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計量ベクトル空間(けいりょうベクトルくうかん、metric vector space)とは、内積の定義されたベクトル空間のことをいう。内積空間(ないせきくうかん、inner product space)あるいは前ヒルベルト空間(プレヒルベルトくうかん、pre-Hilbert space)、ユニタリ空間(ゆにたりくうかん、unitary space)などとも呼ぶ。 計量ベクトル空間では、その内積を使ってベクトルに対して長さ(ノルム)や直交という概念を考えることができ、それによって距離空間としての位相構造が定義される。また、正規直交基底(長さ 1 に規格化された、どの二つも互いに直交するようなベクトルからなる基底)を持つベクトル空間として計量ベクトル空間を捉えることができる。 例
内積ここでいう内積は、一般の体上のベクトル空間では、必ずしも正定値でない対称双線型形式の意味の内積である。 体 K が実数体 R または複素数体 C のとき、K 上のベクトル空間 V の(エルミート)内積とは次の性質を満たす関数 (・, ・): V × V → K のことである;
ただし z ∈ K に対し、z* は z の共役複素数を表す("*" を四元数の共役と思えば、V は四元数体 H 上のベクトル空間でもよい)。K が実数体のときは z そのものである。したがって、エルミート対称性は普通の意味での対称性になる。 K が一般の順序体であるときは、R のときと同様にエルミート対称性の代わりに
を仮定する。このとき、条件 1, 2 と対称性は関数 (・, ・) は対称双線型形式であるというのと同値である。 K がさらに一般の体のときには、条件 4 の正定値性が定義できないので、仮定からはずす(もちろん、正定値であるときと比べれば理論に多少の差異が生じる)。 計量与えられた二つのベクトルの内積の値が 0 に等しいとき、それらは互いに直交すると言う。 計量ベクトル空間の正定値な内積 (・, ・) とベクトル v に対し、 とおいてノルム(内積の定めるノルム)が定義されてノルム空間、さらに位相ベクトル空間になる。内積の導くノルム(あるいは対称双線型形式の導く計量二次形式)はベクトルの長さを定める。 内積とノルムを用いてベクトルのなす角を定める。このようにして計量ベクトル空間には幾何学的構造が定められる。計量ベクトル空間はその内積の定める距離に関して完備であるときヒルベルト空間と呼ばれる(それに対して必ずしも完備とは限らない計量ベクトル空間も含めて前ヒルベルト空間と呼ぶことがある)。 条件 4 や 5 を満たさない内積をもつ計量ベクトル空間では、擬距離が入り、長さが 0 だが自明でない(零ベクトルでない)ベクトルが存在するようなものも構成される。 有限次元の場合、とくに位相を考えない(つまり離散位相が入っていると考える)ことがほとんどであるが、無限次元の場合にはきちんと位相を考えなければならないことが多い。 代数学的構造ベクトル空間は必ず基底を持つが、内積に着目すれば正規直交化法を用いることが可能であり、任意の基底から正規直交基底を構成することができる。つまり、計量ベクトル空間は正規直交基底を持つベクトル空間として特徴付けられる。 このベクトル空間と正規直交基底という構造を保つ変換(準同型)としてユニタリ変換(実係数の場合は直交変換)を考えることができる(このことから計量ベクトル空間をユニタリ空間と呼ぶこともある)。したがって、計量ベクトル空間の対称性はユニタリ群や直交群によって記述される。
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