情報理論(電気・電子系教科書シリーズ) 情報理論のエッセンス 宇宙を復号する ―量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号 (単行本) |
計算機科学(Computer Science)とは、情報と計算の理論的基礎、及びそのコンピュータシステムへの実装と応用に関する研究分野である。計算機科学には様々な下位領域がある。コンピュータ・グラフィックスのように特定の処理に集中する領域もあれば、計算複雑性理論のように計算の理論に関する領域もある。またある領域は計算の実装を試みることに集中している。例えば、プログラミング言語理論は計算を記述する手法に関する学問領域であり、プログラミングは特定のプログラミング言語を使って問題を解決する領域である。 歴史計算機科学の歴史は、デジタルコンピュータの発明よりずっと先行している。そろばんのような計算機械は古代から存在していた。ウィルヘルム・シッカートは最初の計算機を1623年に作った。チャールズ・バベッジはヴィクトリア朝時代に階差機関を設計した。1900年ごろには後にIBMとなる企業がパンチカードマシンを販売している。しかし、これらの機械の多くは一種類の作業を実行できるに止まっており、せいぜい全作業のうちのいくつかを実行できる程度だった。 1920年代以前、「コンピュータ」という言葉は仕事として計算を行う人を指していた。クルト・ゲーデル、アロンゾ・チャーチ、アラン・チューリングなど、後に計算機科学と呼ばれるようになる分野の先駆者は、計算可能性、すなわち(特別な前提知識や技能なしに)紙と鉛筆と命令書だけでどのようなものが計算できるか、に興味を抱いた。この研究は、一部には人間に付き物の間違いをすることなく自動的に計算を行う「計算機械」を開発したいという欲求に基づくものであった。この重要な洞察は、あらゆる計算作業を(理論上)全て実行可能な汎用の計算システムを構築することを意味し、それまでの専用機械を汎用計算機の概念に一般化した。汎用計算機という概念の創造が現代の計算機科学を生み出したのである。 1940年代に入り、より新しくかつ強力な計算機が開発されるにつれて、「コンピュータ」という言葉は人間ではなくそういった機械を指す言葉となった。コンピュータが単なる数学的計算以外にも利用可能であることが明らかになると、計算機科学の領域は情報処理全般に関する学問となった。1960年代には計算機科学は独立した学問分野として確立され、計算機科学科の設立と学位認定が行われるようになった。実用的なコンピュータが利用可能になると、その様々な応用が下位領域を形成していった。 主な成果学問としての歴史は浅いが、計算機科学は科学と社会への数々の根源的貢献をしてきた。
他の分野との関係計算機科学という名前にも関わらず、計算機科学の研究対象は物理的な電子計算機そのものではない。例えば著名な計算機科学者エドガー・ダイクストラは「天文学が望遠鏡に関する学問でないのと同様に、計算機科学はコンピュータに関する学問ではない」という言葉を残している。コンピュータの設計と開発は計算機科学の領域外の話である。例えばハードウェアは計算機工学の領域であるし、商用コンピュータシステムとその利用は情報技術とか情報システムと呼ばれる。但し、コンピュータのハードウェアはその計算手法と密接な関係にあり、応用技術のなかにも計算機科学の対象となる部分がある。以前から、計算機科学は科学としては不十分であると批判されてきた。なぜなら物理学や生物学などと違って、計算機科学は人間の作りだしたモデルを対象としており、自然界のモデルを構築しているわけではないからである。これは例えば Stan Kelly-Bootle の「科学と計算機科学の関係は、流体力学と配管工事の関係と同じだ」という言葉に端的に表されている。計算機科学者であり、プログラミング言語 Scheme の設計者であるジェラルド・ジェイ・サスマンも「計算機科学は科学ではない」と述べている。しかし、計算機科学と他の周辺学問分野との間で新たな学問がいくつも生まれている。計算機科学と関係の深い学問分野として人工知能、認知科学、物理学、言語学等がある。 一部の人々は計算機科学は数学と最も関連が深いとみなしている。初期の計算機科学はクルト・ゲーデルやアラン・チューリングなどの数学での業績に強い影響を受けていたし、数理論理学、圏論、領域理論、代数学といった領域は計算機科学と数学の間でアイデアをやり取りする領域となっている。 計算機科学とソフトウェア工学の関係は論争の的である。「ソフトウェア工学」という言葉が表すものが何か、計算機科学の範囲をどう定めるかは長年の議論の対象となっている。一部の人々はソフトウェア工学が計算機科学の一部であると信じている。他の人々は、計算機科学が計算全般を扱う学問であるのに対して、ソフトウェア工学は実用的な目的でコンピュータ処理を設計するものであり、異なる学問分野であると考えている。この見方の例としてデイビッド・パーナスがいる。他の人々はソフトウェアは全く工学的に扱うことはできていないと考えている。 基礎
実装
計算機科学教育一部の大学には計算機科学科があり、計算理論やアルゴリズムを主に教えている。カリキュラムには計算理論、アルゴリズム解析、形式手法、並行性理論、データベース、コンピュータグラフィックス、システム解析等がある。プログラミングも教えることが多いが、単に計算機科学の他の領域のサポートのために教えているに過ぎない。 他の大部分の大学では、理論よりはむしろプログラミングが重要なカリキュラムとして扱われている。このようなカリキュラムはソフトウェア産業に就職する技術者を育成することを目的としている。プログラミングの実用的な側面はソフトウェア工学と呼ばれる。しかし、「ソフトウェア工学」の意味、「プログラミング」の意味に関しては様々な議論がある。
日本では、情報処理学会が大学の理工系学部情報系学科の為のコンピュータサイエンス教育カリキュラム J97を策定した。ここでは、「コンピュータサイエンス」は計算機科学、情報科学、情報工学、計算機工学を総称する用語として使われている。そのため、ハードウェア設計からソフトウェア工学まで幅広くカリキュラムを設定しており、英語圏で言う Computer science とはニュアンスが異なる。 |