●▲ 風が正面からぶつかる帰り道

▲● 決して強風な訳では無いのだ

●● 感じている者達が速度スピードに乗っているからこそ

▲▲ 何でも無い空間でも強風として感じ取れるのだ





それはどうしてか……





Ш 彼らは全員、小型駆動車ジープに乗っているからである Ш





荒野を駆ける一台の希望/STEAMING FUEL





「んな感じで最近妙な連中が暗躍してっ訳だから、俺ら管理局がこんな感じで動いてるって訳だ」

 短足と言う約束を背負いながらも、猫人エルシオ駆動車ジープ加速装置アクセルを何とか踏み込みながら、今まで長い間していたであろう口述をここで一度止める。

 ジープは足の短い猫人でも操縦出来るよう、アクセルは高い場所に設置されており、難なく踏めるように作製されているが、それは後ろにいる四人にとってはほぼどうでもいい話だろう。

「まっさかそんな奴ら動いてっとはなぁ……。んなもんギルドだけありゃあいいってんのに、他にもごちゃごちゃいたんじゃあめんどくせぇよなぁ」

 双角竜の武具で身を固めているフローリックは絶えず後ろに流され続けている風景に目をやりながら、これから先、色々大変な目に遭わされていくのだと、考え込む。

 どうやら彼にとってはハンターの世界の組織はハンターズギルドだけで充分なようだ。



「面倒なら倒しゃあいいだけの話だろ? もうこっちは今は四人だけどアビスとミレイ入れれば6人だからきっと何とかなるだろ?」

 事の深刻さが分かっていないのか、それともこれから弱気と言う方向へ進んでしまうのを未然に防ごうと考えたのか、スキッドは人数だけを見て自分達側が有利であると勝手に決め付ける。

 ある意味で子供らしく、そして素直な理論ではある。

「お前簡単に言ってんじゃねぇよお前。さっきの火ぃ吹きまくってた大仏野郎ん時だって結構こっち押されたんだぜ? 数いりゃあ勝てっとか言ってんじゃねぇよお前」

 しかし、フローリックは数が勝てる理由にはならないと主張する。何気なく『お前』と言う言葉ワードを連発しているが、今はそこを気にする場面では無いようだ。

 実際、あの青い大仏男デストラクトと戦ったはいいが、どちらかと言うと力の差が見えていた。あのまま戦い続けても返り討ちに遭っていた可能性が低いとも言えない状態だった。逃亡をしたのは正解だったはずである。



「ってか今スィンクしたんだが、そんな化けもんグループがエネミーになってんじゃあギルドだけじゃあソリュージョン出来ねんじゃねぇのか? ある意味エルシオどもはゴッド的な存在ってとこだよなぁ」

 雪獅子の武具を纏いながらも、上半身だけは裸でいるジェイソンは今回戦った相手が亜人のデストラクトであった以上、これからもそのような人間ならざる者と戦い続ける可能性があると考えた為に、ハンターズギルドだけではどうしようも無い事態が発生すると思い始める。

 しかし、いくら管理局の存在とは言え、エルシオにその化け物染みた者達と戦えるだけの力があるか、そこが少し問題になるが。

「なぁ〜にが神だよジェイソン。管理局とか派手こいでっけどこんなんばっかじゃあ心配だっつぅの」

 ジェイソンの言い方が大袈裟おおげさだったのか、フローリックは運転しているエルシオを突くように指差しながら言った。まるで見下しているようにも見える。



――勿論それはあいつ・・・にしっかりと届いており……――



「てぇんめぇ〜、俺の事バァ〜カにしてんのかぁ〜ゴラァ〜」

 エルシオはあの愛らしい猫人とは思えない怒りに満ちた表情で操縦桿ハンドルを握ったまま後ろを振り向く。深紅の瞳を細め、もし操縦と言う役割を負っていなかったら即行で飛び掛って来そうな迫力を携えている。

「実際そだろお前。あの大仏野郎とやりあってた時もお前なんっもしてなかったじゃねぇか。実質戦ってたのオレらだし、まあ逃げっ手段くれたっつうのはいいが、結局戦ってねぇだろお前」

 フローリックにとっては小柄な猫人は怖くも何とも無いのだろうか、睨まれても尚、自分のペースを崩さず、事実らしい事実を告げてみせる。



「てぇめぇ振り落とすぞゴラ……」

 未だに自分エルシオの悪口を止めないフローリックを脅しつける。

「落とせんもんなら落としてみろってんだバーカ。てめぇなんかに負けっほどオレはよわか――」
「もうやめて下さい! ホントに降ろされますよ!? エルシオさんはそんなに弱くないと……思います!」

 相変わらず口を止めないフローリックであるが、ようやくここで始めてクリスの停止ストップが入ってくれる。

 フローリックの土色の武具に纏われた身体をクリスの赤い甲殻に包まれた手が引っ張り、悪口を止める。



――その様子に、エルシオは目元を緩めるが――



「ってかさあクリス、お前なんで今ちょっと止まったんだよ? 『弱くないと〜』んとこで。やっぱお前も――」
「いやいやそんな事無いよ! ちゃんとエルシオさんだって色々考えてたんだと思うし、エルシオさんいなかったら私達逃げられなかったと思うよ? それと、あれ・・は……んと、なんでも無いから!」

 今度はスキッドが入ってくるが、あのクリスの台詞の中にあった一瞬だけの止まりに反応し、結局の所、エルシオをそのような目で見ていたのかと疑い始めるが、再びクリスは相手が喋っている途中で割り込む。

 やはりエルシオにもしっかりとした計画があったのだと、目に見える場所で戦っていた訳では無いにしろ、充分四人にとってはサポートとなった訳なのだからそこはしっかりと評価してみせている。しかし、一瞬だけ『戦い』と言う部分にこだわっていた箇所が垣間見えたのだが。



「当たり前だろ? 俺がいなかったらどうやってデストラクトの奴から距離取ってた? 感謝しろよ」

 前方に目をやったまま、エルシオは口調に誇りを浮かべながら後ろに乗っている者達に逃げ切る事が出来たのは何故かを伝える。

「ってかお前もう機嫌直ったのかぁ? 所詮単純なニャー公って訳だな、口は悪りぃくせしてよぉ」

 折角エルシオの怒りも収まったと言うのに、フローリックは再び水をさすような事をし出し、からかうような緩い口調で責める。

「てめぇ……真面目に落とすぞ……」



――再びエルシオの深紅の瞳が尖りだす……――



 その尖らせた目でフローリックを睨みつけるが、やはり相手は動じてくれないのがどこか悲しい。

「へいへい、すんませんなぁ、率直に思った事口走っちまって。いいからお前は黙って運転してろっつの」

 そろそろ黙った方が良いと思い始めたフローリックは本当に心の底から謝っていると言う雰囲気を見せないような態度をエルシオに見せつけ、そして振り払うようにエルシオの本来の役目を思い出させる。それは、駆動車の操縦なのだが。

「命令してんじゃねぇよゴラぁ〜……」

 結局エルシオからは怒りの感情が抜け切る事は無く、それでも一応は彼ら四人をアーカサスの街まで送り届けるとある責任を背負っている身だから、それを放棄する事が出来ず、苛々を隠せない状態で操縦を続行する。



――ただ、もし今ここで停車されても残された三人はやや被害者となるだろう……――



――特にクリスは……――



「おいおいフローリック。もうそろストップかけといた方がエルシオの為だぜぇ? 真面目にアングリーモードにしちゃあこっからフォールされちまうかもだぜ? ペンデュラムでもされちゃあ事だかんなぁ」

 今度はジェイソンから止めの言葉が入る。一応今は運転出来る者はエルシオしかいないようであるから、あまり不満を高めてはいけないと考えたのだろう。

「あ、あのぉ、所でエルシオさん。実は前に妙な古龍見た事あるんですけど……」



――話を逸らさせる為か、クリスは以前の出来事を話そうと……――



「あぁ? どうした、いきなり」

 クリスの話題に対し、エルシオは元々生まれつき持っているのだろうその威圧的な声色を崩さず、それでもやや素直にクリスの話に耳を貸そうとする。

「実は大分だいぶ前に喋る鋼風龍と会った事があるんですけど、その今エルシオさんが説明なさってた組織と何か関係あるのかなって思ったんですけど……何かご存知無いですか?」

 今回改めて話された組織の説明で、あの時・・・出会った鋼風龍の話をここでしてみようと、クリスはエルシオに何か知っている情報を持っていないかどうか期待する。



「喋るだぁ? 龍が喋っ訳ねぇだろ? お前幻聴でも聞いてたんじゃねぇのか? いくら古龍っつってもそりゃねぇだろ……」

 いくら現時点で実在する飛竜達よりも更に上位のクラスに位置するであろう古龍でも、人間のような性質を持っているとは考えられず、エルシオはその話を疑い始める。

「いや、そこんとこは嘘じゃねえっぽいんだよ。オレも前聞いた事あってだ、こいつとミレイだっけな、あいつも言ってた訳だから、嘘じゃねぇだろ」

 このままではクリスが出鱈目でたらめを言う少女としてエルシオに認識されると察知したフローリックは、彼女らと初めて出会った時を思い出し、フローリックの荒々しく、少女系の人間をあまり好ましく思わない性格にしては珍しいフォローを渡す。

 少女二人ミレイとクリスの真面目な性格を見抜いての事だったのだろう。だからこそ心の奥から信用していたに違いない。



「喋る古龍かぁ……。さっすがに俺も実物は見た事ねぇし、それに管理局こっちでもそんな情報入って来た事もねぇしなぁ……。でも今話した妙な連中がある研究してるってのは聞いた事あんだが」

 フローリックと言う大人の人間からの言葉で尚更納得してみせるエルシオであるが、それでも話だけでは実感し難いふしがあるようである。

 それでもやはり時空管理局と言う特殊且つ大型な組織に所属しているだけの事はあり、僅かながらの情報は入っていたようである。

「研究って何の事だよ? まさか飛竜でも喋れるようになるとか言うやつか?」

 スキッドの好奇心がそのまま台詞となって表へと現れる。今話していた内容が人語を扱うかどうかと言うものだった為、スキッドでもそう解釈出来たに違いない。



「あんま良くは分からんが、今飛竜とかのまあ、所謂動物のような奴らに人間同様の知識持てるような研究してるらしい。生物学とか、生態学とかに精通してるらしいんだが、今は全然分からんって状態だな」

 知っている範囲なのだろうか、エルシオは相変わらず駆動車を走らせたままの状態で、学問を駆使してその連中が今行動を起こしていると伝えるが、それはあくまでもエルシオなりの推測である。

「なんだよ、そんな事ん為にわっざわざでけぇ組織造ったのかよあいつらってのは」

 スキッドの単純な考えであるが、恐らくそれは次の台詞で打ち消される事は目に見えていただろう。それだけの為にわざわざ組織を造った等なかなか考え難い話だ。



「それはプロジェクトの一個に過ぎん話だ。あっちじゃあ色々分業されててだ、その内の1個って訳だ」

 エルシオはその組織が決して一つの事柄に絞っている訳では無く、様々な試みに取り組んでいると、言い捨てるような口調で伝える。

「なるほどねぇ、ってか誰なんだよ、そんな気ぃ遠くなるような事してる奴って」

 スキッドも気の抜けたような声で返答するが、やはり誰がそのような技術的にも非常に難易度が高いような計画を考えたのか、気になる所だろう。



「誰だってお前、今思ったけどよぉ、んなもん聞いてどうだってんだよ? 顔も見た事ねぇ奴ん名前聞いたって意味ねぇだろ?」

 突然横からフローリックの言葉が入ってくるが、確かに彼の言い分は正しい事かもしれない。

 実物かおも見た事の無いような者の名前を聞いた所で何か発見出来るとも考え難い。だからこそ敢えてそのような言葉を付け加えたのだろう。

「いや、べ、べべ別にいいだろ!? 一応頭ん中に入れとくだけだって。どっかで参考なんかもしんないだろ?」

 突然の指摘に対し、焦りを見せ出すスキッドであるが、あくまでもどこかで使う事になるかもしれないその名前を知りたかっただけだろう。ただ、そんな場面でその名前を有効活用するか、深い疑問が残る訳であるが。



「いい、教えといてやる。そのプロジェクトやってる奴はなぁ、モルガ――」



――すると突然……――



「ちょ! ちょっとあれ見て下さい! 火が上がってます!」

 エルシオの言葉を遮ったクリスは、駆動車の前方に向かって力強く左人差し指を突き出す。



――彼女が大声を上げたのも無理は無い……――



「どうした? なんかサプライズでも……ってテリブルな予感だぜ……」

 ジェイソンの紺色の目にも、恐ろしいもの・・はしっかりと映されていた。

「……マジかよ……。ってかもうこんなとこまで来てたってんのか……」

 運転しており、尚且つ口も動かしていた身であったエルシオもいつの間にか目的地に近づいていたのかと気付くが、やはり異常な光景を見れば目を細めずにはいられない。



――折角目の前にアーカサスの街が近づいていると言うのに……――



「っつうかなんで燃えてんだよ! 火事かなんか起こってんじゃねぇの!?」

 スキッドは立ち上がる煙を見るな否や、単純な考えだけのものを口に出す。

「ありゃあ火事とかってレベルじゃねぇだろおい。なんかテロとかでも起こってんじゃねぇのかおい」

 見れば見るほど、一般的な災害では済まない規模だと言うのが外からでも分かるのだ。フローリックのその大規模な何かが動いていると言う予測は確実に正しいだろう。



――なんと、アーカサスの街が燃え上がっているのだ……――



 既に空は夜を示しており、周囲に暗い世界を撒き散らしているが、街の周辺だけは不気味に明るく照らされている。理由は簡単だ。炎が照らしてくれているのである。まるで別世界を造られているようだ。

「兎に角急ぐぞ! あんだけデケェ街襲われるってこたぁきっとさっきのあいつデストラクトみてぇな奴が暴れてんじゃねぇのか!? よっし、ぶっ潰しに行くぞ!」

 エルシオの操縦桿ハンドルを握る両前足に力が入る。そして両目にも力が入り、前方に対して鋭くなっていく。

 デストラクトのような力を持った者を街で暴れっぱなしにさせる訳にはいかないのだから、ゆっくりと走行してもいられない。



――駆動車ジープの速度が徐々に高まっていく……――



(ミレイ……アビス君……大丈夫かなぁ……)



――クリスの中で感じる、あの二人に対する不安……――













■□□ 即座に街へと入らなければ……/APPROACH PREYER □□■













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ε 破壊活動ってのはそんなに楽しいもんなのかい? ▲▲▲

ε 火なんか起こして灼熱の世界なんか造るのかい? ▲▲

ε 民間人の悲鳴なんか聞けば一種の快感が来るかい?▲

ε 動物型兵器なんか送り出してやたら過激だねぇ? ▲▲

ε もうハンターの街じゃなくて希望払底ふっていの街だよ? ▲▲▲

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空からは炎の玉が降り注ぎ、命中する建造物を炎で包む。
地面に這いつくばっている人間どもはただただ悲鳴を飛ばしながら逃げ回るしか無い。

誰がアーカサスこの街を救うのかも分からない状況で破壊王は容赦無くこの街を侵食していくのだ。

硝子ガラスが割れ、建物の看板は燃えながら地面へと落下する。
即時リアルタイムに街が壊れていく様子が街人の目に手加減無しに写される。

それにしても酷い光景だ。
ギルドの方で要請されたであろう軍隊はまだ派遣されないのだろうか?







――▲ 人気ひとけの少ない裏路地で…… ▲――

「なんかスッゲー事なってんなぁおい。折角やる事やったってのによぉ」

 表の方から聞こえる人々の悲鳴や走る足音等をまるで覗き見でもするかのように建物の陰に隠れながら立っている一人の男がまるで自分にまた何か仕事を押し付けられたような気分になりながら声を洩らす。

「ってかこんな街襲って何してぇんだっつうの」

 大破壊活動を始めたのなら、何か深い理由があるのかもしれないと読んだ男ではあるが、明確な答えがここで出てくるはずが無い。諦めるかのように、身体をひそめる為に寄せていた建物から距離を離し、裏路地を歩き始める。



――暗い場所で一際目立つ、全身紫色のスーツ姿……――



 上着の間から覗くピンク色のワイシャツ、そして真っ赤なネクタイ、更にはスーツと同じ色のパナマ帽を被っており、ほぼ紫一色で染められた姿をしている。口調はややだらしないものがあるが、格好はどこかしっかりとしている。

 そして、パナマ帽の下からは銀色のやや長めの髪がみ出ている。

 恐らく頭の中ではこれから自分はこの燃え上がっている街でどう行動を起こそうか、考えている所だろう。

 周囲に話す相手がいないのだから、直接口に出して自分の考えを表に出す事はしないが、駆け足で何かを頭の中で巡らせているのだ。

(っつうかあいつら・・・・巻き添え喰らってねぇだろうなぁ?)



――突然頭に浮かんだ、あの時の少年少女……――



 この男はその少年少女と同行している途中で分かれたのである。目的地が違った為だ。彼らはここ、アーカサスの街であったのに対し、この男はテンペストシティであった。

 しかし、今この男はここにいるのである。それは、目的を達成し、ここに戻るだけの余裕が出来たからだろう。



――しかし、どこに向かっているのだろうか? この男は――

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