――◆◆友達とは、やはり信用出来ないのだろうか……◆◆――



δδ REACT!
§§ 対抗するのだ……

δδ It's time to attack.
§§ 今が戦う時なのだ……

δδ FIGHT NOW!
§§ 確実に戦う時だ……

δδ The matrix soul.
§§ 母体となるその魂は……



                                 δδ He needs…
                                 §§ 彼はそれでも望む……

                                 δδ Please hear him call.
                                 §§ 彼の声を聞いてくれ……

                                 δδ Your help.
                                 §§ きっと、お前の助けが重要となる……

                                 δδ It's mother earth
                                 §§ 母なる大地で……




――■■ 混沌とした世界での出会いは、都合の良い設定がまるで通用しないのだ。  ▲▲
――■■ 幼い頃は、何も理解していなかったが為に、その時間が楽しく感じられた。  ▲▲
――■■ 時代が変わり、性格も成長した時にやがて悲劇がやってくるものなのだ。   ▲▲
――■■ 小さい頃、遊んでいた女の子が物心がついた途端、冷たくなった事はある? ▲▲
――■■ 物事は、一生同じ形でいてくれるとは限らないもので、変化を繰り返すのだ。 ▲▲
――■■ 親しかった相手が、嫌な顔をしてきた時、時代の変化を恨む事となるだろう。 ▲▲
――■■ それは人間を切り捨てなければいけないと同時に、新たな相手もやって来る。▲▲
――■■ これを苦労して読み上げた所で、貴方にどんな利益がやってくるのですか? ▲▲



       ◇ιι◇ 刀と斧のぶつかり合いヒストリー・オブ・カトラリーは、激しい火花プロファウンドエヴィデンスを散らせるだけです ◇χχ◇

       ◇λλ◇ 黄土の鎧パワートークン漆黒の鎧シンボリックラスターは、眩しい友情関係グリスタンオファリングを光らせてくれない ◇ββ◇

       ◇οο◇ 側近の、白と黒をそれぞれに持つ怪物達ガルガンチュアも栄光を届けてくれるはずが無い ◇ρρ◇



人間は時代の代わりようを常に直接感じながら生きている。
もう、逃げる事は出来ない。

さあ立ち向かうのだ。
憎しみに包まれた現実世界を斬り刻むのだ。



                 ――◆ψσ◆ 要塞同士のぶつかり合いは、世界を変える…… ◆σψ◆――
                            〜〜Gargantua and Pantagruel……〜〜














「君と会えた事に対しては素直に喜びたい所だね。互いに成長して強くなった姿を見せ合うのはどんな気分だい、クルーガー?」

 溶岩が支配している周囲から立ち上がる熱気の中で、中世時代を思わせる漆黒の甲冑に似た鎧を纏った青年、バルディッシュは立ち止まり、紫の瞳をゆっくりと細める。

 同時に、再会を密かに喜ぶかのように笑顔になるが、過剰表現出来る程のものでは無い。



――しかし、ユミルとも呼ばれていたが……――



「そうだなあ、出来りゃあオレらが別んとこで何してたか話し合いてんだが、どうせお前その為に来た訳じゃねえだろ?」

 フローリック――今はクルーガーと呼ばれているが……――も再会出来た事自体に対しては嬉しいのかもしれない。しかし、今は呑気に喋っている余裕は無いだろう。

 バルディッシュの背後で静かにたたずむ黒の鎧壁竜がいへきりゅうが非常に威圧的に映されているのだから。



「鋭いじゃないか。いや、そんな事鋭いって表現する必要性も無いか。それと、僕の後ろにいるこいつ、ミケランジェロって言うんだけど、どうだい? 出来れば感想聞かせて欲しい所だね」

 当然のように、バルディッシュは一度、ゆっくりと頷いた。その反動で彼の整えられた緑の混じった金の前髪が揺れる。そして、当然と言う理由もあってか、それを見抜いた事に対して褒めるような真似はしなかった。

 自分の後ろにいる黒の鎧壁竜ミケランジェロを右の親指で差しながら、嘗ての友人からの返事を期待する。

「そう言やあお前昔こいつにそのミケランジェロって名前付けたがってたよなあ? 夢叶って嬉しいんだろ? 良かったじゃねえか。おめでとうとでも言っといてやるよ」

 フローリックは外見には殆ど触れず、嘗てのバルディッシュ――年少時代はユミルであったが……――が本当に付けたかったであろう名前を設定する事が出来たその事実に対して、やや嫌みを混ぜたような態度で褒めてやった。

 結局そこには感情が上手く見えてくれない。



「まあ、そう言う事になると思うよ。僕の名前が認められるのは嬉しい事だし、こいつこそが僕の名前に相応しいとも思ってるよ。だけど、折角の再会なのにどうして君は少し機嫌悪そうにしてるんだい? 僕としては悲しい事だよね」

 自分で命名する事が出来るのは、どんな気持ちなのだろうか。自分自身の想いが認められたと言う意味では、喜べるものなのかもしれない。

 そこについて口を出してくれた事に対しては素直に嬉しい様子であるが、バルディッシュはこの火山地帯に来てから、まるでフローリックの表情が晴れない事に気付き、そこについて言及する。

 相手が双角竜ヘルムを被っていようとも、目元だけを見ればすぐに分かるらしい。

「じゃあ聞くんだが、お前がわざわざそんな黒い鎧壁竜指揮ってる理由聞かせて欲しいもんだぜ。そんなもん連れて何しに来たんだよ?」

 フローリックは自分が今とても良いとは言えないような機嫌を見せた態度について、その理由を述べようとする。

 それは、彼がこれから出す質問で明かされるのだ。巨大な黒い竜を見れば、その事態は尋常では無い事を覚えるだろう。



「それ? 出来る事なら単刀直入に説明したい所だけど、その前に一つ聞かせてよ。あれだけの事件起こしておいて、その後の生活は波乱なものでは無かったのかい?」

 バルディッシュは一度背後でじっとしているミケランジェロを一瞥いちべつした後、ふと自分にも質問が浮かび上がる。

 恐らくはバルディッシュとフローリックは過去に同じ目に遭っていたのかもしれない。いや、きっと遭っていたのだろう。だから、今ここで同じ道から逃げてきた者同士だと言うのに、現在の状況が明らかに異なるこの現在を問い質そうとしたに違いない。

「いきなし何聞いてんだよ? 今のオレ見りゃあ分かんだろう。なんか馬鹿みてぇな連中とも仲間んなったりはしたけどなあ、お前に比べりゃあ随分マシな方言ってっと思うぜ」

 わざとらしく聞いてくるバルディッシュに向かってフローリックは軽く首を傾げながら言い返す。頭に浮かび上がったのは、ここまで共に来た者達、特に一部を除いた男性陣ではあったが、それでもその運命を恨んだりはしなかった。



「世の中も甘いものだねえ。偽名で通用してしまうなんて。それと、僕だって案外そこまで堕ちた生活を続けてた訳じゃないんだよ? 僕にとって憎かったハンター達を理由を付けて斬り落とせるんだからねえ」

 バルディッシュの言っている事が事実なら、フローリックはその名前を偽名として扱っている事になる。だが、それでも今までこれと言った厳しい事態に直面していない辺り、問題は無かったようだ。

 そして、バルディッシュには何か憎悪の対象が存在するようだ。

「お前……、何ふざけてやがんだよ」

 ここで一番の問題になったのは、人を相手に武器を向けていた事だった。ここで聞いた話だけであったから、本当に武器を使っているのかどうかはまだ見た事が無い以上、想像の中でしか無いが、やはりハンターを殺しているような気を覚えてしまい、落ち着かなくなる。



「ふざけてる? 君さあ、どうして昔あれだけの事件が起きたのか、もう忘れたの? 自分の利益に心奪われた愚かなハンター達のせいだろ? そして挙句の果てにはギルドナイトまでやってきて、町全体を巻き込んだ大騒動になって。そこで僕達の生活が一変したんだよ。そこまでされてどうして今の考えが否定されないといけないんだい?」

 年少時代に何か大きな事件があったようだ。ただ、ここではバルディッシュの口から大まかに話されているだけだから、その詳しい背景を知る事は出来ない。

 だが、彼がわざわざバルディッシュと名を変えた大きな理由がそこにある事を疑う必要は無いのかもしれない。

「そん話聞いてたらなんかすっげぇやな光景浮かんだんだが、お前まさか殺人なんかに手ぇ染めやがったのか!? お前もう半分頭狂い出したってか!?」

 今の話では殺しに関わる言及は無かったが、関連性を考えるとやはりそれを実行していると悟ったフローリックは変わってしまった友人に向かって怒鳴り立てた。もう昔のように笑いあえないであろうこの状況を嘆いているようにも見える。

 一瞬右手に持ったままの太刀を持ち上げようとしたが、何とか感情を抑え、ゆっくりと下ろす。



――年少時代からは想像も出来ない豹変ぶりだ……――



「おいおい、僕が無差別な快楽殺人鬼みたいに仕立てられてるようじゃないか。大丈夫だよ、僕が仕留めるのはあくまでも世間に対して愚かで、有害だと判断した対象だけだよ? どうでもいい奴まで殺してたらこっちが身体も体力も持たないよ。例えば、葬るのは僕達の計画に介入しようとする奴とかをね。折角ハンターのいない平和な世界を作ろうとしてるのに、どうして無駄に邪魔しようとするんだろうね。ま、心配はしないでよ。上から命令されない限りは絶対に命は奪わないからさあ」

 それはある意味、バルディッシュは自分が殺人を犯している事を認めた事でもあった。その量は抑えられているらしいが、だからと言って許容される話でも無いだろう。

 対象は相当限定しているらしいが、バルディッシュ達に関わってしまった者が殺されてしまうと考えれば、それは恐ろしい事には違いないはずだ。

「お前それ真面目に言ってんのか? ハンター消すとかそんな事考えんの勝手だけどよぉ、そんやり方がもうおかしいって分かってねえのか?」

 命令で動いているバルディッシュから人間性を感じる事が出来なかったフローリックは、自分自身の意見を持っていないのかと、目を細くする。一般の人間ならば、道徳的に、倫理的に見て本当に正しい道を選択するべきだろう。



「そうだね、確かにやり口は少々乱暴なものがあるかもしれないよね。けど、相手だって武器を持ったハンターだよ。穏やかに済ませる方が無理だろ? 激しい争いは世界を変える為にはしょうがない事だし、避けられない事なんだよ」

 乱暴な事に変わりの無い事くらいは、熟知しているであろう。

 バルディッシュはてのひらを広げ、それぞれの腕を持ち上げながら彼のみが持つ正論を述べ始める。力を行使して解決するのは避けられない事なのだと涼しい表情で答えた。

「今暴れ回ってる組織ってお前みてぇにハンター嫌いが集まってんのか?」

 ハンターに向けられる憎悪の意識が頭に染み付いていたからか、フローリックはその組織に属する者達の目的が全て一致しているのかどうかを聞き出そうとする。

 熱で響くような音を立て続けている溶岩すらも、そのバルディッシュの回答を期待しているようだ。



「まあ全部が全部そうじゃないだろう、流石の僕もそこまで裏事情なんて分かんないけど、まあハンターが嫌いで組織に入った者もいるだろうね」

 一度同じ組織に属する者達を思い浮かべる為か、フローリックから目を逸らし、岩で覆われた天井をしばらく眺める。

 しかし、バルディッシュと同意見で組織に仲間入りした者も少なからず存在するのは事実であるらしい。逆に言えば、その他の目的もあると言う意味になるのだが。

「そりゃそうだろうなあ。元々ハンター潰す為の組織なんだからハンターが好きな奴なんて想像出来やしねえけどな。ってかお前、今までどんだけ殺してきたんだよ? お前故郷戻ったら皆悲しむぞ」

 意外と予測していた通りの対応が来た為にフローリックはヘルムの裏で多少緩んだ表情を表した。

 それよりも心が痛む事として、友人が殺人と言う反社会的行為に走っている事がどうしても引っかかってしまう。分量は確実に無関係であるのは明白だが、それでも聞こうと思うのはきっと相手が旧友であると言う希望からだろう。



「ああ、僕はこう見えてもそこまでは手にかけてないつもりだよ。指5本で充分数えられる程度だよ? 僕は組織のレベルで考えたらまだ甘いレベルだよ? 君が僕の旧友だからすぐには武器は抜かないけど、もしここに来たのが僕以外のもっと血の気の多い奴だったらもう君この世から消えてたと思うよ? ちょっと教えてあげるよ」

 バルディッシュは自分自身を軽く指で差した後、今度は指で個数を表現する為にその5本の指全てを開いて見せる。

 限りなく黒で表現された篭手で保護された右の手の甲を見せながら、組織の中ではその殺戮のレベルは高位なクラスでは無いと伝えるが、それはある意味では自慢にならないはずだ。組織としては実力がある者が評価されるだろうが、一般社会では確実に畏怖される。

 そして、もし組織では・・・・本当に評価されている者が今ここにいたら、フローリックの身に何が起きていたのか、まるで脅しのように口元をにやつかせた。

「なんだ、お前まだ組織じゃあ新米程度なのか? 随分口だけは達者なんだなあ」

 まるで自分が他者と比べると弱いとでも言っているように感じたフローリックは、バルディッシュの地位がそこまで高いと考える事が出来ず、それにしてはなかなか偉そうに口を動かし続けると首を軽く傾げる。



「血の気と実力は比例しないと思うがね? 僕とは所属は違うけど、バイオレットやガルシークだったら君どうなってただろうねえ?」

 まだバルディッシュの力を直接目で見た事は無いのだから、フローリックも今の彼の実力はよく分かっていないはずだ。

 殺害人数と、戦闘能力の関係は別物であるとバルディッシュは主張する。だが、意味ありげに出した二つの名前も気になる所だろう。特に、その内の一人は顔を合わせた事があるのだから、尚更気になってしまう。

「バイオレット? ああ、あいつだったらアーカサスで会ったぜ。テンブラーと戦った後だったけどな」

 直接戦闘をしてはいなかったが、バイオレットならフローリックも顔だけ見た事があった。それはきっと、テンブラーが最も良く分かっている事だろう。あの男だけがまともに戦った相手なのだから。



「ああそう言えばあいつアーカサスを襲ったとか言ってたな? だけど正直、僕はあいつは嫌いなんだよ。一度敵の対象と判断したら相手が女であっても面白がりながら武器を振り下ろすから、少し残酷さが行き過ぎてる気がするんだよね。そこまで普通殺す必要は無いとは思わないかい? あいつ、面白がって説明してたんだけど、泣いてる所を平気でるのも日常茶飯事なんだってさ」

 数日前のアーカサスの襲撃を指揮していた事はバルディッシュにも知らされていたようだ。

 しかし、その時に表す感情とはあまりにも対照的な行為の食い違いの都合から、バイオレットを好きにはなれていないらしい。流石に邪魔者を消す事が使命であるとは言っても、もう少し空気を読んでほしいとでも考えているのだろうか。逆に言えば、バルディッシュはもう少し安心する事が出来る相手と言う事にもなるのだが。

「お前でも女には同情すんだなあ。ってか組織に入ってるような奴がいちいち情けなんてかけねえだろう?」

 フローリックから見れば、この部分に限ってはまだバルディッシュに気を許す事が出来た部分であるはずだ。相手を限定している部分、そして、殺害に対する価値観を見ると、その行動を遊戯としては考えていないらしい。



「バイオレットは特別な男なんだよ。まあそれでもバイオレットはまだいい方だよ? だってあいつはまだあくまでも人間、まああいつは厳密には人間じゃなくて亜人の一種だけど、人間らしい生きた感情持って、それで動いてるからいい方さ。問題はガルシークなんだよね。君は出会った事あったかい?」

 殺しの概念を考えれば、バイオレットの思考はあまりにも常人とかけ離れた凶悪なものである。それでもある意味では悦楽・・と言う名の感情を見せているのだからまだバルディッシュからは良く思われているのかもしれない。

 だが、もう1人の相手は殺戮と言う言葉に対してどのような価値観を持っているのだろうか。

「ねえよ。名前も聞いた事ねえなあ」

 それしか言えなかった。

 フローリックは見た事も聞いた事も無いのだから、そう答えるしか無い。



「だったら教えてあげるよ。彼は魚人の種族でね、感情一つ見せずに黙って敵対する相手を殺してしまうんだよ。何も考えてないかのような様子で動く姿がとても怖いんだよね。まさに殺しだけの為に動くマシンってとこかな? あ、別に殺すテクは劣ってるとは思わないでよ。寧ろバイオレットより上かもしれないからね」

 やはり、バイオレットと同じで普通の人間とは別の種族であるようだ。

 感情全てを捨てて、仕事だけをこなす姿はどんなものなのだろうか。これから先、出会った時に悲劇が突如襲い掛かってくるのだろうか。どちらにせよ、追い詰められた時は話し合いで逃げる事は出来ない可能性が極めて高い。

「じゃあお前もそいつにはあんまし逆らえねえって訳だぁ。ってかバイオレットも逆らえねんじゃねえのか?」

 能力を持て余す相手に無礼な態度を取れば忽ち殺されてしまうのだろうと考えたフローリックは、そのガルシークと呼ばれる謎の人物を相手にする時は慎重に挑まなければいけないのかとふと疑問になる。



「バイオレットがそれで納得すると思う? 結構前にあの2人戦ってたねえ。まあ勝負は付かなかったけど」

 力を持つ者同士ならば、互いにその力を認めない事もあるだろう。

 バルディッシュはその光景を一度見た事があったのか、まるで娯楽を思い出すかのように表情に焦りなんかを見せずに平然と話し出す。壮絶な戦いだったのだろうか。

「仲間割れするなんてけじめなってねえ集団じゃねえか。大将は何やってんだ? そう言う時ぐれぇ止めねえとダメじゃねえか?」

 普通は能力を誇り合うのでは無く、共に同じ目的の為に使うべきだろうと、フローリックは組織の統治力の温さともろさを多少思い知ってしまう。争う理由が非常に幼稚にも見えるのだから、余りにも無駄な行動に入るはずだ。それでも組織が油断のならない相手と言う事には変わりは無いのだが。



「大丈夫だよ。組織はそんな程度で落ちたりはしないよ。それより、そろそろ始めたいんだよね。僕の仕事をね」

 バルディッシュの言った事は事実だろう。だから、今日も組織は機能しているのだ。

 一体どれくらいの時間喋り合ったのだろうか。なんだかんだ言ってもやはり久々に友人同士が出会えば、空気がどうであれ、やり取りはしばらく継続されていくものなのだろう。

「仕事だぁ? 結局オレの始末の事か? それとも、ヴォルテールになんかすんのか? こいつに手ぇ出したらただじゃ済まさねえぞ……」

 バルディッシュの背中にはしっかりと武器が背負われているし、黒の鎧壁竜を連れている辺り、確実に戦いに関連する仕事である。

 だからそれしか考える事が出来ず、フローリックはもう自分とヴォルテールに武器を向けられる事を前提でものを考える。そして、太刀に右手が伸びる。



「悪いけど、事は激しくなる事が予測されるんだよね。だって、僕がこうなったのも全部ヴォルテールのせいなんだし、恨みのある相手を葬るのは当然の事だろう?」

 フローリックの読みは全く間違っていなかったようだ。だが、バルディッシュは自分が負けてしまった時の事は考えていないのだろうか。武器をぶつけ合うのは命を賭ける事に等しいはずであるのに、その緊張感がまるで感じられないのだ。

 まるで自分の行動が完全無欠な無罪であるかのように誇らしげに一度前髪を左手で掠らせた。

「お前そうやって簡単に友達殺すってんのか? 昔お前だってあんなに仲良くしてたんじゃねえのか!? 悪りぃのはこいつじゃなくて町襲ってきた連中だろう! 恨む相手間違えてんじゃねえぞお前! マジでガキくせぇとこ昔となんも変わってねえじゃねえか」

 もしも本当に友情関係が残されているなら、何か自分にとって多少――今回はその規模で許される範囲では無いのかもしれないが――の不利益があった所で、本気で相手をあやめようとまでは思わないだろう。

 しかし、バルディッシュの憎悪は強大であり、友情や愛情では打ち消す事が出来ないのだ。



「間違っては無いはずだよ? だって、ヴォルテールがいなかったら皆の人生は正常に動いてたはずなんだし。それに、僕は初めから気に入らなかったんだよね、君のつけたその名前が。それに、ヴォルテールったら、君と妹には懐いてたのに、僕だけは避けてたんだよね。そんな奴のせいで騒動が起きたらそりゃあ黙ってられないだろう?」

 憎悪自体を正当化しようと頭を働かせているのか、バルディッシュはヴォルテールに対する今までの憎しみを告白し、そして意味ありげに背中の武器を右手に持ちだした。

 斧と槍が合わさったその紅い得物も、きっとバルディッシュの味方なのだ。

「名前なんかそれジャンケンで決めた事じゃねえかよ。それお前ただ我侭じゃねえか。自分の都合いいようにもの進まねえからってそうやって取り返しつかねえとこに付いていいと思ってんのか?」

 小さな事で根に持っていたバルディッシュに対して、フローリックはその人間の小ささにどこか呆れる。

 彼はそれだけを理由に組織へと入った訳では無いのだが、いちいちそれ一つの為に憎しみを限定する必要も無かったかもしれない。



「僕は後悔なんてしてないさ。自然を一番食い荒らしてるハンターを違う視点で見れば、きっと君も同じ事を思うはずだよ? それにその鎧壁竜、ヴォルテールだけど、組織の仲間も何人か葬り去ってるみたいだから、その理由も含まれてるって考えてほしいね」

 バルディッシュはゆっくりと首を横へと振りながら、じっとフローリックを見続ける。

 敵対者を軽々と葬るだけの力を持つヴォルテールに魅力を覚えていたたようでもある。

「んだと……。じゃあ結局お前らがこいつ侵したってんのか!?」

 初めからヴォルテールが狙われていた事をここで知ったフローリックは、組織が求めていたものを考えるなり、声を荒々しく放ち出した。狙われる理由は兎も角、狙われる事自体に不快感すら覚えた。



「そうなるね。僕達の仲間に引き入れようとしたんだけど、やっぱり、オレガノじゃあ無理があったみたいだね。これだけの巨体だったら、ハンター撃滅兵器として操作出来ると思ったけど、無理だったみたい」

 バルディッシュは当たり前だとでも言うかのように、首を軽く倒す。

 しかし、その黒いヘルムの奥では、まるでその隠された紫の瞳が妙に光り輝き始めたように感じられた。折角思い通りになろうとしていたのに、予想外の力を持っていたが為に、私憤の感情を滲ませているのだろう。

 この怒りをぶつける対象を、完全にフローリックに定めている。本人も定められている事は薄々感じ取っているだろう。

「なんだって……?」

 飛竜――それも今回は自分の旧友――を、世界を作り変える為の道具としてやはり見続けていた事が心に突き刺さり、最早フローリックはその漆黒の甲冑かっちゅうを纏った青年に対しては、友人と言うよりはもう別の何かとして捉えるようになっていた。

















θθ もう、話し合いはおしまいだ υυ



――これが最初の目的なのだ

――何故これを最初に行わない?

――物語ストーリーを組み立てる為?

――唐突な戦いを避ける為?

――いいから、さっさと始めろっつの







「僕はねえ、意外と期待してたんだよね。君がこの数年間でどれだけの力を手に入れたのか、この目で確かめたかったのさ。だから、出来るだけ僕の期待を裏切るような事はしないでね?」

 年月の経過の中で、バルディッシュは一種の期待をこの時まで背負い続けていたようだ。

 一度紅い得物を背中に戻し、左手で手招きをする。それは見た通り、挑発行為である。

「けっ、お前こそ後で泣いたりすんじゃねえぞ? ここまでやったからにゃあもうこっちも加減無しだかんなあ」

 もう時間がやって来たのかと思い、そのバルディッシュの態度に一度舌打ちをし、自分の力だって相手には決して劣っていないと誇りながら指を鳴らした。



「それじゃあミケランジェロ。君は君に相応しい相手がいると言う訳で、その方向で楽しんでもらうとするか」

 黒い鎧に包まれているバルディッシュは身体を捻って背後を見ながら、同じ黒に支配された甲殻を持つ鎧壁竜に向かって命じる。

 フローリックの傍らにも、巨大な体躯を誇る鎧壁竜がおり、その似た体躯を持つ者同士をぶつけ合おうと予定しているのだ。

「お前オレのヴォルテールも巻き込むってかぁ……。お前ってとことんこだわる奴だったんだなあ」

 フローリックも、自分の後ろにいる鎧壁竜を親指で差しながら種族を固定した戦いをしたいのかと、嫌みのようにも見える態度で、そんな思考を持つ相手を睨み付けた。



「そうだね。人間は人間で、飛竜は飛竜でぶつかり合った方が力が釣り合うだろう? 僕は君の力が見たいんだよ。ヴォルテールに邪魔はさせないし、ミケランジェロにも邪魔はさせる気は無いからね」

 両腕を軽く持ち上げながら、バルディッシュは説明をし始める。確かに飛竜と人間がぶつかり合えば、通常ならば人間側があっさりと撥ね飛ばされてしまうだろう。

 だが、人間同士ならば一方的な優劣が付き難い事もあるし、まだまだ話し足りない部分もあるはずだ。特に言葉でのやり取りが出来るかどうか、この能力の差異が飛竜と人間の決定的な差と言うものだろう。



――突然バルディッシュは背中を見せ……――



「クルーガー、付いて来な。僕と君の場所フィールドに行こうよ。ここじゃあ2頭の邪魔になるし、こっちにとっても邪魔になるからね」



涼しい雰囲気の声ではあったが、その後の行動は、その雰囲気とは対照的且つ、予想もし難いものであった。
高速の黒豹ブラックウィンドのような、激しさと華麗さを備えた疾駆で、フローリックを置いていく。
黙っていればみるみるその両者の距離は離れていくのだが……



「待てやユミル! どこ行く気だよ!?」

フローリックは突然走り出したバルディッシュの後姿を見るなり、すぐにその後を追う為に同じく走り出す。
だが、黄土の巨牙象エレファンツファングのような鈍重な武具では、バルディッシュのように俊足で進む事は難しい。

それでも、重たい武具を全身で支えながら、走っていくバルディッシュを追いかける。



「分かるだろ? 2頭の邪魔にならない所だよ! そう距離は遠くないさ!」

バルディッシュは黒いヘルムを嵌めたその顔を後ろに向けながら、楽しげに言い返す。
今の彼にとっては、周辺に散らばる岩の欠片が気になる事は無い。
目的の場所があるとは言え、客観的に見れば、どこも形は同じに見える。

彼の言葉通り、確かに距離は遠方と言う表現が似合わない長さではあった。



――バルディッシュは止まる……――



背中を見せたままの姿で、バルディッシュは静かに足を止めた。
地面の岩は黒い為、何故か地面とその漆黒の甲冑かっちゅうとが同化しているようにも見える。
すぐに武器をぶつけてくる可能性のある相手に背中を向けて一体何を求めているのだろうか。
通常ならば、敵対者に背中を向けた状態を続ける訳にはいかないだろう。



「どうした? いきなし止まりやがって。そんじゃあここで始めっか?」

目的地を知っているのはバルディッシュである以上、その本人が停止したからには、そこに意味があるはずだ。
フローリックは背中の鬼神斬波刀を抜き取り、一つの覚悟を決め付けた。
いくらか距離の離れた場所で流れる溶岩の光ディゾリューションフラッシュが彼の武具を赤く照らしている。



「そうだよ……、そろそろ……」



――バルディッシュはゆっくり振り向き……――





σσ■■ 所で、いつまで紛らわしい名前を使っているのだろうか? ■■σσ

◆―フローリック
       ◆―バルディッシュ
              ◆―クルーガー
                     ◆―ユミル

最早、誰がどの誰であるのか、混乱させるには充分な破壊力を誇る偽名と実名の混合社会。
第三者が実況をするならば、どちらかに限定させなければいけない。
それをすぐに実行出来ないような奴は、近い将来社会で置いていかれてしまうだろう。
すぐに整理しなければ、人間の脳が分析不良オーバーヒートを引き起こす可能性がある。



フローリック> →■→ ≪クルーガー

角竜の意思を背負う者

バルディッシュ> →□→ ≪ユミル

漆黒と復讐を誓う青年



               ――これを頭に叩き込め……――

               ――俺の忠告はおしまいだ……――

               ――もう、整理してやらないぜ――










               ――さて、話に戻ろうか……――






振り向いたユミルは、背負っていた紅炎色の戦斧ディールプティオを右手に持つ。
前身に持ってきた後は、左手でも持ち、両手持ちとなった。

きっと、彼もとある欲求に支配されているに違いない。それを果たすなら、今しか無い。

Black Knight■ 幕を開こう。火花を散らそう。命を賭けよう/PLAY THE GAME!! ■Schwarzer Ritter



「僕を楽しませてくれよ!!」

αα クルーガー目がけて走り出す! ◆  ◆

紅い得物シャープフレンドを、横に向かって振り上げながら嘗ての友人ウェーヴァーゴーストへと接近する。
その紅く染まった刃ビューティフルネイルはクルーガーを決して逃がしはしない。



「そう来ねえとなあ!!」

ββ クルーガーも太刀フレンドを縦に振り落とす!! ◆  ◆



キィイン!!



紅い刃ファーストストライクを、鬼神斬波刀はその細身の刃スレンダーコマンドで受け止める。そこには所持者の腕力ガードスピリットも加算されている。
今はまさに、互いの武器フレンド・オア・キャッツポーで相手を押し合っている瞬間なのだ。
ユミルが攻める立場アックスマスターであるならば、クルーガーは護る立場シールドデビルと言う意味で正しい。



――χκ 斧と刀が押し合っている中で…… κχ――



「なんだ……。『受け止めたのはオレが初めてだ』とか言わねえのか?」

間近にいる黒鎧の騎士こくがい・ユミルに向かって、クルーガーはこれから飛んで来そうな返答メッセージを予想する。
ユミルもその端整な顔立ちに似合わず、腕力パワーはクルーガーと上手く吊り合っている様子だ。

「君は馬鹿かい? この程度を受け止めるなんて戦士の基本中の基本だろ? こんな攻撃も受け止められない奴が、ハンターを気取る方が現実的に有り得ないと僕は……」

顔を完全に覆い尽くしているヘルムの裏で、ユミルは通常の戦士が持つべき資質を述べた。
所詮、この状況はまだ挨拶の段階にも進んでいないのだと。

ψψ ユミルの表情が変わり出すが……

――▼▼ 紅の刃レッドスタンドがこのまま静寂しじまを継続させていると思う? ▲▲――



思うけどねぇ!!!

δζ ◆  力を倍増させ、紅い斧を押し出した!!



ギギギィイ!!

クルーガーの刃を削るように下へ下へと強引に動かし、その長い柄はやがて地面と平行になる。
これこそがユミルの狙っていた計画であり、それを実行する為に次なる手段を相手へと手渡す。

▼▽ 斧から槍へ! 相手を貫く事が槍の使命だ!/MISSION SPEAR ▽▼

相手の太刀リストレインダンジョンから離れ、一時いっときの自由を手にした紅炎色の戦斧ディールプティオ先端部分ランスコンストラクション撃砕兵器コンバットシステムへと変貌させる。
突き出す事で、槍属性ランスピクリアリティーの持つ鋭さと貫通力プライマリーアプティテュードが相手に身体を持って知らしめる事が出来るのだ。

――だから……――



■◆ 尖る先端スピアーポイントをクルーガーへと突き放つ!!/SPEAR COMMAND!! ◆■

「ふっ!!」

ユミルの短い気合と共に突き出される紅の槍。
言うまでも無く、狙う対象はクルーガーである。それ以外に狙うモノ等何も無い。



「当たりめえだろう! お前なんかに負けてられっかっつの!!」

クルーガーは鈍重な武具でありながらも、太刀を使って、迫る槍を弾くと同時に身を反らして回避する。
一瞬ユミルに見下されているかと思い、太刀を右から左へと、横に向かって薙ぎ払う。



キィイン!!



■ ■ ρρ を素早く盾にする!

ユミルは素早く武器を身体の側面へとかざし、クルーガーの攻撃を防ぐ。
本来は武器として機能しないはずのの部分も、所持者ユミルを護る事くらいは出来るのだ。
地面と垂直に持たれた武器は、人を護れた事をきっと誇るはずだ。



「眩しい意気込みだねえ!! 」

自分を弱いと認めないクルーガーの精神に衝動を受けたユミルは、身体の側面に位置させていた戦斧せんぷ
素早く構え直し、横振りに相手の頭部を狙う。

ξξ 首をね飛ばしてやる…… εε GUILLOTINE ATTACK!!



「お前も昔よりは熱血家んなったんじゃねえかぁ!!」

クルーガーは斬首刑を免れる為に、鬼神斬破刀を振り上げ、紅炎色の戦斧ディールプティオに歯向かった。
ぶつかり合う刃は近辺に小さな火花を散らせ、そして所持者それぞれに衝撃をも走らせる。

ユミルの審判ブラックジャッジメントを黙って見ていても、両肩の角ツインシールドが防いでくれていたかもしれないが、
そこを敢えて自分自身で防ぐからこそ、クルーガーの強さが垣間見えるものなのだ。

―ρ◆ρ― 斜め上から斜め下へ、太刀を振り落とす!!/ELECTRIC SLICER!! ―υ◆υ―



「そりゃあ月日が経てば誰だって変わるものだよ? いつまでも子供でいられないからねえ!!」

ユミルは持ち前の細身の身体スレンダースタイルを活かし、旧友の攻撃エンカウンターソードを武器では無く、直接回避ダイレクトアクションの動作によってかわす。
歳月の変化へんげは身体を変えるだけでは無く、精神年齢、即ちモノの捉え方も大きく変わった様である。
子供から大人へとハッキリと姿も形も変わった事を再度証明するかのように、紅の槍を突き放つ!



――πα まさに槍の如く、尖った先端が牙を剥く!!/FIELD CHANGE!! απ――

それは不思議な光景だった。
クルーガーの顔面に迫る先端は、まるで今映している光景を転換させる為の緞帳カーテンを思わせる。
本人の視点で考えれば、それはおぞましい光景そのものだ。

しかし、着目点を変えると言う意味では、その威圧行為はあながち間違いでは無いのだ。





――だって、遠方がやけに騒がしい。と言うより破壊音が響いているのだが……――

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