「よし、村長連れてきたぜ。これで話がゆっくり出来るな」

 テンブラーはしばらく他のハンター達を待たせた後、村長、そしてその他の村人数十人と共に現れた。

「皆さん、こんなボロな村の為に戦ってくれて、ほんとにありがとう。感謝するぞ」

 顎に長く、白い髭を生やした老けた顔立ちをした村長が自分達の為に3頭の強大な飛竜と戦ってくれたハンター達に辞儀をした。



「でもさぁ、村長さん。いくら飛竜倒したっても、こんなにこの村壊滅状態になったんじゃあ……」
「いや、いいんじゃよ。それについては」

 居合わせていたハンターの一人が、未だに燃え盛っている今立っている場所の遠方を一瞥しながら、村長に喋りかけるが、村長はそれをすぐに遮った。

「どうしてですか? あれだけ好き放題破壊されちゃって、少しぐらいはこいつに怒ってやってもいいと思いますよ。村の人達も思わないんですか?」

 もう1人のハンターが村長の隣で平然と立っているテンブラーに指を差しながら村長、そして村人達に言った。



「おいおい、怒るって……そんな、子供の悪戯じゃないんだから。もうなぁ、この村はおしまいだから、派手に破壊しちゃってもいい事になってたの」

 まさかこれから自分は村長から叱責を受けてしまうのでは無いかと、一瞬不安に思うテンブラーであったが、元々こういう事態も事前に話し合っての事である。その為に一瞬焦った気持ちを再び元に戻し、そして初めて聞いた人間から見ればあまり説得力の無いような説明をする。

「なんだよそれ、もっと分かるように説明しろよ」
「もういい、わしの方から説明させてもらう」

 案の定、そのテンブラーの説明はハンター達が理解してくれるはずも無く、再び言い合いが始まろうとしていた時だ。村長がそれを止めたのは。そして、一呼吸置いて村長はその口を再び動かす。



「この村は結構前からさっきのような大型のモンスターに襲われてたんじゃよ。そしてモンスター達は好き放題村を荒らしては平然と帰っていく。わしらのような力の無い連中はその度に防空壕に隠れて震えてるしか無かった……。でもここにはハンター達も結構立ち寄ってくれるから、大体はそのまま討伐されるって形が多いんじゃが、でも必ずどこかは壊される。その都度わしらは何とか補強とかはしてきたんじゃが、もうこれ以上はキリが無いって思って、もう諦めたんじゃよ。」

 幾度も飛竜から襲撃を受け、そして居合わせていたハンター達がその襲撃から守ってくれたが、村の被害と言うものからはどうしても逃げられず、無駄な出費ばかりが重なっていく。復興させた所で再び襲われてしまえば同じ事の繰り返しとなる。街等の規模の大きな場所ならば、金銭的にも余裕があるのかもしれないだろうが、村ならばそうはいかない。そして、遂に村長や村人達は匙を投げたのである。

「あの〜……諦めたって……それじゃあ、この後皆はどうするんですか?」

 横からただ黙って聞いていただけのアビスが村長のその長い、諦めた説明を聞いて、外見や声色から見て確実に年上であるであろう、その他のハンター達の目の前で少し気まずそうな態度を取りながら、村長に尋ねる。



「確かにそうだよなぁ、ただ諦めるなんて言ってたって、こんなとこ残ってたらいつか本気で殺されちまうじゃんかよ」

 スキッドもアビスの隣で、相手が年上だとか、目上だとかそういうのを全く気にせず、いつものようなテンションで喋る。

「君の言う通りじゃよ。こんな所に残ってたら、本当に皆死んでしまう。だからもうこの村を捨てて新しい場所に移住しようって考えてたんじゃよ。もう既に村人達の荷物等も全部防空壕の方に纏めてあるから、こんな村なんて、いくら壊されようが、もうどうでも良かったんじゃよ。」

 どこか諦めたような、そして空しい表情を浮かべながら、村長は最後に溜息を吐く。



「ま、そういう訳だ。分かっただろ? 直しては壊されて、直してまた壊されてなんてそんなめんどくさい事続いてたらもうやってらんないだろ? だから俺が移住計画ここに持ってきてやったんだよ。移住先の方ともちゃんと村長と一緒に話し合って何とか移住の許可も貰って、してその準備してるって最中になんかアーカサスから緊急依頼ってやつが来て3頭の桜色の飛竜がこの村襲おうとしてるって内容だったから、とりあえず即行で樽爆弾作りまくって、してあいつら迎えてやったって訳だ。長ったらしくて悪いな」

 テンブラーも村長並みの長い説明をし、自分が村の半分以上を破壊した樽爆弾を多様した理由や、突然この村にやってきた理由等を明かした。

「確かに長かったぞ……。あんまりよく分かんなかったわ……」

 スキッドは苦笑いしながらその長い説明の感想を述べた。



「うん……確かに長かったけど、兎に角この村から出るって事は分かったよ。でもさぁ、移住……だっけ? どこに住むの?」

 アビスは最初の方でテンブラーの言っていた『移住』と言う言葉だけははっきりと覚えており、そして、その移住先を聞こうとする。

「それかぁ、テンペストシティってとこだ。あそこはなぁ、アーカサスと同じくらいの規模誇っててな、それにえっと、何だっけな、素材の加工が盛んなエンジェルシティと繋がったとこだから、そう言う素材を扱った仕事が多くてな、仕事探すにも困る事は無いはずだし、それに飛竜の防衛もかなり完璧に出来てるし、安全面でも生活面でも、かなり信用出来るとこだぞ」

 テンブラーの長々と説明したテンペストシティとは、アーカサスの街と同等の規模を誇る大きな街である。アーカサスの街と同様に飛竜等の襲撃に備えたギルドナイトや、撃竜砲等の整備も完備されている。また、産業の面では、天然の植物、鉱物、モンスターから剥ぎ取れる素材等の加工が盛んなエンジェルシティからその素材を買い取り、そしてそれを利用した武具や道具の生産がテンペストシティの高い経済力を築き上げている。

 また、素材の加工も決して目を外してはいけない部分であり、モンスターから直接剥ぎ取った甲殻や鱗、それらをハンター達は纏めて『素材』と呼んでいるが、そのままの状態では素材の内部に残留した体液等によって腐敗や損傷を招く事がある。また、ハンター達が直接剥ぎ取った素材の場合、不要な部分毎剥ぎ取っている場合も極めて多く、結果的に素材の事を詳しく知らないハンター達が剥ぎ取り、そしてそのまま所持した所で、確実に素材等は腐敗等の結末に陥ってしまう。その腐敗等の結末を知っており、尚且つ加工の技術の無いハンター達は一度入手した素材等は加工班に多少の金額を払って手を加えてもらうのが一般的である。

 その加工班の殆どは、そのエンジェルシティから派遣された人間である事が多く、その加工技術がエンジェルシティの高い経済力を築いている。



「あ……いや、悪い、そんな街事情説明されてもあんまり分かんないんだよな……。でもさぁ、テンペストとエンジェルかぁ、なんかかっくいくね?」

 テンブラーの説明したその極めて簡潔なその街の説明も、スキッドにとっては殆ど理解出来ない話であった。だが、街の名前としては秀逸とも言えるそのネーミングセンスにスキッドは思わずアビスに尋ねながら笑い顔を作る。

「いや、別に事情って言われてもなぁ、まあ、兎に角加工が盛んで……えっと……何だっけ? あ……ん……分かんないや……ははは……。でもかっこいいっつったらかっこいいんじゃないか?」

 結局アビスも話は理解していなかったらしい。だが、そのネーミングセンスが秀逸だと言うのは、スキッドと同じようである。



「そうだよな、別にそんな街の背景こんなとこで説明したってどうしようも無いからなぁ。所で、あんたらの方は、もう荷物とかは大丈夫なのか?」

 アビスとスキッドのその話を理解出来なかった様子を見ながら、軽く笑った後に、すぐ隣で何十人も固まっている村人達に顔だけを向けてこれから出発しても問題無いかを尋ねる。

「ああ、おれ達はもう、いつでも出発出来るよ」
「早くこんな物騒なとこ離れたいよ……」
「テンペストシティ、早く行きたいわ」

 村人達は口々に声をあげる。幾度も飛竜に襲撃を受け、そして補強の甲斐も空しく、傷を何度も付けられる。そんな救いようの無い村に長居するのはうんざりしたのだろう。村人達は早急にこのバハンナの村から出てしまいたい、その気持ちでいっぱいであった。



「だよなぁ、こんなとこさっさと出ちまいたいってのは分かるぜぇ。しかももうあっちは、まあ俺のせいなんだけど、火の海状態だしなぁ、さっさと行くとするか。そんじゃ、他のハンターさん達よぉ、これからテンペストシティまで、ちょっと遠足みたいな感じでついてきてくれっか? 勿論ちゃんと報酬も渡すからさぁ」

 テンブラーは自分で作った樽爆弾の残した炎を眺めた後、その場に居合わせているハンター達にその視線を戻しながら、頼み込む。

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