「君は?」
初めてアビスの姿を見たガロトは、早速と言わんばかりに訊ねる。
「俺アビスってんだ。君達の援護頼まれたから来たんだよ。とりあえず宜しく」
アビスは自分の名前を伝え、そして、ここに来た経緯も簡単に説明する。一時的とは言え、共に戦う仲間であるのだから、軽く笑顔を混ぜた。
「確か君ガロトって言ってたよな? 頼れるかどうか分かんないけど、俺頑張るから、宜しく!」
自信が無くてもアビスはハンターであるから、必ず役に立つ場面を作りたい、そして見せたいという一心で、改めて挨拶を交わす。
「分かったよ。ちゃんと頼むぞ」
ガロトはハンマーを構えながら、深緑竜へと向かっていく。アビスもその後ろを追いかける。
深緑竜は尻尾を振り回し、そして時には空中で縦に1回転する攻撃さえも仕掛けてきたりする。その為、単独で狩猟が出来れば一人前と認められる程の飛竜なのだ。
しかし、炎の球を吐き出している最中は足元に対する注意が散漫になる。
口内から発射させるのだから、何かの反動でその炎が器官にでも引っかかったりでもすれば、喉元が焼かれ、自滅してしまう事も在り得る。だから、攻撃される側も、する側も非常に危険なのだ。
そして、飛竜は巨体であるが故に走り出した後にそのままバランスを崩し、転倒するケースが多く、その隙を突くのもハンターの大事な部分なのだ。
「ガロト! まず尻尾狙おうよ! あんな長いもん振り回されてたら危ないし、こっちも攻撃し難いからさあ」
アビスは深緑竜の伸びた尻尾を指差しながら、ガロトに作戦を投げかける。
「まあ、オレらもさっきから狙ってたんだけど……。まあいいや、じゃ、オレはあいつの注意引くから、頼むぞ」
ガロトは深緑竜の正面へと進み、火炎球の発射を誘う。深緑竜の背後にアビスが回る。
火炎球が発射されたその時を狙い、アビスは尻尾を斬り刻み、ガロトは深緑竜の脚部を目掛けてハンマーを横振りにする。脚に走った鈍痛により、深緑竜は転倒する。
そこに追い討ちをかける為に、アビスはバインドファングに力を入れる。その結果として、深緑竜は尻尾を斬られたのだ。
「後ちょっとか?」
アビスは更に攻め込んだ。
緑色の鱗の内側に攻撃を受け続けていた深緑竜の動きが徐々に遅くなっている。全身に走る痛みに耐え切れず、身体を硬直させているのかもしれない。
おまけに現在は尻尾も斬り落とされている。蓄積された痛みは相当なものなのは間違いないだろう。
しかし、その時である。突然深緑竜の真上からジンが現れ、その太刀の刀身を真下に向けて降りたものであるから、着地と同時に見事なまでに深緑竜の首を貫通し、そのまま倒してしまったのだ。
「あれ? もしかして、終わった?」
ジンの太刀が深緑竜の首を貫いた瞬間、深緑竜はそのまま地面に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
戸惑いながら、ジンは深く突き刺さった太刀を力を入れて引き抜いた。
「見事ですよ! 狩猟成功ですよ!」
完全に動かなくなった深緑竜を調べたロジャーは、討伐が成功した事をジン、そしてその他の皆に告げた。さっきまで打撃を受け続け、皆の足を引っ張っていたジンが最後の最後で決定打を下したのだ。
「皆が最初どう戦ってたか知らないけど、まあとりあえず結果オーライでいいのかなあ?」
アビスは動かなくなった深緑竜を見ながら、両手を頭の後ろへと回した。
「……まあその通りかもな」
ジンもアビスの台詞を聞いて焦るような様子を見せながら、納得の表情を出した。あの3人の中で最も周囲をハラハラさせていたのはジンなのだ。
使った回復薬の量も、鎧に付いた傷の量も凄いものがある。どのようにして今までピンチを切り抜けてきたのか、アビスには理解出来なかった。
「アビスさん! オレ達のピンチを助けてくれてありがとうございました。なんと礼を言ったらいいか……」
ロジャーにとって、アビスの救いの手はたまらなく嬉しいものだっただろう。ロジャーは握手を求め、右手を伸ばした。
「別にそんな風に言わなくても……。俺だってまだ未熟だし、今回の戦いでまたなんか成長したような気もするしさあ」
アビスはこの救助を要請された事に対し、不満を抱く事は無かった。寧ろ、経験値を上げる為だと考えればこれもまた良い経験だっただろう。
「だけどさあ、俺だってあいつ狩るの手伝ったんだから、ちゃんと報酬はくれんだろうな?」
アビスだって折角苦労をしたのだから、それに似合うものが欲しいと、少しだけ人間らしい所を見せ付けた。
「別にいいけど、4人で分けるから分量は期待出来ないぞ?」
ガロトの言う通りである。4人で飛竜の素材を剥ぎ取れば、当然その素材の量も4分の1となる。だから、分量だけを考えれば利益は減るのは確実だ。
4人はそrぞれの素材を剥ぎ取り、そしてジンは大型の卵を持つ事を忘れずに皆はその巣を後にする。
3人よりちょっと遅れて深緑竜から離れるロジャーであったが、その時、深緑竜の顔面辺りで何か紅く光るものを見つけた。
それは、丸い宝石のようなものだった。
「ちょっと待って下さい! なんかこんなの見つかったんですけど……」
その丸く、紅い宝石を皆に見せ付ける。
しかし、誰一人としてその宝石に興味を見せる者は居なかった。結局その宝石のような塊はロジャーが貰う事となった。今の時点では、その宝石の意味を知る者は、誰もいなかった。