▲▼【 この一撃は確実に凄まじいものがあったはずだ 】▼▲



δδ VIOLET NIGHTMARE γγ



大衆酒場でバイオレットと言う灰色の皮膚、黄土色の髪を持った亜人と言う名の悪魔と単独で、
そして素手で勇敢に、追加して無謀に立ち向かった一角獣装備のとある女性。

だが、バイオレットはあまりにも強過ぎた。武具で身を固めた他のハンターすら何人も殺害する戦闘力を誇り、
武器を持たない戦いでも、その殺害能力に相応しい力を持っていた。

一応見た目だけを意識すれば、人間と人間の戦いのようにも見えるが、女性は
その外見によって、非常に大きな誤解を招いていた。

それは簡単な話である。

飛竜を相手に武具を装備せずに挑むのと殆ど変わらないのだ。

きっと、あの酒場内で女性は死ぬような思いをした事だ。
正直な話、他のハンター達のように殺されなかったのが恐ろしい程に幸運と言える。
腰巻の中にある、スカートの中のあれ・・と同じ扱いをされているであろうあれ・・
殴られたり、投げ飛ばされたりした衝撃で周囲に見られた事は、
殺害される事に比べればまだ甘い部類に入るはずである。

それでも、体力は絶望的である。何とか酒場から離れ、助けを自分の手で掴もうと
必死で弱った足を動かしながら前へ、前へと進むが、そこで悲劇が起きたのだ。



――地面に両膝と両手を付いたその瞬間に……――



誰かに右横腹を蹴られ、女性は横へと倒されたのだから。

―ドテッ……

まるで誰かが転ぶような音が鳴り、そして次は言葉が聞こえ始める。

「あぁ……って……。何だよもう……」

青いジャケットを纏った紫色の髪を持った少年はうつ伏せの状態から、痛そうに上半身を持ち上げながら、
どうして自分が転倒しなければいけなかったのかを考え始める。

まだ少年は背後にあるもの・・には目を向けていない為、事の重大さに気付いていないのだ。



――やがて、別の足音も聞こえ始め……――



「あ! フューリシアさん! ってアビス、あんた何やってんのよ!?」

その声の正体はミレイである。緑色のショートの髪が特徴的な少女である。

フューリシアと呼ばれた一角獣装備の女性に近づくと同時に、
転倒して痛がっているアビスに対してやや弱めに怒鳴りつける。



――上体を持ち上げたアビスもとりあえず対応しようと……――



「『何』ってお前……、ちょっ転んだだけ――」



――ふとアビスの茶色い目が、すぐ後ろの人物を捉えるなり……――



「ってうわぁああ!! ななな何だよこれ!! なんでこんな怪我だらけなんだよ!?」

アビスは転倒の際に走った自分の痛みも忘れ、身体中に傷を見せ付けてくれる一角獣装備の女性から離れる。

事実、アビスはこの女性を蹴ったのだ。それによってこれだけの傷を負わせてしまったのかと、不安がつのり始める。



――一角獣装備の女性に駆け寄ってきた二人目の人物は、デイトナである――



「フューリシアさん! 大丈夫ですか!? こんなに傷だらけになって……」

フューリシアの傍らでしゃがんでいるミレイの隣に現れたのはデイトナであり、
ハンター装備と言う一応はハンターとしての誇りを纏っているのにも関わらず、
傷だらけのフューリシアに近づくなり、今にも泣き出しそうになる。



――勿論アビスの不安は消えず……――



「ちょ……ちょっと待って……くんないか……? お、お、俺のせいじゃ……ねえよなぁ?」

空気を見ると、アビスの一撃のせいでフューリシアの状態が極めて悪い方向に進んでしまっているものに見える。
怖くなってきたアビスは自分が無罪であると、多少心臓の鼓動が激しくなる中で必死に訊ねてみる。

今いる中では最も付き合いの長いミレイに対して。



――そして彼女ミレイの反応は……――



「ここまでするなんて、最低な奴ですね……、バイオレットとか言う奴……」

ミレイはアビスの質問には目も向けず、何とか上体を起こしたフューリシアの両肩を支えながら、
ここまで傷だらけにしたあの男・・・を恨み始める。



――残る男女の二人も現れる――



「なんかすげぇ事なってんなおい。やっぱこりゃあバイオレットの仕業っつうやつかネーデルちゃんよ?」

傷だらけになった一角獣装備の女性を見るなり、紫色のスーツで全身を包んだテンブラーは
バイオレットのやり方にある種の嫌らしさを覚えながら、隣のネーデルに聞く。

「きっと間違いはありません。あの男は情け容赦を一切知らない男です。相手が誰であろうと関係は無いんです」

水色のノースリーブの服装であるネーデルはフューリシアの肩を支えているミレイの後ろで、テンブラーの問いに答える。



――再び聞こえ出すのは、ミレイのトーンの高い声であり……――



「あ、あの、お体の方は大丈夫ですか? もし宜しければあたしが手ぇ貸しますが」

未だに深い呼吸を続けているフューリシアを心配しながら、ミレイは言葉通りに
フューリシアの立ち上がる為の支えになろうと手を差し出そうとする。



――そして肝心のフューリシアは……――



「はぁ……はぁ……わたしは、もう……大丈夫だ。お前に手を貸してもらうほどこっちは軟弱じゃないから……な……はぁ……はぁ……」

男勝りな口調で語られるその中身を見ると、ミレイは後輩に当たる存在なのだろうか。
そして、その後輩が現れ、そしてある程度自分自身の身の安全を保障出来た為に力が蘇り始めたのだろう。
一人より、数人で集まっている方が何かと力は沸くものなのだから。

だが、口から流れる血や、乱れた呼吸音は多少周囲の者を不安にさせてしまうが。



――所で、アビスはと言うと……――



「あ、あのさあミレイ! 俺悪くねえよなぁ!? 俺まあちょいそ、その人にぶつかったけど……、でも俺悪くな――」
「うっさいわよアビス! 分かってるから。別にあんたがやった訳じゃないって事ぐらい。ちょっと静かにしてて! ……ったく」

質問に答えてくれないとアビスは安心出来なかったのだろう。
だが、ミレイにとってはそれはただ煩いだけだったらしく、強引に大声だけでアビスを黙らせてしまう。

そしてミレイはその自分の多少乱暴な行為に反省している間に、フューリシアは多少無理をしているものの、
何とか自力で立ち上がる。

だが、両膝に両手を付いて深呼吸をしているのだが。



――立ち上がったフューリシアを見たテンブラーは……――



「そんじゃ、フューリシアさんよ、ちょっといきなしの話になんだが、ちょっと俺酒場の方行って来るわ」

テンブラーは未だに荒い呼吸を続けているフューリシアの肌の露出した肩を一度、軽く叩いた後に、
これからの行動を半ば勝手に決め付けたかのように伝える。



――勿論、その話はフューリシアの耳には届いている――



「行くって……はぁ……ちょっと……無理があると思うが? 所で、貴方は?」

フューリシアはあの凶悪な力を持つバイオレット相手に立ち向かう事が非常に危険な事であると分かっている為か、
テンブラーのその言葉には抵抗を感じたのだ。

一応相手と顔を合わせるべく、無理矢理、疲労と痛みに苦しめられる中で傷で多少荒れてしまった顔を持ち上げ、
テンブラーのサングラス姿を確認し、そしてまだ聞いていなかった名前を訊ねる。

「俺かあ? 俺はテンブラーってんだよ。今はこんなちょっと怪しい格好してっけど、これでもあんたと同じ立派なハンターだぜ? 疑うってんなら今度時間出来たら一緒に飛竜でもぶちのめしに行くか? 俺の姿見て惚れんじゃねぇぞ?」

テンブラーは自分の紫色のスーツ姿に対するコメントを入れながらも、ハンターであると自慢するように主張する。
そして、ハンターであると言う事をとことん信用してもらいたい為か、狩猟に誘う真似までし始める。

「なるほど……貴方、相当女好きであるらしいな……。そこの少女達と行動してた時もさぞ楽しかっただろ?」

テンブラーの台詞から、フューリシアは彼の性格をある程度見抜いたように見える。
実質、フューリシアと出会う前は少女三人と共に動いていたのだから。

因みに残る一人はアビスであり、この話の中では彼だけ置いていかれているような気がする。

「あ、り、一応言っとくけどなあ、俺こう見えても妻も子供もいるから、そう言う所謂いわゆる浮気ってやつはご法度はっとなんだよなあ。あんたもかなり魅力的だけど、遅かったなあ。残念でした〜」

多少フューリシアに対して性的な感情を覚えたらしいテンブラーではあったが、根は腐っていなかった様子だ。
既に愛人がいる以上は道を外してはならないと、きっぱりと目の前の女性を諦める。



――だが、フューリシアは突然表情が暗くなり……――



「恋人か……。わたしもいたんだよ、ヘニングって言う、貴方みたいに活かした彼氏がね。まあ……あいつにられたけど……」

テンブラーのせいで嫌な事を思い出したのである。
フューリシアはバイオレットによって無残に殺されてしまった愛人を思い出し、俯き始める。

「あ、やっべ……。なんか俺変な事言っちまったか……。じゃ、そんじゃ、あんたの事傷つけた罰として俺一人で今からあいつんとこ行って来っわ」

テンブラーなりのけじめなのだろうか、普通ならばあまり触れてはいけないであろう部分にうっかりと
踏み込んでしまい、子供のように謝って済ませるのでは無く、身体と行動で謝罪をしようと考える。

そして、そのまま勝手に歩き出そうとするテンブラーであるが、



――フューリシアに止められる――



「待て……」

まだ呼吸が整っていないのか、普通に腕を掴んで止めるつもりが、スーツの袖部分を引っ張るように止めてしまう。
それでも前に進もうとするテンブラーに追いつこうと、痛むであろう足を何とか動かし、静止させる。

「ん? どうした? あいつとやりあっちゃあ駄目か?」

フューリシアの行為に答え、テンブラーは止まると同時に振り向いた。

「そうじゃないが、あいつの力は並みのものじゃないんだぞ。いくらあんたでも下手したら殺されるぞ」

何故止めたのかを理解してもらう為に、フューリシアは元々威圧感の走っている紫色の瞳を更に尖らせ、
バイオレットの攻撃から教えられたものをテンブラーに言葉で渡す。

「そんな事言われても俺は止まらんぜ? 地味に俺はあいつと知り合いだからなあ。あいつん事は俺が結構知ってるつもりだぜ?」

そのテンブラーの言葉の奥に込められている意味が彼に栄光を与えられれば良いのだが。



――その言葉の後、再び歩き出し……――



「んじゃ、行って来るぜ。それと、アビス……」

テンブラーはフューリシアの手が離れるのを確認した後に再び歩き出すが、
ふと背後に振り返り、アビスと目を合わせる。

「え? 俺?」

突然名前を呼ばれ、アビスは思わず自分に指を差して確認するが、すぐにテンブラーの次の言葉が渡され……







「ちゃんとこのメンバー守ってやれよ!」







――そして、テンブラーは酒場へ向かって走り出す……――
















――◆◆ 【毒怪鳥との激戦 終戦の招待/GOOD-BY POISONER】 ◆◆――

アーカサスの街中で暴れているのが、あの毒煙鳥だ。
暴れるその灰色の巨体を止めるべく、四人のハンターが勇敢に戦っていたのだが……

目でしっかりと確かめられるのは、今の所、二人しかいない。

双角竜の武具を纏ったフローリックと、
雪獅子の武具を纏ったジェイソンである。

残りの二人は……







「何やってんだあのデカブツ……。っつうかクリス無事なんだろうな……」

毒煙鳥がその巨体を建物目掛けて突っ込ませたその光景をフローリックはしっかりと目撃しており、
そして同時にその巨体から逃げていたクリスの姿も確認していた。

直撃された建物は相当な被害を負った事だろうが、それよりも心配なのはやはりクリスである。

「相棒、悪いなあ、ちょっとミステイクなプレイ見せちまったぜ……」

フローリックの隣にジェイソンが現れ、上半身に纏わりついた木の破片を払いながら
遅れを取った事を詫びる。

「いいやそんなもん。っつうかそれよりスキッドも見ねんだけど、お前知ってっか?」

ようやく気付いたのだろう。毒煙鳥との戦いに集中し過ぎていたあまり、ふといなくなった仲間が
頭に浮かばなかったに違いない。

「悪りぃなあ、ドンノーだぜ。そこんポイントっつうのは。でも妙なエアー感じるんだけどなあ」

ジェイソンもスキッドについては分からないようであるが、この建物に囲まれた戦場にいない事だけは
唯一確認出来る内容である。



――やがて、毒煙鳥は建物から身を引き摺り出し……――



先程逃げるクリスの両端に放たれた毒から放たれる煙の中に映し出される毒煙鳥は、
次の獲物破壊を企んでいるのだ。



β 毒霧の中でそびえ立つその巨体が二人を捉える β



―>腹部から血を流し……

―>鶏冠とさかには皹を入れ……

―>それでもって、鶏冠とさかを光らせており……

―>目の周囲も血走らせており……



二人を確実に破壊へと導く為に、一度接近し、それから料理するのだろう。
飛竜――厳密に言えば鳥竜に区別されるが――である毒煙鳥ならば、
人間を好きに出来るであろう。

食い散らすもよし、踏み潰すもよし、どうせなら毒で苦しめて毒殺と言う結末に導くもよし
もうここでは毒煙鳥のやりたい放題なのだ。



そうである。ここですべき毒煙鳥の行動は……







――翼を大きく羽ばたかせ……――







「あぁ? なんだあいつ。逃げっ気か? まああんな傷じゃあしゃあねえか……」

フローリックは徐々に上昇していく毒怪鳥をただ眺める事しか出来なかった。
それでも、大体は予測がつくものである。

毒煙鳥の傷を見れば、撤退として捉えるのも間違いでは無いはずだ。

「それより相棒。なんかアナザーな客人の気配フィールしたんだが、お前分かるか?」

同じく上昇する毒煙鳥を見ながら、ジェイソンは別の場所から漂ってくる何かの気配を覚え、
フローリックに訊ねてみる。

「なんか来んのか? ってなんだありゃ……」



――フローリックは一度背後に振り向くが……――



φφ 生物型戦車の襲来/BIO FOOTSTEP φφ

この一連の光景の関連性を見れば人は勝手に想像してしまう。
毒煙鳥の飛行は次の刺客の招待を意味し、新たな修羅場、戦場を創造する。
傷に塗れた毒煙鳥も、これだけではまだ命を枯れさせる訳には行かず、
別の戦地帯いくさちたいへと赴くのかもしれない。

そして、新たな刺客が持つその姿は、四本の脚で丸い胴体を支え、そして最上部には
砲台のような頭部を供えている。まさに破壊の為にこの世に生み出された、
生物にして、生物を仕留める悪魔の使いだ。



「赤殻蟹みてぇなフィギュア見せてんじゃねえかよ」

四本で歩く姿があの赤殻蟹に似ていると感じたのか、ジェイソンはそんな言葉を吐く。

「ってか囲まれてっぞこりゃ。折角毒煙鳥あんにゃろう追っ払ったっつうのによお……」

周囲を見渡すフローリックが見たのは、街道の前後を挟み込むように現れた四本脚の生物達だ。

まるで包囲するかのように、ゆっくりと迫ってくる。よく見れば、建物の天井付近にも
うろついているのが分かる。



σ まさか、毒煙鳥が何かしたのだろうか? σ

あの閃光フラッシュが信号となり、遠方で暴れていたであろう生物達を呼び寄せたのか。
そして、毒煙鳥は用済みだと悟り、去ったのか。
だが、そんな予測を立てている余裕は残されていないようである……



λ 生物の内の一体が砲台状の頭部に力を入れ…… λ

―> 発射口に力が込められ……

―> 更に、発光も始まり……

―> やがて……

―ドゥン!!



――■■ エネルギー砲が今、発射される!!/REMOTE TACKLE!! ■■――







££ 所で…… ££



££ あのハンター・・・・・・の行方が気にならないだろうか? ££



££ 毒煙鳥との戦闘の中で、突然姿を消した、あのハンター・・・・・・を…… ££







▼▼◆◆ 毒怪鳥の戦場の端で/BACK ALLEY BRAWL ◇◇▽▽

実は、このハンター・・・・・・は毒煙鳥との戦いの中で、
あの茶色い四本脚の謎の生物に出くわしていたのだ。
あの四人の中で一番最初に。

突然のその一体に対し、そのハンター・・・・・・は最初は恐怖を抱き、毒煙鳥をも忘れて
道の外れに逃げ込んでしまったが、思えば自分だって武器を持っているのだ。
ボウガンと言う名の武器を。



――しかも、時間と共に囲まれたのだ……――



ρ 放たれる、エネルギー砲 ρ

――黄色く光る塊が、地面へ放たれる!!

―ズゴォン!!

「うわぁ!! あっぶねぇなぁ!」



蒼鎌蟹装備のガンナーは、自分のすぐ隣に発射された砲撃を素早く横に跳んで回避する。
照準精度が甘かった為か、黙っていても命中はしなかった可能性があるが、地面を割る程の迫力が
彼の身体を文字通り動かしたのだ。

「うじゃうじゃ湧きやがってぇ! これでも喰らえっつの!」

まるで熱血を思わせる少年のような声色で反撃宣言を飛ばし、銃口から弾を発射させる。



――バスッ!!



生物の頭部へと弾丸が命中し、口に当たる部分がどこにあるのか分からないその身体から
低く唸るような声をあげながら、血を流して地面へと崩れ落ちる。



――四本の脚の力が抜け、胴体が地面へと降り……

――立っていた頭部もだらしなく倒れる……

――しかし、油断は出来ず……



まだ周囲には今倒した生物型戦車バイオタンクがうじゃうじゃとうごめいており、この少年を狙っている。
同胞を倒した少年を始末しようと、他の生き残っている生物が力を溜める。



――咄嗟にそれに気付き……――



「やべ! 後ろか!」

ボウガンで仕留めた生物からすぐに気を反らし、少年は背後を振り向くと同時にすぐにその場から一度離れる。



―ズゴォン!!

風を斬る重たい音と共に黄色いエネルギー砲が発射され、そしてすぐに
他の生物達の砲台状の頭部からも次々とエネルギー砲が発射される。



―ドゴォン!!

―ビキィン!!

―ガラァン!!

「随分派手じゃねぇか……」

少年は建物に向かって放たれたエネルギー砲及び、着弾による建物の破損音によって、
多少恐怖も感じるものの、どこか面白さも感じさせるような台詞を飛ばし始める。

それより、この少年は……



――■ スキッドである/BLUE GUNNER ■――



背後で無残にも建物の一部が崩れ始めるものの、それでもスキッドはボウガンを握る両腕の力を
緩める事は決してしない。



恐らく先程砲撃をしたであろう生物の内の一体が四本の脚を踏み鳴らして歩きながら
再び頭部に力を溜め込み始める。

他の生物達も徐々にスキッドへと近づき始めているが、まずは自分を狙う奴から倒すに限るだろう。

「喰らえっつの!」



――銃口マズルから通常弾が発射される!!――



スキッドの命中率ヒットレイトは確実なものがあるのだろう。
エネルギー砲が発射されようとしていた砲台型の頭部へと命中させ、一撃で仕留める。



だが、他の者が黙ってはくれない。仲間を殺す愚かな人間を始末すべく、
頭部に力を溜める。



εε だが、耐久力は飛竜と比べると非常に低い εε

砲台の一撃は非常に強力な戦車型生物バイオタンクであるが、対飛竜用ワイバーンイレイザーの弾丸の一撃で
容易く破壊出来てしまう。

だから、この状況を見ると、飛竜が強力な装甲で身を守っているのに対し、
生物達は数で身を守っていると捉えた方が良いだろう。

相手が防御的に弱いとは言え、発射主も黙って立っている訳にはいかないのだ。
いつ、どこからエネルギーの塊が飛んでくるか分からない。
状況を把握していなければ、たちまち餌食となる。



「いや、いつまで続くんだよこいつら……!!」

背後にエネルギー砲が着弾する街道を走りながら、スキッドは次の照準を定めるべき相手を
迅速に判断し、一度止まった後に銃口マズルを……



――横にいる生物へと向ける!!――



様子を窺っていたのだろうが、攻撃を始めなければ意味が無い。
スキッドの迅速な射撃がその生物を黙らせる。



――射撃とは、時間との戦いだ――



溜め込まチャージされる発射の力。これを受ける前に始末しなければいけないのだ。
向こうに感情があるかどうかは不明だが、兎に角倒さなければ、こちらスキッドが倒されてしまう。

その場から走り出すスキッドから少し離れた場所に……



――戦車型生物バイオタンクが落下する!!――



―ドスゥン!!

重たい音を響かせる。決してバランスを崩して上から降ってきたのでは無い。
さっさと地面へと向かうべく、四本の足から見事に着地したのである。
衝撃を吸収する為に胴体が下へと多少落ちる。



「ってかこんなに相手とか無理だろ……。何とか? ってあれ?」

スキッドはそろそろ敵の数と、ボウガンの弾数に不安を覚え始め、弱気な事を呟き始める。
だが、そこに見え始めたのは、一種の希望だったのかもしれない。



▼▲▼ 緑色に染まった大型トラックの集団/SIR,YES SIR! ▼▲▼

まるで飛竜をそのまま鉄の塊に変えたような物々しい軍用トラック。
重量も並大抵のものでは済まされず、ぶつけられた生物は
その重量の差から激しく跳ね飛ばされ、重症、或いは死へと導かれる。

停車と同時に数人の緑色の軍服を纏った兵士達が機関銃マシンガンを携えながら降りてくる。
戦車型生物バイオタンクはまるで動揺する姿を見せつけてはくれないものの、
その中の一部は登場した軍隊に頭部を向けている。



「こんなとこにもいたとは……。撃てぇ!! 攻撃の隙を与えるな!!」

部隊長らしき兵士の合図と共に、軍人達アーミーズ銃口マズルが一気に吠え始める。



―ダラララララララァアア!!!

―ビキィンバキュゥン!!!

―ブシャァアドウァアン!!!



一斉射撃が開始され、無数の銃弾が生物達を一気に穴だらけにしていく。
飛竜よりは脆い胴体を持つこの生物達ならば、
大きさサイズが小さめな元々は人間を相手にするこの弾丸でも充分に通用するのだ。



――血を吹き上げながら……

――弾丸の勢いに押されるように……

――背後へ倒れるように崩れ始める……



軍人達はスキッドの存在に気付いているのかどうかは直接は分からないものの、
スキッドには被弾せず、的確に生物だけを崩していく。

「あれって……軍隊か? まいいや、ってか助かった〜」

スキッドは適当に鉄柱の影に身を隠しながら現れた援軍を確認する。
勇敢に機関銃を発動させるその姿に多少圧倒されながらも、自分の安全が保障されたと考え、安堵の笑みを
蒼鎌蟹ヘルムの下で浮かべる。

夜の空気の中ででも、銃撃の激しさは決して失われない。
朝だからと言ってその迫力が増大されると言う訳でも無いが、連続的な攻撃は
対飛竜用として暴力的に攻撃力を底上げしているボウガンの連射力を遥かに上回っている。

「そんじゃ、おれ一回ここ離脱させてもら……」



――甘い考えはここでは通用せず……――



―ドウゥン!!

飛ばされる黄色いエネルギー砲。
それがスキッドの上部にある壁に激突し、そして大きな欠片が上から降り注ぐ……

「げっ!!」

上を見上げたスキッドの緑色の目が捉えた物は、降り注いでくる建物の欠片であり、
巻き込まれれば一溜りも無いだろう。

反射的にすぐ目の前の建物の中へと入る。
壁は偶然なのかどうかは不明だが、穴が開いていた為、すぐに逃げ込めたのだ。



―ガラガラァ……



「うわぁ……マジ死ぬかと思ったぜ……」

建物の中に逃げ込んだスキッドは、外に映る建物の壁が崩れる風景を目にしながら、
多少胸騒ぎを起こさせる。
砲撃を受けようが、下敷きになろうが、スキッドの結末は変わらなかっただろう。

さて、逃げ込んだはいいが、この後どうしようか考えたのだ。僅かな時間ではあるが、
色々と考えたのだ。

ι はぐれてしまったクリス達と合流するか……

θ 岩竜との戦闘以来、顔を見せていないアビス達を探すか……

ψ いっその事、親玉を見つけて手柄を取るか……



――だが、もう思考は途切れさせられる……――



―ドオゥン!!

―ガシャアン!!

ββ 内部へと飛ばされる波動砲 ββ



「やっべ! いいや、一回逃げっか……」

直撃はしなかったものの、建物の中が酷く破壊されてしまった。スキッドの所有物では無いのだが、
これの所有者がこれを見たらどう思うだろうか。

だが、今スキッドがするべき行動は、一度このまま逃げてしまう事だ。
そして、思い通りの出会いを果たすか、それとも、体勢を立て直すかのどちらかだ。

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