ここはクリザローの密林である。その中に弓を持った黄色い鱗で作られた武装をした少女の姿があった。

 今少女が発見したモンスターは、小型の豚のような姿をしたそれである。通称は苔豚たいとんとも呼ばれているが、今、そのピンク色をした身体が1人のハンターに狙われているのだ。

(あ、あれかなぁ? さてと……)

 少女は弓を構えてそのモスへ向かって1本の矢を勢い良く放つ。矢を風を切る音を出しながら一直線に苔豚へと向かう。頭部を真っ直ぐ射抜かれたモスはその場に倒れ込み、動かなくなった。

 一応苔豚と言うモンスターはハンターに対しては殆ど人畜無害である。その為、実質そのまま放置しておいても狩猟に支障が出る事はまず無い。それでも狩る理由としては、大人しい草食竜のように食糧の生肉を得る為、或いは今いるハンターの少女のように訳在りで珍しい素材を狙っている為。

 敵意の無いモンスターを、出来るだけ傷付けずに、次々と仕留めていく。最も、命を奪う事には変わらないのだが…。

 そして少女は狩った苔豚へ近づき、やや面倒そうな表情を浮かべながら剥ぎ取り行為を始めるのだった。

(これってどんぐらいで売れるかなぁ……。まいいや、とりあえず……)

 心の中で色々と大変そうな思いを込めながら、苔豚の背中に生えている苔を剥ぎ取っていく。

 モスの苔は持ち帰るハンターが非常に少ない事が原因で色々な意味で珍しい素材となっている。これを持ち帰るハンターは物好きとされるほどである。

 見つけ次第に苔豚を狩り、頭部に激しい損傷が確認されなかった場合は頭部も切り取り、自分のものとする。その素材もまた持って帰るハンターは少なく、流通量が少ない為に、珍品扱いされている。



 少女の名前はミレイであり、弓を扱う緑色の髪を持ったハンターである。海のような綺麗な色をした青い瞳も特徴的だ。

 どうやらこの狩場は行き着けの場所であるらしく、ここで希少価値のある素材を集めているらしい。しかし、それを集める為の事情も何だか複雑そうである。

 仲間は今、きっと別の場所にいるのだろう。仲間と共に行動している時は、弓という遠距離武器に相応しく、後方支援なのは言うまでも無い。

 現在は単独だからこそ、今自分がしたい事をやや勝手に出来るものである。チームでの行動は全員揃ってこそ出来る作戦というものがあるだろうし、1人の遅れが皆に迷惑をかける事だってある。チームプレイは自分を護ってくれる者がいてくれるが、逆に自分自身の行動にも大きな制約が加えられるのだ。

 また、この密林には洞窟もあり、その中では黄甲蜂おうこうほう紺角蟲こんかくちゅう等の蟲も潜んでいる。しかし、強い打撃を与えてしまうとその身体が砕ける事も多く、素材としての価値が無くなってしまう。

 その為、今のミレイのように矢に毒を塗りつけ、そして傷を付けるだけで体内に毒が染み込み、そして死に至らしめる。こうすれば、その蟲の甲殻や翅を剥ぎ取る事が出来るのだ。



 洞窟を出たミレイの目の前に現れたのは、大きな猪のようなモンスターだった。

「げっ……大猪たいおじゃんあれ……」

 その大猪と呼ばれたモンスターは、顔の両端から大きく、そして太く尖った牙が生えており、それは獲物を刺し殺す為に伸びたものである。凄まじい突進によって、獲物を仕留める豪快な攻撃を得意とする凶暴な種族である。

「とりあえず、あんたに邪魔はさせないわよ!」

 ミレイはすぐに背中から弓を取り出した。



 大猪は凶暴な性格ではあるが、モンスターの世界で比較すれば、相当下級なレベルのモンスターである。飛竜には到底及ばない。

 突進だって、直進しかする事が出来ない為、横にずれてしまえばすぐに回避する事が出来る。

 攻撃を避け次第、素早く弦を引き、その茶色い毛皮に向かって矢を射る。痛みの影響か、大猪の動きは徐々に鈍っていく。大猪から垂れる血が草原を徐々に赤く染めていく。

 結果的に大猪は敗れたのだ。突進して、振り向いて、突進しての繰り返しであれば、経験を積んでいるハンターであれば恐ろしい攻撃手段とは言えない。



「じゃ、とりあえずあんたからも貰えるとこは貰っとくわよ」

 ミレイは横たわる大猪に近寄り、毛皮や骨を剥ぎ取っていく。今までの苔豚や黄甲蜂等の素材と比較するとそこまで高値とは行かないが、それでも折角倒したのだから、貰える部分は貰っていくのがハンターというものである。

「あ、そうだ、そろそろ戻んないと不味いかも……」

 ミレイは共にチームを組んでいた仲間を思い出し、今まで手に入れた素材を背負い、待ち合わせ場所の洞窟、先程ミレイが入った洞窟とは別の場所へと向かっていく。

 走る事数分、目的の洞窟がやがて見えてくる。

 洞窟の石の壁が障害となり、入り口ははっきりとは見る事が出来ないが、そこは確実に待ち合わせ場所の洞窟である。



「皆ぁ遅れてごめん! 今あたし戻ったわよ!」

 待っている仲間は上司では無いらしく、友達に対して相応しい態度の謝り方でミレイは言いながら洞窟へと近づいていく。

 その時である。洞窟の入り口から女性ハンターが倒れる姿を目的したのは。

次へ

戻る 〜Lucifer Crow〜

inserted by FC2 system