酒場で罵声を飛ばした男達クワイラル・イン・ザ・ギャザリング

 酒場で数時間前に行われた大勢の男達と、四人の少年少女の中の代表として立ち上がった一人の少女の間で繰り広げられた口と口との戦い。

 手馴れたハンター達から見て未熟者かすと思われ、ベテラン級の実力を持つ少女二人ミレイとクリスとの同行を否定された二人の少年ハンターアビスとスキッド

 立ち向かった少女の行為は、ハンター達にとっての『かす』を守る為のものであった。共に歩んできた僅かな時も、守る為の立派な理由。

―――勝者は―――













歴戦の勇者達酒場のハンター……












 では無く……













アビスの仲間ミレイ……












 無事に勝者ウィナーとして敗者ハンターどもから抜け出した四人は今、馬車内部で、今回のクエストの話、そして、酒場でのあのハンター達に飛ばした威圧的な態度について軽い話が飛び交っている。

「あ、そうだ、ミレイ。お前さっきのあのおれらが未熟者だからどったらこうたらってやつ、あったろ? あれ、まさかお前本気で思ってねぇだろうなぁ?」

 スキッドは先ほどの女の子とは思えないような、恐ろしく威圧的なあの目つきを間近で目撃したのにも関わらず、まるでその時の恐怖を抜き取ったかのような、いつものような友達に対するものとして相応しいような平然とした態度で、ミレイに問うた。







──ミレイは本当に少年二人アビスとスキッドに対して下等者扱いしていたのだろうか?
だが、途中からの庇うような言動。それを考えるとその扱いにはやや違和感を覚えてしまう――







「あれね……。ちょっと、ごめんなさい。あんた達の事悪く言うつもりは全然無かったんだけど、始めて来たハンターって、必ず最初はああやって色々ゴチャゴチャ言われて大変なのよ。だからああやってわざと未熟者だって事アピールさせて、んであたし達が指導する、みたいな感じになって狩猟に行くって感じでちょっと強引に行こうと思ったんだけど、どうかしら?」

 ミレイはいくら演技として振舞ったつもりでも、アビスやスキッドのプライドに傷をつけるような事を喋ったのは事実だ。一度少年二人に軽く頭を下げた後、あのハンター達に対する発言の中に含まれた本当の気持ちを、両手をまるで宙に浮いている物体をずらしたりするかのように動かしながら、説明した。





――酒場を抜けるにはこの方法しか思いつかなかったのだ――



初めて訪れた初心者よりも、住み慣れた上級者の方が立場的にも非常に強い。初心者の言い分は聞き受けられない可能性が高いが、逆に上級者ならばすんなりと通る可能性がある。
しかし、酒場のベテラン達ハンターども上級者ミレイを認める事はしなかった。所詮、ミレイも男達から見ればまだガキであり、初心者の立場にある二人も同じくガキ。

《どうせガキがガキを守りたいって言う魂胆だろう》

このように悟られていたのだ。あの男達によって。だが、ミレイは路線変更し、指導と言う名の脱出口から、反論と言う脱出口に目を向けた。





「ちょっとあれ聞いた時はなんかビビったけどまさかミレイが本気でそんな事言う訳無いよなって思ってたし、それになんかスキッドにもなんか『これは芝居だ』的な事もぼそぼそ言ってるとこ見てたから、俺としてはなんか助かったってでも言う感じだと思うよ」

 アビスも当初は本当にまともに飛竜すら狩れない能無しハンターだと本気で思われているのかと思っていたが、スキッドに何やら策略みたいな事をこそこそと言っていた辺り、何か裏があるかもしれないと気付き、ミレイを信じてあそこでは何も言わなかったのである。

「一応あそこはハンターの街って言われてるぐらいだからどうしても性格がきつい人もとても多いの。始めて登録してクエスト受けようとすると必ず、って訳でも無いけど結構色々傷つくような事言われるから、ミレイはどうしても助けたいって思っての事だったの。だから、ミレイはあんまり責めたりはしないでね? 許してあげて。ね?」

 クリスは自分もハンター登録を始めてしようとした時の事を思い出し、一瞬暗い顔を作り、俯くが、すぐに顔を上げてミレイを庇うような事を言った。あくまでも、ミレイは少年二人を助けたのである。





――クリスはミレイを信じていたのだ――



ミレイとの長い付き合いを経験しているクリスなら、ミレイのあの酒場での男達に言っていた内容少年二人の誹謗中傷の意味が理解出来ないはずが無い。おまけに耳元でスキッドに何か話している辺り、何か考えがあるのだろうとすぐに理解出来るものだ。
あのような発言、本当に仲間ならば、普通は言えたものでは無い。あれが本気だとすれば、確実にミレイは仲間を失った友達を無くした。仲間から下等扱いを受けていては、この先信頼出来るはずも無い。

ミレイには本当に少年二人に狩りの世界の恐ろしさを教えるコーチになる気等無い。上下関係を作り上げて威張り散らす気等も無い。だが、酒場から脱出するにはあそこまでやるしか道は無かった。だからこそ今ここ、安心出来るこの場所で謝罪し、あの誹謗中傷を取り消した。





「心配すんな! クリスが言うんだったら、おれはすんなり許してやっぜ! それにおれらだってちょっとはまだ実力的にパッとしないとこはあっけどな、でも心配すんな! その内そこら辺のハンターがひざまずくような力つけてやっから!」

 クリスに言われるなり、スキッドは突然テンションを上げて親指を立てながら許容し、そして何故か自分の実力を改めて見直し、酒場のハンター達の言ってきた事は満更言いがかりでは無い事を知ったような気がした。

「お前クリスに何か言われたら元気になるよな……」

 誰が見ても分かるようなそれを、アビスは隣に座っているスキッドに、苦笑いしながら、言った。

「まあな!」

 スキッドは堂々と、凛々しく横目でアビスを見ながら誇るように頷いた。





――女の子クリスの助言はスキッドの心にパワーを与える――



スキッドも正直言ってあれだけ弱者呼ばわりされてしまい、いくらミレイなりの配慮とは言え、僅かに苛立ちを覚えていた。無論、酒場の連中には配慮と言う心優しさ等は含まれていない。
だが、実際にここでミレイは頭を下げた。これはまさに配慮と言う事を意味する行為だ。スキッドは煩い男ではあるが、物分りが悪いアホでは無い。クリスのその助言は、スキッドの心の内に溜まっていた負の念を取り払い、スキッドに必要以上の上達宣言をさせるのであった。





「いや……まあなって……、あ、それよりさぁ、あのなんだっけ、ニラ……ニラバ……ニババの丘……」
「ニムラハバの丘」

 アビスはスキッドのその態度に半ば呆れるような気の抜けた反応を見せた後、話題をクエストの方に変え、自分の正面に座っているミレイの方を見ながら、聞こうとした。ミレイから軽い訂正を受けるが、アビスは焦るように頷いた後、再びその口を動かす。

「ああ、そうそう! それだ! そのニムラハバの丘に先に行ってたバウダーとダギって人、結構実力はある人達なのか?」

 その二人のハンターについてアビスは気になり、この移動と言う時間的に余裕のある機会にミレイに聞いておこうと思ったのである。

「そうねぇ、バウダー君って人はランス使いで……」
「ランスってお前、あのバカデカいあれじゃんかよ!」

 ミレイの説明に割って入るように、スキッドがランスのあの大剣に匹敵するサイズと重量を誇る迫力を想像しながら、声を荒げた。





飛竜を防ぐ動く城壁   ランス   



俊敏性を捨てた大型の武器である。
超硬度、そして重量から生み出された恐るべき防御性能。それは軽々と飛竜の重撃を防ぎ切る。

鋭さと重量を備えた破壊力の高い槍は、重撃を放った後の隙だらけの飛竜の体を突き破る。

それはまさに、城壁に守られた竜撃槍である。





「ああ、うん、そうなの! あの凄く重くてちょっと使いにくい武器で、んでまあ、彼は結構実力あるハンターなのよ。あたしよりハンター歴は長いかな。数年は。でもダギは……」

 突然ダギになった途端に呼び捨てになると同時に、ミレイは何か躊躇うかのように、その声に詰まりを見せた。





――ダギに対するミレイの不快感――



容姿の問題がミレイに溜息を吐かせている訳では無い。アビスやスキッドと比べるととても年齢が近いとは思えないかもしれないが、それだけが闇を与えている訳では無い。それ以上に、問題なのは態度であった。
共に狩猟に行っていた時は幾度と無く威張られたり、指図されたり、勝手な勘違いで怒鳴られたり、考えれば考えるほど共に活動していた時の事がおぞましく感じる。

ダギの可愛げのまるで無い挙動に比べれば、アビスのように無気力な雰囲気や、スキッドのような友好的で非常に煩い雰囲気の方がまだ良い方である。
しかし、今はバウダーと共に危険地帯ピンチに縛られている。倫理的に考えると、やはり見殺しには出来ない。バウダーを助けたいと言う気持ちは当然として、ダギも一応助けようと思ったのは、ミレイの心に残された優しさである。





「ダギって人になんかあったのか? いきなりなんか止まったみたいだけど」

 ミレイの様子に異変を感じたアビスは、首をかしげながら訊ねる。

「あいつは……どうなんだろ? 一応大体の事は出来る〜とは思うけど……なんかね……あんまりあたしは得意じゃないかな、あいつは。まあ、あんまりそれ以上は言わないけど」

 ミレイはどこか嫌な話でもするかのように、左手を額に当てて少し下を向きながら、ダギの話を言い切った。元々その男からは色々と苛々するような事をされてきた身だ。あまりその男の説明は気持ちの良いものでは無かったのかもしれない。





――もう一つの、ミレイにとってのダギの嫌悪感――



それは、嗅覚的な……





「兎に角そのダギって奴はダメダメって事だな! お前のその言い方からそう言うの、めっちゃ伝わってくるぜ! まあいいだろ、兎に角おれらが助けりゃあまた色々そいつらとも話出来るって訳だしな!」

 ミレイのその話、話す態度から、ダギはハンターとしては大した実力は持ち合わせていないと悟ったスキッドは、まるでその二人が勝手に友達になったかのように、馴れ馴れしい口調でその二人との出会いを期待した。

「いや、別にダメダメって訳じゃ……まあいいけど。それより、そろそろじゃないかな。降りる準備、した方がいいわね。」

 ミレイは馬車の窓から映る外観によって、目的地へ近づいた事を察知したのか、皆にそれを伝え、そしてミレイ自身も立ち上がり、馬車の荷台から降りようと、後部の出口に近づく。



「そんじゃ、アビス君とスキッド君の実力、見させてもらおうっかな〜♪」

 クリスもミレイに続いて降りようとするが、出口の目の前で止まり、アビスとスキッドの方へその確実に童顔とも呼べるそれを向けながら、にこやかに、これから起こるであろう戦いでの活躍を期待し、そして荷台からそのまま飛び下りる。

「じゃ、おれらも行くか! 始めての女の子との狩猟だぜ! なんか燃えるよなぁ!」

「あ……あぁ、そう、だな……」



――二人の少年アビスとスキッドにとっての初めての異性との狩猟――



少年にとって、これだけの希望は無いだろう。同性の友人と行くよりも、異性と大型の敵に立ち向かう方が精神的に燃え上がるであろう。特にスキッドにとっては、一番の見せ所だと捉えている。ここ一番の危機デンジャラスゾーンで、相手に迫る絶望の襲来ドラゴンズクラッシャーから助けてやれば、スキッドの株が上がるかもしれない。

これは完全なスキッドの思想である。

アビスは多少、緊張と言う縄に縛られながら、猛毒草が支配する丘で、剣を振るう姿を思い浮かべる。





 異性との狩猟に期待でいっぱいなのだろう、スキッドはアビスの隣で右拳を持ち上げて握り締めた後、スキッドのテンションに途惑うアビスを背後に、スキッドも荷台から飛び下り、そして四人は、それぞれの道具等をポーチに入れ、遂に橙色の草花の茂る、ニムラハバの丘の探索が始まるのであった。



*** ***



【ニムラハバの丘/Hills of Nymlahaba】

≪台地のほぼ全域を覆い尽くす橙色に染まり尽くされた草花。それは緑色のそれに比べ、沈鬱な空気を全空間に漂わせる。
それはまるで、台地に一日の終わりを告げる夕暮れを延々と映し出しているようだ。

この憂鬱な印象を与える丘陵の中心部には、この地域の象徴である猛毒草ジャガーヘッドが口を開いており、今日も生贄となる獲物を待っている……≫





 猛毒草ジャガーヘッドの毒素には、食した物の神経に影響を与え、理性を失わせる事で非常に凶暴化させてしまう非常に恐ろしい成分が含まれている為、ハンターズギルドの方で警戒しており、その洞窟を何年も前に厳重に爆破封鎖したはずだった。内部に潜むモンスターも殲滅させ、その上での爆破だった為、その崩れた岩が解放される等、まずあり得ない事だった。

 だがしかし、

「そんな洞窟解放されちまうとかさぁ、誰だよなぁ、ホントに。ただほっといても飛竜ってのはよぉ、うぜぇし危ねぇし騒ぐしで、こっちは命かけて戦うってんのにそんなもん食われたらもうどうしよもねぇってもんじゃねぇかって思わね?」

 スキッドは両手を後頭部に回しながら、だらだらと今回の猛毒草ジャガーヘッドに対する愚痴のような事を零しながら、右側にいる三人の方を向いた。

「そんな事言わないでよ。あの洞窟さっさと封鎖し直さないとあのジャガーヘッド食べられて最悪な事になるんだから。その為のこれ、タル爆弾でしょ?」

 一番右隣にいるミレイは、左手で肩から下げて持っているザックに目をやりながら、スキッドに今回の目的の為に使うであろう道具を見せる。そのザックの中には小型のタル爆弾が入れられており、恐らく予め探索に行った二人は爆破は出来ていないだろうとギルドは読み、敢えて今回の四人にも爆破の為の道具を持たせたのである。

「でもさあ、洞窟開いちゃったって事はさぁ、そのジャガー何とかってやつ、もう近くの飛竜に食べられてんじゃないのか? だとしたらちょっと急いだ方がいいかもしれないぞ。まさかあの二人、もう死んじゃったとか……」

 ミレイのすぐ左にいるアビスは、縁起でも無い事を言った為か、左手の塞がっているミレイの左つま先で、軽く足を蹴られた。

「アビス、変な事言わないでくれる?」





――仲間を勝手に殺されるのは、ミレイにとっては受け入れがたい内容である――





 仲間の死を勝手に決め付けられて少し苛々したのか、そしてアビスは仲間だと言う絆の関係もあるのか、少し呆れたように、緩く睨みつける。

「今回気をつけるように言われてる飛竜って、確か怪鳥、だったよね? だったら大丈夫! いくら凶暴化したって言っても怪鳥ぐらいだったらあの二人も大丈夫だと思うよ。私だってもうあれぐらいは一人でも討伐出来るからね」

 アビスとスキッドに挟まれる場所で歩いているクリスは、今回の要注意飛竜を思い出すが、いくら凶暴化したかもしれないとは言え、相手は飛竜の中でも最下級クラスとも言われている怪鳥だ。どこか、バウダーとダギは生存していると言う希望を持たせるように、明るい声をあげる。





――今回戦うであろう怪鳥 それは、飛竜最弱の称号――



武器を持たぬ者一般人にとっては殺人兵器とも呼べる鳥のような飛竜キラーウェポン熟練した者ハンターにとっては最弱の飛竜。恐怖等と言う障害がとりついてくる事も無い。





「おお、流石はクリスだぜ。可愛いだけじゃなくて腕前もバッチリって訳かぁ! なんかどんどん期待膨らむって感じするぜぇ!」

 クリスの台詞を聞くなり、スキッドはテンションを高ぶらせ、突然クリスの右肩に右腕を回しながら、そのまだ直接見ていない戦いぶりを想像した。

「あ、いや、あのさぁスキッド君……。怪鳥程度で喜んでちゃあ、あ、別に悪口って訳じゃないんだけど……、怪鳥でそこまではしゃぐのは、私達の前だけにしてね。絶対さっきの酒場みたいなとこで……」





――今回の怪鳥 それは自慢にもならない戦利品――



新人のハンター素人にとっては最強最悪の殺戮の殺戮の鳥型戦車デスタンク。巨大な脚や嘴は素人を簡単に震え上がらせる。だからこそ素人にとっては最高の戦利品スパークルトレジャー
しかし、手慣れたハンター玄人にとっては、ただのお遊び相手ザコ。倒しても自慢は出来ないし、してはいけない。笑われるのがオチである。
素人がこの怪鳥を倒す事がいかに当たり前であるか、それを理解するのに相当な時間を使うが、気付けば過去の自分の過ちを思い知り、顔を赤らめる破目になる。スキッドは出来るだけ早めに気付いてほしいものである。





「はいはい、分かりましたよ〜。ちょっとふざけただけで〜す。あんな雑魚で喜ぶのはおれだけだっつうの……」

 肩に右腕を回したまま、飛竜の中で雑魚とまで言われる怪鳥を倒せると聞いただけで、スキッドはこれでもかと言うぐらいにクリスを褒め称えるが、誉められた方は、どこか相手に詫びるような、少し一歩下がったような態度で、スキッドの機嫌を損ねないように、慎重にその称えを拒んだ。

 拒まれた方は、自分のそのとても小さい事でベテラン級とも言える少女を無駄に誉めた事に対するやや無様なその姿と、いくら抑えられているとは言え、言っている内容は明らかにその器の小ささを表したようなものである。それを自覚したスキッドは、ゆっくりとクリスから腕を取り外しながら、自分に対して諦めたかのように、そしてふてくされたかのように、誰もいない左側へとその目線をやった。

「そんな……そんなに落ち込まないで。私もそんなつもりは無いからさぁ、元気出して、お願い、ね?」

 自分のせいでスキッドを落ち込ませてしまったクリスは、何とかスキッドのテンションを復元しようと、持ち前の明るい笑顔で対応しようとするが、それはミレイに止められる。



――その事実は、スキッドを落ち込ませてしまった。クリスにはその落ち込んだ態度は重荷と化す―─



いくら気遣いの意味として伝えたとしても、スキッドにとっては傷付いた事には変わりない。クリスとしては内容も、喋り方も相当抑えたつもりだったが、言っている内容は変わらない。
スキッドにとってはそれは棘塗れにも等しく、テンションを落とす《ふてくされさせる》には充分だ。

普通ならば、それはただの我儘《わがまま》として放置しても構わないだろう。だが、クリスは仲間として相手を貶めるような事を言ってしまった事に対し、もう少し言葉の選び方に気を配れば良かったかと、後悔する。





「あのさぁクリス、そう言う時は別に謝んなくてもいいから。ちょっとスキッドは煩いからこう言うのはいい薬だと思うわよ」

 勝手に騒いでそして落ち込むスキッドに何故か詫びを入れるクリスに対して、ミレイは謝罪の必要は無い事を伝えながら、笑いをその口から零す。

「なんだってぇお前!?」

 ミレイのその言い方が少し嫌だったのか、スキッドは落としていたテンションを一気に最大値まで引っ張り戻し、一番右端にいるミレイを体をやや前のめりにして覗き込むようにして見ながら、言い放つ。



「ほら、もう復活してんじゃん」

 ミレイは口を右手で押さえながら笑い、そしてミレイの隣のアビスも、それに続くように釣られて笑う。

「流石はスキッドだなぁ。ってかなんか今遠くで鳥みたいな鳴き声、じゃないな、あれって怪鳥……か?」

 途中でアビスは丘の奥地で、何やら鳥とも言えるような、けたたましい鳴き声が聞こえるのを感じ、それがすぐに今日のクエストの危険飛竜のそれだと言う事に気付き、恐らくは皆も気付いているであろう、その鳴き声を皆に伝える。



「ああ、聞こえたぜ。多分『怪鳥だからってバカにすんじゃねぇ!』ってでも言ってきたんじゃね?」

 丁度今怪鳥が飛竜の世界では最下位とも呼べる地位に位置していると言う話をしていた最中だ。スキッドはジョーク交じりに今の話を怪鳥が聞いていたかもしれないと言うような事を口に出す。

「いや、それは無いだろう」

 アビスはスキッドのその台詞に、ただ単純に、言い返した。特に何も特徴の無い、面白味の無い返答である。



「あ、でもそれよりさぁ、鳴き声の聞こえる方向洞窟と違う場所だけど、洞窟も爆破封鎖しないと駄目だし、でもかと言ってこんな近くにいる怪鳥放置しといても後で襲われたらきついし、どうする? ちょっとここはさぁ、別行動で行った方がいいかもしれないわね」

 ミレイは一つの提案を出した。何日も戻って来ないバウダーとダギの救助の為の時間を怪鳥との戦いによって無駄にする訳にもいかない。しかし、付近に生息する怪鳥をこのまま放置しておけば、救助中に襲撃された際に大被害を受ける可能性がある。

 だとしたら、こちらは四人と言う受注を受けれる人数では最大と言う数であるのだから、別行動をしても決して遂行の面でも効率は悪いとは言えないだろう。

「洞窟の爆破係と、怪鳥を倒すかかりねぇ、じゃあさあ、メンバー分けどうやってすんだ?」

 二つの役割を理解したアビスは、どのように二手に分かれるかをミレイに聞こうとしたが、その肝心の分担の部分は、もう一人の少年によって、非常にあっさりと決められた。ミレイが答える前に。



「ああ、それねぇ……」
「んじゃこれでいくね?」

 スキッドはすぐ隣にいるクリスの左腕を引っ張り、自分の側へと引っ張り寄せ、そして残されたアビスとミレイから少し距離を離す事によって、メンバーは即座に二手に分けられる。

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