巡り合わせと言うものは、結局なんだろうか?

人間ならば、久々に出会った相手に対しては大した仲では無かったとしても、
それなりに何かしらと笑顔を見せたりする事だろう。
久しぶりに見たならば、それなりに相手の印象も異なるはずなのだから。

笑っても決して不思議では無い。人間は僅かでもえんを持っていたら、
その久々な風景に対して懐かしさまで感じるのだから。

しかし、それはとある事情一角獣グオピニオンを除いての話である。



世の中、殺害と言うのは絶対的な禁忌タブーである。
当たり前である。通常、命と言うものは破壊すれば永久に蘇らない。

それを人々は社会の中では『死』と表現する。
これがもたらすもの、即ち死別とは、半永久的に頭から離れてくれない残酷な現実なのである。
自分と繋がりを持った者を殺された時、人間は絶望を覚えるだろう。
ふと思い出したとしても、いい気分はしない。

残された遺族は殺人犯には友好的な視線を飛ばす事はまずしない。
もし出来たら、それは別の意味でおかしい話として、後世へと語り継がれてしまう。

これはあくまでも予測だが、遺族が持つ憎しみの大きさは決して変わる事を知らない。
殺してきたからには、それ相応の、一般常識では計り知れない量の恨みを抱く事になる。
それを緩和してもらう事を要請する権利は加害者には無い。
ただただ、恨まれるのを隠忍する道を歩むしか方法はありえないのだ。

この救いようの無い方程式には出来れば引っかかりたくは無いものだが、
もしこれが目の前で起きているとしたら……






●● White Mask ○○ Red Armor ●●

危うきこと虎の尾を踏むが如し……

●● Gunpowder ○○ Muzzle Flash ●●






室内に、鮮明に姿を見せた、あのとある二人・・・・・にとっては確実に見覚えのある姿。
今は三人のバンダナマスクの人相の悪い男達も同行しているが、まずはその見覚えのある姿が一番肝心だろう。
素顔も身体も全て隠した、まさにハンターと呼ぶに相応しい姿であると同時に、
他者の命を奪っても尚、その裏側で爆笑でもしていそうな分厚いオーラ。



ψψψ 呼吸と視界確保ライフプロテクションの為にいくつかの穴をり貫かれた白い仮面インダーファニットフェイス θθ

δδδ 外部からの衝撃アイソーアプレゼントを全て受け止めるであろう分厚く、赤い装甲グレイブシールド・レッドタイプ μμ

ιιι 飛竜の甲殻ワイバーンズスキンすら貫通させる弾丸シェルを発射させる火竜製の小型ボウガンブレイジングハート ρρ



こんな男が現れては、あの二人、即ち、アビスとミレイが黙っていられるはずも無い。
恐怖で一瞬声を発するだけの力を奪い取られるも、それを振り切った片方が……



「あ……あんた! あの時の奴ね!?」

ミレイだったのだ。最初に恐怖を払い除けたのは。

流石に相手は飛竜対策の武具を装備している為、直接素手ではぶつかりあおうとは考えていないだろう。
何せ、ミレイはたかが病衣及び、その上に暗い赤のジャケットをまとっただけなのだから。

それでも、青い瞳を鋭くさせたまま、その赤い装備の男を強く睨む。

「う、嘘ぉ!? なんで、こ、こんな奴がこ、ここいんだよ!?」

アビスも正直な話、あの時自分を殺そうとしてきた男がどうしてこの街にいるのか、理解出来なかった。
当初はただ出会ったハンターを無差別に射殺するだけの男だと思っていたのに。



――実は、この赤い赤殻蟹装備のガンナーの男はと言うと……――

過去にアビスとミレイに銃口を突きつけていたのだ……。
奇跡的に二人は助かったが、恐怖が抜ける事は無かっただろう……。



■■  アビスの場合は/A MATTER OF GREAT URGENCY  ■■

毒鳥竜の長を討伐する為にタインマウスの沼へと赴いていた際に出会ったのだ。
突然毒煙鳥どくえんちょうを横取りしようとした人間と勘違いされ、殺される手前にまで追い詰められた。

射殺される寸前で、毒鳥竜の大群が押し寄せた為に、それに便乗してアビスは逃げ切った。
この頃は、まだ組織の事にはまだ気付いていなかったのだ。

■■  ミレイの場合は/LOST FRIENDS  ■■

クリザローの密林で他の女性ハンター達と共に狩猟をしている最中に悲劇に出遭う。
別行動している隙を突かれ、ミレイを除く全員が男に射殺された。

ミレイは入手していた大猪の牙を男に投げつけ、怯んでいる隙に逃亡したのである。
その時、偶然出会ったアビスに助けられ、そして奇妙なえんが生まれたのである。
ある意味で、アビスとミレイが出会う切欠きっかけになった事件なのだ。



「お前ら随分久しぶりじゃねぇか。もうどっかで飛竜に食い殺されてんじゃねぇかって思ってたが、やっぱ生きてたんだなぁ、つまんねぇ奴らだぜ」

赤殻蟹武具の男はまだボウガンは構えてはいないものの、アビス達に投げかける言葉は、
空気を考えれば当然とも言えるかもしれないが、非常に血の気が多い内容である。



「おいミレイ、誰だ……こいつ……」

男勝りな喋り方をするフューリシアも、突然現れた異様なオーラを撒き散らす男に僅かに怖気づいたのか、
口調に途切れが僅かに目立ち始めるものの、それでも逃げる訳には行くまいと、下がりそうになる身体を気力で押さえ、
ミレイに男の正体を聞き質そうとする。

「名前は……分かんないんですけど、でもこいつ、以前あたしの仲間全員殺してったんです……。注意して下さい……、こいつ油断なりませんから……」

ミレイも正直な話、怖い思いをしているはずだ。
目の前には、かつての仲間を平然と殺した男が立っているのだから。

いつボウガンを構え出すか分からないこの状況で、ミレイは暑さとは別の意味での汗を額から流す。
その汗は非常に冷たく、ミレイの頬にその冷たさを静かに伝える。



「油断なんねぇで悪かったなぁこのあまがぁ。死ぬ奴がりんだよ、この世界はなあ、よえぇ奴はつえぇ奴に食われんだよ。動物だって同じだろ? 一種の常識だぜ?」

赤殻蟹装備の男は仮面のせいで詳しい表情は一切分からないが、その口調から、
確実に見下した態度を取っているのは目に見えている。

まるで他者を殺す事を正当化するかのように、その外見に相応しい低い声色でミレイ達に淡々と伝える。



――再び赤殻蟹の男は口を開き……――



「それと、そいつは俺の妹だ。妹であって、お前らここにおびき寄せる為に働いた仲間でもあんだぜ?」

何を考えてそんな事実を吐こうと考えたのか、赤殻蟹装備の男は唐突にネーデルとの関係を出し、
そして今立っている室内の床に右人差し指を突き刺すように差した。



「ネーデル。ホントにあたしらこいつらの餌食にする為にこんなとこであんな長ったらしい説明してくれてた訳? どうなのよ?」

ミレイの中で、恐怖による震えが起こっているものの、やはりネーデルの本当の気持ちを聞きたかったのだ。
ネーデルを強く睨みつけながら、答えを待つ。

「そんな……違うんです……。ただ皆さんに……知ってもらいたくて……」
「おいおいネーデル。お前いい加減その上手すぎな演技やめろっつの。もう味方同士っての判明した時点でもう意味ねんだっつの。さっさとこっち来いよ?」

ネーデルは相変わらず口調と身体を震わせながら兄らしき相手、即ち、赤殻蟹の男との連携を否定するが、
その男が挟んでくる内容によって、ネーデルの信用が徐々に崩れ始めていく。



「ってかなんでさっきからネーデルこんな感じなんだよ? ホントにあいつらの仲間か?」

アビスはネーデルが赤殻蟹の男達の仲間であるのはほぼ強制的に理解したのだが、
どうもネーデルのその弱々しい態度が引っかかる様子だ。

相変わらずいつものようにミレイに質問なんかし始める。男達に指を差しながら。

「分かんないわよ……。でも油断出来ないわよ?」

流石に、今回ばかりは殺戮をいつ開始するか分からないような男が目の前にいるのだから、
だらだらとは喋っていられず、ミレイのその言葉は非常に鋭かった。



「おいそこ何べちゃべちゃ喋ってんだ? 言ってんだろ? ネーデルそいつはお前ら騙す為に働いてたってなぁ。お前ら分かってねぇだろ? そいつはなあ、自分の可愛さと大人しさで相手油断させて後ろから刺すってやり口も持ってんだぜ? 他んとこでもそうやって何人に手ぇかけたんだっけなぁ。マジで俺ら疑うっつんなら、調べてみろよ。そいつの左腕ん中に、しっかり入ってっからよぉ?」

赤殻蟹の男はネーデルに対して精神的に追い詰めているのか、それとも嘘ばかり言うネーデルを急かしているのか、
過去の経歴を説明し、より具体的にネーデルの本性をアビス達に明かしてみせる。
そして遂には直接ネーデルを精査させるような発言まで飛ばし始める。

「ネーデルさん……、そんな事、無いですよね? 嘘で――」
「デイトナ、いいわよ。ここはちょっと調べるに限るわ。ネーデル、ちょっと手ぇ見せて」

洋灯ランプによって照らされたオレンジ色の髪が目立つデイトナは、ネーデルにそこまで卑劣な手を
仕込んでいるとは考えられず、ネーデルに呼びかけるが、ミレイは別だったようだ。

ミレイはその青い瞳に力を入れたままでネーデルに堂々と近寄り、
ネーデルの肩口の露出した左腕の水色の袖を右手でやや乱暴に掴む。



「あ、ちょっ……」
「いいから見せて!」

一瞬抵抗しようとネーデルの華奢な身体が飛び上がるが、ミレイは平然とネーデルの二の腕部分に
左手を伸ばし、そして肩口に近い部分から袖の中に左手を入れ込む。

ミレイの左手に感じたものは、何か堅い物の感触だったのだ。

それをそのまま握り、抜き取った。



――ミレイの左手に握られたものは……――



――刃渡り6cm程度の短剣ダガー……――



それは鉄によって作られた質素なものであり、さやも同じく鉄で作られた質素な作りでありながら、
それでも相手を斬りつけると言う意味では充分な構造を見せている。

これを見た瞬間、ミレイのネーデルに対する態度が再び変わる。

「これ……本気で後ろから攻撃する理由で持ってたの!?」

短剣ダガーを握る左手の力を徐々に強めながら、ミレイはすぐ目の前にいる青い髪の少女ことネーデルに向かって
この得物の意味を聞き出そうとする。

「あ……いや……違うんです……護身用で……」

まるで今にも殴りかかってきそうなミレイの剣幕に、ネーデルは脅えながら言い返すも、
そこに入ってくるのは、男の言葉である。もうこれで何度目だろうか。



ちげぇだろ? ちゃんと素直に言やあいいだろ? 『お前の事殺す為に持ってたんだよ、この糞女がよぉ』って。そいつらはもう、いや、始めっから仲間じゃねんだから、くず呼ばわりしたっていいんだし、どうせならさっさとそこで殺しちまってもいんだぜ? もう演技やめて堂々としろ」

赤殻蟹装備の男は赤い甲殻に包まれた物々しい腕を組み始め、まるでネーデルに『少女』と言う概念を捨てさせるかのような
汚らしい暴言を吐く事を強要し、更にはその場で処刑を始めさせようともする。
あくまでもそれは全て男の発言だけのものではあるが、雰囲気からして巧言こうげん行為以上に迫力がある。



これだけの事を言明しながらも、まだ男の口が止まる事は無かった。

「それと、こいつがここん来た理由お前ら分かってねぇだろ? 組織ん逆らってる奴探し回ってたんだよ。まあそれがお前らなんだけどな。それと、該当者じゃなかった奴はこいつに始末されてんだぜ? 用済みっつう下らん理由でな。なんも喋んなさそうなづらしてっけど、これでも何回もそいつ、殺し回ってんだぜ? 災難だよなぁ、こいつに目ぇつけられた連中ってのが」

男の話を聞く限り、ネーデルは今までいくつもの場所で犯罪行為を犯してきた組織と戦っていた者達を
探索していたのだろう。そして、出会った者達を殺していたのだろう。

それが果たして、真実か、虚偽きょぎか。



――だが、ネーデルは……――



「か……勝手な事……言わないで!! そんな事して――」
「してんだろうがぁてめぇはよぉ。先週だってそいつらとちげぇ奴だったって理由で五人ぐれぇ斬り殺してたろ? こいつらと一緒に殺してたじゃねぇか? とぼけんじゃねぇぞ?」

赤殻蟹装備の男は近くに立っているバンダナマスクの男達に親指を向けながら、言葉だけで逃げ道を作ろうとするネーデルを
追い詰めていく。もう、どちらを信用すれば良いのか、混乱する一方だ。



――そして、バンダナマスクの男の一人が口を久々に開き……――



「大体ネーデル、おれらの仲間だって事判明した時点でもう信用ねんだってんだろ? そのガキどもんとこいたって、敵だって理由で逆にそいつらに殺されっかもしんねぇぜ? こっち戻った方がぜってぇ安全だぜ?」

バンダナマスクの男は右手でネーデルに手招きをする。



――異様な空気が流れる室内で、フューリシアは行動を始めており……――

「お前らがここで何しようとしてるかは分からんが、ネーデルはお前達にとって大事な人材であるようだな。それに、お前の妹と来れば尚更かもしれんしな」

一角獣装備で、今は所々に包帯を巻かれているフューリシアはゆっくりとネーデルに近寄りながら、
言葉を赤殻蟹装備の男と、バンダナマスクの男達にぶつける。

「確かにネーデルはこっちの仲間だが、それがなんかあったのか?」

もう一人のバンダナマスクの男が傷で荒れているフューリシアを舐め回すような視線をぶつけながら
仲間だとして何か意見でも持っているのかと聞き始める。

「勿論だ」

フューリシアは淡々と、そして単刀直入に返答し、ネーデルへと接近し……



――ネーデルの細い首を左腕で締め付ける!!――



「!!」

ネーデルは突然背後から押さえつけられ、ただ驚きの表情しか表せなかった。

「ちょっと何――」
「お前達の仲間だってんならこっちも人質を捕らせてもらう!」

デイトナの声を無視し、フューリシアはネーデルを左腕で束縛したまま、赤殻蟹装備の男に向かって激しいメッセージを飛ばす。
腰元に備えていた剥ぎ取り用の小型ナイフを右手で取り出し、ネーデルの首筋に切っ先を近づける。



「いやいやいくらそんな……!!」

アビスはいくらなんでも武器を突きつけるのはあんまりだと、手を差し出そうとするが、
それをフューリシアは聞き漏らしていた訳では無かった。

「黙っててくれ。もうこっちもやれるだけの事をするしか無い」

後ろから寄ってくるアビスに対して、紫色の瞳だけを向けながら、自分のやり方には
口出しをしないで欲しいと言う事を伝える。



「ふっ、お前言葉遣いもあれぇが、手もあれぇんだなぁ。でも別に勝手にしろや。どうせもうお前らに用はねぇし、それに、ネーデル、お前ももう用無しだ」

ネーデル――赤殻蟹男の妹――を人質に捕られても平然とした態度を取り、それ所か、
助ける様子すら見せずにいる。

更には兄妹関係とは思えないような発言までも見せる。



「用が無いって……どうする気なの……!?」

フューリシアに拘束されたままのネーデルは、赤殻蟹装備の男に対して、その最後の言葉の意味を追求する。



――男は背中に背負っていたボウガンを構え……――



「纏めて死ね……。ただそれだけだ……」

赤殻蟹キャップの白い無機質な仮面がその言葉に恐怖心を刻み込む。
まるで、殺す事に罪悪感すら感じない感情を全て捨てきった存在であるかのように……







αα  火竜製狩猟銃ブレイジングハート銃口マズルがアビス達へと向けられ……



σψβ 五人の精神が硬直状態フリーズモードへ…… βψσ

銃口が吠えた時、確実に狙われた者は助からない。人間がもろすぎるせいである。そこに恨みを覚えてはいけない。
皆、同じ規則ルールを持って大地の上を歩いているのだから。

だが、もし今偶然なのかどうかは分からないが、武具を纏っているフューリシアやデイトナに狙いを定められたとして、
ボウガンの出力に勝てるのだろうか。元々飛竜を仕留める為に精製されたのだから、無駄な挑戦は避けるべきだろう。
五体満足で済むと考える人間ハンターは愚かと言える。

それより、ここで地獄絵図ブラッディペイントが完成してしまうのだろうか?
ここで、彼ら、彼女らの運命は終焉ラストを迎えてしまうのだろうか?

これは幸いと言える話なのか、ボウガンによって彼、彼女らの生命線が切られる事は無いようだ。
それは、すぐ後に分かる事だ。だが、それが永く続いてくれるかどうかは、行動次第と言える。

ιρχ 波動砲の洗礼バスターバプティスム *** 硬直解除ドライングハートへ…… χρι







赤殻蟹装備の男は、そのまま何も発さなくなるが、問題が起きたのは、それから数秒も経たない後だったのだ。
まるで、その無言が合図であったかのように、事がスタートしたのだ。過激な、過激過ぎるあれがね。



ドゴォオオオンン!!!!

ドオォオオオン!!!!

建物の外から響く、低い轟音。
この正体は、あの四本足で歩く茶色い生物ヘビースパイダーからの贈り物である。

きっと建物の外に並んで、発射してきたのだろう。圧縮された空気砲が容赦無く建物を叩く。



ガシャアァアアァアン!!!

グアァアアアァアアアンン!!!



上部の壁が破壊され、擦れ合う音を響かせながら吹き飛ばされた残骸が降ってくる。
その下にいる者達は当然のように慌て始め……



「うわぁ!!」

――アビスの悲鳴なんかが響くが……――

「こっちだ!!」

フューリシアの手がアビスの腕を引っ張った。

因みに、ネーデルもついでなのか、一緒に引っ張り、室内の奥へと逃げ込んでいた。



一方で、ミレイはデイトナと共に、建物の外へと抜け出してしまっていた。
結果的に別方向へと逃げてしまっていたのだが、一秒と余裕の無い状況だったのだから、
咄嗟に逃げ道を見つけただけでも良い方である。

ミレイは建物のガラス張りの場所から逃げ出したのである。デイトナと共に。





▲▲ 崩れる光景を眺めていた連中はと言うと…… ▼▼

「はははは、相変わらず派手なもん見せてくれっぜぇ、バイオレットさんはよぉ」

赤殻蟹装備の男は目の前で木片が崩れ落ち、砂埃が立ち上がっているのにも関わらず、
平然と立ち尽くしたままで、これだけの破壊光景を見せ付けてくれた外にいるであろう生物を褒め称える。

「そんじゃ、おれらは逃げたあの連中追っかけでもしますか?」

バンダナマスクの男の一人がトレーナーの裏から機関銃サブマシンガンを取り出し、右手に持つ。

「待てよ。今一瞬しか見えなかったんだが、二手に分かれてたぞ?」

もう一人のバンダナマスクの男も同じく機関銃サブマシンガンを取り出し、
木材が落下する寸前のあのメンバー達の行方を他の仲間へと伝える。

「じゃあこっちも別行動になんじゃねぇか? ノーザンさん、どうします?」

三人目のバンダナマスクの男も既に機関銃サブマシンガンを右手に装備しており、
もし分かれて連中を追いかけるとしたら、どうチーム分けをするべきか、赤殻蟹装備の男に訊ねる。



――この男の名前は……、ノーザンである……――



「お前らは中あさってこい。俺は外であの女ども穴だらけんしてやっからよぉ……。あんな馬鹿でけぇ牙なんかぶつけやがって……」

そのノーザンの台詞から、どうやらこの男も木材が落下してくる際に二手に分かれていた事を
その目で確認していたようである。
しかし、男の狙いはもうこの時点で決定していると言える。

男の脳内に、緑色の髪を持ったあの少女こと、ミレイが焼き付いており……



「分かりました。じゃ、早速掃除にかかりますぜ。ノーザンさんもお気をつけて!」

バンダナマスクの男が厳つい顔つきでありながらも、ノーザンに対しては敬語で軽く頭を下げ、
ハンターが持つ武器と比較して非常に複雑な構造を持った武器を強く握りながら、煙の立ち上がる室内の奥へと進んでいく。



――進んでいく三人を目で追いながら、ノーザンは……――



「さて、殺しに行くとするかぁ……」

ノーザンは背中にブレイジングハートを背負ったままで、ゆっくりと建物の外に出る。
未だに外は暗く、夜と言う世界が全てを支配しているが、それでも周囲の狂気に満ちた喧騒は納まらず。

だが、完全にその赤い装甲に包まれた身体を外に曝け出すと同時に、歩かせていた足を止めてしまう。



――何故なら、目の前に映ったのは……――

恐らくは先程建物に向かって破壊行為を仕掛けてきた種類であろう、あの四本足の茶色い生物が二体だが、
何故か脚部を鋭く斬りつけられており、痛みに悶えるかのように体勢を崩して、
傷を負っていない三本の脚をじたばたと動かしている。

因みに斬られた脚部だけはまともに動かしておらず、そこから血を流し続けている。

普通なら、感情こそ感じ取れないものの、もがきながら苦しんでいる生物がいる、
ただそれだけの認識で終わる事だろう。

だが、ノーザンはその後すぐ、とある怒りに支配されるのだ。



「……あの糞が……パクりやがってぇ!!」

その汚い言葉に例えられた人物が誰かは、きっと説明するまでも無いだろう。
だが、この赤殻蟹装備の男、ノーザンはその場で怒鳴り、周囲を見渡し始める。

少し離れた場所に、バンダナマスクの男達が乗り回していたあのオレンジ色をした小型トラックが止まっている。
よく見ればその周辺には乗り回していたであろう男達が血を流して地面に崩れ落ちている。
きっとこの街を護ろうと戦った者に敗れたのだろう。

だが、ノーザンはそんな男達の事等気にも留めず、真っ先にその駆動車へ走り寄り、
そして乗り込み、操縦席へ座る。



「ぜってぇ殺してやっからなぁ……」

円形状の操縦桿ハンドルを握り、右足で加速装置アクセルを踏み込み、周辺に排気エンジン音を響かせる。



■β■ やがて、駆動車が街道を疾走する!!/HIGH STAKES,HUNTER RIDER ■ξ■

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