□◇ ◆■ 一体どう言う事だろうか……/WHAT DO? ■◆ ◇□

愚かにも、やや大人な雰囲気を混ぜた二十代前半辺りの一角獣装備を纏った女性は、
強固な武具を纏ったハンターを何人も死に追いやった灰色の皮膚の悪魔を相手に
素手で反撃を試みたのだ。

ただ、その理由が持っていたボウガン、レックスタンクを壊された為に
素手でしか挑む道が無くなったと言う説明も当てはまるのだが……







――だが、攻撃を受けたバイオレットは……――



「はぁ? お前どう言うつもりかなぁ? 武器相手に素手かぁ? お前自殺行為に走っかぁ。あ、そっか、勝てねぇって分かったからもう諦めたのか?」

バイオレットはテーブルと椅子の中から平然と立ち上がり、両手に蒼と紅の拳銃を持ったままで、
何故か素手で飛び掛ってきそうな一角獣装備の女性に狡猾な声色を浴びせる。

「そう言うお前も武器も持たない相手にそんな物騒なもので襲い掛かる気か? まさかお前、武器が無ければ何も出来ないただの臆病でもあったりするか?」

一角獣装備の女性はもしもの事に対して恐怖を覚えないのだろうか。
武器を持って素手の人間相手に襲い掛かるのはプライドが傷つく可能性もあるが、
バイオレットがそこまで奥深く考えるとも考え難い。
なのに、女性は何処か強気なのだ。

「なるほどなるほど、そこまで言われちゃあおれもブラブラハンドんならんきゃなんねぇ訳だなぁ」

バイオレットはその挑発をあっさりと飲み込み、両手に持った蒼と紅の拳銃を拳銃嚢ホルスターにしまいこむ。
彼自身、これから向かってくるであろう女性をどう思っているのだろうか。

「お前でもプライドの欠片は多少残ってたようだな」

一角獣装備の女性は口元をにやつかせ、一言飛ばす。

「おれ相手に素手でやんのはいいが、そん代わり、一撃で死ぬより、先延ばしんされて死ぬってのをお前は選んじまったんだぜ? お前、わっざわざめんどくせぇし、んでもって間違った判断しちまったんだよ。おれに素手でやってただで済むとか思ってんじゃねぇぞ?」

一体バイオレットの実力、武器を持たなかった場合はどれだけのものなのだろうか。
だが、にやにやしながら指を鳴らしている様子から、只者ただものには見えない。

「ふん、どうせここで果てるぐらいなら……、とことん喰らい付いてやる方がマシだ……。お前に一撃加えてやれればもう何も言い残す事は無い」

そこに来てこの一角獣装備の女性は、紫色の瞳を多少細め、まるでこれから来る可能性のある死に脅えるかのように、
多少口調が弱まって見えたのだが、やはりバイオレットを殴りつけられれば満足なのだろう。

「あ、そっかぁ、ハンターどもぶっ殺したおれに仕返ししてぇからわっざとそやって素手で殴りかかってきたと。それに武器同士でやったら即行お前死んじまうかんなあ。素手同士だったら流石のおれでも一撃で殺すなんて無理だしなぁ……」

突然バイオレットは一角獣装備の女性が素手を選択した理由を知った気分になる。
その灰色に染まった表情に笑みを浮かべ、武器同士ならば自分が絶対最強であると誇り、
素手を選択して死ぬまでの時間を多少強引に延ばそうと考えた女性の思考に対して納得の様子を見せつける。







「でも、殴り合いも……」

――ふと、軽く広い天井を見上げた後に……





「面白ぇじゃねぇかぁあ!!!」





――慢心の笑みを浮かべ、一角獣装備の女性へ猛突進ダッシュ!!――



「くっ!」

戦闘力を全開にしてしまった可能性があると少しだけ自分自身を恨みながらも、
何とかしてバイオレットに歯向かおうと、若干震える身体にげきを入れて両方の拳を握る力を強くする。



――伸ばされた右拳ストレート!!――



「おらよっ!!」

やや細めなバイオレットの体格に相応しく、見て避けるのは不可能に近い速度スピードで飛んでくる右拳パンチ
女性は身体をよじって避けるのでは無く、前腕を覆っているアームロング部分を上手く使い、
そこを顔面にかざす事でその猛スピードのパンチを受け止める。

「うっ!」

一応は武具である為、ある程度の衝撃は緩和かんわされたように思えたが、
それでも迫力あるパンチによって後方へ軽く押し出されると同時に両目も強く閉じられる。



「ビビっちゃった〜?」

バイオレットは余裕気に、左の拳も吠えさせて見せる。



――ぶっ飛ぶ左腕ストレート・アゲイン!!――



次こそは反撃をしようと、両腕を下ろしてしまった女性だが、それが大きな誤算ミスとなる……。

「きゃっ!!」

右の頬をほぼ直線的に受けてしまい、バイオレットの細身の身体に対して明らかに反比例している腕力によって、
まるで背中から投げ飛ばされるかのように地面へと倒れこむ。



χ 殴られた瞬間、勇気と度胸が全て失われた気にさえなった…… χ



軽い音を立てながら床へ背中から倒れる一角獣装備の女性が自力で立ち上がる様子を見せる前に
バイオレットは平然とあゆみ寄り、右手で女性の肩部けんぶ護謨護謨肩当かたあてを乱暴に掴み、立ち上がらせる。

「おいおいさっきの威勢はどうしたよ?」

右の頬に大きな痣を作った女性の顔を面白そうに眺めながらバイオレットは口元を吊り上げる。
男にしてはそこまで長身と言う訳では無いバイオレットよりもやや背の低い女性の顔は痛みで目元が引き攣っている。

「煩いんだよ!!」

男勝りな怒鳴り声を飛ばし、そして、



――右拳パンチも飛ばす!!――



「甘〜いよ? お姉さんよぉ」

――バイオレットの左手があっさりと受け止め……

「おらぁ!!」



――女性の腹部にバイオレットの右膝が入る……――



「う゛ぅ゛あ!!」

鳩尾みぞおちじ込まれた一撃により、女性は一気に苦しみに包まれ、そして
口から思わず数滴の唾を飛ばしてしまう。

「んじゃ、遊ぼうぜぇ!!」

バイオレットは自分にかかった女性の唾を気にする様子も見せず、苦しみで前屈みになる女性から
一度右手を解放し、そしてその歓声に満ちた大声と共にこれからどのように甚振ろうか考えた時だった。



――唐突に女性は顔を持ち上げ……――



「なんてね」

多少の苦しさを残しながらも、その僅かながら少女のような清楚な雰囲気も見せた顔立ちで、
わざとらしく右目を閉じてウィンクをしながら、とある大胆な行動に走る。



――素早くしゃがみ……――



――バイオレットの両脚を持ち上げる……――



「てめっ!!」

バイオレットはそのまま銀色のズボンに覆われた両脚を突然持ち上げられる事によって
身体を支えている物が突然消えたかのようの背中から床へと落ちる。

そして一角獣装備の女性はこれを機会チャンスにそのままバイオレットの上にまたぐように座り込み、
乱暴にバイオレットの首を左手で握るように押さえつけながら、背後に向かって叫ぶ。



「デイトナ! 今よ!」

一角獣装備の女性の鋭い紫色の瞳の先にいたその者は、



―初期装備装備の少女



銀色に輝く鉄鉱石製の額当ての下に大きく目立つオレンジ色のセミロングの髪を大きく揺らしながら、
そのデイトナと呼ばれた少女は首を縦に振る動作だけを見せながら出入り口へと駆け出す。

入り口には黄甲蜂装備の男性ハンターが絶命しながら倒れているが、今の少女は
そんな凄惨たる光景を気にしている時間を持っていないだろう。

「お前逃がそうとか企んで……!」

バイオレットは背中を床に打ちつけた事に対してはほぼ微塵も痛がる様子を見せ付けなかったが、
その後の一角獣装備の女性の行動が彼の声を詰まらせる。



――首を絞められたのだ……――



決してゴツゴツとした雰囲気では無く、一角獣特有の柔らかさの混ぜたアームロングに包まれた両手が
バイオレットの太めな首を容赦無く締め付ける。

これならば速度スピードパワーを持つバイオレットに勝てるかもしれないと一角獣装備の女性は感じたのだろう。

「人殺しを遊びのように考えてるあんたはハッキリ言って異常だよ! 絶対ただじゃあ返さないか――」



――いきなり伸ばされたバイオレットの左手……――



「う!!」

自分の蟀谷こめかみを非常に強い力で握られ、折角のバイオレットを絞める力が弱まりかけるも、
こんな所で負けていられないのだから、痛みを堪え、絞め続ける。



――自分は両手、相手バイオレットは片手だから、きっと、勝算はあるだろう――



「おれにとっちゃあ遊びじゃねんだよ。正当防衛なんだぜ?」

涼しげな表情でバイオレットはそのまま一角獣装備の女性から手を離さず、
苦しげな様子も見せずにただ自分の言いたい事をそのまま口に出す。

「とりあえずお前は……」



――握る力が一気に爆発し……――



「お仕置きだ!!」
「うあぁあああああ!!!!」

ただでさえ非常に強かった握力が更に強まり、とうとう女性の両手の力が失われ、
重さを感じさせるが、やはり高ぶってしまっている悲鳴を飛ばしながら
バイオレットの手首へと両手を移す。



「んで持って次はこうだ!!」

バイオレットは未だに一角獣装備の女性に跨られたままだった自分の身体を強引に立ち上がらせ、
首元を右手だけで鷲掴みにしながら余興を思わせる声を大きく発する。



――上部に半円を描くように持ち上げ……――



すぐバイオレットの背後に設置されているテーブルの上目掛けて頭部付近から落ちるように叩き落す。

「がぁっ!!」

背中最上部に走る鈍痛が一角獣装備の女性に鈍い悲鳴をあげさせる。いくら武具とは言え、
衝撃そのものは吸収し切れないのだろう。

「まぁだ終わりじゃねぇぜぇ?」

鈍痛により硬直している女性の配慮をせずにバイオレットは自分に頭を向けてテーブルの上で仰向けに固まっている女性の
横に飛び乗り、頭部の武具の白毛の部分を乱暴に掴んで立たせ、そして、



「楽しませろやぁ!!」



――酒場の中央に落とすように中段踵蹴りミドルキックを横腹に浴びせる!!――



「うっ!!」

脚力も馬鹿に出来るものでは無く、その力に逆らう事も出来ずに女性はそのままテーブルから落ち、
武具に覆われていない横腹を蹴られた痛みで綺麗な着地は叶わず、身体の横から落ちる形で床へ落下する。



「よっと、おいおい早く立てよ? もっと楽しませてくれや」

一方、バイオレットは攻撃らしい攻撃を受けていない事もあってか、しっかりと足の裏で床に飛び降りる。
生き残ったハンター達のそわそわとした視線をまるで気にせず、左手で手招きをする。

「そう……だよね、言い出しといたわたしが負けてたら恥ずかしい……」

それでもやはり身体に走る激痛には逆らえないのか、ややよろよろとしながら立ち上がり、
痣の出来た顔でバイオレットを睨みつけながら擦り傷がやや目立つ両腕を持ち上げ……



「からねぇ!!」



――走り込み、右手を飛ばす!!――



握られた右手が真っ直ぐと、構えも取っていないバイオレットへと跳び、奴のパンチにも負けない程の速度を誇るそれが
見事なまでにバイオレットの顔面へと飛んでいく。

「へっ!」

だが、バイオレットには当たらなかった。鼻で短く、大きな音で笑いながら最小限の動きで
喰らえば単純に考えて痛いであろう女性のパンチを回避する。



「ふっ!!」

――二発目セカンド!! 左手が飛ばされる!――


だが、またもや避けられる。今度はしゃがみ回避ダッキングかわされてしまったのだ。
それでも一角獣装備の女性は諦めず、再び右手に力を込める。



――それは偶然か、実力か――



――遂にバイオレットに命中ヒットした……――



バイオレットの灰色の細身ながらも見事に割れた腹筋に一角獣装備の女性の右の拳が下から突き上げるように減り込み、
攻撃を受けてしまった方は僅かに眼を動揺させている。

「決まったね……」

バイオレットは動揺、女性は勝機に満ちた強い笑顔を浮かべ、そして女性は減り込ませたまま、一言飛ばす。



「……へっ、アホかお前!!」

θ θ その瞬間伸ばされた男の右腕

「うぐっ!!」

一角獣装備の女性の笑顔は一瞬で砕かれる。やや白い頬を破壊的な力で殴られ、
すぐに気持ちを切り替え、倒れてしまわないようにと、脚でバランスを取り直す。



「おれに勝てっと……」



――右足を首筋目掛けて横から飛ばす!!――



「!!」

ほぼ一撃必殺に等しい蹴撃しゅうげきを両腕に全神経を集中させて受け流し、
何とか凌ぐが、それで一角獣装備の女性に対する攻撃が終わったとは言えない。



「思うんじゃねぇぞ!!」



――同じく右足を使った前蹴り!!――



僅かに横を向ける体勢になり、そのまま胸元を蹴り飛ばす。
一応は胸元を両腕を盾のようにしたのだから直接打撃を受ける事は無かったが、
バイオレットの力によってそのまま押し出される。



「痛っ!!」

女性の背後にはテーブルが設置されており、そこのふち臀部しりをぶつけ、
テーブルの上に背中から倒れそうになるが、何とか耐え切った。



「逃がさねぇぜぇ?」

バイオレットは呼吸を荒くしている一角獣装備の女性に、まるで誘拐犯のように不気味に笑みを浮かべ、
右手で胸倉部分に当たる護謨ゴム質のベストを掴み、そのまま酒場の中央部へと……



――投げ飛ばす!!――



「おぉらぁよぉっとぉ!!」

女性とは言え、人間としての重量はしっかりと誇るその身体を片手で投げ飛ばす怪力もどうかとは思うが、
投げられた側としては洒落にならない痛撃を身体で受け止める事となった。



――テーブルの上を滑り……

――やがてそこから落ち……



「うあぁあ!!」



――別のテーブルと椅子に上半身を強打し、椅子を吹き飛ばし、テーブルによって直接乱暴に止められる……



「どうだ? お前の決断がいかに誤ってたかってのが分かったろ? まだ直接殺したりはしねぇけど、ひひひ……」

バイオレットは背中を打ち付けて苦痛に堪えながら両目を強く閉じて両膝を曲げた状態で座ったままでいる
一角獣装備の女性に彼女の取った行動が救いの道になるとは限らない事を忠告しながら歩み寄る。



――そしてバイオレットは女性と同じ目線にする為に右膝を立ててしゃがみ……――



わざとらしい声で笑いながら、バイオレットは両手を女性の両肩の上に優しく乗せる。

「何……する気だ……」

激痛と、疲労で呼吸を乱しながら、紫色の左目だけを震わせながら開き、その優しさが何を意味するのかを訊ねる。
痛みさえ無ければすぐに殴りかかっていたのかもしれないが。

「おれの……趣味、だぜ?」






――その後……――






πσβ 両手の力量パワー最大の領域エンドレスボルテージへ…… βσπ

「うぅうう!!」

一角獣装備の女性のやや細い肩が上半身のベスト越しに、まるで肩を握り潰されるのでは無いかと言う程の力で
非常に強く握られ、半ば無理矢理悲鳴をあげさせられる。

「仕事柄んなぁあ!!」



▲▲▲ いざ、発動/INVOCATION ▲▲▲



――女性はそのまま持ち上げられ……――



両肩を掴まれ、そのまま空中へと上げられ、向かいのテーブルへと落とされる。
女性の落下中にバイオレットは素早く掴んでいた箇所を首へと移し、右腕だけ落下させる。

「うあぁ!!」

テーブルの上に鈍い轟音を響かせ、上半身の直撃に続いて、遅れて両足が無造作にテーブルへと落ちる。

「まぁだだよぉ?」

ヘラヘラとした態度を見せ、バイオレットは右腕で再び女性の首を乱暴に鷲掴わしづかみにする。
倒れていようがバイオレットにとっては全く無関係だ。

「おらぁあ!!」



――テーブルから乱暴に引きり下ろし……――



狙いは向かいのテーブルであり、そこを目掛けて女性を力尽ちからずくで強打させる。

「きゃあ!!」

年齢的には大人の部類に入っていても、悲鳴と、それを表す文字は実に可愛いものであるようだ。
背中の一点に集中する激痛に、端から血を流した口を大きく開きながら叫ぶ。

「まだだぜ?」



――左手で首を掴んで乱暴に持ち上げ……――



「うぅ!」

首を掴まれ、呼吸を妨げられる事によって声にならない悲鳴をあげるが、
やはり流れを見る限り、これが痛みから逃れる理由にはならない。

持ち上げてすぐにバイオレットは宣告の言葉を浴びせる。

「そのちょい可愛い顔、いじくってやっぜ……」

年齢の割に僅かながら少女らしさをチラつかせている一角獣装備の女性の苦しむ顔を眺めながら
バイオレットはこの後に何を実行しようか、思いついたのだ。

一角獣装備と言う、女性の魅力を沸き立たせる外見的要素が女性の容姿に対する評価に
拍車をかけていたのかもしれないが。

そして、無言で……



――向かいのテーブルに顔の側面を押し付ける!!――



「うぐっ!!」

右手で女性の左頬をテーブル目掛けて重力に従って落とし、顔の右面をテーブルに激突させる。

硬質の木材にぶつけられ、秀麗な容姿が激痛で歪む。それでもバイオレットの右手が離れる事は無く、
女性にとって一番傷付けられたくない部分に違い無い顔に更に悲劇が走る。

「細工仕掛けてやっぜ?」

バイオレットは右手に伝わる女性の軟質で下手をすれば癖になる危険のある
その頬の感触にはまるで気にもかけず、テーブルに押し付けたままで……



――擦り付けるスクレイプ……――



「うあぁああ!!」

テーブルはそこまでザラザラとしている訳では無いが、バイオレットの腕力で擦られれば
確実に傷が付くであろう。
女性はその痛み――物理的なものと、精神的なものの両方――に叫ぶが、バイオレットは楽しそうな顔をしている。

「どうせお前は助かんねえんだ。気にすんな」

無責任な台詞を飛ばしながら、二度、三度と、前後にその女性の顔を動かす。



――だが、ここに来て女性は……――



ある意味では女性の命とも言えるであろう顔を単刀直入に、ピンポイントに傷付けられる事により、
心の中では勇気と、鬱憤うっぷんが混ざった感情が今表に浮かび上がろうとしていた。

「えぇい……!!」



――強引に、女性はテーブルとバイオレットの右手の間から顔を引き抜き……――



「今度はなん……」

バイオレットにとって、一角獣装備の女性がどんな風に襲ってこようが、怖くもなんとも無いのだろう。
一体何をしてくるのか、表情を映さない顔で眼を細めるが、



「はぁああ!!」



――一角獣装備の女性のパンチ!!――



「!!」

バイオレットにしては珍しく、一瞬だけ恐怖を覚え、素早く顔面へ飛んでくる右拳を左手で受け止める。

だが、女性の方も怒りが収まる事は無かった。

「よくも傷付けてくれたなぁ!!」

やはり、顔を傷付けられた事に対しての怒りだったようである。
女性はこの台詞の間に、続いて二発目、三発目のパンチを両腕交互に飛ばしていたのだ。

「やぁりゃあ出来んじゃねぇか」

それでもバイオレットに直接命中する事は叶わず、全て手と腕の巧みな動きによって回避されている。
本当の意味で本気になってもバイオレットには簡単には命中しないようである。

「黙れ!! この化けもん野郎!!」



――バイオレットの顔面目掛けて横蹴りを放つ!!――



関節部分を拘束しない一角獣装備により、しっかりと右脚が持ち上がり、敵対者の顔面を
下から突き飛ばすかのように攻撃が飛ばされるが、無駄だった。

「はいはい化けもんねぇ」

後方に身を反らし、亜人である自分がいかに目の前の怒りを武器にした女性から軽蔑されているのかを
特に気にする様子も無しに反応する。

「はぁあ!!!」



――続いて、後ろ回し蹴り!!――



素早く腰を捻り、そのまま脚部、股関節に力を乗せ、速度を持った左足を横から殴り飛ばすかのように力強く飛ばす。

「だから無理だって。やめとけ」

踵から顔の側面目掛けて飛んでくる女性の左脚をバイオレットは左腕だけで容易く受け止め、
女性では決して自分には勝てないと忠告を淡々と飛ばす。

「どうした!? 手が止まって――」

バイオレットの攻撃がまるで迫ってこなかった為に、女性は紫色の瞳の先端を尖らせ、
怒りに力を溢れさせた状態のまま、まるでバイオレットを挑発するかのような台詞を飛ばそうとしたが、



――その時だ――











「う゛ぅ゛!!」

――この時、女性は……――

自分の中で、時間が停止したような錯覚に包まれた。
周囲のざわめきも、自分自身が生んでいた風斬音も、受け止められた時の弾ける音も。
それら全てが一瞬で消し飛び、今のこの状態で時間と共に固められてしまったかのような錯覚に包まれる……。



――手刀しゅとうが女性の細い首へ突き刺さり……――



バイオレットの瞬間的に伸ばされた右手が残酷なまでに、正確に、真っ直ぐに
まさに今度こそ拳をぶつけてこようとしていた一角獣装備の女性の首を突き刺したのだ。

◆◆ 地獄突き/HELL SHOT ◆◆



「だから言ったろ? やめとけって」

自分自身バイオレットの手刀を未だに女性の首へ刺したまま、面白い漫才でも見たかのような
笑いを浮かべた表情で、殴り飛ばす為に持ち上げていた右腕を下ろす様子も見せずに固まっている女性の顔を凝視する。

よく見れば……



――涙なんか流している――



首に鋭い一撃を受け、激痛によって反射的に流れたものであるが、それでも尖った目尻めじりは崩れる様子を見せない。

「お前がそこまで本気でやられてぇってんなら、半殺しにしてやっぜ? っつうかお前、ハンターなんかやってるって事はどうせ中退でもしたんだろ? 勉強めんどいからってこんな原始人的野蛮業に就くとはなあ」

恐らくバイオレットは、首の正面に非常に重たい一撃を受けながらも負けじと立ち続け、そして視線も鋭さを保ったままの
一角獣装備の女性の威勢の良さと、諦めの悪さに対してこの台詞を選択したに違いない。
そして今気付いたのか、ハンター業に就いたその理由を半ば勝手に考え始める。



ρ はっきり言えば、危険な宣告ヴィラレントフィストである…… σ



だが、女性の方は……

「悪いが……こっちは国立大学卒業済みだ!!」

ようやく戦意を取り戻したのか、高学歴である事を伝え、目元には透明な涙を残しながらも、



――今度こそ右拳パンチを高速で飛ばすが……――







男への命中は叶う事は無かったのだ。

女性のパンチがバイオレットへ届く前に……



α 超速の左手による殴撃マッハ・レフトパンチ!! α

「うげっ!!」

女性の右頬へ飛ばされたバイオレットの左腕により、根性だけでは耐えられないその威力に、
女性は後方へとそのまま押し出されるが、終わりはまだまだである。

「マァジかぁ? じゃああんな糞めんどくせぇ卒論も完成させたって訳かぁ!! じゃあおれからの祝いに生き地獄見せてやっからなぁ!!!」



β 大きく開く、血に飢えた緑眼アミューズメントクロー!! β

紫色に毒々しく染まった舌で唇を舐めながら、その威勢の高ぶった声によって
何とかバイオレットに向きなおした女性目がけて走り寄る。

γ そして、近距離へニアーサイド!! γ



――突撃する右腕!!――



――だが、女性は両腕で顔面を守るガード!!――



女性の判断は正しいものだった。バイオレットのパンチを受ければただでは済まない。
一応両腕に纏ったアームロングは武具として、盾として防いでくれるのだ。

しかし、その後ろでの女性の顔は、目を強く閉じ、歯を強く食いしばっている。
最早、ここに来て怖がっている可能性が高い。
高学歴である事を誇ったものの、やはり実戦になるとあまり関係無い要素になるのだろう。

「ど〜したぁ!! 殴りかかって来いやぁ!!」



――眼をつけたのは、肌の露出した腹部である……――



色白いろじろで、そして魅力的な細さくびれ見惚みとれる様子も見せず、下から右拳を突き上げ、
そして次はとりあえず殴ればいいと言う考案からか、



――胸部を左拳で殴り飛ばす!!――



一角獣の皮で作られた胸当てがあるとは言え、バイオレットの攻撃はほぼ防ぎ切れていないようにも見える。
多少かざしていた両腕が下がりそうになるが、それでも女性は必死に耐えている。

そろそろ腕以外の部分も使った攻撃をしてもいいだろうと一瞬バイオレットの中で浮かび、
それを手早く実行する。

「どした? 終わりかぁ!?」



――しなる右足!!――



「うぁ!!」

一角獣装備の女性の肩口へと飛び、横からの力に耐えられなかった女性は鈍痛の悲鳴を上げながら、
横に設置されていたテーブルへ激突し、そのまま上半身だけテーブルの上に乗る体勢を取らされる。



すぐに両手を使って上体を持ち上げ、立ち上がろうとするが……



――横に現れるあの男……――



テーブルの上に左足をまるで大きくまたぐように乗せ、まじまじと苦しむ女性の背中を見つめている。

「へっ、こうしてくれるわ」



――右手が、女性の頭を掴み……――



「おらぁ!!」
「うあぁ!!」

顔面をテーブルに押し付けられかけた為に、女性は咄嗟に顔を左へ向けるも、それでも衝撃を無視する事は出来ない。

一時いっときも安心出来る時間を与えないようにと、
女性の背中のベストを右手で掴み、テーブルの上へ完全に引っ張り上げる動作と、右足を床からテーブルの上へ持ち上げる動作を同時に行い、そして……



――そのまま女性の臀部でんぶを蹴り飛ばす!!――



テーブルから突き落とし、落下による打撃を提供しようと考えたに違いない。
両手と膝で身体を支えた状態の女性に対し、乱暴に臀部しりを蹴り、
そしてそのまま顔から地面へと落下させる。

「うっ!!」

最早、性的な個所デリケートゾーンとか考えている余裕は与えられない。
顔面から高低差のある床に落とされるのだから、両腕で保護しなければいけない。

「おらおらぁ、さっさと立てや無駄な根性野郎がよぉ!!」

バイオレットは、既に体力的にも限界が来ており、そして露出した太腿や腹部、そして二の腕に
大小様々な擦り傷、切り傷、打撲を負った女性を、左足を引っ掛けて無理矢理立ち上がらせ、
前後左右あらゆる箇所に椅子やテーブルの設置されたこの場所で再び女性に地獄を見せつける。

「そんじゃ、おれの卒論テーマは、お前がおれの攻撃にどんだけ耐えれるか……にしてみっかぁ」

未だにそんな事にこだわりながら、事を始めるのだ。バイオレットは。





■★■ 生き地獄/ALIVE IN DEAD ■☆■

ここから先は、相手が女性だからと言ってまるで容赦の見せない地獄が始まる。
男性でも耐えられるかどうかと疑いたくなるような光景シーンである。

弱り切り、それでも尚何とかして痺れるであろう両腕で何とか顔だけでも防ごうと、
まだ身体が動く事を自分に言い聞かせながら両腕を持ち上げるが、
灰色の亜人バイオレットはそれで通用する男では無いのだ。

容赦無く殴り飛ばし、顔や胴体を遠慮無しに狙い、体格に反比例した力によって
吹き飛ばされ、それで何度も椅子を吹き飛ばし、そしてテーブルに激突する。
その激突によっても身体に傷をつけていく。

もう既に顔の痣や擦り傷によって垂れた血は勿論、腹部や太腿の傷や痣も酷いものである。
一角獣の武具に纏われている部分もその裏では確実に鈍痛による被害をこうむっているに違いない。

そして、打撃に耐えられず倒れたものならば、強引に引っ張られ、立たされる。
そこからまた新たな惨劇を見せつけられる。

もう女性側には反撃するだけの力が残されておらず、紫色の瞳に涙なんかをにじませながら、
どうすればこの状況から抜け出せるかをまだ動く頭の中で模索もさくするが、体力がそれをこばんでくれる。

他のハンター達はただその打撃と凄惨、この二つに塗れた光景に手出しする事は出来なかった。
ボウガンで援護しようものなら、誤って一角獣装備の女性に誤射してしまう危険もあるし、
近距離で挑もうにも、咄嗟に女性を盾にされてしまっては意味が無い。

更に一角獣装備の女性にとっては悲しい事に、下半身に纏っている腰巻が、
バイオレットの攻撃によって激しく揺さぶられる女性の動きに付いていけず、
所謂いわゆる服の一種であるスカートの中のあれ・・と同じ認識をされているであろうあれ・・
容赦も無しに周囲に曝け出されてしまっているが、当の本人は意識する余裕すら貰えない。

周囲に響くのは、バイオレットの笑い声と、女性の悲鳴だったのだが、
やがて、攻撃を受け続けていく過程で、とうとう悲鳴すら響かなくなる。

飛ばされる拳や、足が女性をとことん追い詰めているのだ。体力もそろそろ底を突いてしまうしまう事だろう。





「ふはははは!!!」

笑い声を発していても、威力はまるで失われない右ストレートが痣だらけの女性の顔を狙い打つ。

「!!」

涙を滲ませながらも、呼吸を荒げ、そしてやや前のめりになりながらも立ち続けている女性の顔が
横殴りにされ、男の力に逆らい切れず、そのまま上手い具合にテーブル等に激突もせず、
床に向かって背中から倒れこむ。

―バン!!

「うぅ!!」

女性は背中から床に落ち、音を立てると同時に絞り出すような呻き声に近い悲鳴を飛ばしながら硬直する。



「あぁりゃりゃ、マジで死にそうじゃねぇか。でも心配すんな。本気で殺す気なんてねぇからよ」

さっきまでは今のように倒れていようが無理矢理立ち上がらせていたと言うのに、
今の状態になってようやく激動させていた手足を止め、見下ろしながら女性に向かって吐く。

ただ、バイオレットには呼吸の乱れや汗がまるで見えない事から、疲労が動きを止めた理由にはならない。

「はぁ……、はぁ……」

全身に鋭く突き刺さる激痛によって、まるで呼吸する事さえ邪魔されているかのような聞こえ方だ。
極度の疲労により、胸が大きく膨らんだりしぼんだりするのが外から見ても分かるが、
未だに目元に浮かんだ涙、そして口の端から垂れる真赤な血が見ていて痛々しくなる。

「ってか女でもおれのこんだけの攻撃耐えれっ訳かぁ。ハンターって頑丈なんだなぁ。テーマんしたのぜってぇ間違いじゃねぇやこりゃあ」

バイオレットは結局は崩れてしまった相手とは言え、それでも自分自身の攻撃を受けても息絶えずに堪えてきた
目の前の一角獣装備の女性に関心を覚えながら、ゆっくりと近寄っていく。



――女性の耳に届く嫌な足音――



まともに悲鳴すら上げられない程に殴られ、蹴られ、そして飛ばされた先にあるテーブルによって二次的打撃を受け、
そしてそんな極限の苦しみの中でも容赦無しに体力を奪われる。

武具なんか纏っていても、一角獣装備のような、動きやすさを重視した露出度の高い装備ならば、
殆ど私服と変わらない部分があるのかもしれない。
最も、運良く武具で覆われていた部分を狙われたとしても、何度も強い衝撃を受けていては
その裏にある身体の一部が無傷で済むはずも無いが。

喉の奥が焼けるようなくるしみに襲われ、そして熱の蓄積した全身から汗が吹き出し、極限の体力低下によって、力を込める事も出来ない。
一瞬、このまま無抵抗に殴られ続けるくらいならば、さっさと殺されてしまった方がいいかもしれないと
頭の中で思い浮かべている間に、もう間近にまであの男・・・が近寄ってきた。



「まあとりあえず立てやあ」

またバイオレットは強引に立たせようと考えたのだろう。
だが、その掴む場所が非常に問題のある部分だったのだ。



――細い首を右手で鷲掴わしづかみにされ……――



「う゛え゛ぇ゛!!」

ただでさえ呼吸が苦しいと言うのに、首を乱暴に掴まれてはその苦しさに更に追い打ちをかける事となる。
掴まれただけならまだ良かっただろう。

だが、良い事ばかりがこの酒場の空間に流れるとは到底考えられる話では無い。



――そのまま女性は身体を持ち上げられ……――



「あ゛がっ……!!」

ほぼ軽々と女性の身体を右手一本だけで宙へと持ち上げ、再び苦しさが支配する呻き声を女性に強引にあげさせる。

「そう言えばお前さっき女一人逃がしてたよなぁ? 何たくらんでんだ? あぁ?」

バイオレットは今までこの酒場で惨殺したハンター達の真赤な返り血を顔や漆黒のロングコートに付着させたまま、
遥か自分より上部に目線のある女性に質問を投げかける。

だが、返答は無い。いや、返せるはずが無い。首を握られて平然と喋る方が無理である。

「それともおれん事ぶっちめっ為にわざわざ呼びに行かせたってか? キーパーソン的な、奴をよぉ」

やはりバイオレットも分かっているのだろうか。質問をした所で、首を掴まれている女性が男の望む通りの対応をしてくれるとは考えられないだろう。
ただでさえ傷だらけだと言うのに、首まで締め上げては確実に返答をさせるのは不可能だ。

だから、バイオレットは半ば自分だけの推測で話を進める事にしたのである。

きっと自分自身バイオレットに勝てるだけの力を持った誰かを連れて戻ってくるのだろうと、考えてみるが、
それによって倒される恐怖が浮かび上がってくる事は全く無い。
寧ろ、対面してみたいと思うのが殺し屋の精神である。

「けどよぉ、あいつはお前がこんな風になるの覚悟で出てったんだよなぁ? だったらカスなんか連れて来られちゃあお前の苦労台無しんなっちまっからなぁ」

あの少女を逃がす為に犠牲となった一角獣装備の女性だが、ここまで追い詰められたからには
よっぽど強い者を連れて来なければ割に合わない事になるだろう。
だが、それはあくまでもバイオレットの考えであり、女性がどう思っているかは直接は問い質せない。

「にしても他の連中はな〜にやってんだろうなぁ。女一人おれにボコられてるってのによぉ」



――そう言いながら、左手で<メイビアG-365>を取り出す――



そしてニヤニヤしながら、切り傷で出血も目立つ露出した腹部に銃口マズルを押し当てる。

今引き金を引かれれば、まるで保護されていない腹部をやられてしまうだろう。

「女守んのが男の仕事だってどっかで聞いた事あっけど、これじゃあ立場逆転なんじゃねぇ……」



――言いながら、女性の腹部から銃口マズルをずらし……――



「のかねぇ」

淡々と言い切ると同時に、銃口から一発の弾丸が発射され、女性の背後にいたバトル装備の男性ガンナーがその餌食となる。

「密かに射殺計画立てんじゃねえよ。お前もだぜ!?」

そして今度は女性の首を掴んで持ち上げたままの体勢で拳銃を背後に向け、同時に顔も後ろを向きながら、
再び銃声を酒場に響かせる。



――ゲネポス装備のガンナーを射殺する――



「一応言っとっけどなあ、不意打ちしようったっておれは分かんだぜ? 調子こいでる奴いたら、またっちまうぜ?」

バイオレットは感覚や聴覚が優れているのだろうか。周囲が自分に敵意を向けてもすぐに気付くと言う事を告知する。
今の今まで生き残ったハンター達の最後の希望なのかもしれない。



――だが、バイオレットもとある何かに気付く――



――未だに一角獣装備の女性を絞め上げたままだった……――



「あ、おっと、そろそろマジで死んじまっかあ。放してやっかあ」

流石にずっと首を絞め、尚且つ持ち上げているのだから女性側にとっては死に匹敵する負担を背負っている事だろう。
本気で殺すつもりはバイオレットには無いらしく、右腕の力を抜き、女性を落下させる。

「あうっ!!」

元々立っているだけの体力が残されていなかった身だ。だから突然落とされ、一応は足の裏から床に落ちたとは言え、
まともに着地するのは叶わず、膝を落下時の力に従って曲げ、そしてうつ伏せに崩れ落ちる。
すぐ横にバイオレットがいる事を気にする気力は残されていないのだろう。

「お前には努力賞としてだ、特別大サービスに生かしといてやっぜ。でもこんなとこいたら邪魔だかんなあ、こっから出してやっぜ」

そろそろ女性に対する暴行を切り上げ、本来の作業に戻ろうと考え、バイオレットはうつ伏せ状態で苦しそうに咳き込んでいる
一角獣装備の女性のベストの首筋を右手で持ち上げ、女性の足を引きりながら出口へと運んで行く。



――テーブルとテーブルの間を真っ直ぐに突き抜け……――



そして出入り口の目の前で流血して死に絶えているランゴスタ装備の男をバイオレットの左足が乱暴に
蹴り飛ばし、強引にその場から退かせる。

さっきまで黄甲蜂装備の男が倒れていた場所には血痕けっこんが残されていたが、男本人がいなくなったのだから、それでいいのだ。

「じゃあお前はこっから出てろ。代わりに臆病もんは全員皆殺しんしてやっからよぉ」

バイオレットは、残された者達に対する殺害宣言を下しながら、引き摺っていた女性を無理矢理立ち上がらせ、
その状態から背中を嫌みったらしく蹴って追い出そうと、右足を持ち上げる。



――だが、女性は最後の力を振り絞り……――



痣と切り傷に支配された顔をバイオレットへと向けながら、ほぼ死に際の一撃ライフ・トゥー・デスにも近い状態で、
右手を強く握り、最後の最後だけでもあらがって見せようと、顔面目がけ、
傷付きながらも力強さの垣間見えるパンチを放つ。





――だが……――





「ザコがぁあああああ!!!!」

ω 右足で顔を蹴り上げるヴァーティカルディスピアー!! ω

「ぶぇ゛あ゛ぁああ゛ああ゛!!!!」

――バイオレットの歓声と悦楽の混じった声と……

――一角獣装備の女性の、振り絞ったような悲鳴……



αα 女性の拳がバイオレットに届く前に……

αα バイオレットの右足が女性の顔に直撃……

ββ まるで頬を下から上へるように、えぐるようにぶつかり……

ββ 元々傷だらけの頬を血で更に赤く染め上げ……

ββ そして口の中でも内部出血が起こり、少量の唾と共に多量の血を噴き出させ……

γγ 完全に酒場の外へと追い出され……

γγ 身体の前部から、やや横を向いた体勢で倒れ込む

δδ 確実に、この一撃が一番おもかった……



悪足掻わるあがきは駄目だぜ? 妙な事したらお前も殺しちまうぜ?」

右手に蒼の拳銃<ロウカレスHc-900>を取り、確実に死ぬ一歩手前まで追い詰めるような蹴撃しゅうげきを受けた女性に
銃口マズルを女性の頭部へ向けながら、聞こえているかどうかも分からない脅しを付ける。

ただ、一瞬女性の太腿付近に狙いを付けていた部分を見る限り、
男として持っていて当たり前なのかもしれない欲をうっすらと感じ取る事が出来るだろう。

「さぁてと……」

バイオレットは背後にとある空気を感じながら……

「死刑再開だぜぇえええ!!!」



――両手に拳銃を構え、酒場内部へ向きなおし……――



――目の前の鎧壁竜装備のハンマーハンターを射殺する!!――











(デイ……トナ……、はや……く……)

冷たい石の地面の上で、口の端から血を流し、そして弱り切った紫色の瞳に涙を滲ませ、小さく呼吸を続けながら、
あの時逃亡させたハンターの少女を思い浮かべる。

そして、弱り切った体力で、両手を強く握る……

背後の酒場内部では笑い声や、叫び声や、悲鳴や、銃声が響いているが、気にする気力は既に……

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