最近は飛竜を始めとしたモンスターによる被害が非常に多発しており、その被害とは、近辺の街や村を襲う、木材や鉱物等の資源を採取出来る森林や鉱山等のエリアを占領し、一般人の進入を拒む、突然ハンターを不意打ちにする等と言った、人間達の生活、生命を直接脅かすようなものばかりである。

 勿論この異変が起こる前までも、何度か街や村が襲われたり、資源発掘場に大型のモンスターが陣取ると言うケースは存在したが、現在はそれが頻繁に発生している状態であり、常にアーカサスの方では古生物書士隊によって常にアーカサスの周辺の地域では大型モンスター達の厳重な監視、警戒が行われ、そしてそのモンスターの周辺に街や村、発掘場等の仕事場がある場合、緊急クエストと言う形でアーカサスの集会場でハンター達に呼びかける。

 普段ハンター達が受けるクエストと言うのは、内容としては特定のモンスターに何か財産を破壊された、敗北したから代わりに討伐して欲しいと言う、所謂仕返しのようなもの。モンスターの素材を欲しがる一般人が力を持つハンターにそれの採取を求めると言う、物欲。ハンター達の力を試そうと、ハンターズギルド等の大きな組織が敢えて強力な飛竜を討伐させに行くと言う、試練、等、殆どが時間に緊急を必要しないものばかりであり、それらは絶対に達成しなければいけないものと言う訳では無い。

 だが、緊急クエストと言うのは文字通り、その時に即座に向かわなければ、重要な財産、人命、地域が滅ぼされる危険があり、それらは絶対成功を必要とする重大なものである。その為、現在のアーカサスの街では、その緊急クエストによって多くのハンター達が現場に送り込まれているのである。

 その為にテンブラーが言うに、昔のように、適当に好きなクエストを受注する、そして目的の飛竜等の大型のモンスターを討伐する、そして甲殻や鱗等の素材を剥ぎ取る、そして集会場に戻って報酬金を受け取っておしまいと言う、依頼主の頼みを聞いて褒美を貰うと言うパターンは、もう現在では殆ど見ない光景となってしまっていると言う。

 そして、今回あのバハンナの村に3頭の桜竜が現れた。あの飛竜の襲撃もその緊急クエストの一つであり、この村が襲われたのにもきちんとした理由があると言う。村の近辺には鉱山があり、そこでは青光鉱石や緑炎鉱石と言った、武器、防具の精製には欠かす事の出来ない天然鉱石が大量に発掘出来る地帯があり、ある事が起こる前まではその村はその発掘によって村としてはかなり発展した所となっていた。

 しかし、ある日、火竜の装備を纏った集団が、莫大な報酬金を手に持ちながら鉱山の買収の話を村長に持ちかけた。その金品の量は、村の規模を軽々と街にまで叩き上げる事の出来るほどだ。だが、村人達はそれを受け取る事は無かった。何故なら、村の男達はその鉱山での仕事に誇りを持っていた上に、どこの誰だか知らない連中に金だけを理由に譲り渡す等、出来るはずが無かった。

 それに、その集団は鉱山を買収する目的も話さず、ただ「金を払うから鉱山をよこせ」と、それしか言わず、それがその集団の怪しさを引き立てていた。何故街にまで進めるだけの金品を持っているのか、それ自体が極めて妙だったのだから。

 その強引な取引を反対され、それでも観念せず、集団は説得を試みるも、それでも村人は話を聞き入れようとせず、そして遂に村人は一言その集団に罵声を飛ばし、そのままその集団を置いて村へと戻っていった。

 だが、その村人達の態度に集団は怒りを覚え、遂に予め背後に待機させていた青鳥竜の集団を鉱山に嗾け、強引に鉱山を奪い去った。そして、それだけでは飽き足らず、今度は鉱山だけでは無く、バハンナの村にも飛竜を嗾け、それ以来、執拗に村に飛竜を嗾けるようになったと言う。

 しかし、その村を襲わせる飛竜は、その集団の所持するものとしては相当力の弱いそれと決まっていたと言う。規模の小さい村相手にわざわざ充分な力を蓄えた飛竜を嗾けるのはただの無駄になるのだろうと予測したのだろうか。それでも村にとってはそれが脅威以外の何物でも無い事には変わりは無い。

 どうやらその集団に何か関わり等の因縁を持った場合にその人物、それに関わる周辺の地域が狙われるようだ。

 そんな説明を聞いているアビス達はと言うと……。



「へぇ……なるほど……ねぇ!」

 納得の返事を辛そうにしながら今目の前に迫ってきた青鳥竜を斬り払うアビス。

「結構……面白いじゃん!」

 スキッドも何とか返事をしながら至近距離から青鳥竜の頭部を打ち抜く。



「ってかよくこんな状況でここまで説明出来たよなぁ、俺。俺って説明のプロぉ?」

 テンブラーは自分をだらだらと誉めながらも、愛用の大剣、ジークリンデを大きく横振りにし、青鳥竜を残酷にも上半身と下半身に分断する。

 テンブラーの言っていた通り、村の外、今いる場所は森林であるが、そこには大量と言うほどの数では無いにしろ、目の前に現れた人間どもを餌にしようと、青鳥竜の群れが現れ、進行しながらも、そこにいるハンター達は青鳥竜を退ける。

 数はそれほどでは無い為、合間が出来た時にテンブラーは話を続け、そして話を終わらせた時には既に太陽は沈みかけ、空を橙色に染めている。

「別にプロって訳じゃ……ぐっ! このっ! 離れ……!」

 自分を誉めているテンブラーに反応するアビスだが、青鳥竜がアビスに牙を立ててその体を押し付ける。盾と剣で何とかその体重を支えていると、突然軽い爆音が発生し、同時に青鳥竜の頭部から血が噴出し、そして体が地面へと崩れ落ちる。



「あれ、スキッドか?」
「お前なぁ、こんな時にぼ〜っとしてちゃ駄目だろ、こんなんだからお前はダメダメ男だって……いてっ!」

 スキッドは銃口から煙が出ているボウガンをブラブラさせながらアビスに駄目出しをしていると、突然背後から何かに突き飛ばされ、そのまま地面にうつ伏せに倒れこむ。

 スキッドを突き飛ばした何かを、アビスは即座に斬り払いに行く。



「お前もダメダメだろ? 人の事ばっか言ってんなよ……危ねっ! またダメダメになるとこだった!」
「アぁビスぅ〜、お前はダメでいろよぉ〜!」

 互いに声をかけあいながらも、その手を止めない。次々と青鳥竜達は倒され、そして徐々に村人達の集団はその森林を進んでいく。因みに、アビスとスキッドのリヤカーは、村人の人に引いてもらっている。



「ってかさぁ〜、相変わらずお前らって、喋んの大好きだよなぁ。戦ってようが何だろうがもうその口止まんないんだなぁ、まあ俺も人の事言えないんだけどな」

 アビスとスキッドのやりとりを聞いていたテンブラーは、相変わらず緊張感の無い事をアピールするような会話、そしてある意味その緊張感を解すようなそのやりとりに少しの笑みを浮かべ、同時に自分の事も考える。

 無論、後列にいるハンター達は無言で、真剣に青鳥竜達の討伐を行っている。

「ん? 何か言った?」

 ようやく現在の所、最後の1匹だった青鳥竜を斬り払ったアビスはテンブラーの言っていた事がよく聞こえていなかった為に、この合間を使い、聞き返す。



「いぃや、別にぃ。でもさぁ、なんか地味だよなぁ、チマチマチマチマ青鳥竜だけが迫ってくるなんてさぁ、どうせならもっと強〜いなんかってのが来てくれたらめっちゃ盛り上がるってんのに。いや、でもそれじゃあもうワンパターンだよなぁ」

 聞こえていなくても別に良かったのか、それに対する言及はせず、その後、青鳥竜程度の小型モンスターを相手にする事に面白味を感じられないのか、ある意味不謹慎とも言える発言をする。

「やめてくれよ、そんな厄介事招待するような事言うの。もし来られたらまたアーカサス行け……あれ? 今アーカサスの方にも向かってんだっけ?」

 突然スキッドはある事に気付く。一応村人達はテンペストシティへ移住する為に今テンブラーについてきている。だとすればアーカサスの方には向かっていないのかもしれないと言う、不安に包まれ、思わずテンブラーにそれを聞こうとする。



「心配すんなって。ちゃんとアーカサスの方にも向かってるから。でも途中で分かれる事になるな、その感じだっ……あ、悪いなぁ、俺の予言当たっちまったわ」

 不安に包まれるスキッドに説明をした後、さっきのテンブラーの不謹慎的発言が的中してしまった事に、笑いながら気軽い謝罪をする。

「ん? 何だよ、予言って……うわぁ……最悪じゃん」

 スキッドが周囲を眺めると、そこには、確かに最悪な何かが映っていた。

 青鳥竜を一回り大きくし、そして鶏冠を紅くしたそのモンスターが数体、見事にハンターと村人の集団を取り囲んでいる。そして、いつでも攻撃出来るように体勢を低くし、構えている。



「や〜っぱ変な事言うもんじゃないよなぁ、よく言うよなぁ、やな予感ってのは必ず的中……って早速来たし!」

 相変わらずにやけながら説明を垂れているテンブラーだが、そのハンターとは思えないだらけた表情は即座にハンターに相応しい凛々しいものへと戻る。その理由は無論、構えていた青鳥竜の長がテンブラーに飛び掛ってきたからである。

 即座に背中に戻していた大剣を取り出し、そしてその攻撃をかわすと同時に腕を大きく振りかぶり、大剣の重たい一撃をぶつけようとする。



「じゃあなんでそう言うやな事言うんだよ! なんも喋んなきゃあいつら来なかったかもしんないってんのに!」

「お前に言われたくねぇっつうの……。喋んなくても来るもんは来るんだぜぇ。人生ってのはそんなもんだぜ」

 スキッドに言われながらも、テンブラーはこの事態が強制的にやってくるものだと言う事を伝える。後半、格好つけながら。



「そうだよ、確かにこれは必ずやってくる事だったんだよ。今頃ゴチャゴチャ……ってもう……!」

 テンブラーの味方につくアビスだが、自分を狙う青鳥竜の長が現れる事によってその発言は強引に中断される。ゆっくりと接近してきた青鳥竜の長は、アビスに噛み付こうと、その凶悪な牙を剥き出しにした口を飛ばそうとする。

 それを咄嗟に右に避けて回避し、そしてデスパライズでその青色の鱗を斬りつけるが、避ける事に精一杯だった為にろくに力が入らず、致命傷を与えるに至らない。

「まいいや、兎に角だ村の連中んとこ行かんようにとことんこのデカブツ止めないとやばいからなぁ! ちょっと気合入れていくぞ!」

 テンブラーはさっきまでのだらけた気分を完全に緊張感に溢れたそれに一変させ、後ろにいるハンター達に伝える。そしてその後、大剣を持つ手に力を入れ、そして禍々しくテンブラーを向いている青鳥竜の長に向かってその強烈な一撃を叩き込む。

 やや細身のその体が横にずれた事により、振り下ろし最中の軌道調整が難しい大剣はその青鳥竜の長の鱗をかするだけに至った。



「いやぁっ! こいつらうぜぇ!」

 サイズは青鳥竜を上回るが、その俊敏性は青鳥竜にも劣らず、攻撃を加えては素早く後退る戦法をよく使ってくる青鳥竜の長。スキッドはその後退によって銃弾を避けられた事により、苛立ちを覚える。

「今はそんな事言ってないでまずこいつら黙らせないと……うっ!」

 アビスは青鳥竜の長の俊敏な動きによって弾を避けられてしまったスキッドに呼び掛けていると、突然横から鋭い殺気を覚え、反射的に左腕の盾をその方向へ向けると、ハンマーのように振り下ろされた両前足に備わった爪がその盾を叩きつける。

 その力強い反動によってアビスは尻餅をついて体勢を崩してしまうが、再びアビスを狙った青鳥竜の長の攻撃が迫る前に即座に体勢を立て直し、そして立ち上がった直後に青鳥竜の長より先手を取り、その喉元を斬りつける。斬られた首から血が流れ出し、痛みに悶えている隙をアビスは逃さず、今度は頭部を斬りつけ、今度こそ地面に沈めた。



「ナイスプレイだぜアビス! お前なんかに負けてらんねぇなぁ! この青い変なのめぇ!」

 スキッドはアビスのその剣捌きを誉めながら、そしてアビスを見習うかのように、今度こそその照準を今自分が狙っている青鳥竜の長に狙いを定め、スキッドも同じく青鳥竜の長を地面に沈める。

「さぁて、後どんぐらい……ってまだかよ……あぁあ……」

 スキッドは自分と戦っていた青鳥竜の長を何とか討ち取り、一瞬気を抜きながら改めて周囲を見渡すと、やはりまだ周囲には何体かの青鳥竜の長が、他のハンター達と戦っており、そして戦う術を持たない村人はハンター達に囲んでもらう事で守ってもらいながら、震えている。



「溜息なんてついてる場合じゃないだろ? さっさとやんないと行けないぞ、アーカサス」

「わぁってるっつうの。お前なんかに言われなくたってよぉ」

 スキッドはアビスを払いのけるように手を払いながら、グレネードボウガンに通常弾を装填する。



「でももうちょいだろうなぁ。ハンターの数考えりゃああいつら側がもう今は不利って感じじゃないんかなぁ?」

 一時的にアビス達から離れて戦っていたテンブラーはだらだらと喋りながら、大剣ジークリンデにこびり付いた鮮血を剣の先端を地面に叩きつけながら大雑把に落とす。



「ああ、テンブラー、そっちも何とかやったんだね!」
「そりゃそうだろうなぁ、こっちもだらだらしてたらあの青い変なの何しでかすか分かんないからなぁ」

 アビスに声をかけられたテンブラーはジークリンデの柄頭に手をついたまま今戦っているハンター達の姿を眺めながら今戦っているモンスターを野放しにしてしまった後の事を考えるような素振りを見せる。



「ってかその青い変なのって……今」
「お前が言った事真似ったんだよ。実際青い変なのだからなぁ。これからは青い変なのって呼ぶかぁ!」

 スキッドの言葉を遮り、テンブラーはスキッドの勝手な異名を真似した事実を伝え、そしてその場に相応しくないような事を口走る。スキッドのその咄嗟につけたセンスの感じられないその異名のどこが気に入ったのか、突然戦場の空気に相応しくない笑顔を作りだす。



「いや……青い変なのって……なんか単純……って今ふざけてる場合じゃないかも!!」

 誰でも考え付くようなその異名に苦笑を浮かべているアビス。だが、この突然戦場と化したこの地がそれに相応しい緊張感をアビスに思い出させる。傷だらけになり、今にも死に絶えそうになっている青鳥竜の長がもう既に死を覚悟しているのか、攻撃後に必ず出来るであろう隙を全く恐れないかのように、手当たり次第に付近のハンターに突撃し、そして次々と別のハンターにも襲い掛かる。



「あ〜りゃりゃあ、あれって俺と遊んでた奴じゃあん。まぁだ生きてたって訳〜? しつこいねぇ」

「って呑気ぶった事言ってる場合じゃねぇだろ! 兎に角止め刺さないとやばいだろ!」

 まともに自分と戦った青鳥竜の長の後始末をしなかったテンブラーはいつものように軽い気持ちで笑いを作っているが、スキッドにとってはその青鳥竜の長の死に物狂いの戦法は無視し難い状況だ。まるで同い年に言うようなその口調で一括し、スキッドはボウガンをその青鳥竜の長に向けるが……



「うわぁ……駄目だな……撃てねぇや……アビス! 頼む!」

 スキッドはその激しく動き回る青鳥竜の長に対して、まるで諦めるかのように呟いた後、アビスに開き直るかのようにはっきりとした声で死にかけの青鳥竜の長の討伐を押し付ける。

「はぁ!? なんで俺? お前も一緒にしろよ!」

「いやぁ、なんつうんかなぁ……外しちまったら村の人とかに当たるだろ? だから!」

 ボウガンの欠点は、周意に味方がいると、その発砲には細心の注意が必要になる事である。標的のすぐ背後に発砲の対象外の何かがある場合に於いて、もし命中させ損なった場合、最悪の被害と化してしまう。

 今回その例の青鳥竜の長は他のハンター達の集団に潜り込むように暴れている。そんな状況では発砲行為は極めて困難を極める。スキッドはそのグレネードボウガンを下ろしてしまう。



「分かったよ! だったらお前は別の奴頼む!」
「OK!」

 切羽詰った状況である為か、アビスの頼み込みをすんなりと受け入れると、誤射による他者への被害が確実に出ない別の青鳥竜の長に狙いをつけようとする。



「ってかさぁ、あれって元々俺の青……もいいや……青鳥竜の長だろ? やっぱ俺がやるわ」

 テンブラーは元々は自分が処理すべきだったその凶暴化した青鳥竜の長、それが今は別のハンターを襲っており、しかもテンブラーは村で他のハンター達に嫌な目で見られたばかりだ。またここでそのハンター達に面倒事をかけてはまずいと、その青鳥竜の長へと近寄ろうとする。



「俺が……じゃなくて俺も、だろ?」
「ああ、そうだったな」

 元々アビスも凶暴化した青鳥竜の長と戦う決心をしていた身だ。テンブラーに軽い訂正を投げかけた後に、2人並んで暴れまわっている青鳥竜の長に武器を向けようとした。

 暴れている青鳥竜の長は、テンブラーをその眼中に入れた途端、一瞬だけ動きを止めた。動きを止めた理由は、決してテンブラーの鋭い目を見て体を硬直させたからでは無い。理由は、自分をここまで傷だらけにした人間が目の前に映り、今度こそ息の根を止めてやろうと……

 その青鳥竜の長は、今戦っている他のハンターを頭を我武者羅に振るう事によって強引に振り払い、そして一直線にテンブラーにその照準を定める。



「あれ? あれってまさか俺狙い……だな!」

 テンブラーに真っ直ぐと向かってくるその様子を見れば、狙われている本人は真っ先に自分が狙われていると気付くだろう。放物線を描くように飛んで来るその青い体を咄嗟に横に移動する事で回避し、そして背中の大剣を一気に振り下ろそうとする。

 しかし、青鳥竜の長の神経が高ぶっていたのか、咄嗟に感じたその殺気を、大剣の先端が頂点に達するその前に後方に飛ぶ事で余裕気に回避する。



「あぁ、くそ! 当たらんかぁ……」
「ってかあいつ、眼ぇ充血してるじゃん……怖っ」
「そうだねぇ、きっと殺意バンバン的なムードなんだろうねぇ」

 テンブラーの重たい一撃を回避されたが、まるで当たらない事が前提だったかのような小言を吐くと、隣のアビスが青鳥竜の長の眼が血走っている事に気付く。そして相変わらずテンブラーは緩い発言を飛ばす。

 後退した青鳥竜の長は、血走った眼で2人を鋭く睨みつけ、いつでも突撃出来るような体を低めた体勢で威嚇している。



「おお、早速いつでもやれるぜ〜みたいな感……アビス、そいつ頼んだぞ」

 威嚇中の青鳥竜の長をだらだらと見ながら、それでもいつでも攻撃体勢に入れるようにそれなりの準備はしていたが、テンブラーは背後から別の殺気を感じ、そして横目でアビスを見ながら今までのおちゃらけた発言とは比べ物にならないような極めて神剣な口調と目つきで、その背後の殺気の方向へ向かっていった。



(あの人結構態度変わり過ぎだよな……)

 心で呟きながら、アビスはその凶暴化した青鳥竜の長に単独で立ち向かう。

(ってかこいつって元々テンブラーと戦ってたんだよな……)

 再び心で呟くアビス。どうしてテンブラーの不始末を自分がしなければいけないのかと一瞬思ったが、背後から別の青鳥竜の長が攻めて来ていた事は、アビスは気付いておらず、テンブラーの手が無ければ背後から襲われていたかもしれない。それを考えれば完全に視界の中だったこっちを相手にする方が良かったかもしれない。

 アビスは咄嗟に村人達の盾になるような位置取りで、血走った青鳥竜の長に剣を振るうが、乱暴な力任せな攻撃、爪や牙の振り下ろしに多少の恐怖が纏わりつき、思うように攻撃が当たらない。



「いやぁこいつ相当危険化してんなぁ……うわっ! やばっ!」

 今まで自分が戦ってきた青鳥竜の長と打って変わって凶暴化しているその姿に呆然としていると、その赤を帯びた爪によってデスパライズを弾かれ、手に残ったのは、ただ自分を護衛する事しか出来ない盾のみとなってしまう。

「ちょ……やべっ! テンブラー! ちょ、助けて! 頼む!」

 攻撃の為に使う得物を弾き飛ばされ、攻撃手段を完全に失ったアビスは、今まさに大剣を振るっているテンブラーに助けを求めようとするが……



「あぁ? なんだぁ? こっち今手ぇ離せんぞ! って危ねっつうの!」

 テンブラーは今は背後から狙っていた青鳥竜の長との相手で精一杯と言う状態であり、とてもアビスの手助け等している余裕は無いに等しかった。一瞬アビスに目をやった隙を突こうと、青鳥竜の長の凶悪な牙が迫るが、咄嗟に構えた大剣によって、何とかそれを防ぐ事に成功する。

「そんな……まいいや、拾いに行けば……って無理かも……!」

 得物を失ったアビスをまるで嘲笑うかのように力強く後方へと下がり、そしてその情けない姿をバカにしたかのような威嚇を見せる。そして、恐らくいつでも好きな時に相手を葬れるであろう、その余裕からか、ゆっくりと接近し、そして、数歩進んだ所で徐々にその速度を上昇させ、最終的にはその速度で突進すれば相手に重傷を負わせられるであろう高さにまで跳ね上がる。

 最早それは一言で表せば絶体絶命に等しい。アビスはスキッドにも頼み込んでみれば助かったかもしれないと、心底後悔するが、今はもうそんな余裕は無い。スキッドがアビスの危機を知った時にはもう既に手遅れだった。

 狙われているアビスの後ろには、戦う術を全く持たない村人がおり、ここでアビスが逃げれば村人が襲われる。だが、アビスには武器は無い。今アビスに出来る事は、兎に角その盾で何とかその攻撃を防ぎきる事だけだ。



「うわぁ! どうしよ!」

 アビスは武器を弾き飛ばされた事を悔やみながら、盾に全身の力を込める。その小さい盾でどこまで防げるかに、不安を持ちながらも。

 その実際に流れている時間以上に長く感じるこの突進されるまでの時。だが、突進を受け止められるかと言う決定した事実以外、考えている余裕等ありはしない。助けを求める宛てが無いこの場で、徐々にその青い暴君がアビスへと迫ってくる。



「ん? おい! アビ……!」

 スキッドも現在青鳥竜の長にその銃口を向け、そして黙らせようと、射撃行為を行っている最中であるが、アビスの声を聞き、一瞬その方向へと顔を向けるが、その時には既に、手遅れと言う状態であった。もう、スキッドの援護は間に合わない。

(ここで……止めないと……!)

 真っ直ぐ突撃してくる青鳥竜の長を何とか受け止めようと、そして、すぐ背後にいる村人に被害が飛ばないようにと、その場から動かず、心では不安の気持ちを浮かべながらも、何か決心するかのように目を閉じ、そして覚悟を浮かべる。






――――――






「アビス!」

 突然横から聞こえた可愛らしい少女の声、それを聞き、アビスは咄嗟にその目を見開く。

 目を開いて少しだけ遅れてその声の主はアビスの右側から滑り込むように現れ、アビスの正面で止まり、そして、手に持った弓の弦を即座に引っ張り、突然現れた少女に怯む事無く突撃してくる青鳥竜の長の頭部目がけて矢を射る。真っ直ぐ向かってくるその青い体は事実、隙だらけで狙い放題であり、正確に頭部に放たれた矢は、しっかりと目的の場所に命中し、今度こそ甲高い断末魔の叫びをあげ、その場に倒れこむ。



「あれ? 助かった……? あ、ありが……ってあれ、君って……」

 さっきまでは重たい一撃を受けるかどうかと言う極限状態であった為、咄嗟に現れた少女の事等考えている余裕等殆ど無かったが、危機が去った事により、その緊張感が解れ、改めてアビスを救ってくれた少女のその後ろ姿を眼中に捉える事が出来た。

 その後ろ姿にはどこか見覚えがあった。米神部分辺りから羽のように伸びた黄色く、そして淵部分が青い突起の生えたヘルムからはっきりと映る深緑の髪、そして、その装備は、黄色をほぼ基準とし、そして一部分を青、或いは鉱物等の影響で銀色を映している物であり、そして、左肩部や、腰を覆うコートの下部には数本の牙のような突起が生えている。

 そして、アビスと、その少女の距離の影響か、ハンター業と言う、血に塗れた荒々しい激務にはやや相応しくないような、だが、異性に対する本能か、このままずっと後ろに立っていたいと思わせるような、香水のような香り。それらが、アビスの過去に眠っていたあの密林での出会いを思い出させる。

 アビスがその少女の名を呼ぼうとする前に、少女はアビスに背中を向けたまま、顔だけを横に向ける。アビスの目に映ったのは、確かにあの時と同じ、青く、パッチリとしながらも、どこか強さを感じさせるような凛々しい瞳。そして、同じく名を呼ぶ前に少女は、ハイトーンの可愛らしくも、同じくやや強さを象徴したような声色で一言、後ろの少年にこう言った。



「アビス、久しぶり!」

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