□▽▽ DESTROY DESTINY DESIRE  ▽▽□

これぞ危機を伝える喜ばしくない3Dスリーディーである。

破壊され、これからの運命に脅え、そして救いを願望する。
人間は自分の死を極端に恐れる、そんな弱々しい哺乳類ママルなのだ。勿論例外も存在するが。

いつになったらこの街、アーカサスの中で揺らめき続ける濃淡の炎グラデーションが消え去ってくれるのだろうか。
それとも、一度この魔の背景バックエフェクトは無視してしまった方が良いのだろうか?



何故なら、今、まさに現在進行形I・N・G システムで科学技術の集合体こと、ジープがハンター三人を乗せながら、
拳銃リボルバーズを暴れさせた軍神バイオレットを狙っているからだ。

単刀直入シンプルに説明すれば、このままき殺そうとジープは考えていると言う話である。
その中に含まれる意味は、あまりにも単純。

そうである。もう既に言った通り、体当たりで殺してしまうのだ。
それ以外にどんな言い方があるのだろうか? 確かに格好をつけて別の言い方をしても格好はつくかもしれないが、
最終的な意味が同じだと言うのに、いちいち言い換える意味など存在するのだろうか?

それだけの事で時間と労力と精神力を注ぎ込む余裕は今は存在しない。
手っ取り早く言えば、これから先をかつもくして見ろ、ただそれだけだろう。






                          ――≪ 駆動車メカニックは踊る ≫――
                         》 REUNION ・ BE PURSUITED 《

                       □血を食いたい……□ □会えて嬉しいぜ……
                        ■J'aime sang.■  ■Nise vous rencontrer.■






「まぁためんどくせぇの出てきたってかぁ?」

灰色の皮膚を保持する亜人、バイオレットはどんどん自分へと迫ってくるジープを緑色を帯びた眼で凝視し、
先程皆殺しにしたハンター達の返り血の染み込んだ銀色のズボンに覆われた両脚に力を入れ始める。



――ジープは高速でバイオレットを狙ってくるものの……――

距離をほぼ限界まで縮めると同時に軌道を逸らし、まるでバイオレットに掠らせるかのように曲がりだす。
それでも狙われた方は本当に体当たりでもけしかけられるのかと考え、
後方へとその身体を軽やかに飛ばす。脚力とは、その為に存在するのだ、この場に於いては。



―キキィッ!!

ジープはタイヤと地面が擦れ合う音を響かせながら停車する。
急ブレーキを実行させた為か、ジープの向きが多少斜めを向いているが、乗車している者達に被害は無い。





豪快な停止を見せてくれるジープをぼんやりと見つめていたデストラクトだが、
何かが脳裏に浮かんだかのように、

「あいつらって……ってかあんにゃろ、ニャー公じゃねぇか! エルシオめぇお前こんなとこで狗尾草ねこじゃらしでも探しに来たってかぁ!?」

自分の始末の対象であった猫人エルシオが目の前に現れた事によって、
デストラクトは戦意を剥き出しにするかのように肩に乗せていた黄金の杖ヴァナプラスタを乱暴に地面に降ろした。



――言われたエルシオは……――



「んな訳ねぇだろ……」

デストラクトに対する反発を呟きながら、ベージュ色の身体をジープの操縦部から飛び降りさせる。

それに続いて荷台後部に乗車していた三人のハンターも停車したジープから降りる。
外から見るとそれは強力な助っ人が来てくれたとも感じ取る事が出来るかもしれない。



△▼ その内の双角竜装備の男が敵対者コンペティショナーズに ▼△

「あんにゃろうまだいやがったのか! ってか隣の奴誰だよ!?」

この男はフローリックであり、背中の斬破刀を抜き取りながらデストラクトの隣にいる男を睨みつける。

彼にとって、デストラクトは一度バブーン荒野で顔を合わせ、そして獄炎フレイミーズの暴れまわる戦場フィールド
互いの武器ソルジャーを交えさせた神秘の亜人ハヌマーンである。

しかし、バイオレットは初めての存在だ。訊ねるのは人の本能として当然の様子として間違いは無いだろう。



「多分フレンドか、ミニオンかのどっちかだと思うぜ?」

雪獅子の武具を纏った黒い肌の男、ジェイソンは手下であるか、それとも部下であるか、その二つを出した。
ジェイソンにとっても、灰色の皮膚の男バイオレットは初めて見る存在であるし、聞く存在でもある。

果たして、どちらが正しい答えなのか。





――しかし、バイオレットの反応は……――



「初めて見るづらだなぁお前ら三人。それと、おれはこいつとは仲間だぜ? 子分とかほざいたらマジ血塗れんすっぞ?」

ジープから降りてきた三人のハンターは、当然のようにバイオレットにとっては初対面であるが、
ジェイソンの言った、子分であるかと言うその可能性を取り消す為に、
特に懐から武器を出す様子も見せずに殺意の入った脅し文句を見せ付ける。

■▼ バイオレットが戦ったのはあくまでの大衆酒場のハンター達であり……

決してフローリックとジェイソンでは無いのだ……



「所でバイオレットよぉ、どうするや? 折角来たんだしよぉ、ちょっくら暴れまわってみっか? それに、あの連中にはちょい借りが残ってっしよ」

デストラクトは一度闘った敵対者が目の前に再び現れてくれたのだから、戦闘意欲を爆発させたいが為に
金色の杖ヴァナプラスタの先端を突き出すように右手で構えながらバイオレットを誘う。

「ああ、そこなんだけどよぉ、おれももうやる事終わらせた訳だから、もうそろ帰んねぇとミリアムもなんか言ってくんだろうし、ってかフランソワーズの奴ももうそろここ来てだ、おれん事送ってくれっはずなんだけどなあ」

バイオレットも多分は激しい戦いを再び走らせたかったのかもしれない。
だが、自分勝手な行動はそろそろ不味いだろうと考え、それに迎えも来るのだから準備もしなければいけないと、
武器を出すのを躊躇ためらった。



「バイオレットにも会えるとはなあ、俺もちょっとは運に見放されたか、逆に恵まれたか、どっちかって訳だなぁ」

この場にいる者達の中で、圧倒的に身長の低いエルシオはベージュの体毛を周囲の炎で照らされながら、
恐らくは追いかけていたであろう相手とは別の相手も見つけられた事に喜びを多少見せるかのような
緩い笑みなんかをこぼす。

「おい猫、恵まれたって言い方おかしくねぇか? あんなのがじゃんじゃん出てきたら出てきたらこっちも持たねぇぞ? まあでもこんままほったらかしたらまたどこで何やっか分かんねぇかんなぁ」

フローリックは構えた斬破刀に更に力を入れながら、エルシオに浮かんだその場にやや相応しくない笑みに対して否定を飛ばし、
そして戦闘体勢へと入る。

「バトルかぁ? こっちはまだスタミナ残ってっから、やんならいつでもOKだぜ!」

ジェイソンも折角出会った敵対者デミヒューマンズを放置しようとは思わなかったのだろう。
背中から甲虫製の双剣インセクトオーダーを取り出しながら、フローリックを横目で見る。

まじないを思わせる雪獅子のヘルムを被っているせいで確かな表情は窺い知れないが、見たと言う事実だけはその通りである。



「それじゃあ一発行くか?」

どこで知り合ったのか分からない、黒色鎧壁竜の武具で全身を固めた大柄の男も、
フローリックの隣に立ちながら、愛用のヘビィボウガンを両腕で抱えるように持ち始める。



―□■ 黒色鎧壁竜の頭殻銃ブラックアーツロア ■□―

まるで黒色鎧壁竜そのものが取り付いたかのように、頭殻を銃口へと取り付け、
ボディ全体を黒い岩のような堅殻で武装させている。

本来の役目である発射なんかをしなくても、
ただハンマーや大剣のように振り回してもそれだけでもう武器になってしまいそうな質感である。





―――― だが……



「っておい待て! 勝手にんな! バイオレットはめとけ!」

一体何があったのだろうか、と思いたくなるような言動を取り始めたのはテンブラーだった。
きっと事情を知ってての事なのか、大声を飛ばしながら、右腕を強く伸ばす。



「あぁ? なんだあいつ?」

フローリックにとって、その紫のスーツを纏った男は初めて目に入れた存在である。
どうしてそんなハンターとは無縁そうな外見をした男に止められなければいけないのかと考えている間に、
別の男が既に行動に入っていたのだ。



ιι グラビモスロアが吠える……

黒色鎧壁竜の口内ヘイトフルマウスから裁きの銃弾ファイアアタック速度ベロシティに乗って発射される。
巨大な本体ファットシャークに違わず、その威力は被害者に涙すら流させない事を保障させる激甚の一言バイオレンスクライングに尽きる。

ドウゥウウン!!



黒色鎧壁竜の武具を纏った男が発射と同時にその鉱山作業用ヘルメットを思わせるキャップの裏で
誇ったような表情を見せるのと、再びテンブラーの声が飛ぶのは同時だった。

「馬鹿! やめろ!」

それでも飛ばされた物・・・・・・はもう止まらない。ぶつかるか、外れるかするまで、止まらない。
気になるのは、狙われてしまった側・・・・・・・・・である。





(テンブラー、お前心配性だなぁ……)

バイオレットはしっかりと全身に力を込め、一応は飛んでくる存在から逃げる準備ぐらいはしておく。
そこまで決して鈍くは無いのだから、回避行動を取る事ぐらい容易である。



――そう、そのまま横へと跳び……――



だが、弾がバイオレットへぶつかる、いや、その場所へ到達自体する前に、
デストラクトが進んで前に踏み込み、杖の先端を力強く片手だけで突きつけたのである。

無言ではあるものの、青い亜人デストラクトの動作は非常に的確なものがあった。



―> 突き出した杖を……

―> きらめかせ……

―> 先端から炎を噴き出させる!!



ブォオッ!!

短い放射音をとどろかせ、広がる炎が高速で飛んでくる弾丸を一気に包み込む。
放射距離は対して広くなく、そして長くは無いものの、的確にその弾丸を包み込んだのだ。



□■ 包まれた弾丸はそのまま消滅デリートされる…… ■□

融解でもされてしまったのだろうか、射程距離の短いその超高温と思われるオレンジに染まった炎は
飛ばされた弾丸が対象物に接触する前に、存在そのものを消し飛ばしてしまった。

それはまるで、猛火の楯ヴァーユ・インカーネイションに等しい獅子奮迅ししふんじん転換スマイルである。



――黒色鎧壁竜のガンナーは表情を凍らせ……――

「なっ……、おれの一撃を……なんて事だ……」

自信を持っていたのだろうか、銃撃を熱によって防がれてしまった事に対して両腕でグラビモスロアを抱えたまま、
その事実をただただ、受け取るしか無かった。





「おいおいそんな危ねぇもん飛ばしちゃ駄目だろぉ? ハンターが飛竜以外に銃口さきっちょ向けていいのか? まあんな程度じゃあ俺らが風穴開いたりするってこたぁまずねぇけどなあ」

目の前で炭と化した銃弾が風に乗って上へと舞い上がるその様子を目の前にしながら、
デストラクトは火炎を放射させた杖の先端を地面へと落としながら、ハンター業についての議論と、
自分達の絶対的な強さを言葉で見せ始める。



――そして、ある意味、護ってもらったバイオレットは……――



「テンブラー。心配すんなよ? こんなとこでおれがくたばったりするなんてありえねんだからよ? それとデストラクト、お前には一応いちおこれ言っとくわ」

自分が狙われている事なんてお構いなしに、バイオレットは銀色のズボンのポケットに両手を入れた状態で、
酒場の前に立っているテンブラーを横目で眺める。

その後すぐに、目の前に立っているデストラクトの青い皮膚の背中なんかを見ながら、まだ知られていない
大切な事項を説明しようとする。



「そう言やぁお前随分さっきから殺される事に対して堂々としてっけど、お前どうしたんだよ? あんま面白過ぎて頭ん螺子ネジ外れたかぁ?」

きっとデストラクトにとっては聞く気は充分にある事だろう。

だが、流石に戦いをほぼ生業なりわいとしている身でありながらも、バイオレットのその自分自身が殺害される事に対する考えの薄さには
非常に妙な違和感を持っていたに違いない。
聞けるなら、是非聞いてみたいものである。



「心配すんな。んなもん外れてたらとっくに死んでっから。んでだ、おれ今なあ、こん街の地下に作った原子炉と、おれの生命活動直結させてっから、おれが死んじまったら、ここぶっ飛ぶかんな? マジだぜ?」

一度バイオレットはデストラクトの冗談交じりのメッセージを軽く払いのけ、いつの間にか造設させていたその原子炉との関係性を
やや説明不足ながらも、地面に右の人差し指を落とすように差しながら済ませる。



――デストラクトは一度黄金の杖ヴァナプラスタを肩に乗せ……――



「あぁ? ぶっ飛ぶってお前、なんだよそれ。お前が殺されちまったら街も全部爆発する的なそんな事か?」

トレードマークとも言える漆黒のサングラスの裏で、何か自分にも悪い事が起きてしまうのでは無いのかと、
デストラクトは明るいとは言えないような光景を思い浮かべながら意味を確認する。



――バイオレットの両手が持ち上がり……――



「そうだってんだろ? おれと原子炉は今一心同体でなあ、こん街火達磨んすっ為にわっざわざ俺の心臓の鼓動をなあ、起爆装置代わりんしたんだぜぇ? 確実破壊すんならそんぐれぇ大胆にやんねぇとなぁ?」

バイオレットのその思想は、自分の目的を最後まで、完璧にこなしたいと言う一心なのか、
それとも趣味であり、娯楽である殺戮を極限にまでやりつくしたいと言う単なる欲求心なのか、
指なんかを鳴らしながら堂々と応えてみせる。



「ってお前それじゃあお前死んだら俺も黒コゲって事じゃねぇかこの野郎! ふざけんじゃねぇぞお前。死ぬんならお前一人で死ねって話じゃねぇかよ!?」

デストラクトはこの事実により、下手をすれば自分が問題を起こさなくても巻き添えで死んでしまうと理解し、
そして巻き添えにしようと計画を立てていたバイオレットに向かって反発し始める。
多少表情が笑っているように見えるのは気のせいだろうか。



「だから、お前はここ来たんだろ? 暇潰しと、おれの様子眺めに。ってかフランソワーズの奴全っ然来ねぇなぁ。何やってんだあんにゃろ。まさか死んじまったか?」

バイオレットはまるで自分を中心としたかのような解釈でデストラクトがここにやってきた経緯を確認し、
そしてその間に一応は有る程度長い時間が経過したと言うのに、目的の人物(?)がやって来ない事にようやく気付き出す。



「死んだってお前、まさか誰かと遊ばせたりとかしてねぇだろうなぁ? こんだけ街メッチャクチャしてんだからハンターどももかんなり血の気立ってっから、いくらあんな毒煙鳥でも油断してっと殺されっぞ?」

何故かデストラクトは不安に駆られるかのような状態へとなり、いや、不安と言うよりは心配と表現した方が良いかもしれない。
いくら組織の力の注がれた毒煙鳥とは言え、最近のハンターは油断のならない存在であると今頃のように忠告を飛ばす。

「フランソワーズはそこまでザコじゃねぇんだぜ? 徹底的に毒殺する凶暴な鳥、っつうやつだぜ?」

バイオレットはデストラクトのそのマイナスなイメージの強い意見に異議を出し、
その鳥竜は毒を扱う危険で屈強な存在であると、誇らしげに語る。



――それより……――

あのフローリック達と毒に満ちた激戦アシッドパラダイスを繰り広げたあの毒怪鳥毒煙鳥には、フランソワーズと言う固有名詞があったらしい。
一度目の前から撤退したのだが、結構な深手を負った身である。果たして……



「おいおいお前ら、なんか仲間割れみてぇな事してっみてぇだけど、そいつならオレらががっつり焼き入れてやったからよぉ? 多分あん時ビビって逃げ出したんだろ」

毒煙鳥についてピンと来たのか、フローリックはその低い張りの聞いた声を飛ばし、
恐らくはその毒煙鳥はもうこの場には来てくれる事は無いだろうと、背中に斬破刀を戻しながら徐々に両腕の力を抜いた。

「あぁ? そっかそっかぁ、フランソワーズあいつと遊んでたってお前らだったのかあ。楽しかったかぁ? おれんとこの精鋭毒煙鳥は。こっちゃあなあ、結構色んな設備とか揃ってっから、野生捕まえてくりゃあ好きなだけ強化出来るってもんよ」

バイオレットにとっては毒煙鳥と戦っていた者達が案外すぐ近くにいた事が多少の驚きだったのだろう。

組織を自慢するかのように、黄土色の天に向かって生えた髪の後頭部に両手を回しながら笑みなんかを浮かべる。



「ボウストなトークなんてどうでもいいだろ? それに、毒煙鳥の奴もカムバックして来ねぇ事見ると、もうクラッシュしちまったんじゃねぇかよ?」

ジェイソンは組織の自慢をするバイオレットを言葉で打ち砕こうと、その相当な実力を蓄えたはずであろう毒煙鳥が
戻ってこない以上は、所詮は組織の強さも大したものが無いのだろうと腕を組み始める。



「だったら何だ? あいつん事始末したぐれぇでこのおれに勝った気でいんのかぁ? フランソワーズが弱いイコール、おれもすぐ始末出来てまうとか思ってねぇだろうなぁ? おれが本気出しゃあお前ら三びきも即行地獄逝きだぜ?」

しかし、バイオレットは決して弱みを見せる事は無かった。

あくまでも弱いのは毒煙鳥であり、バイオレット本人は違うとわざと殺意を抑えているかのように
指なんかを鳴らし、そして右手を軽く持ち上げながら親指を地面へ向かって立てる。



「ってかやっぱ真面目に死んじまったんじゃねぇのか、そのフランソワーズとか言う鳥。それにだ、俺もなあちょっと仕事あってだ、旦那・・からちょっとした土地行って地質調べて来いって言われてんだよ。帰んならさっさとこんなとこ離れね?」

疑問系ばかりをぶつけ合っていたこの場の流れを止めてしまおうと、デストラクトはバイオレットの肩をやや強く叩きながら
自分も別の仕事が他にもあると告げ、そして空いている左手の親指で夜空を差した。



「お前も用事抱えてんのにこんなとこわっざわざ来た訳だぁ。おれん事考えてくれたんか、それとも単純に自慢しに来たか分かんねぇ――」
「ああお前そう言う事ほざく訳だぁ? 連れてってやんねぇぞ? 俺がここ離れりゃあ別にこんなとこ爆破されたって関係ねぇんだしよ」

素直では無いバイオレットの態度に、デストラクトは取り残してそのまま見殺しにするぞと脅しをかけ、
本当にアーカサスの街がバイオレットの死と共に爆発するとしても距離の関係を考えれば
自分の命には危機が走る事は無いだろうと考え、そのまま飛び立とうと考えたのか、杖の柄の部分を地面へと叩き付ける。



――黄金の杖ヴァナプラスタの先端が推進器プロペラ状へと変化する!――



「ジョークだっての。こっちも目的のぶつ奪えたんだし、お前まで来てくれたから文句無しってとこなんだよ」

徐々に杖と共に浮上を始めるデストラクトの空いている左腕を、右手で掴みながらバイオレットは
回りくどい感謝を飛ばす。

推進器プロペラの回転音が周囲に小さく、それでも耳障りに響き渡る。

「『文句無し』じゃねぇだろ? 感謝有り有り、だろ?」

デストラクトはバイオレットを持ち上げると言う立場上、どこか偉そうな雰囲気を漂わせながら
右手で杖の制御を行い、更にその青い皮膚の身体を上昇させていく。

右腕だけで自分自身とバイオレットを持ち上げているものの、苦しい表情はまるで無く、
右腕から胴体へと続く浮かび上がった筋肉が今まで蓄えられてきた戦績を自慢しているようにも見えてしまう。



「待てお前ら! こんだけ暴れといて逃げっ気かぁ!」

エルシオは四本の足で皆の前に出て、そして上を見上げながら逃げる二人に向かって声を張り上げる。
アイルー特有の愛らしい赤く大きな瞳とは非常に対照的に、言葉遣いは相当荒い。



――呼び止められても、実際に止まるはずも無く……――



「俺は別に暴れてねぇだろニャー公よぉ? それにお前のそんな格好だったら俺が本気出したら即行丸焼けだぜ? 逆に感謝欲しいもんだぜ」

デストラクトは勝手に同罪扱いしてくるエルシオに向かって馬鹿にするかのように態度で反発し、
そして本当に戦えばエルシオのような小柄な体躯ならば一瞬で始末出来る事を誇らしげに飛ばす。

そう言っている間にも、どんどんデストラクトの身体は夜空に向かって持ち上がっていく。



――バイオレットは別の対象に向かって……――



「それよりテンブラー、さっさとあれ止めめぇと一巻の終わりだぜ? 早くネーデル見つけだせよ?」

ぶら下がったバイオレットはテンブラーにあの時のアーカサスの運命を分ける事態を思い出させ、
宙吊りのようにぶら下がった左手でアーカサスの街全体を指で差し回しながら口の端を吊り上げる。



「……」

酒場の入り口に立っていたテンブラーは特に何も喋らず、ただ夜空へと持ち上がっていく二人の姿を
ただ黙ってみているしか無かった。

サングラスの裏で一体どんな視線を飛ばしているのだろうか。



「そんじゃあ、あーばよっ!!」

その最後のバイオレットのより一層力を込めた別れの挨拶と同時に、
黄金の杖の浮上力は更に強まり、





■■ 夜空の彼方へと消えていく……/BLACK OUT…… ■■












「あいつら……好き放題しやがって……」

エルシオはすぐ下にある地面にその赤い瞳を落としながら、逃がしてしまった敵組織の幹部を思い浮かべ、
何も出来なかった自分を恨むかのように、小さな二本の前足を握り締める。

「エルシオ、あんま落ち込む事はねぇと思うぞ。今回はあいつのやり方がせこ過ぎたし、無駄に犠牲も出さねぇで済んだんだ。でも俺はちょいこれからしご――」
「おいお前」

落ち込んでいるように見えるエルシオに近づいたのは、テンブラーだった。

紫色に染まったスーツの上着を風で軽く靡かせながらエルシオへと近づき、
そしてエルシオを見下ろすように、自分達に犠牲が出なかった事を素直に喜んだ。

だが、背後から別の男の声が走る。



そうである。双角竜の武具に身を包んだ物々しい太刀使いだ。



「ん? なんだぁ? こいつの友達か? 早いもんだぜ」

テンブラーは近寄ってきた双角竜装備の男には警戒する必要性は無いと思っているのか、
平然と振り向きながらエルシオを指差して訊ねてみる。

指を差されているのは、勿論足元にいるエルシオである。



「成り行きで会ったんだけどな、その猫とはな。まあ今は分かんねぇ事ばっかだけど、まだアーカサスここが落ち着いたなんて言えねぇだろうから、一回ここ手ぇ組まねぇか? 唐突で悪りぃたあ思ってっけど、お前もそんな格好しながら一応は刃向かってたんだろ? 仲間は多い方が何かといいから、どうだ?」

その装備をした男はフローリックであるが、やはりまだアーカサスの街は悲鳴と火炎と夜の闇に襲われているが為に、
同行に迷っている暇なんかは存在しないと的確に判断したのか、僅かながら強引にテンブラーを自分達の中へと招こうとする。



「唐突っつうよりはもう完全強引なんじゃね?」

テンブラーは相手の意見を飲む気があるのか分からないような態度で、フローリックの言い方について
いちいち煽るように緊張感の無い対応を見せ付ける。

「強引だったらなんだってんだ? 今アーカサスやべぇ状況だって分かってんよなぁ? こっちは一人でも手ぇ欲しんだよ。お前戦ってたんだろ?」

テンブラーのだらけたようなテンションにも動じず、フローリックは外見に違わない脅迫的な態度で
ふざけた様子も見えるテンブラーを双角竜の角の目立つヘルムの裏にある橙色の目で睨む。



「うわぁこっわぁ……。相手の意見も聞かねぇで引き込もうって魂胆かよ……。なんか暴力団の世界でも通用しそうな奴だなお前。ってかエルシオん事猫だとかお前……」

テンブラーは無理矢理同行させてこようとしてくるフローリックに対してわざとらしい脅えを見せる為に少し後退り、
質問の一つであった、テンブラーに戦闘能力があるかどうかと言う内容には答えず、エルシオに対する酷い呼ばれ名に対して
僅かに笑い始める。



――だが、フローリックは……――



「お前ふざけてんのか!? 今そんな場合じゃねって分かってんだよなぁ? こっち真面目なんだって」

肯定か否定かすらも出してこないテンブラーに腹を立てたのか、そして現在の重苦しい空気の中での態度に腹を立てたのか、
フローリックはその低い声をやや荒げ、態度を引き締めていないテンブラーに迫ろうとする。

「ああいやいややふざけてなんてねぇっつの。そんな怖ぇ顔すんなっつの。まあ顔なんて見えねぇけどよぉ」

怒らせてしまっては不味いと悟ったテンブラーは子供のように両手を目の前で振りながら
フローリックのヘルムの下で浮かばれているであろう恐ろしい剣幕をなだめようとする。



――そして再び口を開き……――



「それと、俺だってちゃんと戦えっぜ? ホラよ!」

テンブラーは今までふざけたせいで低下してしまったであろう外見的な戦闘力の信頼性を回復させる為に
懐にしまっているとある愛用の得物を右手で取り出す。



――そして、突きつける!――



「うわ危ねぇおい!」

フローリックは突然顔面に鈍い黒を見せながら光る拳銃の銃口マズルを突きつけられ、
反射的に左手で顔面を覆いながら後方へと下がる。

「俺は、今は、ハンターじゃねぇけど、ハンターじゃねぇからって指咥えてちんたらしてたかっつうとそうでもねぇんだぜ? そう言えば途中なんか四本脚の意味分かんねえ怪物みてぇなのいただろ? それも銃殺してやったし、あのバイオレットって言う奴とも戦ってた訳だぜ? まあ逃げられちまったけどよぉ」

テンブラーはスーツ姿なら直接口で言わなければハンターとして信じてもらえないと言う事を予測していたのだろう。
拳銃をしまわないままで、周辺を左手の指で差し回しながら自分もここに来るまでの間、
様々な相手と戦闘を繰り広げていた事を伝える。



「ってかお前真面目にハンターかぁ? そんなヘラヘラしてたらすぐ死ぬぞ、正直言って。まあでもそんな物騒なもん持ち歩いてるってんならあんま信用しねぇでもねぇけどよぉ」

一応テンブラーは実質的な年齢は青年を過ぎているものの、その緩みきったような対応が疑われているらしい。
フローリックの目はテンブラーをハンターとしては認めてくれず、それでも一応拳銃の所持と言う部分だけで
何とか戦闘力を買ってもらえていると言った所である。





――そこにエルシオが現れ……――

「フローリック。こいつ、テンブラーってんだけど、一応大剣使いのハンターだ。多少気持ちの緩んでるとこはあるが、実力は確かなもんがある。ハンターとしての腕前も、その拳銃の腕前も充分だから、そいつの言ってる事は嘘じゃねぇぞ」

エルシオはテンブラーを知っているのだろう。
どんなハンターであり、そしてその実力が決して脆いものでは無く、寧ろ人よりも上であると
どこかフォローのようにフローリックに伝える。



「出来れば実際のハンターらしいとこ見せてもらいたかったが、とりあえずお前もハンターって訳だな」

エルシオによって納得したのか、フローリックは腕を組みながらそのテンブラーの紫のスーツ姿を上から下へと眺める。

「だから言ってんだろ? 人ん事外見だけで判断したら差別扱いんなっぜぇ? お前みてぇな奴がいるから人種差別だのそう言う偏見的な社会生まれたりすんだぜ? 俺そう言う差別のお目目めめ大っ嫌れぇ!」

信用を手に入れたと確信したテンブラーは最初のフローリックの態度をしつこく責めるかのように
右人差し指を突きつけ、そして差別の見方を持ったこの世界に対して宣告するかのように、
フローリックに背中を向けながら夜空を見上げる。



「別に差別なんかしてねぇだろ。ってかお前その変な喋り方何とかなんねぇのか。ガキだろそん喋り方どう考えたってよぉ」

やや勝手な独断でフローリックの今までの言動に差別的要素が含まれていると決め付け、そして尚且つその言動が
非常に大人気おとなげ無いものとして再びその橙色の目を細め始める。

「いやいやお前『ガキ』って言い方ねぇだろ? それこそもろ差別用語だろうよぉ。お前みたいな奴がそうやって差別用語生み出――」
「もうやめたらどうだよお前。お前今真面目に変人扱い喰らってっぞ?」

もう既にフローリックは怒ると言う感情を通り越して呆れてしまったのだろう。
相手は確信犯なのかどうかは分からないものの、ここは直接指摘してやるべきだろうと、
面倒そうに腰に左手を当てて首を倒しながら口を動かす。



「まあいいだろう。結構ユニークなキャラインしてんじゃねぇか。リジットな精神も大事だが、こう言うソフトなパーソンだってハンターには必要だぜ? ファイト出来るってんならお前のパワー貸してくれや?」

後ろでフローリックとテンブラーのやり取りを見ていたジェイソンは歩み寄りながら、
ハンターの精神は決して堅くなくても良いのでは無いかと、テンブラーを興味有り気に眺める。
雪獅子の武具を纏ったこのジェイソンもまた、緩そうな精神を持っていそうなのは気のせいでは無いかもしれない。

「ん? その異国っぽい喋り方してる黒い奴ってお前の仲間かぁ? あ、そうだ、仲間ん事で思い出したぜぇ。そう言えば俺にも一時的に仲間が出来てだぁ、確かそこにアビスもいたんだよなぁ。まあちょい俺は酒場に用あったから、アビスには他の連中の事任せちまったけど、俺ももうそろ仲間集め直さんと駄目かねぇ」

テンブラーはジェイソンのその露出した上半身の皮膚の色について軽いコメントを飛ばした後、
仲間の事をふと思い出し、あの少年に全てを任せっきりにした事を頭の中で再生し直す。
やはりテンブラーとしても別行動を取ったあのメンバーの事が気になるのだろう。



――だが、フローリックはとある部分に引っかかり……――



「アビスだぁ? お前アビスん事知ってんのか?」

フローリックは確実にアビスを一人前としては認めていない事だろうが、それでも知り合いと言う事実には代わりは無く、
テンブラーにその面識の事実を問い質す。

「いや、知ってるっつうか、あれだぜ。一回俺あいつと一緒にだ、深緑竜のピンク色した奴三頭とバトったんだよ。まああのアビスもやる時ゃあやるみてぇだけど、でもあん時の一番の目玉めんたまは俺の爆撃プレイじゃねぇか? あ、そっか、お前見た事ねんだったもんな。バハンナでの激闘お前にも見せてやりたかったぜ〜」

ハンターらしかぬだらけた態度を見せていたテンブラーでも、記憶力には欠陥的箇所は存在しないようだ。
相当昔の話である、バハンナの村での出会いをまるで自慢話でもするかのように楽しそうに説明する。

バハンナの村の最期はやや寂しいものがあったが、そこの村人達も今は上手くやっているだろうし、
それよりもテンブラーにとってはアビスの今の状態が気になる所だ。



「アビスの奴こんな妙な奴とも会ってたってんのか……。まあ腕は立つようだからまあいいっちゃあいいかもしんねぇけど」

外見上はフローリックとほぼ同じに近い年齢だと言うのに、言動は何だか腕白な少年をそのまま大人の姿にしたようなものであり、
それでも実際の実力はあの陸の女王深緑竜の亜種を沈める程だと言うのだから、その実力の面だけはしぶしぶと認める。



「『妙』って……お前なんか俺を見る目ちょい冷えてんじゃね? まあアビスと会えば俺の勇姿しっかり分かっとおも……ってあれだな。噂すりゃあ直接本人がやって来るって言う……」



――テンブラーは背後の気配を受け取り、それに従って振り向いた……――

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