「報酬って、もう飛竜は全部倒したんだ。ついてってそれでやっと報酬なんて、話が変だろう。どんどん条件付け加えやがって。俺ら利用すんのも大概にしろよ」

 報酬を受け取る為の条件が徐々に増えていくような感じを覚えたハンターの一人が、やや怒ったような顔を作りながらテンブラーに近寄ってくる。

「ちょっ、ちょっ待てよ、変だって言われてもなぁ。でもなぁ、最近はこの道中も危険がいっぱいって状態なんだぜ。最近変な組織が動いてるから、もうお外は危険地帯って感じでさぁ、戦えない村人達だけで歩かせてたら何されっか分かんないからなぁ」

 テンブラーは僅かながら迫ってきたハンターを恐れてか、少し後退りながらも、今の現状を説明する。



「何だよ、道中は危険だらけって、ちゃんと説明しろよ」

 具体的に何がどうなって危険なのかの説明が抜けており、それは当然のようにハンター達を納得させるものにはならなかった。ハンターの1人は、さらにテンブラーに問い詰める。

「分かったよ、簡単に言えばだなぁ、外は青鳥竜せいちょうりゅうとか獣猪じゅうおとかの小型だけど一般人じゃあどうしようもない奴らがわんさかうろうろしてるって状態なんだよ。そんなとこ、こんな武器も何も無い一般人が歩き回ってたら必ず殺されちまうっつうの。だから護衛って言う護衛が必要なんだよ。文句あんなら、もう勝手に行っちゃってもいいんだぜ。その代り、報酬はゼロになっちまうと思うけどな」

 現在の外の世界がいかに危険かを伝えた後、一瞬どこか怖い顔を作りながらテンブラーはハンターに言い返した。



「なんだよ……その脅迫染みた言い方……」

 テンブラーの一瞬見せたその怖い顔にどこか恐怖を覚えたハンターである。

「脅迫ぅ? そう聞こえたかい? でもだ、さっきからあんたさぁ、俺に指図だの何だのってゴチャゴチャ言ってるみたいだが……」

 やや怖がったようなその言い分をテンブラーは全く聞き逃さず、再び話を続ける。



「そう言やぁ、俺がなんか指図してるとか言ってきたのって、確か桜竜が2頭やってきた時だったよなぁ? 俺はあん時閃光玉投げるから、目ぇ瞑ってくれって頼んで、してあんたらに傷だらけの方頼んだんだっけな。それがなんか不満だったか?」

 腰に手を当てながらテンブラーはそのハンターに睨みつけるように、尋ねる。

「そ……そりゃ、不満だろ。勝手に、お前だけのやり方でやらされてたんだから……」

 これから何かされるのでは無いかと言う恐怖に襲われながらも、ハンターの男は何とか自分の意思を通そうと、テンブラーのやや自己中心的なあの戦い方に逆らおうとする。



「結局それが答えって訳ねぇ。でもお前、2頭目の桜竜やってきて、お前はどうする気だった? どうせお前も単純な奴なんだろうから、2手に分かれて戦ってりゃあそれでいいやとか、思ってなかったか? それに、俺は結局あそこで閃光玉投げたが、俺以外に閃光玉持ってた奴、いたのか? おい、ちょっと手ぇ上げてみろよ」

 突然態度が変わり、ハンターに対する二人称も変貌する。そして、最後には、他の黙っているハンター達にまでその鋭い赤い目を向けて手を上げさせる。

 黙っていたハンター達は隣同士でやや静かに話し合ったりするが、やはり、閃光玉を持参しているハンターは誰もいなく、手を上げるものは誰一人存在しなかった。

「なんだぁ、結局思った通りじゃんかよ。まぁ、確かに2手に分かれてやるってのも悪い考えじゃあ無いとは思うが、でも後ろから狙われちまったら、確実に死ぬだろうな。だから俺はあそこで閃光玉投げて、敢えてお前らに死にそうな方やらせたんだが、新品状態の方と戦って、また面倒な目に遭う方がいかったか?」

 ハンター達は何も言い返せず、ただ紫凶狼鳥の防具を纏った男の話を黙って聞いている事しか出来ない。



「確かに閃光玉使って目ん玉使いもんになんなくするってのはいいやり方だとは思うぜ。でもなぁ、だからってあっちだって黙ってるかっつうとそんな事はねぇ。どこに誰がいるかあっちだって分かんねぇだろうから、もう好き放題暴れまわるってもんだ。手当たり次第ぶっ飛ばしてやろうとなぁ。相手の攻撃もろくに読めない状態で武器持って突っ込んだって、結局はやられちまうのがオチだし。まぁ、弓とかボウガンとかだったら遠くから攻撃出来るから安全と言やぁ安全だが、でも殺すのは無理だろ。殺す前に目ん玉正常になんのがオチだしな」

 閃光玉は確かに飛竜の視界を奪い取り、動きを鈍らせる事は出来る。だが、それはあくまでも目を一時的に潰す事によって外部の視覚的な情報を入れなくさせるだけであり、動きそのものは束縛出来る訳では無く、無造作に動かしたその体でハンターを手探りで攻撃する事は可能である。視界を奪ったからと言って油断したハンターはその手探りの攻撃で返り討ちに遭う事も滅して珍しくは無い。

 賢いハンターは、あくまでも動きを止める為に使用し、視界を奪う事によって直接狙われる危険を減らしているその間に何かしらの策を作るのが一般的である。

「兎に角だ、いくら閃光玉で動き止まってるったって、相手は傷の無い飛竜だ。俺としては閃光玉で動けなくなってるとは言え新品の飛竜相手にするより、閃光玉の餌食は食らってないが、もう死にそうな方相手にする方がずっと楽だったはずだぜ。こっちも例の傷の無い桜竜、そこら辺火塗れになるだけのタル爆弾で何とか葬ってやったんだけどな」

 そして少しの間を置いた後、再び喋り出す。



「まあ、兎に角戦いの話はもういいや。そう言やぁお前、報酬がああだこうだって言ってたよなぁ? さっきの桜竜3頭倒した時点で金貰えるって思ってたらしいが、まあいいんだぜ、大抵誰だってそう思うから。金欲しい! って思う気持ちは分かるぜ。けどなぁ、お前、これからこの人達、あんな野蛮で凶暴なモンスターどもがうろうろしてる外の世界に否応無しに引っ張り出されるって時に報酬だの褒美だのって気にしてる場合なのかぁ?」

「……どういう事……だよ?」

 今一テンブラーの言っている事が理解出来ないハンターの男は恐れたような態度を維持したままそれを問いただそうとする。

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