その1匹に続くかのように、何匹かの毒鳥竜が現れ、そして本能のように、アビスへと襲い掛かる。

 アビスだって黙っているはずが無く、向かってくるモンスターに対してバインドファングを振り下ろし、そして狙われたと気付けば、すぐに行動に入り、回避する。

 その途中、遠方の茂みが揺れるのをアビスは感じ取った。

「あれ? あれってなんだよ……まさか、ホントにあいつ!?」

 手を止める余裕は無いが、驚く余裕はあったらしい。一応手は抜いていないものの、それでも毒鳥竜達はまだ2頭しか倒せていないのだ。

 現れたのは、大きな体躯を持った毒鳥竜だ。

 赤く毒々しい鱗はそのままに、頭部には例の紫色に染まった鶏冠が備わっている。まさに、おさと呼ぶに相応しい姿、体格を誇っている。

 しかし、アビスはと言うと。



(あれ……あんなにデカかったっけ?)

 毒鳥竜の長の体格は、せいぜい子分の固体の1.5倍程度と生態書では見ていたアビスではあるが、今回出会った毒鳥竜の長は、それを平然と超えており、以前戦った怪鳥と同等の身長を誇っているのだ。

 つまり、子分の2倍は平気で越えるサイズだったのだ。

 サイズだけを見れば、それはまさに子分を統治する主に相応しい。



 きっとその長は、部下達の未熟な攻撃手段に怒りを覚えたからか、自分のライン上にいる子分達を無理矢理どかしながら、真っ直ぐとアビスに向かっていく。

 アビスも空気が変わった事を察知し、攻撃の相手をすぐに切り替える。

 だが、長の攻撃は非常に激しく、噛み付く為に振り落とされる頭部は、まるで巨大なハンマーを連想させ、そして飛び掛り行為は岩石の落下を連想させる。

 決して戦闘経験が豊富とも言えないアビスにとっては、苦痛の一言だ。それに、子分達もまだ全員を倒せている訳では無いのだ。

 それだけでは無く、アビスは自分の剣、バインドファングを酷使し過ぎた為に、刀身である牙の部分が欠け始めていた。こうなってしまえば、相手に傷をつけるのが非常に難しくなってしまう。だからこそ、支給されている砥石といしを使わなければいけない。

 しかし、こんな敵だらけの場所で使うのは無理だ。研いでいる最中に噛み付かれるのがオチである。まずは逃げる事が先決だ。



 目の前に映る林に飛び込み、毒鳥竜達の目をあざむいた。

 木々の茂る空間であれば、毒鳥竜達も上手く進めなくなる上に、身軽な人間であるアビスならば、どんどん奥へと逃げ込む事が出来るのだ。毒鳥竜達が足を取られている間に、アビスは逃げていく。

 やがて、平地に辿り着き、灰色の胴体を持った4本足の草食竜のいる場所へと辿り着く。そこでは、ゆっくりと草を食している草食竜が映っているが、アビスを敵として見ていないから、アビスも落ち着いている事が出来る。

 そして、そこでアビスは砥石を取り出し、バインドファングの牙を1つ1つ丁寧に研ぎ始める。

 するとそこに、何かが現れる。

「俺の獲物をどうするつもりだ?」

前へ 次へ

戻る 〜Lucifer Crow〜

inserted by FC2 system