「そう? 絶対あっちでも……」
「ジュリー、一回その話いいから、それよりあんたさあ、いつまでやってる気なの? もう何っ回言ったの、この話」

 姉の名前はジュリーと言うのだろう。ジュリーはそのミレイのとても人とのやり取りには向かないであろうそのまるで生気の感じられない死んだような短い言葉しか発しない態度をきっとアーカサスの街の方でも曝しているのだろうと責めようとするが、幸か不幸か、母親がそれを止めるも、その止めた母親の方もミレイにとっては嫌な内容であろう話を持ち込む。その口調も怒っていると言うよりは、呆れてもう疲れていると言った方がいいだろう。

「いや……」

 ミレイは再び生気の抜けた声を発する。それは否定の意味では無く、単なる返事のつもりであろう。下を向いてテーブルの向いに座っている母親と姉と目を合わせようとしないが、向いの二人はミレイを見つめ、そして逃がさない。

「いい加減帰ってきたらどうなの? こっちも折角楽な方考えてやってるってんのにいつまであんなカッコだけつけた事やってんの?」

 まるで母親の援護でもするかのように、姉、ジュリーは肘をついてだるそうにしながら、ミレイを睨む。

 恐らくは、ミレイのハンターと言う職業に対して不満を抱いているのだろう。この家庭ではハンターを嫌っているようではあるが、ミレイはそんな環境の中でのハンターだ。過去にも何度かこの話をされているのだろうか。

「……」

 ミレイは表情一つ変えず、目線も全く変えず、まるで石像のように硬直した状態を保ち、何も喋らないし、言い返さない。

「なんで喋んないの? まさか頭可笑しいの? ってか可笑しいから喋んないんだもんね。普段人と喋んないからこう言う時もなんも喋んないで、馬鹿じゃん。ちょっと精神科でも行った方がいいんじゃないの?」

 アビスにはどうしてそのような、侮蔑した態度を実の妹に向かって言えるのか、意味が分からなかった。アビスから見れば、ミレイはとても話好きではあるし、目上の者に対してもそれに相応しい態度をいつも見せていた。だが、今の言い分では、まるで無口、と言うより障害者のような存在として捉えられてしまう。

「そうだね、昔っからこうだからね。なんか喋っても『あ〜』とか『う〜』とかしか言わないし、話す勉強またいちからさせた方いいかもね。見た目はいい年なのに心は幼稚園児ってやつ?」

 母親もその末節に乗り出し、躾けると言うよりは、苛めると言った方が良いような話し方で、ジュリーへと加齢によってやや細くなった目を向ける。

「そうだね、もうハンター以前の話じゃん。ははは」

 ジュリーはそれを聞くなり、わざとのように、笑い声の時に発する声をはっきりと聞こえるように発音する。その時だけ、ジュリーは笑顔を見せたが、それは決して周囲全体が喜ばしくなるものでは無い。

「え、いや、別にそんな事無いですよ」

 これだけの事を言われても、全く口を開こうとしないミレイにやや溜まりかねたのだろうか、アビスはいつもの態度で、笑い出す母親とジュリーにそう言った。と言うよりは、対抗したと言った方が正しいかもしれない。ミレイの為に。

「え? そう? どうせこいつあっちでもなんも喋んないから周りから変人扱いでも受けてんじゃないの?」

 アビスのその咄嗟に挟み込んだ言葉に一瞬だけジュリーは自分自身の中で描いていた妹を否定された事に戸惑いを感じるも、それでも結局は自分の描いていたものを通そうと、妹をアビスの目の前でも堂々と過小評価する。

 相変わらず言われているミレイは何も発言しないが、助け舟を出してくれたアビスを無言で、横目で見る。出来るだけ目の前の二人に気付かれないように。

「いや……変人だなんて。あっちじゃあ普通に俺と話したり、後他の仲間とも結構楽しくやってましたけど……。えっと、今日は多分疲れてんじゃないかなって思いますよ。俺が寝てる間もずっと見てくれてましたし……」

 一体今までどのような生活をこの家で過ごしてきたのだろうか。姉、ジュリーのその発言に一種の恐怖を覚えながらも、ミレイと今まで関わってきた経緯を大した特徴もつけずにただ言った後、機関車での出来事を思い出し、ミレイには一睡もさせなかった為にきっと喋るのに疲れてしまったのだろうと、庇うも、それは母親には通用しなかったようである。

「いいよ、別に庇わなくても。いっつもこれなんだよ」

 母親はアビスの台詞を右手を差し出して止めると、すぐにそのアビスに向けていた特に嫌気を差さない視線を、ミレイに向け、同時に非常に嫌気を覚えるような視線を飛ばし始める。

「疲れてなくてもいっつもこんな感じだよ。いいよこんな奴庇わなくても。こいつ人と普段喋んないし、敬語だってまともに使えないし、喋りかけてもいっつもちっちゃい声しか出さないし、君もホントはなんじゃないの? そんな変な奴と一緒にいてさあ」

 ジュリーは最早ミレイを実の妹として見ていないのだろうか、妹に対する扱いとは到底思えないような非道な言葉を何故か笑みを浮かべながら、アビスに訊ねてくる。まるでミレイからアビスを引き離すような、非常に惨憺さんたんな光景である。

「え? いや……そんな……」

 アビスにはジュリーの言っている事が全く理解出来なかった。一応ミレイのフォローにはなっているつもりであるが、どうして対人関係に問題があるような事をそこまで言われるのか、まるで理解出来ない。

「いいってジュリー。それよりあの話に戻んないと。アビス君一回二階に行っててくれる? ちょっと真剣な話になるから」

 対人関係に対する話、末節ではあったが、それを静止させたのは母親の方だった。とは言え、母親も面白がるようにその話に充分乗っていたが、今回話すべき内容では無い。そして、その真剣な話にとってアビスは邪魔になるだろうと思い、席を外すように言ったのだ。

「あ、はい、分かりました、あ、ミレイ、お前の部屋どこ?」

 ミレイとは恐ろしい程に対照的な、いつもの明るい、とは言ってもだらしなさを雰囲気的に残したようなそれではあるが、抑圧等が感じられない声で、立ち上がりながらその場所を聞く。

「えっと……上行って……」
「今二階行けって言ったんだからそんな事言わなくていいんだって。真ん中のドアだって言えばいいだけの話だし。どんだけ頭鈍いの」

 二人から受ける鎮圧によってミレイはまともにアビスに場所を教えられず、途切れ途切れにゆっくりと口を動かすが、既に『二階』と言う言葉が階段の先へ行く事を示していたと言うのに、再びそれと同じ意味を持つ言葉を使ってしまったのが大きな過誤であった。

 再び姉から最早苛めにも近いような事を平然とした顔で言われ、更には短くも、非常に心に突き刺さるような悪口を飛ばされる。とは言え、そこまで酷く言うような事でも無かっただろう。それとも、ミレイのはっきりと喋らない態度に腹でも立てたのだろうか。

 ミレイは僅かに眉を潜めて力の籠らない目で一瞬だけ睨みつけるも、ずっとミレイの事をまるで監視でもするかのようにミレイから目を離す事を忘れないジュリーはその様子を見逃すはずが無かった。

「何その目。あんたが鈍いから彼も困ってんじゃん」
「ああ、いや、えっと兎に角真ん中のドアなんだな? な?」

 恐らくはその些細な事で睨まれるのは当然の事かもしれないが、ジュリーは対応を絶対に忘れようとはせず、必ずと言っても良いほど悪口を添えながらミレイに接してくる。

 その光景を作り出してしまったのは、本人は確実に悪気は無かっただろうが、場所を聞いたせいでまたミレイが好き放題言われていると思い、ジュリーの言葉を押しのけ、アビスは非常に気まずそうに再確認を取る。

「……うん」

 ミレイはその青い瞳を崩れそうにしながら、立ったままのアビスに小さく返事をする。

「分かったよ、ありがとう。……ごめんな……」

 アビスはその場から歩き出し、軽く礼を言った後、小さく謝った。

 ミレイは返事でもしようとしたが、そしたらまた何か言われるのでは無いかと恐怖を感じ、ただアビスを見つめる事しか出来なかった。しかし、結局その後の結末は変わらなかった。

「いいよ謝んないで。なんで謝るの? こいつが鈍いだけなんだし」

 結局言われてしまった。ジュリーはまるで容赦と言う言葉を知らないかのように、平然と口に出す。アビスはミレイを庇うつもりで謝罪したと言うのに、そこからまたミレイに対する悪口を産んでしまい、非常に申し訳無い気持ちになるも、何も言えなかった。

 言えば、またミレイに責められる理由を渡してしまうかもしれない、と思ったのだ。



――アビスは無言で、居間を後にした。そして、ミレイは遂に孤独と化してしまう……――



 居間のドアが閉まる音が静かに響く。その音は、どこかミレイに更なる絶望感を与えるような印象を受ける。

「所であんたいい加減そんなハンターなんてやめたら? 家の事情分かってんだよね?」

 母親はドアが閉まるのを目だけで確認すると、俯いてそのままの状態でまるで死んでいるような状態を見せているミレイに向かって威圧感の篭った声を浴びせかける。

「まあ……うん……」

 ミレイも馬鹿では無い。家の事情は分かってはいるが、返事をする時の様子は恐ろしいほど暗い。唇を殆ど動かさず、まるで腹話術でもしているかのような微小な動きしか見せない。そして、その音量も非常に低い。二人とは比べ物にはならない。

「じゃあなんで辞めないの? やっぱ馬鹿だから? 脳みそ赤ちゃん以下だからなんも考えられないって?」

 姉も母親の援護のように、追い詰めるような発言をぶつけてくる。そしてさりげなく言った軽い悪口から何か発展させたものも思いついたのだろうか、度の越えた悪口も浴びせる。

「いや……、ちゃんと……払ってるじゃん……」

 ミレイはその悪口には決して反抗せず、そしてやるべき事は済ませていると、自信の無いような低い声で言った。だが、二人の責めるようなやり方に多少の敵対心を覚えたが為にこのような自分がしている事を伝えようと考えたのかもしれない。

「払ってるって、借金の養育費の事?」

 母親がその払っている物の確認を取ると、ミレイは軽く俯いた状態のまま、小さく、ゆっくりと頷いた。

「払ってるって、ちっとも出してないじゃん。今月は、まあいいとは思うけど、先月なんてあれっぽっちじゃん。どうせあんた隠して遊び歩いたりしてんじゃないの?」

 ミレイにとっては充分出しているつもりである。生活費、そしてハンター業を営む為の経費、そしてある程度の自分の小遣い。そしてそこから差し引いた分で、その自分自身の借金を返しているのであるが、あくまでもミレイにとっての『充分』である。二人にはそれは伝わらないし、伝える為の気力は無い。

 だが、月によって支払っている量が変わると言うのは少し気になるが。

「それ結構ありえると思うよ。こいつずるいし。昔だってお菓子買っていいからって小遣い貰ったらなんか買わないでそのまま取っといてたりしてたしね。しかも買ってないのに買ったとか、途中で嘘吐いて食べたとか言ったりしてさあ、折角お母さんはさあ、お菓子買ってほしいからあげたってんのに人の気持ちなんだと思ってんだろうね」

 多少なりとも返答を期待していたのか、少しだけ姉は間を空けてやったつもりであったが、ミレイからの返答は全く来る様子は無かった。だからこそ、再び嫌みしか出さない口を開いたのだ。

 平然と母親と同情し、ここでは関係無いであろう文字通りの昔の話をし出し、元々苛々が溜まっているであろう母親を更に怒らせてやろうと企むかのように、それを楽しげに喋りだす。

「ホントにね。あの時ホントぶっ叩きたくなったもん。今思えばホント腹立つよね」

 それはまだ幼い頃の話である。確かに相手が与えた目的を破って貰った物をそのまま自分のにしてしまうのは悪いかもしれない。だが、当時はしっかりと事情も聞いて母親も納得したはずだった。無論、多少なり小言は言われたが、それは一応は解決の道を辿ったのだ。

 だが、今掘り起こされた事によって、今のこの重苦しい環境と混ざり合い、それは一気に憎しみの過去へと変貌し、そして母親は今更思い出したその過去に訂正でも加えるかのように、非常に誇張でもしたような仕打ちを出し始める。

 再び末節へと移動し始めた二人に対しても尚ミレイは全く無言で座っている。二人は楽しそうであるが、ミレイは全く楽しくない。

「ってかそれよりさあ、ハンターってクエストいっつも好きな時に受注出来るってもんじゃないじゃん。それにクエストあっても他の連中に取られたら話になんないし、ってかちゃんとクエスト見つけたら即受注ってやつ、やってんの?」

 姉は何故かハンター業に詳しく、末節から抜け出した後、無言のミレイにクエストの受注の話を持ち出してくる。

 確かにクエストとは、手っ取り早く言えば、早い者勝ちである。確かに各地から様々な依頼がギルドへと飛び込んではくるが、そこに埋め込まれた金額を気にするならば、手早い判断が要求されるだろう。そこで立ち止まっていれば、その間に他のハンターに取られてしまう危険も非常に高い。

 しかし、ジュリーの考え方は非常に冷たかった。もしかしたら、ミレイはクエストを早急に受注していないのだろうかと、疑ったのだ。

「いや……やってる……けど……」

 しっかりと受注しているのは事実であるが、ミレイはそれでも非常に自信の無いような低い声で返事をする。

「やってないじゃん、どうせ。家でどうせただゴロゴロしてるだけなんじゃないの? 適当に簡単なやつばっか受けて、キノコ狩りとかそんなのばっかやってちまちまやってんじゃないの? そんなんじゃあ一生借金返せないよ? どうせ飛竜やるったって友達いないからそのクエスト受注したくても出来ないってやつじゃないの?」

 ジュリーはミレイの言い分を信用しなかった。寧ろ、ミレイの評価を悪くしてやろうと、次々と根拠の無い事を並べ、そして最終的な目標を達成する事に対しても悪口を言うような台詞を平然と飛ばす。

 そして、飛竜であるが、確かに飛竜相手に単独で挑むのは不可能では無いが、非常に難しく、そして命も非常に危ない。仲間や友人がいてこそそんな困難も乗り切れるものではあるが、ジュリーから見れば、ミレイには友達がいないように思えるのだろう。

 相変わらず無言なミレイに、母親が喋りかける。

「それよりあんたさあ、友達いんのかい?」

 母親はジュリーの台詞を聞いて思いついたのだろうか、ミレイのその二人から見た人格を考えながら、質問をするが、質問に答える前に、ジュリーが再び横から入ってくる。

 最も、質問に対してミレイが即答するかは分からないが。

「いないんじゃないの? ってかあのアビス君って、あんたの何?」

 勝手に答えを決め付けながら、ジュリーはアビスを思い出し、ミレイとの関係を聞こうとしてくる。答えは既に決まっているようだが、それなのに聞いてくる様子を見ると嫌みのようにも見えてしまう。

「聞いてんだけど。なんで返事しないの? まさか耳つんぼ?」

 無論ミレイにははっきりと聞こえている。ただ答えをどうだそうか迷っていただけである。しかし、迷う仕草を見せず、相変わらずただ固まっているようにしか見えないその姿はただ言っている事を無視してるとしか思えない。そう思ったジュリーは体の悪口も飛ばしながら催促した。

「先輩……」

 実際の所、アビスはミレイとは友達ではあるが、そんな事を言ったら二人から何言われるか分からない為、敢えてそのような言い方を選択した。実力は実際ミレイの方が上であるが、一応目上としておいた方がこの後にやってくるであろう問題が少なくなるだろうと、力の抜けきった思考回路を巡らせて口に出したのだ。

「あんたの、先輩?」
「……うん……」

 具体的に言わなかったのがいけなかったのだろう。母親はミレイに確認を取ると、ミレイは小さく返事をする。

「あれ、アビス君って先輩だったの? でもこいつなんか凄い馴れ馴れしい態度……、あ、そうか、敬語使えないんだったね、こいつ」

 先輩が相手なら、普通はそれなりに敬意を払うのが普通である場合が多いだろう。だが、ミレイはアビスを紹介する時、及びまだアビスが居間のテーブルにいた時、敬語らしい敬語を一切使っておらず、どうしてそのような相手に敬語を使わずに喋っていたのだろうかと、ジュリーは考えたが、答えは一瞬で現れた。

 ミレイは敬語を使えない少女なのだと、ジュリーは考えていたからだ。

「そうだったね。きっと彼も変な奴だって思ってんだろうね。じゃあ友達は結局いないと」

 ジュリーに続くように、母親もジュリーと二人だけで喋るように、横を向きながらまた無駄に盛り上がり始める。

 そして突然ミレイを見てくるが、ミレイは相変わらずの無言である。

「やっぱりいないんじゃん。ってかこいつ変人だし、それにもし友達いたとしてもどうせ変な奴しかいないんじゃない? それともホントに変な奴ばっかだからいてもいないってしか言えないんじゃない?」

 ジュリーのまるで容赦の感じられない言葉がミレイに襲い掛かる。ミレイの行動全てを否定しているようにも見えてしまう。だが、ミレイはそれでも全く無言である。心の中でも一体何を考えているのか、想像すら出来やしない。



*** ***



(そこまで言う事無いだろ……)

 アビスは居間の外にいた。だが、言いつけ通り、ミレイの部屋に留まっていた訳では無い。途中でミレイが心配になり、居間のドアの前に立って居間から漏れている声を、耳をドアに耳を当てながら黙って聞いていたのだ。

 聞こえてくるのは母親と姉の責めと言う意味の含まれた声だけであり、ミレイの声は全く聞こえてこない。一応頷いたりはしているようであるが、ミレイの微小な声はアビスにまでは届いてくれていないらしい。

 アビスが一番違和感を覚えたのは、友達の話である。





――どうしてミレイには友達がいてはいけないのだろうか――



アビスから見れば、ミレイは非常に真面目な性格をしており、しっかりと相手を見極めて
それに相応しい応接をしている女の子だと思っている。

確かに怒れば非常に怖い所もあるが、それは性格が変だと言う理由にはならない。
悪いのは、怒らせたアビスなのだから。

それはさておき、アビスから見れば、居間の様子は怒られていると言うより、
責められているとしか思えない。

些細な事から体の悪口、それも根拠の無い内容を半ば説得力の感じられるように口に出し、
無抵抗な事をいい事に、攻撃を一切止めようとしない。

だが、何故ミレイは全く言い返さないのだろうか。
いつもなら、特にスキッド相手なら容赦無い言葉の反撃を仕掛けると言うのに。





 アビスはドアから離れようとはしなかった。一体ミレイの家庭関係はどのようなものなのか。直接見た事は無いが、やはりいくらなんでも可哀想過ぎる。

 アビスとしてはミレイの友達として意識はしているが、まるでそれを否定されるような事をミレイと向かい合っている二人の口から聞き、間接的に自分も責められているような心境になってしまう。



*** ***



「ってかさあ、なんでずっと下向いてんの? 普通人と話す時ってちゃんと顔見て喋るもんじゃん」

 姉はミレイの視線が気になったのだろうか、視線を二人の目と合わせていないミレイに向かって、呆れたように言い捨てた。

「そうだよね、そんなのちっちゃい子供だって分かってる事なのに、なんで出来ないんだろうね」

 母親も同情し、肘を付きながら年齢層の低い者でも当然のように出来る事をどうして充分成長しきった歳で出来ないのか、姉と同じように呆れているような素振りを見せながら、ミレイを睨んだ。

 だが、相変わらずミレイは全くの無言である。まるで好き放題言ってくるのを許しているかのようにも見える。

「やっぱりさあ、そう言う人のとの付き合い方とかも含めてハンターなんて無理だってこっちは言ってんだけど。どうせあっちでも喋んない、人と顔合わせない、って感じじゃん? やっぱここで人と付き合う勉強でもしながらここで働けば? 絶対無理だから、あんたにハンターなんて」

 全く無言のミレイに対し、ジュリーは畳み掛けるように責めの言葉を浴びせ、強制的にハンター業を辞職し、この街で働く事を半ば無理矢理と言った感じで推奨してくる。

「いや……」

 ミレイは久しぶりに、とは言っても生気は殆ど感じられないものの、返事なのか、否定なのか、短い言葉を非常に小さく発する。

「いやって何? ってか第一思ったんだけどさあ、アビス、君だっけ? 彼といっつも何喋ってんの? ちょっと聞かせてくれる? 凄い気になんだけど」

 ミレイの返答から意味を探り出すのが難しかったのだろうか。だが、それを放置し、ジュリーはミレイのその非常に暗い、と言うよりも喋ると言う行動に著しく問題の見えるその様子から、今は二階にいるであろうアビスとどのような接し方をしているのかが気になってしまい、質問として投げかける。



――無論、いつもは狩猟の話は勿論、その他アビス達少年チームが持ち出す少し馬鹿な話で
少しだけ笑ったりはしているのだが……――



「黙ってても分かんないんだけど。ってか言ってる内容理解出来た? それともやっぱり頭馬鹿だから分かん……」
「狩りの……話……」

 黙りっぱなしのミレイを見てそれが癇に障ったのだろうか、一度舌打ちをしながらジュリーは再び手馴れた口を動かし、再び身体的な悪口を挟もうとしたが、ミレイの弱弱しい返答が何とかジュリーの言葉を遮った。

「あぁ? なんて言ったの? 聞こえないんだけど」

 奴隷にでも向けるかのような、非常に偉そうなその態度で、弱弱しいミレイにも全く動じずに責め立てる。

「狩りの……話」

 僅かに声の音量を上げ、先ほどと同じ内容を出すが、相手にそれが伝わったかどうか。

「ああ、ちゃんと喋ってはいるんだね。でもあんたただ相手が喋ってる事聞いてるだけで自分からはなんも言わなさそうじゃん。そんなんじゃあやってけないよ」

 母親は今更と言ったかのように関心し、だがその後には冷たさの篭ったような発言を飛ばす。ミレイのその陰湿な性格では、人とは上手くやっていくのは無理であると。

「多分こいつ一生治んないと思うよ。それより今までこっちが喋ってきた事ちゃんと頭ん中で理解出来てるかも分かんないしね」

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