――≪高翔蟲ギグルバグは上空から憫笑びんしょうを送る≫――

――<to write the grotesque last page>――



ηηη  ωωω  ρρρ  ψψψ  ρρρ  ωωω  ηηη

飛び回る高翔蟲ギグルバグは見下ろしている地面に向かって何を思うのだろうか。
はねも持たないで地面に這いつくばっている弱者を愚弄しているに違いない。
自身の能力はふてぶてしい自尊心を作り出す。
世の中は威張っていても成功しない、等と蟲なんかに告知してもまず理解されない。

人間にまさる知識が無くとも、汚らしい記録ダーティ・データを書き記す事が可能になるのは、
敵対者ビッグフードむさぼり喰らってからになるだろう。奴はその時を期待し、実は笑っているのだ。



それより、奴の姿はどこにある?



アーカサスの裏路地バックアレイに行けば、嫌でも見る破目になるのでは?

――頭部から伸びた砲台

――翅脈しみゃくの通った大きなはね

――胴体からぶら下がった、細長い四本の脚

――って言うか、胴体は茶色に染まっている



そして、寸法サイズは地面をうろついていたあの四本脚の生物と同等のものだ。
胴体の大きさは一般的な人間の身長の1.5倍程度を誇り、横幅も縦幅とほぼ同じ。
だが、滑翔能力は大きさによって制限を受ける様子は見る事が出来ない。
これは所謂、程良いサイズと言えるのだろうか。

おっと、高翔蟲ギグルバグのおさらいはそろそろこれくらいにしておこうか?
そんなのより、まずは不幸な少女二人を思い出してもらうとしましょうかね?



敵組織から隙を突いて奪い取った機械仕掛けオレンジ・トラックに乗り、二人は見事に逃げ切っている最中だ。



■■■□□□■■■   ■■■□□□■■■   ■■■□□□■■■   ■■■□□□■■■

そう言えば、操縦主ミレイのトラックが追突されて、相方デイトナが窓から落ちそうになってたよね?

■■■□□□■■■   ■■■□□□■■■   ■■■□□□■■■   ■■■□□□■■■



やはりここである。
人間誰だって折角の話コンポジション危険ピンチに陥った瞬間にぶつ切りにされたら違和感覚えるでしょ?
それを人は勝手に『期待』の文字に置き換えて直接言葉で言い捨てていく。
まさか直接そんな事口走ったら周囲から鋭く、そしていやしい視線が飛んでくるからね。



† それではそろそろ本題に戻るとしましょうか †

  † まさか疲れてきた奴もいるだろうけど、本番はこれからだぜ? †

    † 壮絶な逃走劇場を見ようとは思わないのかい? 好奇心持てよ? †

      † こんなとこでいなくなるなんて、例えるなら映画の頂点部分クライマックスで席外すのと同じ♪ †

    † じゃあもっと付き合えよ? どうせ時間あんでしょ? 神経ヴォルテージを上げなさいよ†

  † 死ぬか生きるかの駆け引きペイング・ライフに冗長も面倒も御免だぜ? †

† 蟲だって、立派な怪物なんだから、きっと油断は死を招く事になるだろうよ〜 †



          ――◆ 裏路地に木霊こだまする翅鳴音バグ・シークエンス/GRATING WING ◆――
               逃げる女神としつこい巨大変異蟲……
                         どちらに軍配を上げるべきかな?
                                    女神とは……即ちそれは処女神アルテミスを指すのだよ











「デイトナ……! 頑張って!」

ミレイは左手でしっかりと円形状の操縦桿ハンドルを握りながらも、右手でもしっかりとデイトナを掴んでいる。
窓の外では未だに街の風景が後ろに流され続けているが、今はミレイにそれを気にする余裕は無い。



――そして、掴んでいるとは言っても……――



デイトナは今、敵車両の衝突が原因となり、ドアの窓から今にも落ちそうな体勢になってしまっているのだ。
上半身が完全に外に出てしまっており、ミレイの伸ばされた右腕がデイトナの腹部にあるベルト部分を強く掴んでいる事で
そのまま落下せずに済んでいるが、両者とも身体の負担は大きいはずだ。



「ミレ……イ……! 早く……!」

ミレイの右腕一つで何とかトラックの外へ落下せずに済んでいるデイトナは何とか自力でも内部へ戻ろうと、
バランスを保つのが難しい状態でありながら、腹筋に力を込めて上半身を持ち上げようとする。

それでも一瞬の自分自身の力加減のミスでミレイの手が離れてしまった時の後を考えると
思い切って力を振り絞る事が出来なくなってしまう。



εε それでも背後からは容赦無しに敵車両達ヘルズストーカーズが追走を続けているのだ

υυ 上空からも、徐々にあいつ・・・が近づいているのだが……



「分かってる……! 行く……わよっ!!」

ミレイもただ掴んでいるだけではデイトナにとってはまるで救いにならない事は理解している。
運転の方にも神経を集中させる必要があるが、ここは一度右腕に力の全てを注いでみても悪くは無い、
いや、それが一番であり、そしてそれが当然の行為だろう。



――右腕に蓄積された腕力を信じ……――



――引っ張り上げる!!――



「!」

面白いようにデイトナの上体が持ち上がり、デイトナ本人はミレイの救助行為に対して喜びと驚きの混じった表情を浮かべる。
横からぶつかってくる風が非常にしつこく感じられるものの、すぐに車内へ戻らなければ反撃すら出来ない。

車内に弓を置いているのだから、それを拾い上げなければいけないのだ。



ようやく両手で窓のふちを掴めるようになり、そのままデイトナは車内へとその狩猟用装備の身体を戻そうとする。
軽く深呼吸をしているミレイの横顔を見ながら。

「はぁ……はぁ……ミレイありが――」



ηη 背後から伸びる、誰かの腕アンノウンフラクション…… ηη

デイトナの首筋を乱暴に掴み、そして引っ張るのだ。
そんな事をすればどうなるか、それより、その主の正体は……



「うぉおらぁ!! はっはっはっは〜!!」
「いやっ!」

そうである。いつの間にかミレイのトラックの右には敵車両が付いていたのだ。
運転席側にいるバンダナマスクを装着した目つきの悪い男が筋肉質を思わせる太さの左腕を伸ばし、
デイトナを引っ張り上げたのだ。対象が少女だからか、その笑い方は下品の一言だ。

突然後ろへ上体を持って行かれそうになったデイトナは反射的に悲鳴を上げる。



「デイトナ!! ……またこいつら……!」

そろそろ呼吸も厳しくなってきたこの時に再びデイトナに危機が迫り、
そしてその危機を作り上げている右に付いている敵車両を睨みつけながら、ミレイは青い瞳を細め、歯を食い縛る。



ρρ バンダナマスクの男の行為はエスカレートし…… ρρ

「はっはははは〜!! こんまま拉致ってやっかおいお〜い!?」

運転手ドライバーであり、そして今デイトナを引っ張っている男は操縦桿を握っていたはずの右手には小型ナイフを握り、
左腕をデイトナの首へと巻きつける。

「いや! 離して!」

バンダナマスクの男の左腕がデイトナの細い首を絞めるような形になっており、
デイトナは左手で何とかミレイの操縦するトラックの窓のふちに掴みながら、右手だけで男から離れようと
男の左腕を掴んで抵抗するが、殆ど無意味に等しい。力の差が酷過ぎるのだろうか。



「いいから来いよ〜!? それともお前のここ斬り刻んでやっかぁ!?」

一体バンダナマスクの男のハンドル操作は誰がおこなっているのか、気になる所である。
最も、その隣にも仲間が一人乗車しているのだからそこに答えがあるのかもしれないが。

抵抗するデイトナの伸びた左腕に視線が進んだ男は、ナイフを左腕の肩口に近づけ、ナイフの細い切っ先を当てる。



――◆ その少女の肩口は直接肌が曝け出されており、斬ろうと思えば抵抗無しに斬れてしまうのだから……



――しかし、ここに来てデイトナの表情は何故か、勝ち誇ったような笑みを浮かべており……――



「おいおいどうしたよぉ? 怖くてなんも言えねぇってかぁ? だったらさっさと斬ってや……」

黙っているデイトナに対して、もう抵抗も無しに攻撃出来てしまうと思い込んだ男はナイフを持つ右腕に力を入れようとしたのだが……



「あぁ?」

ふと男は前方――と言うよりは、相手のトラック――に視線が移り、何かに気付いたかのような一言を洩らす。



κκ ミレイの姿が男をそうさせたのだ…… κκ

友達が襲われていると言うのに、ミレイが黙っているはずも無い。
男のその間抜けな呟きが聞こえ、一秒も経たない内に事は実行されるのだ。



ミレイはいつの間にかデイトナの座っていた右の座席の上に膝を立てており、の実行体勢に入っていたのだ。
一体トラックの操縦は誰が担当しているのか? と言うツッコミは置いといてだ、
その事・・・は今まさに実行される!!



――後方へと引っ張られた左拳が…… ◆◆

――男の顔面目掛けて放たれる!!  ◆◆

デイトナの頭の上を見事に通り抜け、すぐ上にある男の顔面を見事なまでに捉え、命中した証拠とも言えるであろう
一つの鈍い音が二台のトラックの間に小さく響く。



―ドン!!



「!!」

顔面を狙われた男はデイトナとナイフを手放す破目になり、呻き声すら上げずにトラック内へと押し飛ばされる。



デイトナはこの場の状況だけを考えると確かに解放されたとは言えるのだが、
いくら相手が友人であるとは言え、あの≪超高速ターボ超威力メガレイジ≫のパンチを目の前で見せられて平気でいられるはずが無いだろう。

それが仇となり、左手が窓のふちから離れそうになるも……

「うわぁ!!」



――デイトナの悲鳴があがるが……――



「大丈夫だから!」

ミレイは素早くデイトナの背中に左手を回し、持ち上げるようにそのままトラックの中へデイトナを戻す。
そして放置状態だった操縦桿ハンドルを素早く握り、揺れ始めていたトラックの軌道を修正する。



ようやく座席に座り直す事が出来たデイトナは額から流れる一筋の汗を左手で軽く拭いながら、
操縦に戻ったミレイの横顔を見る。

「ありがと、ミレイ。また助けられ――」
「ごめん! ちょっとこっち寄って!」

デイトナの礼を受け取る前に、ミレイは突然右手でデイトナを自分の座席の方へと引っ張り寄せ、
その青い瞳で右側を強く睨みつける。



――決してデイトナを睨んでいるのでは無く……――



――もっと奥・・・・を睨んでいるのだ!!――



「え? ちょっとミレイ何すん……!!」

デイトナは一体ミレイがこれからどんな行動を取り出すのか、訊ねようとしたが、
もう行動は始まっていたのだ。

――ミレイは操縦桿ハンドルを素早く右へと切り……――



ψψ 一気に右へ向かってトラックが動き出す!!/RIGHT MOVE!! ψψ



右へずれた目的はただ一つである。右に付いている敵車両に体当たりを食らわす為だ!
仕返しとでも言うべきか、いや、きっと仕返しと同時にもう同じ目に遭わないようにと言う、対策だ!



ガゴン!!



鉄と鉄がぶつかり合う重苦しい音と共に、強く接触させられた方の小型トラックは一気にバランスを崩し、
そしてタイヤと地面が擦れる音を周辺に響かせる。



キキィイイイ!!



やがて、ミレイを追走する事が出来なくなってしまう。
証拠として、端に延々と立ち並ぶ建造物の一つに突っ込み、上から降ってきた瓦礫によって身動きが取れなくなる。



υ とりあえず一台を機能停止させたのは嬉しいが…… υ



★★☆ いや、寧ろこれからが本当の悪夢デンジャーリアリティーと言った方が正しいかもしれない……
★★☆ 砲台なんかを携えたあの大きな蟲が今ミレイ達に近寄ってきているのよ……
★★☆ そう! 上からね!!



バィバィバィバチバィバィバィバチバチバィバィ……



いよいよお出ましと言った所である。
建物から燃え上がる炎を背景バックに、巨大なはねを羽ばたかせ、地面を走る人間を出迎える。

常に弾けるような音を響かせているのが何ともやかましい。



――車内からそれを確認したデイトナはすぐに弓を握り……――



「ミレイ! なんかデカい蟲みたいなの来てるから、そっちお願い! こっちは応戦するから!」

デイトナは頭から汗を流しても尚、それを拭う暇も与えられずに運転を続けているミレイに伝え、
そしてハンターボウを左手に握り、そして矢を右手に握ってそのまま窓から上体を出す。



「オッケイ!! 任せといて!」

ミレイはデイトナを信じ、操縦桿ハンドルを握ったままで力強く返事をする。
前を向いたままで頷き、それによって多少の汗が混じった緑色の髪がミレイの動作に従ってやや激しく揺れる。

髪の間から見える耳に嵌められた十字架のピアスも一緒に返事をしているかのように、輝いた。



◆◆ そして、デイトナの視線アイズサイトへと…… ◇◇



バィバィバィバィバチバィ……



弾けるはねの音が非常に煩いが、何とかして黙らせなければデイトナ達の身が危うくなる。

矢羽を弦に乗せ、右手で強く後方へと引き、緑色の瞳ガールズグリーンで真剣に標的を捉える。
素早く、的確にそれを行い、そして狙い目が定まったのを確認するが……



χ 飛行中の剛蟲バグは嫌らしい性格だ χ

砲台状の頭部の下で何やら意味ありげな火花スパークを飛ばし、揺れていた砲台部分を地面と平行に戻す。
四本の脚カルテットレッグとも言える長い突起を下部でぶらぶらと揺らしながら、砲台の発射口キャノンマウスを小さく光らせる。



◆◆αα 準備OK!! ββ◆◆

◇◇ββ いざ、発射!! αα◆◆



ブォオン!!



「きゃっ!」

発射口から飛ばされた赤い塊レッドスフィアにデイトナは驚き、思わずしっかりと狙わないまま
矢を射てしまいそうになるも、何とか持ち応えた。

怖がってしまった自分の精神を振り払う為に、オレンジ色の輝くセミロングの髪を左右に揺らし、
そしてその緑色の瞳に力を込め直す。



――放たれたあの塊・・・は……――

炎をまとってそのままミレイのトラックを通り過ぎ、そして偶然その着弾地点に建造されていた建物に直撃し、
そして着弾地点を中心に炎が瞬く間に広がる。

――どこかで見た光景であるが……――



「今度こそ……!!」

デイトナは再び弦を引き直し、背後を飛行し続けている大型飛行蟲バイオレンスインセクト照準サイトを定める。
その言葉通りになるには本人の精神力がものを言う。



―シュンッ!

矢が一直線に射られ、実況する間も与えないかのように、蟲と矢の距離が縮まっていく。
いくら飛び回れるとは言え、多少の瞬発力ベロシティーは犠牲にしてしまっていたようだ。

それが意味するものは、即ち命中ヒットを意味する。



―グサッ……



しかし、腹部に刺さった矢によって怯む事は無かった。巨体であるが故に、瞬発力ベロシティーを犠牲にした代わりに防御力シールドガードを特化させたのだろう。
殆ど効果は無かったのだ。今の攻撃と言う攻撃は。



εε 蟲は再び砲台の下で火花を飛ばす……

それはあの攻撃の予兆を思わせるのだが、それを黙って見ている奴はきっといない。
ミレイは左折する為に、一度デイトナに合図を送る。



「デイトナ、ちょっと曲がるから注意して!」

今度はデイトナを驚かせないよう、ミレイは一度合図として右手でデイトナの腰辺りを叩き、
窓の外からデイトナの頷きを確認して左折の為にハンドルを動かす。



――トラックが左を向き、そして曲がり角へと突き進む――



ブオォオ!!

曲がり角へと進んだトラックの背後を通り過ぎるのは、赤い塊であり、それは飛行蟲の贈り物である。

着弾地点である地面を焦がしながらも、そんな事をこの巨大蟲が気にする事は無い。
と言うよりは、気にするだけの知能を持っているかどうかも疑わしい。



―― 一度大きく羽ばたかせ……――

裏路地バックアレイから大きく上昇し、建物の密集地帯コンサートレイションエリアから抜け出す。
だが、決してこれは情けでは無く、一種の準備に過ぎないのだ……



――敵車両は……――

諦めと言う言葉を知らないらしく、未だにミレイの後を追い続けている。
曲がり角でもしっかりと曲がり、決してミレイを離さない。



(今は……あの蟲みたいなのいないみたいだね……)

デイトナは上体を車外へと出した格好で夜空を見上げるが、そこにあの飛行蟲の姿は無く、
この一時いっときに限れば、多少安心しても良い時間であると頭の中で整理する。

勿論だらだらと身体を休める為に使う時間では無いのは確実にデイトナは分かっているはずだ。
目をつけたのは……



σσ 後方から迫る敵車両エネミーズマシン……



何かを思いついたのか、矢を右手に持ち、再び弓の弦を引っ張ったのだ。
狙う場所は……



――だが、最前列の敵車両の窓から男が身を乗り出し……――



「何狙ってやがんだおいい!? ち殺してやんぞゴラァ!」

トラックの右座席の窓から黒い拳銃を持った男が身を乗り出しながら怒鳴り立てている。
ただ罵声を飛ばすだけならまだしも、その右手に持たれた武器は尋常では無い空気をはらんでおり……。



パァン!!

ガキィン!!



「!! ってちょっ何よ!?」

操縦に真剣になっていたミレイにも聞こえたであろう、銃声と着弾音に対して素直に驚き、
そして外に身を乗り出しているデイトナが心配になり、一つ大きな呼吸を行いながらデイトナを見る。



(もうここはやるしか……)

デイトナはミレイに声をかけられている事に気付いていないかのように、
弦を力強く引きながら、追いかけてくる敵車両にその緑色の瞳を合わせ続ける。



「さっさと殺してやん――」

身を乗り出した男が再び拳銃を吠えさせようとするも……



(これで……)

すぐ隣に着弾したであろう銃弾にもまるで怯みもせず、デイトナは風がしつこくぶつかる車外で
体勢を殆ど崩さずに、ゆっくりとやじりを下へ動かす。



―γ 口元がにやけ、白い歯が映り……

―γ 緑の瞳グリーンズキュートに強い光が走り……



(決めるっ!!)

シュンッ!!

パァン!!



◆― 矢と、銃弾アロー&ブレットが同時に放たれた…… ―◆

手動の矢より、火薬の弾丸の方が当たり前のように速度が高い。
だから、動きを視覚的に見せるのも弾丸の方がずっと早いと言う事になる。



■■ 弾丸は……/FORTUNE OF BULLET

矢を射て一瞬だけ気の緩んだデイトナの顔のすぐ右を通り、
すれ違い様に極めて小規模の風圧ミジェットプレッシャーを浴びせかける。

だが、オレンジ色に輝くセミロングの髪はそんな小規模ミニサイズであっても影響を受けるものだ。
だからこそ、小型トラックの走行による風圧ウィンドに加算されて髪の右部が乱れるかのように舞い上がる。



£ ってか、怖くなかったの?



■■ 矢は……/FATE OF ARROW

弾丸がデイトナの髪を乱し、そして遥か彼方へと消えてしまってから、矢は事を始めるのだ。

本来はアーチャーでは無いはずのこの少女のどこからとも無く引っ張り出された密かな技術が
一本の矢を的確な場所へと導いてくれたのだ。

それは、敵車両のほぼ最下部に位置する、あの部分・・・・である。



£ あの部分・・・・とは?



◆タイヤだ! それ以外に何がある!?◆

深く突き刺さった矢はタイヤの内部に蓄積されていた空気を見事に抜き取ってしまう。
やがて、高低差を保つ為にわざわざ四輪用意されていたタイヤの一つが欠けた事により、
車体のバランスが大きく乱れ始め、そこから面白くなっていくのだ。

――■◆ 狙われたのは、最前列を走行している敵車両であり……

――◆■ やがて操縦桿操作ハンドルさばきが指示を聞かなくなり……



キキィイイィイイ!!



バランスと言うバランスを散逸させた最前列の敵車両の向きがほぼ強制的に横を向かされ、
急激に方向を変換されてそれに対応出来なくなったタイヤが激しく地面と擦れ、
耳障りな甲高い音を周辺へと撒き散らすが、やがて新しい音ニューサウンドによる更新リニューアルが始まるのだ。

後方を走る連中も突然の変化には対応し切れなかったのかもしれない。
もう少し、注意力を光らせていれば、これからの惨劇を観る必要性は皆無に等しかったのかもしれないのに。



「やった……」

敵車両の集団の結末を目にしながら、デイトナは予想通りの展開に対して真剣な表情の中に笑みを浮かべる。
目の前に映る光景、そして衝撃音と言うのは……



ガシャァン!!

ガラァアン!!

ギギィイィイ!!

車両同士がぶつかり合う鉄と鉄の接触音や、バランスを失い隣に並ぶ建造物にぶつかり壁を崩す破壊音や、
衝撃や反動で横転する事によって地面を削る引き摺り音等、様々な意味合いを持つ音が響き渡る。

■■ 圧倒の一言だ/RAMPAGE!! □□

まるで連鎖反応のように、一気に敵車両の動きを封じ込め、脅威を完全に一つだけに絞り込む。
たった一本の矢でそこまで出来るとはデイトナも意外とアーチャーに向いているのかもしれない。



――背後をふと確認したミレイは……――



「ふん、デイトナもなかなかやるじゃない……。大分楽になったわね……」

ミレイの耳にもしっかりと背後からの衝突音が届けられていたのである。
音が気になった為に割られたドア窓から素早く後ろを確認し、デイトナの底力を褒めるかのように呟いた。

一瞬これならばアーチャーに移っても狩場で支障を来す事も恐らくは無いだろうとも考えられるようにもなっていた。



――さて、これで恐らくはあの飛び回るあの野郎・・・・だけになり……――



▼▼ デイトナの仕事はこれで終わったとは言えない ▼▼

ミレイは延々と操縦コントロールを続けてくれている以上、デイトナはあの巨大蟲ギグルバグを確実に仕留めなければいけない。
放置しておけば、いずれ焼かれるか、その他色々な仕打ちを受け、大打撃ハボックポイントこうむる。

背後を陣とっていた地獄の獄卒達を払い除けたデイトナは空中高くを飛行している可能性があると
あのはねの意味を純粋に捉え、ふと上を見上げる。
持ち上げられたあごの細いラインが多少ながらも魅力を撒き散らしてくれている。

「あの蟲どこにい――」



ρ デイトナの緑色の瞳に映る物…… ρ



ηη 落ちてくる、黒くて細長い物体……



ドスン!!

バン!!

落下地点はトラックの屋根――デイトナの間近とも言う――であり、突き刺さるように落ちて重厚な音を鳴らし、
バウンドもせずにそのまま屋根に張り付くように倒れ、そして再度重厚な音を一瞬だけ響かせる。

(な……何これ……?)

張り付くように倒れたその黒い物体をしばらく恐る恐る眺め続けながら、その小さな、それでも相当な質量を誇っているようにも見える
黒い塊から放たれるただならない空気を全身で強制的に感じ取る。

デイトナはそこでもう一つの発見をする……



ξξ 表面には細かい棘が生えており……



―ヒュゥン……

―ヒュゥウン……

空から聞こえる、優しく風を斬るような不思議な音。
だが、実際は優しいはずが無い。

すぐにその真相が明らかになるのだから。



ガァン!!

再び現れた塊がデイトナの左腕をかすり、そのまま地面へと落下する。

うわぁあ!!

久々に自分の身体に衝撃が走るのを覚えたデイトナは獄卒を追い払った勇姿を捨ててしまったかのように
思わず恐怖に襲われて悲鳴をあげ、同時に身も竦ませ、素早く一度車内へと上半身を隠す。

――左腕は何とかアームのおかげで直接的な損傷は免れていた――



「またあいつのしわ――」

ガァン!!

ミレイが『仕業』とでも言おうとしたのだが、屋根の上から響く硬い音がミレイの言葉を遮った。
デイトナほど驚いたとも言えないが、それでも反射的に小さくではあるが身体が飛び跳ねてしまっていた。



――驚きで一度強く閉じられてしまった青い瞳を再び開き、デイトナに問う――



「デイトナ何よ今の!? あいつの攻撃かなんか!?」

本格的に攻撃が始まったと察知したミレイは威圧的な空気をはらんだ目つきでデイトナを横目で見ながら
今の衝撃音インパクトエッジの発生原因を鋭く訊ねる。

「うんあいつの攻撃! 絶対止めるから安心して!」

一度は恥ずかしい事に、情けない悲鳴を飛ばしながら逃げ込んでしまったが、攻撃出来る存在は今はデイトナしかいないのだ。
崩れた精神力を素早く組み立て直し、再び車外へ上半身を出す。



バィバィバィバィ……



相変わらず煩いはねの音である。
響かせ続けながら、高度を保っていた飛行蟲はゆっくりと下降フォーリングし始める。
しつこくミレイ達のトラックの背後に付き、新しい攻撃の予備動作スタンバイを感じさせるのは気のせいだろうか?



「いい加減……」

デイトナは右手を引き、弦を引っ張る。



――感づいたのか、巨大蟲クラッシャーバグは突然上昇ライジングなんかを始めるも……――



落ちたらどうなの!?

蟲の急な場所移動にも動じず、デイトナは的確に照準を訂正し、右の指の力を素早く抜く。

ρρ 指の力が抜けたその後には……

矢が勢いを保ちながら目の前へと飛ばされ、忠実にその役目を果たそうと頑張ってくれる。
その役目とは、もう言うまでも無い……



θθ 剛蟲バグの腹部へやや深く突き刺さるものの…… φφ



ウ゛ォオ゛ゥァア゛ゥウ゛ォオ゛!!

まるで身体の奥から搾り出したかのような鳴き声〔と言うかこいつに鳴き声と言う概念があるかどうかも不明だが〕
を周辺に響き渡らせるも、その茶色く巨大な身体から見れば大した傷では無いらしく、
未だに平然と宙を飛び続けている。

だが、攻撃を受けて黙っていられないのが知能指数インテリジェンスパワーの乏しい蟲の凄い所であり、ウザい所だ。
 ガキのように仕返しの精神なんか持ってんのか?
  幼体≪覚えてるかい? あの四本脚で地面歩いてた砲台生物だよ?≫の丸い胴体に比べればかなり細く、
  そして長くなった胴体の後部を前方へ突き出すような格好になり始めたよ?
   翅の位置ウィングポジションが上部から後方に移っても尚飛行速度クオリティーを落とさないこの蟲こいつの戦闘力は恐ろしいねぇ。



□■ 突き出した後部先端が開き……/OPEN SHOTTER!! ■□

α - Command 開いた穴から現れる……

β - Command 黒くて多少小さな塊……

γ - Command 見れば表面が棘に覆われているが……



「げっ……」

生物の下部……と言うある意味で特徴的な部分から、デイトナはあの・・汚い行為を連想してしまい、
恐怖と、その他生理的な憎悪感から一瞬だけ緑色の瞳から生気を失いながら身を震わす。



――やがて黒い塊ブラックフィストが顔を出し続け……――



ηη 高速発射クイックランプ!!

とうとう飛ばされてしまった黒の物体がデイトナ目がけて飛んでいく。
巨大蟲ギグルバグの下半身先端から発射された物体が銃弾の如く、風を斬る。



ガン!!

「!!」

デイトナのすぐ隣に映るトラックの屋根を掠ったプレゼントは重たい音を響かせながらバウンドし、
そのまま前方のフロントガラスを超えて地面へと落下する。

思わずデイトナは飛んできた塊から回避する為にやや無駄ながらも身を反らす。



――すぐに反撃態勢へと戻り……――



「変なもん投げて来ないでよ!!」

その黒い塊ブラックプレゼントの意味を内心では嫌々ながら理解してしまいながらも、
デイトナは飛行蟲コゥスインセクトに向かって再び矢を提供する。

χ その少女の顔はどこか怒りに満ち溢れており…… χ

下半身から飛ばされ、尚且つ色が汚いとなると、きっとそれはイクスクリージョンイクスクリージョンたぐいである可能性が高いだろう。
仮にそれをデイトナが理解していたとしても、女の子がそんな汚らしい言語を口に直接出せるはずが無い。

だからこそ、緑色に染まっている瞳が鋭くなり始めているのだろう。
下品な奴は嫌われる。これはきっと女性の世界の掟なのだ。



ウ゛ゥア゛ァア゛ゥウ゛ゥウ゛!!

腹部に二本の矢ツインアローを刺した状態で飛行蟲ギグルバグはまるで自分の生命力を誇るかのように
再度聞き取りにくい鳴き声のようなものを響かせる。

痛み等、きっとこのバグの神経には伝わっていないであろうが、腹部を二度も狙ってくる小娘デイトナには憎悪を覚えていて間違い無いはず。



ββ ほぼミレイのトラックと同じ速度を保っていた剛蟲だが…… γγ



バィバィバィバィ……

バィバィバィバィ!!!



■◆ 一気に速度を上昇させる!!/RISING SORDID!! ◆■

はねに対して更なる力を注げば、追尾対象エスケープユニットのトラックを簡単に追い越す事が出来るだろう。
生体となり、その過程で細長く進化した茶色い胴体の下にぶら下がる四本の脚を無造作に揺らしながら傷の多少目立つ屋根を通り越す。



κκ 間近に寄られたデイトナに贈られる、蟲風圧バグストーム

「うっ!」

蟲の方も高度を上げた後にトラックの真上を通り過ぎた為にデイトナに直接その巨体がぶつかる事は無かった。
だが、はねから贈られる風圧には蟲独特のあまり愉快とも言えない異臭が含まれており、風圧に驚いた後に気付く可能性もあるだろう。



――◇ やがて目的地へと、身を止める/BIG FANG ◇――

背中を見れば、まるで破かれたかのように横へと開いた茶色い胴体部分から、翅脈しみゃくと共にほぼ無色透明のはねを窺い知る事が出来る。
だが、この巨大蟲キャノンインセクトの目的は自慢の背中の造りを見せびらかす事では無い。

背中を向けていては敵対者ヒューマンズに攻撃出来ない、出来るはずが無い、ってか出来てたまるか。
はねの力加減を器用に調整しながら方向転換ターンし、やがて走り続けるトラックと向かい合う。



「何よあいつ!? あいつ何する気よ!?」

車内でずっと操縦桿ハンドルを握り締めていたミレイはフロントガラス越しに突然現れた巨大蟲ヒュージインセクトを見ながら、
前方に陣とって次にどんな行動を取ってくるのか、そんな事を考え始める。



――だが、デイトナは車内へ戻らず、再び矢を握る――



「早く……落ちて!」

デイトナは今度こそは、と言わんばかりに再び矢を放ち、的確に蟲の腹部を狙い撃つが、
蟲はたかが矢の二本や三本で落ちたりはしない。

トラックの速度に合わせながらしつこく前部に付き纏い続ける。



ββ 何故か、蟲の砲台部分表面バズーカディバイションから煙が上がっており…… ββ



(ってかなんで煙上がってんの?)

デイトナは再び矢を再度取り出しながら、頭部から前方に向かって伸びた細長い砲台状の部分から
煙が立ち上がっている事に対して何かしらの違和感を覚え始める。



ρρ そう言えば、発射口ウェポンマウスからは炎が飛ばされていたが…… ππ





目の前に巨大蟲が陣とっていると言う変えられない事実に負けず、ミレイは操縦桿ハンドルを強く握りながら
疲れによって多少弱り始めているようにも見える青い瞳を左右へと向け続けている。

きっと逃げ道セーフティラインでも探しているのだろう。

(さっきからこいつ何考えてんのよ……。ああ気持ち悪……)



見れば見る程、ミレイの中ではとある嫌悪感が蓄積し始めるものである。
蟲の持つ怪奇グロテスクな茶色い甲殻や、細長く伸びた四本の脚も動物とは異なった質感センスがあり、
これまた気持ち悪い印象を受けてしまう。

だが、視聴的要素によって計画を破壊されてはたまらない。てのひらが汗で滲み続けていても、
操縦桿ハンドルを手放してはいけない。手放したらその時は……



――■■ 黄泉への直行ゲームオーバー・スマイルが確定する ■■――



等と下らない結末を妄想している間に、巨大飛行蟲フライングギグル発射口キャノンタッチ更なる変化テインティングストラクチャーが訪れていた。
白煙スモーク砲台部分キャノンパーツから立ち上がらせたままなのだが、流石にその状態ポジションを保持し続ける必要も無いのだ。

最も、それを詳しく確認しているのはミレイでは無く、攻撃をする立場にあるデイトナであるのだ。



(全然……落ちない……!)

そろそろ徐々に慣れ始めたのかもしれない弓を握り続けているデイトナにも焦りと疲労が映り始める。
必死で弦を引っ張っていた右腕にはかなりの負担がかかっていた事だ。

額当てのような形状のハンターヘルムの下から伸びたオレンジ色の髪から汗が流れる。
前方からぶつかる風でもその汗をぬぐい切れる様子は無い。
アームの端から曝け出されたそれぞれの腕の肩口も汗で濡れているのが分かる。



ο 何度も矢で攻撃していると言うのに、まるで動きを止める事をせず……



■■σσ そして砲台部分を見れば見るほど…… σσ■■

頭部ヘッドから伸びた砲台は白煙スモークを吹き出しながら、徐々に赤く染まっていく。
刷毛はけ色塗りペイントをしたのでは無い。
熱によって色が変わり始めているのだ。まるで高温の炎ブラストファーネスあぶられているかのように……



そんな事情もミレイは気付いておらず、後方へと流れ続けている建物達の間に逃げ道を見つけ、
操縦桿ハンドルに力を込め始める。青い瞳も一点に集中し始め、まるでこれからの予兆を思わせてくれる。

出来ればトラックによる体当たりで剛蟲ギグラーを撥ね飛ばしてやりたいとも考えてみるが、相手の移動速度も速いのだから、
それは叶わぬ願いと化してしまう。



「デイトナ! 左曲がるから注意して!」

ミレイは突然の左折カーブによってデイトナを振り落としてしまう事の無いようにと、右腕を伸ばしてデイトナの背中を
軽く叩きながら合図を送り、そして再び右手を操縦桿ハンドルへと戻す。



――やがて前輪も左を向き、それに従い車体も進む……――



合図を受け取ったデイトナも振り落とされぬよう、身体に力を込めて投げ出されないように気を配っている。
だが、飛行蟲フライヤーに向け続けていた緑色の瞳は何やら絶望的なものを映し出している。

ε ただ、曲がると言うこの一瞬の間に…… ε



υυυ 注目すべきは発射口バズーカマウス……

■◆■ 伸びた部分が真っ赤に染まり……     ▼▲ PAINTING HEAT!!

■◆■ 煙が立ち上がり……             ▲▼ NO TRANSPARENT!!

■◆■ とうとう先端から小さく火を噴き始め…… ▲▼ RED COUNSELER!!

□◇□ 唯一の救いは、このバグが曲がり角へと入らなかった事だろうか?
    ▲▼ You can't pass through despair.



砲台部分キャノンパーツの準備が整い、逃亡と追走エスケープ・アンド・チェイスを継続させている者達の空間エリアにとっておきをせようとする。
この短い時間の間に、飛行蟲フライングデーモンは欲望を果たす為の準備段階メンテナンス・フェイズ完了コンプリートさせたのだ。

■■ 砲台はそして怒号をまき散らす……/INDIGNATION!! ■■



空間に響くものは、極めて単純な効果音B・G・M……



ブオァアアァアアアアァアアア!!!!!

ドゥウウウゥウウウウゥウウン!!!!!



キキィイイイ!!



放射音……

      爆音……

            ブレーキ音……



直接目にすれば数秒後の未来すらも予測出来てしまうような、レッドオレンジの支配する高温の壁画クリムゾングラウンドが完成したのだ。

それを実時間リアルタイムで目撃していたのはデイトナであったが、ミレイはどうだったのだろうか……



烈火は業火へと変貌し――――殺し合いに参加しようとはしゃいでる――――不知火しらぬいのように楽しませてくれや!

                   ■■■■ In a blaze!!! □□□□

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