▼□■ 振動音を響かせる車内では/DEVELOPMENT MACHINE ■□▼



二人は元は敵が乗り回していた駆動車小型トラックで戦慄のアーカサスを走っている所だ。
どこに向かうかは分からないものの、今はそんな目的地の指定よりも、
折角この状況で再会出来たのだから、まずは互いの現状説明が先だろう。



「いや〜、にしてもホント良かったわぁ、お前大丈夫だったんだな」

車内の席の内の右側に座っているアビスはすぐ隣で運転してくれている少女を見て
安心し切ったかのように、この場にはやや相応しくない軽い笑いをこぼしながら訊ねる。

「お腹の傷の事? それならとりあえず今は、大丈夫。所でそっちはなんか変わった事、っつうかなんか、あった?」

ミレイは今は黄色い病衣の上に普段着ている暗い赤のジャケットを纏った状態である。

前方に集中し、丸い操縦桿ハンドルを両手で握りながら、ミレイは隣にいる少年に一瞬だけ
その青い瞳を向け、自分の身体を心配してくれているアビスに対応する。

内容がどうであれ、前方から目を離せば他人を巻き込んだりする可能性があるからだ。



「変わったっつうか……ん〜ま〜あり過ぎっかも……。火ぃ飛んできてそこら辺火事だらけになったり、後なんか――」

ここで言う『変わった事』は、アビスにとってはほぼ全てがその中に分類される事だろう。
だから頭に浮かぶ事全てが印象的な事だ。
だが、それは突然言葉によって止められる。

「あ、いや、えっと、ごめんなさい……。あたしの言い方悪かったか……。そうじゃなくって、なんか明らか怪しい奴とか、見なかった? あたしんとこは駄目だったけど」

ミレイは罰が悪そうに謝った後、もう少しだけ詳しくと、質問の内容に訂正をかけながら、再び問う。そして、ミレイの方ではそれらしき存在は確認出来なかったようである。



「怪しいぃ〜奴ぅ〜……ねぇ。いや〜、あんま分かんないわぁ……。こっちも一応逃げる事ばっかに集中かけてたし、これと言った怪しい奴は実際見てねぇな」

アビスは言葉を伸ばしながら自分が逃げてきた道を思い出してみるが、
やはり見ていないものを連想するのは無理であり、結局の所、アビスからは情報をもらえなかった。

「分かんなかったって訳ね、うん分かった。とりあえずさあ、んと、とりあえずだけど一回ギルドの方行ってみよ? あそこだったらさあ、なんか色々分かるかもしれないし、それにクリスとかもいたりするかもしれないからさあ、一回そうしよ?」

今の所、直進を続けさせながら、ミレイは一つの提案を出した。そこならば、今ここにいない仲間とも会える可能性があるし、この街の偉い人間も集まっていてそこで何か分かるかもしれないと判断したのだ。



「あ、あぁ、そうだな、じゃ一回行ってみよっか」

アビスはそんな提案を出されても最初は戸惑っていたが、
こんな所で否定した所で何も事を起こせないだろうと考え、首を縦に小さく何度か振りながら肯定する。

「じゃ、決まりね! じゃあちょっと曲がるから、頭どけて。見えない」

ミレイはアビスを一瞥し、そして曲がり道に進んだ為、右折しようと右を見るが、
そこにはアビスがいて正直な話、頭が邪魔になって視界を遮られていた為、右手で後ろの背凭れに下がるように施した。



「あ、あぁ悪い」

言われるがままにアビスは前に寄っていた自分の頭を背凭れへと持ち上げる。



――前輪が右へ向き、駆動車小型トラックは曲がり角の奥へと入っていく――



「所でさあ……」

アビスは心の中でふと感じた物があったのだろう。
それでもこの緊迫とした中で下手な質問をかけるのはどうかと考え、ぎこちない響きになってはいるが、
やはり聞いてみようと言う欲求は消えず、前方に集中しているミレイに話しかける。

「はい? なんかあった?」

アビスの考えとは逆に、ミレイは意外とすんなりと受け入れてくれたようである。
操縦桿ハンドルを握る両手の力はそれでも全く抜ける事は無いが、
ミレイのその威圧感の感じられない対応ならばアビスも質問をしやすい事だ。



「えっと、あのさあ、こんなもんどっから拾って来たんだよ? 運転出来るってのもかなり疑問点なんだけどさあ、とりあえずぅまずはこれ、車だけどどこで調達したんだよ?」

気になる部分は、この小型トラックをどこで仕入れてきたか、である。
一応これは元々火炎瓶投擲部隊が使っていたものなのだから、
そこから持ってきたのはアビスでも分かっているかもしれないが、問題はどう奪ったか、であろう。

実の所はミレイの歳でどうして運転出来るだけの技術があるかも非常に気になるが、
やはり調達元が先に知りたいアビスである。

「簡単に言えば借りたってやつかなぁ? いや、厳密に言えば奪ったっつうのかなぁ……。あぁいや、えっとさあ、なんか火炎瓶バンバン投げてくる変な格好した連中がいてさあ」

会話と言う形には見えるが、ミレイは運転していると言う都合上、
アビスとは目をあまり合わせられないが、それでもアビスには伝わっているはずであり、
元々のこの運転している小型トラックの持ち主との出会いを簡潔に言う。



「んでなんか色々あってそいつらがあたしに絡んできたのよ」
「絡んできたって……、じゃあまた、例の、あれか?」

そして、ミレイは残りの部分を軽い笑顔を混ぜながら言い切り、
それを聞いたアビスはあの時の様子・・・・・・を思い浮かべ、頭にとある光景が浮かび上がるのを感じる。

「例のあれって何よあんた……。まあ、ん〜とぉ、そうよ、ぶちのめしてやったのよ。いっきなり殴りかかってきたからさあ、こっちも黙ってる訳にもいかなかったし、ちょっと軽くちょちょいってやっちゃってさあ、んでこの車借りたって訳」

アビスからはお決まりのシーンとして捉えられているのだろうか。
それでもミレイとしては事実としては変わりが無い話なのだから、もう少し詳しく説明をしてみせる。

言葉だけを聞けば響きが軽く聞こえるが、
それでも現物を実際に見ればその考えはすぐに吹き飛んでしまうに間違いは無い。



「ってお前また……やったのかよ……。相変わらずお前って強い奴だよなぁ……」

ミレイの体術を思い浮かべ、一種の恐怖まで感じながら、その強引なやり方に
苦笑を浮かべるしかアビスには出来なかった。

こんな場面でも自分がミレイを敵に回す立場になったら、なんて考えたのだろうか。

「いやいや別にそんなにきついもんじゃないわよ? やっぱ世の中さあ、見た目が派手だからって強いとも限んないもんよ? それに一応あたし怪我人なんだけどさあ、怪我人相手にやられるなんてあいつらもうちょっと特訓必要かもね」

アビスは素手での戦いは苦手だからこそ避けたいと言う気持ちが強く出てくるも、
ミレイの場合は慣れているのだから、軽い表情で自分の考えを余裕げに言ったのだ。

だが、あくまでもそれはミレイの視点での話である。
アビスは軽いものとして捉えるには無理がある。



「いや……お前のその基準よく分かんねんだけど……」

アビスから見ればミレイの格闘術ははっきりと言えば恐ろしいものである。
一体彼女がどのような見方で強弱を判断しているか、アビスには分からない。

「え、あ、いやいやそんな怖がんないでよ? ただ襲われるのが怖いからこうやって自己防衛する手段身につけたって言うだけでそうやってアビスの事怖がらせる為に取得した訳じゃないっつの」

アビスの声から力が抜けたような気を覚えたミレイは力の使い方を間違えるような事はしないと、
念押しのように伝える。



「襲われたくないから……ねぇ。ってか別に怖がってねぇけどな、マジだぞ! マジ!」

一瞬本当にその理由で正しいのかと、疑うアビスではあるが、
それよりも勝手に臆病風に吹かれたと思われた事にやや腹を立てるかのように
二度ほど、念を押す。

「いやいやそんなに怒んないでよ……。ごめんなさい! ホントに! でもホントにあんた怖がってたら、ちょっと情けないわよ?」

怒るとは言っても、本気でミレイを罵倒するのでは無く、
自分の意見の後ろにある本音を見破られないようにと言う、強調に過ぎないのだが、
それが逆にその弱みを見せているような空気を漂わせてしまう。

下手にアビスのそう言う点を刺激してしまったコトに対してミレイは謝罪をかけるも、
少しだけ嫌みのようなものを口走ってしまう。



「悪かったなぁ……、ほっとけよ、ったく……」

アビスはその言われ方が気に入らなかったのか、それでも相手は折角の友人であるのだから、
悔しそうに目を細めながら小さく呟いた。

「分かった、ホントごめんなさい。ってそれよりさあ、話はちょっと戻すけど、あたしらって今思えば武器一切持ってない訳じゃん? だからちょっとそこら辺ちょっと回りから――」

ミレイは自分でいた嫌みタネについても一度謝罪し、
そしてそろそろ真面目にならなくてはと考えたのだろうか、どこかで自分達がこの街を襲っている連中と対等に、
そして安全に戦う為に武器を調達しようとアビスに提案を投げかけるが、





―バキィン!!
―ピキィン!!

π 前部窓フロントガラスに飛んできた数発の銃弾…… π

「うわぁ!!」
「きゃっ!!」

少年と少女は身を屈めながら驚きの悲鳴をあげる。
ミレイはハンドルを決して手放さないよう握る力だけは緩めなかったが、どちらにしてもとても恐ろしい光景だったはずだ。

元々ひびの入っていた硝子ガラスに更に皹が入り、
小さく響く音と共に銃弾が硝子を衝き抜け、二人の後方へと突き刺さる。

「ちょっ何だよマジで!」

アビスには一体何が起こったのか、外から何をされたのかまるで把握出来ず、
両手で頭を押さえ、未だに深く身を屈めながら震え始める。

「分かんない一回こっから脱出だしゅつするわよ!」

ミレイも恐らくはアビスと同じくらい怖い思いをしたであろう。
だが、ミレイは運転していると言う都合上、この車内の中では責任重大である。
アクセルとハンドルに対する神経を緩めず、身を屈めていたが、早口でそう言いながら何とか顔をゆっくりと持ち上げて前方を確認する。



――前を見なければ運転なんて出来ないのだから――



一気に加速装置アクセルを踏み込み、この危険な箇所から早急に去ってしまおうと言うミレイの考えである。

トラックは大きな排気エンジン音を周囲に放ちながら速度を上げていくが、
周囲からは先程硝子ガラスを破る物を発射したであろう銃声が収まる事無く鳴り続ける。

「ってか誰なん……うわぁ!!」



▼ アビスのすぐ隣に突き刺さる弾丸……

――ドアの窓ガラスにひびを入れ……

少年は外で誰が攻撃はっぽうしてきているのかを確認しようと、うっかり完全に頭を持ち上げ、
無防備に窓の外を見始めたのだから、非常に危険な目に遭ったのである。

幸い怪我こそしなかったが、その少年の情けない悲鳴は車内にしっかりと響く。



「つっ……馬鹿!! あんた何やってんのよ!? あんた死ぬわよ!?」

ミレイは運転を続けながらも、今のアビスの様子は視界の端から見ていたようである。
外が危険な状況であるのにも関わらず、やや呑気に顔を持ち上げ、
結果的に危険な目に遭ったアビスに向かってミレイは青い瞳を尖らせながら怒鳴り声をあげる。

先程のアビスの悲鳴とは比べ物にならないくらい、車内に大きく響き渡る。

り……。でもお前、怒鳴っ事ねぇだろお前……」

確かに不注意だったアビスには問題があった事だろう。
だが、本気になって声を荒げる必要も無かっただろうと、びくびくとした様子で小さく反論する。



「あんた下手したら死んでたのよ!? ちゃんとしっかりしてって意味よ!! しっかりしてってホントに」

前屈みになって運転を続けながら、油断したらどのような結末を辿っていたかを、
先程の怒鳴り声ほどでは無いにしろ、そのミレイの口調にはしっかりと威圧感が籠っている。

「でもお前、もうちょい加減してくれよ……」

ミレイに近寄り難い印象を感じたアビスは言葉を失いかけ、
甘ったれたような要求をし始めるが、この空気を考えれば無理かもしれない。

「今危ない状態なのよ!? 加減とか言ってる……ってだぁから!!」
「うわぁ!」







――アビスに向かってミレイの右手が伸び始める……――







――まさか我慢の限界でも来て……――







――殴りつけようとでもしたのだろうか?――







反射的にアビスの茶色い目が両方とも非常に強く閉じられる。
危機を覚えたのだろう。



――だが、その右手は……――



――暴力行為の為にでは無く……――



――持ち上がった頭を下げる為だった――



「頭上げないでっつの! 真面目に殺されるわよ!?」

ミレイの右手はいつの間にか上がっていたアビスの頭へと伸び、
そしてアビスの紫色の髪をやや乱暴に握りながら下へと動かした。

今も銃弾が飛んできているのだから、油断していれば絶命し兼ねない。
左手だけでハンドルを握り、右手でアビスを庇う。
相変わらずアビスは世話の焼ける少年である。

「ごめん! 分かった分かった! 放せよ!」

頭を下げられる時、結構強い力で髪を掴まれ、そして強く下ろされたのだ。
『殴る』と言う行為に比べれば単純な意味での痛みは非常に低いものではあるが、結構乱暴な印象には見えてしまっていただろう。



「兎に角あんたは伏せてて! 操縦の方はあたしに任せてればいいから!」

今二人が乗っている小型トラックに向かって銃弾が飛ばされ続けているのだ。
頭を上げっぱなしでいればガラス越しに弾丸の餌食になる可能性がある。
トラックの鉄製の部分ならば貫通にまでは到達しないのだから、伏せているのが一番安全である。

それでも前方を確かめると言う過程では、運転と言う役柄を持っている
ミレイは非常に危険な立場であるとは言えるが。

「わわ分かった、ごめん」

実際の所アビスはこの小型トラックの作動に何一つとしてこれと言った貢献をしていない。
正直に言えばアビスは黙って座っているしか無いのである。
そう言う意味を込めてか、アビスは頭を伏せたまま、謝ったのだ。

「武器はとりあえずあき――」



――突然車内に走る大きな振動ゆれ――

ミレイは恐らくは『諦める』とでも言おうとしたのだろうが、振動によって中断される。
これは地震による震動・・では無い。あくまでも、振動・・である。

「!」

その妙な余興を思わせる揺れはアビスの表情を強張こわばらせてくれる。



「何よ……今の。なんか今『ガゴン!』って感じで鳴んなかった?」

ミレイも先程の衝撃に動揺しながらも、何とかアクセルを踏み込む力を弱めないよう、必死で前方に集中し続ける。
そしてその今鳴り響いた鉄と鉄がぶつかるような小難しい音を言葉で表現しながら、アビスに訊ねてみる。

「鳴った鳴った! 確かに『ガゴン!』って!」

アビスもミレイの言った音を言葉で表現したものをそのまま繰り返しながらミレイを見ながら頷く。



――さて、この奇妙な音の正体は……――



「なんかどんどん過激にな――」

激しさを実感する余裕はミレイには与えられず、再びあの音・・・を聞く事になる。



―ガゴン!!

―ピキィッ!!



「ひっ!」
「わぁあああなんか来たぁ!!!」

アビスの目の前に映ったのは、車内の窓を突き破り、
そしてその突き破ったそれ・・前部窓フロントガラスに直撃、そして貫いたのだ。

▲▲ 言わば、二重貫通デュブレックスペナットレイト……

ミレイの方はアビスのようには叫ばなかったものの、ハンドルを握りながら、肩をすくめた。

因みに、幸いにも二人に直撃する事は無かった。

「今の貫通弾よ! 注意し――」

今の状況でもミレイはどこかの誰か・・・・・・とは違い、状況分析をしていたのだろう。
今飛ばされた恐ろしい程の貫通力を誇る弾丸の正体が、文字通り、あの『貫通弾』であると察知し、アビスに教えるが……



■■■ 決定打とも言える着弾/THIRD CONTACT □□□



―プシュゥ……

空気が抜けるような音と同時に突然小型トラックが傾き始める。

「わわ! 今度は何だよ……」

アビスはこの状況に絶望を覚えたのだろうか、まるで助かる道を全て塞がれてしまったかのように、
頭を伏せたままの状態で両手を頭に乗せて呟く。

「タイヤ撃ち抜かれたわね……。かなり追い詰められてる」

今の空気が抜ける音の理由はミレイにはしっかりと理解していたようである。
前方を相変わらず真剣に見ながら、青い瞳を細めながら、口調を低めて言った。



「タイヤ? 撃ち抜かれた? どゆ事? それ」

アビスは駆動車に関する知識をまるで持ち合わせていないからそんな質問をするのだろう。
だが、次のミレイの簡潔な説明によって事態を把握する破目になる。

「簡単な話よ……。タイヤでこの車動かしてるようなもんだから、それ壊されたって事はコントロールがっつり奪われたって事になんのよ」



――駆動車にとって、タイヤは動きコントロールかなめだから……――



淡々としながらも、真剣に説明をしてくれるミレイに、アビスが動揺しながらもう一つ言葉を渡す。

「なんかよく分かんねぇけど、兎に角メッチャヤバいって事か?」

相変わらずこう言った複雑な構造に関する事に対してはとても鈍いアビスではあるが、
大体は意味を把握しているようである。

「そうよ! 凄いヤバい状態って意味!」

ミレイにとってはこの死ぬかどうかと言う緊張した空気の中では深く意味を理解してもらわなくても充分良かったのだろう。
アビスに直接目をやらず、前方に集中したまま、返事をする。



――よく見れば、このトラックがふらついているような気が……――



■■ そして、どこからとも無く再び貫通弾ドリルシェルが……

―ズゴォン!!

それはアビス達の乗車する場所には入らなかったが、後方で鉄を破ったような音が響くのだ。

「まぁたっ! 誰よ……こんな事してくる奴!?」

徐々に乗車しているトラックを傷つけられていき、不安と怒りが蓄積されていくミレイだ。
元々このトラックは奪った物であるとは言え、今はある意味でこのトラックに命を護ってもらっているのだ。
敵の攻撃をいやしく思ってもしょうがないだろう。

「ってかミレイミレイ! ちょっと変な匂いしてこないか?」

今の貫通弾の後に感じたその匂いがアビスにその台詞を飛ばさせる。
だが、ミレイは匂いには気付いているのだろうか。

「匂い? どう言う事!?」

ミレイの方は操縦に必死になっているのだからアビスがまた妙な事でも
考え始めたのでは無いかと思い、ハンドルを左右に荒々しく曲げていると言う、アビスを直視出来ない状態で聞き返す。

「いや、お前の事じゃなくて、えっと、なんか液体のような、そんな匂いだ!」

決してミレイの常時付けているあれ・・では無く、科学液体のようなずっと
嗅いでいれば気分が悪くなるような妙な臭気の事をアビスは差していた。

「液体? えき……分かった! それきっとねんりょ――」



―バァン!!

ξ ξ 車両の背後に走る鉄の音、そして、衝撃



「わぁ!!」
「きゃ!!」

二人の背中に走る衝撃が悲鳴をあげる要因となる。
とりあえず席のクッションによって怪我こそは負わなかったが、これからの予兆とも言えるそれは更なる恐怖を与えるに違いない。

「今度は何よ! うっさい連中ねぇ!」

よく周囲に気を渡してみれば、銃弾による猛攻は収まっているようであり、
ミレイはそれによって頭を持ち上げる事に対する不安を打ち切り、車外に取り付けてある左側のドアミラーに目を向ける。



――そこに映っていたのは……――



――アビスとミレイが乗車しているトラックと全く同じ駆動車……




なんと、今の鉄の塊同士がぶつかりあう音の正体は、
背後の小型トラックの追突によるものだったのだ。

「ってやっばっ……。アビス! 全身に力入れといて! 衝撃また――」



―バァン!!

ξ ξ 再び走る、鉄の音



「うっ!」

今度のミレイの悲鳴は可愛らしさの混ざったトーンの高いものでは無く、相当抑えられた小さな悲鳴だ。

一瞬だけ背後を見て睨んだ後はすぐにハンドルに神経を集中させる。

「なあ俺らどうなっちまんだよ!! なんかもう俺ら終わりじゃねぇかよぉ!!」

アビスは何を言っているのだろうか?
今乗っているトラックに体当たりをけしかけられ、今にも破壊されてしまうかのような現況に置かれ、
まるで全てをミレイのせいにするかのように声を荒げだす。

「うっさいわねぇ!! あたしはそんなよわじゃないわよ!! 絶対切り抜けて見せるから黙ってて!!」

アビスは情けない事を口に出しているが、ミレイは別であった。
こんな絶望的な状況でありながらも、ミレイは希望を一切捨てず、歯を食い縛りながら
何とかこの場を切り抜ける方法を頭の中で模索し続けているのだ。

「お前操縦してっくせにもう絶望だろぉ! この役立たずがぁ!!」

アビスはとことん無責任な言葉を飛ばし、もう生きると言う希望を捨ててしまったような言葉を飛ばし出す。

「もうあんた黙っ……!」

ミレイは少しだけ呆れたのだろう。今のアビスはただの臆病者であり、頼る対象にはならないと捉え、
ここに乗っている間は一切関わらない事にしようと考え始めたその時である。



――目の前にT字型の曲がり角が現れたのは



勿論、どちらかに曲がらなければ正面の建物に衝突してしまう。
だが、今の状況では素直に曲がる事はとても難しい。

「っておい! ミレイ前前前前!!」

正面の危険に対し、アビスはとても素直な発言を連射するかのように荒げて飛ばし続ける。

「分かってるっつの!! 曲が……あ、あれ!?」

運転手ドライバーとしての技術スキルを持つミレイにその今の状況が分からないはずが無い。
手早くハンドルを切るが、ミレイの両腕にとある違和感が伝達される。



――上手く曲がない……――



「おいお前どうしたんだよ!! 早く曲がれよ!!」

この小型トラックを動かすミレイに全ての責任が携わっているのだろうか。
アビスは自分は乗せてもらっている・・・・・・・・・と言う立場を完全に忘れたかのように、
どこか好き放題にミレイに怒鳴りつけている。

「曲がれたら苦労しな……ってヤバ!! 伏せて! んで力入れて!!」

好き放題言われ続けるミレイも黙っている訳にはいかないと、怒鳴り返してやろうとしたが、
それよりも大事な事が頭に思い浮かび、アビスに指示を入れる。

「今度は何起こるってんだよ!?」

アビスの目の前に映るのはどんどん目の前に迫る建物である。
曲がらないのでは無く、曲がれないのだから、もうこの後どうなるかは、アビスでも分かる事だろう。

「覚悟決めてぇ!!」

ミレイは速度を殺す為に減速装置ブレーキを力強く踏み込み、
後ろから押し出してくる敵のトラックに歯向かってみせる。
だが、やはり前方に迫る建物に対しては恐怖を隠せずにいる。

証拠に両腕を強く伸ばし、背中を背凭れに強く押し付けながら歯を食い縛っているのだから。



―キィイイイイ!!

―ガシャァアン!!

―ガラガラァア!!



■◆ アビスとミレイの乗車する小型トラックが正面の建造物へ衝突する!! ■◆



「わぁああ!!」
「うあぁ!!」

小型トラックは煉瓦造れんがづくりの建物の内部へとり込むように突っ込み、
そして内部に所狭しと設置された棚等の設置物を容赦無く轢き飛ばしながら、徐々に減速し、
そしてトラックの周囲に大小様々な傷を残して停車する。



アビス達は気付いていないだろうが、押し出した敵のトラックはそのまま後退バックし、
そのままアビス達から離れていく。



……



……



「いったっ……。なんとかなったみたいね……。アビス、大丈夫? アビス?」

減速装置ブレーキを踏みながらも、両腕で顔面を防いでいたミレイは
止まった事を確認し、砂埃の立ち上がる中でゆっくりと両腕を下ろしながら安心し、
そして隣にいるアビスの安否を確かめる。

「あ、ああ、とりあえずこっちは何とか……」

アビスもゆっくりと顔を持ち上げ、そしてゆっくりとした速度でミレイに返事をする。

「とりあえずもうこの車使いもんになんなくな……ん? 何この臭い……!」

流石にここまで銃弾を受け、そして貫通され、
更にはタイヤまで撃ち抜かれているこのトラックはこれから先乗り続けるには危険が伴う事だろう。
特にタイヤに関しては非常に致命的である。

ミレイはこの小型トラックを諦めようと口に出すが、先程アビスが言っていたであろう臭いを感じ、
シートベルトを外し、周囲をきょろきょろと見渡す。

「あのさあ、俺らこれからどうす――」
「アビス! 降りるわよ! 燃料漏れてる!」

アビスの呑気な質問を答える前に、ミレイの鋭い言葉が飛ばされる。
どうやら貫通弾を受けた際にそこから燃料が漏れ、
そしてその臭気が今アビス達がいる乗車部にまで浸透していたようである。

「燃料? なんで焦ってんの?」

アビスは事の重大さを分かっていないのだろう。
動作に鋭さの入っているミレイとは異なり、アビスは相変わらずのんびりとした様子を見せている。

「早く降りて! じゃないとあんた……!」

アビスに向かって右手を乱暴に振りながら催促を飛ばすミレイの後に続くように、とある音が鳴り響く。



―ガシャァン!!

―ブォオオオウ……




―> 硝子の割れる音クリアースピア……

―> 炎が立ち上がる音タワリングサウンド……

そして、背後が赤く染まり始める……。



「何よ……? って熱っ! アビス! 即行降りて! 爆発する!」

次はどんな攻撃を受けたのか、ミレイは威圧的に目を細めながら後ろを見るが、
そこに映っていたのは、



δ トラックを包む紅炎/REAR GHOST δ



その炎はトラックの荷台を容赦無く焼き尽くし、徐々にミレイ達にも迫っていた。
そんな熱気よりも、もっと特筆すべき部分があったのだ。

――漏れている燃料

そこに到着すれば、確実にこの二人は……



「爆発? なんで!?」

とりあえずアビスも炎が上がっているのだから、すぐに降りる必要があるのは分かっているらしいが、
どうして爆発するのかは理解していないらしく、こんな場所で呑気に質問なんかし出す。

「説明いいから! 早く降りて!」

ミレイは短く言葉をまとめ、勢い良くドアを開いてトラックから脱出する。

後は降りてきたアビスと共にトラックから離れればとりあえずは危機は脱出出来た事になるだろう。
アビスを今は待つだけである。



――だが、何故か気配を感じられない……

――その為に、再度トラックの方へ向きなおすが……



そこに映ったのは、なんと……



▲▼ ドアを必死に開けようとしているアビスの姿が……



「アビス! あんた何やってんのよ!? 早く出ないと死ぬわよ!!」

ミレイはトラックの外から、内部にまだ残っているアビスに向かって怒鳴るように呼びかける。

「んな事ったって開かねんだって! マジ!」

アビスはドアのレバーを引きながら必死でドアを押しているが、開かないのである。

「ったく何やってんのよ!?」

流石に放置する訳にも行かず、ミレイは危険とは分かっていながらもトラックの車内へ戻り、
そしてアビスの膝元に飛び込むように身体を伸ばし、そして右腕も伸ばしてアビス側のドアのレバーを握る。

「だって……マジ開かねんだって!!」

そんな事をアビスが言っている間に、ミレイはこの熱気が高まりつつある内部で、
ドアを開こうと、レバーを引きながらドアを開こうとしてみるが、開かなかったのだ。



――それが意味するものは、勿論……



「やっぱここ壊れてるわよ! こっちから降りて!」

ミレイは咄嗟にドアの故障を察知し、アビスをやや強引に引っ張り、
ミレイが先程降りたドアから降りさせようとする。

「うわっおい!」

アビスは強引に引っ張られるが、引っ張られたままでは体勢的にもきついものがあるだろう。
何とか自分の足でも歩こうと、アビスとミレイの席の間にあるチェンジレバーを通り越し、
そしてようやくミレイの席に移り、すぐにドアを通ってトラックから脱出する。

「ったく世話焼ける奴ね! 兎に角離れるわよ! 走っ――」

恐らく周囲に見物客がいれば確実に同じ事を口に出すであろう台詞をミレイは飛ばし、
そしてアビスの右手を引っ張りながらトラックから素早く離れようと、駆け出す。



――だが、駆け出してから一秒も経たない内に……――









―ドォウゥン!!!!

―バチバチ……



遂に小型トラックは過激な最期を迎えたのである。

炎が燃料に引火し、内部から爆発を起こしたのである。
その爆発は凄まじく、駆動車を丸ごと飲み込む程の炎が立ち上がったのだ。
操縦部も容赦無く炎に飲まれ、もし乗ったままの状態を維持していれば、確実に炎の餌食になっていただろう。

アビスは結局、またミレイによって助けられたのだ。



因みに、二人は爆発の衝撃と迫力によって、床にうつ伏せに倒されていた所である。

「うわ……、マジで爆発したんだけど……」

目の前に映る燃え上がるトラックを、
ゆっくりと上体を持ち上げながら見るアビスはミレイの言った通りになったと、声を震わせる。

「良かった、もうちょっと遅かったらあんた焼け死んでたわよ?」

ミレイはゆっくりと立ち上がりながら、遅れていた場合のアビスの将来を教えてみせる。
内容は当然のように、暗い。

「そう言う事言うなよ……」

アビスも立ち上がりながら、ミレイに今の台詞に対する否定を飛ばす。

「分かったわよ。それよりひょっとしたら追っ手とか来っかもしれないからちょっとあっち逃げるわよ!」

ミレイは先程自分達が乗っていたトラックで突き破った建物の壊れた壁を見るなり、
恐らく先程攻撃を仕掛けてきた連中がそこから攻めて来る可能性があると読み、
建物の奥に設置されている木造の扉に指を差しながらアビスに言った。

「あ、ああ! 分かった!」

アビスにはもう選択権も決定権も与えられていないかのように、
ミレイの言う通りに従っていく。



――そして、扉が開かれる。ギシギシと言う音と共に……



「でもさあ、この後どうす……!」

ミレイはアビスにこれからの予定を訊ねながら扉を開く。
だが、そこに映ったのは、



――金髪で、長髪の少女……

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