銃口が導く黄泉の世界ウェルカムトゥーザグレイブ



銃口は語る。弾丸と言う切符を強制的に手渡し、そして生命持つ者達生きている人間から隔離された絶望の世界地獄へ走る列車に押し込む。
たった一撃でいい。放たれると同時に強制的に列車地獄へ逝ける。
だれも望まない、強制的な最期。笑わない、笑えない、笑ってはいけない、笑う気にもならない。

その切符銃口は、クリスを恐怖に陥れ、声を出せなくさせる。





「何してるって聞いてんだろ」

 火竜の装備の男は、わざとクリスを脅すように、声に更に低さを付け加えて、銃口を更にクリスに近づける。そのキャップからは口元だけが見えるものの、それだけでは簡単には表情こそ掴み取る事は出来ないが、男は相当機嫌を悪くしているに違い無い。

「仲間を……助けに来たのよ……。そのボウガンで、どうする気……?」

 クリスは恐怖を隠せないまま、何とかここに来た目的を告げた後、どこか思い切ったように、そのボウガンについて訊ねる。

「ああ、心配はすんな。殺しはせんよ。お前みたいな可愛い獲物、実験台にするには丁度いい。あの二人も、今日のサンプルの実験台にする為にわざわざ生かしておいた訳だ。さて、今度はお嬢ちゃんも一緒に……」

 男はクリスがたかが少女だと思い、尚且つその顔立ちから実力的には大した事は無いだろうと油断したのか、クリスを捕縛する様子を思い浮かべながらクリスから目を逸らしたのである。





――世の中、外見だけで判断してはいけない時がある……――



確かに目の前の少女クリスは外見的にはただの少女であり、下手すれば実年齢より幼く見られる危険すら兼ね備えている。
ハンターの世界戦場ではある意味年歴が深いほど認められ、浅いと馬鹿にされる。
今、少女クリスは浅い世界の存在として捉われている。





――視線が離れた……。これはまさに……――





――……今だ!――





 その隙を、クリスは見逃さなかった。

 今がチャンスと、その瞳から可愛らしさを捨て、本気で戦うハンターのように、鋭い目つきで、男が向いた方向とは逆の方向、そちらには岩壁があり、多少の進行の妨害にはなるものの、それは、火竜の装備を纏った男を多少押し退ければ通れる話である。

「えぇい!」

 クリスはその隙をつき、男と岩壁の間を両手でこじ開けるように開き、そしてそこからクリスは再び神速とも呼べるその速度で一本道の通路を疾走したのである。





――逃げられた……。だが、折角の獲物クリスに逃げられて終わらせはしない――





「っておい! 待ててめぇ!」

 一瞬の油断で逃げられてしまい、男は予め通常弾を装填しておいたそのボウガンから、背中を向けて逃亡している少女目掛けて弾丸を発射する。





――人間にとっては一発でも致命傷となる弾丸バレット――



食らえば人間ならば一撃でその動き逃亡を封印される。
今、一直線にクリスに向かってその凶器弾丸が向かっているが……





――少女クリスはその前触れに気付き……――





 後ろから怒鳴られた事により、クリスは背後からとてつもない違和感を覚え、疾走したまま後ろを見るが、それが正解だった。少女は咄嗟にそのボウガンの銃口から咄嗟にずれる事により、そのまま重傷を負う事を免れる。





――命中せずに獲物クリスを通り過ぎた弾丸バレットは、本来直撃する場所では無い岩壁へ……――




――バァン!!――
 ガラガラ……





 少女を避けて直進した弾は、岩壁に命中し、欠片を周囲に撒き散らす。

「逃げたら撃つぞ!」

 再び男は発砲するも、ボウガンで狙いを定めながら走っている男は、走る事に全神経を集中させている少女にどんどん距離を開けられ、それは岩壁に命中するだけで、少女にかすりすらしない。





―― 一撃だけでいい。一撃だけで……。だが、その一撃すら当たらない。いや、当てられない――





 男は当てずっぽうと言った感じで乱射すらしてみるも、全く当たらず、遂にその曲がりくねった場所で少女の姿は消えてしまい、男もはや追いかけてもまず捕まえられないだろうと、諦めてしまう。

「ちぇっ……逃したか……」

 男は諦めてボウガンを下ろし、先ほどクリスの足を運ぼうとした大広場へと足を運んでいく。

 その広場では、三人のハンターが縛られており、そして、一人の非常に盛り上がった筋肉の黒い皮膚の男と、火竜の装備を纏った男二人が存在しており、その内の黒い皮膚の男が、ボウガンを持った火竜の装備の男に近寄ってくる。

「おいお前、さっき随分騒いでたようだが、また邪魔者か?」

 その凄みのある威圧的な声による質問に、男は殆ど平然とした態度で答える。



「あぁ、はい、先ほどその連中の仲間らしき小娘がいたのですが、恐らくは外でくたばるでしょう」

 それを聞いた黒い皮膚の男は、笑みを浮かべながら、洞窟の外に待機させておいた赤い飛竜を思い出す。

「小娘……。面白い事になりそうだ」

 黒い皮膚の男は、その場で腕を組みながら、少女の最期を予想した。



(おい……マジかよ……。クリス……)

 男達の話を聞いていたスキッドは、とてつもない恐怖をその身に感じた。恐らくは逃げている最中であろう、クリスだが、外に何かいると言う事は勿論知らないであろう。折角自分がクリスを守ろうと自身満々でメンバー分けをしたと言うのに、こんなざまでどうすると、縛られたまま、俯いた。





――少年スキッドには歯向かう術は残されていない。
不名誉を感じるが、今頼れるのは、少女クリスだけだ。
今は、信じる以外、道は無い……――





*** ***



「あぁ怖かった……」

 クリスは幸いにも被弾こそしなかったものの、すぐ至近距離で着弾し、そして岩の欠片が飛び散るその様子は、怖い以外の何者でも無い。少しでも軌道がずれていれば確実に重傷、最悪の場合、死亡してしまう。

 何とか危機を自力で脱出したクリスはその足を止める事無く、直接安心を表す台詞を口に出す。

「スキッド君、とりあえずミレイやアビス君と連絡取ってそれから必ず助けるから! ちょっと待ってて!」

 自分の後ろに見える通路の奥にいるスキッドに言ったつもりだろうか、後ろを見ながら、そう言った。





――絶対に見捨てないから……――



スキッドから見れば見捨てられたと認識されるかもしれない……。
だが、クリスとしては、直ちに助けたいものではあるが、
単独ではスキッドの救出レスキューオペレーションは非常に難しい。
相手は典型的なハンター三人、そして、謎の武装リーサルウェポンを携えた黒人の男。
下手に挑めば確実に自分クリスもミイラとなる。

今、大切な事は、今ここにはいない仲間アビスとミレイとの合流……。





 神速にも近いその速度で通路を駆け抜ける事数分、やがて、外界からの光が見えてくる。あそこを抜ければ、ようやくミレイ達との合流も果たせるであろう。まずは、合流をし、謎の男達からスキッドを救い出すのが、今のクリスの役目だ。

 洞窟を抜けたクリスは、一度別れたあの場所へ戻るべく、外の空気にその体を曝した後もその足を止めず、息を切らさないその状態を保ちながら、さらに進もうとしたその時、クリスの目の前には、とんでも無いものが映っていたのである。









――空を制すると言われる、多くのハンターを苦しめた、飛竜の代名詞でもある、あの……――









「あ……いや……うっそぉ……」

 目の前に映っていたのは、赤い甲殻を持ち、大きな翼でその大空を駆け巡り、そしてその口からは殺戮の火球を放つ、あの、空の王者だった。

 両手を交互に振る、足を互い違いに前に出すと言う、走ると言う一連の動作を途中で止めるような体勢で、目を合わせてしまった凶悪な飛竜を、何か見てはいけない物を見たかのような、難しい顔をしていると、火竜は目の前の邪魔者を排除しようと、口元から炎をちらつかせ、そして、クリス目掛けてそれを放ちながら飛び上がる。





――【王者からの挨拶インフェルノフロームザスカイ】――



王者火竜の放つ灼熱の炎は、敵対する愚か者ハンターを軽々と焼き尽くし、
直撃さえしなくても、地面に向かって放たれたその炎は、地面を抉り取る。
その際の衝撃だけでも、ハンターを窮地ピンチに陥れるには充分。

熱気と殺気ディスキュイティングサイトの纏った強風は、その視覚的な迫力により、
ハンタークリスは慄きながら、情けない声悲鳴を強制的にあげる事となる。





「きゃっ!」

 クリスにとってそれを避けるのは苦も無い事である。口元から炎が見えた場合、大抵そこから燃え盛る凶器を飛ばしてくるのは、既知の事。即座に火竜と垂直の方向に飛び込むように回避し、そしてそのまま転がりながら即座に立ち上がる。

 だが、火球が地面に着弾した際の轟音と、飛び散る土がクリスに軽い悲鳴をあげさせる。決して直撃した訳では無い。

「どうしよ……でも戦わないと駄目だよね」





――相手が誰であれ、戦わなければいけない時がある。
目の前の相手飛竜は、決して獲物クリスを見逃してはくれないだろう。
ここでの選択肢はただ一つ……――





――ニンゲンカ……。イイアソビアイテダ!――





 クリスは空に飛び上がる火竜を下から見上げながら、背中に備えている銀色の刃の剣と、金色の城壁とも言える円形状の盾をそれぞれ左手と右手に持ち、ゆっくりと地面に降りてくる王者を、目尻を釣り上げた瞳で火竜相手に威圧感を与えるかのように見詰め続ける。

 その瞳の奥には、少女と言うか弱さの内に秘められた、本当の実力と言うものがしまわれているような錯覚を覚えさせる。





――ザザミ防具の少女クリス、そして、赤い甲殻を纏った火竜火竜――



強さを発動させた瞳の少女クリスは、滞空している火竜火竜を見上げながら、降りてくるその時を待ち続ける。剣を持つ左手に力を込めて。

幾度も邪魔者ハンターを払い除けてきた火竜火竜は、今回も期待外れただのザコなのだろうと、歯応えの無いであろうその相手に示すには相応しい、小馬鹿にしたような表情、
とは言っても人間ハンターには確認は不可能に近いが、その表情で見下ろしながら、亡骸になるであろうその時を思い浮かべる。





――少女クリスのその釣り目となった水色の瞳と、火竜の空の色をやや濃くしたような、青く染まった眼の間には、
緊張の空気が生まれている――





空の帝王は、愚か者を焼き払い、土に返す!!レッドディフェンス・コンフロント・ジ・エンペラー!!





*** ***



「こいつ……痛みも麻痺ってるみたいよ!」

 怪鳥は既にアビスの斬撃、ミレイの射撃を何度も受けており、甲殻は剥がれ、剥き出しになった肉からは、止処無く血が流れ、これだけの傷量ならば、多少痛みによって動きに鈍さが現れても良いほどの状態だ。

 だが、今、この時まで全く怪鳥の様子は変わらず、最初と同じままで、目は充血の状態を保ち、そしてその暴力的に暴れ回るその動作も何も変わっていない。





――この怪鳥怪鳥は、やはり只者ただものでは無かったのだ……
猛毒草ジャガーヘッドの威力、恐るべきである……――





 まるで痛みを感じる神経でも毒に侵されて麻痺してしまっているのだろうか。思わずミレイはアビスにそれを伝える。

「じゃあどうすんだよ! これじゃあ一生終わんないぞ!」

 いくら攻撃を仕掛けても相手が倒れなければ、アビス達はここから去る事は出来ない。永遠に終わらないであろうこの戦いを想像すると、アビスの口からは荒げた声が出てしまう。

「いや、一生って訳じゃないと思うわよ。痛みは麻痺ってても急所さえつけば倒せるとは思うんだけど……」

 隣でミレイはあくまでも痛覚だけが麻痺しているだけであり、決して怪鳥が不死鳥になったフェニックス化した訳では無い事をアビスに、軽く息を切らしながら説明する。





――痛覚は破壊されて麻痺していても、動力源内臓機能は素直であろう。――



痛覚が失われていれば、痛みによる行動の束縛が無く、ハンター達の攻撃エネミーズアタックによって傷付けられた所で、
それは何の意味も成さないだろう。
だが、生命の源内臓機能を直接狙えば、確実に……





 怪鳥の動きが止まったこの一瞬の間を使って話を交わらせていた二人であるが、もうその時間は終わりを告げる。二人目掛けて直進的な突進を、鳴き声をあげながら行ってきたのである。





――【下愚なる突撃・再ステューピッドドライブ・セカンド】――



呑気に話合いなんかをしている愚かな二人アビスとミレイ
その鳴き声の中には

――シャベッテルバアイジャネェゾ!!――

と言う思いが詰められているであろう、嘴の上部下部それぞれを上下させながら、
喋り合っている二人に死の一撃を贈ろうとプレゼントする。





 無論、それらはアビス達に直撃する事は無いが、通り過ぎた怪鳥は転ばず、急ブレーキをかけ、そして、アビス達の方へ素早く振り向く。

「アビス! やっぱりここは頭狙うに限るわ! 出来る!?」

 ミレイは怪鳥の脳さえ破壊してしまえば事は終わるだろうと、アビスにそれが出来るかどうかを素早く質問する。

「任せとけ!」

 恐らくそれは可能と言う意味を示しているであろう、折角の期待を裏切らないようにと言う配慮の意味もこめられているのだろうか、今まで戦った事の無い凶暴な性格を持った怪鳥に多少の恐怖を覚えながらも、どこか強気でミレイに片手剣を持っている右手を上げて合図を送る。





――初めての異性ミレイとの狩猟。少しぐらいは格好つけても悪くは無いだろう――





 怪鳥は走り寄ってくるアビスに足止めを仕掛けようと、口から火炎液を吐き出し、アビスの進行通路の妨害をする。アビスの妨害こそ出来たものの、アビスの背後からは、矢と言う援軍がミレイの弓から射られ、それは頭部付近に狙われていたものの、常に揺れ動くその頭に正確に射抜く事は出来ず、嘴にぶつかるだけで終わる。

「喰らえ!」
「ちょっ……アビス!」

 火炎液によって一瞬だけ出来上がった火柱を右に避け、そして怪鳥の足元へと突き進むアビスであるが、ミレイのその警告がアビスには通じたのか、それともアビスの方でも怪鳥のそのやや大きな足の異変に気付いたのか、アビスは咄嗟に左腕の盾を構えると同時に後方へと渾身の力を振り絞って飛び込む。

 そのアビスの行動の意味は、怪鳥が足を走らせた事にあった。纏めて二人の愚かなハンターを弾き飛ばしてしまおうと、怪鳥は得意の突進を始めたのである。





――飛竜の足がアビスの盾に直撃し、盾越しにアビスに振動を伝える――





 背後で何かミレイが言ったであろうその何かから危機を感じ取ったアビスは、怪鳥の足の動きから何か嫌な予感を覚え、咄嗟に盾で自身を守ろうとしたが、盾とは言え、その怪鳥の突進によってアビスの体は大きく弾き飛ばされ、ある程度怪鳥の突進方向へ跳んでいた事によって衝撃や和らいでいたものの、反動によって背中から転びそうになる。

「うわっ!」

 続いて突進はミレイにも迫るが、流石にミレイの場合は弓でガードする訳にもいかない為、自力でそれを回避する。そして、怪鳥が突進によって体勢を崩して地面に転げ落ちるその隙を狙ってアビスに近寄り、アビスの心配をする。

「アビス、無理はしなくていいから。ってかその剣じゃあ頭狙い難いじゃん。頭はあたしに任せて」

 衝撃の走った左腕を振りながらどこか痛そうな顔をしているアビスにミレイが近寄り、そのリーチの短い剣を見ながら、言った。





――軽量であるが、弱点に照準を定めるには無理がある時も……――



軽量で小回りが利く身軽で素早く動けるのが片手剣の長所。
だが、その分リーチを犠牲にしている為に、高所への攻撃が困難。
飛竜の弱点ウィークポイントは大抵頭部であり、それは高所にある事が多い。
片手剣で狙うのは困難だ。正面に立つ等、反撃を申し込むようなものでもあり、非常に危険。


ミレイにとっては、無理して死なれるのはとてつもない苦痛となるものだ。





「ああ、頼……ってまた来た!」

 アビスも相当無理をしていたらしい。始めて異性と共に行っている狩猟で、いい所を見せようとしたが、逆にピンチを招いてしまい、やはり慣れない事はするべきでは無いと、改めて知るも、怪鳥の攻撃はこれで終わりでは無かった。

 アビスは咄嗟に再び襲ってくる怪鳥を指差しながら、声を荒げたのである。

「これぐらい……!」

 高速で迫る突進でも、ミレイにとっても回避は容易い事。多少の疲れの色も見せながら、左に避けるが、避けた後に怪鳥とほぼ同じ高さか、或いはそれ以上の高さのある岩が立ってある事にふと気付く。

 通常ならば、その岩を見るなり、即座に軌道を変えるなり、速度を落とすなりしてその岩との激突を回避するものだろう。しかし、怪鳥は、完全にアビスとミレイしか見えていなかったのだろうか、殆どお構い無しと言っても良い状態でそのまま岩へと頭から激突してしまう。





――怪鳥怪鳥は、超えられぬ壁巨大な岩石接吻衝突し、鈍い轟音を響かせる……―





 まるで何か肉が潰れるような、鈍くも、嫌らしい音を短く、そして低い音で響かせると、そのままゆっくりと、その持ち上がっていた胴体が地面へと崩れ落ちた。頭部を岩へ擦り付けながら。

「あれ? どうしたんだろ? 気絶でもしたか」

 突然動かなくなった怪鳥に恐る恐るゆっくりと近寄りながら、軽くミレイの方に目をやる。

「気絶? 今なんか凄いやな音したんだけど……。なんかが潰れるような」

 ミレイから見れば、先ほどの肉が潰れるような非常に聞き苦しい音を聞く限り、気絶と言う短時間の意識障害だけで済んだとは思い難い事だった。聞き逃さなかった潰れる音を考えると、どうも違和感を感じるのだった。

 ミレイもアビスの後ろから徐々に怪鳥に近寄り、岩と激突した頭部の横に移動する。そして、恐る恐るその頭部を見ると、非常に凄惨な光景が二人の目に飛び込んだ。

 嘴は岩によってまるで紙コップを潰したかのように無残に崩れ、そして黄色い眼、そして罅の入った頭部からは真っ赤な鮮血が流れ出している。眼からは完全に生気が失われており、ミレイは本当に動かなくなっているのかどうか、右足で軽く翼を突付いてみるも、全く動く気配が無い。

「どうミレイ、そいつ、死んでる?」

 足で生死の確認をするミレイに、少し離れた所から様子を窺っているアビスが訊ねる。もし死んでいるとしたら、即行で剥ぎ取りでもして甲殻を持ち帰ろうと考えていたが、

「一応死んでるわね。自滅ってやつかしら? それより、さっきから思ってたんだけど、この変な匂い、まさか、ペイントの実?」

 完全に死亡していると言う事を確認すると、ミレイは怪鳥との戦いの途中で突然感じた、植物のような甘い匂いでありながら、鼻にしつこく纏わりつくような、濃い臭気を、今倒すべき相手を倒した事によって、改めて実感し直す。

「あ、そうだよな。俺は今気付いたけど……って多分スキッド達になんかあったんじゃないのか!?」





――塗料玉ペイントボール、それは、本来は匂いによって外敵飛竜の位置を把握する道具アイテム――



長期戦が予想される飛竜ワイバーンとの死闘デスマッチ、その空間では、
戦う者同士人か飛竜か、どちらかが一時離脱をする場合が予想される。
そんな時、匂いによって場所を把握出来る事はどれだけ心強い事だろうか。

だが、あの二人スキッドとクリス任務ミッションにペイントボールの必要性は在っただろうか?
しかし、単純に匂いの存在性だけを考えると……






 飛竜と戦う為に使うであろうそのペイントボールの匂いが漂ってきたと言う事は、考えられる事はただ一つだった。

「きっとそうね! 急ぎましょ! 多分スキッドがなんかやらかしたと思うけど!」

 だらしないスキッドを想像しながら、ミレイは怪鳥を捨て置き、即座にその足を洞窟の方向へと、匂いを頼りに走らせる。

「スキッドがか!?」

「そうよ!」

 ミレイのその言い方に、アビスもなるほどと、一瞬笑うが、怪鳥の戦いでの疲労の影響か、それとも洞窟へ急ぐと言う意味でなのか、二人の声の掛け合いは、短かった。

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