わぁははははははは!!!!

うぃいぃっひっはっはっはっは!!!!

うぁあっはっはっはっはっはっは!!!!

ぐぃひひひひひひひひひひ!!!!



やっべぇ……笑いが止まんねぇぜ……はぁっはっはっはっはっはぁ!!!
おいおいお前オイラの事可笑しいって思ってんだろう? ひひひひひ!!!!
そうだぜ!! オイラは今猛烈に……いっひっひひひひ!!! ラリってんだぜ!!!

お前らって……はっはっはっは!!! 毒についてどう思うよ? ひっはっはっは!!!
どうせ……ぐひひ……毒だから……苦痛に襲われるとか……ぐひはははははは!!! 思ってるだろ!?
案外違うかも……はははは!!! しれねえぜ!! うっふっふっはははは!!!!

そりゃあ体内に……ひっひっひ!! 入ったら……神経や内臓に……はっはっはっは!!!
異常が起こるだろうから……はははは!!! 苦痛が起きるって分かるだろ? ひはははは!!!
毒ってのはなぁ……ひははははは!!! 体内破壊しちゃうんだよん? うっふぃひひひひ!!!

血液の流れとか……ひははは!!! 新陳代謝とか……ぐひひひひ!!!
脳の動きとか、細胞とか……ぎゃーっははははは!!! 異常が起きたらどうなるよ? はははは!!!
正常な感情なんか……ぎぃひひひひ!!! 維持出来ねえよバーカっはっはっはっはぁ!!!

所で……ひひひひ!!! オイラがなんでこんな状態だってか? うぅっひひゃははははは!!!
森に生えてたキノコ食っちまったんだよ!! したっけ笑いが止まんねえんだぜ!! はっはっはっはっは!!!
神経が刺激されまくって……ひひひひひ!!!! 興奮すんだってよっはっはっはっはぁぁああ!!!!



って……ぐえっ……やべっ……息苦しくなってきた……あれ……目の前……暗く……なってくぜ……

オイラ……死ぬ……のか? やべ……誰か……助け……て……くれ……

笑い死に……すんのか……よ……







毒物質は、刃物や棍棒といった原始的な武器で提供される外傷とはまた違う方向から対象者の体力を奪う。
外部から攻撃するタイプ、内部から攻撃するタイプで根本的に異なっている。
動力源を内側から弱らせていくのが毒の恐ろしさである。

肉体から力を抜き取っていくのがまた恐ろしい効力であり、それでも尚、生体から生命力を搾り取る。
毒を与える時に必要なものは、暴力では無い。
相手に軽くでもいいから接触させてしまえばいいのだ。

吸い込ませても、肌に直接触れさせても、毒の威力を相手に伝える事は可能である。



◆◆β◇◇  She never had a chance. γγ▼▼

◇◇β◆◆ チャンスなんて考えるなよ? γγ△△

吸い込む奴が悪いだろ?
どうして口を保護する処置を取らないんだい?

そんなに肌を露出させる奴が悪いだろ?
どうして外気に触れないように完全防衛してしまわないんだい?



=== そうそう、触手も地面から生えていたよね? ===
≫≫≫ Tentacles propagate on the pretty form. ≪≪≪

宇宙生命体シークレットノーションが操る触手は、立ち向かう相手には嫌悪感、そして鳥肌すら立たせる迫力を持つだろう。

少女の身体を縛り上げたんだよ。それも、無数の触手がそれぞれ個別に違う部位を縛っていたよ。
ここで奇妙に妄想を立てる愚者がいた場合、それはそれで賞賛してあげるのも悪くは無いでしょう。
少女の服装を把握してる貴方なら、両脚でも無理矢理広げて犯される所でも連想してみるかい?
或いは、服を全部引き千切って、貴方が果たせない欲求を触手に果たしてもらうかい?
面倒だから、いっその事締め上げてそのままあの世に送ってしまうのがいいかな?



     ―― DATA LOADING…… ――

いや、あの娘の服は引き裂く事は出来ないと今資料が送信されました。

どうやらあの青い服は薄い生地でありながら、外部の力で引き裂かれない素材が使われているらしいです。
鋭利な刃物であの服を刺しても、服に穴が空く事もありませんし、地面に引き摺ったとしても穴は空きません。
そして、熱にも冷気にも強い為、炎で炙られても、氷を浴びても変化、劣化の道を辿りません。

あの少女の姿を見てみなさい。確かに体力は消耗しているかもしれませんよ。
ですが、あの衣服は多少汚れはありますが、どこも破けていないのです。
どれだけ屍龍からの猛攻を受け続けても、服自体に損傷はありません。
ですから、少なくとも服の裏の肌はいくらかは保護されていると言っても良いでしょう。

それは、護られていれば、のお話ですから、例外は当然の如く存在する訳ですね。
覆われていない部分は護られるはずがありません。
他の部分が護られていようと、それはまやかしなのです。
結果、露出した肌はそのまま傷が付いていくものです。
スカート自体には生地特有の強度は備わっていても、その下に伸びる脚は傷だらけです。
肩口も上着とアームウォーマーの間から露出している以上、傷は免れません。

それでも、あの衣服の強度には驚かされるばかり、というのが本音かもしれません。
ただ、切り傷が無かったとしても服の裏で痣が作られているのは確実でしょう。



◆◆β◇◇   A pretty face.but she does so carry on. γγ▼▼

◇◇β◆◆   可愛い顔に反して図太い性格をしてますね。 γγ△△

大丈夫だよ。
ただ、少女の体力を奪い取るだけだからさあ。
きっと屍龍は1つの娯楽ゲームでも考えているのだと思われるよ?

元々弱っている少女を更に弱らせ、戦慄の夜を築き上げるその頭脳。
嘗ての同僚であるその情報は既に掌握していたのだろうか。
どこまでなら堅忍する事が出来るのかも計算済みなのだろうか。





         You'll never make me leave……

           I wear this on my sleeve……

         Give me a reason to believe……




           去る必要は無いさ……

            気持ちは固まらせるから……

           信じる理由は、あるのかい?








          ■◇■≫ PANDEMICパンデミック CENTURYセンチュリー ≪■◇■

     σσ 触手は少女の味を知り尽くす…… / fat tongue ζζ
     コウチョクサセ……シバリアゲ……ホントウノジゴクヲテイキョウシ……

      κκ 愛撫しながら……ヨワラセル……
           υυ コレハイジメニタグイスルノカナ?






α ▲△▲ α 深紅に染まり切った直径7cmの触手達……

η △▲△ η 先端に大量に細かくうごめくのは、黄色の小さな触手……

ψ ▲△▲ ψ その黄色の触手の中で目立って伸びた、1つの柔軟な利休色りきゅういろの突起……

それらが今、冷涼なる地面クールソイルを突き破り、真上にいた愚かな少女ライヴィングレーションを縛り上げ、その身体を弄ぶ。
抑制は効かず、そして、静止を聞く事もしない不定形物体フィルシーモンスターは本能の赴くままに相手を縛る。



ソノコウケイヲ……アナタノメデタシカメナサイ……







「うあっ……嫌っ……ぐぅっ……!!」

最初は脚を捉えられ、そして両腕も触手によって押さえられ、ネーデルは疲れ切った喉の奥から苦しい悲鳴を飛ばす。
身体の周囲に纏わり付いてくる触手達があまりにも気持ち悪い。

ぬめりのある体組織がネーデルの肌に接触するのだから、出来る事ならばその場から逃げ出したいだろう。

――すねも太腿も絡み込む事で束縛し……

――抵抗しようとしていた両腕も絡む事で動きを封じてしまう……

――少女も必死な思いで全身に力を入れるのだが……



◆◆ 外見通り、触手の力は非常に強く…… / PRISON ROPE ◆◆

1本1本は骨の無い軟体組織フレキシブルスタイルであるからか、柔軟な動きを見せ付けてくれるが、それでも少女の力で振り解けるものでは無い。
少女の部位を縛り付けている個体は対象を離さずに動作を硬直状態にさせている。
それでも抵抗するネーデルに合わせて僅かながら微動をする場合はあるのだが。

しかし、ネーデルの両腕両脚を拘束した所で、余っている触手が残存しているのだ。
抵抗を続けるネーデルの身体を這い、人間世界で生きる者の生態でも確かめているようにも見える。



「ちょっと……どういう……つもりよ……!!」

力で振り解ける保障が無いと知りながらも、ネーデルは両腕を手前に持って来る気持ちで力を入れるが、思い通りにならない。
抵抗の為に呼吸も声も詰まり気味になり、消えかけの状況である体力に更なる負担がかかる。

真上を除いた全方向に触手がうごめいており、それらの視線を浴びていると考えると、腹立たしさすら湧き上がってくる。
特に、真下で鳴き声らしき音を立てている触手に対しては特にその傾向が強かった。



――魔眼を青と緑に点滅させた屍龍は近づき……――



『スピラガァルバ……メゾレンデプリエリヴァアン……』

一歩一歩、重苦しさを思わせながらゼーランディアは触手に縛られるネーデルに感想の提示を求めるような言葉を投げつける。
雰囲気を放置すると、その歩き方には特に癖が見えないが、近づいて何をするつもりなのだろうか。



「小細工だけは……上等……
うっ……!!

狙って敵対者の行動を物理的に拘束してしまう小道具を使ってきたゼーランディアに対して憎悪をぶつけようとする。
触手側もまるで嫌がらせでもするかのように、ネーデルの右脚だけを必要以上に持ち上げようとする。
ひざは伸ばされてはいないが、それよりも、スカート姿という点を考えると前方に対しても不味いものが生まれるはずだ。

そして、やや甲高い悲鳴を上げさせる原因を作ったのは、ネーデルの汗で濡れた細い首に吸い付いた1本の触手である。
その悲鳴を可愛らしいものとして捉える者は趣味の面で奇怪と思われてもしょうがない。

純粋に人間から流れ出た分泌物にでも反応し、それを養分として認識したのだろう。





『ヴァーシュレッティメイガ……』

触手の生命活動クリムゾンシャギーに含まれるであろう思考や趣向をゼーランディアは意識、理解をしているのだろうか。
純粋に触手に支配されて苦しむ少女を眼中に捉えているが、2人の距離は縮まる一方だ。



――何本かの触手がネーデルの胴体を撫でており……――



「この触手って……まさか……オス……なの……!?」

文句を飛ばした所で確実に反応所か、少女の感情すら把握しないであろう触手の数本が、
ネーデルの未発達な胸ラブリーバストの周囲を先端で撫で回している。先端から生えた細かな黄色の触手達スライムタンズの動きが非常に腹立たしい。
唯一の救いとしては、青い服で肌を覆い隠してくれている点だろう。

だが、その護られている肌は汗で激しく濡れている。

『ズィルバデイガ……クレソアァズ……』

恥ずかしそうに顔を赤らめるネーデルの表情を確認するゼーランディアであるが、興味無さそうに言い返す。
触手に性別の概念セックス・コンシャスネスが存在するかは別として、もしネーデルの言う通りだったとしても、
触手の動きに制約をかけたりしてくれるとは思えない。



「やってる事は……オスに見えるけど……!!」

胴体や首回りを触手にうろつかれる事は精神的にまだ耐えられる様子であるネーデルだが、
これが人間であり、尚且つ自分と違う性別だった場合を連想するともう我慢出来たものでは無いはずだ。

しかし、やはり脚に絡みつく触手に対してだけはどうしても耐えられなかっただろう。
感触が直接脚の肌に伝わると同時に、ヌルヌルした肌触りやむず痒さが襲ってくるのだ。
得体の知れない生物――と呼んで良いかも分からないが……――に吸い付かれるのは辛いはずだ。
そして、その触手から分泌される液もネーデルの脚に付着するが、宇宙生命体の液体アンソリューションジュースが身体に悪影響を及ぼさないか心配だろう。

ネーデルの意識をより過剰に刺激したのはとある1本の触手であり……



――ネーデルの尻に強く触れたのだ……――



同時にネーデルの赤い瞳が羞恥心しゅうちしんによって閉じられ、歯も食い縛られる。
触手達に持ち上げられ、身動き1つ取れない状況で触れられてしまうのだ。

相手が植物のたぐいと分かっていても、気持ちを抑えられなかった。
出来ればこの束縛から解放され、気味悪い触手に一撃仕返しをするなり、斬りつけてやるなりしたいと考えても無理は無いだろう。
触手側も、余程この星の人間に興味を持っているからなのか、その行為はしつこかったりする。
最も、本当の意味で何を目的にしているのかは一切不明だが。



『カァマスピエレン……ミシュトゥリクェイトレスポァド……』

触手を今までどのような過程で調教していたのだろうか。

ゼーランディアは肉付きという概念すら存在しない骨だけの首を軽く傾け、
ネーデルの問い掛けに対して冷めた返答を投げ返す。

元々の声色が低く、常に威圧的な雰囲気を感じさせていたが、動作を見ると大体そのように捉える事が出来る。



「どこ……触らせてる……のよ……! どうせ貴方が……操作してるん……でしょ……?」

性別については理解する事が出来たのかどうかは不明だが、ネーデルの微弱な怒りの表情は消えていなかった。
両腕を左右それぞれに引っ張られ、反撃する事も出来ずに触手に纏わり付かれる屈辱が苦痛でしょうがない。

触手も継続的に少女が嫌がる部分を触っている訳では無く、身体をなぞっている最中に偶然その場所に当たっているのだ。
だが、身体自体がもう忌諱きいされていると考えても良いのかもしれないが。

『マイデュスレイッカルソォピス……ヴァルファスレ……!!』

ゆっくりと前に進んでいるゼーランディアであり、ネーデルとの距離は着々と縮まっていく。

動けないネーデルの身体を見詰めており、まるで人間の価値観を分かっているかのように、
触手によって強引に持ち上げられている右脚を眺め始める。
何故かこの手の人間は脚を出した服装を好む傾向にあるが、その割に実際に触れられたりすると嫌がるの不思議だ。

右脚の奥なんかも眺めようとするが、ネーデルの真下から忍び寄る触手に反応する。



――瞬間的に、ゼーランディアの魔眼が鋭くなる……――



ズィラヴァ!!

実は、ネーデルの恐らくは死角となっていたであろう真下から、2本の触手が伸びていた。
横からの視点だと問題の無いスカートでも、触手の視点では大きく異なるものである。
右脚を持ち上げられた影響で、案外嫌らしく脚は開かれてしまっており、格好の的になっていたのかもしれない。

下半身の前後から、先端の突起を尖らせ、それぞれ忍び込もうとしていたが、
主であるゼーランディアが張り上げた指令によって、淫乱な触手2本は慌てるように地面へと引き返していく。
地面へと突き付けられた右指の動作も非常に力強い迫力を感じる事が出来る。

だが、2本の触手は何故前後から、しかも真下から狙っていたのだろうか。



――ネーデルからの対応は、ここでは来なかった……――



『チュリスピルスペァディルグーン……』

人間であれば尚更根性が無ければ手を入れる事は無いであろう場所に潜り込もうとしていた触手を引っ込め、
再びいつものような表情がまるで読めない態度へと戻る。

ゼーランディアはとうとうネーデルの真正面へと到着し、戦っていた時の凛々しさの失われた少女と顔を合わせる。

いつの間にか、触手達は身長の極めて高いゼーランディアに合わせ、ネーデルの位置を上昇させていたらしく、
どちらかが過剰に視線を持ち上げたり、逆に下げたりする必要は無くなっていた。
ネーデルにとっては相当な高度を見せ付けられている事だろう。

「しつこい……わね……。戻らないって……言ってるでしょ!?」

もしゼーランディアの感情内で、ネーデルに対する攻撃意識が芽生えてしまったとしても、
一切反撃も防御もする事の出来ない状況の中であるのにも関わらず、ネーデルの表情には強いものが存在した。
疲労を押し殺し、怒りの顔付きを人の姿をした龍に対して見せ付ける。

両腕を広げた体勢で縛られているのだから、相手が手を出してきた場合、
それを全てそのまま受け止めるしか手段は無いというのに。



『ミィスリックフェバイラント……』

ネーデルの明らかに不利な状況を読み取ったのだろうか、ゼーランディアは人間のように腕を組み始める。
案外、この屍龍はネーデルの心の奥を見透かしているらしく、わざと強がっている事を見抜いているようである。

だから、拘束されている少女を痛め付ける事は、ここではしなかった。

「なっ……。し……縛り上げて……どうする……ってんのよ……?」

普通であれば、触手に両腕両脚を押さえ付けられ、更には殺人すら腕1本で実行出来るような宇宙生命体に接近された状況で、
怖がるなと言う方が確実に不可能だろう。

事実として、今までの激闘の過程で身体自体には相当な熱を溜め込んでいるものの、
恐怖という冷気にあおられて震えているのだ。
きっとそれは、触手が振動を受け取る事によって確認しているに違いない。

問題は、この状況で、この後に何が発生するかである。ネーデルは気になっているのだ。



『ソォジェラドゥビィア……』

弱い状況に投げ落とされていながらも、健気に振舞ってくるネーデルを追い詰める為に、
ネーデルの細く整った顎を左手で持ち上げ、自分自身の深青の魔眼ダークネス・ブルーを無理矢理に凝視させる。
相手に自分の光る双眸そうぼうを見させると同時に、屍龍側の心情も思い知らせてやろうと考えたのだろう。

「強がって……なんか……。それと……縛り上げないと……わたしと向き合えない……とか?」

それは所詮は外面上だけでの話である可能性があるだろう。
触手が持つその威力は、相手に他生物の脅威フードチェイン・レイジさえも覚えさせ、そこから想像すら出来ない恐怖を植え付けるのだ。

普通、異星から持ち出されたと予測される植物に捕らえられる場面は誰も想像をしないだろうし、
縛られてからどのような処置を施されるかも想像する事は出来ないはずである。

その淑やかな声を出す為の喉の奥も、徐々に恐怖で震え始めている。



『サンデュルィペイラカァン……』

ネーデルの顔を覗き込むように、ゼーランディアはわざとらしくその骨の頭部を近づける。
青く長く、そして艶やかな髪や、美白な肌、優しさを感じる事の出来る赤い瞳と言った、
ゼーランディアが持ち合わせていないものをネーデルは持っており、屍龍は今それを全て間近で確認する。

身体が傷付いていても、その魅力はそこまで激しく損なわれないようだ。
しかし、ゼーランディアはその魅力を自分の中で光らせようとする事は無いだろう。

「来ないで……。来ないでよ!! 抵抗も出来ないのに……殴ったりする気なの!? それとも……こいつら使って……乱暴でもするつもりなの!?」

ゼーランディアから只ならぬ空気を勘で感じ取ったのか、ネーデルは縛られた両腕をガタガタと揺らしながら、
恐怖を押し殺して叫び始める。

しかし、力尽くであっても触手から解放される事は出来ず、触手達による接触行為テンタクルズ・ボディタッチプレイは継続されている。
因みにここでネーデルが言った暴力行為クライムアクションとは、確実に物理的な打撃とは別の意味を示している可能性が極めて高い。



『ジョデラマルガ……』

ネーデルから一歩だけ距離を取ったゼーランディアは、その一歩分だけ離れた場所から言い返す。
きっと、ネーデルの質問の内容を馬鹿らしいものとして認識したのだろう。
常に、縛られた少女よりも上にいるそのスタンスが非常に太々ずうずうしい。

「何言ってるのよ……。殆ど賊みたいなやり方じゃない……」

一歩だけ下がったゼーランディアを見て、ネーデルは安心でもしたのか、一瞬だけ笑みが零れる。

しかし、相手の意思によってはまたその距離は縮まってしまうのだから、その安堵は数秒も持たないだろう。
ゼーランディアはその立場にいる者としてのプライドがあるからか、相手の動きを封じてから反撃を行う真似はしないらしい。



『チーマズバイト……メトレカーディヴェアゥ……』

結局下がった分だけまた前に踏み出し、ゼーランディアはネーデルとの距離を復元させてしまう。

ゼーランディアの放つ言語は、ネーデルの返答を混ぜ合わせなければ意味の予測すら出来ないものであり、
ここまで聞き続けている凡人であれば、ただ聞いているだけで頭が疲れてしまうだろう。

ネーデルに付き纏う触手達も、未だにネーデルの青い服の上を這いずり回っているが、過激な行為マレーストアタックには至っていない。

「貴方だったら……本当は考えてたんじゃないかしら……? 戻らないと町を燃やすとか……」

正直、女の子であれば胸の辺りを触手とは言え、物体に這いずり回られたりしていれば確実に不快になるだろう。
だが、ネーデルはもう半分だけ諦めてしまったからか、触手に対して怒りを覚える事は止めてしまっているようだ。

それよりも、ネーデルを捉える為のゼーランディアの陥穽かんせいを深読みしたくなったらしく、
幹部らしかぬ姑息過ぎるそのやり方を僅かながら意識していたのでは無いかと疑い始める。



――メイファは、枝の上で夢でも見ていそうな表情を浮かべながら眠ったままだ……――



『アルシュリメイペン……トレンシュディファルゴェ……』

ここでは殆どゼーランディアの身体的な動作が無かった為、単純に言語だけの意志理解が要求される光景だ。

いつまで太陽は眠っているのだろうか。
暗くなってしまった空に光が訪れる気配は無い。月の光だけでは足りな過ぎる。

「あら……そうだったかしら? 幹部の貴方が……姑息な手段……使ってたらメイファにも笑われると思うしね……」

過度な体力消費、及びそれによる深呼吸の強制は免れなかったものの、
ネーデルは襲い掛かり始めていた眠気が再び消滅してくれた事に多少の喜びのようなものを手にしていた。

興奮した神経の間に、ネーデルは相手に向かって部下が存在する事を再確認させようと、赤い瞳をやや細めた。



――ゼーランディアは指を突き付け……――



『ズァッフォリガースマルーヴェア……』

ネーデルの眉間に向かって指を伸ばし、ゼーランディアはまた理解不能な言語をぶつける。
不気味な暗い青の魔眼の光は強弱の反応を見せ付けず、笑みらしい笑みも感じられない為、真面目な様子なのだろう。

その指は先端がやや尖っているが、ネーデルを突き刺すつもりが無い事を祈りたい所だ。

「やだっつってんでしょっ!! 戻る気なんて微塵も無いってんのよ!!」

しつこい要求を強要されれば、少女であっても激憤してしまうものなのだろう。
ネーデルにしては鋭い剣幕で、ゼーランディアに反発し、動けない状況でありながらも、僅かに身体を前へと突き出した。

もうネーデルの中では相手に何をされようが覚悟が出来上がっているのかもしれない。
まるで触手に対しても、屍龍に対しても畏縮を覚えていないかのように。



『カァトレンバ……。ヴァアットキィベ……』

左手でネーデルの顔の側面に触れ、再度ゼーランディアは顔を近づける。
まるで互いの吐息がかかりそうな距離ではあるが、ゼーランディアに吐息の概念があるかは分からないだろう。

どちらにせよ、ゼーランディアに接近されれば、身体的にも精神的にも好ましいものは無いはずだ。
だが、それよりもゼーランディアの異変にネーデルが気付いていない事は、無いだろう。



――両眼が、左右非対称アトランダムに点滅を繰り返しており……――



「何するのよ……? 近づかないでよ……」

色の点滅ライツブリンクも左右異なっている相手の両眼が普通では無い空気を漂わせていた為に、
ネーデルは数秒前の自分の発言があだとなってしまったと後悔するも、下がりたくても下がる事は出来ない。

ゼーランディアの奇妙な双眸の点滅バッフリングシグナルを見れば見る程、負の想像マイナスシーンが頭の中でしつこく浮かび上がってしまう。



『ミィティガ……トラアィ・・・・……』

すると、突然ゼーランディアの口から赤い気体ディープウィンドが漏れ始め、
口に収まり切っていない気体は空気の中に舞い上がり、そして空間の中に溶けていく。

合図でも意味していたのか、両眼の光が消え去り、その眼孔がんこうに当たる部分が暗闇に支配される。
今までは光の度合いで相手を威圧していたのに、今度は光の消失によって威圧しているのだ。



――次の瞬間……――



ブァア……



εε◆◆ ネーデルに赤い気体を吹きかける…… / GUSTY KISS!! ◆◆εε

1つの塊として纏めた真っ赤な気体を、ネーデルの顔面へと放つ。
ゼーランディアの異質な体質から連想されるその成分は、人間にとって無害とは考えられない。
気体がネーデルに接触し、気体が四散すると同時に屍龍の両眼の光が復活する。

顔面に気体をぶつけられたネーデルは、反射的に両目を閉じる。
どうやら気体自体は無味であり、そして無臭であるらしく、激しい咳込み等の様子は無かった。
赤い色すら見えなくなった後も特にネーデルの肌にも異常らしい異常は発生していない。



「何……かけたのよ……?」

無臭ではあったものの、詳細不明に近いガスを吹き掛けられたのだ。
直接身体に異常を覚えなくても、不安を覚えるのは無理は無い。

しかし、ネーデルに残されているのは激しい疲労であり、ガスによる異常よりも、そちらの方が深刻であるかもしれない。
触手に縛られたまま、ゼーランディアに強気に溢れた声をぶつける。

『ジークルスミルブライセン……』

やや反響が返って来そうな声を響かせながら、ゼーランディアは何故か面白そうに両眼の光を細めている。
ゆっくりと後退している様子もやや不思議な印象を覚えさせる。

きっと、ゼーランディアは分かっているのだ。



「あんな気味悪い物かけられて黙……!!!」

どうしても声に力を入れる事が出来なかったが、ネーデルは相手に言われた事に何か怒りを感じたからか、
返答にもその感情を思わせる色を混ぜているのが分かる。

ゼーランディアに何を言われたのか、それはどれだけ話が進んだ所で、ネーデルにしか分からない話である。



――だが、その瞬間、頭が急に重くなり……――



οο■ 見えない表情から、享楽きょうらくを放ち…… / PENDING PERPLEX…… ■οο

深青が色彩を作り続けている魔眼が、徐々に表情に苦しさを蓄積させている少女を離さない。
今までも少女の息の根を止めない程度に苦痛を与え続けていたが、ここで少女が感じた苦痛はまた別のものだろう。

赤の瓦斯ガスを思い出して欲しい。危険な色に染まった気体が安全であるはずも無いだろう。
そして、意味も無く、色を認識出来る気体を相手に譲り渡すはずも無い。
この時点で悦楽は始まっていると言えよう。

『ベッテュライスカァン……』

ネーデルの変化を自分の予測に沿ったものであると認識したのだろうか、
ゼーランディアの魔眼が触手に縛られたネーデルの頭の天辺から黒いブーツの下部までその邪悪な視線をなぞっていく。
素肌に映る汗には興味は無い。あくまでも、ネーデルの状況の変化にだけ興味を覚えているのだ。



――もう、始まったのだ……――



「うっ……ぐっ……何……よ……これ……?」

恐らくは、人間であれば誰でも一度は経験した事があるだろう。

頭痛が走り、身体中に熱と寒気が篭り、同時に身体中から力が抜けていく。
出来れば横になり、身体から力を抜いて身体への負担を最小限に抑えたい。

ネーデルは今まさに、この状況に陥れられたのだ。



◆α 内部から叩き付けられたかのような頭痛……

◇β 決して寒くは無いのに、震え上がる身体……

◆γ 楽な姿勢になりたいと、訴えてくる欲求……



『ジハードゥヴィイア……』

左手を持ち上げ、そして指を絡ませ合うように動かしながら、下に弱々しく視線を落とすネーデルの青い髪の頭部を眺める。
相手の戦意を操れるだけの力を持った瓦斯を体内に内蔵している所がまた恐ろしい。

「最低……な……プレ……ゼン……トぅ……はぁ……はぁ……」

たかが頭痛かもしれないが、その頭痛1つによって一気に全身から力が抜けていくのを自覚するネーデルである。
その瓦斯は毒ガスと呼ぶに値する程の威力を持っていたらしく、即座に重度の風邪ドレッドシックネスに匹敵する症状を提供したのだ。

酷く痛む頭の中で、誰も喜ぶはずの無い贈り物をしてきたゼーランディアに向かって、
ネーデルは病状によって顔を赤くさせながらも、必死で口を動かしたが、単語を言い切る前に呼吸が苦しくなってしまう。



『ジャドゥウィスブレァ……』

きっと毒ガスについての感想でも問い質そうとしているのかもしれない。

ゼーランディア自身は耐性があるようであるが、一分とかからない即効性は毒ならではである。
今のネーデルの状態は、とてもゼーランディアの猛攻に耐えられる姿とは言えない。

「あんたって……毒蛇どくへび……にでも……はぁ……はぁ……」

厚着を纏っても間に合わない程の寒気がネーデルを貫き、全身を塗らしていた汗も突如冷気を帯び始める。
過労に覆い重なるような苦痛を堪え、毒で獲物を最終的に死に至らしめる動物になりきったのかと問おうとしたが、
病状に逆らう事は出来なかった。



『ジュメイディスカリスパード……』

風邪のような症状になる前までは随分と強い姿を見せていたネーデルであるが、
今はゼーランディアにその過去の強さを視線の移動で探られている状態となってしまっている。

しかし、触手で支配されてしまったネーデルのどこに強さが残っているというのだろうか。

「抵抗出来ない……相手に……うぐっ……げほっ!! ぐぇほっ!!」

ゼーランディアとの距離は近い部類に入っている為、いつ手を出されてもおかしくは無いとネーデルは悟っている。
しかし、ネーデルは両腕を広げられている以上、本当に手を出された場合は身体に力を入れなければいけないだろうが、
病状によってその力さえも殆ど奪われてしまっている状態なのだ。

本当に力による支配パワーアセンプションをされた場合、どうなるかは想像したくないだろうが、激しいせきに襲われる。
思わず腹部に力が入り、喉も痛んでしまう。



『ドゥガミィ……メデュリストレペドラミーグェドゥ……』

未だに夜空の果てナイトワールドに浮かび上がっている満月の光を確認するなり、ゼーランディアは再び話し出す。
その異様な外見や能力とは対照的に、月という絢爛けんらんな衛星に嗜好を抱いているのかもしれない。

「あんたと……行くぐらい……だっ……はぁはぁ……」

美しい衛星を見ていても、ネーデルに放たれたメッセージは残酷なものだったのだろう。

弱らせた事をいい事に、ゼーランディアは更にネーデルを追い詰めたのかもしれない。
だが、風邪に近い症状に襲われ、弱ってしまったとは言え、本質的な気持ちは変わらない。

それに、体調を崩された事を囚われてしまった理由にしたくも無いはずだ。



『ザォガリスティリペイ……』

下がったネーデルの頭を無理矢理右手を使って上げさせる。

青い前髪で隠れている額を指で押し、赤い瞳を細めて今にも意識を飛ばしてしまいそうになっている少女の顔を凝視する。
毒の力を把握しているからこそ、その毒で苦しんでいる少女を眺める価値が生まれてくるのだ。
だらしなく、そして充分とは言えない程度に開いている口から必死で外気を取り入れているのが分かる。

「毒で……弱らせてまで……母さんの……」

ただ声を出すだけでも辛くなってきたネーデルは、脳内で自分の肉親の姿を思い浮かべてみる。
徐々に視界も霞み、自分自身の中でどうしてここまで意識を保っていられるのか不思議に思える程になっていた。



――浮かび上がる1人の女性……――

何故か髪の色はネーデルとは一致せず、金髪である。
長さは殆ど一致しているが……。

目元は暗くなり、確認する事が出来ないが、目の前で優しく抱き締めようとしている辺り、
恐らくはネーデル本人からの視点なのだろう。
母親の姿は、ネーデルを安堵と安らぎに導いてくれる……はずだが。



――女性の幻覚は、屍龍の現実へと移り変わり……――



『バルティピィアスメルァゾーブ……』

誰が見ても分かる程に弱り、下手をすれば衰弱死すらし兼ねないネーデルの姿を、
ゼーランディアは平然とした目付きで眺め続けている。

それとも、元々命を奪わない事を前提とした侵略であったから、
本気で死んでしまう心配をする必要が無いからそれを楽しんでいるのだろうか。

「確かに……ね……看病ぐらい……は……」

やや汚らわしさすら覚えてしまうような多量の脂汗を額に滲ませながら、
ネーデルはこれから先の身体に不安さえ感じてしまう。

本来ならば素直に愛する事の出来る者によって、ベッドの上に導かれるのだろうが、
この夜中の森にはゆっくりと身体を休められる空間は存在しない。



『ムシェティア……スペライカィ……』

まるで諦めろとでも言い放っているかのように、ネーデルの汗で濡れた青い髪の上に手を置いた。
優しさでは無く、不気味な風景を作り出しているのがゼーランディアの今の行為である。

「だけどねぇ……母さんが……優しくしてくる……はずなんて……」

きっと、自分の頭に載せているゼーランディアの右手に掴みかかり、地面に投げつけてやりたい所だろう。
触手による束縛さえ無ければ恐らくは実現させられていたかもしれないが、衰弱した身体では、
封じ込められていなかったとしても本当に出来るかどうかも分からない。

身体に力を入れられない為、上体がやや前のめりとなり、触手に両腕を引っ張られて立たされたような状態となる。
因みに、両脚もそれぞれ別の触手で縛られたままだ。



『シゴン……ミィスピラァジ……』

今のゼーランディアの放った言葉には今まで以上の重たさがあるのかもしれない。

表情は、笑っているのか怒っているのかの判断も出来ない無機質なものではある。
それでも空気が変わったと判断出来るのは、色の調子を自由に変化させる事の出来る魔眼のおかげである。



――直視すれば、目が痛くなる程に真っ赤に光らせ……――



「あんたに……連れられるぐらい……だったら……死ぬまで……」

脂汗は単なる見かけ騙しでは無く、本気でネーデルの精神も肉体も締め上げているはずだ。
極限までゼーランディアを嫌忌しているからか、異常な光を放つ相手にも負けない目つきを飛ばす。

初期の頃はまだ改まっていた二人称も、僅かに敬意の感じ取れない形になってしまっていた。
激しい寒気も、憎むべき相手の前では小雨で濡れた程度の寒さでしか無いのかもしれない。
ただ、それは根性も確実に関係しているのだと思われるが。



――ネーデルは一度大きく息を吸い込んだ……――



「逆らって……やるわよぉ!!!

病状を考えればまるで無駄な体力消費であるものの、ネーデルからしてみれば、憎む相手に罵声を放てただけ気分が良いものなのだろう。
青い服の下だけでは無く、顔中にも汗が纏わりつき、きっとその外観は心地良いものでは無い。
その濡れた姿はゼーランディアの前から解放されるのだと考えれば、この一瞬だけ喉を傷めても大丈夫である。

仲間の前では絶対に見せないその逆上した姿を見たゼーランディアは僅かな時間、背筋を仰け反らせて硬直したが、すぐに解かれる。



『ザディローミペア……ロミィプローズ……』

ネーデルに恐れるのでは無く、逆にネーデルよりも上の位置に這い上がるかのように、
荒い息遣いでたったさっきの罵声で失った体力回復をしているネーデルの頬なんかを指でなぞり始める。

ネーデルには、骨の嫌らしく、そして堅い感触と冷たいものが伝わったかもしれない。

「それに……こんな毒だって……わたし平気だから……はぁ……はぁ……勝った気で……いたら……間違い……よ……」

実はもうネーデルの視界は徐々に霞み始めているのだが、まさかネーデルは今の状況を打破する手段でも持っているのだろうか。
今のこのあまりにも追い詰められ過ぎた場所では感情の選択肢に≪笑み≫というものは無いはずではあるが、
無理矢理に実在しない選択肢を作り上げたのだ。

縛られている最中に相手を挑発するような行為は確実に自分の身に、余計に危機を与えると思われるが、
素直に負けた事を認めるくらいだったら意地を張ってでも強がる方がマシだと考えたのかもしれない。



――その代償は、非常に大きい……――



『ニルマーズピア……』

ρρ ◆◆ 肘を伸ばしたまま、両手を合わせ……

ππ ◇◇ 手首を接触させ、開花の如く、両手を開く……



■σσ■ 深紅の触手は欲求を終える…… / VACANT FEVER ■σσ■

もう少女を束縛し続けていてもしょうがない。
指令が入った以上、もう両腕両脚を固定する理由も存在しない。
そして、少女から流れる汗が気持ち悪い。

触手が以上の感情を抱いているのだろうか。
考えてもしょうがない。

こんな少女はもう用済みである。
投げつけてしまおう。

それが、出された指令だったのだ……。



υυ 触手達が結束する…… εε

ηη 全てが均等に動き、やがて、ネーデルを投げ飛ばす…… μμ

θθ 少女は山形やまなりに投げられる…… χχ



―― LOVELESS THROW!! ――

「うぅぐ!!」

今まで触手に纏わり付かれていたというのに、突然解放されると同時に宙に投げ出される急激な環境変化に、
思わず息が漏れるような声を漏らす。

勘違いはしないで欲しい。愛の篭った遠投行為では無い。その逆である。即ち、無慈悲ラブレスだ。
地面に落ちた衝撃で二次被害、最悪、そのまま死んでしまっても触手は悲しみすら覚えない。
少女が地面に落ちるのを確認する前に、触手達は一斉に地面へと潜っていってしまう。
えぐれた土はどういう訳か、何事も無かったかのように元通りに復元されていた。



▼△ 落下の時がやって来た…… / TOUCHDOWN IMPACT △▼

ぐぁぅっ!!

身体に上手く力を入れれなかった為に、背中から土とは言え、地面に落ちてしまう。
顎だけは引いていたものの、背中に走る鋭い痛みは無視出来ない威力だ。

触手の束縛から解放されると同時に、身体中を流れる激痛を提供されるとは、厳しい交換環境エクスチェンジソシエティである。

ネーデルはようやくあのぬめった気持ちの悪い触手から離れる事が出来たのだが、
地面に叩き付けられた衝撃は、今の病状と合わさり、選択出来ない感情をそのまま表に出すしか無かった。
土で覆われた大地は奇妙に冷たく、細かな欠片が付着している事にも気付くが、
それらを無事に解決させる為の唯一の手段である、立ち上がるという行為を実行出来ずにいた。



ηη 激しい頭痛が抜けず…… ――■■

頭痛と共に、常温を超えた体温オーバー・コンスタントテンペレイチャーが立ち上がらせる為の体力を貪り食らう。
正直、苦痛で顔を歪めている状態でありながらも、仰向けになっているその姿が非常に楽だった。
頭の先から足の先まで残された痛みが僅かに和らぐ感じも覚え、そして眠気も残っているのだ。
このまま自然治癒でも待つのが良いかもしれない。



◆ ξ 場所を考えて、それは不可能だろう…… / FOGGY REPOSE ξ ◆

ネーデルの両腕には白銀の爪シルバーブレイドが備わったままだ。
自分の武器を信じたいから、眠気と激痛と薄れる意識を堪え、細くなる赤い瞳の中で、上半身を起き上がらせようと努力する。
傷だらけの両脚も、曲げてそのまま立ち上がれるだけの場所へと引けばすぐに立ち上がれるはずだ。

相手もいつまで待ってくれるかは分からないのだから。











―― Pandemic century will begin soon…… ――



Dance the evil ritual……

Spit blood on the white bone battle!!

Maggots love immature heart,accordingly a girl is eaten by odd aspirators.



モダエクルシミナサイ……

リュウノマエデ、ヒメイヲアゲナサイ……

ムシタチハワカイハダヲネラウニキマッテイルデハアリマセンカ……











Let's start……

    Let's start……

        
Let's start!!!!









「ぐっ……」

背中の苦痛に押さえ付けられている余裕は無い。
ネーデルには起き上がるという1つの使命がここで下されているのだが……

もう逃げる時間は残されていなかったのだ。



――薄れる視界に映るのは……――

『チェレス……パイラ……』

淡い緑に染まった奇妙な骨で形作られた不死残虐な魔龍エイジレスナイトメア
いつの間にか起き上がろうと必死なネーデルの真横に立ち尽くし、凶暴な速度リバースキャプチュアーでネーデルに掴み掛かる。

悪魔の右腕アンティークコードは、体力劣化の少女ウェイストグリットを無理矢理低空の世界リトル・スカイブルーへといざない、無計画な打撃ノンマニュアルクラッシュをすぐさま実行させる。



▲△ 投げ落とす、それだけだ!! / FRENZY WEIGHT!! △▲

落とした場所は、ゼーランディアの左の足元であり、それに伴い身体も左へと捻れていた。
まともな受身すら出来ずに右肩付近を打ち付けた少女に情けを一切かけず、右脚に起動指令アクションインプットを伝達する。



ζζ ネーデルだって、甘えていられないのだ δδ

「こんな……程度で……」

ゼーランディアの空気が激変した事を身体全体で読み取り、それに合わせて精神力を気持ちで回復させる。
無情な鉛レイジーグラビティの付き纏った身体を起き上がらせようとするが、屍狂骨の所産ホワイトライズ鈍った神経ラスティゾートを見逃さない。

青髪の捕虜候補ブルー・プライが起き上がるよりも、人龍骨の動作リバイバーズアクションの方が早く……



γγ◆◇ 蹴雷激破を喘ぐ龍足は…… / BONE SCREAMER!!

ヴァーラメデュィライグ!!

足元に転がる無価値廃棄物質アンセーラブルマッセスと同等の人間を蹴り払う為、右脚に振り子の反動フィジクステクノロジーを与え、凄まじい爆発力クリアランスボルテージを注ぎ込む。
率直な表現であれば、蹴り飛ばすと表現するのが妥当だが、5文字の量に反し、次元が異なっているのが分かるだろう。

立ち上がろうとしていたネーデルの下半身辺りを蹴り付け、華奢な胴体ごと屍龍から距離を離させる。



ο△ ▲ 爪先で少女を突き刺すかのように…… / HEAVY PRICK…… ▲ △ο

うぁっ……!!

背後から押し飛ばされたと錯覚しても間違いが無い程に飛ばされ、ネーデルの身体が地面の上で横に転がる。
視界が激しく上下反転し、天地の判別神経グランドフィーリングが鈍ったが、身体が静止してすぐに衰弱した神経は復活する。
ぶれる視界の中で上手く確認する事は出来なかったが、仁王立ちで静観していた龍の姿があった事に間違いは無い。



―η いつまで病魔に負け続けているのだ…… η―

立ち上がらなければ、またゼーランディアに打撃を加えられてしまうだろう。
意識及び、精神力の残余が確認されている以上、汗や傷による障害は押し殺す必要がある。

遂に立ち膝の姿にまで登り上がり、自分の傍らに冷汗三斗の死風ディシーズリメンブランスが漂っている事に気付く。

直接的な寒気によって震える身体で、まだ秀美な色を持った赤い瞳を左に向ける。
近づいた相手がそのまま黙り、時間の経過を待っているとも思えず、左腕の爪に信頼をかける。



―ψ 伸びてくる骨の招待状グラッビングフォース…… ψ―



『ピードミリアァ……』

鷲掴みし、強引に直立姿勢にさせてやろうと企み、ゼーランディアは右腕を伸ばす。
速度を衰えさせていたが為に相手に見破られてしまう結果に陥ってしまう。

「誰が……戻るってんのよ!!」

白銀に光る爪の斬れ味は全く衰えておらず、立ち上がり様に爪を振るい、敵対者の指を軽々と斬り砕く。



ββ 小規模に宙を舞う2本の指だが……



被害をこうむったゼーランディアは右腕の動きを停止させるが、確実に苦痛で蹲る真似をする気は無いだろう。
元々身体全体に痛覚神経は通っていないのだから。

しかし、このまま時間の経過を待ち続ける気なのだろうか。



―≫ ゼーランディアの魔眼は本気の光を見せつけ……



エミリァド!!

左腕は損傷箇所一箇所存在せず、自分の破壊された指と同じ末路を辿らせてやろうと、真上から苛烈に左腕を振り落とす。
宇宙の世界では身体の一部を崩されようと、痛くも痒くも無いだろうが、人間は話が別だ。



ブゥン!!



「!!」

目の前が霞み始めているとは言え、周囲の状況確認を忘れないネーデルは異常の振音を聞き逃す事をしない。
病状による神経悪化を理由に素直に直撃を受ける事だけは避けたかった為に、まず相手から距離を取る事を選択する。

僅かに力を込めただけでそれが頭痛に大きく響き、着地すら綺麗に出来なくなってしまう危険性すらあったものの、
無事に相手からの痛破贈呈物ワウンドプライズを回避し、そして本来の目的だった距離延長にも成功する。



ξ だが、神経異常はしつこく付き纏い…… ξ

「うぐっ……!! はぁ……はぁ……」

思わず身体を土の上で崩落させてしまいそうになるも、両手を強く握り締め、引き千切れそうになった根性を引き止める。
更に目の前も真っ白になりそうになってしまう。奇妙に涼しいと感じるのは、病状の影響である。

身体を支える姿勢も限定されているのか、右脚を引き、両脚が斜めのラインを引いて身体を支えた姿を取り、相手と目を合わせる。
黒い鱗で生成された硬質なブーツは再び壮烈な一撃を拝見させてくれるのだろうか。
だが、脚は相当に血や傷で荒れている。痛い事に間違いは無いだろう。



――これだけは伝えなければいけない……――



「はぁ……はぁ……そんなに……母さんの……とこに……行かせたいって……訳……?」

距離を取った事を理由に、強引に休憩空間リポーズプレイスを作り出し、互いに手を出し合えない状態でネーデルは苦しくも言葉を放つ。
出来れば寄り掛かる樹を傍らに用意したかったが、そこまで歩く余裕を作る精神力は無かったらしい。

寒いはずではあるのに、身体全体は温まっており、どちらが正しい感覚なのか分からない状況だ。

『ザァティレグレイヴァ……』

屍の頭領ゼーランディアは相手を逃す事をせず、いつの間にか完全復元された右手で手招きを持続させながら一歩一歩進んでいく。
尺寸しゃくすんに近づく足並みは僅かに小音を鳴らし、回数の積み重ねは相手に恐怖を与える。



「ここまで……しないと……はぁ……はぁ……達成出来ない……なんてね……」

真っ直ぐ立っている事が出来ず、上半身を微小にではあるが、グラグラと揺らしながら荒く呼吸を続ける。
ネーデルは現在極限にまで体力を消耗させられているが、この状態にしなければ達成出来ないのかと、その力を疑い始める。

ゼーランディアの手が届く範囲に達した時、ネーデルは対処する事が出来るのだろうか。

『ペルデュレビィア……』

手招きの動作も、進んでいく足も一向に止む気配は無い。

夜中である為に、淡い緑の骨は非常に薄暗く照らされているが、これが太陽の下であればどのような色を見せるのだろうか。
少女はゼーランディアを亡霊のような姿をしていると考えた事があったのだろうか。



「多分……殺してでも……しないと……無理……かも……」

途切れさせずに、正常に喋る事の出来ないこの今の状態を嫌らしく思うが、心に隙を作れば口より先に脚の問題が発生する。
即ち、卒倒の危機がすぐ傍らに彷徨っているのだから、安定して立っている事が難しいのだ。

『リベァロシベット……』

距離が近づくごとに、ゼーランディアの魔眼の輝きが面妖になっていく。
実際、一発でも殴りつければその時点で勝敗が決まってしまいそうである。



「まぁ……そしたら……はぁ……はぁ……任務失敗に……なるか……」

どれだけ激しい頭痛や冷や汗に襲われていても、相手と対話をしている以上は黙っていられない。
だが、ゼーランディアから命に関する言明を受けた可能性は高い。
どうやら任務の失敗に繋がる事を意味するようではあるが、どうなのだろうか。

『ガルミィレジア……』

その場に停止し、ゼーランディアは左手も持ち上げ、両手を持ち上げた状態で奇妙に指を動かし始める。
両方を加算して6本にしかならない指で、地球上には存在しないはずの怪奇植物を操作するのか……



「だって……元々生け捕りだか――う゛ぁっ!!

本気で殺すみたいな事でも言われたのかどうかは不明だが……ここでの問題点はただ1つ。

――αθ 左から、殴られたのだ……

しかし、ゼーランディアは距離があるから有り得ない。
メイファは未だに爆睡中だ。
当然、自分で自分を殴るなんて、有り得ない。

簡単である。

触手の仕業だ……

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