――▽▲ 闇の空間での再会/LIGHT IN THE DARKNESS ▲▽――
逃げ込んだ先で出会ったのは、影に隠れた謎の男。
勇敢にも、ミレイは男に得意の
逆に押さえられてしまう。
だが、そんな最中に男はと言うと……
「やっぱお前アビスじゃねぇか〜、かなり奇遇じゃねぇか」
男は地面に押し付けていたミレイの細い首元から右手を離し、距離を取っていた少年の姿を見るなり、
その少年がアビスであると気付き、全身から力を抜く。
――頼りなさげな顔立ち、そして紫色の髪は確実にアビスである
「って誰? 目は一応慣れてきたけど……誰?」
アビスは目の前にようやく鮮明に映ってきた男を見るなり、一体誰なのか、思い出せずに戸惑う。
残されたミレイがやや可哀そうにも見えるが、今のアビスに映っているのは、その謎の男だけである。
それは、男の
α 全身を包み込む明るい紫色のスーツ
β 同じく紫色のパナマ帽により、目元がやや隠れているが……
γ その隠れた目元にかけられた
――こんな姿を見れば、どこの誰なのかを当てるのは難しいだろう――
「俺が誰か、マジで分かんねぇか〜?」
そのだらしない低音の声色は非常に懐かしい印象を受けるが、やはりアビスには思い浮かばないのだ。
「多分……この人って、テンブラーさん……じゃない? アビス」
その男の名前を明かしたのは、先ほどまで倒れて硬直していたミレイだったのだ。
まだ背中に痛みが残っているのか、やや苦しそうに顔を
直接見る分についてはミレイでもサングラスにスーツの格好をした男を見て多少は怪しい気持ちを抱いたが、
これでも短い期間ではあったが、共に行動した経験を持つのだから、
声を聞けば大抵は理解出来るものである。その点についてはアビスよりずっと敏感であると言える。
「テン……ブ……、ってあ、ああそうだよなぁ! 確かにテンブラーじゃん! なんかすげぇ久々じゃないか!?」
ミレイが名前を明かしてくれた事で、ようやく初めてアビスはこのスーツ姿の男が誰であるかを理解したのだ。
その証拠に、とてもその男の年齢層を相手にする態度とは思えないような口調で話しかけ始める。
「やっと分かってくれたかぁ。ってかそれよりミレイちゃん、大丈夫かぁ? 俺結構本気で叩きつけてまったけどよぉ、だいじょぶかぁ?」
謎の男――正体はテンブラーだった――は相手に分かってもらった事を確認すると、帽子の
そして、少しだけよろよろとしながら立っているミレイの容態が気になり、怪我でもしなかったかと、心配する。
「あ! そうだった! ミレイ、お前大丈夫か!? お前今メッチャ思っきりやられてただろ? 大丈夫か!?」
――やっとアビスは気付いたのだろうか? ミレイが痛がっていたと言う事実に……――
アビスはそんな今更と思いたくなるような言葉を吐きながら、ミレイに近寄る。
「あんたさあ……テンブラーさんがどのこのの前に最初にその台詞聞かせてよ……。そして、あたしは大丈夫。あたしこう言うの慣れてるから別にどうって事無いわよ?」
アビスのその台詞の優先順位に多少苦笑を浮かべながら、ミレイは両腕を横に向かって伸ばしながら、平然とした表情を見せる。
「あ、う……いや、いや別にいいだろ? と、とりあえずまあ助かったんだし、それに、なんかテンブラーともなんかまた会えた訳だし、えっと、いいだろ?」
それでもアビスは気まずい気分になってしまっているのだろうか。
一応ミレイは下手をすれば再起不能の一撃をまともに受けていたと言うのに、
そこに重点を置かなかったのは少し不味かったはずだ。だからこそここまで詰まってしまっているのだろう。
「そうね、はいはい、もういいから。あ、それよりテンブラーさんもやっぱり
何とか言い訳でもするかのようにその場を誤魔化そうとするアビスをミレイは放置し、
ここで久しぶりに出会ったテンブラーがどうして今この街にいるのかを訊ねる。
「まあそんなとこかねぇ。一応テンペストシティには行ったから、だらだらアーカサス戻ってたらこんな
――テンブラーには、一つの大きな仕事があったのだ――
元々はアーカサスの街へ赴く途中のアビスと偶然知り合ったのである。
途中でアビスが立ち寄ったバハンナの村でリオレイア亜種三頭と遭遇し、
そこでテンブラーはアビスとスキッドと共に戦った。
テンブラーは破壊されてしまった村に取り残された村人達をアーカサスの街にも負けない巨大街、
『テンペストシティ』へ送り届ける為に一度アビス達と別れたのである。
ミレイもこの時にテンブラーと顔を合わせていたのだから、
咄嗟に紫色のスーツを纏った男の正体を見破れたのだ。
――そして現在はと言うと……――
街に戻れば混沌が全体を支配していたから、軽く情報収集をすると、
一人の男が浮かび上がったようである。そして、テンブラーのここでの目的が生まれたと言う話になるだろう。
「灰……色の……皮膚、ですか? なんか人間と違うようなイメージ受けるんですけど、ってかホントにその情報って正しいんでしょうか? 灰色ってなんか凄い信じ難いんですが……」
ミレイは一応はテンブラーが聞いた話を充分に理解はしたのだが、
やはりその肌の色についてどうも疑わずにはいられなかった。
そんな肌の色は一般的な人間が持つ色としてはありえないからだ。
「いや、これは正真正銘正しい話だ。教えてくれた親父も『それだけはぜってぇだ』ってある意味自信過剰的に言ってたから、別に疑う必要はねぇだろ。それにもしホントに灰色じゃなかったとしても結局は敵対する存在としてこっちが警戒しなきゃならんってのは変わらんだろうしよ」
それでもテンブラーは自分に教えてくれた男性を酷評するような真似は見せなかった。
教えてくれたからには信用する義務もきっとあるのだろう。
だが、後半のそのもし違う情報だった場合のその後の行動の取り方は少しだけ
最初と言っている事が違うような気がしてしまうのは気のせいだろうか。
「んでもしホントに灰色で正しかったら、そいつって、やっぱ人間って言えんの?」
アビスがそこに入ってくるが、アビスにとって一般的に連想される人間とは全く異なる肌の色を持つ人間を、
本当にそのまま自分と同じ種族として考えてもいいのかと考え込んでしまう。
「ああそれかあ、お前意外とこの世界の面白いとこ分かってねぇみてぇじゃねえか。そう言うのはなあ、人間、じゃなくて亜人っつうんだよ。まあデミヒューマンでもいんだけどな」
アビスの無知をフォローしようと言う気持ちで、テンブラーはその異型の色を持つ男を
通常の社会ではどのように認識されているかをやや大雑把ではあるが、教えて見せる。
「あ、じん? 『
どうやらアビスは『亜人』と言うものの存在に対して深い知識を所持していなかったらしく、それでも
何となく、と言う範囲の中で亜人を頭の中でイメージしてみるが、やはりそれが本当に正しいかどうかを、
ミレイに聞いてその真相を確かめる。
「って結局あたし頼んの? まあそうね、形は人間みたいで、でもどっかかっかで人間と違う特徴があんのが亜人って言う種族なの。竜人族とか見れば分かるだろうけど、ちょっと小柄だとか、耳が尖ってるとか、そう言う細かい部分であたしら人間と違う部分があるから、そう言うとこで区別されてるのかな」
いい加減そろそろ自分一人でものを考えられるようになって欲しいとミレイは願いながらも、
諦めるかのように亜人とはどのような存在であるのかを簡潔に、そして具体的な特徴をあげながら説明してやった。
「おおミレイちゃんご名答だぜ。っつうかアビス〜、お前たまには自分一人で考えなきゃ駄目だろ? ここに来るまでずっとミレイちゃんの世話になりっぱだったんじゃねぇのか? どうだミレイちゃんよぉ?」
テンブラーのイメージしていた内容がミレイの答えたものとほぼ一致していた為か、テンブラーは
呑気に遅いペースで拍手をしながらミレイを褒める。
しかし、やはり人に頼る癖を持っているであろうアビスに気付かない事も無かったらしく、
ある意味では痛いであろう部分をテンブラーは指摘し始める。
「いやいや別に俺そこまで駄目だって訳じゃあ……ミレイ別に俺ってそこまで……」
「はいはいあんたはちょっと黙ってて。まあえっと、確かにちょっと頼りないとこはありましたけど、別にそこまで過保護じゃないと駄目だって訳でも無かったですよ? 彼もまあ一応ハンターですし、自分の事くらいは多少自分で何とか出来るはずですよ?」
アビスはまるで命乞いでもするかのようにミレイに妙な事を言わせないようにすがりつくが、
ミレイとしては別にアビスを責め立てる気は無かったらしく、無駄に近寄ってくるアビスを左手だけで押し離す。
ハンターと言う職業を上手く挟み込む事で、ここに来るまでの道のりを誤魔化すかのように、
アビスをフォローし、久々に出会った
「だ〜よなぁ、じゃあアビスもとりあえずはちゃんと頑張ってきたって訳だな。ガールフレンドも守れん男なんてなっさけねぇからな〜。アビスぅお前ちゃんと
ミレイのフォローは効果があったのかどうかは分からないが、テンブラーの様子はややその配慮を
読み取っているようにも見える。
そして、アビスとミレイは実質的には男女のペアである為、からかうような意味合いを乗せた言葉が
テンブラーの口から放たれる事となる。
「あ、いや、だだだから違うってんだろ……。別にミレイはガールフレンドとかじゃねっつの……」
「あの〜テンブラーさん。たまに勘違いされるんですけど、あたしらはただの友達で、そこまで関係行ってませんからね? ホントですよ?」
アビスは照れ隠しのように、声を詰まらせながら反論し、
ミレイは慣れた様子で一線を超えた関係には達していないと、やや力の抜けたトーンの声色で対応する。
「そっかぁ、そう言う関係かぁ、あ、そうだ、それより二人に紹介したい
――テンブラーには、同行していた少女がいたのだ――
一度テンブラーの背後に映るドアに顔を向け、ドアの奥に隠れている少女からは見えないであろうが、
手招きをしながらアビスとミレイの前に姿を見せるように施す。
―ギギィイ……
木材が
テンブラーがわざわざ招かなくても勝手に出て来れば良かったかもしれないが、
一応最初はテンブラーも警戒体勢を取っていたのだから、少女も怖かったに違いない。
半ばゆっくりと、そして恐る恐ると言った感じでドアからその姿を晒し、
ゆっくりとアビスとミレイの元へ、そしてテンブラーの隣へと姿を見せる。
「えっと、始めまして」
初めて姿を見せた少女は、アビスとミレイを見るなり多少怖がるような素振りを見せた後、
ゆっくりと頭を下げながら挨拶を交わす。
――長い青の髪が印象的な、あの時の少女だったのだ――
――水色の
――肩から二の腕の中間辺りの白い肌だけを露出させ、そしてその中間から手首までを覆う青い袖のような部分
――情熱的な赤を持つ瞳でありながら、その性格は非常に大人しげだ
「あれ? 君って確か、えっとゴンドラでなんかトラブってた――」
――その時、アビスの耳元にミレイのこそこそとした小声が入ってくる――
「アビス、あんた変な事言わないでくれる? やな事思い出させてどうすんのよ?」
アビスはその青い髪をした少女と出会った覚えがあったのだ。
フローリックと久しぶりに出会い、そして彼が紹介しようとしていた人物――それはジェイソンである――に会う為に
ゴンドラに乗ったのだが、そこでその青い髪をした少女を始めて目にしたのだ。
勿論当時は単なる他人のアクシデントとしてそのまま流していたのだが、
女達にとってはやや可哀想な光景であり、
男達にとっては欲望を満たせる光景を無意識に作り上げてしまった少女と今ここで偶然出会ったのだ。
だが、アビスは相当鈍感な少年であり、
何となくその出会った時の経路を説明しようとしてすぐにミレイからの止めの言葉が耳元に入ってきたのだ。
同じ少女同士としては、恥ずかしい思い出を呼び起こしたくないと言うのは分かるだろう。
「あ、そっかそっか、ごめん……」
アビスはそれを言われてようやく事に気付き、ミレイにしか聞こえない程度の小声で謝った。
そして、今度は少女にもはっきりと聞こえる程の音量に戻し、
ミレイは初対面――に近い――の相手に対するものとして相応しい言葉を発する。
「えっと、とりあえず、自己紹介しとこうか? あたしはミレイで、こっちがアビスよ、短い間になるけど、しばらくはネーデル、だったわね? 宜しく!」
やはり互いに名前を知っておかなければ声を掛け合う時に少し面倒な思いをするはずだ。
ミレイは自分自身と、すぐ隣にいる紫色の髪をした少年の名前を明かし、
共に行動する者同士、仲良く行くように右手を伸ばした。
「は、はい、ミレイさんですね、宜しくお願いします」
――少女らしく、トーンは高めではあるが、非常に
ミレイとこの青髪の少女は外見を見る限りはほぼ歳は近いだろうが、
それでも礼儀だけは弁えなくてはいけないと言う心構えからか、敬語で接しながら、ネーデル自身も右手を伸ばす。
ミレイとネーデルの手がそれぞれ握られる。色の白さはネーデルの方が強いが、ミレイの肌の色はアビスよりも白い。
よって、ミレイはネーデルよりも濃く、アビスより白いと言った所だ。勿論アビスもそこまで濃い訳では無く、平均的と言った所だが。
「あ、えっと、俺も、えっと、宜しくって意味で、えっと、宜しく!」
―― 一体アビスは何を考えているのか――
ミレイの行為を
半ば勝手にアビスの中でそんな決まりを作り出したのか、
アビスは文法的に
「え? えっと、アビスさんですよね? アビスさんも宜しくお願いします」
ネーデルは何故か口調がおかしくなり出したアビスに戸惑いながらも、ゆっくりとミレイから右手を離し、
そしてアビスの右手を握る。
――アビスの手には、少女のやや冷えた感触が伝わってくる――
「あ、ども!」
ゴツゴツとした感触とは完全無縁であり、その感触には恐ろしさや強さが存在しない。
寧ろ、可愛らしさとか言うよりは、優しさや静けさを想像した方が良いだろう。
だが、ミレイは……
「アビス……あんた結局それが目的だったの? 結局は男って訳ね……」
ミレイの青い瞳が一気に細くなり、アビスを隣で睨みつけながら、
ただ異性の手に触れたいと言う欲望を果たす為にわざわざ手を差し出したのかと、少しだけ呆れてしまう。
「え、あ、いやいやいやいや! んな事じゃねぇよ! ただあれだよあれ、んと、一種の挨拶だ。ってかお前だけずりぃだろ、握手なんて」
ミレイによって心の奥に隠されていたのかもしれない本性を見破られたかのように、
アビスは恥ずかしそうに声を荒げながらネーデルから乱暴に右手を引き抜き、
顔面の前で乱暴に、力強くその右手を振りながら否定を飛ばすが、最後の言葉は非常に怪しい。
「いや、最後の発言おかしくない? 別に女同士なんだからいいんじゃないの? ってかあんた最近どうしたのよ?」
一瞬、ミレイの脳裏に少女相手になると非常に騒がしくなるあの茶髪の少年が浮かび上がった。
アビスも
「あ、んと……ごめん……。ちょっと嫉妬みたいな事してたかも……」
ようやく我を取り戻したのか、アビスは返す言葉が見つからず、ただ詫びる事しか出来なかった。
だが、結局の所は何かしら男としての本性を見せてしまっていたようだ。
「所で、そろそろ喧嘩みたいな事は
何故か
流石にここで止まったままでいるのは不味いだろう。
このまま黙っていてもアーカサスの街の混乱は収まらない。
そろそろ行動に移るべきだろうと、
アビス達に質問を投げかける。
それに対して答えをあげたのは、アビスだった。
「実はさあ、俺ら酒場の方に行こうとしててさあ……」
▲ΣΩΛ▲ 緑眼が支配する二丁猛銃/VIOLET GLAMLOCK ▲ΛΩΣ▲
大衆酒場、ハンターの多くがそこをギルドと称し、ここで狩猟の為の受注を受ける訳だが、
今はもう、話が違う。いや、違い過ぎる……。
「お前なんかに自由にさせるかぁ!!!」
紫色の武具、紫凶狼鳥装備の太刀ハンターが勇敢にも、飛竜刀【
恐ろしい姿を保った
――その
「ひっひっひ……、もっと殺されに来いや……」
痙攣しながら口から血を垂れ流している深緑竜装備の男だった。
僅かに緑色を帯びた銀色のヘルムを超えてどんどん血を垂れ流しているが、バイオレットに支えられ、
無理矢理立たされている。最早死ぬ一歩手前である。
ν ギリギリまで紫凶狼鳥装備を引き付け…… ν
「はぁ!!」
――風を斬りながら、真っ直ぐに切っ先が飛んでくる!!
「当たっかよ!」
バイオレットは向かってくる切っ先を平然と横にずれて回避する。
その際に左手の短剣が引き抜かれると同時に深緑竜装備の男が床へと崩れ落ちる。
そしてそのまますぐ近くにあった木造の巨大なテーブルへと飛び乗る。
「んでとりあえずお前は死ね」
ππ 淡々とした言葉とは裏腹に……
右手に持たれている蒼の拳銃<ロウカレスHc-900>が弾丸を噴いたのだ。
攻撃を回避されてしまったハンターの顔面を弾丸が突き抜け、バイオレットの言う通りとなった。
――今の立ち位置はテーブルの上であり……――
――まるで
「ざけやがってぇ!! これでも受けろってんだぁ!!」
δ
δ 投げ飛ばされる
鎧壁竜装備の男を筆頭に、他の仲間らしき同じ装備の男達も近くにあった椅子を持ち上げ、
力強く
戦いになれば普段は武器として認識されない物でも武器に見えてしまうのだろうか。
――回転して飛んでくる椅子達
「おれにゃあ小細工通用しねぇぜ?」
無数に飛んでくる椅子の餌食にならぬよう、テーブルから飛び降り、すぐ横を椅子の何個かが通り過ぎる。
その内の一つだけがバイオレットに上手くぶつかろうとしてきたが、それは伸ばされた左足で軽く蹴り飛ばされる。
「ふん!!」
ξ 椅子に気を取られているバイオレットの背後から…… ξ
毒煙鳥装備の片手剣ハンターが
「!!」
男の気合を聞き取ったバイオレットは即座に背後を振り向き、縦のラインから僅かにずれる。
ただずれただけでは終わらせない。
そのまま……
★★
頭頂部が尖った頑丈なヘルムを装着されていたとは言え、銀色のズボンに纏われた右足による蹴りは
相当な威力だったに違いない。アキレス腱の抵抗を感じさせないその持ち上がり様は
今斬り殺そうとしてきた毒煙鳥装備の男をよろめかせるには充分過ぎる威力である。
「余所見すんじゃねぇ!!」
その野太く、力強い声は先程椅子を投げてきた鎧壁竜装備の男達だったのだ。
その内の二人は
――
――
両腕で抱えるように持ち、巨大な銃口をバイオレットの背中へと向ける。
未だにグラビモス装備の連中に気付いていないのか。
χ いざ、
―ピュウゥン!!
「はい分かりました」
――バイオレットにしては丁寧な反応を見せ……
――よろめいている毒煙鳥装備の男を弾丸の命中地点へと引っ張る……
「うぅ!!」
バイオレットの
腹部に突き刺さる銃弾の衝撃は理解出来た様子である。
腹部のに施された
「おいおい誤射かよ? 仲間狙っちゃ――」
鎧壁竜装備と言う、見るからに重たく、そして迫力を備えたガンナー達が本来狙うべき箇所を間違え、
所詮は外見だけで実際は大した実力は持っていないのかとバイオレットは鼻で笑うが、
やはり、ただで事を終わらせてはくれないようだ。
―バチン……
「あぁ?」
弾けるような小さい音が小さく響くが、それはこれからの予兆だったのだ。
φ 毒煙鳥装備の男に突き刺さった銃弾が…… φ
―ドオォン!!
―ブオォオン!!
■▲▼ 周囲をも巻き込む爆発を起こしたのである!!/SHOUTING SHOT!! ▼▲■
「けっ!」
毒煙鳥装備の男を中心に、小規模であるが、砂煙を周囲に巻き起こし、
その砂煙がバイオレットを覆い込む。
妙な小細工を仕掛けられたと思い、バイオレットは顔を右腕で覆いながら舌打ちをする。
「きゃあ!!」
付近で怖がりながら固まっていた女性ハンター、赤殻蟹装備と怪鳥亜種装備の二人が
目の前で起きた大音声及び、襲い掛かってきた砂煙に甲高い悲鳴を上げる。
ψ だが、
「やったか?」
「あれじゃああいつでも助かんねえだろう」