ようやくアビスはタインマウスの沼に到着し、支給された地図や傷薬を持ち、夜の沼地の奥へと進んでいく。

 湿地帯であるから、空気は湿っており、心地良いとは思えない空間でありながら、更には道の傍らでは紫色の液体が気泡を水中から弾かせながら待ち構えていた。

 その濃い色が非常に毒々しい印象を与えるが、実際に毒が含まれている為、人間は侵入してはいけない場所である。入れば、身体を蝕まれてしまうのだ。



「ここにいるって言ってたよなぁ……。確か毒鳥竜どくちょうりゅうだっけなぁ……。どこいんだろう……」

 アビスは、モンスターの姿が見えないその地を、武器を背負ったままの状態で駆け足で進んでいった。

 ハンターは、その狩場で採取する事の出来る植物等の素材を集める事がある。単にその素材が珍しいという理由で集める者もいるが、基本的に別の素材と調合し、狩場での行動に有益な道具を作る目的もあるのだ。

 例えば、薬を作る事が出来れば、何か自分の身体に異変が起きた時に、それを助ける事が出来る。



 毒キノコを採取しながら、アビスはどんどん奥へと歩いていくが、道中で何故か違和感を覚え始めていく。

 随分と進んだというのに、モンスターの姿が一向に映らないのだ。普段ならば、草食のモンスターが静かに草を食べていたりしているというのに、今はその姿は無い。

 無論、他のハンターを意図的に襲ってくるモンスターの姿も無かった。



 姿が見えないとなれば、アビスも緊張感を保つ事が出来ない。気分を緩めながら歩き続けるが、そこに、1つの足音が地に響く。アビスの緊張感は、すぐに復活する。

「あれ? まさかこれって、あいつ?」

 アビスは本当に毒鳥竜の長が現れるのでは無いかと思い、すぐに背中からバインドファングを取り、構えた。

 しかし、現れたのは、長と呼ぶにはやや小さい、それでも一般的な人間の身長と並ぶサイズの毒鳥竜である。



「あ、良かった……デカいのじゃなくて」

 一瞬安堵の表情を浮かべるが、敵である事に代わりの無い相手に向かって、片手剣の先端を向けた。

前へ 次へ

戻る 〜Lucifer Crow〜

inserted by FC2 system