―◆◆―≪≪
大気圏を越えたその
実は
―ρ 巨体が地面へと落下する!! ρ―
周囲が短い間、激しく揺れる。
巻き込まれずとも、
◆◆◆
「けっ!」
それしかフローリックは言えなかった。
相手は巨体ではあっても、その
気持ち的に出来るだけ大きく離れるように走り、ヴォルテールの暴れ行為を背中で感じ取る。
地面が割れ、
周辺を揺らす事がまるで
――χ まだ終わらないよ? ≪::::≫ START AGAIN? χ――
――再びヴォルテールは力を全身へ
――随分としつこい
それはつまり、再び
そこに深い理屈や描写、その理論を説明している余裕は無い。
時には
――■ ■ 繰り返される
≪≫≫≪ 亀裂が
≫≪≪≫
≫≫≪≪
≪≪≫≫ 何かを呼び出したのかい? 地面がちょっと赤く光ってるよ? まさかこいつら
「最悪だぜ……マジ……!」
連続で跳躍されては、フローリックも攻撃をしたくてもする事が出来ない。
収まるのを待つしか、この灼熱で揺らぐ大地では手段は存在しない。
鬼神斬破刀を吠えさせる時間も与えず、ヴォルテールは再び全身に力を送り込む。
――■ ■ 繰り返される
操作性の極めて悪いながらも、一応はフローリックを狙い、その巨体を跳躍と同時に横へと跳ばす。
一時的に地面から
α
そこは
勿論生活が一変する程の富が降ってくる訳では無い。
地面が苛烈に割れ、すぐ下を流れていたであろう溶岩がその
まるで
「グアァアアアァア!!!」
ヴォルテール自身も予測していなかったのか、沈んでいく自らの巨体を暴れさせながら雄叫びを飛ばす。
胴体下部は確実に業火の溶岩に襲われているだろうが、そのまま溶けて無くなる事は無いだろう。
――その姿が何故かフローリックの過去を引き
「何暴れてやがんだよこのアホが……」
先程までは
弱々しい声を発し出す。
妙にその開いた穴に
――◆▼ ヴォルテールも例外では無かったらしい…… ▼◆――
まだ岩壁竜だった頃……
小さな泥沼に落ちてしまい、3人に笑われた事があったっけ……
恥ずかしい姿であったとは言え、懐かしいかも……
――どうしてだろう……戦闘の真っ只中だと言うのに……――
「グアォオオオ!!!」
ヴォルテールは思いを振り切るかのように、鳴き声を
割れた地面と、下に溜まった溶岩がいくらか下半身を拘束しているものの、
巨体と言うその計算を入れれば、永遠に縛り続けるのは無理なのかもしれない。
―ガァガッ!!
―ガガガ!!
―ブァチャン!!
付近に位置していた、崩壊していない地面がその
溶岩だって、激しく跳ね上がる。
偶然なのか、或いはその場所を知っていたのか、地面の特に硬い部分を選んだかのように、
階段のように這い上がり、溶岩から脱出する事に成功したヴォルテールではあるが、
その横から刃による攻撃がお見舞いされる。
「今お前昔ん事思い出したんだろ!!? いい加減正気ん戻れよてめぇ!!」
その斬撃は普段の狩猟のように相手の
記憶を呼び戻す為に、どうしようも無いやり場に縛り付けられているようにも見える。
まさかその刀が帯びた雷がヴォルテールに伝わり、失っていたものが蘇るのかもしれないと希望を抱いているのだろうか。
――僅かながら、翼に斬れ痕が残されていく……――
身体を引き抜く為に翼の動きが緩くなっていたその瞬間を限定するかのように狙っていたようだ。
フローリックの電撃を帯びたその鬼神斬波刀であっても、岩の翼が持ち上がってしまえば、もうそれまでだ。
θθ だが、もう溶岩からは脱出出来たのだ!!/ESCAPE FROM RED!! θθ
溶岩から抜け出し、ヴォルテールはその
証拠に、歩き出したヴォルテールにフローリックが近づく様子が映し出されない。
飛竜が手痛い攻撃を受けずに済ませる為には、常に移動し続ける事なのかもしれないが、
今この鎧壁竜が動いている理由は、逃げる為では無い。
――■ 周辺に点在する岩の数々に入念せよ/ROCK CASTLES ■――
これを狙っているかのように、
進路上に何気なく散らばっていた小さな岩の欠片は全て、ヴォルテールの巨大な脚が全てを砕く。
熱気で揺らぐこの刹那の空間で、ヴォルテールは自分の行為が何を生み出すのか、ふと悟り出す。
あまりにも唐突な出来事だ。そもそも、飛竜が論理的に思考を働かせる事なんか出来るのだろうか?
いや、不思議にも出来ているから、今ここで記されているのだ。
―▼思えば、
―▼そもそもどうしてあの男は
―▼強固な堅殻でも狙って、皮膚を剥がしにこの火山にいちいち足を運んできたのだろうか?
―▲いや、その前にあの男、何か叫んでいなかったか?
―▲人間の言葉を飛竜が理解するのは普通は無理であるが、何か意味を持っていたような気がしたが?
―▲真剣に受け止めてみようとも思ったが、もう目的の岩は目の前だ。
―▽▽ 気持ちを切り替えよう……
―△△ まずは、岩を使った曲芸をあいつに披露してやらなければ……
■ χχ ■ フローリックはこの後の惨劇を読み取った…… ■ χχ ■
(やっぱ分かってくんねえのかよ……あのバカが……)
双角竜ヘルムの裏で、橙色の目を細める。
そして、鎧壁竜のサイズにも劣らない
まるで鎧壁竜とその大岩が何か
しかし、その岩をこれからどうしようと考えているのだろうか。
分かっていなければ、まるで対策を練っているかのように、右足を引いて構えるような体勢を取るはずが無い。
――尻尾が大きく反れる……――
―ガガァン!!
――尻尾が岩を打ち砕く……――
―◆◆―≪≪
そこには純粋に
そして
強度はその外見から想定される
―◆◆
(けっ!!)
その短いフローリックの心中での呟きに含まれる意味は、
放物線を描いて飛んでくる大小無数の欠片を避けきれるのかと言う、不安である。
まるでその欠片の一つ一つに
■ο □
□ υ■ いくらかの大きさを保持した
■κ ■ 崩れる事を知らなかった
―― これらがそれぞれ何個存在するか、そんな事調べていられるはずが無い ≪≪
思い出とか、昔話とか、一種の感情に襲われてる暇があるのなら、
まずはぶっ飛んでくる岩の
岩で出来た
全てが全て狙っている訳では無いが、立ち止まっていると確実に巻き込まれる。
「にゃろ!! 近づけねぇぞこれ!!」
万が一顔面に命中してしまった時の事を考えてなのか、フローリックは右腕で顔面を護りながら
その多少遮られた視界の中で、飛んでくる岩の数々をしっかりと捉えている。
―ガガァン!!
―バララァ!!
―ゴロォロン!!
遠方近辺どちらにも落下してくる岩達が重苦しい音を地面に響かせ、そして砕け散り、或いは跳ね返りながら転がっていく。
大きさにもよるが、直撃したらただでは済まない事もある。
しかし、見る限りは直撃はしていないらしい。
――◇Voltaire……◇ 何故だ……、また脳裏に懐かしい光景が浮かび上がる…… ◇Remember You……◇――
そう言えば、勢いを付けすぎてそのまま木に激突していたっけ……。
いくら身体が岩のように硬いとは言え、顔面からぶつかった訳だから飛竜のくせによろけていたっけ……。
木は折れず、逆にヴォルテールがふらついて、3人に笑われていたっけ……。
今は岩を攻撃していたし、それに、顔面じゃなくて尻尾をぶつけていたけど、
身体を強くぶつけると言う点で考えれば、それはある意味で共通している点なのかもしれない。
まさか、今のこの攻撃は、昔の自分を思い起こす為だったのだろうか?
ヴォルテールの動きがそこで止まってしまう。
それは相手にとって攻撃の
幸いにもまだまだ
――◆◆
今度は
舞い上がる
それは最早、
―ガララァン!!!
地面に落ちて砕ける岩の数々。
これで終われば全てが終わる。そして、喜びと悦楽と笑いを全身で表す事が可能となる。
▼▼▼▼
確認しよう。今すぐしよう。
▲▲▲▲
――気味悪く、ヴォルテールの感情が変わる……――
黄色く光ったような眼がゆっくりと細くなる。
一体男は何を伝える為に火山に赴いてきたのだろうか。しかし、考えた所で答は見つからない。
それならば、その答の永遠に分からない
炎が
それはまだ、分からない。
分からない。
分からない?
その理由は……
―ガキィイン!!!
「
ヴォルテールの腹の下へと潜り込んでいたフローリックは、その上部にある岩の腹部を的確に狙い、
鬼神斬破刀の刃で力強く斬りつける。
上から下へ振り落とされたその太刀は、細身が呼び起こす繊細な操作性を生み出し、
腹部の甲殻の、特に
やや性格の荒いフローリックであっても、太刀を使うとなれば話は変わり、
2度、3度と腹部の
斬り刻むのでは無い。斬りつけるのだ。斬って、そのまま破壊してしまうのだ。
――ββ 甲殻の隙間から、赤い物が滴り落ちるが……
――ヤハリ……ツブスシカ……――
真下にいるのなら、もう一度跳び上がってみると面白いだろう。
ヴォルテールは確実にそうやって頭の中で考えている。
何がどう甘いのか、それを考えるよりも前に、とりあえず潰してしまおう……
―◆◆―≪≪
岩のような質感を持った両翼に力を込めれば、その巨体は持ち上がるのだ。
相当無理をしている為か、持ち上げてすぐに落下する。
その落下が意味する言語は……
――潰れろ!! 塵となれ!! 土となれ!!――
単純な単語の羅列でありながら、最期に行き着く先は圧死である。
真下にいるであろうフローリックをそうさせる為に、その巨体を急降下させる。
―ドォオン!!
地面が重音を響かせるが、そこにフローリックの姿は無い。
「バカかお前!? どこ狙ってんだよ。オレはこっちだぜぇ!? やんならちゃんとやってみろよ!」
ヴォルテールが跳び上がってすぐにフローリックは回避していたのだ。
鎧壁竜の尻尾方向へと逃げるように、その重厚な防具でありながらも、何とか素早く逃げ切っていた。
そして背後でようやく地面へと落下した鎧壁竜の背中に向かって、
どこか楽しんだ感情も含めた声でフローリックは太刀を肩で背負う。
「グォ……」
いつの間にか背後に移動されていたフローリックを視界へ入れる為に大きく頭部を横へと逸らす。
確かに目的の人物がそこに立っており、そして小さく鳴き声を洩らす。
さっさと次の攻撃を仕掛けてやろう。
その気持ちを溢れんばかりに
さて、今度はまた突進でも仕掛けて
そんな事を考えながら、一歩、踏み出した。
―ガラッ……
―バキキィ……
「グォ?」
突然足元が多少凹むかのような錯覚に襲われる。
それは錯覚では無かった。本当に、そうなったのだ。
―バリリリィ!!!
―ボチャン!!
地面が割れる音と、その下にある溶岩が跳ね上がる音がほぼ同時に鳴り響く。
再び下半身が溶岩で拘束され、徐々にその身体は沈んでいく。
「何やってんだよお前。オレん事倒すんじゃねえのか!? そんなチンタラやっててオレに勝てるとか思ってんじゃねえぞ!」
何故か口数が増えてきたフローリックであり、そして、その表情も妙に明るい。
本気で息の根を止めると言うよりは、どこか様子のおかしいヴォルテールに一種の希望を抱いているのだと考えたい。
実際、ふと動きが止まる事が多く、それによってフローリックの攻撃のチャンスが増えているのだから。
「グオォオ……」
自分を蝕む溶岩の熱を何とも思っていないかのように、ヴォルテールは威圧的な鳴き声を一度放つ。
まるで溶岩から抜け出そうと言う様子が見えないが、今回は埋もれていた方が都合が良いのだろう。
溶岩の中で、身体をうねらせているのだが、それを外から見る事は出来ないのだ。
―◆◆―≪≪
溶岩は鎧壁竜にとっては遊び場であり、庭の一種に等しい。
だから、単刀直入に、地面を壊しながら、襲い掛かってみようか……
―ガガガァアガガ!!!
溶岩を突き進み、
赤く染まった
αα εε
δδ ρρ
ιι ββ それよりも、溶岩を走る
「お前何カッコなんかつけてんだよお前!? そんなんでオレに勝てるとか思ってんじゃねえぞ!」
フローリックに迫ってくるのは、
黙っていれば、
相変わらず
岩を跳ね上げながら迫る巨体の為に、右へと走りこむ。耳に伝わる
直進だけでも精一杯なのだろうか?
――目の前を横切っていくヴォルテールに対し……――
「こっちだぜ!! 派手にやんならちゃんと狙って来いよ!! んなもんカッコつけてるとも言えねえだろう!?」
フローリックに対して、ヴォルテールはその巨体の側面を見せている所だ。
命中率に劣るヴォルテールを馬鹿にするかのように、フローリックは開いていた左手を招くように動かす。
声に反応したのか、ヴォルテールの動きがピタリと止まる。
――ソウダ……、ヤツハアッチニイル……――
考え直したヴォルテールは、溶岩に半身以上を浸した状態を保ちながら、一度フローリックへと顔を向ける。
そして動作の連結を怠らず、すぐに横に向かって再び進み出す。
――目の前には確かに相手がいる
――きっと、この地帯の地面は大荒れだろう
――いや、まずは破壊だ! 破壊だ! 殲滅だ!!
随分と距離を取ってしまったようだ。これでは辿り着くまでに無駄に時間がかかってしまう。
だが、心配する必要は無い。これでも飛竜なのだから、底力ぐらい、出せるだろう?
だから、今見せてあげるよ?
◆ψψψ▲ ミテロヨ…… ▲ψψψ◆
「グオォオオオオォオ!!」
ヴォルテールは
一度
「何すっ気だあいつ……」
フローリックは後退りながらその激しい咆哮に妙な気分を抱き始めるが……
――今、始まった……――
――ARE YOU READY?――
(注意しろよ)
(今、地面を広げてみせるよ)
(大きな身体でも、跳ぶ事ぐらいは出来るのさ)
(この世界では実行しないと分からない事実もあると言うもの)
(驚異的な力で、今地面が割られている所だね)
―◆◆―≪≪
ιι■□ 跳び込め!!/PLUNGING!!
λλ□■ 突っ込め!!/SMASHING!!
ξξ■□ 火山の主を強く誇れ!!/BOASTING!!
溶岩の中で上下に跳ね上がる巨体を目で見れば、
跳び上がり、そして沈んだ勢いによって、もう地面に対する説明はするまでも無い。
一回ずつ跳び込みながらフローリックへと接近するその光景は
出来れば地面を壊しながら、フローリックに直撃させたいものだ。
「あんにゃろう無理してやがんな……」
と言っている間にも、背中で波を作りながらどんどんヴォルテールは顔面へと迫る。
厳つい頭部も溶岩に沈んだり、現れたりで激しいものがあるが、一つ、言える事があった。
◆◆ 身体中に溶岩が張り付いている……/GLARE ADHESION ◆◆
それは、接近を拒む為の装飾品ともなる訳だが、今の状況ではまず近寄れない。
付着した溶岩が、その白い甲殻に派手な深紅の色を塗りつけている。
ヴォルテールを護るその溶岩達をどうすれば良いのか、この攻撃が終わった後の課題になるのだ。
「オレん事マジで殺そうとかしてんみてぇだけどなあ、まだやる事残ってんだよオレは!!」
巻き込まれればどうなるか、それは生物の本能で分かる事。
フローリックにだって、まだまだ残りの余命を生きていく権利がある。
また軌道から逸れる事が出来れば、さっきと同じ状況で逃げ切れるはずだ。
周囲をよく見れば、地面は随分と割れており、溶岩の露出した場所が多くなっている。
それでも注意さえすれば、落ちる事は無い。
――再び、右へと走り出す――
――生きる為に! そして、あの時を思い出させる為に……――
――そして、ヴォルテールは……――
―χ― 左折する…… ―χ―
意味は詳しく説明するまでも無い。
簡単な話である。軌道を、逃げる相手に合わせた、ただそれだけの事だ。
大きな身体の軌道を修正する事は、容易い事では無い。
容易くない事だからこそ、相手にとっては驚異的な打撃を精神的に与える事も出来るのだ。
「うわっ! あいつついて来やがんのか!?」
走り続けながら、ヴォルテールのその動きを見逃さなかった。
飛び散った溶岩を踏まぬよう、一箇所ずつ力を込めて何とか避けながら、それでも前へ前へと走り続ける。
これがジェイソンやクリスだったら、もっと軽快に回避しながら走っていたのかもしれない。
だが、フローリックは装備が重装である上に、元々戦いのスタイルが
力強さで勝負する為に、
最も、それが大抵のハンターに言える話ではあるのだが。
―ゴゴゴォ!!!
―ガガガガ!!!
頑丈では無い地面がヴォルテールの
しつこくフローリックを狙う。
もう既に、数秒で辿り着くと言う距離にまで近づいている。
――もう彼は
(死んでたまっかよこんなとこで……!)
――フローリックにも、現れる……。昔の光景が……――
まだ岩壁竜だった頃、一緒に走り回っていた事があったな……。
自分達もまだ子供だったが、岩壁竜の頃のヴォルテールは
外見通り鈍くて、いつも置いて行きそうになっていた……
また一緒に走れたら、なんて考えてもいたが、今の光景は、とても笑えるものでは無い……
死ぬか生きるかの、
もう一刻の有余も無い。ただ走っていても、
その横に対する幅の広さが、この時に凶悪な程に好都合な特徴として
この状況を切り抜けるには、
(そうだ……あれあったな。閃光玉……!)
左手で、何かの時の為に所持していた道具を掴み、僅かな希望に全てを賭けようと考える。
鋭い光で動きを多少でも止める事が出来れば、生存率は確実に上がる。
発光した瞬間に鎧壁竜の眼が外界へと出ていなければ効果は無いのだが、
今はその潜ったり出てきたりしている姿をじっと眺めている余裕も無い。
ここで
(さっさと止ま――)
「グアォオオォオオオォオオオ!!!!!」
(?)
効果は
持っていて損の無い道具には間違い無い。
事実、動きは止まり、地面を割りながら進むその進撃も終わった。
この後の予定はとりあえず、ある程度はゆっくりと考えられるはずだ。
溶岩の中でのた打ち回っているその姿は、巨体と言う現実を考えると、凶暴性の裏に
――所で、辺りは強く光ったのだろうか?――
いや、確かに元々溶岩の熱で妙に照らされてはいるものの、意図的に光が放たれたりはしていない。
少なくとも、あの鎧壁竜の視界を奪い、動きさえも封じるだけの光はここに存在していなかったはずだ。
一体何が、鎧壁竜の眼を眩ましたと言うのだろうか。
どこから、それだけの光がやってきたのだろうか?
――そもそも、『光』にばかり捉われていてもいけないのかもしれない――
奴は溶岩の中に身を潜めていた。
調べたくても、どうやって溶岩の中に潜り込む?
深さを調べるのは、無理があるのでは無いだろうか?
だが、結果的に鎧壁竜は動きを止めて、もがいている。
それは何故だろう?
「グォオアァアアァア!!!」
底の極めて深い部分に足を付けてしまっていたのか、その巨体が面白いようにどんどん沈んでいく。
いくら翼を動かしても、巨体を浮かび上がらせ直すに至る事は無かった。
雄叫びをあげても、その巨体は浮力に乏しい為か、上昇する気配を見せ付けない。
――半分以上が溶岩に沈み……――
――翼も徐々に沈んでいき……――
――背中が何とか映るまでに沈み……――
――最後は、頭部までもが溶岩の中へと沈んでいった……――
ππ 突然空間が
地面を崩す
普段、溶岩と共に生活をしているこの竜が、逆に溶岩によって命を喰われてしまうとは、とんだ計算ミスだった事だろう。
「何やってんだよお前……。結局なんも分かり合えてねえじゃねえかよ……」
今までの激戦が嘘だったかのように、フローリックの心情も急速に落ち着いていく。
自分がこれからやられる危機が無くなったとは言え、肝心の目的も果たしていないと言うのに、どうやって喜べと言うのか。
目の前にあまりにも大きく広がった
その中で亡くなってしまったであろうヴォルテールの天へと昇る
――残念ではあるが、後はここを去るだけだ……――
(でもやっぱ人間と竜なんて分かりあえねってんのかよ……。ありゃ昔の話だってのも分かっけどよぉ……)
鎧壁竜が落ちた溶岩の穴に背中を向け、そのままフローリックは歩き出す。
周囲は砕けた岩が散らばり、溶岩も散らばり、そして亀裂から溶岩が顔を覗かせている。
真っ直ぐ進んで入り口へと戻るのは不可能だが、多少遠回りでもすれば辿り着ける程度だ。
心で様々な思いを浮かばせながら、その場所へと向かっていく。
――もし、分かり合えたなら……。事態は変わっていただろうに……――
本当は、鎧壁竜となったヴォルテールを褒めてやりたかった……
本当は、その
本当は、同じ友人同士で共に旅をしようと言う無理な計画でも立ててみたかった……
本当は、妹も連れてまた会いたかった……
「お前なら分かると思ってたんだけどな……。やっぱ害虫なんかにやられちゃお前でもたまんねえってか? それともお前は結局そんだけの図体持っててそんな虫の一匹や二匹よりも
一瞬、自分自身の中で何をそこまでベラベラと喋っているのだろうかとフローリックは考えるが、
これはあくまでも独り言の
何を喋ろうが、本人の勝手なのかもしれない。
――あまりにも、
――
――だが、現実を見れば、この洞窟内部は静かになった。それが証拠だ――
―ゴゴゴゴゴゴゴ……
――地面がやけに揺れている……――
――まるで、火山地帯で地震でも起きているかのように……――
――いや、地震そのものだろう……――
「へっ! やっぱそう来ねえとなぁ! そんなんで終わってたら世界中の鎧壁竜どもに馬鹿にされんぞ! 天国でも地獄でもなあ!」
フローリックはまるで全て分かっていたかのように振り向き、
そしてぽっかりと開いた溶岩の口に向かって楽しげに言い飛ばした。
本当に帰還しようとしていたのか、それともこの予兆がやって来る事を推測してわざとそんな行為を取ろうとしていたのかは定かでは無い。
やはり、溶岩に沈んだからと言って、そう簡単にはあの世へは逝かないらしい。
証拠となる光景が今、作り上げられようとしているのだから。
――■□ 獄炎の河口では……/PROMINENCE…… ■□――
地響きと同時に、その溶岩が波打っているのがよく分かる。
まるで中からとある脅威が飛び出してくるかのように。
もし実現されたとして、事態はどうなってしまうのだろうか。
―ゴゴゴゴゴ……
――地響きはまだ
―◆◆―≪≪
――オレハマダ……クタバラヌ……
――アイツニハ……ミトメラレタイ……
――ヨワイト……オモワレタクナイ……
βββ
εεε 直接確認出来なくても良いのだ。兎に角、光っている事にしろ……
さあ、溶岩から脱出しよう。
だが、力が無ければ辿り着けない。
ならば簡単だ。
力を入れれば良いのだ。
まだまだ体力は有り余っているのだから。
TARGET IS……
(目標は……)
HEAVEN!!
(当然、真上だ!!)
「グアァアアアアァアアアアアアア!!!!」
――
――ゆっくりでは無い。本気で地面をぶっ飛ばすかのように、力強く、高速に飛び出すその巨体……――
◆ωω◆ 人間に化けたかのような、
◇οο◇ 地上の
◆χχ◆
◇ιι◇
この光景がまさに、相手を脅えさせる為の技なのだ。
忘れてはいけない。見逃してはいけない。油断してはいけない。
――≪≪ ◇◇ ≪≪
忘れるな……
見逃すな……
油断も、するな……
――フローリックはどうなってしまったのだろうか……――
「来るってこたぁ分かってたけどよぉ……、なんだよあれ、随分危ねえ奴だったんだなあいつ……」
きっと咄嗟に、ハンターの勘か、瞬発力かで素早く岩の陰へと隠れたのだ。
巻き上がる岩や溶岩にやられる事は無かったが、周辺は砕けた岩や、細かな溶岩が散らばっている。
しばらく待つと、岩や溶岩の落下する音がどんどん少なくなり、最終的には音そのものが無くなった。
これならば、岩の影から姿を乗り出しても大丈夫なはずだ。
――そして、岩から離れながら……――
「いいじゃねえか。
しかし、ヴォルテールは上体を上へと持ち上げた姿のままで、じっとフローリックを見詰めている。
多少身体に溶岩がこびり付いているものの、そこから立ち上がる煙は鎧壁竜にとってはどうと言う事は無い。
まるで一種の感情に浸っているようにも見えるのだが……
「けどなあ、出来りゃあオレん事思い出して欲しんだよ。昔仲良くやってた奴殺す為に暴れんじゃなくてなあ、もっと別ん事ん為にそんお前の馬鹿力使ったらどうだってんだよ。おい、聞いてんの――」
――口が赤く光り出す……――
「ってお前聞いてねえだろ!? 話ぐれえ聞け――」
恐らくはその光り出した口の意味を理解しているのだろうが、フローリックは下がらなかった。
いや、下がる必要が無かったと認識しても間違いでは無いのかもしれない。
しかし、発動自体は、行われた。
―◆◆―≪≪
上がり続ける体温を外へと逃がす為には、とある形で熱を放出する必要性がある。
それが、今上目線で実行されている所なのだ。
上体を上へと持ち上げているヴォルテールから見れば、フローリックはかなり低い位置に存在している事だろう。
それがまさに、
口から放たれるのは、決して人間が触れてはいけない強力な兵器……
■ρρ■
―ピュゥウイイイイィイン!!!
妙に高い音程を響かせながら、その赤い熱線は地面を焼きながらなぞり、やがてフローリックに近づいていく。
しかし、そこでの奇妙な点と言えば……
――命中しなかった点、だろうか?――
「なっ!」
流石にフローリックも恐れを抱いた事だろう。
すぐ隣を高熱の気体が通り過ぎたのだ。まともに触れれば火傷以上の重傷を背負う事となるのだから、
一瞬だけ身を硬直させてしまうのも無理は無い話だ。
ここでは恐怖と同時に、一つの疑問点が浮かび上がった。それは、彼の台詞を傾聴すれば容易に分かる事だ。
―シュゥウウ……
――焼けた跡から立つ煙の隣で、男は口を動かした――
「お前、わざと外したろ?」
自分に直撃しなかった事が偶然なのでは無く、相手の意図によるものだと悟ったらしい。
その鎧壁竜の巨体が精密な命中率を持っているとも考え難いが、逆に上手く外すのも簡単では無いだろう。
「グオォオ……」
しかし、お世辞にもそのヴォルテールの眼は穏やかとは言えず、殺気立っていると言っても違和感は無い。
右眼の上下に入った傷も考え、その性格すらも悪く見えてしまう。
「いい加減強がんのやめろよお前。やっぱお前薄々気付いてたんだろ。オレだって事ぐれぇよぉ。だから今だってお前わざとオレに当てねえように妙な配慮したんじゃねえのか? それにさっきからお前、飛竜にしちゃあ随分様子変だったしよぉ。一回ずつわざとっぽく止まったりする奴なんかオレ今まで一回も見た事ねえかんなあ」
とは言うものの、実際にヴォルテールが過去を蘇らせながら苦しんでいた事は知らないだろう。
それでも何となく、分かったような気がするのがフローリックだったらしい。
鬼神斬破刀を肩に乗せて持ちながら、未だに上体を持ち上げたままの姿勢を保っているヴォルテールに向かって、
対して
一体ヴォルテールはそれを聞いてどんな気持ちを抱いているのだろうか。
もしここで、昔の姿に戻ってくれれば、どんなに嬉しい事だろうか。
だが、殺気立った眼つきが変わってくれない以上、それを求めるのは酷なのだろうか。
「お前、やっぱ分かってんだろ? 分かってんなら素直んなれやお前」
まさかヴォルテールは意地を張って、とことんフローリックに対抗しているのかとでも考えてしまった。
だとすると、成体になっても精神だけはまだまだ子供であるのかと言う未熟な部分が残っている事になるだろう。
或いは、フローリックもそろそろ我慢し続ける事に限界を覚えたのかもしれない。
元々性格がやや短気であるから、巨大な相手の面倒なんか見続ける精神力も無かったりするだろう。
――そして、ヴォルテールは……――
「グオォオ……」
ヴォルテールはゆっくりと頭を下げ、その頭部をフローリックへと近づけた。
たかが
―◆再び蘇る、あの頃の記憶……◆―
共に走った姿が懐かしい……
穴に嵌って笑われたあの頃が懐かしい……
何だか、色々な過去が蘇る……
懐かしい……懐かしい……
「バカが。なんでさっさと気付かねんだよ……。もうちょいでマジでお前ん事殺しちまうとこだったんだかんな……。お前どうせルージュにも会いてんだろ……。お前の妙に逞しくなったとこも見せねえで死んじまおうとか思ってたのか?」
普段のフローリックにしては随分と珍しい光景だった。
正気に戻ってくれた旧友に安心したのだろうか、妙に悲しみの籠ったような態度を
それでも泣き出すと言う事は無いものの、その橙色の目には懐かしいものに出会えた時の雰囲気を表していた。
旧友が心を失ったと思い、そこでしたくもない戦いに巻き込まれてしまえば、誰でも心を痛めるだろう。
それが、今やっとここで分かりあえたのだ。
もしも、この状況がより良い方向へ進めば、町での惨劇も終わりを迎えてくれる事だろう。
旧友を殺すなんて、身が引き千切れるような思いをする事になるだろうが、町が破壊されても大変だ。
――よほど安心したのか、フローリックは……――
ゆっくりと太刀を
溶岩の熱は相変わらずであるが、今は取り戻してくれた事に対する喜びの方が勝っている。
きっと鎧壁竜の側も、ようやく確認する事の出来た嘗ての人間の形をした旧友が嬉しかったのかもしれない。
見つめ、フローリック――何故本人が自分を『クルーガー』と呼んでいたかは謎だが……――を真面目に凝視する。
飛竜本来が持つ凶暴性が微塵も感じられず、それは逆に威厳すらも捨ててしまったかのようだ。
「さって、どうする? もうお前とやり合う意味も無けりゃあこんなクソ
ヴォルテールと和解したから、それでおしまいと言う訳では無い。
町に平和が戻る事を伝えなければ、町では永遠に恐怖と戦慄が支配する事になる。
まだ仕事は残っているのだ。だから、次はそっちの仕事に入らなければいけない。
――ヴォルテールが顔を持ち上げる……――
◆◆
――鎧壁竜は気付く……――
――とある熱気に……――
――決してこれは、『溶岩』と言う意味では無く……――
ヴォルテールは突然動き出す。
フローリックはいきなり迫ってくるその巨体に最初こそは驚いたものの、
それが決して戦闘を再開させると言う意味では無い事に気付く。
言葉は、出なかった。
理由は簡単だ。
フローリックの隣へと進むように動いていたからである。
そして、理由はと言うと……
―ブワァアアアア!!!
―ゴォオオォオオ!!!
炎が勢い良く放出される轟音と、風が吹き上げる轟音の二つが同時に響いていた。
ヴォルテールはこれを察知していたのだ。
そして、察知すると同時に、それが最終的には何を
行動に走ったのだと信じてやるべきだ。
その轟音の正体は、まさにフローリックを狙っていたのだが、
ヴォルテールの勇気ある行動が、全てを防いだのである。
――まるで太い線のように放たれる熱線を……――
――強固な体躯で防ぎ切る……――
――まさに、フローリックの盾と化したのだ……――
「なんだってんだよ……。いきなし……」
鎧壁竜の影で、突き抜けて自分にやってくる妙な熱気を浴びながら、フローリックは呟いた。
一体誰がこんな事をしてきたのか、気になるだろう。
「なかなか眩しい友情ごっこじゃないか。君は未だに子供の時の精神を忘れられないのかい?」
それは、盾となっている鎧壁竜の奥から聞こえてきたものだ。
青年の、品の持った声が、はっきりとやってくる。
「グオォオ……」
「そん声って、まさかお前……」
ヴォルテールは眼つきを鋭くしながらその方向に顔を向け、そしてフローリックはヴォルテールを避けて前に出て、
一体誰が自分に呼びかけたのかを確認する。
―υ
それはあまりにも黒く、それでも黒の近い色が大半を占めているこの火山空間に於いては、
殆ど周囲と同化しているようにも感じられる。
恐らく、先ほどの
炎の威力が強かったのか、その放出進路上には炎が立ち上がっていた。
その炎の上を見ると、また一つ黒い何かが存在したが、黒い鎧壁竜と比較すると、随分と小さい。
と言うよりは、フローリックとほぼ変わらない。
それは、歩いており、ゆっくりとこちらへと近づいていたのだ。
炎の上を歩きながら。
「やあ、見ない間に
■□■ エネミーデータ/Dreadful Memory ■□■
人種/Creature Type : 人間
体色/Skin Color : 至って人間らしい、肌色
髪型/Hair Style : 長めに整えたショートヘアー
髪色/Head Color : 緑の混じった金髪
服装/Equiping State : 中世時代に発達した
漆黒でありながら、その艶のある質感、そして体格の誇張表現を捨てた横幅。
顔面、頭部全てを覆い尽くすヘルムの隙間から、彼の視線が迫るだろう。
目色/Keen Eyes : 紫だ。後に直接確認出来る
武器/Beloved Weapon : 赤く染められた、槍と斧を合わせたような近距離武器/ディールプティオ
―◆決して豪華では無く、両側に備えられた大型の刃
―◆まるで
〜〜END〜〜
きっとこの黒い鎧の青年も、組織の一人なのだろうが、それを考えると喋り方が非常に丁寧に聞こえる。
その美しさも交えた容姿と比例でもしているのだろうか。
しかし、一つだけ言える事は、確実にフローリックと面識がある事だった。
青年は話しながら、ヘルムを左手で外した。
そこには、男性でありながら凛々しく、そして異性を惹きつけるような紫色の瞳が映っていた。
フローリックと比べると、非常に対照的だ。
「お前……ユミルじゃねえか! なんでお前がこんなとこいんだよ!? それにそん鎧壁竜とか……って色々聞きてぇ事あっけど、ヴォルテールやったのもお前だってのか!?」
恐らく、目の前にいる青年はフローリックとヴォルテールの過去にいたあの『ユミル』なのだろう。
当然のように今は成長して、大きくはなっているが、嘗ての面影を考えると、どこか悲しいものがあった。
黒い鎧壁竜を従えている点等、ここで質問をしたい内容は多いだろう。
だが、一つずつ整理していく事が今は先決だ。
「まあそんなに
昔からの人間関係の影響でもう慣れているのか、フローリックが声を荒げた所で、ユミルは動じなかった。
しかし、彼はもうその名前を捨てているらしく、現時点ではバルディッシュであるらしい。
そして、フローリックにも謎がある様子ではあるが。
「……けっ……んなもんどうだっていいだろ。お前みてぇに変な組織に付いてくよりゃあずっとマシだろ」
一瞬声が詰まったが、それでも何とか止まらずに自分なりの考えをフローリックは言い切った。
だが、どのようにしてユミルが組織に属しているのかを悟ったのかは分からないだろう。
「ああ僕があそこに属してる事、予め聞いてたんだね? 或いは山勘か何かかな? だけど僕達がこうなったのも……」
ユミル自身も、組織の人間として見られてしまった事に対してはある程度は何かしらの感情を抱いたようだが、
それについては反論らしい反論はしなかった。
だが、ユミルの表情が突然暗く、そして怒りも混じったようなものとなる。
――目の前にいるヴォルテールを指差しながら……――
「全部、そいつのせいだろ?」