「……って訳でよぉ、なんかテロがどのこのって理由で結局ここで降ろされてよぉ、どうしよってとこだったんだよ」

 スキッドは酒場とは言え、一応酒が苦手な人間の為の配慮として置かれているアルコールの全く含まれない至って平凡なオレンジジュースをグラスから時折喉に流し込みながらこの村に滞在していた理由を話した。

「へぇ……結局お前もその……えっと、爆破テロだったかな。それに巻き込まれてとりあえずここにいる……みたいな感じだったんだぁ。あ、そうだ、今思ったんだけどさぁ……」

 突然ある事に気付いたアビスは緑色に染まったメロンジュースの入ったグラスを置きだす。



「どうしたんだよ?」

「アーカサスがまた落ち着いて入れるようになるのは俺らも待ってる事だってのはいいんだけどさぁ、どうやって行くんだ? あんなとこまで。まさかこっから歩いて行くとか?」

 さっきまではアビスは船を使ってここまでやってきた身ではあるが、アーカサスへ行くとなるとどうしても足だけで行くのは無理があるだろう。ましてや、再び船を使うにしてももうアビスをさっきまで運んでくれたあの船はもう遥か遠くまで行ってしまっているだろうし、別の船に乗ろうにも、この規模の小さい村では船を取り扱っている人間がいるかどうかも分からない。



「歩いてくなんてそりゃあ無理だろうがよ。まぁいいんじゃね? 別に船とか、なんかそんなの無くたって多分何とかなるとは思うんだけどなぁ」

 移動手段として最も頼れる船と言う存在を確実に借りれる保証が無いと言うある意味絶望的な状況に置かれていながらもスキッドは呑気に勝手にやってきてくれるかもしれない幸運をあてにしながら天井に向かって両腕を伸ばし、体の凝りをほぐす。最も、アビスにふざけた脅迫をしている余裕があったスキッドの体が疲れていたのかどうかは分からないが。

「何とかなるって、じゃあ結局歩くってんのかよ?」

 あまり深刻に考えず、呑気に腕なんか伸ばしながら喋るスキッドを見てアビスは少し眉を動かしながらスキッドに聞く。



「んな訳ねぇだろう。あんなとこまで歩くって事になったら足ガッチガチになっちまうぞ? どんだけ距離あるか知ってんのかお前? 普通に丸々3日ぐらいはかかるって距離だぞ。歩いて行くってのは絶対無理!」

 流石にスキッドでもあれだけの距離を普通に歩いて行くと言う考えはしていなかったらしい。しかし、歩く事に対する否定ばかりで、結局どのような手段を使ってアーカサスまでに行くのかはまだ考えていないらしい。

「そんじゃあお前としては歩くのは無理って訳か。でもさあ、スキッド、どうやってあそこまで行くってんだよ? なんか船ここで借りれるような感じもしないし……。ほんと、どうすんだ?」



「ん〜……まぁ……でも実際船はなぁ……ここじゃあ取り扱ってるいないってのは事実なんだよなぁ……。おれもここに数週間いんだけど船は余所から来るのだけだ。こっから出航ってのは有り得んだろうな。やっぱ実際ほんっとどうしようなぁ……」

 歩いて行けば丸々3日、早く行くなら船、しかし、船はこの村が所持している事は無く、もし船を使うなら余所から稀にやってくるものを使えば良いが、早くアーカサスの街へと行きたいアビスとスキッドとしては、船はあまり確実とは言えない。実際、スキッドもなかなか船を捕まえられず、それ以前に村自体が海から遠く離れている為に船が近くを通ったかどうかの判別も出来ない。この村が他の村との船を使った貿易等を行っていないのもスキッドが船を捕まえられない理由にもなっている。最も、船を持っていなければ貿易事態出来ないとは思うが。

「そうだよなぁ……。でもさぁ、もう今どうやってアーカサスに行くか考えてもしょうがないからさぁ、ちょっと話題変えね?」



「変えね? っていきなり言われてもなぁ。何話すんだ?」

 突然アビスは今幾ら考えてもどうしようも無いこの現状の話題を切り替えようとする。

 そんな様子を見たスキッドはテーブルに肘を付きながら軽く笑う。



「あるよ、アーカサスの方でなんか爆破テロが起こったって、そりゃあお前も知ってるんだろうけどさぁ、実はさあ、なんかフローリックも言ってたんだけどさぁ、ホントになんか最近変だって言ってたんだけど……スキッドの方はなんか変だなぁって思ったとこ、無かったのか?」

「いやぁ〜……どうなんだろうなぁ……テロってのはちょっと引っかかるんだけどなぁ、この村じゃあ別に飛竜の襲撃とかそういうの無かったからなぁ。それに出てったって、まだ1ヶ月ちょいぐらいだろ?」

 スキッドがこのバハンナの村に立ち寄って大体一月ひとつき程度である。だが、スキッドはこの村に来てから一度も飛竜等の凶暴なモンスターが現れた事は無く、爆破テロと関連の見えるような事件は直接見ていない。その為、アビスに異変がどのこのと言われても少し悩まざるを得ない状況が生まれるものである。



「そうかぁ? この村でそんな物騒な事起こった様子は見てないってねぇ……。でもその割にさぁ、結構ここって家とか、そこら辺荒れてるよなぁ? それって、どうなんだろ?」

 半月近く飛竜が襲ってこないのにも関わらず、村の状況は極めて悪い。傷だらけであればそれなりに補強作業等で応急処置でもするべきであろう。だが、今はその傷は完全に放置状態だ。つまり、この村は半月近く、この傷だらけの状態で放置している事になるだろう。アビスはその傷だらけの凄惨な姿を見せる村を思い出しながらスキッドに尋ねる。

「それなんだけど、まあ、多分……多分なんだけどな、絶対あれさあ、飛竜とかにやられた……しか言い様ねぇだろ? 飛竜以外誰があんだけデケェ傷付けんだ? って話になるしさぁ」

 スキッドは椅子の背凭れに思いっきり止しかかり、テーブルから距離の空いた足を組みながらアビスに答える。



「そうだよなぁ……。もし飛竜とかじゃないとしたら……やっぱ、山賊とか、盗賊とか、そういう変な連中の仕業とか?」

「だよなぁ」

 スキッドは飲んでいたオレンジジュースをテーブルに置き、肘をつきながら軽く笑う。



「まあ、とりあえずさぁ、その村の話……って言うか傷の話って言うか、それはいいとしてさぁ、これから俺らどうすんだ? やっぱここでず〜っと足止め喰らいっぱでいるつもりか? それにもしここで寝るとしてだけどどっか泊まれるとこ……ぐらいはあるよな?」

 アビスも一度メロンジュースを飲んだ後、両肘をつきながらこの後の事を考える。

「そりゃあ普通あんだろうがよ。こんなボロ村でも宿泊施設みたいなとこはあるっつうの。でも金は普通に取られっけどな」



「それは良かったよ。んで……いくらぐらいかかんだよ?」

 アビスは金銭的に不安が募り、革袋の財布を取り出しながらスキッドに尋ねる。

「大した額じゃねぇよ。せいぜい1泊5ゼニーってとこだな。そんぐらい、あんだろ?」

「そりゃああるだろ」

「そうだよなぁ、無かったらただの貧乏野郎だからなぁ」

 それを言うとスキッドは軽く笑い、それに釣られてアビスも笑い出す。どうやら2人とも宿に泊まるだけの金銭は持っているらしい。仮にもしそれだけの金すら持っていなければジュース等の注文も躊躇っていた事だろう。



 アビスは夜の寝場所が決まり、安堵の表情を浮かべたその後だった。この2人の元に見知らぬ男が近寄ってきたのは。

「ねぇ〜、君達〜。まさか2人だけでこんな所までお出かけ〜?」

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