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とある狩猟クエストに赴いてから、ほぼそれがまるで物語ストーリーの中での一つの区切りを思わせる分離となった。

少年は村から街へと移り、そこで新たな仲間と共に記念すべき第一回目の狩猟場ダイス・ランドへと赴いた。
そこで捕らわれの身となってしまった別の戦士ハンターの救助を進める中で、天空の王者リオレウス邂逅かいこうし、
仲間と共に見事に討伐する事に成功する。とは言っても少年が最前線で活躍していたとは言えないのだが……。

そこから先は書けば単なる粗筋アウトラインと化してしまう。かと言ってここではそれを要求しているとは思えないのだから、
ここは独断によって、省略と言う処置を取らせて頂くとしようか。



その街とは、無論、アーカサスを指しているのだが、二度目の狩猟にその前述の少年が参加する事は出来なかった。
友人の少女が全治一週間の重傷を負ってしまった為に、病院に残る道を選択したのである。
最も、ハンターズギルドでは四人以上での狩猟ハンティングは禁止されている為、それが理由として当てはまると言えば当てはまるのだが。

因みに、彼女・・では無く、あくまでも友人・・である。そこを勘違いされてしまうと、少年は激怒……
とまではいかないものの、赤面してしまう為、そこの理解はお願いしたい所である。

出来れば少年と少女を除く四人がそのまま普通に狩猟を終え、そしてそのまま残された二人と再会出来れば
それが最も理想的な構成として納得出来ただろう。

だが、それを外部の組織が認めてはくれなかった。

出会う前に少年少女、そして四人は別々の方面へと行動し、この混乱の街を生き延びているのだが……。



少年はなんと、その狩猟に赴いていた者達と再会し……

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         ――/Warum traf er sich?/ 会えたのは嬉しい話であるが…… /Warum traf er sich?/――

                    ◇◆さて、これから少年はどうするのだろうか?◆◇

                   I love jihad... ■ I met black parade... ■ I going to head to prosper field...











「テンブラー! ってあれ? そこにいるのって……フローリックと、ジェイソンか?」

死体に塗れた酒場の付近の外で現れたのは、アビスだった。

見るからにハンターを思わせない服装をしており、青いジャケットを羽織った少年は
一度紫色のスーツを纏った男にその茶色い目を向けるも、視界の端に二人のハンターも一緒に移り、
すぐにその声をかけるべき対象が変わってしまう。



「ああ、確かにそこにいんのはその今言った名前の奴らだぜ?」

スーツ姿のテンブラーは街道を歩き、アビスへだらだらと近寄りながら、
二人のハンターに右の人差し指を向ける。



「ってアビスかぁ、仲間なんか連れてるみてぇだが、お前ミレイどうしたんだよ? あいついただろ? ってかあいつがいねぇとお前もここいねぇはずだけどなあ」

双角竜の装備を纏っているフローリックはアビスの傍らにミレイの姿が無い事にすぐに気付き、
それについて訊ね始める。

実質、アビスはミレイに助けられてばかりであり、そしてそれは他者に知られれば非常に恥ずかしい内容だ。



「えっと、ちょいそれは……訳ありで……」

アビスは一応は返答しようとするが、その離れ離れになってしまった経緯を上手く思い出せなかった為か、
それ以上は上手く口が回ってくれなかった。

――建物内部に爆風が広がり、そこから分離されたと言えばそれが正しいのだが……――



「ミレイの事だが、あいつは今わたし達とは別の場所へと逃げてる所だ。心配は無いだろう。彼もわたしが引率してたから、大丈夫だ」

戸惑うアビスの代わりに、と言った所だろう。
手足や腹部の周囲に包帯を巻きつけた一角獣装備のフューリシアは男のように感じられる喋り方で
ミレイが今どうしているのか、そしてアビスは道中で危険に晒されていなかったのかを手短に話す。



「ん? よく見たらお前ニューフェイスじゃねぇかぁ? アビスの奴もしばらくタイム置いてる間にフレンドシップ作り上げたってか?」

雪獅子の武具を纏ったジェイソンは初めて見るであろうフューリシアの姿に、
アビスが見ないうちに友人でも築き上げたのかと関心し始める。



「そうだったか、自己紹介が遅れて済まなかった。わたしはフューリシア、見た通り、まだまだ未熟者のハンターだ」

フューリシアは忘れていた自分の紹介をここでさっと行い、そして包帯で塗れた自分の身体を虚しそうに
指で差しながら決してベテランの世界を泳いでいるのでは無いと述べた。



――そこにテンブラーが近寄り……――



「ああそっかぁあんたもいたんだよなぁ。それにその傷狩猟のヘマでつけたもんじゃ――」
「おお! よく見ればこんな所にクールで華美な女性がいるではないかぁ!!」

テンブラーはフューリシアとは面識があり、傷の原因はもっと別のものだと説明しようとしたのだが、
違う男・・・によって説明が途中で終わる破目になってしまう。



――黒色岩壁竜の武具を纏ったあの……――



その非常に分厚く、そして黒く染まった防具を装着している大男は目の部分に装着された赤いレンズの奥できっと
生身の目を輝かせながら、傷だらけになってしまっているフューリシアにどんどん接近していく。



(こいつも女好きかぁ?)

テンブラーが内心でその大男の本性を探り出している間に、直接人間の耳で聞き取れる声が響いた。



「ってギルモア、お前いい加減しろよ。誰もお前みてぇな奴好きになんねぇから」

フローリックは身長に劣りながらも、ほぼ目下同然であるかのように右手で乱暴にギルモアの左肩を引っ張り、
初めて顔を合わせたフューリシアから距離を取ろうとする。

ギルモアの装備の左肩にはまるで巨大な黒い岩を嵌め込んだかのように非常に硬質で大きな印象を受け取れるが、
逆にその大きさが引っ張る為に右手を引っ掛けるのに丁度良かった事だろう。



「ってなんでそんな事を!? 初対面でいきなりそれは有り得んだろ!?」

ギルモアは自分の行動に反省する素振りを見せず、威圧的な深紅の眼鏡クリムゾンアイズとは対照的に
気さく、と言うよりは少し馬鹿な色も見せた態度でフローリックに反論する。

声色も男として、そしてやや歳の入ったものとして捉えられるものの、威圧感の無いそれである。



「お前態度でもうおしめぇなんだっつの」

迫られるフローリックも平然とした態度でやや冷酷な事を述べる。



――フューリシアの態度としては……――



(こいつは注意した方がいいのか……)

フューリシアの紫色に染められた瞳がゆっくりと細くなり、互いに、確実に初対面でありながらも
ギルモアはこの女性に避けられてしまった事だろう。



「っておいおいそこのごついの二人組み、っかぁ? 別に女相手にテンションマックスんなんのも別にいいし、被害者の女性の盾になんのも構わんが、ってあそうだ、ネーデルちゃん!」

テンブラーは二人のハンターと、一人の女性のハンターの間にゆっくりと入り込むように動き、
男二人のいる右側だけに対して右手を伸ばし、これ以上接近して来ないようにと頼りにならない支えとして働かせる。

――だが、その後ろにいるアビスの隣に立っていた少女がテンブラーに気付かれ……――



「え? はい?」

突然テンブラーの相手になり始めたネーデルは戸惑いを見せた後に何とか聞き入れる体勢に入る。
その場から動かず、黙ってその後に来るであろうテンブラーの言葉を待った。



「いきなしで悪りんだが、原子炉止めんの手伝ってくれや? バイオレットの野郎誰もぜってぇ喜ばねぇ土産みやげもん置いて逃げやがってだ、このまま放置プレイなんかしてたらリアルタイムでメルトダウン現象みてぇなもん無理矢理見させられっ破目になっから、ネーデルちゃん、悪り、手伝ってくれ」

テンブラーは何故か酒場に向かって右の親指を差しながら、バイオレットの残していった原子炉を放置しておけば
アーカサスの街が焼き尽くされてしまうと災害を用いた例えで表しながらやや一方的にネーデルを自分のお供にさせようとする。



――ネーデルを引っ張るテンブラーに対してフローリックは……――



「おいテンブラーお前ちょっ待てや。いきなしなんでそいつ連れて行――」
「ああはいはいはいはい! 今すげぇ忙しいからそう言うの後だ後! この事件片付いたら互いに名刺交換とかしようじゃねぇか? ん? 特にお前の人物紹介プロフィールも知りてぇしなぁ! んじゃあネーデルちゃん急ぐぞ!」

フローリックにとってはネーデルの存在は非常に久しいものであり、尚且つ恐らくは名前すら意図的に聞いてはいなかったであろう。
それでもテンブラーは状況が切羽詰っているからか、質問を詳しく答えようとはせず、
後回しにしながら、ネーデルの水色の袖を細めな手首ごと掴み、酒場へと進んでいく。



――そして引っ張られているネーデルに向かって……――



「そうだネーデルちゃん、中すっげぇでぇ事なってっけど、頑張ってくれよ?」

酒場内部で散乱しているハンター達の死体を思い浮かべたテンブラーはネーデルに警告をかけ、
そして今度は背後へと残された者達に顔を向け、もう一つの言葉を言い渡す。

「それとお前ら、外は任せたぞ! その人数なら何とかなんだろ!?」



――返答も待たずにテンブラーはネーデルと共に酒場内部ギルドへ……――



「なんだあいつ。すっげぇ自己中心じこちゅーな奴だな……」

他人の意見も取り入れずに勝手に酒場内部へと赴いてしまったテンブラーの背中を眺めながら、
フローリックは双角竜の角の目立つヘルムの下で目を細める。

顔を合わせてからまるで時間が経っていないと言うのに、どこか仲間としては上手くやっていけない雰囲気まで漂う。



「所でフローリック。一個聞きたい事があんだが、そいつ、誰だ?」

小柄な体躯が特徴的な猫人の種族であるエルシオは四本の脚でフローリックに近づき、
ここにいるメンバーの中で唯一、ハンターらしい姿をしていない少年に右の前足を突き出し、質問を投げかける。



「ああこいつかぁ、アビスだ。オレの知り合いなんだが、ほんっと真面目にアホな奴でなぁ、しょっちゅうオレら平気で困らせてっかんなあ」

フローリックはまるで使えない部下を紹介するかのように乱暴に指を突きつけ、
足元にいるエルシオにまるで気の合う者同士でのやり取りを思わせる態度で述べる。



――酷評に対して勿論アビスは……――



「ってちょちょ待ってくれって! 俺別にそこまでアホじゃないと思うんだけど? そんな、酷いよ……」

自分の言われ方に焦ったアビスは何とか言い返さなければこのまま名前が汚れてしまうと必死になりながらも、
何だか立ち向かうに立ち向かえないそんな気まずい状況も感じ取る事が出来る。

やはりハンター用の武具で武装した人間を相手にすると普段よりも恐ろしく見えてしまうのだろうか。



「まあアビス、そこまでテンションダウンさせんなよ。フューチャーでの活躍でナウの汚名はリターン出来るぜ? 出来れば今度お前とトゥギャザーでハンティング行きてぇんだけどな! まだ一回もねぇんだよなぁお前のブレイブ、見た事がなあ」

落ち込んでしまったアビスを元気付けようと、上半身の胴体を除いた全部分を雪獅子の武具で覆ったジェイソンは
これからの行動によって現在植え付けられてしまっている汚い名前を返上出来るだろうと励ましてみせる。

だが、実の所はジェイソンはアビスと共に狩猟に赴いた事が一度も無かったのだから、
その励ましの裏には直接戦っている姿を見たいと言う期待も混じっていた事だろう。



「あ、そ、そうだよな……、ちゃんと、頑張るから、俺も……ははは」

フローリックとは対照的に、陽気でそして威圧的に責めては来ないジェイソンによってアビスの揺らぎ始めていた精神が
修復されたのかもしれない。
安心したであろうアビスはわざとらしい笑いなんかをし始める。



「所で、これからわたし達はどうする? ここに来る途中バイオレットが誰かに捕まって空に飛び去っていった様子が見えたが、まだアーカサス全体として考えるとまだ終わったとは言えないだろう。出来ればわたし達に協力……じゃなかったか、貴方達に協力させて欲しいのだが、どうだ?」

過小評価に身を震わせているアビスには目を向けず、フューリシアは人数が増えたこの場所で
今後の予定について考え始める。
一瞬自分に協力させようと口走りそうになるも落ち着いて一度それを取り消し、自分が協力する側へと回る。

何しろ、今フューリシアは武器を所有していないのだから。



「そうだったぜ、今これからどうやってここで馬鹿騒ぎしてるアホども潰すか、だよなぁ。っつうかお前バイオレットって奴と一回会ったのか? まあ少なくともあいつとは仲がいいとかそう言うのはまずありえねぇだろうけどな」

どこかフューリシアの男勝りな性格と合いそうなフローリックは一度夜空に舞い上がる炎と煙を見上げた後、
ふとバイオレットの名前を知っている事に疑問を覚えるも、それが良い意味を示すものでは無いとすぐに理解する。



「会ったと言うよりは、不運にもあの酒場で居合わせたと言った方がいいだろう。そこであいつにボウガンも破壊されて、色々と訳有りで素手での闘いになったんだが、この様だ」

フューリシアは一度あの亜人でもあり、殺人鬼でもあるバイオレットと素手で立ち向かった身である。
だが、結果は惨敗であり、その後遺症とも言える全身の至る所に巻かれた包帯を指で差し回しながら虚しそうに答えた。



「素手でかよ……。まあ生きてられたっつうだけでもいいもんだよな……。それよりお前武器もねぇでこれからやってられんのか? さっきもなんか妙にでけぇ四本脚の蟲なんかどうか分かんねぇ化けもんもいたし、武器ねぇとこの先無理じゃねぇか?」

フローリックは一度、ハンターだと言うのにどうして武器では無く、自分の拳で闘っていたのか少し迷ったが、
いちいちそんな事に突っ込んでいる余裕はきっと無いだろう。

やはり武器が無ければ大型の敵を相手にするのは困難を極めるであろうと、その事をフューリシアに向かって言った。



「確かにそれは正論だ。武器を失うとはわたしもまだまだ判断が甘いとこが――」
「何を言っているのだ! 武器は無くとも貴方は立派なハンターであり、そして女戦士であるのだ! そんな飾り等無くても貴方は立派に闘えるでは無いのか!?」

フューリシアが武器を失った失態を恨んでいると、すぐ目の前に黒い装備の男が現れ、
大袈裟おおげさな褒め言葉を用い、落ち込んだであろう精神を復活させようと遠慮も無しに口を動かし続けている。

だが、男の性格から考察すれば、相手が美人であると言うある意味で下らない理由も考えられるだろう。



「っておいお前ちょい黙れや……」

フローリックの目が細くなり、その黒い装備の男こと、ギルモアに対して内部で苛々を溜め込んだような声をかける。
うっすらとではあるが、舌打ちもしたように感じ取れる。



「いや、武器は飾り物と言うよりは命の繋ぎ目とでも言うべきだが?」

フューリシアは迫ってくるギルモアに多少嫌気を覚えながらも、武器と言う概念を甘く考えているギルモアに対し、
冷静にその重要性について訂正を言葉で投げつける。

そしてゆっくりと腕を組み始める。少なくともギルモアに対しては恐怖心はまるで抱いていない事だ。



「そんな理屈はどうでもいいのだ! もし危機に晒された所でこのおれが貴方の強固な盾となって護衛致すのだから、貴方は安心しておれの後ろにいれば大丈夫なのだ!」

ギルモアは自分が犠牲になる事でフューリシアから高評価を得られるとでも勘違いしているのか、
高らかに自分の強さをアピールし、自分自身の黒い武具の姿を親指で差しながらキャップを外していないその裏で笑みを浮かべる。



「お前だから信用出来っ訳ねぇだろお前。っつうかお前マジうぜぇから黙ったらどうだよ」

明らかに怒ったような口調でフローリックは高らかな態度を取るギルモアに向かって
その口をつつしむようにと、苦言を飛ばす。

女性に対する態度について、腹を立てているように感じられる。



「おれだから信用が無いなんて酷いだろう!? おれもこれでも幾多もの激戦を潜り抜けた精鋭――」
「私にも言わせてもらえば、多少静かにしてもらえればこっちも気が楽なんだがな?」

ギルモアの反論がフローリックに向かって飛んでいくものの、場の空気の都合上、
無理矢理自分を正当化させる為に必死でそれを作り上げているようにも見える。

そして、フューリシアの怒りの感情こそは見えないものの、それでも冷静に内容を分析すれば結局それも
『苦言』として認識出来るであろう言葉がギルモアに与えられる。
何気無く組まれていた腕が、同じく何気無く内側につのった感情を表している事だ。



「分かったろお前。お前こいつからも早速って感じでドン引き喰らってんだぞ? マジ黙んねえとお前すげぇ事なっぞ? ってかアビス」

フローリック以外でも分かる事だとは思うが、結局はフューリシアに嫌な目で見られ始めているギルモアである。
これで言われた本人が自覚してくれたらある意味で嬉しいのだが、どうだろうか。

そして、唐突に相手がアビスへと切り替えられる。



――いきなり声をかけられたアビスは……――



「え、あ、んとなんだ?」

一度迷うも、すぐにアビスは返答し、聞き入れる体勢へと入る。



「さっきテンブラーに無理矢理引っ張られてた女いただろ? 確かネーデルって呼ばれてたけど、お前らあいつと仲良しんなってたのか?」

どうやらフローリックにとってはテンブラーに引っ張られていた青く、そして肩より下を行く長い髪を携えたあの少女に
見覚えがあったらしく、呼ばれていた名前を掘り起こしてアビス達とは仲が成立していたのかを訊ねる。



「あ、そ、そうなんだけど、ネーデルって、なんかテンブラーと一緒にいたんだよ。ってか確かアーカサスここのゴンドラで見た事あったんだけど、俺は覚えてるよ」

アビスはあのネーデルと言う名前を持つ少女との出会いを簡潔に説明、とは言ってもどこか回りくどい印象を受けるものの、
それでも彼は話を続け、そして本当に一番最初にあのネーデルを見かけた時の事を思い出す。



――ゴンドラに乗っている最中だった……――



「テンブラーと一緒だってかぁ? あいつ変な事してなかっただろうなぁ? ってかまあオレもあのネーデルとか言ってた女は覚えてんだがな。あんま思い出したくねんだが」

一瞬フローリックはテンブラーのあのスーツ姿を奇妙に思ってしまい、変質者のたぐいを思い浮かべてしまう。
それでも一応はネーデルへと視点を戻し、初めて見かけたあの時を思い出すが、何故かいきなり眉間みけんしわを寄せ始める。



「ああそうかそうかぁ! ゴンドラかあ、実はおれもあのなら見覚えあるんだよ! ホントに、マジで!」

何故かここにギルモアが現れ、相当昔の話になるであろうゴンドラの上での話に関わり始める。
内容に輝かしい要素でも含まれているのか、ギルモアのテンションは大人気おとなげの無さを思わせるかのように、高くなっている。



「はぁ!? お前あれ乗ってたのかぁ? じゃあなんであん時一言オレに言わねんだよ? いんならいるってハッキシ言えやお前」

どうやらあの時ゴンドラに乗っていた時、フローリックは密かにギルモアも同乗している事に気付いていなかったようだ。
身近な所で仲間の存在に気付かなかった自分、そして気付かれずにゴンドラへ乗っていたギルモアに対して驚き、
声をかけて来なかったギルモアにそう言った。



「いや……あれは声かけ辛い状況だったし……。でもおれはちゃんと覚えてんだよ、あのの事は」

当時その場にいた時に声をかけなかった事について言われるなり、ギルモアは今までのテンションに影を作るかのように
声を詰まらせ、歯切れの悪い口調となるも、ネーデルの話題へ戻ると再びそのテンションが復活する。



――その復活のタイミングを見逃さなかったフローリックは――



「なんでお前ネーデルあいつん事になったらいきなしテンション戻んだよ?」

僅かながら心の片隅で嫌な感じを覚えながら、フローリックはギルモアのその復活の理由を問い質そうとする。
だが、その答えをあまり期待しようとは思えない。



「別に変な意味じゃねぇよ。ちょっと印象深かったから、勝手に覚えてただけだよ?」

一瞬恐怖を感じながらも、ギルモアは自分なり・・・・にこれからの意見には妙な感情は含まれていないと反論する。
しかし、一体何が彼にネーデルの印象を掘り込んだのだろうか。



「印象けぇってお前、何がだよ?」

ギルモアが何を思っているのか、フローリックは左手を腰に当てて首を横に軽く倒す。
まるで下らないものでも聞く体勢である。



「ああ、あれは忘れようとしても忘れられないし、それに忘れたくも無い過去も同然だ。あれを忘れろと言う方が無理だろう?」

ギルモアはその忘れられない理由を二つ上げ、そして自信に満ち溢れた表情をキャップの下で浮かべてみせる。
強制的に忘れる事が出来ないし、そして、忘れてしまっては損害をこうむる為に
理由がどうであれ、頭の中から消去してはいけない記録であると主張している。



「そうかぁ、お前結局ガキに興味あっから覚えとこうとか考えてんだろ? お前は歩く猥褻物わいせつもんだもんなぁ?」

すぐにフローリックの思考に答えが浮かび上がる。
女性が好きであり、そしてその分野に含まれるものには少女・・も含まれており、ネーデルはそれ・・に該当するから、
ギルモアにとっては嬉しい存在だったのだと、そう考える。

相変わらずフローリックの態度及び体勢からはつまらなさそうな様子が漂っている。



「いや……猥褻ってのは……カットしてくれよ……。まあ確かにあのは良かったが、もっと注目すべき部分があったんだよ。おかげでもうこの脳に焼き付いてしまったんだよ」

流石にギルモアも一部の言葉に自分を否定、侮辱される内容が込められていたからか、懇願なんかをし出すも、
それでも何とか気を取り直し、ある意味で彼にとって一番の目玉とも言えるような所へと入り始める。



「お前の脳味噌なんか下んねぇ事ばっか記録されてんだろうな。っつかなんだよお前そん注目する場所ってのはよぉ。どうせ下んねぇ事だろうよぉ」

ギルモアの考えにはまるで期待を添えていないフローリックではあるが、このまま知らないままにしていても
どうしても心のどこかで引っかかってしまう為、とりあえずは聞いておくべきだろうと考え、この結論に入る。



「やっぱお前も知りたいのかぁ。簡単な話だぜ!」

何故かギルモアは右腕を持ち上げ、そして親指まで立てる。
あのネーデルにはどれだけ、このギルモアのテンションを上昇させる魔力が秘められていると言うのだろうか。
単純にギルモアの性格を問えばすぐに感得出来るのかもしれないが。



「……」

ここまで来るとフローリックからのメッセージも無くなり、いつの間にか彼は腕を組んでいる。
双角竜の甲殻に覆われた硬質な両腕からは威厳と恐ろしさが感じられる。
これから何かが始まるかのように……。



――そして、いよいよ……――



「あのったら見せてくれたんだよ!」

ギルモアの声色に妙な嫌らしさを含んだにやけが混じり……



――それでもフローリックは黙っており……――

――だが右手が何故かゆっくりと背中に回されており……――





――そして、本当にいよいよ……――





「水色のパン……」
―ジャキィン!!!!!



―◆鋭くきらめく、背中の鬼神斬破刀!!◆―



「ってうわわ何すんだよ!!」

フローリックの背中の上から覗かれた刀身がギルモアの全身に恐怖と言う恐怖を植え付け、
そしてギルモア本人はその被害者にならないようにと、反射的に後ろへと慌てて下がり始める。



(アホか……ギルモアの奴……)

傍から見ていたフューリシアもあまりにもレベルの低いであろうギルモアの言動に、紫色の瞳を細め始める。
いつの間にか彼女も腕を組んでおり、一角獣装備と重なって多少凛凛しく見えなくも無い。

因みに、フローリックの刀身に対しては何の恐怖も抱いていないようだ。それに、彼女に向けられる事も無いだろうから。



「お前マジそれ以上言ってみろよ。マジで二人んすっぞお前。それにお前ホントは分かってたんだろ? オレがあん時キレたから声かけるにかけれなかったってのがよぉ。マジ分けっかんなお前のその三段腹からよぉ」

フローリックは右手を背中の鬼神斬破刀の柄に当てて僅かに刀身を見せ付けたままの状態でギルモアに攻め寄り、
続きを聞けば確実に猥褻発言へと発展していたであろうギルモアの言いかけていたあの台詞についてとことん責める。

回りくどくも、その意味を深く読み取れば、その太刀の鋭さがギルモアを二つに分けてしまうのだと解釈出来るだろう。
だが、どうやらギルモアはやや太り気味であるようだ。



「いやいや待て待て……。そんな事したらおれ死んでしまうだろ……?」

単純な意見を、ギルモアは恐れながら出し、それ以上太刀の刀身を抜かないでいてもらう事を願望する。
流石に直接命を奪われる事は怖い事なのだから。



「じゃあそれ以上んじゃねぇぞお前マジで? んでだ、それお前今すぐ忘れろ。命令だぞマジでこれ。じゃねぇとお前マジ二人んすっかんなあゴラ」

とりあえずフローリックは収まってくれたようであり、その証拠にさやから刀身を見せていた太刀が乱暴にさやへと戻される。
そして、強制的に記憶から除去する事を命令し、そして破った場合の処罰法も伝えておく。



「いや、忘れろったって……人間の脳は意外とそう言うのは――」
「じゃあ二人んなっか?」

ギルモアは人間の脳の原理を理由にまた何か言い訳がましい事を口に出そうとするが、
フローリックの持つ得物を使った脅迫が再びギルモアを襲う。



「いや、忘れる……」

本当に一人の状態で二人にされてしまえばもう未来は無い。
ギルモアは静かに、フローリックに従った。



―― 一つの話が終わったが、それは別の始まりでもあり……――



「随分お前ら盛り上がってたみたいだが、ここもそろそろ危殆きたいに襲われんじゃねぇのか? 今遠方から足音が聞こえたからなあ」

ベージュの体毛を持つ猫人こと、エルシオは燃え上がる街周辺を見渡しながら、
これからの戦いを予想させる重苦しいものを口に出す。



「なるほど、おれらもこんなとこでつまらんプレイなんかしてられんって言う訳だなぁ? インタレストなトーク見させてもらった後は、またバトルだぜ」

黙ってフローリックとギルモアのやり取りを見ていたジェイソンはどこにいるかも分からない敵に備える為に、
背中に背負っていたインセクトオーダーをそれぞれ両手に持った。



「え? うそ、マジ!? 誰か来てんの? でもさあ、俺武器なんも無いんだけど、俺どうすりゃいいの!? やっぱ俺は……隠れてた方が……いい――」
「訳ねぇだろ。お前も男なら戦うぐれぇの根性見せろ。それに、武器ぐらいなら控えのがあるから、それ使え」

アビスも一応はハンターではあるし、敵が来る可能性があると言うのはエルシオの話を聞いていれば普通に分かる事ではあるが、
武器らしい武器を何一つ所持しておらず、そして防具すらも纏っていない。

それを理由に逃げ出そうとするアビスを、エルシオの鋭い一言で止めてしまう。

もし戦う為の得物が無いのなら、用意してもらえばそれで済むのだから。



「そ、そうなのか? 貴方って控えの武器を所持しているのか?」

エルシオのその準備の良さに反応したのは、意外にもフューリシアだったのだが、
それについて素直に喜びを見せると言うよりは、気まずさを見せながら再確認をし始める。



「ん? ああ一応はあそこのジープに積んでんだが、そう言えばお前はなかなか強そうな割に武器はどこにやったんだ? 見えないんだが」

エルシオは多少遠くに停車させているジープを右の前足で差しながら、フューリシアの背中及びその回りに
武器らしい武器が一切存在しない事を確認する。



「バイオレットと戦った時に酒場に……いや、済まない。今ならもう酒場に戻っても大丈夫だったか……」

フューリシアの愛用していたレックスタンクと呼ばれるライトボウガンはバイオレットの銃撃を受け止める為に使い、
そして拾い戻す前にバイオレットに敗れ、そして武器も持たずに酒場から逃げてきたのだ。

だが、もう今は酒場の中には殺意の衝動に駆られた悪魔の姿は無いのだから、入ると言う概念だけを考えると
既に安全になったと考える事も出来るはずだ。
だから、奪還もそこまで苦にはならないだろう。

今頃気付いたかのように、意外と近い距離にある酒場の入り口を眺めながら、呟いた。



「って事はじゃあ俺から借りんのはアビス、お前だけ――」







―ズシィン…………

―ズシィン……






――遠方からやってくる、重たい足音……――






「ってなんか来たんじゃねぇのかこれ!?」

フローリックは地面を経由して伝わってくる足音に敏感に反応し、
周囲を見渡しながら早速と言わんばかりに背中の鬼神斬破刀を取り出した。

もうこの時にはフューリシアの姿は近くには無く、酒場へと向かっていたものと考えられる。



「よしっ、お前ら準備だ! アビス、付いて来い! お前の武器貸してやっから!」

エルシオはまるで自分が今ここにいる中での指揮者リーダーであるかのように声を張り上げ、
そしてアビスに一つ命令に限りなく近いものを飛ばし、そして四本脚で跳ねるように緑色に染まったジープへと向かっていく。

「分かった! 頼むよ!」

アビスもすぐに走り出し、エルシオの背後を追いかける。






――フューリシアも早急に準備する必要があるだろう……――

大衆酒場ギルドの入り口に近づいたフューリシアの紫色の強さの篭った瞳には強制的におぞましい光景が映ってしまう。

「うげっ……これは酷いな……最悪だ……」

酒場の中を目の当たりにしてしまったフューリシアの右手が反射的に持ち上がり、
そして上体も軽く後ろへと仰け反る。
まるで光景そのものから逃げたいと言う自己防衛を果たすかのように。



αα 散乱するハンター達の死骸……

ββ 飛び散った真赤な血液……

γγ 砕け散ったテーブルの数々……

δδ 地面や壁に空けられた、無数の穴……



――◆そして、とっておきは死体から舞い上がる、死臭だろう……◆――



「早く……取り戻さないと……」

おぞましく、そして汚らしく、恐ろしいこの内部の空間で早急に奪還してしまおうと、
落とした場所に素早い足取りで向かっていく。

これでもフューリシアは自分が最初にボウガンを落としてしまった場所を大体は記憶していたのだから。

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