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テロリズム/Terrorism 破壊/Destruction 滅亡/Fall カタルシス/Katharsis
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ハンターが集う巨大な街、アーカサス
普段ならば、様々な武具に身を固め、
そのハンターを手助けする為に、街のほぼ全体がハンターに携わる職業に覆い尽くされている
それはそれで別に良い事である
おかげで、この街の者達は生計で困る事は殆ど無いのだから
しかし、今はもうそれらは別の話となっている
太陽による日光の支配は既に終わりを告げ、暗闇が代わりに支配をしている
それが問題なのでは無い。もっと別の話である
謎の集団が今、この街を破壊し尽くそうと動いているのだ
これこそが最も巨大な問題なのだ
どこからか飛来する炎
地面を踏み鳴らす
空から標的を狙う
バンダナマスクを装着した荒くれ者
そこから投げ落とされる火炎瓶
更には、怪しい水ぶくれを携えた脱獄囚
もうアーカサスの街に希望の光は存在しないのだろうか?
この混沌を除去してくれる救世主は現れてくれないのだろうか?
こんな時こそ、想像でも、空想でも、妄想でも良いから……
天からスーパーヒーローでも降りてきてくれないだろうか……
―〜〜―■■ 路地での悲劇/HUMAN CHASE ■■―〜〜―
人間は普段は多少走るのが遅くても、時と場合と条件によっては、
恐るべき瞬発力を得られる事があるのかもしれない。
詳しいメカニズムは説明しろと言われた所で、すんなりと答えられる素人はいない。
適当に理由をつけるのならば、死にたくないから必死だ、
それで充分では無いのだろうか?
少なくとも、今の彼らに質問を投げかけた所で、無視されるだろう。
それより、
「……はぁ……はぁ……どこまで、逃げんだよ!?」
全力疾走で走り、呼吸を激しく乱しているアビスは隣でやや余裕気に
走っている緑色の髪を持った少女に聞く。
「分かんない! あっちが諦めるかしたらよ!」
アビスほどでは無いが、多少ながら呼吸を荒くしながら走っているミレイは、
相手の気分によって結果が決まると言い捨てる。
「マジかよ……はぁ……はぁ……ってうわぁ!!」
アビスは紫色の髪をやや激しく揺らしながら走り続けているが、
そんな状況で背後に振り向くなり、声を普通に発するのも
辛くなっているであろう喉に力を込めた大声を発してしまう。
――背後には、未だに物凄い剣幕をした男が走っているのだから……――
「捕まりゃあ楽になんぜぇ!!」
その走りながら発してきた男の言葉の奥に持つものは、確実に暗いものである。
男の言いなりになるまいと、少年少女は走るのを決して
「アビス! 後ろ見ない! 見たらあれだから!」
ミレイは後ろを振り向いて無駄な体力を消費するであろう大声を出したアビスに対して、
余計な物を取り入れない方が良いと、非常に短縮したアドバイスを受け渡す。
「
アビスはよく意味の分からない対応をされた為に、
ミレイにどうでもいいような事を聞き返すが、
「兎に角不味いって事! スピード落とさないように!」
それでも、体力を振り絞らなければいけない状況に何ら変わりは無いだろう。
「分かった分かった!」
アビスはあまり期待していなかった返答を受けながらも、状況が状況だから、
無理矢理のように納得して見せる。
その強引なメッセージの裏には多少ながら、礼の意味も含まれているように思える。
「待てぇえいぃ!! 食ってやっからよぉ!! 女ぁ!!」
緑一色の囚人服を着た男の足は未だに力が抜ける事を知らない様子だ。
だが、男が狙っているものは、一つに限られているらしい。
―― 女=ミレイ …… ――
所詮はこの凶暴な面構えをした男も、性欲の塊であると言う事なのだろうか?
前科を持った存在であっても、本能だけは素直なのだろう。
「ってあたし狙われてんの?」
ミレイは顔を直接後ろには向けず、青い瞳だけを目一杯左を向いて気持ちだけで
男の姿を直視し、男と言う生き物の嫌らしさを背中で感じ取る。
(あぁ……なんか最悪ね……)
直接口には出さず、心の中でどうして下劣な男に目を付けられなければいけないのかを考え、
だらけた印象を与える一言を呟いた。
走っている状態ながらも、多少ミレイの目元が細くなる。
「そう怖がんなぁ!! 楽にしてやっ……」
男は背後で未だ叫び続けている。どれだけの
逃げる二人――標的はミレイのみである可能性が非常に高いが――に向かって無理な要求を飛ばしながら
手まで伸ばし始めるが、
突然……
「う゛う゛ぇ゛!!」
突然聞き苦しい声を発し、そして、身体の動きも停止する。
「ん?」
ミレイは背後から響いた奇妙な唸り声を聞くなり、後ろを一瞥し、
そのまま足を止める。
「あれ? ……はぁ……ミレイ……お前どしたんだよ? はぁ……はぁ……」
突然走るのをやめたミレイを見るなり、アビスは安心し切ったかのように一気に
速度を落とし、そして完全に勢いが無くなると同時に両手をそれぞれの膝の上に付きながら、
一体何があったのかをミレイに求める。
まるで何もかもミレイに任せっきりにしているかのようだ。
「ちょっと見て、あれ」
アビスは大きく呼吸を乱しているものの、ミレイの方は僅かにだけ、呼吸を乱している。
そんな中で、ミレイは後ろを振り向き、男の方向へと指を差す。
「どうし……ってあれ? どしたんだあいつ?」
ミレイに言われるままに後ろに目を向けるが、そこに映っていたのは、
先程の威勢とは偉く対照的な、とても情けない姿だったのだ。
アビスはその様子を妙に思い、一瞬だけ呼吸を忘れ、凝視し続ける。
――地面にひれ伏し、何か赤いものを吐いている……――
「う゛え゛ぇ゛え゛!!」
その光景は見ている側も苦しくなってしまいそうなものだ。
その
υυ
男の身に何が起こったと言うのだろうか。
左手で腹部を押さえ、右手で口元を押さえているが、男の大きな口からは止め処無く血が噴出され続ける。
「吐血なんかしてるわね……。でもまあ一応助かったっつうのかなぁ?」
ミレイも男が吐き続けている血液を多少苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、
もう男が既に自分達を追いかけ回すだけの気力を奮えないものとして考える。
「ま、まあそ〜じゃね?」
アビスもミレイに一度顔を向けながら、苦笑して対応する。
――やがて、男の動きは完全停止し……――
血液の上に、そのまま身体を崩し、全く動かなくなってしまったのである。
「ってかさあ、あいつの顔、あの水ぶくれだけど、さっきの奴らも
ミレイは
水ぶくれの痕を見るなり、ほんのさっきまでの過去をふと思い出す。
――勿論それは、高部の壁に隠れていた時の話である
「マジ?」
アビスはあの時にしっかりと目で確認をしていなかったのだろうか、
周囲が夜のせいで薄暗いと言う事情もあったのかもしれないが、
既に動きを停止させている事に対して安心したのか、
男に近づき、近距離からもっとしっかりと確認しようとする。
「アビス、絶対触んないでよ」
男に向かって手を伸ばそうとしたアビスに対して飛んできた言葉は、
普段の高いトーンを無理矢理低めたような鋭い声だった。
勿論それはミレイのものであるが、どこか厳しい空気である。
「あ、いや、触んないけどさあ……」
実の所、アビスは触れてしまう勢いだったのだが、
流石にこれ以上ミレイに面倒な思いをさせては気まずいと思ったのだろう。
多少ながらミレイに反抗するような小さい返答をしながら、
伸ばしかけていた手を引っ込める。
「ってかさあ、この水ぶくれみたいな感じのやつだけどさあ、これって……なんか毒かウィルスかなんかに侵されたような感じじゃない? ってか触ったら一発で感染でもしそうね……」
ミレイは当たり前のように直接触れはせずに、既に絶命しているであろう男を見続けながら、
彼女なりの推測を並べる。男の顔に浮かぶ異様なモノを見て、これだけの考えを述べられるのは
流石アビスをここまで何とか導いてきただけの事はあるだろう。
「感染!? って、なんかよく風邪とかで言う一緒に、っつうか近くにいるだけで病気が移るみたいな、そんなのの事か?」
アビスも大体は意味を理解しているに違いないだろうが、その意味の本当の意味での恐ろしさを再確認するかのように、
幼い頃に聞いた事のある話を持ち出してミレイに質問をする。
「まあそう言う事ね。でもこいつの持ってるその毒は風邪じゃあ済まないレベルだと思うけどね」
ミレイもこんな時に何をそんな小さな子供がしてくるような簡単な事柄を並べて作った質問を
投げかけてくるのかと、苦笑を浮かべながら対応する。
「そりゃそうだろな……」
アビスはミレイの考えを当てにしたような返事を飛ばす。
「でもさあ、もしこいつが持ってるその毒みたいなのがさっきの囚人ども全員が持ってるとしたらさあ……」
やはりミレイにはまだ言い足りないものが残っていたのか。
ミレイは絶命した囚人服の男を指差しながら、他の脱獄囚の体内にも
似たような症状があるのでは無いかと考え、突然口の動きを止める。
「まさかレベッカの奴……!」
――突然
「あいつらに捕まったとか!? 探した方がいいわね!!」
アビスのその続きを連想させるような言葉に続くように、ミレイはレベッカの身に何があったのかを思い浮かべ、
表情を引き締めて今まで来た道を戻ろうと、駆け出そうとする。
「えぇ? でも危なくね? もし捕まってたらどうすんだよ!?」
ミレイの提案を聞くも、アビスはその感染する可能性があると言う事実によって、
なかなか走り出す為の一歩を踏み出せずにいる。
「捕まんないわよ。たかが囚人相手にやられるかっつうの」
何故かミレイの表情には自信に満ちた笑顔が映っていた。
多少ながら最悪の事態を想定するも、一応ミレイはハンターと言う職業持ちである。
そこで鍛えられたであろう身体能力と精神力がたかが無法者の囚人に破られるはずが無いと
ミレイは誇ったに違いない。ただ、囚人とは未知なる力を保持している可能性も高いのだが。
「でも集団リンチみたいな事されたら一環の終わりじゃね? だってお前さっき触ったらどのこのってただろ?」
アビスとしてはレベッカを助けたいが、感染性を持つ可能性のあるあの男達に近づく事事態を危険な行為として考えているのか、
それとも元々恐ろしい属性を持った集団を相手にしたくないと言う逃げ腰か、
そのどちらかの意味を携えたような台詞をミレイに渡す。
「え? あ、いやあまあそうだけどさあ、レベッカの事だから多分、多分だけど、捕まってないってあたしは信じたいのよ。普段あんだけ威張ってる奴がそう簡単に捕まる訳無いってあたしは思ってるけど、でもあの連中に直接触ったら不味いってのは確かね」
未だに今まで走ってきた道を戻る為に足を動かさずに、ミレイはレベッカのあの威圧的な態度が意味するものを考え、
決して目を覆いたくなるような状況には陥れられていないと言い聞かせる。
勿論直接見た訳では無いのだから、確信こそは不可能だ。
しかし、今は信じるしか道は無いだろう。
それでも、毒を浴びた可能性のある囚人達に接触してしまえば、身震いするような事態になるのは
視覚的な都合が教えてくれている。
「じゃああっちの方辺ブラブラしてるとこを見つければOKって事か?」
アビスは逃げてきた道の奥を指差しながら、ミレイと顔を合わせる。
「まあブラブラしてっかどうかは分かんないけど……。無事な事祈るしか無い――」
―バリィイン!!!
―バキィイン!!!
――建物の上部付近から響く衝撃音……――
ミレイの笑みの混ざった曖昧な発言はその場で起こった衝撃音によって無理矢理に静止させられる。
それを証明したのは、衝撃音によって飛び上がった肩と、両目である。
本能的に怖がったに違いない。
「ちょっ……何起こったってんの……!」
アビスが隣で先程のミレイと同じようにビクッとした反応を見せていたが、
ミレイは冷静に音源である建造物上部に顔を向けるが、所謂二次被害と呼ばれるものが迫っており……
「ってアビス!!」
「うわっとと!」
――上から降ってくる
炎に包まれた建物の一部がミレイ達の真上から
そこにいれば勿論巻き込まれ、一大事と化する。
だからこそミレイはアビスを引っ張るようにその場から離れる。
因みにアビスもその上から落ちてくる物には気付いていたが、行動に移るよりも前に
ミレイの行動の方が早かったようである。
―ガシャン!!
―バチバチ……
木造らしい乾いた音を地面に響かせ、そして残った炎が弾けるような音を小さく夜の空間に響かせる。
凝視すればある意味でその炎の中に一種の芸術性を
そして、その燃え上がる木材はさっきまで来た道を塞いでくれた。好ましいものでは無いが。
「これって……あのバンバン飛んでた
アビスには見覚えのある
ζ
どこからともなく飛来してくる炎の塊は、無造作に建造物に激突し、
そして接触対象を容赦無く燃やし尽くす。
「あたしもアビスと会う前に見たわね。ってかもう火ぃ上がり始めたから……」
――立ち塞がる木材の奥に見えるものは……――
茶色い胴体、そしてそのやや大型の胴体を支える為に用意された四本の脚。
それだけなら、ただの生物とも、動物とも言えるかもしれないが、
特筆すべき部分は……
μμ 砲台のような頭部
前後に長いその頭部の先端が妙に威圧的な雰囲気を飛ばしてくれている。
まるで狙われているかのような、ぞっとする空気を受け取れる……。
οο 前後に長い頭部の先端が、じっくりと二人を捉えている
生物のくせに、まるで機械のようにゆっくりと二人を狙う。
――そして、
「尚更逃げる理由出来たって事ね!!」
ミレイは一言大声で飛ばすなり、落下した木材から立ち上がる炎から離れるように一気に走り出す。
どうやら炎が広がる前に逃げるのと同時に、その茶色い謎の生物からも逃げようと言う意味を言葉に
込めていた様子である。
アビスも勿論ミレイの後ろを追うが、炎の奥にいる
停止しているのにも、しっかりとした
「ってかあれなんか生きてん……」
―ガシャン!!
―ドスゥっ!!
背後から響く生物らしかぬ
硬質物質が力強く擦れ合い、そしてぶつかるような堅苦しさ。
単刀直入に言えば、
音響の後に響くものは、直撃音である。
それも、放たれた
「うわぁ!!」
恐らくアビスはあの台詞の続きに『生きてんじゃね?』とでも言おうとしたのだろうが、
すぐ隣で湧き上がる衝突音によって、その続きは悲鳴へと
▼ 壁を力強く
「アビス、注意して! あれ空気砲みたいだけど喰らったらまず助かんないわよ!」
ミレイはアビスと合流する前に見た事があったのか、それとも今の様子を逃げながらも密かに見ていたのか。
本当に飛ばされた成分が空気の塊なのかどうかの推測は文字通り、勝手な想像だとは思うが、
それでも建物の壁を破壊する程の威力なのだから、命中だけは許してはいけない。
アビスにそんな忠告を投げかけ、そして足を止めずに突き進む。
「確かにぃ……なんか死にそうだよな?」
走り続けながら、アビスはその空気砲らしき攻撃に対する感想を述べてみせる。
――逃げる二人の背後では……――
▲■▲ 炎を踏みつけ、迫る
速度はそこまで驚くまでのものは無いものの、四本の脚を器用に動かして
地面をやや強く踏み鳴らしながら、接近を始めているのだ。
互い違いに持ち上げられる艶のある脚はどこかこれから恐怖を運んでくるような
恐ろしい
――夜と言う暗闇の空間の中で……
――僅かな炎に照らされて……
――体色の茶色とは別の色をも保持したように見える……
――そこにはまた別の
「ってかあたしらかなり追い詰められてない?」
ミレイは薄暗い建物と建物の間を駆け抜けながら、何とか付いてきているアビスに向かって
今の状況の深刻さを聞く。
「追いつかれなきゃだいじょぶだ!! きっと!」
しかし、アビスの言う通り、相手は速度は遅い部類に入っている。
走る速度は本気とまでは行かなくても、駆け足程度でも充分追いつかれずに済む程度だ。
実質、息絶えた
π しかし、脚は遅くても、
―ドスン……
―ドスン……
徐々に距離を離していく二人を、とても生物のものとは考え難い前後に長い砲台のような頭部を
二人に向ける。『眼』に当たる部分も見当たらず、不気味な雰囲気が立ち上がる。
―ガシャン!!
――発射される
ψ ψ 狙われたのは、再び建物の壁!! ψ ψ
―バキィッ!!
―ミシィッ!!
「また来たっ!!」
「でも命中率悪いみたいね!!」
アビスとミレイは追いつかれる事の無いよう、足を必死に動かし続けるのだ。
背後から聞こえる重々しい足音が二人の耳に纏わり付く。