アビスはとりあえずは自分を殺そうとしてきたボウガン使いの赤い鎧の男から逃げ切れた為、1つ安堵の息を漏らすが、まだ毒鳥竜が残っているのだ。ある意味、あの男から助けてくれたとは言え、敵である事には変わりは無い。

 そして、もうアビスの武器であるバインドファングは、斬れ味を取り戻している為、戦うには充分である。

 向かってくる毒鳥竜達を斬り付け、そして麻痺毒を注入させる事によってその動きを麻痺させる。そして、足止めを食らっている隙を付き、今度は親分であるあの長に斬りかかる。

 攻撃をする際に必ずモンスターは反動を加える為に身体に力を込める。それこそが、人間に対して隙を生み出す事にもなる。それに、このモンスター達は基本的に正面しか狙えず、左右を狙う程身体が柔軟では無い為、尚更好都合である。



 時折毒も吐かれるが、それもアビスはしっかりと避けている。

 もし直撃すればその毒が体内に回り、立っている事すら厳しくなってしまうはずだ。しかし、当たらなければ大丈夫である。

 紫色のその塊は、正面にしか吐かれないのだから、正面に立たなければ良いのだ。

 毒鳥竜の長は徐々に傷を付けられ、麻痺毒もやがて全身に伝わっていく。そして、遂にその巨体の毒鳥竜が痺れによって動かなくなる。同時に、頭部が垂れ下がり、その時こそ、アビスにとっては一番のチャンスとなったのだ。



「よっしゃ、今だ!!」

 身長差の影響で今までは頭部に攻撃出来なかったアビスだが、今ならば攻撃が出来ると、懇親の力を込めて頭部目掛けてバインドファングを振り落とす。

 毒鳥竜の頭部からは激しく血が噴き出され、その巨大な長は僅かな呻き声を上げ、地面へと崩れ落ちた。

 しかし、まだ戦いは終わっていない。残りの子分がいるのだから、まだ気は抜けないが、おさを倒したアビスにとって、子分との戦いはそこまで苦痛にはならないはずだ。彼の手際は非常に良いものがあった。



 やがて、子分達も殲滅させアビスは剥ぎ取る為の小型ナイフを取り出した。

 おさからは皮を剥ぎ取った。飛竜とは異なり、甲殻が無い為、切り離すのはいくらかは容易であった。

 一方、子分の毒鳥竜からも、皮と鱗を剥ぎ取った。逆に毒の牙を剥ぎ取る事はしなかった。毒腺どくせんと繋がっている為、下手に切り離して毒でも自分に付着してしまえば困る事になる。だから、牙の方は諦めている。

 因みに、以前集めた翠牙竜の牙は、回収班がモンスターの死体を回収した際に、ハンター自身が剥ぎ取った素材とは別に、報酬として新たな素材を手渡すのだが、その時に牙を手に入れている。

 だから、今回もその手で行こうとアビスは考えたのだ。



 しかし、帰りの馬車の荷台の中で、アビスはあの男の事が頭から切り離す事が出来なかった。

 なぜ、自分を殺そうとしてきたのか、そして、その背景には、多くのハンターが犠牲になっている恐ろしい事実もあるという事があり、徐々に寒気が走ってくる。しかし、今考えた所で、その答が出てくる事は無いだろう。

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