになるわね。だから、ここはわたしが貴方の為に手を貸してあげるわね。選択肢、与えるから好きな方を選んでね」

 ヴェパールは何を思っているのだろうか。アビス達の仲間が強いと思っているのか、それとも単にノーザンが弱いと思っているのか、その基準の判断法は彼女にしか分からない事だ。

 貧弱な部下を助ける為に、ヴェパールは選択肢を出す事を予告する。

「は……はぁ……。でも、ありがとうございます……」

 一体何を提供されるのか、ノーザンは期待と不安を覚えながら弱々しい口調でとりあえず感謝の気持ちを言った。



「事実を言われて多少なりとも不満げな態度ね。選択肢は二つよ。わたしが直接行って連れ戻すか、それとも……」

 突然多少であるとは言え、それでも変わったと思われるような口調になった事に気付いたヴェパールは一度その部分について口を出すが、それ以上そこに食い付く事はしなかった。

 1つ目の選択肢を出し、そして最後であろう選択肢も言おうとする。

「それとも……なんですか?」

 一体どんな手段が待っているのかと、ノーザンはその期待の中に緊張までも混ぜ込みながらその返答を待った。彼の表情がまるで凍り付いたような真顔になっていく。



「ゼーランディアに頼んで即行で取り返してもらうか、どちらかよ。選びなさい」

 意外とあっさりとしたものであるが、別の存在の手を借りると言う点では、ある意味ではヴェパールでも手に負えない仕事だと判断されたようだ。しかし、ノーザンにとってはヴェパールか、ゼーランディアと呼ばれた何者かに頼るか、あくまでも実行してもらう相手を選択するだけと言うある意味で単純な話である。

「どうして……所属が別の仲間を頼んですか?」

 きっとその者はノーザン達とは違う部隊に所属しているのだろうが、どうしてその別の所属の者に頼ろうとするのか、ノーザンは軽く首をかしげた。



「時間の問題よ。もうあの連中はグラビモスも抑えたからそれでコルベイン山も越えて、スイシーダタウンにまで辿り着いてるの。時間をどうしても短縮したいなら、ゼーランディアの力を借りる事ね。あいつだったら、町一つ簡単に消せるとも言うし、最近死体で戦闘員を作るって言う研究もしてるって言うから、死体交換を持ちかければ案外簡単に引き受けてくれるかもしれないわね」

 ヴェパールは時間の関係で、別の部隊の仲間を出したのだろう。最も、アビス達がその町に到着している事を知っている理由が非常に気になるが、ゼーランディアの力も相当強いものがあるらしい。その破壊の規模を想像しても、捨てきれるものでは無い。

 交換条件を持ち出して、交渉するつもりであるようだ。

「……」

 ノーザンはそこで何を考えていたのだろうか。どちらを選ぶかで、そして、その狙われている対象が自分の妹と言う事情もあり、ある意味で悩んでいるのかもしれない。



「さて、どうするの? 貴方の今後の名誉がかかってるのよ? 時間がかかり過ぎればその分貴方の評価も時間に比例して低下していくわ。最終的には手柄を立てたはずの貴方も拷問を受ける破目になる可能性も考えられるわね。どっちにしても、わたしならすぐに実行出来るから、早く決めた方が貴方の為よ」

 かすように、ヴェパールは腕も組み始めながらノーザンの返答を期待する。時間を無駄にするくらいなら、男らしくすぐに決めてしまえとその真っ黒な目が言っているようにも見えるが、その黒い目はいつも笑顔を浮かべている表情と合わさって、笑っているように感じられる。

「そうですか……、だったら、早い方を……」

 決断したのか、ノーザンは覚悟を決め、自分の意見を述べようとしたが、ヴェパールの口が入ってきた。



「あ、それと一つ付け足しておくけど、ゼーランディアに依頼したら、ネーデルでも連れ戻される前に力尽きるかもしれないからね」

 何かを言い忘れてしまったのか、ヴェパールはゼーランディアの性格について、説明を軽く施すが、やはりどこか内容としては不足しているだろう。

「と言いますと?」

 ノーザンにとっては一応は仲間であるはずのその存在の性格を知らないらしく、ゼーランディアの性格に興味を抱き始める。



「あいつはね、一応登録上は女性だけど、かなりサディスティックな性格も持ち合わせてるからネーデルはきっと傷だらけにされてしまうわね。さて、どうするの?」

 性別くらいは通常は外見だけで大体は分かるだろうが、ヴェパールの話を聞くと、詳しいデータを参照にしないと判別出来ないらしい。しかし、それよりも危険視されると思われる箇所としては、純粋に捕らえて終わらせてくれないと言う点だろう。

 まるでノーザンの判断の妨害でもするかのようだ。

「とりあえず、そいつに頼んで下さいよ……」

 それでもノーザンの判断は左右される事無く、ゼーランディアの方を選ぶ事となった。



「ふふっ、予想通りの答だわ。貴方ならネーデルがどうなろうが気にならないでしょうから、自分さえ助かればそれでいいんでしょうね。先日の貴方の暴君ぶり、凄かったわよね。実の妹を実弾で射撃するし、スカートの中を見ながら興奮するわで。もう何と言えばいいのやら。もしわたしがそんな事されたら、即斬り落とすけどね?」

 まるで分かっていてものを選ばせていたかのようにヴェパールは振舞っていたのだろう。それが予測通りの展開となり、元々奇妙な笑顔であるその顔で笑い声を一瞬こぼし、利己的エゴイストな部分があるとして呆れた表情すらも浮かべた。

 やはり、ヴェパールはあの時の光景をどこからか見ていたのだろうか?



――ネーデルを射撃するあの瞬間を……――



「なんで……あいつの肩持つんですか?」

 話を聞いていると、何故かネーデルを庇っているかのような気分になったノーザンは頭の上がらない態度で訊ねる。恐らくは同じ女同士と言う事情もあるのだろうが、元々襲う対象であるはずの相手に何故そのような言い方をするかが疑問になったのだ。



「貴方は知ってるはずだと思ったんだけどね? わたしもネーデルと同じで兄がいたのよ。因みにわたしは3人もいたけど、もういないのよ。と言うより、復讐を済ませたと言った方が正しいかしら」

 兄弟構成に共通点があったから、ヴェパールはネーデルに感情移入でもしたのだろう。だが、一体その関係の中でどんな事があったのだろうか。現在のヴェパールの風貌を考えると非常に暗い過去でも存在していたのかもしれない。

「あ、そう言えば、いたって言ってましたね……」

 ノーザンもここでうっすらと思い出したのだろうが、やはりそれ以上の口を動かす事は出来なかったのだろう。ある意味触れてはいけない部分である可能性が非常に高いのだから。



「正直、貴方のネーデルに対する迫害行為を見てたら虫唾むしずが走るのよ。兄が妹虐待してもいいのかしらねえ? 本性があらわにになった男って本当に恐ろしいものよ。暴力だけで何もかも解決しようとするからね」

 兄と言う兄が、妹をしいたげる点に対して心中で怒りでも見せるように、ノーザンをじっと睨みつけているが、元々口元が笑顔状態を継続させている為、本当に怒っているのかどうかも判別し難い。

 聞き続けていれば、どんどんノーザンに罪悪感が蓄積されていくだろう。

「なんか、すいません……」

 ネーデルに少し悪い事でもしてしまったかと思い、ノーザンは理不尽な立場に置かれながらも、短く謝った。



「大丈夫よ、往時の話を持ち出すわたしもどうかしてたわね」

 ヴェパールは直接謝られてから気付いたのか、既に過ぎ去った話をして、尚且つノーザンにまで無意味な謝罪をさせてしまったから、一度態度を仕切り直した。今は、文字通り現在を見なければいけないと言うのに。

「所で、俺がネーデルの事撃ったとこ、見てたんですか?」

 今までずっと疑問に思っていた事がとうとう限界に達したのか、どうして直接現場にいなかったはずなのに、自分がやっていた事をまるで当事者であるかのように詳しく説明する事が出来たのか、訊ねた。

 少し考えれば別の誰かがヴェパールに伝えたと想像だって出来たのかもしれないが、ノーザンの中ではその考えは浮かばなかったらしい。



「その場所に直接いなかったら話してはいけないと言うの? いちいち貴方の隣にいられる程わたしは暇人じゃないのよ」

 その場にいなければ事実を直接見る事は出来ないはずであるが、その理論すら捻じ伏せるような返答が、どこか威圧感と奇妙な能力さえ垣間見せてくれる。それでもその場にいないのにどのように情報を手にしているのかが気になる所だ。やはり、誰かから聞き出しているのだろうか。

「は……はぁ……」

 どう返答すれば良いのかが分からず、返事と言うよりは単に呼吸に発音をはっきりとさせたような感じでノーザンは答えた。



「まず貴方はこれから焼死体として、社会的に死んだ者となってもらうわよ」

 早速ノーザンを助け出す為に行動に入ろうとするヴェパールであるが、その実行手段を出す事自体唐突であった事に加え、内容も直接命に関連するものであった為、その後のノーザンの反応はすぐに予測出来るだろう。

「ってな、何言うんですか!? 俺に死ねって言うんですか!?」

 いくら目上からの指令とは言え、単刀直入に死体になれと言われても、納得するのは無理に近い。ノーザンはまるでその場で突然殺されるのかと思い込み、必死な思いで拒む。



「頭が鈍いのは相変わらずね。既におとりを用意してるのよ」

 鼻で笑いながら、ヴェパールは牢獄内のノーザンに白い装束に覆われた背中を向けた。

 彼女の真っ黒な目が面妖に輝いた……。







*** ***







 収容所の中では炎が立ち上がり、内部では多くのギルドナイト達があわただしく動き回っていた。消火の為に多くの人員が動かされているのだろう。

 夜の中に立ち上がる炎、そして煙が立ち上がるその光景はこの前のアーカサスの襲撃事件をうっすらと思わせるものの、炎自体の規模は小さい為に、事件と呼べる程の脅威でも無いのかもしれない。普段からハンター業の秩序を護る程の力を持つ者達の集まりであれば、鎮火程度はそれ程苦にはならないだろう。



 2人の影が夜空に映る月の光に照らされている。薄暗い事には変わりは無い。

 人気ひとけの無い道を歩く2人の背後では、未だに炎と煙が立ち上がっている。それでもこの2人が放火の原因を知っている者だと言う事実を知る人間は、この2人を除いて誰も存在しない。

 先頭を平然と、そしてゆっくりと歩くヴェパールは、ふと背後を横目で見ながら、1人・・の少女・・・の姿を思い浮かべた。



(そう言えば、どうしてあのわたしに気付いたのかしら? 始末した方がいいかしら……。まあいいわ、余裕があった時にでも……)



 ヴェパールの頭に浮かんだのは、眼鏡をかけたオレンジ色のセミロングの髪を輝かせる少女だった。どうやら、妙な気配を感じて振り向いてきたあの光景も、ヴェパールはしっかりと確認していたらしい。

 それでも、詰まりに詰まった予定が少女の殺害をとどまらせてくれたのはさいわいとも言える話である。奇妙な笑顔を浮かべた女と、嘗ての殺し屋ガンナーは、そのまま闇の世界へと姿を消していく。

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