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「っつうか全っ然見つかんねぇじゃねぇかよあの糞猫やろうめがよぉ」
しばらく歩いたのだろうか。それでも目的の人物――『獣』と表現した方が良いかもしれないが――が見つからず、フローリックは苛々した感情を見せつけ始める。
「おいフローリックお前そんな風にコールしちゃあ不味いんじゃねぇかぁ?」
今、確実にフローリックは猫人を
「別にいだろ、オレはなぁ、昔っから猫人とか言う連中あんま好きじゃねんだって」
今まで共に狩猟をしてきたであろう友人に言われても尚、フローリックは自分の意見を曲げる真似はしなかった。一体何があったのだろうか。
「えっと、何かあったんですか?」
やはり今回初めて共にする狩猟とは言え、仲間になった身としてはその毛嫌いする理由を聞かない訳にはいかなかったのだろう。クリスはその真相を聞き質そうとする。
「あぁ、あいつらってよぉ、なんかうざくねぇか? いっきなしオレに向かって襲い掛かって来たりよぉ、後
フローリックはヘルムの隙間から僅かに見える橙色の目元を細めて斜め上を眺めながら、猫人、そしてその、亜種である黒猫人の手癖の悪さを思い浮かべ、そして最悪な過去を思い出してしまう。
「あ、はい、いますけど……」
まるで四人のこの空間を暗い物に陥れるかのようなフローリックの口調に対してクリスは質問をした側としての責任である返事を気まずそうに返す。
「あんにゃろういっきなしオレんとこ突っ込んで来やがってんでシビレ罠持ってって行きやがったんだぞあんのクッソ野郎ったらよぉ。マァジ見つけて
両腕を持ち上げ、腹部の目の前で両腕を握ったり開いたりし、今にも誰かに殴りかかりそうな雰囲気をちらつかせながら、フローリックは苛々を決して隠せないであろう黒猫人から受けた仕打ちを告げ、そして最後に気の抜けたように徐々に声を小さくしていく。
「あれ? 確か盗むのって黒猫人だけじゃなかったっけ? だったら別に猫人なんか無関係――」
「オレにとっちゃあどっちも同類だっつうの。ただ白か黒かだけだってあんなの。結局どっちもむかつくこたぁ変わんねっつの。しかも猫人の野郎なんかたまに爆弾で武装しやがっしよ」
一応猫人も黒猫人も外見的な特徴は色だけの違いではあるが、一方的に攻めてきてそして窃盗行為を嗾けてくるのは黒猫人と言う猫人の亜種のみであるとスキッドが言おうとするも、いきなりフローリックに遮られてしまう。
実際の所、フローリックにとっては両者とも好きになるには無理があるらしい。亜種の方に強いインパクトがあれば原種の方もとばっちりを受けると言った所だろうか。
「ですけど猫人は確か相手から攻撃してこない限り攻撃してこなかったと思いますけど?」
とことん猫人を悪者扱いするフローリックであるが、クリスは猫人の本質を説明する事で何とか中和してみようと考えるが、どうだろうか。
「そんぐれぇ分かってっけどよぉ、あんにゃろうたまに勘違いとかしてくんだろ? 他の竜とかの攻撃喰らった時とかなんか分かんねぇけどオレんとこ一直線向かって来っからな、あれマジうぜんだって」
とりあえずフローリックは猫人と黒猫人の区別は出来ているようだが、猫人も窃盗こそはしないものの、タル爆弾と言う破壊力に満ち溢れた代物を持ってくる事があるのだから、結局の所、やはりどちらも問題視すべき存在なのであると決して自分の考えを捨てる事はしなかった。
「でも今回のミッションっつうのはそのお前にとってヘイトフルな相手だぜ? セイブしてからいきなりウェポン飛ばしたりすんじゃねぇぞ?」
残念な話だが、今回のクエストで助けるべき相手はその猫人なのだ。いくら猫人全体に憎悪を飛ばしていようとも、救助の相手に手を出せば確実に報酬に問題が出る。
ジェイソンは友人としてなのだろう、フローリックに対して半ば諦めるように施す。
「
友達に言われても、やはり腹の虫が収まってくれなかったのか、フローリックは相変わらず指を鳴らしたまま、恐ろしい内容を出し始める。
「おいおい……まだ言ってんのかよ……。ってかそれより確かここって岩壁竜も出るとか言ってなかったっけ?」
諦めの極めて悪いフローリックに対してスキッドは苦笑を浮かべるが、話題を逸らそうとしての配慮か、それともただふと感じた事なのか、今回のクエストに出現すると思われている飛竜についてみんなに問うた。
「ああなんか言ってたな。けどあんなもん別にどうってこたぁねだろ? 岩ごっつごつで
気の抜けた態度でフローリックは返事をし、そして最強にも近い
ただ、この男なら誰が来ようが引き下がるようには見えないが。
「だぜ。いくらヘビー級でもスピード持った奴がライバルだったら一発もアタック決めれねぇでエンドになるってやつよ」
ジェイソンは単純に力もありそうな体格をしているが、それでも彼の持ち味はスピードタイプだろう。だからこそ、力任せで攻めてくる相手ならそこまで苦戦する事は無いだろうと、自分達の勝利を想定しながらヘルムの下で笑顔を作る。
「んじゃあ結局んとこは岩壁竜はザコってとこか? そうだよなぁ、おれらだったらなんか簡単に終わりそうだしなぁ!」
ジェイソンの言葉から、スキッドは岩壁竜が弱小者であると勝手に推測し、ジェイソン以上に勝ち誇った素振りを見せ始める。
「けどお前が足手纏いになんなきゃいいけどな。足引っ張ったりしやがったら
フローリックは一応スキッドとはドルンの村からの付き合いも多少あったからなのか、スキッドを脅すような言葉をぶつけ、目を細める。
「引っ張るかっつうの! そっちこそ追い詰められて『助けて〜』とか
スキッドも言われっぱなしになる訳にはいかなかったのだろうか、一度大声で反発し、そしてひょっとしたら見せてくれるかもしれない非常に格好のつかないフローリックの姿を想定しながら言い捨てる。
「言わねぇよバーカ。何だよ『助けて』とか、ガキじゃあるめぇし」
やはりフローリックは子供のように助けを
「あ、あのぉ! 所で確か岩壁竜って普段は地面に潜ってるって言われてましたよねぇ?」
下らなくも、あまり微笑ましい光景とも言えない二人のやり取りを紛らわしてやろうと思ったのか、クリスは
「潜ってるっつうよりありゃあ埋まってるった方がいくねぇか?」
クリスの言葉に反応を見せたのはフローリックであったが、細かくも、ある意味で間違いだったその部分に訂正を投げかける。
――事実、岩壁竜は身体の一部を外界へ露出させて待機しているのだから……――
「あ、そうですね……、えっと、確か岩が二つ横に並んだようなものが岩壁竜の背中、ですよね?」
やや難しそうな表情を浮かべながら苦笑いをし、そして改めてどの露出した岩が岩壁竜なのかの確認をクリスはする。
「けどそこら中ロック塗れだぜ? そっからトゥルーのやつだけサーチするったあバーザーな話だぜ? まあトゥルーのロックはちっともルック出来なかった訳だけどなぁ」
ジェイソンは周囲を見渡しながら、正解の岩を見つけるのは非常に面倒な話であると説明する。だが、彼は特徴を把握していたらしく、ただ喋りながら歩いていた訳では無かったようである。
「ってかちゃんと見つかんだろうなぁ? 二つ合わさった岩ねぇ」
スキッドは面倒そうに周囲を見渡しながら、今言われた特徴の岩を今頃になって探し始める。
「いっちばん楽なのは岩壁竜じゃなくて猫人の野郎が先に見っかる事だなぁ」
やはり戦闘は免れたいと思っているのだろうか、フローリックは戦闘相手よりも、先に救助相手が見つかればと、彼の台詞通り、最も楽な道を期待し始める。
無駄な戦闘を避けれれば、同じく無駄な負傷とかを負う危険も少なくなる訳なのだから、それは決して臆病と言うものでは無いのかもしれない。
「っつうかどこにハイドしてんだろうなぁ。どっちもハイドプレイなんかしてたらおれら一生ウォークしたままになっぜ?」
ジェイソンも両者とも見つかる気配が無い為に、遂に暇を潰そうと、背中に背負っていた双剣<インセクトエッジ>を両手に取り、空中で回転させ始める。
「ほんっとだよなぁ、猫人も出ない、岩壁竜も出ないじゃあもう何しにここ来たか分かんなくなっちまうっつうのって話だしなぁ!」
スキッドも暇そうに両腕を天に向かって伸ばし、そして近くに落ちていた小さな石ころを蹴り飛ばす。
――蹴られた石は……――
「きっと猫人の方も怖くて隠れてるんだと思うよ。それに岩壁竜だったら隠れてる岩さえ見つければ大丈夫だしさあ」
両者とも出てくる気配が無い訳であるが、ただ周囲を苛々させる為だけに隠れている訳では無いと、クリスはスキッドに言葉を投げかける。
「そうだよなぁ、どっちもきっとかくれんぼでもしてんじゃねぇの? んでどっちも隠れたからもう既にかくれんぼになってねぇってやつ?」
クリスの励ましが効いたのだろうか、スキッドはこの台地にいるであろう者の勝手な遊戯を想像しながら、両腕を回し始める。
「もし本気でかくれんぼなんかしてたら真面目にガキどもの……ん?」
フローリックも妙な話に付き合い始め、本当に遊んでいたらどうかと言うまずありえない話をし始めるが、突然……
――地面が揺れ始め……――
「これってあれじゃねぇか?
フローリックはやや落ち着いた様子でゆっくりと背中の<斬破刀>に右手を回し、周囲を見渡す。
「ライトなアンサーだぜそれ、ほら、来やがったぜ!」
ジェイソンも先程までは暇潰しの道具として扱っていた<インセクトエッジ>を、敵を倒す為の
▲ △ ▲
▼ ▽ ▼
★ ☆ ★
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★★飛び上がる!!
「マジかぁ!! ってか結構近くいたんだな!」
すぐ目の前に現れたのだ。スキッドが驚くのも無理は無い。
「でもなんでいきなり出てきたんだろ?」
クリスも素早く金色の剣、そして銀色の盾をそれぞれ左手と右手に構え、
――スキッドが先程蹴った石が
【飛竜・解体信書/Face up to menace】
正式名称/Practical name : 岩壁竜・がんぺきりゅう
構成群/Bone type : 竜盤目
分類/Standing style : 獣脚亜目
属性/Life quality : 重殻竜下目
生物分類/Organization graduation : 鎧壁竜上科
全長/Span of body : 1297cm(about)
全高/Height of appearance : 620cm(about)
脚部の寸法/legs size : 167cm(about)
【飛竜・脅威呼ぶ威容/Fighting dignity】
Care pointT まるで鉄板のような無機質な印象を与える頭部
直接的な威圧感は感じられないが、怪しく光る黄色い眼が
妙な恐ろしさを飛ばしてくれる
トレードマークは角のように尖った上部の出っ張りだ
Care pointU 巨大な岩を背負うだけの力を携えたであろう太く、大きな胴体
こいつにとって岩とは何なのだろうか?
子供が遠足でウキウキする為のリュックサックなのだろうか?
身体中に纏わりついた岩の数々は天然の鎧として見て取れる
人間の
だが、それは人間にとっては厄介物でしか無いのだ
Care pointV 胴体と同じく、灰色に蝕まれた一対の翼
岩塗れの身体を持ち上げる事が出来るのかと言う疑問が残るが、
飛ぶ事だけが絶対条件では無いはずだ
きっとバランスを取る為の進化であるのかもである
【INFORMATION-END】
「んじゃまずこいつん事ちょちょいとやっちまっか!」
■フローリックの手が斬破刀に伸び……
シンニュウシャ……ハイジョスル……
□岩壁竜の
λ 破壊対象/COLLAPSE
男 …… 三匹
女 …… 一匹
ε 危険人物/TRESPASS
双角竜を纏う狂犬 = フローリック
雪獅子を統一する流星 = ジェイソン
他は……きっと
η
●勝利の方程式
コレナラ……カクジツニショウリヲ……
▼岩壁竜の
―>体勢を一度低め……
―>力を込め……
―>狙いを定め……
―>一方、狙われている四人もすぐに回避体勢へと切り替える……
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ψ 黄泉の国への切符を受け取るのだ!!/FLARE CHAOS!!