鍛冶場に行き着いた六人は、内部に設置された椅子に腰を下ろし、縦長のテーブルを挟みながら、先ほどゴンドラでフローリックが僅かに怪異を抱いていたあのハンターが失踪すると言う事件について、その話を始めようとしていた。

 既にジェイソンに対しては、四人の少年少女は自己紹介を済ませており、そして、クリスは本名と、愛称を名乗る事を忘れなかった。



「そうだジェイソン。早速なんだけどなぁ、あのハンターが失踪するって事件、ちょっとこいつらに聞かせてやってくんねぇか?」

 鍛冶屋とは言っても、その内部はアビス達がクエストを受注した酒場と同じくらいに広く、いくつも並んだ巨大なテーブル、そしてテーブルの何十倍もの個数はあるであろう椅子が、鍛冶屋の膨大な広さを物語る。

 武器や防具の精製を待つ為の暇つぶし用として準備されているのだろうか、簡単な飲み物くらいは注文出来るカウンターも設置されている。

 フローリックは透明なグラスに注がれた濃い紫色のカクテルを少しだけ飲んだ後、隣に座っている褐色のジェイソンに、話をさせようとする。

「OK。よっし、ボーイとガール。これはな〜、超ベリーインポータントな話だから、しっかり聞くんだぞ。いいな?」

 指と指を巧みに使ってナイフを回し続けていたジェイソンは、ジャケットの裏にあるポケットにナイフをしまい、まるで会議でも開くかのような、真剣な顔付きになる。



「あ、うん」
「ああ」
「分かりました」
「はい」

 アビス、スキッド、ミレイ、クリスは、それぞれ敬語を思わせないような返事、そして、目上相手に相応しい態度を思わせる返事をする。



――遂に始まる……謎のハンター失踪事件の実態シークレットインシデント……――



「内容っつってもだな〜、そうだな、文字通りのハンターが失踪しちまうって言う、何ともダークなストーリーだ」

 ジェイソンは目の前のグラスに注がれた真っ赤なカクテルの中に入れられた氷を混ぜる為の棒で掻き回しながら、内容の大まかな部分を説明する。

「あの、その失踪するのがハンターってのは分かるんですが、ハンターだったら無差別に狙われるんでしょうか? 後、それと誰がそんな事してるんですか?」

 ミレイは早速のように、ジェイソンに質問を投げかける。ジェイソンの話を聞いただけでは、ハンターが狙われると言うのは理解出来るが、どのような事をおこなった場合に狙われるのか、そこまでは読み取れない。ましてや、どうして襲わなければいけないのかも分からない。



「無差別ってのはミステイクだぜ。そこが一番肝心なんだよな〜。なんか最近妙な連中が動いててなぁ、そいつらに変な関わり合いとかしちまったら、ラストだって聞いたんだが、結局んとこは詳しいとこまでは分かんねぇよ、おれも」

 そのジェイソンが言うには、彼が言う『妙な連中』と何かしら関連を持ってしまうと標的にされてしまうようである。しかし、裏を返せば、関わらなければ狙われる必要が無いと言う事になるだろう。だが、連中のしている事は人道を外れた行為であるのは確かである。

「ハンターを狙う……かぁ。まさかそれってギルドナイト?」

 アビスの頭に浮かぶのは、違法行為をおこなったハンターを取り締まる役目を負ったギルドナイトだった。だが、それはスキッドによって取り消されかける。



「はぁ? アビスお前何言ってんだよ。確かにあの連中は変な事したハンターの事捕まえて変な事したりすっけど、今の話聞く限りじゃあよぉ、別に罪とか無いハンターとかが狙われてるって空気じゃんかよぉ」

 隣にいるアビスの二の腕付近を軽く叩き、馬鹿にするかのような笑みを浮かべながらスキッドなりに解釈したのであろう、その中身をアビスだけに絞っているのだろうか、アビスの事だけを見ながら、話していく。

「ふっ、スキッド、お前にしちゃあなかなかいい事言うんじゃねぇか。そうだな、ギルドナイトじゃねぇな。っつうか寧ろギルドナイトもそいつらには警戒してるって話だ」

 フローリックはスキッドに褒めるような事を言うが、スキッドも、どこか馬鹿にされたような目線を浴びせられている。普段の行いが折角の一見すれば格好の良い発言を僅かながら台無しにしてしまっていたのかもしれない。



「その人達って……怖いですね……。あ、えっと、その事件って、いつ頃から始まった事なんですか? 私はここで初めてそのお話お聞きした訳ですから、今まで実感が全く無かったんですけど……」

 クリスはそのギルドナイトすらも用心している謎の連中に一瞬身を震わすが、すぐに質問へと切り替える。今までこの話を聞かされるまでは、クリスはハンターが行方不明になったと言う出来事は特に耳にはしていなかったし、周囲でそれらしき事件が起こっている様子を直接見てもいない。

 その為、クリスから見れば、真新しいニュースである事に間違いは無い。恐らくそれは、他の三人、フローリックとジェイソンを除く者達も同じ事であろう。

「いや、いっつからだぁ〜って言われたらなぁ……。いつからだ、あんまそこんとこは特定出来ねぇけど結構最近だよなぁ?」

 いつも怒っているような顔つきを見せているフローリックも、その質問をされた途端に、顔を緩め、天井の方を向きながら、返答に悩む。だが、結局明確な答えは見つからず、思いついた事だけでも言ってしまおうと、その場を乗り切る。



「最近……ですか? そう言えば最近何かと色々妙な事件起こってませんか? えっと、この前はこの街で爆破テロが起きてしばらく出入り口封鎖されたり、後……あ! もう一つありました。あたし達が行ったあのクエストですけど、そこでもなんか妙な連中がジャガーヘッドって言う毒草狙ってたんですよ。それで確か実験がどのこのって言ってました」

 つい最近発生し始めた謎の事件の数々は、ミレイの口を動かし始める。

 その事件の数々を思い出せばそれだけ、話は継続され、そして、爆破テロ、自分達が受けたクエストで出会った謎の装備を纏った男二人組の所にまで進む。

 今までミレイは飛竜の討伐のクエストは何度も受けた経験を持つが、それでも特定の素材を欲しがる民間人の為に、とか、行商人の通路に現れたから、予め駆除してくれ、等のものであったが、今回のように、人間を相手に戦うクエスト等は初めてであった。最も、受注書には、飛竜が出てくるとしか、書かれてはいなかったのだが。



「ああ、そう言やあお前らニムラハバの丘行ってたっつってたもんなぁ。いや、まさかそいつらとその謎の連中っての、まさか同族だとか、ってのは考えらんねぇか? オレ的にはすっげぇ怪しい気ぃすんだが」

 確信こそは出来ないものの、フローリックはとてもハンター業の世界では考えられないような非人道的な活動をする者達を結びつけ、仲間同士であると考える。

 世の中、それぞれ別の世界で悪事を働く人間は存在するであろうが、その者達が意気投合し、手を組むとは限らない。それに、結びつける証拠は何も無い。だから、それはあくまでもただの推測となってしまうだろう。



「んと……どうだろ」
「分からないですよ。どっちにしても油断は出来ないと思います」

 アビスも折角だから何か反応してみせようとするも、何を言えば良いか、結局思いつかないまま、ミレイにその権利を奪われてしまう。その二者に関連性が無いとしても、どちらにしても油断はまず不可能だろう。ミレイは実際には流してはいないが、まるで頬から汗が垂れるような雰囲気を思わせながら、その青い瞳に真剣な色を浮かべる。



「まっ、ドントウォーリーだぜ。お前らだって一流ハンターなんだろ? だったらそんな奇人変人がアタックしてきても追っ払……」
「お〜い! ジェイソン、だったか。あんたが頼んでた双剣の強化、完了したぜ! 来てみなよ!」

 それでもジェイソンは怖がった様子等まるで見せず、堂々とした雰囲気を隠さずに指を動かしながら話し続ける。

 そんな時だ。いくつも並んだ鉄床かなとこ、そして一つ一つの為に設けられた、人一人くらいは簡単に放り込めてしまいそうな、大きな口を開いた炉。その中では真っ赤な炎が生き物のように燃え盛り、動いている。

 そしてそのそれぞれの炉の前には二人一組でハンマーを持ちながら、目の前の鍛える武器を叩いているが、その中の一人が、ジェイソンを呼びつけたのである。

 初老ながらも、長年の経験を思わせる逞しい両腕の筋肉が何とも男らしい。



「よっし、遂にタぁイムが来たらしいじゃねぇかよ〜。所で、フローリック、お前の方もちょっと様子、ルックしてきた方がいんじゃねぇか?」

 ジェイソンは遂にと言わんばかりに、愛用の双剣が更なる力を蓄えて手元に帰ってくる事を期待しながら、それを両腕を天に向けて伸ばすと言う行為がその期待を表現しているであろう、フローリックに喋りかけながら、自分の双剣を預けた場所へと足を運んでいく。

「オレかぁ? そだな、ちょっと様子見るってのも悪くねぇかもな。んじゃ、お前らはそこで適当にやってろ」

 それだけ言うとフローリックも立ち上がり、アビス達だけが残されたテーブルの方に顔だけ向けながら、いくつも並んだ鉄床かなとこの場所、ジェイソンとは違う場所へと赴いていった。



――取り残された四人のメンバー。彼らはこれから何を考えるのか……――



「適当にやってろって……。何してりゃあいいんだろ、おれら」

 急に残されたアビス達四人であるが、スキッドは一体何をして待っていれば良いのか、ややずれていた帽子の鍔を持って帽子を整える。

「あ、そうだ、アビス君、ちょっと、話があるんだけど……、あ、折角だから、ミレイ、ちょっと場所移ろう、そっちに」
「え? あ、うん」

 突然クリスはアビスに対して何か話したそうな素振りを見せ付けるが、今四人は横に並んだ状態であり、話をするにはやや体勢的にきついものがある。それならば、女の子達はアビス達と正面の位置に来るようにすれば、話しやすくなるだろう。

 それを思ったクリスは、ミレイにアビス達の正面の場所に座り直すように指を差しながら誘導する。



「んでクリス、話って何?」

 座り終わったクリスを見ながら、アビスはこれからされるであろう話題が何かまるで悟る事も出来ず、ただ普通に聞こうとする。

「ああ、あの、今回の戦いの事でちょっと思った事があって、いつ話そうかって考えてたんだけど、今話してもいいかな?」

 クリスは両肘をテーブルに付き、両手を合わせて握りながら、思いつめたような悲しげな表情で、アビスに改めて話を始めても良いか、質問を投げかける。



「いいか? って……、別にいいけど、話って、何?」

 突然いいかどうか聞かれて戸惑うも、話してもらわなければ、何も分からない。アビスは再び、話をしてもらうよう、言う。

「んとね、片手剣、あ、アビス君って私と同じ片手剣の使い手でしょ? その、ちょっと危ないな〜って思った事が一つあって……」

 クリスは片手剣に関する話をしようとしているのだが、どこか凄い抑え気味である。まるで相手を気遣ったような、思いやりが見えてしまう。



「危ない? それって?」

 アビスはまるで気付いてないかのように、首を傾げながら、一体クリスが何を言いたいのかを想像してみるが、浮かばない。

「アビス〜、お前なんか変なおっちょこちょいでもやらかしたんだろう? お前すっげ〜女々しいなぁ!」

 気付いた様子を見せないアビスに対し、隣にいるスキッドは笑いながらクリスに何か面倒事でもかけたのだろうと、馬鹿にするかのように指で突くように差しながら、からかう。



「あ! 違うの! そんな別に問題起こした訳じゃないけど……」

 騒がしくなるスキッドを止めようと、やや無駄とも言えるあたふたと顔の前で両手を振る行為を見せるクリスであるが、その様子を見たミレイは突然立ち上がり、スキッドに近づく。

「スキッド、ちょっといい? 立って」

 ミレイはスキッドの肩を叩いて訊ねた後、立つようにと、叩くのに使った右てのひらを上に向け、そして上に向かって扇ぐような動作を見せ付ける。



「あぁ? なんだよ、おれ別に変な事言ってねぇだろ?」

 スキッドは自分が好からぬ事でも口走ってしまったのかと、結局は立ち上がってはいるが、状況を読めないスキッドはその場できょろきょろし始める。

「いや、別に変な事って意味じゃないけど、今は片手剣使い同士の話でしょ? あたしらがいたら邪魔になると思うから、あたしらはちょっと別んとこ行きましょ」

 ミレイは弓使い、スキッドはボウガン使いであり、片手剣同士の話では邪魔になってしまうかもしれないと思ったミレイは、スキッドの腕を掴んで引っ張り、別の席へと足を運ぼうとする。

 とは言っても、ミレイは邪魔するような発言はしないだろうが、スキッドの場合は先ほどの件も考えれば、確実に口を挟んで片手剣使い同士の会話の成立の妨害をしてしまうだろう。だから、ミレイはスキッドをどかす代わりに、どかす本人もいなくなろうと考えたのだ。



「ちょ、別にいいだろ? おれらもいて」
「いいの、あたしらいたら邪魔になるから。それじゃ、クリス、ゆっくり話していいわよ」

 スキッドの言い分を無視し、引っ張って歩き続けながら、、クリスに伝える。



「あ、ありがとミレイ。でも別に邪魔じゃないんだけど……まいいや、えっとね、アビス君」

 ゆっくり話が出来ると言う安心感、そして、友達であるスキッドを庇いたいと言う複雑な心境に陥るが、まずは話をしなければ何も始まらない。クリスは、決心するかのように、アビスに話を持ちかける。

「うん」

 アビスは、一体何を話されるのだろうかと、一応『危ない』と言う単語を持ちかけられたのだから、嬉しいと言う意味での期待は持てないが、聞かない訳にもいかず、ただ、普通に頷いた。

 クリスは再びテーブルに両肘を置き、両手を握り合わせる。

前へ 次へ

戻る 〜Lucifer Crow〜

inserted by FC2 system