―ガキィン!!



その音が何故発せられたのか、理由は一言で表現出来てしまう。



γ 銀色の剣と鶏冠とさかがぶつかり合ったのだ γ



恐らくは向かいの建物から跳躍し、毒煙鳥に襲い掛かったのだろうが、
身軽さと素早さを組み合わせた大胆な攻撃アクションと言えるだろう。

毒煙鳥の目の前を横切りながら斬りつけ、そして地面に向かって綺麗の足から着地し、
落下の衝撃を和らげる為に前転する。

そして、立ち上がりの際に両腕を一気に伸ばし、地面から飛び上がりながら再び足から綺麗に着地する。



「オレも負けてらんねぇぜぇ!!」

クリスのそのアクションにテンションが高ぶる気持ちを覚えたスキッドは、
素早く毒煙鳥の真横に回りこみ、装填していた貫通弾を鶏冠目掛けて発射する。



―ドスゥン!

火薬のやや小さな規模の爆発音と同時に鋭利な弾丸が発射される。
先程のクリスの攻撃により、毒煙鳥は軽く怯み、動きを止めてしまっており、鶏冠とさかを狙うのは難しくなかった。



δ 命中ヒット!! δ

流石は人間をおびやかす鳥竜として君臨しているだけあり、そう簡単に鶏冠とさかが破壊される事は無かったが、
その攻撃は決して無駄と言う二文字だけで終わらなかったのだ。

証拠に……



ηη ひびが見え始めたのだ

クリスの斬撃、その後に来たスキッドの射撃が原因である。



――突然の猛攻撃ブーリング……――



毒煙鳥としては、いきなりの連続攻撃に右往左往していた事だろう。
等とこの毒煙鳥の状況を説明している間に再び重たい一撃が提供プレゼントされる。

「ついでにオマケしとくぜ!!」

毒煙鳥の目の前に立っていたのは……



μμ 双角竜装備フローリックである!!



いつの間にそこにいたのだろうか、未だに攻撃体勢に戻らない毒煙鳥の真正面に立ち、
斬破刀を真上から、真下に沿って振り下ろす!!

「おらぁ!!」

本当に力を込められる機会チャンスは今を逃せば再び発見するのが難しいかもしれない。
フローリックはその機会チャンスを逃さなかったのだ。



ψψ 斬り傷ナーバスを提供する為に!! ψψ



―グアァガァアアアア!!

毒煙鳥にとっては苦痛の一言だったに違いない。

腹部から鮮血を流し、悲鳴のような鳴き声をあげながらよろめく姿を見せてくる。



「やったか!?」

フローリック自身に伝わる歯応えが彼に期待を覚えさせる。
毒煙鳥が走り出す様子も見えない為か、フローリックはややゆっくりと後退し、毒煙鳥から距離を取る。

「まだドンノーじゃね? まだスタンドしてっしな!」

隣に現れたのはジェイソンであり、上半身だけ曝け出された褐色の肌が目立つ胴体が何とも特徴的だ。
毒煙鳥はよろめいているとは言え、まだ立っており、厳密にはまだ勝ったとは表現出来ないだろう。

「待って下さい! なんか様子が変です!」

成人した男二人が毒煙鳥の様子を話し合っているその場所に、



――少女の緊迫した声が入ってくる……――



「分かってるっつの。どうせこいつキレんだろ?」

隣に現れた赤殻蟹装備の少女に対し、毒煙鳥がこの後どうなるのかを既に理解している事を
フローリックは伝える。



――毒煙鳥をよく見ると……――

α 鶏冠とさかが何やら光りだしており……



だが、毒煙鳥は頭部を下にだらしなく向けており、表情は窺い知る事が出来ない。
腹部から垂れる血液が痛々しいが、これから先は毒煙鳥が痛々しいものを提供してくるのだろうか。

その苦しむ姿の内側には、既に誰かが出した怒りを満ち溢れさせているのかもしれない。



「へっ! このままストップしててもゲームはエンドになんねぇぜ!」

毒煙鳥が行動を起こすのを待っている時間が惜しかったのだろう。
ジェイソンは両手に持った双剣に力を入れ、毒煙鳥に向かって突っ走る。

「ってジェイ……」



――フローリックの止めの言葉が入る前に……――

俯いた毒煙鳥の足元へと到着し、そのまま双剣を閃かせるのだ。
フローリックの開いた傷口を狙い、刃を突き飛ばす。



π いざ、斬撃スライシング!! π



甲虫の刃インセクトエッジは毒煙鳥の腹部の傷口に向かい、
そして、今まさに触れようとしていたのだ。



――毒煙鳥は黙ってくれない――



それが意味するのは、まさに刃が触れようとした時に放たれた鳴き声だ。

―ガァアアアアアア!!!



「ホワッツ?」

その異様な響きに、ジェイソンは結局刃を触れさせる前に腕の動きを止め、雪獅子ヘルムに覆われた顔を上へ持ち上げるが……



――毒煙鳥毒煙鳥の口元が……

――猛毒物質クリーピースプーで溢れており……

――今まさに……

――発射されようとしていたのだ



υ それが後一秒足らずで発動され…… υ



ジェイソンはその状況が意味するものを全身で感じ取り、攻撃を止めて
横へと力強く飛び込み、発動された危機パープルハザードから回避する。

「おっと!!」

自分の無謀な突撃行為に多少反省をしながら、側転で素早く毒煙鳥から距離を取る。

元立っていた場所に放たれているもの・・が地面にビチャビチャと音を立てながら放出され、
そして周囲にも飛び散っているのだ。



――その飛沫しぶきの一部が……――



「!!」

両腕を発条ばねのように伸ばして地面を飛びながら足から着地しようとしていたジェイソンに、
紫色に染まった毒々しい色の粒が跳ねたのだ。



――それに気付き、何とか腕で毒物の接触を防ぐが……――



ジェイソンの腕は雪獅子アームで護られていた為、皮膚をやられる事は無かったが、
それでも付着した部分からは煙が立ち上がる。毒性の強さがそこで映し出されている。

もし皮膚が露出した上半身にでも触れれば一大事だろう。





「ってかあんにゃろマジキレ始め――」

確かにフローリックの言うように、毒煙鳥はハンター達が一般世界で認識している
とある一種の状態に移り変わっていた。



◆◆◇ 感情:怒り アングリーコミュニケーション◇◆◆



ハンター達から幾度も傷つけられ、同時に精神的内面に潜むプライドもけがされた時に発動する
一種の感情表現である。

怒りに全身をむしばまれた飛竜はその言葉の意味ニュアンスに相応しく、
凶暴化し、破壊力も並のラインから超越する事となる。

それより、一番気になる部分としては、



――フローリックの声が途切れた理由である……――



ι 毒煙鳥の頭部が下から、真正面へと変わり…… ι

再び口の中に紫色の毒物を溜め込み、放出したのである。

τ まるで炎の息のように τ



――【紫炎の波動劇インクローチイーター】――

これは先程ジェイソンに仕掛けたものと同じタイプの攻撃手段である。

一つの塊を飛ばすのでは無く、毒の液体を滝のように放出し、それを相手に浴びせるのだ。
液体が放物線をえがき、やがて重力に引っ張られ、地面に落下する。

それはまるで、毒に染まった水鉄砲スクウィートのようである。



「うわ汚ね! こいつっ!」

多少速度はゆったりしていたものの、油断をしていれば紫色を帯びた毒々しい液体の餌食になると察知したフローリックは
直線状に飛んでくる液体の軌道から素早く外れる。

「何これ!?」

クリスも危機を感じ、持ち前の身軽さを駆使し、余裕を感じさせる程の速度で軌道から外れる。



κ やがて二人が立っていた場所に…… κ

着地した液体がビチャビチャと言う音を立てながら、周囲に飛び散る。
そして遅れて煙までもが立ち上がる。



λ 毒煙鳥の鶏冠とさかは更に激しく点滅しており…… λ

すぐ隣にいるであろうジェイソンには見向きもせず、毒煙鳥はその巨体を走らせる。

――いざ、突進ダッシュ!!



「止まれよこの野郎!!」

走り始めようとしている毒煙鳥から充分に距離を取っていたスキッドは拡散弾を装填しているグレネードボウガンに力を入れ、
毒煙鳥の思い通りにさせぬよう、照準を素早く定める。



■■ だが、装填中のこの弾・・・を使うには周囲への気配りが特に重要視され……



目を血走らせている毒煙鳥の周囲からフローリックとクリスが充分離れている事を手早く確認し、
そのまま毒煙鳥の中心に照準を定めるロック・オン!!

■■ 発射ファイア!! 拡散弾スプレットキャノン!! ◆◆

毒煙鳥が本格的に走り出すのと、スキッドの銃口グレネードボウガンから拡散弾スプレットキャノンが発射されたのはほぼ同時だ。

――重たい音、それは即ち空気を突き抜ける効果音サウンド

――だが、当たらなければこの発射は無意味と化す

――いや、それ以前に命中しなかった事を考えるのがおかしい

――そうである。現実は、命中ヒットしていたのだから!!





走り出す毒煙鳥とぶつかるように、拡散弾が衝突し、その弾から飛び散った爆薬が四方に散り、周辺の建物に僅かな被害を提供する。

街中であるにも関わらず、我が物顔で疾走する毒煙鳥の周囲には爆発による煙が立ち上がり、毒煙鳥自体を取り囲むが……



「あいつ……オレらん事も考えろや……!」

爆風こそ受けなかったが、煙の影響は僅かながらフローリックにも影響を与えていたようである。
けむたがりながら左手を乱暴にあおいでいるが、毒煙鳥からの打撃を受けなかったのは幸いだろう。



ρρ そんな事より、当の毒煙鳥は…… ρρ



―ガァアア!!

爆風による煙によって視界を奪われたのだろうか、その毒煙鳥の走りには狂いが生じ始めていたのだ。



―ガシャアン!!

―ビリリィ!!

毒煙鳥毒煙鳥は街道の両脇にある建物に身体をぶつけながら走り続けているのだ。
接触の度に建物に傷が入ったり、硝子ガラスが割れたりするものの、
建物の硬度が毒煙鳥にまさるが為に強制的に毒煙鳥を道の中央へと押し出しているのだ。

建物は不動でありながら、すり抜け行為及び、突き破りを一切許可しないのだ。



――だが、問題はスキッドだ――

今狙われているのは紛れも無くスキッドだ。
毒煙鳥が何を基準にスキッドを狙ったのかは分からないが、
兎に角今のスキッドがするべき行動は、回避、ただそれだけだ。



α 視界を遮られても、周辺にぶつかりながら接近し……

β 先程の拡散弾の爆風も無視しながら、どんどん迫ってくる……



「当たるかっつの!!」

左右に揺さ振られながら走り寄ってくる毒煙鳥をしっかりとギザミヘルムの裏に映る緑色の目で捉えながら、
スキッドは毒煙鳥との接触を回避する。



――灰色の巨体がスキッドの横を通り抜ける……――

左右にずれながら突進してきていたのだから、軌道を読む事に多少の苦しみがあったものの、
それでもスキッドはハンターとしての実力を持つのだから、巨体に振り回される毒煙鳥に対して見事に対応してみせる。





――ヨケラレタカ……――

きっと毒煙鳥はそんな事を思っているに違いない。

折角の機会チャンスを逃してしまったから、すぐにこの走り続けている身体を止めなければ
連中どもハンター達に攻撃の隙を与えてしまう。

だからこそ、



ψ 文字通り、足を止めたのだ ψ

背後にいるのは例の四人であるが、背中を向けていたままではまともに戦うのは難しい。
ここは素直に体勢を変える必要性がある。



▲△ だが、毒煙鳥の精神は正常ノーマルでは無い…… △▲

普通に、ゆっくりと方向転換ターンをしても、相手には緊張感や恐怖を与えられない。
ならば、力強く、威圧的にやってみるに限る。



本当に力強く体勢を180°回転させ……

δ 尻尾を大きくしならせる!! δ

遠心力を得たゴム質の尻尾が大きく伸び、隣の建物に強く叩き付けられる。

―バシッ!!

短く、それでも強く響く音と共に木造の壁にひびが入り、まるでハンター達を威嚇しているようにも
見えなくも無い。



◆◆ さて、方向転換ターンは終わった。次は、攻撃準備スタンバイだ ◆◆

夜空が支配するこの地でも、毒煙鳥の眼は破壊対象を正確に捉える事が出来る。
距離のある奴から狙うのも面白い。



―ガァアアア!!

全身に力を込め、毒煙鳥は前方に向かって自分自身を突撃させる。小さく羽ばたきながら。

ππ その先にあるものは……



「けっ! 戻って来やがったか!」

狙われたのはフローリックだったようだ。

毒煙鳥は前方に向かって山形やまなりに跳び、着地様に嘴を地面目掛けて落としたのだ。
もし黙って立ってもらえていれば、確実に命中したが、そうは行かなかったようだ。



χ 横に跳んで回避したのだから…… χ

「でももう終わりだろ!?」

横にずれたフローリックは、頭部を持ち上げている最中の毒煙鳥の脚部を狙い、
斬破刀を突きつける。



――切っ先が毒煙鳥の脚部にぶつかる!――

それでも多少傷が入った程度であり、内部破壊には至らない。



θθ 再び毒煙鳥の殺意マーダラスフォームはフローリックへと向けられるが……



「へっ! ポイズン野郎め! アンガー状態なんかになりやがってテンションもイラプションだってか?」

相棒フローリックを狙う毒煙鳥に向かって、ジェイソンは装備している双剣<インセクトオーダー>の
右に持った刃の切っ先を、腕を伸ばして向けながら、語りかける。

毒煙鳥は確実に聞いているとは思えないが、まだ続きがあるようにも見える。

「そんなハードなお前に見せてやっぜ……」



◆◇◆ そう、双剣使いデュアルブレイダーが持つとされるあの…… ◆◇◆



「鬼人化ってやつをなぁ!!」

――両腕を天に向かって伸ばし

――同時にそれぞれの剣を

――身体の横を斬るように、それぞれ下へ向かって振り下ろす!!

――そして、いざ……



δγφ 鬼人化/DEVILISH PHYSIOGNOMY φγδ

双剣を扱うハンターが時折見せるとささやかれている謎の状態異常カースディシーズ

潜在的な戦闘力が引きり出され、力が全身にみなぎるとされている。
他にも、痛覚神経も麻痺し、微小な相手の攻撃ならば気にもならないとされており、
敵対する相手のみが眼中に映ると、ハンター業の世界では噂されているのだ。

そして、その代償コストとして、体力の消耗が非常に早くなってしまうとも噂されているが……



勿論ジェイソンの周囲に赤みを帯びたオーラが放たれたり、剣が光り出す事も無い。
あくまでもこれはジェイソンの気持ちと、その言葉・・・・が内側に持つ強さの問題だろう。



ジェイソンはそのまま毒煙鳥の背後へと直進し、一対の翼の間目掛けて跳躍する。

οο そして飛び乗るなり…… οο

「ウルティメイトな刺激、オファーしてやっからよ……」

ジェイソンの右腕が背中の後ろへと動かされ、右手に持たれた刃の切っ先が
しっかりと毒煙鳥の背中のゴム質の皮膚を捉え……



「レッツプレイ!!」

γγ 右手の刃が背中に突き立てられる!!



――ガァアアアアア!!

毒煙鳥は背中に伝わった痛みに耐え切れず、叫びながら体勢を低め出すが、それでも
ジェイソンは攻撃を止めず、次の攻撃に迅速に入る。

「おらよっ!!」

γγ 続いて、左手の刃も発動する!!



片方の手が毒煙鳥の背中へ向かうと同時に、もう片方の腕がジェイソンの後ろへと持ち上げられる。
まるで連続で突き刺すような動作を何度も、そして敏捷びんしょうに実行する。

αα 刃が刺されば周辺に血液が飛び散り……

αα それでも尚、ジェイソンの腕は止まる事を知らず……

αα 毒煙鳥の痛覚もより敏感になっていく……



「なかなかだぜ、ジェイソン」

暴れる毒煙鳥から距離を取り、翼の横からうっすらと見えるジェイソンの姿を確認しながら、
双角竜の武具で身を固めたフローリックは呟く。



――事実上、毒煙鳥は攻撃体勢には戻れない状態……――



だが、毒煙鳥は諦めている訳では無い。背後に走る痛みを払い除けるべく、身体を捻り、
そしてそのまま灰色の巨体を、背後に映る建物目掛けて後退バックさせる。

σσ 背中をぶつけて押し潰せたら好都合だ!

σσ だが、後退は下手であるらしく、前進に比べると大分だいぶ遅い



「そろそろタイムオーバーだな……」

巧みに背中の上を保ちながらジェイソンは刺撃を続けていたが、後退を続けられてしまえば、
建物と毒煙鳥の背中に挟まれる事になる。

それだけは避けたい、そんな意味が言葉には込められているはずだ。

「あばよ!」

徐々に建物へ近づき、ジェイソンの目の前には偶然なのか、屋根の出っ張った建造物があり、
そこを目掛けて一気に跳躍で登り詰める。

その場所は人間一人なら立つくらいならどうと言う事が無い空間スペースを持ってくれている。



ξ その場所は ξ

ξ 毒煙鳥の頭と同じ高さ…… ξ



―ガァア……

毒煙鳥は目を真っ赤に血走らせたその顔を背後へと向け、ジェイソンと向かい合う。
毒煙鳥の首が見事にねじれているが、鳥竜だからと言って硬質だとは言い切れないのだろう。

「へっ……なかなかのフェイス持ってんじゃ――」

ジェイソンは向かい合った毒煙鳥に対して雪獅子ヘルムで隠れた口元をにやつかせ、
意気込みの良さを褒めるも……



――毒煙鳥は口を開き……――

◇◇ 毒を溜めチャージ……

◆◇ それを一秒とかけずにノー・タイム ノー・ユーズレス……



――■□■ 毒液発射!!/SERIOUS LIQUID!! ■□■――

「サドゥンリーか!!」



―ぶわぁあああああ!!

ジェイソンの立ち位置目掛けて毒の液体が吐き出される。水鉄砲のように。

ジェイソンは突然の出来事に驚きながらも、その場から一気に走り出す。屋根に沿って、横に向かって。
鉄で補強されているのか、足元からは堅い物同士がぶつかり合うような音が絶え間無く響く。



――そして、逃げるジェイソンを毒煙鳥は……――

顔の向きをジェイソンへと訂正し始める。それでもジェイソンの速度には追いつかず。
だが、それでもジェイソンの背後から凶悪な瘴気ヴェノムエッジが迫っているとして認識しても間違いでは無い。



「ダイブ決定だな……」

上半身に何も纏っていないそのスタイルの恩恵なのか、鈍重なイメージの強いハンターの武具を纏っていても
まるでスポーツ選手のような速度で駆け抜けるジェイソンだが、その背後に伝わる毒気におぞましさを覚えたのだろう、
屋根の下へ飛び込まなければいけない状況を考え、そして、実行に入る。



――屋根から飛び降りる!!――



伸ばした両腕から地面へと向かうように飛び込み、軌道を変えつつ迫ってくる毒鉄砲を回避する。
ジェイソンの背後では再び激しく液体が飛び散るような音が響き渡る。



▲▲ 落下地点は……/FALL POINT ▲▲

何か意味があったのか、大量に積まれた木箱があり、そこを咄嗟にジェイソンは落下地点に選択した。
他の場所はまともな場所が無かった上、選んでいる暇も無かった為、その積み場は偶然だったと言える。



―ガシャシャアン!!

―ガラガラァ!!

大量の木箱に向かって飛び降りた為、落下の際に山が崩れ、木箱同士がぶつかり合い、激しい音を立てる。
直接ジェイソンと真上から接触した木箱は割れたりもしている。

「うわっ!」

一応は武具を纏っているとは言え、上半身は無防備であり、褐色の皮膚を曝け出しているのだ。
ジェイソンのその短い叫びはそれが原因だろう。



――そして、木箱の中から立ち上がり……――



「ペインだぜ……。ベリーペインだぜ……」

曝け出された上半身に伝わる痛みに多少苦しみながらジェイソンは呟いた。
素早さを得る為の代償にこのような事になってしまうとはと、僅かながら後悔する。



θθ 毒煙鳥は更に追撃をけしかけようとするが……



「余所見したら危ないよ!!」

ジェイソンに集中していた毒煙鳥の身体はほぼ停止状態であり、背後から攻撃するには都合の良い状態だ。

クリスは垂れ下がった尻尾に狙いをつけ、毒煙鳥に向かって叫ぶように伝えながら銀色の剣を振り下ろす。



―!!



未だに目元を血走らせている毒煙鳥は尻尾に走った痛みいわかんに対し、冷静に状況を判断し、
照準対象をジェイソンからクリスへと移す為にその巨体の向きを変える。



νν 向かい合った相手は…… νν



方向転換の際に踏み鳴らされる足に巻き込まれぬよう、後方へと跳びながら距離を取る。
いつ、どんな攻撃が来ても対応が出来るような状態だ。



―ソウカ、コイツガヤッタノカ……

等と頭で考えているだろう、毒煙鳥はさっさと目の前の小娘クリスを痛い目に遭わせてやろうと、
口内に毒素を溜め込み始める。



そう時間もかけずに……

―> 溜め込み完了フルチャージ!!



そして、毒煙鳥はそのまま放出バーストしてしまおうと企むが、その前に気付いた事が一つ。

――τ クリスの背後には建物あり τ――

言えば当たり前の話である。街道のラインに対し、一人と一体は端と端を結ぶように位置しているのだ。
互いに直進すれば、当たり負けしなかった方はそのまま建物にぶつかるし、
逆に後退と言う選択を取っても、最終的には背中を建物にぶつける事になる。

この偶然なのかどうかよく分からない地形効果を上手く利用してみるのは決して下らなくは無い提案アイディアとしてみてもばちは当たらないはずだ。



ηη じゃあここでの攻撃手段は

純粋にぶつけ、直接瘴気しょうきで苦しめるのでは無く、逃げ道を塞ぎ、精神的に苦しめてやるのだ。
追い詰めてから、一気に叩き込められればこれほど愉快な光景は無いだろう。

――▲ FIRST ATTACK!! ▲――

クリスの右側ライトサイドへ、毒液を吐き落とす!!

「きゃっ!」

隣に落とされる毒液のおぞましさに、クリスは思わず右腕で顔面を覆いながら悲鳴を飛ばす。
勿論直撃こそしなかったが、立ち上がる煙が毒の強さを物語る。

――▲ SECOND SMILE!! ▲――

クリスの左側レフトサイドへ、最後の液を吐き落とす!!

「!!」

今度は悲鳴すらあげる事をしなかった。両側から毒素の混じった煙が立ち上がり、
この夜の空気の中に溶け込んでいく。



――▲ 準備は整ったスタンバイ・OK!! ▲――

いよいよ毒煙鳥は止まらせていた胴体を前進させる。
言葉だけを見れば、ただ前に進んだだけとして認識出来てしまうが、
実際、この巨体が迫る様子を見せられている人間は並の精神力では耐えられない。

「えぇ!? うそぉ!!」

クリスはこの時初めて自分が追い詰められいる事に気がつき、水色の瞳を大きく見開きながら、
毒煙鳥に対して背中を向け、得意の神速でまずは毒煙鳥から離れる事だけを考える。

クリスの目の前に映るもの、それは……



ωω 硝子ガラス張りの壁 ωω

だが、ここで止まっている訳にはいかない。停止すれば毒煙鳥の巨体に弾き飛ばされてしまうのだから。
小柄な体躯であるクリスが巻き込まれればただでは済まない。

走らなければ、毒煙鳥の餌食だ。



――だから

――走る

――走る……

――走る!

――背後に聞こえる巨体の足音!!



「はっ!」

軽い気合と共に、辿り着いた硝子ガラスへと飛び込む。

―バリィイイン!!

幸いにも強度が多少低かったのか、最初に接触した両手を中心に一気に割れ落ち、
そしてやがては人間一人が通るのに苦にはならないような入り口が完成する。

クリスは飛び込んだ反動を吸収する為に、床に身体が落ちると同時にそのまま前転に入る。
言わば、飛び込み前転である。



――そしてすぐに……――



―ガァアアアア!!!

毒煙鳥の喉に突っかかる鳴き声と……

―バシィイイイン!!

巨体が建物に激突する轟音……



εε 毒煙鳥周辺の壁が恐るべき光景に!!/TELLING ALTERATION!! εε

―> ふちに残っていた硝子ガラスは一気に吹き飛び……

―> 木造の壁も衝撃に耐え切れず、皹を入れながら木の欠片を飛び散らせる……



そんな大迫力な衝突劇場ショッキングドラマが背後で行われているが、
クリスはそれの餌食と化さなかっただけ幸運と言える。

背後の轟音を耳で感じ取りながら、前転を終わらせ、そのまま立ち上がる。
そして建物の外で壁につっかえている毒煙鳥と向き合う為、背後へ振り向きながら未だ勢いの消えない
小柄な身体を後ろへと飛ばし続けるが……

「危なかっ……」



――その瞬間、足の下の感覚が無くなり……――



(え?)

通常なら、足の裏で感じ取るであろう地面、或いは床の感覚を、この一瞬、感じ取れなかったのだ。
クリスは心で一体何が起きたのか、小さな規模で驚くが、これを熟知するには、



◆◆ 遅すぎた・・・・ ◆◆



///この建物の内部は地下の空間が存在し、
///クリスの踏み込んだ場所は、
///その地下の空間のすぐ真上に位置する部分だったのだ。
///建設者の意図だったのか、そこには柵は設置されておらず……
///本当ならば、すぐ隣の壁沿いの階段から下に降りるのだが……



片足が床を離れ、それに伴いもう片方の足もバランスを失い、同じく床の感覚を失ってしまう。
やがて、身体が重力に従い、絶望の洗礼を受ける事となる……



「い……いやぁあああああ!!」

クリスは重力に引っ張られると同時に、可愛らしくも、痛々しいとろける声を甲高く響かせる。
水色の瞳を目一杯開きながら……。



υυττ 絶望の洗礼が意味するものは……/BAPTISMAL GRAVITY ττυυ

簡単な話である。落下である。

重力に引っ張られ、最終地点ラストフィールドである床に到着するまで、延々と続くのだ。
しかし、到着したとしても、それは喜びとして表現するには無理がある。

何故なら……



―ドン!!



薄暗い建物の内部で、鈍い音が一度だけ響いた。

やがて、クリスは声も発しなくなり、



――動かなくなった……――



これが、理由・・だ……
現実は情け、容赦、これらは一切存在しない。
油断した者に贈呈ぞうていされるものは、

死なのだろうか……







そして、もう一つ、気になるものが……






ιι スキッドは一体どうなってしまったのだろうか?






*** ***






「はぁ……はぁ……、デイ……トナ……」

周囲の建物が火を吹くこの街中で、一角獣装備の女性が全身に傷を負いながら、
苦しそうに息を荒げながらゆっくり、ゆっくりと歩いている。

今にも崩れ落ちそうなそのやや細めな身体を支えているのは壁であり、
寄りかかるように両手を当てている事で何とか倒れずに済んでいる。

「早く……来て……」

周囲からは、人々の叫び声までも響き渡り、時折どこからともなく爆発音まで響く。
だが、この女性には周囲に気を配る余裕は無いようにも見える。

一角獣の素材から作られた武具には擦れた跡等が目立っており、
そして肌の露出した部分、太腿や二の腕にもいくつもの擦り傷や切り傷が目立ち、血が僅かに垂れている。

「もう……わた……しは……」

口の端から血を流しながら、限界に近づきつつある体力と、全身を締め上げる激痛に、
思わず紫色の瞳を強く閉じた。



――いつの間にか、隣に分かれ道が見え……――



直進するも良し、右に曲がるのも良し、と言った所である。
だが、そのまま進めばいずれは寄りかかる為の壁が無くなり、自力で歩かなければいけなくなる。
女性の体力ではそれは途轍もない苦痛である。

やはり、傷と体力消耗には勝てず、女性は思わず両膝を地面に付き、両手も地面に付け、
苦しそうに深呼吸を始める。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

全身を汗で滲ませ、そして震わせた身体から、大きな呼吸音が放たれる。

この一種の休憩時間を上手く使い、自力で普通に歩けるようになれば良いのだが……。



――やや遠方から足音が……――



だが、もう距離は遠くない。
寧ろ、かなり近距離である。
この距離感がこの一角獣装備の女性に物理的な苦痛を提供する事になってしまう。



――そして、遂に間近へと迫り……――



―バン!!

「うわぁあ!!」
「うぐっ!」

女性は突然右横腹に強い衝撃を入れられ、乱暴にその傷だらけの身体を横に倒される。

まさか、誰かに蹴り飛ばされたのだろうか?
少なくとも、女性が受けた打撃は『蹴られた』と認識せざるを得ないだろう。
状況はしっかりと見ていなかったのだから。



――だが、よく見ると……――



女性のすぐ横では、少年らしき人物がうつ伏せに転んでいたのだ。
きっと、こいつ・・・が女性に攻撃を加えた張本人だろう。





――紫色の髪が特徴的な、あの……――

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