とあるハンターが、タインマウスの沼で検索をおこなっている。

 全身を赤殻蟹せっかくかいと呼ばれる巨大な甲殻種のモンスターの素材で作り上げた防具で身を固めている。

 ヘルムは顔面部分は白く作られており、目の部分だけが外を見る事が出来るように刳り貫かれている。口の辺りは縦線の穴がいくつも空いており、そのあるハンターの恐ろしさが現れていた。

 背中にはブレイジングハートと呼ばれる、赤い鱗と翼で固められた火竜製のボウガンが背負われている。



 そのハンターの名を『ノーザン』と言う。

 その性格は非常に残忍で冷徹であり、自分の利益の為に他のハンターの命を軽々と奪う。彼が所持しているブレイジングハートと呼ばれるボウガンも、確かに上質な鱗と硬質な甲殻から作られたものであるが、彼自身が作ったものでは無い。

 別のハンターから重量のあるハンマーを使い、殺した相手から強奪した盗品なのだ。ハンマーを選択した理由は、武器の特性にかれたからでは無い。ボウガンを強奪する際に、その威力と脅迫する為の迫力に目が行ったからである。実際は殺したから、脅迫どころの騒ぎでは無いが。

 本来は遠距離武器と近距離武器によって武具の作りが区別されるのだが、遠距離用の武器を手に入れる為であったから、彼は近距離用の武具を揃える事はしなかった。



 彼が今日狙っていた獲物は、毒煙鳥どくえんちょうである。

 毒を体内に持った灰色のゴム質の皮を持ち、そしてそのにわとりのような体躯から、毒を吐き出し敵対者を弱らせる。自身は臆病な性格である為、相手が弱った隙を突いて逃げるのだが、相手を弱らせる為に、自身もまた凶暴化するのだ。

 更に、頭部に備えられている鶏冠とさかを光らせる事によって、相手の視界を短時間奪う事も出来る。



 そして、ノーザンには仲間は存在しない。いや、近寄ってもらえないと書いた方が正しいかもしれない。そして、出来たとしてもすぐにその仲間は消えてしまうのだ。

 基本的には彼自身が相手の方に仲間として装い、そして、自分に何か危険が迫ったりした場合、その相手を犠牲にしていつも自分だけが助かっていたのだ。モンスターの討伐に限定した事では無い。

 自分の所持金が不足した場合や、その時必要としている材料が不足している場合は至る街や村にうろつき、適当にハンターを捕まえる。そして、金品を脅し取り、ノーザンの気分によっては撃ち殺す事も珍しくない。

 また、多くの場合女性のハンターを狙っており、プライドの見えない性格も見え隠れしている。

 通常ならば、殺人、強盗を犯せばハンターのほぼ全てを取り仕切っているギルドナイトによって逮捕され、法廷何かしらの判決を受け、収容所に入れられるか、或いは死刑か、それともその他の重刑が科せられる。

 しかし、ノーザンは意外にもギルドナイトの目を盗むのが上手く、尚且つ通常ハンターというのは元々武器を背負いながら街中を歩くのが当たり前であるから、ギルドナイトであってもその武具で包まれた姿を見ただけで殺人犯かどうかを見通すのは不可能に近い。

 実際、ノーザンと同じ装備をしているハンターはこの世界には数え切れない数が存在する。武具の種類は確かに豊富ではあるが、ハンターの数に比べればあまりにも少ないのだ。

 そして、実際に指名手配をするとなれば、ヘルムの無い素顔を映さなければならない。だから、事実上ノーザンもギルドナイト達からとって見れば、普通のハンターなのだ。



 彼は今、ボウガンを構えながら目的の鳥竜である毒煙鳥を探している。

 ノーザンに近寄る小型の肉食モンスター達は彼の正確な射撃により、どんどん撃ち殺されていく。しかし、彼は倒したモンスターから素材を剥ぎ取ろうとはしなかった。彼にとっては素材等、他の自分より弱いハンターを脅迫すれば好きなだけ得られると思っている。

 今までずっとそうしてきたのだから、もう習慣となっている。

 彼が今回狙うのは、一般的なハンターであれば持っている可能性すら疑わしい、そんな珍しい素材だ。

 その毒煙鳥の頭は、ハンマーのヘッド部分等に利用されたり、また、愛好家によって頭部分を防腐剤を使って保存されたりと、なかなか希少価値の高い素材であるが、頭部を傷つけてしまえばその価値は無くなってしまう。

 だからこそ、ノーザンは決して頭部を傷つけぬよう、徐々に毒煙鳥をボウガンで弱らせていく。

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