なんと言う事だろうか。
見張りを請け負った男の目の前に映ったのは、
しっかりと金髪の男の両腕を縛っていたはずの
錠前じょうまえ付きの鎖であった。

今はどう言う訳か、男の手に握られ、
それに伴い、両手が自由な状態と化してしまっている。



◆ ◆ ◆



「て……てめぇどうやって外しやがった!?」

 外されるはずの無い鎖が今、目の前で外されているのだから男は予想すらしていなかった展開にただ驚かされるが、驚いているだけでは何も始まらない。

 慌てるように壁に立てかけてあった鞭に向かって走り、そして手に取る。そこまでは男は順調だったと言えよう。

「おい待てやぁ! 小細工使ってんじゃねぇぞ!」

 手元が自由となり、柱から解放されたフローリックは真っ先に武器に頼ろうとし始めた男に向かってその足を疾走させ、縛られていた時に受けた仕打ちを全てぶつけるかのように、右足を発動させるが、狙う場所はただ一つである。



――男の、鞭を持った右手である……――



 上着として着ている水色の半そでシャツの中に映る筋肉質な体格に相応しい、重たい蹴撃しゅうげきは強引に鞭を男の手から引き離してしまう。

「うわっ!」

 右手首に圧し掛かる鈍い痛みに声を荒げながら男は鞭を手放してしまう。

 勢い良く放物線を描きながら宙を舞った鞭が床に落下すると同時にまるで連鎖するかのような連続音が小さくではあるが、響く。

「覚悟……」

 そしてフローリックは更なる追い討ちをかけようと、小さくその言葉を吐き、そして

「決めろよ!!」



――右拳を男の鳩尾目掛けて下から突き上げる!!――



「うぐっ!」

 息が詰まるような苦痛が男の腹部に走るが、それだけで終わらせるほど、フローリックは甘くはなかった。食い込んだ右腕に更に力を込め、そして、



――片腕だけで頭の上で山を描くように持ち上げ、そして地面へ叩きつける!!――



「おらぁあ!!」

 持ち上げる為にはやはり、相当な力を使い込んでしまうのだろうか、筋肉で溢れた肉体を持つフローリックでも気合の声を出さずにはいられない。

 背中から床に落とされた男はそのまま動かなくなり、そして腰につけてあった鍵をフローリックに乱暴に引っ張られるように取られてしまう。

「ナイスじゃねえか相棒よぉ」

 黙ってフローリックの芸を見ていたジェイソンは縛られたままの状態でありながらも、素直に関心を覚え、その表情からは緊張感が抜け落ちる。

「当ったりめぇよぉ。今お前も自由にしてやっから、ちょい待ってろ」

 フローリックは金属製のリングに通された無数の鍵、そのリング部分を持って、奪取した事をアピールする為なのか、わざとらしく振りながらジェイソンの背後へと足を運ぶ。



――手首に巻かれた鎖が外され、床へ落下すると同時に
ジェイソンの両腕が一気に天井に向かって伸ばされる!――



「いやぁっは〜! やっぱグッドだぜぇ! フリーダムに戻れるっつうのは!」

 縛られていたのだから、相当窮屈な思いをしていたであろうジェイソンは開放感に溢れるその身体を上へ向かって引き伸ばし、自由に動き回れると言うほぼ当たり前の事柄に対してまるで感謝の気持ちでも覚えるかのような輝く声をあげ始める。

「さぁてと、どうする? これから。ここの連中かんなり妙な奴ばっか揃ってる訳だし、ちょっくら暴れ回ってやっかあ」

 フローリックはジェイソンの隣に移動し、そして横目で長髪の赤髪の相棒を見ながら、そして指を鳴らしながらこれからの計画を考え始めるが、ジェイソンは突然何かの気配を感じ取り、フローリックの左腕を軽く叩く。

「ウェイトだぜ、どうやらエネミーどもが戻ってくるぜ」





▼ ▼ ▽ ▼ ▼





 フローリック達の脱出劇から数分後、一度退室していた者達が次々と様々な道具を所持し、戻ってくるが、それを使うべき対象が室内から消えてしまっており、それ所か、見張り役だった髭を生やした男の姿すら無くなってしまっている。

 縛られていた人間がいなくなった柱の傍らに寂しく放置された粗末な木造の椅子、そして、椅子の上に投げ捨てられた錆びの目立つ錠前付きの鎖。一室がもぬけの殻と化したその光景は寂しさが込み上げてくるが、大事な部分を忘れるほど男達は未熟な精神では無い。

「あれ? おかしいなあ、さっきまであいつらいたはずだってのに……」

 小型のナイフを持った男が何故か縛られているはずのあの二人がいなくなっている事に戸惑いを覚え始める。鎖が放置されている以上、拘束状態から解除されたと言う事だけははっきりと分かっているが、誰が、どのように外したのかは今一想像出来ず、そして見張り役の男も姿を消しているのはどうも気掛りだ。



――まさか男の身に何かが起きたのか?――



 男達としてはあまり想像したくないものであるだろう。なんらかの手段を使って捕らわれの身であった男達二人が逃亡し、見張り役の男が始末されてしまったと言う結末を。

 だが、誰もいないのは事実である。それだけは間違い様の無い話だ。

「まさか逃げられたとか、ねぇよなぁ?」

 所々に革で作られたベルトを装着された鎖を右肩に下げながら立っている男が最悪の事態を思わず考えてしまう。いないからには、そのような結論が出てしまうのかもしれないが、それ以外にどんな考えが思い浮かぶと言うのだろうか。

「おいおい、そんな事言ってんじゃねえよ、大体鍵も無しにどうやって開けんだって話だろ? ん? おい、ちょっとあれ見ろ」

 やはり最悪な事態を宣告されれば誰だって恐ろしいほどの不安を沸き立たせてしまうであろう。だからこそ、そんな台詞を飛ばした鎖を持った男に対して、細長い丸棒を武装した男がその想定を否定出来る条件を出す事で何とか場を落ち着かせようとするが、それよりも気になる場所が見つかり、思わず周囲の者達にその場所を見るように、指を差す。



――男達が戻ってきたドアと別のドアが壊されていたのである……――



 外の通路へ繋がるドアでは無いのだとしたら、恐らくは物質置き場か何か、別の部屋へと続くドアだろう。今は無残にも暴力的に壊されており、周囲に木片が散らばり、既にドアとしての機能を果たせる状態では無くなっている。

 その異様な様子も怪しさを引き立てており、男達としてはそれを黙って見ている訳にはいかなかった。

 恐らくそれは飛竜用では無く、人間相手にする為の火器であろう、元々対飛竜用に作られた小型のライトボウガンよりも更に小型に作られた漆黒の機関銃を両手で持った男がその破壊されたドアの奥の部屋へと赴こうとする。

「なんかあそこ怪しいなぁ……。よし、ちょっとオレが見てくるわ」

 遠距離に対しても易々と対応出来る武器を所有している為か、まるで一時的にリーダーになったかのような態度を見せつけながら、先端に細く、そして鋭く備えられた銃口をドアの奥へ向けながら、ゆっくりと、そして力強く歩いて近づいていく。





≪部屋の内部 / In The Room≫

多少薄暗さを残しているものの、この空間内部に
満遍まんべんなく設置されたランプによって
内部構造を人間の目でも充分確認出来る程度に照らされている。

出口とは別の存在ではあったが、決してそれは
ただの無駄を意味する世界では無かったようである。

内部は非常に広く、天井を支える為の柱が点在し、
いくつもの木箱が重ねられて配置されている。
物質置き場か何かだろうか。

だが、結局この空間からは良い空気が流れてこない。
調べに近寄った男が武装している機関銃から見ても、
木箱の内部に妙な期待を寄せるべきでは無い。





 機関銃で自分を守っている男はそれでも警戒を怠らず、忍び足で破壊されて散らばったドアの木片の上まで近寄り、そして足を止める。

(なんだ、誰もいねぇのか……)

 男の目の前に映るのは、ただ木箱がいくつも並べられ、そして詰まれた空間であり、そこに何か怪しい人影が存在する訳でも無い。

 ドアは破壊されていると言うのに、その奥の世界は非常に静かであり、ドアと比べて対照的と言えるだろう。

 それでも男はあの消えてしまった二人が気になり、更に奥へ進もうと、銃口を前方に向けたまま、止めていた足を再発させる。










「う゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!」










――それは、生命の終わりジ・エンドを意味する断末魔の叫びデッドスクリーム……――



―― 一体何が、そうさせたのだろうか……



 男の目の前に突然振り下ろされた鎌が胸を容赦無く貫き、声にならない悲鳴をあげさせ、そして口から多量の血液を流させながら床へと崩したのだ。

 まるで天井を軸にするかのように襲った鎌は一撃必殺の威力を見せ付けたのだ。その凄まじい光景を見せ付けてすぐに、天井へと持ち上がっていく。刃についた血液が一滴一滴ゆっくりと床に向かって落ちていく。



「こいつ……本気で殺そうとしてたのか」

 なんと、天井から降りてきたのは金色の短髪が印象的な男、フローリックだった。右手には真っ赤な血に塗れた鎌が握られていた。崩れた男が握っていた機関銃を見て、彼らの本当の目的を知ったような気持ちになりながら、ドアの上から飛び降りる。





――この男こそが、一撃必殺を見せ付けた張本人――

ドアの上部には人が一人、なんとか立てるようなふちがあり、
フローリックはそこに鎌を持って隠れていたのだ。

本当は殺しまでしなくてもいいのでは無いかと戸惑ったものの、
相手が持っている物は機関銃。
確実に相手は殺意を持っていたものと認識し、
自分が殺される前に、あやめたのである。

普段は飛竜等のモンスターを始末しているとは言え、
人間を始末するとなると、どこか心が痛むものである。





「おい! デンジャーだぜ!!」

 一方で、深紅の長髪のジェイソンは部屋のやや奥の木箱の陰に隠れていた訳だが、やや遅い動作で機関銃を拾い上げるフローリックの背後に映る敵の様子を見るなり、表情を強張らせながら、指差して叫んだ。

「なっ!!」

 一体フローリックは何を言おうとしたのか、それを読み取る事は難しいが、後ろを振り向いた彼の目線に入ったものはただ一つである。



――他の機関銃を持った男達……――





―> 男達の持つ機関銃

―> それらが意味するものは……

―> 銃口マズルから放たれる死への集中砲火タワリングインフェルノ……





「死ねぇええ!!」

 仲間を殺された怒り、そしてもう時期敵対する相手を殺せる喜びに駆られた男達が命令とも言える宣告を下しながら、一斉に引き金トリガーを引き始める。



――銃口から無数に放たれる、殺人蜂フライングシェルズ!!――

 フローリックは咄嗟にその木箱の詰まれた部屋の影に身を引っ込めるが、ドア周辺にいくつも被弾するその光景は最早尋常では無く、直接身体に命中しなくても、壁が削られる音と、飛び散る破片が最悪な迫力を伝えてくれる。



――勿論相手もその場で黙っている訳では無い――



「ジェイソンやべっ! 隠れっぞ!」

 目の前で連続で発射される弾丸が周辺に着弾する様子に、何か更なる最悪な事態が攻め込んでくる可能性があると悟り、本能にも近い生命防衛策なのだろうか、一気にフローリックは目の前の詰まれた木箱の上を飛び越えるように裏側へと回り込み、木箱を盾代わりにする。ジェイソンに伝えながら。

「レアリーかぁ!」

 ジェイソンが返答した頃には既にフローリックの先程まで立っていたドアの場所には数人の機関銃を持った男達が陣とっていたのである。



――そして予想通りの最悪な展開キラービーズストームが始まる……――



 男達は無言で再び引き金を引き、室内に対する一斉射撃を行う。

――飛び交う無数の銃弾が木箱に着弾し……

――乾いた、死を招きかねない音を無数に響かせ……

――精神的に、肉体的に隠れた二人を圧迫する……



「マジどうすりゃいいよ……」

 機関銃を持った男達と反対側に隠れて背中でよしかかった状態のフローリックは横の方にいるジェイソンと目を合わせながら、独り言のような言葉を呟く。

 フローリックとジェイソンの間の空間は、無数の弾丸が恐ろしい程の高速で飛び、それが壁となってその二人の接触を拒んでいる。連続で発射されている為にその無数の弾丸の軌道を肉眼で捉えられているが、それでも命中したらどれだけの重症を負ってしまうか、その現実だけは全く失せる事は無い。

「コンシードさせられっかもな……」

 ジェイソンも詰まれた木箱にしっかりとその身を隠しながら、諦め半分のような台詞を呟いた。

 最悪、男の威勢に従い、降参しなければいけなくなる可能性も出てきてしまっている。それに、ジェイソンは今、遠距離に対抗出来る機関銃に対する反撃手段を持っていないし、近距離用の武具で挑んだ所で、辿り着く前に穴だらけにされるのが見えている。

 だが、フローリックは別だった。周囲に被弾し、小さな木片が容赦無く散らばり、その一部が時折フローリックの頭に降ってくるも、ジェイソンの負けを認めたような様子に対して励ますかのように自分が持っている物を持ち上げ、見せ付ける。



――それは、機関銃……――



 フローリックは木箱の裏に飛び込む際に一度拾った機関銃を手放さず、隠れたのである。これなら、遠距離の人間に対して猛威を振るう敵の機関銃に対抗出来るかもしれない。

 でも、未だに死へと導く弾丸は飛び続けたままである。





「おらぁあああ!! 死ねやクゥズがぁあああ!!」
「血塗れにしたろっかぁああああ!!」




――男達は娯楽のように叫び狂いながら、乱射活動ヘルファイアを継続させている……――



 無数の弾丸は着弾地点を中心に、破片を飛び散らせ、そして小さい轟音を一瞬だけ響かせてその活動を終了させる。

 一発一発の着弾時の迫力は対したものでは無い。勿論、威力は底知れぬものがある訳だが。

 しかし、それが無数となれば、小さな迫力が積み重なり、恐ろしい質量へと変貌するものである。ただ着弾地点をえぐり取るだけでは飽き足らず、埃を纏った煙まで発生させ、火薬のにおいを充満させてくれる。

(こんままじゃあお陀仏じゃねぇか……やべぇな……)

 フローリックは手に持った機関銃を誇らしげにジェイソンに見せつけると、木箱に背中を押しつけていた状態から体勢を変え、銃を乱射している男達の場所へと身体を向け、そしてただ適当に上部を掴んでいた機関銃の下に伸びた二本の持つ部分グリップにそれぞれ両手を移す。

(そろそろプレイタイムか……)

 フローリックの体勢に変化が訪れた事に対し、遂に彼がとある覚悟を決めたのだろうと、ジェイソンは銃弾の飛び交う空間に設置された木箱に隠れたまま、笑みを浮かべる。



「おらぁ!!! どうしたゲスどもがぁあああ!!! さっさと降参しちまえよぉおおお!!!」

 男達は未だに機関銃による猛攻の手を止める事無く、そして叫び狂いながらフローリックとジェイソンの最期を期待し続けている。


「そろそろ切れっころじゃねぇかな」

 木箱が強固な盾として、決して自分の身体にまで銃弾を届かせない事を信じているからか、フローリックは男達の叫び声や、轟く着弾音にもまるで怯みもせず、これから訪れるであろう状況を冷静に把握し始める。





――機関銃とは言え、所詮はボウガンと変わらない部分があるだろう――

致命的な部分と言えば、弾切れと言う所。
毎秒十何発も発砲していれば、すぐに弾薬マガジンが寂しくなるに違いない。
必ずその隙が出来る以上、それを狙わない手は無いだろう。





 先程までは、木箱の左右も、上も銃弾が通り過ぎ、とても身をさらけ出せる光景では無かったが、そろそろと言った所である。

 何人かの弾薬が尽き始め、新たな弾薬を装填リロードする為に、どうしても攻撃が途切れてしまう。それは敵対する相手に攻撃の隙を与える事にも繋がる話である。

「よっしゃ。……悪く思うんじゃねぇぞ!!」



―― 一度笑みをこぼし、そして覚悟を決めて機関銃を改めて強く握る!――



 フローリックはこれから始まるであろう殺戮の嵐を覚悟し、攻撃の止んだその一瞬をつき、銃弾が通り過ぎなくなった木箱の右側から上半身を曝け出し、凶暴な銃口マズルを向けつける。



――そして、引き金トリガーが引かれ……



――銃口マズルから無数の弾丸キラービーが火を噴き、飛び交い始める!!



 対人戦用の機関銃を扱ったのは初めてだからなのだろうか、フローリックは無言で弾丸を連射させ、その後に映る光景からも目を離さず、この場から逃げ切る為の道を切り開く。



「うあぁ!」
「あぁ!」
「お゛あ゛ぁあ!」

――銃弾シェルズは、向かうべき相手に強引に悲鳴を上げさせ……――

◆◆確実に死へと誘う!!スマイリング・カース◆◆



 連続で放たれた弾丸は人間の脆い皮膚を容易に抜け通り、深部へと浸透する。そして恐らくは内臓機能に著しい損傷を受けたであろう男達は撃たれた胴体、そして口から血を噴出しながら、力無く床へとその身体を崩していく。

 目の前で、そして一瞬で人間の生命がはかなく崩れ去る光景をの当たりにしても尚、フローリックは真剣に、そして冷静にグリップを握ったまま、攻撃を止める事は無かった。

 寧ろ、攻撃をやめてしまえばフローリック達の命が危うくなるに違いない。それを理解していての事なのだろうか、ジェイソンはずっとフローリックの射撃の様子を見ながら、軽い笑みを浮かべ続けていた。



◆◆僅か十数秒。敵の生命活動は終わった……モメントリーレイジエーション・ブラッディコネクション◆◆

―― 一瞬の隙をつかれた男達は血を身体中から流し、動かなくなった……

――これから二人がするべき行動はただ一つ……



「とりあえず、だな。ジェイソン、そっちもなんか好きなもん武装しとけよ」

 フローリックは機関銃を持った相手がいなくなった事によってこの場が安全地帯と化した事を確信している為か、木箱から堂々とその身を曝け出し、そして自分自身が持っている機関銃を離さないで死体となった男達に近寄りながら、遅れて近づいてくるジェイソンに伝える。

「にしてもナイスプレイだったぜぇフローリックよぉ。マシンガン平気でぶっ放すなんてちょっとはアダプテーションしてたってかぁ?」

 ジェイソンは男達の返り血で多少赤く染まった床に落ちている機関銃の一つを平然と拾い上げながら、フローリックの銃の扱いの腕前に対して褒め称える。

「別に慣れてるっつう訳じゃねぇけどよぉ、こんぐれぇの対策出来てねぇとこんな時とか困んだろ?」

 機関銃を持ち上げ、両手で持ち直すジェイソンを横目で見ながら、フローリックは決して自分がただ飛竜用の得物しか振り回せない人間では無い事を伝える。

 多少の知識ぐらいは所持していると、自信有り気な様子である。

「そりゃあそうだったなぁ! それよ……ってなんかデンジャーなエアー漂ってっぞぉ……」



――ジェイソンの目つきが突然変わる……――



 フローリックにゆっくりと関心を覚えている間も与えられず、ジェイソンは遠くから、小さく、でも徐々に大きくなっていく妙な音に違和感を覚え始める。それは喜ばしいものでは無く、焦りを与えるには充分な要素である。

「マジかぁ? 多分仲間んじゃねぇか?」

 恐らくは銃声を聞きつけた他の者達がここへ足を運びに来ているのだろう。徐々に大きくなっていく音は確実に足音である。

「そんじゃ、ここはエスケープだな!」
「ああ」

 金髪と深紅、それぞれの色を携えた髪を持った男二人はそれぞれ機関銃を手放さず、援軍が来る前にその場を後にする。

 木箱の詰まれた部屋の奥にも更なる通路があったのだから、そこへと進むのが得策である。

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