「人の命まさに今関わってるって時に報酬がどのこのとか言ってる場合じゃねぇだろう。俺らはハンターなんだから、困ってる人間いたらまずは助けてやんのが流儀ってもんじゃねぇのか? 確かにただ逃げるしか出来ねぇような一般人助けるなんてめんどくせぇかもしれねぇよなぁ。下手すりゃあ助けた側のこっちが死んじまう事だってある訳だし、そういう死ぬとかのリスク背負ってる訳だから、報酬って形で何とか心優しいか、或いは金が大好きなハンター捕まえてんだろうけど」

 一瞬村人達はそのテンブラーの村人達を侮辱するような本来は言うべきでは無い発言を聞いて怒りと虚しさの入り混じったような複雑な心境に陥るが、それでも村人達はテンブラーに言及する事は無い。



「でも結局俺らがハンターやってけてんのは誰のおかげか知ってんのかぁ? 武器とか、防具とか、道具とかわざわざ俺らの為に造ってくれてる人いっから、俺らはあんな馬鹿力持った飛竜とかに喧嘩売れてんじゃねぇのかよ。そう言う感謝とかどうせお前、何もしてねぇだろう。金払ってんだからそれぐらい当たり前だとか思ってんだろうなぁ。でも、金があっても人がいなけりゃあ何も生まれないんだよぉ君ぃ」

「あ……いや……まあ……確かに……そうだけど……でも皆が皆そうじゃないだろ……多分」

 いくら飛竜達を殺める力を持つハンター達も所詮は人間であり、防具や武器で武装しなければ飛竜には到底逆らえるものでは無い。寧ろ、その防具や武具が飛竜を殺める力を与えていると言った方が正しいだろう。その防具や武器を提供してくれているのは、恐らくは戦う力は持ってないであろうが、精製する技術は持ち合わせている者達である。彼らがいて初めてハンター達は戦う為の下準備が出来るのであろう。



「何だ? 皆が皆じゃないって、まあ、確かにハンターと全く関係無い世界にいる奴だっているし、それに、だよな、よく考えりゃあハンターじゃない奴全員が下からハンターども支えてるって訳じゃないってのは分かるぜ。確かにそれは大正解だぜ。だったらお前、そう言う関係無い奴は勝手に飛竜とかに食われて死ねって事か? 報酬も出さない、ハンターとは全然関係無い世界にいるって人間は見殺しにしてもいいって訳か?」

 流石に全世界が完全にハンターをサポートする職業を持っているとは思えない。都市部の人間の中にはモンスターの存在すら知らないまま一生を終える者もいる。そう言う彼らは当然のようにハンターとの何らかの関わりも持たずに生活し、そして飛竜による恐怖等を受ける事も無い。

 しかし、常に命をかけて戦うハンターとは全く無関係に生きている者がいるとは言え、そんな彼らも一つの命を授かった人間である。テンブラーに歯向かおうとした男は、一瞬ではあったが、そのハンターを下から支える役目を持たない人間を否定したのである。

 だが、テンブラーは決して否定の顔を見せはしない。どのような世界にいようとも、命ある限り、それの否定はしない。



「いや……そんな事……」

「まあ誰だってこんなとこじゃあ死ねなんて言えんわなぁ。でもお前の言ってる事聞いたら金無い奴は勝手に死ねみたいな、そう言うのが伝わってきたぞ。お前、報酬貰わんとなんも動かねぇんだろ? 相手がどんな状況に置かれてようが。じゃあ結局死ねって言ってんのと同じだろ?」

 ハンターは報酬を受け取ってモンスターに関わる依頼をこなすものである。逆に言えば、報酬が貰える事が確定していなければ、作業を終えた後に何も残る物は無く、実質的にただ無駄な体力を消費するだけになってしまう。

 だが、モンスターによって一般人がその生命が危機にさらされていても、撃退した労力に相応しいだけの報酬をその一般人が持っていなければそのままあの世逝きの切符を受け取らなければならないと言うような、そのような考え方がテンブラーには納得出来ないのである。



「ほんとに……死ねなんて……事は……」

「悪いけど、お前は報酬が無ければ絶対ここの村人の護衛なんてしないって感じ、こっちにビィンビン伝わってきたぜ。ハンターって言う力持った男のくせして報酬が無けりゃあ動けねぇなんて情けねぇ話だぜぇ。そもそも俺がこんな長ったらしい話垂れ始めたのだって、報酬から始まった訳だろ?」

 報酬だけでしか動かないようなそのハンターを睨みつけながら、どこか見下したような笑いを浮かべながら、両手を後頭部に回しながら、誰もいない方向を見ながら言った。そして、その後再び話を続ける。



「結局ハンターってのは、報酬出なけりゃ何も動かん……ってか? それじゃあただの動物じゃねぇかよ。動物だって餌とか褒美とか貰わんと絶対動かんし、或いは鞭とかで脅して無理矢理動かすってのもあるが、結局お前ら……ってか今俺に対してうぜぇとか思ってる奴は多分動物みてぇに報酬って餌が無けりゃあ動かねぇって感じなんだろうなぁ。ハンターって言うプライド持ってるくせして結局は金金金……かぁ。なんか家畜みてぇだなぁ、ハンターってのも。人なら人としてなぁ、ちゃんと命関わってるって事まず考えてみたらどうなんだって話なんだよ。」

 そして一呼吸置いて、再び威圧的な態度で話を続ける。



「それに、この村に酒場、あったらしいが、ホントはなぁ、そこの人達も出来る事ならさっさと店も閉じて出発準備に明け暮れたいって思ってたんだろうがよ、でもお前らハンターの鋭気養ってやろうって考えあっから、わざわざこんなギリギリまで……」
「もういいよぉ! もうやめようよ、こんなやな感じする話」

 再び目を鋭くして延々とハンターとしてのプライドを感じさせない男達に喋り続けていると、それに耐えかねたアビスがテンブラーの前に現れ、その話を強引に止めさせようとする。



「アビスかぁ、何だぁ? 俺は今ちょ〜っと一部の家畜みたいな奴に説教喰らわせてやってたとこ……」
「だからさぁ! もういいって! 兎に角もう分かったからさぁ! ハンターってのは兎に角報酬とかよりも人の命ちゃんと考えろって意味だろ? もう分かったから、なんか村の人達も不安な顔してるみたいだし……だからさぁ、もう出発しちゃおうよ」

 アビスが現れた途端、いつものややのんびりしたような僅かながら優しさを交えたような口調に戻り、その口調のまま今自分がしている事を説明していると、その説明をアビス遮られる。そしてアビスなりにテンブラーの今まで話した事を纏め、そして早急にこの村から出ようと、頼み込む。



「随分短く纏めちゃってんじゃないのぉ。まっ、そうだなぁ、こんな奴らにべちゃくちゃ喋ってても時間無駄になるだけだかんなぁ。そんじゃ、もう行くか?」

「行くか? って……ホントはもう今頃歩いてる頃なんじゃないかよぉ。こっちもなんか変な空気になってちょいやばいんじゃないのかって思ってたとこなんだぞ」

 スキッドは少し苦笑いを浮かべながら、怖い雰囲気を取り消したテンブラーの前に現れる。



「そうだなぁ、確かに今考えたらほんっとに時間無駄だったよなぁ、そんじゃ、行くかぁ! じゃ、あんたら、俺について来てくれよ!」

 さっきまでの暗い雰囲気はどこに去ったのだろうか。テンブラーは完全に暗い雰囲気を捨て去り、笑顔になりながら村人達に左手で自分の後を付いてくるように合図を送りながらその足を動かし、アビスとスキッドもテンブラーの隣について歩く。



「おい、ちょい待てよ銀髪野郎」

 テンブラーのハンターとしてのプライドの説諭を聞いて腹を立てた一人のバサルモスの装備を纏った男がテンブラーに近寄り、右肩を無理矢理引っ張る事によって互いに向かい合わせとなる。

「おい、何だぁ? さっきの話に納得してくれたのぉ?」

 恐らくさっきのテンブラーの話に関して何か言いたい事でもあっただろうかと思い、呼び止められた男は未だヘラヘラしたような顔をしながら返事をする。

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