ここはドルンの村と呼ばれる、1人の竜人族の若者が築いた村である。発展途中である為、民家の造りもやや質素であり、木造きづくりであるのが大きく目立っている。

 それでも、ハンターが生活をする村なのだから、竜人族が技術を輝かせる工房も設置されているし、雑貨店も建設されている。ハンターとして生きていくのに最低限必要な要素は揃っている村である。

 数名のハンターが住居を持って生活しており、その中には数年前に鋼風龍こうふうりゅうと戦い、そして命を落とした討伐兵の隊長の弟であるアビスの姿もあった。



 紫色のやや丸みを帯びた髪に、まだ未熟な色を見せてくれる茶色の瞳を持った少年であり、今は皮と鉄で主要箇所を保護した防具を纏いながら、狩場から帰ってきた最中であった。背中には、片手で扱える剣と盾、それらを纏めて≪サーペントブレイド≫と呼ばれる青い色を持った武器を背負っていた。

 手押し車には、狩場で手に入れたかと思われる、桃色の鱗や甲殻が詰まれている。その他、キノコ等の菌類や、草や花等の植物類も色々と詰まれていた。



「ただいま村長! あの怪鳥っていう奴倒して来たよ!」

 アビスは、手押し車の取っ手部分を抜け、入り口の前で待ってくれていた村長の元へと走り寄った。

 白いタンクトップを纏い、そしてやや小柄な身長と、やや大きな鼻が特徴的なその村長が狩猟から戻ってきた少年に向かって笑顔で返答をした。

「アビスか。君だったら、あれくらいの怪鳥は討伐出来ると信じてたよ」

 戻ってきてくれた同じ村に住む人間に向かって、村長は再び笑顔を見せてあげた。



 怪鳥とは、鳥竜の一種であり、恐らくは殆どのハンター達が最も最初に戦う大型の竜である。

 他の飛竜と比較すれば、小柄である上、力も弱いものの、それでもハンター暦の短い者であれば姿を見ただけで怖気付いてしまうのは確実だ。その登竜門とも称される鳥竜を倒してこそ、ようやくハンターとしての実力を僅かではあるが、認められる事となる。

 きっと今まではもっと下級クラスであったモンスターを狩猟していたアビスではあるが、今回を持って、再び自分自身の実力を知った事になったはずだ。



 アビスは受付に行って報告書を提出、そして報酬金を受け取った後に、自宅へと戻っていった。

 そして、彼にとって決まっている事があり、狩猟から戻ったら必ず机に立てている兄の遺影とも言える写真と向かい合い、その日の事を話す事である。写真の隣には、兄が愛用していた遺品のボウガン、ブラックシュートが置かれている。黒い骨組みで作られ、軽量ながらも力強い弾丸を放つ優れ物だ。



「兄さん、俺今日なあ、あの怪鳥倒してきたんだ。飛び回られたり火ぃ吐かれたりして大変だったんだけど、倒したらなんかこう……気分良くなんだよね。俺くちばしと鱗持って帰ってきてさあ、なんかいい感じだったと思う」

 椅子に座り、両肘を付きながら、アビスは今日の嬉しかった事、辛かった事を写真の中で敬礼を立てて映っている紫の髪と、凛々しい顔立ちの兄に向かって言った。



 大抵の飛竜からは、その飛竜独特の素材を剥ぎ取る事が出来、その素材を金品に変えたり、素材を使って新たな武器や防具を作る事だって可能なのだ。ハンターはそれを求め、狩場に赴くと言っても過言では無い。

 今回の怪鳥も、あの大きなくちばしは素材としては優秀なものであり、その素晴らしい強度がハンマーのヘッドとして扱われる事だってある。希少価値もなかなか高い部類に入るのだ。

 鱗だって、飛竜の周囲を囲んでいるものではあるが、上手く剥ぎ取れば、その強度を自分の為に使う事だって出来る。ハンターは、飛竜を倒してそれで終わりという訳では無いのだ。



 兄への報告が終わったアビスは、窓の前へと進み、空を眺める。大分暗くなり始めた空を見ていると、何故か兄を葬ったあの鋼風龍こうふうりゅうを思い出してしまう。



(確か村長、あれの事鋼風龍って言ってたけど……何モンなんだろうあいつ……。いつか俺も戦うのかなぁ……)

 この古龍は、アビスの兄、そして、その兄の部下であった精鋭達を単独で全て倒してしまった。命を軽々と奪ってしまったその龍といつかは戦う事になるのかと想像すれば、軽々と恐怖が込み上げてくるものだ。

 勿論、今の実力であれば、あの古龍に立ち向かうのは絶望的である。まさに、それは自殺行為に等しい。

 明日は赤い皮を持つ凶暴な肉食モンスター、毒鳥竜どくちょうりゅうの討伐の予定が入っている。タインマウスの沼に赴く為に、アビスはベッドの中で深い眠りについた。

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