αα  ◆◆ 友情や愛情とは、何の為にそこにあるのだろうか? ◆◆  σσ

この方程式は、生命を持つ存在であるならば、誰しもが一度は意識する現象である事に間違いは無い。
中には直接これらを意識せずに一生を終えてしまう悲しい事例も存在するが、少なくとも意味自体は知っているはずだ。
出来れば全生物が不公平の無い世界に仕上がってほしいものではある。

友情と愛情の違いとは、一体何だろうか? 最初の『二文字』が違うだけ、と考えている愚者は多分いないだろうが、
そもそも根本的に意味や捉え方が違う事だろう。
正直、これだけで人生や世界をも捨ててしまう者も噂では存在するらしいから、放置出来る単語では無い。



■ 友達とは、一体何だろう? ■

自分一人だけじゃあ寂しいから、紛らわす為に隣にいてもらう存在なのか?
自分一人じゃあハッキリとした答が出せないから、手助けしてもらうの?
自分と価値観の違う者と一緒にいる事で、違った見方が出来るからいてもらうの?

□ だけど、君は本当にその友達を最後の最後まで、大切に出来ると言い切れるのだろうか? □

世界の移り変わりは人間の思考回路を容易く変貌させる。
その度合いは様々でも、変わる事に変わりは無い。

そこでとうとう剥き出しになってしまう自分の本性。
それを抑えられるか、それとも無理か、或いはそれ自体が発生する前に原因を突き止めるかで未来は変わる。
しかし、表面上に出なくても、それは蓄積と言う悪魔によって徐々に体内で悪化していくものだ。
だからこそ、対立、喧嘩、絶交、戦争が始まる。

価値観の違いは、あまりにも残酷な姿を映し込む。
一度このようになってしまえば修正するのは非常に難しい。
どちらかが思い切って手を差し伸べなければ、修復されるのは絶望的だ。

もっと恐ろしい事が一つある。
それは、ストックが多すぎる事である。
友情とは、無数に予備を作る事が出来るが為に、この最悪の事態に出会う可能性が高いが、
逆に言えば代わり等、ゴミのようにわんさかと存在すると言う事だろう。



■ 恋人は、どうして存在するのだ? ■

それは男、或いは女の宿命なのか?
後世に子供を残す為に関係を持つのか?
やはり、相手が好きだからこのような称号を与えるのか?

□ しかし、恋人とは本当にシビアであるのは知っているかな? □

倫理や道徳を理解する者ならば、ストックがあると意識してはいけない。
代わりがどこにもいない、そこにいるのが正真正銘本物であり、そしてそれが真実なのだ。
誰にも代えられない存在だからこそ、人はより慎重になるのだと信じてみるか?

そもそもどうして対象を恋人として認めてしまうのだろうか?

もし貴方が男性だとすれば、恋人として考えるのはどうしてなの?

自分に対して優しさで助けてくれるから?
男には無い身体的特徴が素敵だから?
もうちょっと言うと、胸があるから?
長い髪が可愛らしく映るから?
お尻なんか見て妙な感情剥き出しにしてしまうから?
くびれたウエストが魅力的だから?
やはり、女と言う人間を異性として、自分だけの存在として考えたいから?
その女を他者に渡したくないから?
逆に男同士だと気持ち悪がられるから、異性と付き合うと言う一種の義務感でも感じてるの?

そして、貴方が女性だとしたら、恋人をどうしてそう認めたんだい?

その力強さで貴方を助けてくれるから?
仕事をして、生活を助けてくれるから?
その筋肉質な肉体が素敵だから?
男らしく整えられた容姿に魅力を覚えたから?
高い身長が非常に格好良かったから?
ハンサムな男と歩いていれば、周囲の女性に自慢出来るから?
男と言う男を、他人に渡したくないから?
或いは、もっと別の何かを求めて?



もしこの異性同士が上手く繋がれば、きっと両者にとって永遠の幸せが保証されるはずだ。
友人としての繋がりを築く場合に比べれば、その成功率は異常な程に低いレベルを彷徨さまよっている。

この特別な関係を運良く築く事の出来た両者と言えども、場合によっては距離を取らなければいけなくなる事もあるだろう。
その時、両者は何を想うのだろうか。

見えない相手を心配するのか?
見えない所での行為を疑うのか?
生死に対して不安になるのか?
顔が見えない事で恐怖を覚えるのか?
そもそも距離を取る時点でえんに亀裂でも走ってるのでは?



理由が明確ならば、距離を取る事に対して恨む事は無いと信用してみたいものだろう。
事実上、男には行かなければならない時があるのだから、覚悟が必要となる。
逆に未来永劫みらいえいごう、共にいる事自体おかしいのかもしれない。
それが子供同士ならまだしも、ある程度年齢を重ねていれば、いつもイチャイチャとしている訳にもいかないだろう。

結論から言えば、互いに顔を離していた所ですぐに絶縁となる事は無いだろう。
信じているから、顔を離す事だって出来る。
帰ってきてくれるからこそ、そこでまた愛情が生まれる。
それで愛情が確認出来るなら、きっとそれで良いのではないだろうか?



世の中は意外とよく分からないもので、一人で歩いてる女性でも、
実は愛人がいるケースは多いのだ。
考えてみれば分かる話だが、ふと見ただけで貴方が美人だと思った女性に愛人がいないと思えるだろうか?
世の中そう言うものである。貴方が考えている以上に、世の中はややこしく、残酷である。
平気で期待を裏切られたとしても、そこはとりあえず諦めて黙ってしまおう。










                             〜〜 友情や愛情は、必ずどこかで宝となり、障碍となる…… 〜〜

                           ■■ 男はシンディを放置していたのだろうか……

                           □□ 少女はレベッカを無視出来なかったのだ……

                             〜〜 場所は状況は違えど、人を信じる気持ちは変わらず…… 〜〜





















「シンディかぁ……。言っとくけどなあ、お前に心配される程オレはアホじゃねえよ。男だったらんなもん常識だろうがよぉ」

クルーガーは一度鬼神斬破刀を握る両手の力を多少緩める。
真剣に聞いてきた相手に対して真面目に答えると言う一心なのか、多少笑い顔を作りながら言い返す。

「へぇ〜、乱暴そうな外見が変わってなかったから、多分大雑把な男かと思ってたけど、案外愛人想いだったんだね……。君はっ!!

ユミルから見れば、今も昔もクルーガーの性格と外見に殆ど違いが存在しないものだと思っていたらしい。
それでも愛人に対しては特別に振舞う所が妙に引っかかっていたようであり、そして、このまま喋り続ける事を拒むかのように……



――紅炎色の戦斧ディールプティオで飛び掛る!!――



ガキィン!!

εε 鬼神斬破刀が炎の刃レッドドライバーを受け止める!! ε

「そう言うお前こそ愛する奴いなくて一人ぼっち寂しんじゃねえのか!?」

愛人が存在するか否かで力関係が定まっているかのように、クルーガーは力強く相手の武器を防ぎながら言い放つ。
果たして、ユミルは寂しさを精神力エネルギーに変換させてこの溶岩地帯に立っているのだろうか?

「勘違いされちゃあ困るよ。僕だっているよ、彼女ぐらいは。僕らくらいの歳で童貞どうてい等やってたら笑われるだろ? それとも僕を笑うつもりだったのかい?」

男性としての使命は、ユミルも忘れていなかった様子だ。
知られざる恋人アンノウンガールを自慢し、ユミルは自分の得物を地面と平行にさせていく。



ギギギイ……



やがて、刃と刃の擦れ合う鉄音てつおんが静まると同時に、ユミルの武器が暴力的にクルーガーの太刀を引き離す。
次なる攻撃の為に、横に向かって振り被られる。



「笑う気にもなんねえよ! それに、お前の姿見たらぜってぇ悲しむだろうなあ! 犯罪者なんかマジで愛されるとか思ってんじゃねえぞ!」

目の前で振られた斧を後方へ下がって回避し、クルーガーは目の前の黒鎧こくがいの男に向かって自分を見直すように言い放つ。
太刀を構え直しながら、今度は水平に持ち、突き出した。

まるでその生き方全ての改新を求めるかのように、切っ先に想いを込めているのだ。

「君はやっぱり馬鹿だねぇ! 僕がこそこそ隠すような真似すると思うかい? 自分を隠す奴が一生もてない原因になってるんだよ!?」

突き出される切っ先アイアンポイントを、ユミルは右にずれる事で回避する。
愛人に自分を隠していては、いつかは関係がこじれ、やがて絶縁状態と化してしまう。

しかし、彼が誇らしげに言うその裏側には、彼女の黒い部分が見え隠れしている所があるのも恐ろしい。



――やや軽やかに、再び紅の戦斧ブラックスピリットを振り飛ばす!!――



「ああ分かったぜ。あのでかくて黒い奴がお前の恋人なんだろう!? 似合ってんぜ!」

直接避けるのではなく、武器を使ってその相手の攻撃を防ぐ。
クルーガーはもしかするとユミルの愛人――人と言う概念からして間違っているが……――は案外この火山にいるのかと悟り、
相手から確実に言い返されると知りながらも、わざとらしく楽しみながら橙色の目を双角竜ヘルムの裏で細める。

「ふん、君もジョークが言えるような頭になった訳かい? あいつはあくまでも僕の相棒で、飛竜相手に恋愛感情抱く程珍妙な思考なんて持ち合わせてないからね僕は」

ユミルもクルーガーに負けない腕力があるようだ。
見事に太刀の重みや力を自分の得物越しに両腕で受け止め続けながら、変態性欲を持ち合わせていない事を告白する。
人間は人間に恋するものなのだと主張しているようなものである。当然の話だ。

κκ まさに歯向かう為に、斧を上部へと動かそうとする



「なんだ、つまんねえなあ。けどどうせお前の恋人もお前みてぇに組織愛放出しまくってる女だったりすんのかぁ!?」

δδ 相手から力を加えられ、鬼神斬破刀の上部に力を加えられるのを覚えるが……

そのまま圧し掛かってくる力に負けて、紅の斧で斬られてしまうのを防ぐ為にクルーガーも更に力を込めながら、
力の加減方向を絶妙に調整する。

やはりユミルの愛する相手はその種族こそ至って普通であるようだ。
しかし、場所が場所だけに、自分自身クルーガーの恋人と比較すれば、世間からは嫌われた世界にいる事を同時に意識する。

「分かる奴じゃないか君も。よほど興味を持ってるみたいだから、次回連れて来てあげてもいいよ? 見惚みとれたりはしないでくれよ? 色んな意味で」

χχ 逆に相手に押さえられ、押し合いがそこで止められる

前へと押し出せなくなったユミルだが、自分の愛人に何かしらの関心を持っている事に喜びでも覚えたのか、
直接会わせてやろうと一考する。

魅力的な容姿を誇るのか、それとも組織らしい一面を持っているのか、黒い甲冑かっちゅうの裏で紫の瞳を嫌らしく細める。



ガリリィ……



σσ 無理な力で戦斧が前へと振り落とされる!! ■■

しかし、クルーガーに直撃させる事は叶わず、クルーガーの足元に刃は落ちる。
そして、クルーガー側も相手から無理な力をかけられた為、いくらか体勢が崩れている。



「だったらすぐ呼んで来いや。お前と一緒に根性叩き直してやっからよぉ」

クルーガーにとってはやはりある意味ではまだユミルも大切だとは思っているし、その愛人だってまともに生きて欲しいと考えている。
本当に出会い、そして彼の予想としては確実に武器を交えさせる事になると思っているのか、相当乱暴なやり方を出す。

もし本当にそれで改心させられるならば、ユミルとは昔のような良好な関係に戻る事だろう。
それでもここでは本当に分かり合えるのか、疑問になってしまう。

ωω 下りていた太刀を持ち上げるように、横から斬り裂く!!

「君は女だろうが力で抑える主義なんだね。シンディにもいつか暴行加えるんじゃないのかい? 注意しようね、人っていつ本性剥き出しになるか分からないから」

キィン!!

ββ を素早く持ち上げ、鋭い一撃を上手く防ぐ!!

多少余裕気な表情で、クルーガーのやり方を改めて考えてみるユミルである。
もしかすると、その暴力を最愛の対象に向かってもいつかは向けてしまうのかと考え、まるで人生の先輩であるかのように
そのような形だけを見ればアドバイスとなっているそれを言い渡す。



「やる訳ねえだろこの馬鹿が。オレが常識も弁えねえ能無しん見えっか? ガキじゃねんだからお前だって分かんだろう」

で防がれた太刀を一瞥すると、クルーガーは今の自分の状態に不利さを覚えたのか、距離を取る為に後ろへと飛び退いた。
普段は仲間達にも多少暴力的な雰囲気を漂わせているように見えるが、本人はただ生真面目なだけであり、
異性を殴る事が社会では忌避されている事くらい認識しているのだ。

「そうだねえ悪かったよ、僕の計算違いで。それと、今僕から距離を取ったその判断力は素直に褒めてあげるよ」

目の前から距離を取ったクルーガーを追い詰める行動もせず、ユミルは読み間違えた相手の性格に対して素直に謝った。
距離を取られれば自分の武器で相手を攻撃する事が出来なくなるが、いきなり褒められても実際戸惑うだろう。



「何だよいきなり訳分かんねえ事言いやがって」

クルーガーにとっては単に体勢を軽く整えるだけのつもりで後ろへと下がったと言うのに、
何故かユミルは人生そのものの選択方法について過賞しているのだ。

素直に戸惑う話である。

「実は僕も後退しようとしてたんだよ。だって、もうすぐ……」

どうやらユミルも人生そのものの未来を決定付けるような選択を取ろうとしていたらしい。
理由までも教えようとするが、もう事態は目の前に迫っていた様子だ。



――◆◆ 風の流れが強くなり…… ◆◆――



「って来たよ!!」
「けっ!!」



ゴォオオオ……

ユミルもすぐに後退し、クルーガーも更に後退する。
最初は石ころが転がる程度の風力であったが……







―ドォオゥウウァアアァアアアアア!!!!!

―ゴォオオァアアアアアアアアア!!!!!








◆θ 2人の間を突き抜ける、獄炎の颶風スパイラルドラグーン…… θ◆

気付くのが遅ければ、確実に巻き込まれていたであろう人間が2人。
まるでその真っ赤な風レッドデビルそのものに魂が宿っているかのように、間を走り抜けている。
風力があまりにも強い為か、その風の中には石の欠片ストーンブレード溶岩の一部レッドファングが混じっているのが分かる。

色も赤以外の類も混じっているその風は、横に流れる視覚的速度ヴィジュアルレイト普通の領域ダゥンスグループを凌駕している。
色の区別がある為にその認識も容易に出来てしまうが、色彩が警告色ワーニングカラーとなり、他者を近づかせない。

その姿はまさに……

◆ψ 熱霧引率リザーヴィングミスティ地獄列車グレネイドストリームだ!! ψ◆

ρρ 地面を削り続ける ππ
           scraping……

ππ 一つの道を隔離する ρρ
           shutting world……

δδ 周囲の空気を歪ませる οο
           desperate space……



―ゴォオォオ……



――遂に熱線が収まったのだ――



σσσ DELETE PROMINENCE σσσ

             END!!







「何だったんだよ今の……。ヴォルテールのかよ……?」

炎が収まり、ようやくユミルの姿も確認出来るようになったクルーガーではあったが、
風が襲いかかってきた方向には目を向けずに先程の焼却大砲バーストフレアが誰から放たれたものであったのかを考えるように呟いた。

それはもう決まり切っている事ではあったのだが。

「いいや、それは多分違うと思うよ。今の炎の混ざり具合を見るとどうもミケランジェロの方だと思うけどね?」

炎に慣れているのか、ユミルはまるで動揺している様子が無く、平然と腕を組んで立ち尽くしながら、
あの焼却大砲バーストフレアが誰のモノであったのかを考察し始める。

彼のその見方、特に色や混合度合いを意識した説明には妙に説得力が存在した。



――すると今度は左指を差し……――



「見てみなよ、あれ」

恐らくはユミルから指図を受けなくても自分で確認する事が出来ただろう。
しかし、クルーガーはその指図に乗るかのように、あっさりと右を向いた。

兎に角、今状況がどうなっているのかが気になったから、相手が誰だろうとあまり関係が無かったのだろう。



――その視線の先に映っていたのは……――



「グオォオォ……」

■◆ 甲殻が焼け、苦しむヴォルテールの姿…… / BE BURNED ALIVE TO DEATH? ◇□

元々衛生害虫オレガノの影響で黒ずんでいた甲殻が更に黒く焼け、……いや、焼けたと言うよりは、炎でえぐられたとでも表現した方が良いだろう。
風力があまりにも強かった事に加え、巻き上げられた溶岩や岩が激しくヴォルテールにぶつかった影響なのだろう。
高熱の風そのものも無視出来ない威力だが、ミケランジェロは周囲の環境をも味方に付けた為に熱による攻撃と同時に、打撃的威力も高めたのだろう。

だから、今のヴォルテールの甲殻はおぞましいまでに傷を付けられ、酷い部分は甲殻そのものが引き剥がされ、裏の肉が見えている。
その強大なエネルギーを至近距離で受けたから、甲殻を剥がされて重症となったのかもしれない。いや、なっているのだ。

苦しみながら、震えて辛うじて立っている姿がとても痛々しい。
更に見れば、いつの間にか溶岩の外へと脱出しているようにも見えるが、恐らくはあの炎風の威力があまりにも強すぎた為に押し出されたとも考えられる。



「って……ヴォルテール!!? お前どうしたんだよ!?」

まさに飛竜同士の戦いに相応しい姿であるのかもしれないが、クルーガーは飛竜の旧友の傷跡を見るなり、
本当にそこまで全身をボロボロにされるのかと疑問まで抱きながら思わずヴォルテールの元へと走り寄ろうとする。

しかし、クルーガーの足はすぐに止まる。

「言っただろ? 僕の方がまさってるってね。あんなのまともに受けたらもうその後の保障は出来ないからね? 油断したな、あいつも」

ユミルはまるでミケランジェロの熱線を褒め称えるかのように、傷だらけで苦しむヴォルテールと、その傷付いた飛竜を見下ろすミケランジェロを
同時に視界に入れながら口の端を釣り上げる。

彼の今の体勢は武器に対して力を込めていないそれであり、今ならばクルーガーの隙を付いた一撃によって全てを終わらせる事が出来るだろう。
しかし、クルーガー自身もあまりこの時に限っては戦闘体勢を突然戻すような事はしていなかった。



――ユミルは相手の返答も待たず、口を動かす……――



「所で、僕らはどうするんだ? 相棒が死にかけてるからって、まさか飛び込む気でいるのかい? 溶岩の散らばったあそこに踏み込むなんて自殺と変わり無いだろ?」

一度止めていた戦いの事を思い出したのだろう。
ユミルは声をかけてクルーガーを振り向かせ、そしてゆっくりと紅の斧を持ち上げる。

それは、戦闘再開を要求する仕草として、相手に伝えられた。

「心配ねぇよ。あいつがそんぐれぇでくたばっ訳ねえだろ。それにお前との戦いだってまだ終わってねぇ……」

ユミルの方へ向くなり、彼が武器を持ち上げている様子を確認出来た為、クルーガーもすぐに太刀を持ち上げる。
双角竜装備を纏ったこの男には別の使命があるのだから、まだ放置する事は出来ない。

黒い甲冑を纏った青年の足が地面を擦るように動かしてきた為、すぐに行動へと入る。



「だろ!!」



―ιι― 太刀を構え、飛び込んだ!! ―ιι―



キィイン!!

■■ 元熱線の通り道スティルロード・ヘビィスモークの上で、刃同士が効果音を響かせた!! αβ

――刃同士がぶつかると同時に、二人の位置関係もそれぞれ逆となる……――



「当然だよ!? 僕らはまだピンピンしてるからねぇ!! 早急に決着付けてしまおうよ!?」

背後へと移ってしまったクルーガーを横目でしっかりと確認しながら、ユミルは裏拳のように斧を横へ向かって振る。
横に放物線ドローイングエッジを描いた刃は、ユミルの都合の良い方向性で進めば、そのまま相手の身体に食い込むはずだった。



―ガァン!!



「やけにお前機嫌くなってんじゃねえかよ!? やっぱお前もあいつ次第だったってか!?」

横から迫る斧を、クルーガーは鬼神斬波刀を縦に構え、受け止める。

しかしまだ背中を向けていたから、防ぎながら正面に向き合う。
やはりユミルは自分の愛する黒鎧壁竜ミケランジェロの戦績の影響を受けているように見られている。



「いいのかいそんな事言ってて。ダラダラやってたら今に死んじゃうんじゃないのかい君の相棒がねぇ!!」

ユミルは自分に圧し掛かるクルーガーの武器がうざったくなってきたのだろうか。
自分自身の斧を前へ押し出したり、横へ微小にずらしたりしながら、相手の太刀を振り払おうとしている。

ヴォルテールの体力を考えた途端、ユミルの力が一気に爆発される。



ψψ あの重装備のクルーガーを押し退ける!! ◆◇



「初めっから始末する気だったくせに今頃惜しむような事言ってんじゃねえぞ!!」

一時的に、純粋な腕力勝負だったであろうその押し合いに負けてしまった事を心で小さく悔みながら、
クルーガーは押し出された身体を再び前へ進ませ、ユミル目掛けて太刀を振り落とす。

もうこの時点では、ヴォルテールの傷の具合を心配されても全く嬉しくなくなっているのだ。



「そう言う君も随分と高揚こうようしてるじゃないか。仲間が傷ついたから、焦り始めてるんじゃないのか?」

ユミルは紅の戦斧ディールプティオを横にして頭部直前で鬼神斬波刀を受け止めながら、クルーガーの現在の精神状況をわざわざ説明してやった。
本人が気付いていないから、一種の親切で教えてやったのだろう。まだ友達と言う自覚があるからなのか、それともただの嫌味なのか。

頭部の上で受け止め続けている訳にもいかず、ユミルはそのクルーガーの太刀を斧の横降りで振り払う。

「だったらどうだってんだよ!?」

出来ればもう少し充実した返答を飛ばしたかったのだろうが、すぐに反撃を再開する事に意識が行っていたからか、
単純な反発程度で言い返す行為は終わってしまう。

その後に続くクルーガーの攻撃は、横薙ぎだ。



「それしか言い返す事思いつかなかったかい? それと、僕らの戦いももう時期終わりだよ?」

ユミルの胸部を狙って突き出された切っ先を避ける為に、ユミルは胴体だけを大きく左へと逸らし、両足を地面から離さない状態で
戦斧せんぷを力強く振りかざす。

その狙い場所は意外と決まっていたらしく……

▲▲ 右肩の聳える角サンディタワー攻撃対象ターゲット!! ▽  ▽



―ガスゥン!!



きっと両肩から伸びた聳える角サンディタワーは、生命線の一つである頭部を左右から護衛してくれる味方なのだ。
今回そこにユミルの戦斧が直撃したが、意外と上部の尖った部分付近にぶつかった上に、その反動でクルーガーの胴体自体も動いた為、
傷が付く程度で終わってしまう。
もう少し角度と力とその他の条件が揃っていれば首をねられたかもしれないのに。

――しかし、叶わなかった……――



「当たりめぇだろ!! こっちだってなぁ、お前と遊んでる暇なんかねんだよ!!」

右肩の角に傷を付けられた事をあまり気に留めず、クルーガーは太刀を再び振り落とす。
もうユミルとはこれ以上関わり続けたくないと考えている為に、彼の心から昔日せきじつの友情が消え始めているのだろう。

だが、この台詞からは、他の目的も垣間見える。

「じゃあ何する気だったんだい? これから。どうせ僕らのような組織の連中と戦うだけだろ? 自分で歩き回って探す気?」

ユミルにとってはこれからのクルーガー及び、その仲間達の未来を知ってしまっているのか。
ここでこの漆黒の鎧に出会わなかったとしても、他の刺客との戦闘が繰り広げられているのだろうと意見を渡す。

クルーガーの太刀を防ぎながら、鼻で笑った。



「なんだっていいだろ! お前みてぇになっちまった奴に会う事が無駄だってんだよ!」

特にこれと言って綿密な予定が入っていた訳では無いものの、クルーガーにとっては答える義理は無かったようだ。
攻撃を防がれても尚相手を攻め続ける為に、押し付けながらその太刀を引いた。

例えるなら、のこぎりのように押し当てながら斬る、と言った所だろう。

「へぇ僕がそんな風になって、ねえ。ちゃんと理由は話しただろ? どうして分かってくれないんだい?」

今まで通りにクルーガーの攻撃を身体へ届かせる事を許さず、ユミルは自分の捉われ方をある程度考えてみるが、反省する様子を見せなかった。と言うよりは、自分自身の選択肢が誤っているとは考えられなかったのだろう。

押されて体勢がある程度狂ったその身体をすぐに戻す。



「納得出来ねんだよアホが。あんなとこ行くとかマジ今でも考えらんねえし」

再び上から太刀を振り下ろし、ユミルの愚考に対して未だにクルーガーは反発をし続ける。兎に角、彼が今言いたい事は、組織に所属しようと言う思考がどう考えてもおかしいと言う話なのだ。

「だったら、僕がもう少し分かりやすく教えてあげるよ!!」

一瞬、ユミルの目付きが生気の失ったような色へと変わり、攻撃を受け止めた紅の戦斧レッスン・オブ・フレンドシップを再びクルーガーへと振りかざす。
知ってもらう為に、ユミルも力を果たさなければいけない時がやってきたようだ。







*** ***







■ττ■ 滅び行くパンタグリュエル / GIGANTIC CARNAGE ■ττ■

今まで見てきた中でも、黒鎧壁竜ミケランジェロの放ったあの熱線は威力の桁が違いすぎたはずだ。
まあ、どのような迫力や外見にしろ、人間が熱線を受けてしまえば、その後の未来は無い。

飛竜を仕留めるには、人間に与える威力の倍以上を溜め込まなければならない。
それをミケランジェロは凶悪にも、それを可能にしてしまった。環境を味方につける戦闘力は周囲を脅えさせる。
こうなってしまえば誰にも止められない。

黒い巨人ガルガンチュアは主人の目的を達成する為に、本来の鎧壁竜が持たない力を手にし、
歯向かう不届き者を地獄へと叩き落す使命を背負っているのだ。
同じ鎧壁竜同士で戦ってもここまでされると言うのに、人間ハンターなんかが戦って太刀打ち出来るのだろうか?



『グオォオ……』

原種の鎧壁竜ヴォルテールはほぼ瀕死に近い程の重傷を負っているにも関わらず、
立ち尽くした状態で目の前にいる亜種の鎧壁竜ミケランジェロを見詰めているが、強い戦意が徐々に薄れてしまっている。



―ナンジャクモノガ……―

ミケランジェロはまるでヴォルテールを見下すかのように、堂々と、そしてゆっくりと前進し、ヴォルテールへと接近する。
充分な距離を手にする事が出来たと認識した途端に黒い尻尾を持ち上げる。



――身体も捻り……――



――γγ◆ 弱った相手に振り飛ばす!! / FLUTTER TAIL!! ◆ξξ――

ブォン!!

ドォン!!

グオォオオ!!

風を重く斬る音とぶつかる重音の後に来るものは、ヴォルテールの苦痛に満ちた鳴き声である。
甲殻をいくつか剥がされた胴体にとってはその鈍い衝撃の威力は耐え難い数値だったはずだ。



危うく転倒してしまいそうになるも、ヴォルテールは持ち応え、諦めてはいけないと自分に言い聞かせているかのように、
弱りかけていた黄色の眼に力を入れ直す。
まだ勝機は残っているはずだから、まだ諦めてはいけないのだ。

今の尻尾の攻撃によって距離が離れた訳だが、ミケランジェロの方からやって来る。
まだまだ攻撃し足りないらしい。



―コンナトコロデヤラレルワケニハ……―

飛竜同士で戦うならば、一方的に土となるつもりは無い。
クルーガーの事も考えれば、易々やすやすとあの世に昇るつもりだって無い。

向こうからわざわざ来てくれるなら、こんな対処法はどうかと、ヴォルテールは一度大きく息を吸い込んだ。



――実は今、腹部の甲殻も剥がれているが……――



ααα 有毒瓦斯ガスでも吸わせれば、黙らせられるかもしれない……

βββ 小さな賭けだが、信じてみるのも一つの手……

αβγ いざ……



―◆◆―≪≪  永眠への噴霧景観ララバイカタストロフィ  ≫≫―◆◆―

鎧壁竜は体内から催眠瓦斯ホワイトミストを放てる身体構造を保持している。
亜種と呼ばれるようになると失われる機能であり、原種のみが許される特権だ。

甲殻が黒い方は、体内に蓄積された熱量が膨大である為に催眠瓦斯ホワイトミストを放射する外分泌腺がいぶんぴつせんの機能が失われている。
一方で白い方はまだその機能が残っているのだ。
そして、この現在腹部の甲殻が剥がされている為、瓦斯ガスを発射する際に遮る物が無くなっているのだから、
毒の濃度ヴェノムパワーを殆ど損なわせる事無く放出させる事が出来る。

ヴォルテールの腹部を中心に、徐々に白い霧コーマドラッグが広がり、その周辺をも包み込む……

因みに、ヴォルテール自身は自分自身の持つ濃度の耐性を持っている為、自滅する事は無い。



――やがて、ミケランジェロにその霧が届き……――



『グァ……』

弱り切っていると思い油断して接近したミケランジェロは思わずその白い毒を吸い込んでしまう。
気力だけでは制御する事が出来ず、それはまさに毒だからこそ、自由を奪われるものなのだ。

――αα 体内に睡眠毒が入り込み……

――γγ やがて、脳に到達し……

――εε 身体機能を麻痺させていく……



▽▽ ミケランジェロの動きが止まっていく…… / SHORT SLEEP…… ▼▼



きっと制御が利かなくなっていく自分自身と戦っているのだろう。
ミケランジェロは震えながら、それでも前へ前へと突き進むが、動きが非常に鈍くなった所を、ヴォルテールは逃さなかった。



――下がるミケランジェロの首を狙い……――



グオォオオ!!!

ヴォルテールは傷ついた身体を前へと押し出した。
追撃を求めて!!



―◆◆―≪≪  白煙なる破砕岩牙イノセントインサート  ≫≫―◆◆―

普段鎧壁竜がしょくしているのは、硬質な岩石なのだ。
それによって鍛えられたあごの力は相当なものを誇っているに違いない。

生物のくせに岩を食べる理由はここでは聞かないで欲しい。
ここは学習の場では無いのだから。

全くと言っても良い程に動かなくなったミケランジェロの首を狙い、
ヴォルテールは突き進み、口を大きく開く。



―◆ ◆ ヴォルテールの岩をも砕く口と……

―■ ■ ミケランジェロの黒く、太い首とが……

―▲▲― やがて接触し合う。それが意味するものは……



κκκ とうとう黒い首へと噛み付いた!! / HEAVY BITE!! χχχ

ヴォルテールの牙が激しくミケランジェロの首に食い込んでいく。
黒い甲殻も噛み付かれている地点を中心にどんどんひびが入り、そしてへこんでいく。
岩を砕くそのあごの力を考えれば、黒い甲殻ブラックウォールもただでは済まないはずだ。



――ミケランジェロも事態に気付き……――



『グォッ……。グオォァア!!

首への圧力に気付いたミケランジェロは上半身を伸ばしながら苦痛にもだえ始める。
睡眠毒にかかったとは言え、身体に衝撃が走ればすぐに眠気は覚めてしまうのだ。この毒はそう言う毒なのだ。

それが原因で目覚めたミケランジェロだが、首を噛み付かれている事によって上手く反撃が出来ずにいる。
首が圧迫される事で、痛みだけでは無く、息苦しさまで迫ってくる。
何とかしなければヴォルテールの思い通りになってしまうに違いない。



―コノママイケバ……―

ヴォルテールは傷だらけの身体に走り抜ける痛みを堪えながら、噛み付く力を弱めなかった。
口に直接伝わるのは、甲殻が徐々に割れていく感覚だ。
もう後には引けないし、引いてはいけないのだ。

ミケランジェロも身を捻りながら解放されようと奮闘をしているが、ヴォルテールもなかなかしぶといのだ。



―― 一つの歯応えが、ヴォルテールに届いた――



そして、ヴォルテールは更に噛み付く力を増加させ、ミケランジェロを追い詰めていく。
破壊出来ればこれこそ最高の反撃となるのだから、叶えたいのだ。

υυ ただ噛み付いているだけでは無理だと悟り…… υυ

今度は噛み付いた状態で、その自分の頭部を手前へと引き寄せる。
そうである。ヴォルテールは噛み千切ろうと、思考を働かせたのだ。



―バキキィッ!!



――黒い甲殻が引き剥がされる!!――



グアォァァアア!!!

ミケランジェロは首に走る鋭い激痛によって鈍い悲鳴を周囲へと響かせる。
甲殻の裏にある肉の一部も千切った可能性があり、血液が垂れているのも分かる。
きっと今までに無い威力を誇るものだと信じたいが、ミケランジェロがそれで崩れる様子は無い。

ミケランジェロは激痛によって足元をふらつかせているが、ヴォルテールは相手に対する追撃を拒まなかった。



――再び息を吸い込み……――



―◆◆―≪≪  散逸狙う火炎放射・苦闘ブラッディイレイザー・ドミニオン  ≫≫―◆◆―

ヴォルテールだって、まだまだ灼熱の熱線を吐くだけの体力は残っている。
黒い巨人であり、そして悪魔でもあるミケランジェロを止めなければ、自分も、クルーガーも危ない。
今は兎に角相手を止めるしか無いのだ。

どんな小さな確率でも、それに賭けるしか勝機は無い。
体力を振り絞るかのように、口が今、大きく開かれる。



――▼▼ 
いざ、発射ブラストオフ!!



―ブオォオオォオオオオ!!!!



δγδγ 一つの空間に、溶岩の如く獄炎が生まれる!

οιοι 風でありながら、決して触れてはいけない気体……

ζωζω 威力そのものを凶悪に表現する轟音!!



グアァアアォオオォオオオオ!!!

熱線を顔面に受け、ミケランジェロはその高温度デンシティー圧力オプレッションの影響で苦しみの交えた鳴き声を飛ばす。
傷口に狙われたその熱線は大きな体力消耗ファクルティディクラインもたらす事であるに違いない。
破壊された部位を重点的に攻めるのは、ハンターであろうが、飛竜であろうが基本の中の基本である。



―コレデオワラセラレレバ……!!―

◆σ ヴォルテールの中に宿る一つの希望ファビュロスクリスタル…… σ◆

黒い飛竜を倒して、またクルーガーと走り回りたい……
出来れば、組織と戦って、殲滅せんめつさせたい……
クルーガーの仲間の顔だって、見てみたい……
自分の体格ならば、仲間を乗せて歩く事だって出来るんじゃないのか?
いや、それは他の人間を驚かしてしまうから無理かもしれないが……
早く、この火山地帯に平和が戻って欲しい……

そして今思えば、まるで一つに限定されていないじゃないか……
そんな事さえ思えるようになってきた……




もうすぐ終わらせられるはずだ。
希望をしつこいようにいだきながら、炎を表現した風を口から放ち続ける。
見れば分かる通り、ミケランジェロもその熱線によって怯んでおり、そして後退だってしている。
諦めなければ、必ず勝機が現れる。信じるのだ。信じるのだ。信じようではないか。










――終わらせる為に!!――










――終わらせる?――









―コシャクナ……―



炎を浴び続けていた飛竜は、原種と同じ色の眼を細めると同時に、闇の篭った感情さえも浮かばせる。
果たして、本当に熱線が効いているのかと直接訊ねてみたくもなるような光景であり、どこか奇妙だ。
ミケランジェロは自分に熱線を浴びせ続けてくるヴォルテールを視界から外す事はしなかった。

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