「さぁてと……ったくよぉ、いい気なもんだぜ。そんなとっからバカスカ撃ちやがってぇ……。今に見てろよぉ」

 正面から逃げたスキッドに全く気付かず、未だ逃げ惑う残ったハンター達を狙い撃ちにする桜竜。その桜竜の横から適当に独り言を吐きながらゆっくりとその照準を桜竜に向ける。



「こっちだってなぁ、さっさと終わらせてドンドルマ行きたいってんのになぁ、そうやってわざわざ高いとこ登って時間稼ぎとかしてほしくないんだよなぁ、でももう終わりにすっからな。」

 さっさと撃てば事は終焉を迎えるだろうと言うのに、スキッドは引き金も引かずに愚痴を吐き続け、そして同時に桜竜を睨み続ける。



「さぁてと、もうゴチャゴチャ言ってんのもあれだし、もうやっちまうかぁ。」

 言いたい事を全て言い切ったのか、それで気の済んだスキッドは早速と言った感じで改めて照準をつけ直し、そして最期へと繋がる一撃、改めて装填し直していた徹甲榴弾を発射しようとする。



「ってあれ……あいつら……」

 長々と独り言を喋っていたその矢先に、折角の自分の一撃を止めるかのように表れた2人組の男。その2人は岩壁竜がんぺきりゅうと呼ばれる岩を全身に纏ったやや小型ながらも非常に頑丈な飛竜から作られた防具を装備している。そして2人の背中にはハンマーが背負われている。



「なんだこいつ、随分弱ってんじゃねぇか」

 聞き覚えのある喉に引っかかるような声がスキッドの耳に届く。

「だったら、こっから叩き落としてみっか? オレらで脚でも叩けば一気に落ちて落下死でもしたりしてな!」

 再び聞き覚えのある声が耳に届く。2人の声はどちらもさっきの酒場で聞いたあの男達の声だった。だが、男達はスキッドには気付いていないようだ。



(あれ? あいつら……さっきおれらに絡んできた奴じゃね?)

 桜竜が今乗っている民家と繋がったすぐ隣の民家から桜竜に気付かれないように背後から近づいた男2人はそれぞれ両脚につき、そして2人同時に胴体を支える両脚をハンマーで叩きつけようと、振りかぶる。



「そんじゃ! 行くぜ!」
「おうよ!」

 喉に引っかかるような声の合図と共にもう1人の男もハンマーを持つ手に力を入れ、そして脚の関節部分に強固なヘッド部分を打ち付ける。

「うおらぁ!!」
「おぉらよっ!!」

 下にいる自分に逆らう愚かなハンターどもを未だ狙い、炎を吐き続けている桜竜は突然脚部に激痛が走る事によって今まさに吐こうとしていた炎が喉に逆流してしまい、その苦しさと、脚部の激痛によってその場から大きくバランスを崩し、そしてその桜竜の高さの3倍は下らないであろう、その高さから頭から落下、そしてしばらくもがいて、とうとう動かなくなった。



「あぁれ? やっぱあいつ見た目通り弱ってたんだなぁ。」

 痩せた方の男は屋根の上から桜竜が落ちた場所を覗き込む。傷だらけのその体を持った飛竜は、うつ伏せのまま、永久に眠った。脚を突然攻撃された際に吐き出そうとしていた炎が呼吸器官に詰まり、そのままその器官が焼けた事による内部的損傷によって死に至った。最期の悪足掻きも、結局は背後からの攻撃と言う死角からの襲撃によってその悪足掻きが死ぬ原因に導いてしまったのである。

「さっき俺らと戦ってた桜竜はどこ行ったんだろうなぁ。いきなりどっか遠くから咆哮みたいなの響いてそれ聞いてどっか行っちまったからなぁ。」

 喉に引っかかる声の男はさっき自分達が相手にしていた桜竜を思い出す。ハンターとして一人前のこの2人は周囲の居合わせていたハンター達を押しのけ、殆ど2人でハンマー2つで桜竜を押していた。だが、遠方から響いた咆哮を聞いた桜竜は突然飛び上り、その咆哮の鳴った場所へと飛び去ってしまった。そして、2人は逃げた飛竜を追ってここまで来たが、目の前にいたのは別のハンター達と戦い、既に瀕死状態に陥っていた方の飛竜だったのだ。



「おぉい、お前ら、オレらが見事に退治してやったぜ。この忌々しいピンクの桜竜ちゃんをよぉ!」

 痩せた方の男は屋根の下で息を切らして何とか生き延びたハンター達を上から見下ろしながら勝利の宣言を下し、そして、横たわる桜竜の翼、それをクッション代わりにでもしようと思ったのか、その上に向かって飛び降りる。喉に引っかかる声の持ち主も、その痩せた男に釣られて同じ場所に飛び降りる。



(うぅわっ……。最悪だな……、よりによってあいつらに……)

 スキッドはさっき酒場でその力の差を見せつけられ、おまけに自分の顔に一撃を加えてきた男に一番美味しい部分を取られ、そして当の本人はと言うと結局何の一撃も加えられずに事を終えてしまい、込み上がる悔しさが全身を震わせる。

(ってかテンブラーって奴、今どうしてんだろ……)

 込み上がる悔しさを何とか押し退けようと、さっき見事に閃光玉の攻撃を受けてしまった桜竜の相手をしに行ったテンブラーを思い浮かべる。

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