σDEATHσ  μDEADμ  εDIEε


これらを3つ合わせたのだから、3Dスリーディーと呼ばせてもらうとしよう。それでいいのだ。
本来は、『幅【width】』、『奥行き【depth】』、『高さ【height】』これら3つの要素で決定される概念を指し示す機械的コンピュータ用語であるが、
ここで問題にしているのは、機械の話では無い。今は、死ぬか生きるかの疾駆しっくの最中なのだ。
何が大切かは、最早考えるまでも無いのです。


人はただ、冥界への侵入を著しく拒む。
死者はそこで地獄の裁きを受け、死して尚、その罪に説諭せつゆされ続ける。


だが、世界の眼目がんもくを見落としてはいないのだろうか?
寂滅じゃくめつそのものに罪が含まれているのでは無く、気脈を通じている訳でも無い。


問題になっているのは永眠する事では無い。死ぬ人間にあるのだ。
人間の一部、或いは大半が命を保全させている間に、知らぬ間に多くの罪を背負い続けている。
毫末ごうまつであろうが、絶大であろうが、ここではそのような巨細こさいを問わない。
問うのは、罪そのものだ。


冥界の王ハデス天空の支配者ゼウスの兄でありながら、運命と正義を保持する存在だ。
死者を貪り喰らう雑駁ざっぱくな性格とは無縁であり、言わば、黄泉の世界の裁判官ジャッジ・イン・ザ・ピットなのだ。
閻魔羅闍えんまらじゃと非常に伯仲はくちゅうしているようにも見えるが、
この地獄の主神かむづかさ吠陀ヴェーダ神話の神であり、一方で、ハデスは希臘ギリシア神話の王者なのだ。


本来、この二人の存在は現今げんこんを意識する人間達にとっては無縁と同様である。
閻浮提えんぶだいの地下に常在する閻魔えんま大王、
そして、世界の西の果てに潜在する地底にあるとされるハデスの館を拠点とするハデス。


では、何故このような脈絡みゃくらくの感じられない閑談かんだんを、民衆に枕をそばだててもらわなければいけないのだろうか。
実は、死後の世界に定住する悪魔達にとって、これから絶勝ぜっしょうへと竣成しゅんせいする、とある区間が現れたのだ。


よく耳を澄ませてみよう。騒音、そして、残響が聞こえてくるとは思わないだろうか?
科学技術ハイ・テクノロジーの集合体とも栄誉出来る機械兵器がアーカサスの街を走っているのが分からないだろうか?


そうである。本当に奈落へと赴くかどうかの戦いがそこに描写されているのだ。
一度目を通してみたらどうだろうか?




θ The smell of the engine is a feeling of the homicide. θ
κ 排気音がこれからの血祭りを教えてくれる。 κ

θ Run a highway will be violent. θ
κ 街道は今、過激な一途を辿ってるぜ? κ

θ Look at the force of film grade. θ
κ そんじゃ、まともに直視してみなよ? κ










―◆―白い仮面の悪魔に切り離された、二人の少女の物語―◆―

   υ揺れる内部  υ響く排気音  υ地面を流れる車輪

  分かれた仲間に再会する事なんて、
                この混沌とした街で出来るのだろうか?

          〜〜 Escape from 3D  〜〜







謎の生物群や、バンダナマスクの荒くれ者達によって、アーカサスの街の至る所で炎が立ち上がっており、
今の所は僅かながら、逃げ遅れた人民がちらほらと映る。

しかし、太陽はまだ昇らない。街を照らす唯一の照明器具としては、破壊されずに残ってくれた街灯と、
建物から吹き上がる炎の集団だけである。

見れば見るほど、その光景は地獄としても捉える事が出来る。炎や、点在する人々の死体、更には飛び散る血液が
残酷なまでにその世界を表してくれている。組織の力は、巨大な街を地獄へと変化へんげさせる事も出来るのだろうか。

そんな凄惨たる光景ナウジートレンドの中で、オレンジ色の駆動車小型トラックが街道を疾走しているのだ。



「ねえミレイ、この後どうするの? フューリシアさん達のとこに戻らないと不味いんじゃない?」

車両内部の右側に座った、狩猟用装備であり、オレンジ色のセミロングの髪をした少女が左に座っている少女へと訊ねる。

「まあ確かにそうだけど、あっちはフューリシアさんがいるから多分大丈夫よ。まあアビスが変な事してなきゃいんだけどさあ……」

車両内部の左に位置する席に座っているミレイは両手で操縦桿ハンドルを握り、
右足で下部に設置された加速装置アクセルを踏み込みながら、隣に座るデイトナに返事する。

運転中だけあってデイトナとは長い時間向き合う事は出来ないが、何故かミレイの脳裏にはあの少年が浮かび上がる。

「アビス君が? あ、でもそれよりどこに向かうの? まさか酒場の方?」

アビスの名前を出してくる事に対して不思議に思いながら、デイトナは緊迫したこの空気の中でまるで
自分自身を落ち着かせるかのような笑みをこぼし、そしてすぐにこの小型トラックが最終的にどこへと
向かうのかをミレイから聞き出そうとする。

「あ……実は、さあ……正直言うとね……」

質問されたミレイは前方に集中すると言う事だけを忘れずにデイトナを一瞥いちべつするなり、
気まずそうにゆっくりと口を動かした。

「まさか、あんまり深く考えてなかった、とか?」

デイトナは走行によって揺れている車内で、これからミレイが言おうとしていたものを先読みし、
それでも別に責めるような態度は見せずに聞こうとする。



――それは勿論……――



「そう……なのよぉ……。ただ逃げる事ばっか考えててさあ……」

ミレイは真実を話した。

どうやらあの赤殻蟹装備の男から距離を一刻も早く取りたいと言う一心だけで、わざわざ小型トラックを奪い、
そして今は街の中を走行しているのだ。
実質、目的地なんて考えていない。

「いやいや、別に大丈夫! こっちも助けてもらったんだし、これからどうするかはゆっくり考えよ?」

やや自分を責めるかのように声の高さが低くなり出したミレイを励ますかのように
デイトナは左手をバタバタと振りながら、ミレイを高評価するような台詞と共に、これからの予定を考える。



――その効果があったのかはすぐに分かる話――



「そうね、ありがと」

運転していると言う立場上、相変わらず正面に集中しながら、ミレイはそんなデイトナの言葉に対して
横目でデイトナを確認しながら簡潔な礼を言い渡す。

緑色の髪からみ出した耳に付けられた十字架の銀のピアスがミレイの小さな頷きの反動で顔を出し、
まるでピアスも共に礼を言っているようにも見えた。

「でも仮にフューリシアさん達のとこに戻るとして、どうやって対抗するの? あっちはボウガン持ってるし……」

デイトナはふとあの赤殻蟹装備の男が背負っていた得物を思い出すなり、
自分の近距離専用の武器ドスバイトダガーで立ち向かえるのかと、不安を覚える。

近づく前に射殺されてしまえばどうしようも無いのだから、不安を感じるのも無理は無い。

「確かに……こっちは素手だし、っつうかそっちはいいとしてこっちなんて防具すら装備してないからね……」

ミレイの右側の席に座っている少女は一応は狩猟用装備と言う武具を身に着けているものの、
ミレイ本人は防具所か、今纏っているのは黄色い病衣と、その上に重ねて着ている暗い赤を持ったジャケットだけである。
地味にミレイは入院中の身であり、今も尚、額に包帯が巻かれていたり、青い瞳のすぐ下にガーゼが貼られていたりするのだ。

ハンターのような、純粋に強度の高い武具を纏った相手にそんなミレイが素手で勝つのは無理があるはずである。

「いや多分大丈夫だと思うよミレイだったら。だってそれでずっとこんな状況で逃げて来てたんでしょ?」

デイトナもミレイの肉体的及び、精神的な強さを理解しているのだろうか、多少の負担条件ハンディキャップがあろうとも、
ミレイならば持ち前の体術と、つちかわれた知力で全てを切り抜けられるだろうと信頼する。

「まあ、そうだけどさあ、はは」

とことん強いと言う事柄を褒められたと感じたのか、何故かミレイは運転しながら笑いをこぼしそうになってしまう。
その二人の光景を見ると、駆動車を奪って逃走していると言うよりは、友達同士で仲良く遠乗りドライブしているようにも見える。



――笑ったミレイであるが、再び言葉を洩らし……――



「でもさあ、あたしにとってあの赤殻蟹の男は……」

過去のあの事件を思い出してしまったミレイは操縦桿ハンドルを握る両手の力を緩めないまま、
表情を暗くし始めるが……

―ブォオオオオオン……

何処どこからともなく、今二人が乗っている駆動車から放たれる排気エンジン音とは別の排気エンジン音が聞こえ始め、
それが徐々に近づいてくる。



――違和感を感じたミレイは……――



「ん?」

普通ならあまり気にする必要の無い話だろう。だが、炎の立ち上がる建造物に囲まれたこの道では、
ミレイの神経は些細な事にも敏感に反応してしまうのだろう。
ドアに貼られた硝子ガラスをすぐ下部に設置された開閉装置スイッチを左手で長押しし、開いた後にそこから顔を出し、後ろを見る。

やはり、後ろからミレイ達が乗車しているのと同じタイプの車両が走っているのだ。



χχ 同じタイプ? χχ



どうして後ろから迫ってきているのか、そして、どうしてミレイ達を狙っているのか、
それは、ミレイの青い瞳が瞬時に解読してくれた。





σσ 後ろを走る駆動車のフロントガラスの先に……

θθ 白い威圧的な仮面をつけた人間が……



もうこの時点でミレイの思考回路ミッションは定まりきったと言える。何故かアビスと共にいた時の緊迫風景シチュエーションが蘇る。
そして、ミレイは運転者ドライバーと言う立場スタンスの中で、友人の命パートナーズライフを背負った存在とも呼べる。
全身に張り巡らされたミレイの神経スキルが一気に震え上がり、それは緊張と同時に闘志までも立ち上がらせる。

跼天蹐地きょくてんせきちの心境に置かれても、デイトナは塞ぎこむ事が出来るが、ミレイにはそれが出来ない。
ミレイに出来るのは、思い切った行動ハンドリング、ただそれだけだ。鈍った行動は相方デイトナをも死の危険に晒してしまうのだ。
だからこそ、ミレイから出される文字と言うのは、もう簡単だ。





ミレイは顔を車内へと戻し、右手を車内の中心部に設置された変速桿チェンジレバーに伸ばして操作しながら、
デイトナへ覚悟を決めさせる一言を飛ばした。

「デイトナ、しばらくは、耐えて!!」



――変速桿チェンジレバーが窪みに沿って動き出す――

現在設定 ≪4速≫トップ ⇒⇒ 設定変更 ≪5速≫ハイトップ

速度スピードは緊急脱出の為、最速マックスへと進みだす!!



―ブゥウウウン!!!

排気音の強さも高まり、車内にまるで振動と言うものがそのまま音になったかのような音響サウンドが響き、
同時に物理的な振動もより激しく、そして恐ろしさまでも与えてくれるようになる。

「え? ど、どしたの!?」

右側の座席へと座り、実質的な操作は何も出来ないデイトナはそのミレイの高ぶった声に驚きながら、ミレイを
直接その緑色にうるんだ瞳で直視する。
もうその時には先程までのドライブ気分だったミレイの姿は無く、操縦桿ハンドルを真剣な眼差しで両手で力強く掴んでいるミレイの姿が今、
この場所に映りこんでいた。

「あの赤殻蟹男が追って来てるから、全速力で逃げるのよ!! 注意して!!」

ミレイはデイトナには目を向けず、正面だけを見続けながら、返答した。







◆◆■■ 赤殻蟹装備の男、ノーザンはと言うと……/WHITE IN THE RED ◆◆■■

「馬鹿が。たかが盗んだぐれぇで生きて帰れるとか思ってんじゃねぇぞ糞尼くそあまどもが……」

ノーザンは単独でオレンジ色を帯びた小型トラックに乗車し、そして運転をしながら、ミレイ達を思い浮かべて
まるで何も出来ないのに強がった虫でも見るかのような小言を飛ばす。

「さてと、面白くしてやっか……」

すると、ノーザンは車内の下部に設置された作動部ボタンを左手で押し、再び仮面の下の口を動かした。

「俺だ。ノーザンだ。今東部エリアで俺らのトラックパクったアホを追跡中だ。番号は≪B−0071≫だ。付近の奴らは早急にそのトラックぶち壊せ」



――まるで、周辺の仲間達に遠感現象テレパシーでも渡すかのように、そんな事を指令し始める……――








○○▼▼ ミレイ達の視点へと戻り……/GREEN BRAVERY ●●▽▽

背後から迫る敵のトラックを振り切ろうにも、同じタイプだからか、なかなか切り離す事が出来ない。
速度も全て同じように設定されているのだろうか。

「どうしよ……。この後どうすりゃいいのよあたした――」
「ミレイ!!」

ミレイの絶望感に溢れたような台詞はデイトナの叫び声のような通告によってすぐに打ち切られる。
だが、ミレイだって知らない訳では無い。

「分かってる!!」



――正面から迫る、オレンジ色のトラック!!――



すれ違うように、ミレイ達の乗車する小型トラックのすぐ脇を通り過ぎるそのトラックは、急ブレーキと同時に
激しく方向転換Uターンし、タイヤと地面の擦れる音を響かせながら、車両正面をミレイ達の方向へと強引に向ける。

真っ直ぐ衝突すれば自分達も被害を負うと読む部分については、敵達もなかなかの冷静な思考と言える。



「援軍みたいなの来たわね……」

ミレイは背後から近寄ってくるトラックを排気エンジン音で感じ取りながら、呟いた。
きっと、他にも増援が駆けつけてくるだろうと頭に入れながら、加速装置アクセルを踏む右足の力を決して緩めない。

奥を凝視すれば、直進コースの横に建物と建物の隙間がうっすらと見えたのだ。
街道と比較すれば狭いだろうが、それでも車両一台程度は易々と通り抜けられるはずだ。



(ここなら何とか……!)



ミレイの思考回路ネットワークが素早く四肢へと指令コマンドを送り込む。
ゆっくりと考える間も無く、目的の分岐路セパレーションがトラックに近づき、より迅速な対応が強要される。



キキィイイイイイッッッッ!!!

《α》アルファ COMMAND ―> 左足が制動機ブレーキを強く踏み込み……

《β》ベータ COMMAND ―> 両手が操縦桿ハンドルを右へ右へと回し込む!!



絶妙なミレイのハンドル捌きによってトラックは地面にタイヤの跡を残しながら建物の隙間へと向き、
そして次なる指令がミレイの神経を介して四肢へと送り込まれる。

《γ》ガンマ COMMAND ―> 右手によって、変速桿チェンジレバー変速機トランスミッション≪5速≫ハイトップから≪1速≫ロー

《δ》デルタ COMMAND ―> 右足が再び加速装置アクセルを踏み込む!



建物と建物の薄暗い隙間を、前照灯ヘッドランプの光が明るく照らす。
細かい瓦礫や不法に捨てられたゴミが散らばるこの空間を小型トラックは真っ直ぐと、
そして徐々に速度スピードを回復させながら突き進んでいく。

「あれ? あいつら付いて来ないんだけど? まさか諦めた……?」

ミレイは右手で変速桿チェンジレバーを操作しながら、顔を背後へと向ける。
確かにこのやや狭い隙間を追いかけてくる様子は見えない。

「いや、多分別の道通ってまた襲ってくるんだと思うよ? でも……」

隣に座るデイトナは不安げに後ろをゆっくりと見ながら、ミレイにその考えを撤廃させるような
やや震えた声を投げかける。

「分かってる。あいつらの事だからしつこく付き纏ってくるってのはちゃんと計算に入れてるから。所で、『でも』って、どう言う意味?」

正面に向き直ったミレイは青い瞳に真剣な色を浮かべたまま、デイトナに対応して見せる。
デイトナとは目を合わせないものの、それは隙間の道の端に設置されたゴミ箱や木箱をける為に集中していると考えれば、
目を合わせない理由の説明が付くだろう。

それでも、デイトナの最後の言葉に秘められた気持ちを取り損なう真似をしないのがミレイの集中力の高さである。



――『でも』の意味を究明させる為に、デイトナの口がゆっくりと……――



「絶対に……、やられないでね……。ワタシなんも出来ないから……ミレイだけが頼りだから……」

デイトナは運転してくれているミレイしか今の状況では頼る当てが無いのだから、これからの未来を全てミレイに託す。
それでも周辺にうようよと漂っている小鬼の息吹ディム・ラフがデイトナの不安でもろくなった神経をしつこく突き刺してくれる。

「誰がやられるかっつの。普段飛竜相手にしてる奴が、あんな妙な連中程度にやられたりしないわよ? ちゃんと二人とも助かるように頑張るから、心配しないで」

デイトナの内部で暴れていた不安の悪魔テラーターロンを、ミレイの自信に溢れた明言が浄化してくれた。
両手は操縦桿ハンドルを握ったままで特に目立った手振りは見せなかったものの、小さく車内に響くミレイのトーンの高い声が
あの追跡者達チェイサーズよりも強い事を証明してくれている。

今、ミレイは≪地蔵菩薩クシティ・バルカ≫の如く、不安に駆られたデイトナを包み込む立場に
強制的に置かれたのである。

後にそれが大きな意味を成す事を、ミレイは理解しているのか。

「……うん、ありがと」

デイトナはミレイを決して疑っている訳では無いが、揺さぶられる車内の中で、不安げに緑色を帯びた瞳をやや下部へと向ける。
時期に出口から出ると言う事は分かっているのだろうか。

「じゃ、そろそろこんな狭いとこ抜けるから、気ぃ抜かないでね」

ミレイは建物と建物の隙間の通路からようやく抜ける事をデイトナに伝え、そして注意も飛ばす。
先程の赤殻蟹の男と、その仲間らしき連中が操作するトラックを退しりぞけたものの、隙間を抜けた後に
再び襲われる可能性もあると考え、その注意をデイトナへと差し渡したのである。





ψψ 惜しくもミレイを取り逃がした男は…… ψψ



あのミレイが逃げ込んだ隙間を通り過ぎながら、赤殻蟹装備の男のノーザンは車内で、
そして、白いマスクの下で不気味であり、意味深な笑みを浮かべる。

「それで逃げられたとか思ってんじゃねぇぞ、ガキの分際でよぉ……」

それでも、ノーザンは加速装置アクセルを緩める事をまるでせず、そのままトラックを走らせ続けている……。





■■■ それは、まだ序の口であり、冥界への招待は……これからだ……/EXHAUST FUMES ▽▼▽









隙間から抜け出したミレイとデイトナであり、ミレイはそのまま左折し、速度を上げ直す。
まるで全ての動作が右手に入力されているかのように、変速桿チェンジレバーが滑らかに動かされる。

しかし、彼女らを苦しめるのは、もう近くまで来ているのだ……。

(随分静かね……。絶対どっかにいんじゃないの?)

もうこの時には、ミレイは直接口を開く事をしなかった。あまりにも緊張した状態だからか、神経を恐ろしいまでに集中させているのだろう。
デイトナもその事は分かっているのか、ミレイに無駄な話をしないよう、黙り込んでいる。



β 流石はミレイである…… β

冷静な判断は周辺の空気の変化を敏感に受け取り、そして情報の更新も非常に素早く行われる。
近づく排気エンジン音が元々敏感だったミレイの神経を更に刺激し、青い瞳ブルーアイズを鋭く尖らせる。
左足で制動機ブレーキを軽く踏み込み、速度スピードを僅かに落とすが、それが正解を意味する。



――目の前の曲がり角から敵車両がやって来る!!――



激しく地面を滑りながら方向調整を行い、そして一気にミレイ達の乗車するトラックへと突っ込んでくる!!
もう既に、油断のならない戦場メレーランドが完成してしまっているのだ!!

「来たわねっ!!」

思わずミレイの口から驚きを混ぜたような鋭い声が放たれる。
素早く操縦桿ハンドルを回転させ、正面から迫るトラックの軌道ラインから外れてみせる。

「ミレイ! 後ろからも来てる!!」

殆ど前ばかりに集中していたミレイに対して、デイトナはふと背後を見て、三台ほどのトラックが迫ってきている事を確認し、
すぐさまミレイにその報告をする。

「ありがと!!」

いちいち深い意味を込める余裕すら存在しないのか、ミレイはまるで笑顔を見せない真剣な表情で前方を直視したまま、
デイトナに鋭い礼を飛ばし、トラックをそのまま一気に走らせる。











―■ζζ■ 獄卒ごくそつ達による煉獄顕現プルガトリオメモリーの清書が今、この空間で!! ■υυ■―

赤殻蟹の甲殻を装備したノーザンは最早この炎上と悲鳴に溢れ返るアーカサスの街に於いて、既に人間の域を逸脱している。
殺生をした者が落ちる極苦処ごくくしょに赴くに相応しいこの男は今はもう、統治者ルーラーと化している。

≪オレンジ色に染められたトラック≫と言う名の地獄の使いヘルハウンドに乗った獄卒ごくそつ達は飛び交う指令に従い、
アーカサスの街の造形を拝借はいしゃくした死者の国ヘルヘイムで、気ままに、忠実に、凄愴せいそうに暴れまわる。

元々は別の次元にその激越な身体を預けているが、共通点が一致した際になると、突然その熾烈しれつな面構えを共にし、
それぞれが併せ持つ牢乎ろうこな肉体を互いに自慢し合うと同時に、相手に対する絶対的な力も見せ付ける。

自慢とも受け取れるその激動が周辺に影響を与えた時、非常に強大な力となって他者に被害が走るだろう。
逃げ惑う二人の少女に制裁を加えるべく、破滅組チーム・デビルに属する衆生しゅじょうは業火の息吹を撒き散らす……

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