■■χχ 急逝誘惑の集中射撃アンスマイルパレード・ダブルタイプ/GIVE ME RELIEF AGAIN!! χχ■■

再び始まろうとした銃弾の飛来祭!!

だが、今回はあの時とは一味違う!!

――理由は明白にも程がある!!――



一丁シングルでは無く……



▼ζζ▼ 機関銃二丁ダブルタイプが現れたのだから!! ▼ζζ▼

「穴だらけんしてやっからよぉおおおおお!! 期待しろやぁぁああああああ!!!!!!!」



χχ 両手に握られた機関銃マシンガン矯激きょうげきに吠え始める!!

κκ バイオレットの緑眼が大きく開かれる!!

ρρ 灰色の皮膚も銃口一閃マズルフラッシュによって点滅するように照らされる!!

θθ 漆黒のコートも連射に共鳴するかのように激しく揺れる!!



バラララァアアラララアアラララララララララァララララララッラアアアアァアアアアラララララララァアァ!!!!!!!

ダダダダラララダダダダァダダダダダララララァアアダダダララアアダダダァァアララダダダダダダ!!!!!!!!



◆◆一斉に飛び交う殺意享有の鋼蜂の大群フレンジー・メタリックスラッシャーズ!!◆◆

ウザい!! ウザ過ぎる!!

銃声が大音量で周辺に響き渡り、もう何も聞こえやしない!!

銃弾が求めるものは、ただ被弾者の死だけだ!!

それ以外にはもう何もいらない!!

いいからさっさと死ね!!

そして天国にでも地獄にでも好きなとこに行っちまえ!!

このアホ野郎めがぁ!!!!





「まぁた過激プレイなんかしやがって……こんなんじゃあ対抗しきれねぇぞ」

倒したテーブルの影に隠れながら、テンブラーは寂しそうに自分の拳銃ハンドガンを眺めた。
やはり、機関銃に対抗するには、最早あれ・・しか無いのだ。そう、あれ・・だ。



「もうそろおれもそっち乗り込むぞぉおおおテンブラーさんよぉおおおおお!!!!! なんか隠し兵器でも使って来いッつううのおおおおおおお!!!!!!!!」

バイオレットは機関銃マシンガンを発砲させると口調が豹変する様子だ。
過激過ぎる銃声音量ショットスクリーマーに劣らない大声をぶち飛ばしながら、テンブラーの隠れた場所周辺を掃射する!!

遮蔽物しゃへいぶつがあろうが、バイオレットにとっては悦楽の言葉しか浮かばないのだ。
テーブルに立った状態で、無差別発砲バイオレンスブレイクを延々と続けられれば、究極のよろこびだ!!



「分かったぜ……。実は俺も持ってんだよなぁ」

テンブラーは背後から激しく鳴り響く銃声の中で、右手を紫のスーツの内側に潜り込ませ、
バイオレットに対抗する為のあれ・・を取り出した。

それはもう分かる通りである。



◆◆▼▼ マシンガン!!/MACHINE GUN!! ▼▼◆◆

これならば、バイオレットと対等にやり合える!
確実に!!



「バイオレットよぉ……」

そしてテンブラーはゆっくりと立ちながら……

「見てくれよぉお!!!」



――テンブラーも機関銃マシンガンを吠えさせた!!!!――



――テーブルの上からひっそりと上体だけを出し……

σ 発射!!/FIRE!! σ



ダダダダダダダァダダダダダダァアダダダダダダ!!!!!!!!



殺意の衝動を感じたのだから、バイオレットの行動も迅速クイックに行われるものだ。
背後へと倒れるように、テーブルから降りたのだ。
流石に蜂の巣にされてしまってはたまらない。相手もかなり有利な状況になってしまったのだから、
バイオレットも隠れるものを探す必要があったはずだ。

「な〜めやがってあんにゃろうめぇ。こっちゃあ何でも揃ってんだぞコラぁ」

一時的に隠れた状態を継続させていたバイオレットは周辺に転がっているものに眼をつけ、
血に塗れている事をまるで気にせずに左手だけでそれを持ち上げる。





「これで立場逆転ってやつだぜ……。さっさとあいつ止めねぇとやべぇな……」

サングラスの下でテンブラーはその赤い目を難しそうに細めながら早急にバイオレットを始末する事を考えている。

とりあえずこちらも機関銃マシンガンを所持していたのだから、相手を隠れさせると言う部分を見れば、
テンブラーも随分と優勢な立場に登り詰めたと言える。
だが、いつまた攻められるか分からないのだから、遮蔽物しゃへいぶつだけは確保しなければならない。



βε バイオレットは立ち上がってきたのだが…… εβ

テンブラーは再び相手の卑怯なやり口に対して目を細めるが、
それは相手の攻撃を止めさせる原因になってくれないのである。



「おいおいどうしたテンブラーよぉ。もっと過激に楽しもぉおぜぇえ!?」

バイオレットは堂々と立ち上がりながら右手の機関銃を動かしているが、
左手に持たれていたのは……



ηη 毒煙鳥装備の女性ハンターの死体…… ηη

ゴム質の素材で作られた武具で護られたその胴体を左手だけで持ち、それを盾にしているのだ。
バイオレットの腕力は兎も角、その女性の口元からは太刀の切っ先が突き出ており、
それによって無理矢理のように体勢を真っ直ぐに整えられているのだ。
既に目には生気が灯っておらず、無造作に開いた口からは血液と、唾液がだらしなく垂れている。



「げっ! やべっ!」

うっかりバイオレットがそのまま出てくるかと思っていたテンブラーは誤ってその女性にいくつかの銃弾を浴びせてしまったのである。
ゴム質の皮が確実に弾を防いだとは思うが、それでも死体を傷つける行為だけは嫌悪感を覚えずにはいられない。

しかし、バイオレットも嫌みであるかのように、女性の死体の背後へと隠れてしまう為、思うように銃撃は出来ないのだ。



「おいおい死んだ奴ちょっとぐれぇ撃ったっていいじゃねぇかよぉ。そんなちっちぇえ事いちいち気にしてんじゃねぇぞ!?」

バイオレットは隠れて体勢を立て直すテンブラーを小馬鹿にするかのように、弾丸を連射させた後、
一度射撃を中断し、左手で立たせていた女性の死体を無理矢理自分の右側へと捨てるように投げ倒す。



「さって、こいつでもお見舞いしてみっかぁ」

女性は太刀を下から上へ向かうように突き刺さられており、バイオレットはその太刀を武器にしようと考えたのだ。
太刀の柄を左手だけで掴み、持ち上がった女性の臀部でんぶを右足で押しながら、そのまま乱暴に引き抜いた。



αβ 同時に真っ赤な血液、黄色い液体、その他色々な液体や物体が飛び散った χμ



「プレゼント……ちゃんと、受け止めろよぉお!!!!

刀身に赤や黄色等の様々な液体を付着させた太刀の切っ先をテンブラーへと向け、
そして左手だけで、槍のように投げ飛ばす!!



シュン!!



風を斬る音が刹那に響き、テンブラーの遮蔽物テーブルを貫通する!!

「うわぁ、なんだ……!」

突然テーブルを突き破って現れた刃には驚かずにはいられない。

テンブラーもそろそろ早急に挑まなければ、今度またどんな手をバイオレットに使われるか分からない。
死体なんかを使われてはテンブラーも人として考えると非常に戦いにくくなるものだ。



μσ 再び、贈られる…… σμ



「てめぇ! いい加減したら……!」

何とか反撃を再開させようと機関銃を再びバイオレットへ向けながら
身体を立たせるが、そこに映るのは、残酷で、残虐な姿……。



θθ なんとバイオレットは……

ξξ 毒煙鳥装備の女性の死体を持ち上げており……



「これもセットだぁ!!!」

下半身から零れ落ちる血液を浴びながら、バイオレットはその死体を投げつけてきたのだ。
まるで血液を浴びるのが究極の極楽であるかのように……。

「また投げてくんのかあいつ!?」

テンブラーの目の前に飛んでくる毒煙鳥装備の女性だが、今回はどうしても受け止める気にはなれない。
何故か無造作にその場から離れるしか無かったのだ。

死体は無造作に身体の至る所を打ち付けながら転がり、そのまま動かなくなる。



――バイオレットの口元がにやけ出し……――

「そんじゃ、これも豪華プレゼントって事で……」

懐からやや大型の手榴弾を一つ取り出し、それを右手でテンブラー目掛けて投げつける。

「楽しんでくれ」

放物線を描く手榴弾を眺めながら、バイオレットはだらだらと呟いたのだ。



――■φφ■ テンブラーに映される、一つの手榴弾/GRENADE CARNIVAL ■φφ■――
















やがて、あの竜人族の女性が戻ってきたのだ。
だが、今の光景を見たらどう思うのか。

それは、もうすぐ分かる事である。



「!!」

極度の緊張だったのか、無言でカウンターの裏のドアから姿を見せた女性だが、カウンターの奥に映る光景を見るなり、目を強張らせる。
思わず両手で抱きしめるように持ったバインダー閉じの新書を落としそうになるが、何とか落とさずに耐える。
目の前に映ったのは、殺し屋バイオレットと、もう一人の紫色のスーツを纏った男であるが、何とその二人が争っているのである。

どうしてスーツの男がいるのかは分からないが、どうやらバイオレットを相手に闘っているように見えてしまう。

救世主のようにも見えてしまうが、正直言えば、このスーツ男が来るのは非常に遅すぎた事だ。
既にハンターはほぼ全滅させられ、周囲は血塗れになってしまっているのだから、もう少し早く来てくれても良かったはずだ。
だが、そんな事を今言った所で、スーツの男は何を思うだろうか。

そして今……





――ο【 バイオレットが持ったヘビィボウガンから、拡散弾が放たれる!! 】ο――

ブシュゥウン!!



その射撃をテンブラーは上手く回避するが、その背後では軽く耳を塞ぎたくなるような爆音が響き渡る。
同時に壁にコゲが入り、焼けた臭いが付近に漂う。



「な……何これ……!!」

竜人族の女性はただ目を丸くしながら目の前の光景に驚き、固まるしか無かった。
周囲に散らばる血液やハンターの死体は当然として、
通常ならば飛竜相手に向けるべきである武器を人間相手に向けているのだから、驚かずにはいられない。

最も、それは最初にバイオレットの始めた殺戮行為から目にしていた話であるが、改めて感じた事だろう。

そして、女性が戻ってきた事に気付いたバイオレットは……



「へっ! やっと戻ったかぁ」

ヘビィボウガンの銃口マズルをテンブラーへ向けたままで、バイオレットは横目で
戻ってきた竜人族の女性を見つめ、まるで新しい目的でも見つけたかのようにヘビィボウガンを放り投げる。

そしてまるでテンブラーからの反撃を恐れないかのように平然と歩きながらカウンターへと近寄る。



――そして、機関銃マシンガンを抜き取り、竜人族の女性へ突き付ける……――



「さぁってと、そいつおれにちょ〜だいっ」

口調は子供らしさと、馬鹿らしさが映るものの、右手に握られた銃器を見れば、その空気は尋常では無いのがすぐ分かる。
バイオレットの気分を損ねれば、女性もハンター達と全く一緒の結末を辿る事になってしまうのだから。

女性側としては渡す気はあるに違いないが、バイオレットの非道過ぎる殺人技が恐ろしいあまり、手が震え、
上手く身体を動かせずにいるのだ。



――それを急かすかのように……――



「さっさとよこせよぉ? そん地味に使えそうな頭ぶち抜いちまっぞ〜?」

右手の機関銃マシンガンを更に女性に突きつけ、脅したてる。



「わ……分かりました。こ、これが……古龍の聖域新書よ……」

いくらギルドの中で働いているとは言え、一瞬で命を奪われる事だけは非常に恐ろしい事だ。
竜人族の女性は震える手で目的の新書をバイオレットへとゆっくりと手渡した。



カウンターに乗せていた左のひじを持ち上げ、左手で新書を受け取る。
右手には相変わらず機関銃マシンガンが握られており、警戒心を解いていないようにも見える。



――新書を見回しながら……――



「なぁるほどねぇ、これが聖域新書ってやつかぁ。こんならミリアムん奴もきっと笑うんだろうなぁ。こんなもん隠し持ちやがってこん馬鹿どもがよぉ」

バイオレットはその中身を理解出来ているのかどうかは分からないが、
中身をしっかりと読んでいないかのようにパラパラと次のページへと進んでいる様子から、
バイオレット自身はその新書に対して殆ど興味を持っていないのかもしれない。



――だが、テンブラーがそれで黙っているはずが無いはずだ――



「待てよお前。それ持ってそんまま帰る気か!? これだけ暴れといてただで済むと思ってんの――」
「別にいいじゃねぇかよ。おれん目的はただ、、なんだかんなぁ」

テンブラーは突然のようにバイオレットと竜人族の女性の間に言葉を飛ばし、
このまま帰ってしまいそうな雰囲気を飛ばしていたバイオレットを止めようとするが、すぐに返答がやってくる。

バイオレットのあまりにも単純な返答だった。
もう少し回りくどく言っても良かっただろう。だが、あまりにも単純である。
機関銃マシンガン銃口マズルで左手に持った新書を差しながら、返り血で赤く染まった表情を不気味に笑わせる。



「そんなもん持ってって何すんだよ。悪の帝王とかがよくやってる世界征服とかアホみてぇな事すっ気かぁ?」

テンブラーはいつでも攻撃出来るよう、右手で機関銃を持ってバイオレットへ向けたまま、
最終的な使い道及び目的を訊ねようとする。



「まあ最終的にゃあそうなんじゃねぇの? 世界征服なんかガキがよく見るような漫画にちょくちょく出て来っけど、実際まともにやられちゃあ洒落しゃれんなんねぇってのは分かってんだろ? 言葉はガキくせぇが、実際されたらガキだのアホだの言ってらんねぇぜ?」

反論する気力が湧かないのか、バイオレットはカウンターに再び左肘を乗せて寄り掛かりながら、右手の機関銃マシンガンを振り回してだらだらと説明を垂れる。
文の構造的な幼稚さとは逆に、その内部には誰もが恐れおののくものが詰まっているのだ。見た目だけであなどってはいけないようである。

「お前……、マジでそうやってこれからやってくのか……?」

まるで殺戮を繰り広げたバイオレットの奥にある何かに呼びかけるかのように、テンブラーは多少声を小さくしながら、未だに機関銃マシンガンを下さない。

「いいじゃねぇかよ。これでおれも借金ぐれぇ潰せんだろうし、ってか何より殺し合いってのが楽しくなっちまってなぁああ!!!」

バイオレットはそれでも殺人者に相応しい恐ろしい笑顔を外さないまま、まるで裏で何かを握られている事を暗示させるような言葉を飛ばす。
そしてすぐに黄土色の髪を揺らしながら上を向いて笑い始める。



「そんなんで借金返せたって、なんもいい事なんてねぇだろ!!」

何故かテンブラーはバイオレットを説得させるかのように、サングラスの奥の赤い目を細めながら、怒鳴りつける。
血と死体の臭気に包まれた大衆酒場にテンブラーの声が響き渡る。



――だが、それは通じる事は無かった――



「いい事かぁ? 闘うっつうのはなあ、別に死んでもいいって考えてっ奴が取る行為なんだぜぇ? ってかそれより、お前にとって神山龍の甲殻4億枚分より価値あるとっておきっての、聞かせてやるよ」

バイオレットなりの半ば勝手過ぎる戦いに生きる者の理論を相変わらずのマイペース口調で説明するが、突然話題を変え始める。
存在そのものが災厄と称される巨大龍のその甲殻がそれだけあれば、人はどれだけ遊んで暮らせるか、
逆にそれだけの甲殻を一生かけても集めきれるか分からないだけの量に匹敵する情報・・とは一体何なのだろうか。

「4億枚かぁ。いいじゃねぇか。出来ればお前にはそっちのやり方で返すもん返して欲しかったが、4億枚分の話ってのも随分気になんじゃねぇか。教えろよ」

テンブラーも先程は怒鳴ったものの、敵対する相手がわざわざ教えてくれると言うのだから、
機関銃を下さないまま、その内容を聞く体勢になる。
4億枚が換金された時の光景を多少頭で思い浮かべたが、それは夢だけにとどめておく。



「内容は面白おもしれぇぜ? 火竜の尻尾一発でぶった斬るより面白おもしれぇ内容かもなぁ。ってかそれよりそんな殺人兵器向けてていいのかぁ? おれん事誤って殺しちまったりでもしたらすげぇ事んなっぜぇ?」

バイオレットの例えが正しいものになるかどうかはまだここでは分からないが、ふと、向けられ続けている機関銃マシンガンが気になり始めたのだ。
その言葉が単なる臆病か、それともこの街の命運に関わる重大な存在となるのか、どちらにせよ、バイオレットの表情に怖がった様子はまるで見えない。

「いいからさっさと話せよ。それともここん来て怖くなりでもしたか?」

それでもテンブラーは下ろす事をしなかった。バイオレットの表情だけを見ても怖がった様子を見る事は不可能に近いが、
表情の奥の奥のそのまた奥に隠しているのかと、直接言葉で聞き出そうとする。



「まあいいぜ、おれをもし、真面目に殺したらどうなっか、その前に重大発表しとくからよぉ、しっかり聞いとけよぉ?」

バイオレットは本当に殺されたとしても何も思わないのか、平然とカウンターに寄りかかったまま、
遂に内容に触れ始める。



ψψ 何故か、沈黙が周囲を包み込む…… ψψ



テンブラーは機関銃マシンガンを下ろさないまま、バイオレットが提供する情報を、ただ待った。











――φφ そして、表へ……/BARE REPORT φφ――

「こん街、あと二時間ぐれぇしたら灰んなっからな〜」

夜の、血塗れの、死体塗れの、大衆酒場の中で放たれた、バイオレットのお言葉メッセージ……



















εε 貴方は覚えていますか?

££ いや、寧ろ覚えていなければ、貴方は非情な人間となるのです!

εε 殺されてしまったかと思われたあの少女の事を、貴方は覚えていますか?

££ 恐ろしい程に精神的に苦しめられたあの少女を覚えていない貴方は、最早人間として生きる筋合いはありません!



――◆J'ai froid.◆ 凍てつく氷空 ◆J'ai froid.◆――

外は決して寒気とは表現出来ない。炎が吹き荒れるこの街で寒気を覚える事は不可能だ。
もしそれが実現するならば、体調異常か、自己暗示のプロフェッショナルと呼べる。



――◆la larme repand.◆ 素直なる涙波 ◆la larme repand.◆――

感情は時として表からでも簡単に読み取れてしまう事がある。物理的な証拠とは、
相手に答えを提供してしまう出来心とも言える。普段は分泌され、表へと流されないと言うのに。



――◆Secouer pour le garde.◆ 微小規模なる地震 ◆Secouer pour le garde.◆――

大地が揺れる事だけがそう呼ばれるとは限らない。比喩表現に頼れば、どんな場所でも許される使い方となる。
周囲を彷徨う恐怖は、人の体内に入り込み、容赦無い振動を引き起こす。言わば、一種の自然現象。



これらの三つ存在する慄然の神器ブラックダイヤモンドを全て不幸にも持ち合わせてしまった人間が実は存在するのだ。
その人物は今、まさに現在進行形で建物の影に隠れ、震えているのだ。






――η 街道での叫び声 η――

耳を澄ませば色々な場所から聞こえてくるのだ。

「うわぁ!!」
「きゃー!!」
「わぁあああ!!」
「いやぁ!!」

男女関係無く響くこの街道であるが、それは裏路地にひっそりと隠れていても強制的に聞こえてしまう。
耳を塞いでいても、大音声だいおんじょうの前には完全に無意味と言っても間違いでは無い。



よく見れば、この人物は少女であり、狩猟用装備を纏っている。
薄い赤の髪が風で小さく揺らされるが、それよりも、この少女は建物の影に背中を預け、
両手で頭を押さえてしゃがみ込んでいるのである。

(もう……いや……!! 捕まったら……殺され……る……!!)

少女こと、ディアメルは両目を強く閉じながら、震えていたのである。
まるで何かから逃げているかのような心の呟きも、時期に上書きされる。



――何人かの足音が近くに……――

「くっそぉ、あの女どこ行きやがったぁ!?」

バンダナマスクをつけた人相の悪い男が右手になたを持ちながら、裏路地の周辺をうろついている。

「逃げ足だけは充分みてぇじゃねぇか」

同じくバンダナマスクと悪い人相が特徴的な男が周囲を見渡しながら、仲間の元へ近寄る。

「なあ、もうこれ以上あんな奴だけ相手んしてても時間無駄になんねぇか?」

三人目のバンダナマスクの男も現れ、標的を限定しすぎるのはどうかと提案を出す。

「確かになあ。どうせあいつなら適当なとこで死んじまうだろうなあ。じゃあ行くかあ」

それを最後に、男達はようやくディアメルを諦め、そのまま裏路地から姿を消していく。



――だが、それでも互いに言葉を交わす様子だけは消えなかった……――

「けどよぉ、もし後で見つかったりしたらどうする?」
「さっさと殺すのがいくね?」
「いや待てよ。折角女だぜ? しかもガキだし。脱がすってのも面白くねぇか?」
「はははは、やっぱそう来たか!?」
「そう来んだろうよぉ」
「でもあの毒受けた女どもの顔拝むのもいいと思わねえか?」



――やがて、男達の笑い話が小さくなっていき……――



(どうしよ……!! 私……どうすれば……いいの……?)

未だに建物の影にある柱の影に身を隠したまま、まるで動けない状態になってしまっているディアメルだが、
こんな所でじっとしていても、誰にも襲われない代わりに、誰にも会えないだろう。

震えたままの身体を何とか立たせ、周囲に対して異常とも言えるような警戒を飛ばしながら、
ディアメルは裏路地を進み始める。

この時点で既に薄い赤髪の少女はハンターとしての強さを失わせており、凛凛しさ等見えやしない。

ただの、臆病少女なのである。本当ならば、背負っているはずのボウガンも無く、あの酒場ギルドで落としたものと考えられる。
だから、今は狩猟用装備を纏ったただの臆病少女なのである。



心中では、このまま都合良く事が去ってしまえばいいとか、唐突に最強の戦士が現れ、
この街を一瞬で救ってくれれば等と言う願望を思い浮かべるが、周囲の爆音や悲鳴がそれを邪魔する。



(クリスさん……今どこにいるの……? 早く……会いたい……)

明るい茶髪のツインテールの少女を思い浮かべると、再びディアメルの赤い瞳に涙が浮かび始める。
友達なのか、先輩なのか、それは聞いてみなくては分からないが、確実に強い絆があるはずだ。

もし出会えれば、弱っていた気力が回復してくれる。きっと、本当に……。
そう信じている少女だが、もしこの後に出会った相手が自分を襲う人間だったら……。

それを考えると涙の量が一層強くなる。こんな様子を他の者に見られれば、ハンターと言う立場の都合上、
笑いものにされたり、馬鹿にされたりする危険性がある。だが、今は涙腺るいせんの制御は難しいだろう。



――少女は、涙を浮かべながら俯き、そのままの状態で歩く……――






クリスに会えたなら、それは大きな喜びであるが……

















―ドスン!!

少女は誰かと衝突する……

「きゃっ!!」
「いてっ!!」

少女の高く、透き通る悲鳴が響き、同時に相手の衝突に耐え切れなかった身体が背中から倒れこむ。
同時に男の痛みを伴った事を知らせる低めな声も聞こえるが、少女にとっては意識しないものだったはずだ。



――この瞬間にディアメルは感じ取ったのだ……――



≪ぶつかった≫  ≪誰かと出会った≫  ≪男である以上、クリスでは無い≫  ≪殺される!!≫

既にディアメルの中では男の味方を連想出来る状態では無い。
だから、ここで感じる事はただ一つ……






(殺される……!! もう……いや!!)






その場でディアメルは身体を丸め、両腕で顔面を覆い尽くす。
最後の最後の、悪足掻わるあがきである。



「いってぇなぁ、誰だよったくよぉ〜」

男の方も衝突は突然のものとして考えていたのだろう。
転びこそしなかったものの、多少身体をふらつかせている。
緩さが映った口調も、少女の今の状態では冷静な解析は出来ない。

男に映るものは、地面で丸まって脅えている少女である。
狩猟用装備であるが、何故か得物は何一つ所持していない。

だが、男は口を止めない。

「お前か? 今思っきりぶつかってきた奴は」







――少女の方は、冷静な分析すら出来ず……――



「いや!! やめて!! 殺さないで!! やだ!! 来ないで!!」

ディアメルは極度の恐怖から、男を殺人鬼と同じたぐいの存在と認識してしまい、
伏せたまま声を荒げ、声だけで男を追い払おうとする。
ロクに男の姿も認識しないで随分と激しい行為である。

それを聞いた男も黙っている事は無いだろう。目の前では直接目では確認出来ないが、
確実に泣きながら、そして見て分かる通りに叫んでいる。
行動を起こすのは目に見えている。



――男はそれでも少女に近づき……――






υυ まさか、本当に殺しでもするのだろうか?



υυ だが、この男、青い武具を纏っているのだが……
















「っておいちょい待てよ。なんでおれがお前殺さなきゃなんないんだよ?」

よくよく見てみれば、この男、いや、多少声色は低めであるものの、多少の幼さも映っている為、
少年と認識するのが正解かもしれない。
その少年と言う立場に伴い、どうもこの青い武具の少年からは殺意のオーラが見えないのだ。

キャップの下で笑みなんかを浮かべながら、少年はゆっくりと少女に接近する。



「や……いや……来ない……で!! やめて!!」

ディアメルは近寄る少年に脅え、再び力強い叫びをあげる。

「待てって! なんもしねぇっつの!」
「やだ! 来ないで! 私なんもしませんから!!」
「頼むから聞いてって……わぁったよ、ほら、これでもうだいじょぶだろ?」

少年は叫び続ける少女に観念したのか、背負っていた岩壁竜製のボウガングレネードボウガンを地面へと降ろし、
武器を持たない状態となり、決して自分が殺人鬼のたぐいでは無い事を証明させる。



――ガシャンと言う音を聞いたディアメルは……――



――腕の隙間から恐る恐る少年の姿を覗き込む……――



「ほ……ホントに……何もしない……んですか……?」

本気で自分を殺そうとしていたかもしれない相手に対して質問をぶつけるのもどうかとは思うが、
ディアメルは相手の気持ちを知りたかったのだ。

「ホントだってんだろ? おれがそんな怖がった少女殺す訳……ってあれ? お前ってよく見たら……」



少年はうっすらと見えた少女の顔に、何か見覚えを感じたのだろう。
幼さの映った顔立ちと、薄い赤色の髪に、キャップの下で笑みを浮かべる。
決して、少女と言う異性だからにやけたのでは無く、会えた事に対する喜びである。



――少女を知っている事を意味する言葉が放たれる……――



「ディアメルじゃねぇか! なんでお前こんなとこいんだよ?」

少年は青いキャップを装着したままである事を忘れ、目の前の少女の元でしゃがみ込み、
震えている細い両肩に両手を乗せる。

「へ? あ、えっと、あ、貴方、だ、だ、誰ですか?」

キャップのままであった為、素顔が分からず、名前を呼ばれて近寄られるディアメルは
言葉に迷いながら対応するしか出来なかった。
そして、相変わらず地面に座り込んだままである。



――キャップを外す事を忘れてはいけないだろう――



「あ、そそそうか、り。おれだよ」

少年は自分が蒼鎌蟹のキャップを嵌めたままである事を忘れていた為、
一度少女の肩から手を離し、その離した手でキャップを脱ぐ。



――尖り気味の暗い茶色の髪、そして緑色の目が特徴的な容姿があらわとなる――



「スキッドだって。この前一緒になんかやっただろ?」

文字通りの少年の顔がキャップの下から現れる。
どうして今、彼がこんな夜の裏路地にいるかは分からないが、少女にとっては、
それよりも真っ先に覚える感情があったのだ……



「あ、スキッド……さん……?」

ディアメルは本当に目の前にいるのがスキッドであるのかを疑うかのように、
小さく、ゆっくりと目の前に映る蒼鎌蟹装備の人間に向かって問い質す。

「そうだってんだろ? おれは正真正銘スキッドだっての。おれそっくりな奴がいたらおれぜってぇ爆笑すっぞ?」

スキッドはしゃがませていた身体を立ち上がらせ、自分自身の顔を右人差し指で差しながら
笑みを混ぜて少女をなごませようとあれこれと喋り始める。

確かにスキッドと同じような顔をした人間はいないはずである。だが……



――クリスは例外かも……――



「それじゃ……やっぱり……」

少女は安心し切ったのか、非常に久しぶりに小さな笑みを浮かべ始める。
口の端には多少血の流れた痕が映るものの、なかなか可愛らしい笑みである。

「だっから〜、言ってんだろ? おれだって」

まだ信じてもらえないのだろうかと考えたスキッドは、再び自分を指で差しながら
本当に自分がスキッドである事を伝える。



――遂に、少女ディアメルは……――



「スキッド……さん……スキッド……さん……」

何度かスキッドの名前を呼んでいる内に、一時停止していた涙が再び溢れ出し、
一気に視界はまるで水中に入ったかのように揺れ始める。

同時に少女の身体が再び震える。恐怖では無いもっと別のものによって。



「って、お、お、おいお前どしたんだよ?」

スキッドは突然泣き出すディアメルに戸惑いを感じ始めるものの、
ゆっくりする暇は与えられないようだ。

何故なら、その理由は数秒も経たない内にやってくるからだ。







――少女はゆっくりとスキッドに近づき……――








「スキッド……さぁん!!!!!!!!



――泣き叫びながら、スキッドへとすがり付いたのだ――













まるで、今まで蓄積された恐怖や絶望を全てスキッドへとぶつけるかのように……

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