【アーカサスに
過去に重罪を犯した
社会を蝕む危険人物はここで永い時を経て猛獣と化した
内部の警備も厳重である。
社会の裏で行動してきた連中の頭脳は、表の者とは一線を画した場合が多く、脱獄を試みる
だからこそ、警備兵の配備は欠かせないと言える。
刑務官だけでは時折発生する暴動に対応出来ない場合があり、凶暴な輩を取り押さえるには特に熟練された人間が挑むに限るのだ。
だが……
―ドスッ!
「うあぁ!」
一発の銃声と、男の低い声による悲鳴が石造りの内部に嫌みさえ覚える程に、しつこく跳ね返り、そしてやがてゆっくりと聞こえなくなる。
μ そして、ゆっくりと響き始める足音
「さって、あれで最後だったかぁ……」
通路の奥からのんびりと歩いてくる一人の男。
右手には
――だが、その格好はとても刑務官の一人とは思えない風貌だ――
α
β まるで裏世界の関係者を思わせるような、膝まで伸びた漆黒のコート
γ 人間世界とは隔離された空間での生活を思わせてくれる緑を帯びた灰色の皮膚。
そこは、前が開いたコートの間から眺める事が出来る。
δ 天に向かって引き上げられているかのような黄土色の髪
ε 僅かな煌きを見せるも、結局は狡猾な部分に力を提供するであろう緑色の細い目
――やがて、下り階段へ差し当たり……――
階段を下りてすぐ目の前に一つだけ設置された無機質な鉄で作られた大型のドアが映される。そして、この男はどこからか手に入れた鍵を鍵穴に差し込む。
――ドアが開き、内部からは無数の男の声が響き渡る――
「さてさて、そろそろ祭でも始めっかぁ……」
男は呟くように口元をにやつかせ、コートの裏の右ポケットから赤い缶状の物体を左手で取り出し、一度空中に軽く投げて一回転させる。そして、再度口を開く。
「よぉお前ら受刑者さんの皆さんよぉ。ここの居心地はどうかねぇ?」
今度は独り言では無く、監獄の奥で窮屈、そして退屈、更には絶望を常に抱きながら座り込んでいるであろう囚人達に向かって声を放ち始めたのだ。
通路の左右にびっしりと設置された監獄の数々がここでの冷たい生活を物語る。
「てめぇ何もんだぁ、あぁ?」
「こんなとこ楽しい訳ねぇじゃねぇか!」
「無礼てっと殺すぞ!」
流石はいくたの重罪を犯してきただけの連中である。言葉全てに乱暴と言う素材が上乗せされており、その響き渡る声は並の人間ならば即座に逃げ出したくなるような雰囲気である。
顔つきもごつごつとした印象が強く、見た目だけでも相当な迫力を持つ者ばかりだ。
「おいおいお前らさんよ〜、そんな事言っていいのかな〜? ひょっとしたら
まるで弱みを握るかのような台詞を飛ばしながら、灰色の皮膚の男は未だその足を止めず、両側の監獄にそれぞれ順に目をやりながら歩き続ける。
「シャバ!? てめぇまさか……」
一人の囚人がまるで何かに期待を寄せるかのように鉄格子に両手でしがみつき、突然ここにやって来た男の話を更に求める。
「おれはこう見えても天国からの使者だぜぇ? 今外で面白れぇ事始まってっから、お前らにもちょいと協力してもらいたくてなぁ」
やや
「協力だぁ? なんでてめぇみてぇなヘラヘラした野郎の手伝いしなきゃなんねぇんだ? あぁ?」
囚人側としては、ここから出してもらう代わりに奴隷のように働かされるのかと考えたのだろう。結局囚人は灰色の皮膚の男が提供しようとした脱獄の手助けを払い除けたのだ。
「あぁあ〜お前らってほんっと損しまくり集団じゃねぇかぁ。誰もおれの下につけなんて言ってねぇだろ? ただお前らの好きなようにしてもいいってんだぜ?」
左手に持った缶を空中で一回転させながら、決して、脱獄と奴隷の関係を作る訳では無いと男は説明する。
「好きなように、だって?」
やはり男の言葉には興味をそそるようなものが多い為か、囚人の一人がやや落ち着いたような態度で問い質そうとする。
「そうだぜ……好きなよ〜に……だぜ?」
――まるで男の目元に影が落ちるかのように……――
口調がゆっくりとなり、そしてこれから面白い事でも出すかのように、目元も恐ろしく吊り上る。
「強奪、放火、輪姦、暴行、他色々、好きなようにやっていんだぜ? どうせお前らここ来っまえから散々やってたんだろ? 反社会的行動っつうのをよぉ?」
まるで男はアーカサスの街を囚人達の遊び場として勝手に解放するかのように、囚人達の秘めているであろう凶暴性を面白がりながら言葉だけで突き回し、そして彼らの残忍性を笑い始める。
「でもどうやってこっから出してくれんだよ? ここの
――だが、男はコートのポケットからとある金属製の小物を取り出し……――
「おれは力尽くでこんなかってぇガードぶち破ろうだなんて思ってねぇよ。こいつがありゃあ低労働だってのによぉ」
左手で缶状の物体と一緒に持った、鉄製のリングにいくつも通された鍵を見せびらかすかのように、上に持ち上げて凝視させる。
「ってお前、それ鍵じゃねぇかよ、どこで盗ってきたんだよ?」
鍵は即座に格子を開く事が出来るある意味で最強の
「おれの手にかかりゃあ不可能なんてねぇんだよ。邪魔な
――そしてすぐに口を開き直し……――
「しゃ! さ! つ!」
――まるで命を奪う事に何の
一文字一文字にいれる必要の無い力を込め、とことんその殺しの言葉に強調の意味を注ぎ、そしてそのまま勢いに任せてこの監獄の中にいる囚人も纏めて殺してしまうのでは無いかと周囲から見えてしまうかのように、右手に持ったショットガンを、トリガー部分を中心に回転させ始める。
「んなこたあどうでもいいや。さっさと出してくれや」
囚人はこの人間とは僅かに異なる特徴を兼ね備えたこの男と共感出来ると思ったのだろう、だが、やはり監獄の中にいれば自由と言う栄光を手にする事は出来ない。だからこそ、急かすのだ。
「そうだよなぁ、おれはお前らに
話し続けながら、一度缶と鍵を石造りの地面に置き、そして、
――左手でコートの裏側を探る――
「だから……」
――取り出した漆黒の
「おれからの余興のプレゼント、しっかり味わってくれ」
口元が覆われた為に多少声がまるで蓋でもされたかのように聞こえ難くなるも、そんな事は喋っている本人はまるで気にする様子も見せず、足元に置いていた缶の蓋を勢い良く開く。
――缶の穴から、白い煙が
―シュー……
まるで風船の空気が抜けるような音を無機質にこの空間の中に響かせながら、煙は徐々に監獄室全体を覆い付くし始める。
「後は、お前ら仲良くこっから出てくれや」
それだけを言い残しながら、この男は、
――リングに通された鍵を監獄の一つに投げ込む……――
恐らく白い煙にはとある毒素が含まれているのだろうか、しかし、ガスマスクの口元に装着された
――白くなっていく室内から、男はゆっくりと去っていく……――
そして、距離を取った監獄室の中から妙で尚且つ、悲痛な叫びが上がり、それを確認すると、男は突然にやつかせていた表情を一変させる。
――まるで憎しみしか抱けない汚い物を見下すかのような、威圧的な目つきに……――
――そして、放たれた
「
■ ▼ ▼ アーカサスの街では/IN THE CITY ▼ ▼ ■
「撃て! 怯むなよ!」
ギルドナイトの衛兵部隊による攻撃は
衛兵達が構えるボウガンの
ξ その狙われている
―◇
――茶色い胴体
――四本の金属のような
――丸い胴体の上に伸びた、前後に長い頭部
――その頭部の前方に供えられた砲台のような突起
――頭頂部に半分だけ埋め込まれた、深紅の球体
б 容赦無く飛ばされる
―ドスッ!
―ブシュッ!
一部の生物は崩れ落ちてくれるが、あくまでも一部であり、残りの生物はと言うと……
▼▼■■
Л
●○● 頭部の砲台状の突起が
―ガシャッ!!
硬苦しい音と共に、同時に発射される
λ SHATTER DAMAGE!! λ
「うわぁああ!!」
地面に着弾した弾丸は地面を割り、そして壊し、周囲に立っていた衛兵を爆風で吹き飛ばす。
偶然なのか、弾丸そのものが誰かに直撃する事は無かったが、地面の破片が衛兵を傷つける。
■
ν 衛兵の痛みに苦しむ時間を与えてくれる程、
他の
まるで巨大な拳銃に足が生えたかのような、恐ろしい風貌だ。
炎が建物を包み始めているこの街で、どんどん攻めてくる人間でも、飛竜の
一刻も早くこの脅威を召喚している張本人を見つけたい所である。
ρ Help! Rescue from the hell!
κ まともに救わなければ、ここも終わりだ……
しかし、衛兵のその願いがしっかりと叶うには、まだまだ時間がかかりそうだ。
的確に
『衛兵』と言う名声は、ただの
この文には
◆◆
闘う者には、やはり犠牲と言う
χχ 刀@刀@火炎が作る地獄の楽園/MOLOTOV COCKTAIL BOMB 刀@刀@χχ
出来れば、これで最後にしてほしいものである。
これ以上厄介者を提供されてもアーカサスとしてはとても対処出来たものでは無い。
ただでさえ被害がどんどん広がっていると言うのに、
好き放題出されてはギルドでも対処し切るのはとても難しい。
▼▼ 未だ放たれ続ける、
空を舞いながら情け無しに建物にぶつかり、そしてぶつかった対象物を燃やし尽くす。
爆発こそしないのが救いであるが、被害である事に何の代わりは無い。
根源を叩き潰すのが最良の手段ではあるが、どうやらそれもまだ難しいようだ。
―ぶぉおん……
遠方から響く、機械的な空気音……
広い街道を支配するかのように、
■ ▽ ■
以前見た事があるような、相当な
液体燃料を燃焼させて動力を得るこの駆動車は移動に絶大な効果を
前方の操縦場には一人の
後方の荷台には何人かの人間が乗車しており、手には何やら黒に近い赤をした透明の
――彼らの格好も一際目立ったものがあり……――
まるで荒くれ者を思わせるような、細く、威圧的な目つきは勿論ではあるが、
彼らは素顔を見せてはいけないと言う
全員が……
――バンダナマスクを装着しているのだ……――
一体どんな目的があるのかは分からないが、素顔は全てを窺い知る事は出来ない。
中には上着のフードを被っている者もいる為、姿の
――ただ、目元の皮膚は茶色が僅かに混じったような黒色をしているのだが……――
それより、今このバンダナマスクを被った彼らが企んでいる行為は、
付近を恐怖と熱地獄に陥れるものだったのだ。
「落ちろやこんなとこぉおおお!!!」
スピードを落とさずに走っている駆動車の荷台に乗った男は右手に持った瓶を
隣に移る建物の窓目掛けて力強く、そして正確に投げ込む。
――窓ガラスを破り……
――瓶が割れる音を響かせ……
――建物の中が赤くなり始める……
η これを最初に、他の者達も一斉
「楽しもぉおおぜぇえええ!!」
「コゲんなっちまえやぁああ!!」
「お前らごと焼いちゃるぜぇええ!!」
一体彼らのテンションはどれだけ爆発しているのだろうか……。
笑いながら、そして大声を発しながら、まるで子供のように
ν 無論、未だ逃げ続けている街人達も残っているが……
男達が叫び狂う台詞に混じった
周囲を見渡せばわらわらと、走り回る人々を見る事が出来る。
即ち……
ο
「おらよっ!!」
▼ ▽ 内部で
破裂と同時に炎が広がり、狙われた街人は真っ赤な炎により焼き尽くされてしまう……
「わぁああああ!!」
「きゃぁあああああ!!」
巻き込まれた男女、その他様々な悲鳴が響き渡るが、それで炎が収まったり、沈んだりする事は全く無い。
一度発動した
焼けた地面を放置し、そのまま駆動車を走らせ続ける。
まるで
そしてやがて十字路に差し掛かった駆動車の集団の内、何台かは曲がり道へと進む。
きっとあらゆる方向から焼きつくそうとでも考えているのだろう。