――『祭』ヲ今スグ破壊セヨ――

少女を生贄へと捧げる。これはもう言語道断。
何故まだまだ人生で未熟な女の子にそこまでの責務を背負わせる?

実は、ただの趣味が混ざっているだけに過ぎないのよ。
集団になれば突如凶暴化する男どもの腐った神経が生み出した魔の怪物サイクロプスなのです。

しかし、この一定化された概念ばかりに支配され続けていると思われるこの世の中では、
デーモンは必ず正義エンジェルにぶちのめされると相場が決まっているらしいのです。
歪んだ精神を所持した無法者アウトローを放置する訳にはいかないでしょう?

集団で囲まれてピンチとなったあの少女だって、助けられたと言えば助けられたのです。
ここで言えるのは、持つべきものは友、でしょうか?
大切な人が現れ、形勢逆転とでも謳うべきです。

しかし、囲まれていた少女はとある悪魔と不幸な共通点を持ち合わせていたのです。
そう、纏っているもの・・が……



■■ 赤殻蟹 εε CRUSTACEAN SHELL ■■

既知な話である可能性が極めて高いが、今改めて確認すると、妙におぞましさを感じてしまう。
そうである、今回どこからともなく蟲に掴まりながら空からやってきたミレイの親友である、
あの少女、クリスの纏っているものと、

過去にミレイの友人を射殺したあのノーザンと呼ばれる悪魔の男の纏っているものが一致しているのだ。

ノーザンはガンナー、クリスは剣士ではあるが、その区別は今ここでは問題にされない。

この事実をミレイはどう捉えているのだろうか?
親友が装備している物が友人の仇と同じと言う、この事実を。

いや、精神的にも頑強な力を持つミレイならば、いちいち友人を睨みつけたりはしないはずである。
今までここまで共に歩んで来れたのだって、きっとその精神力を持ち合わせていたからだ。

その友人の装備する赤い姿ラッキーフレンドが相棒のトラウマを引っ張り出す要因に結び付かなければ
これ程安心出来る事は無いだろう。
と言うより、姿そのものでその威圧感が根本的に異なるのだから、名前タイトルは同じであっても、
実際は完全に隔離された武具として考えても、それは案外間違いでは無いのかもしれない……。



ノーザンの纏う武具に属性スキルを名付けるとすれば……

分厚さハードボディ……

 堅牢さスロースタイル……

  凶暴性ブルタルアイズ……

   暴力性バイオレーション……

    威圧感ドレッドフル・マン……



逆に、少女クリスの場合はと言うと……

細さスレンダー……

 脆弱さウィークスタイル……

  俊敏性ディヴァインウィンド……

   瞬発力ノーガードスピード……

    謙虚性テンダーガール……





               ――もう、貴方の好きにはさせない……――
                δδ Unterwerfung δδ Frieden δδ
              σσ 必ず勝つ…… σσ 街に平和を…… σσ

           ≪≪ DEEP RED,SMILE AND CHUCKLE…… ≫≫







バィバィバィ……バィバィ……バィバィバィバィ……バィバィバィ……



夜空に弾けるはねの音。
巨大な身体にぶらさがる脚部。

そこに掴まっているのは、二人の少女である。
だが、ずっと掴まり続けてはいられない。

そろそろこの巨大な蟲の身に凄い事が発生するだろう。
地面と蟲の距離も大分縮まったと言える。
ついでにクリスとの距離も縮まっている。

地面が見えている以上、二人が取るべき行動とは……



「デイトナ! 準備いい!? そろそろ降りるわよ」

蟲の左脚に掴まっているミレイは蟲の右脚に掴まっているデイトナに向かって一つ声をかける。
ミレイの黄色い病衣の上に纏われている赤いジャケットが風でやや激しくなびいている。

「う……うん……」

デイトナの方はミレイとは異なり、まるで本当に覚悟でも決めるかのように声は弱々しく、
そして首だけは力強く縦に一度だけ振る。



バィバィ……バィバィ……ブォ……バィバィバィ……バィバィバィバィ……ブォ……



何やらはねの音の他に何か気体でも抜けるような音が混じっている。
しかし、今はその混ざった音は飛び降りを合図するものとは限らないだろう。
元々計画していた内容だ。状況が多少変わろうとも二人の思考は止まらない。



――ミレイの青い瞳が真剣に地面を捉え……――



「行くわよ!」

一度自分自身と、デイトナに合図を言葉で送り、遂に決断に入る。

「う、うん分かった!!」

デイトナもミレイの期待に応じ、蟲の脚を強く締め上げていた左腕の力をゆっくりと弱める。



――いざ……――



「ふっ!」

ミレイは地面に集中力を注ぎ、そのまま飛び降りる。

「はっ!」

デイトナも多少の不安を抱きながらも勇敢に飛び降りる。



――二人の身体が蟲の脚から離れ……――



――蟲の身体にとある変化が訪れ始め……――



ππ 真っ赤に染まり、煙が噴きあがる!!

ブシュゥウ……

まるで全身に穴が空いていたかのように至る部分から白い気体が放たれる。
身体に染みついた染まった赤と言う客観的に熱い雰囲気に違わず、直接触れればそのまま火傷さえ負いそうな印象がある。

この一秒に満たない短い予兆が新たな迫力シーンを呼び起こす。



――モウ……、ゲンカイ……――



――キズニ……タエラレナイ……――



――セイギョスラ……デキナイ……――



ヴオ″ォオ″オ″ゥ″ウウゥォ″ォ″オ″オォ″オオ″ォ″オオ″オ″ォオオ″!!!!!!

鳴き声なのかも疑わしい、火炎放射でもしているかのような空気が激しく流れ出るような轟音を響かせながら……



――はねの動きも異常な程に強くなる……――



まるで目の前の障害物を全て体当たりで破壊しながら突き進むかのように、
今まで見せつけなかった高速度ターボダッシュでその身体を前へと乱暴に走らせる。

――前へ……

――前へ……

――兎に角前方へ、飛行を続けるだけだ!



「って何!?」

夜空に轟音を響かせた飛行蟲フライングバグに驚き、クリスはさっき男達につけられた傷の映る顔で空を見上げる。
その時には既に蟲は空の中で暴走を起こしている最中だった。



―スタッ……

「っと……」

赤い装備を身に付けたクリスのすぐ隣に降りてきたのは、緑色の髪を携えた少女である。
来ていた赤いジャケットが下からの風の影響に耐え切れず、派手に舞い上がっていたが、着地と同時にすぐに重力に引っ張られる。

綺麗に膝を上手く曲げてしっかりと衝撃を吸収しているその姿がどこか強いものを感じさせてくれる。

―ダッ……

「!!」

狩猟用装備と呼ばれる武具を全身に纏った少女も特に身体に傷を負う事無く着地するものの、
ミレイと比べると少しだけぎこちない様子を感じ取れる。





「ってぇなぁ……あのガキふざけやが――」

起き上がるノーザンのすぐ真上をあの例の蟲が通り……



ヴオォオ゛オァア゛ア゛ァアアァ゛ア゛ア゛アアアァァ゛ァ゛アァァア゛ア゛ァゥ゛ウァアァ゛ア!!!!!

蟲の行き止まりと言わんばかりに、壁のように建造されていた建物がそこに存在するものの、
最早、暴走を開始した蟲にとってはまるでそれが行き止まりデッド・エンドの意味を示す事は不可能だろう。

いや、寧ろこの蟲にとっては一種の自信過剰が生まれているに違いない……

こんな風に、ね?



――ブッコワシテヤルゥウウウウ!!!!!――



いつの間にか地面に対して垂直に回転すらしており、飛行の為の唯一の器官であるはねが派手に円をえがいている。
これが体当たりとして成立するならば、ハンターにとって新たな必殺技デンジャーワードとしても恥じらいの無い存在となるはずだ。

だが、狙い場所は既に人間ハンターでは無く、建物デッド・エンドなのだ……



蟲の眼中に近づいていく、一つの建造物。
もう時期、生物の最期とは思えない光景が見事なまでに作り上げられるのだ。



――遂に、激突し……――







ブォオオァアアァアアアァァン!!!……

これは生物と、建造物がぶつかり合った音、と言えば決してそれは間違いでは無い。
しかし、もう一つ、付け加えるべき説明が存在する。



δ 爆音/ROAR δ

やはり、あの砲台のような頭部が示すように、生物と言う固体の中にとある機械兵器ガジェットシステムでも組み込んでいたのだろうか、
建物に接触すると同時にその蟲の身体が爆発し、周辺が炎に飲み込まれる。
まるで全身が爆弾そのものであったかのように、派手に燃え上がる。

―バチバチ……

その後に残るものは炎が弾ける悲しさすら覚える小さな音の数々だ。
まさか衝突の衝撃によって爆裂と爆音が響き渡るとは、きっと誰も思わなかったはずだ。

しかし、蟲にとっての惨劇は終われど、まだ別の惨劇は消え去った訳では無い。







空からやや豪快に飛び降りてやってきたミレイに顔を向けながら、クリスは笑みを浮かべるが、

「良かった! やっぱり来てくれ……て……!!」

今までの疲れがまだ消えてくれていなかった事だろう。
クリスは突然身体の奥から這い上がってきた疲労によって脚の力が一瞬抜けてそのまま倒れそうになってしまうが、
何とか力を注ぎ直し、倒れずに済ませる。



「クリス! 大丈夫!?」

目の前で親友が地面に崩れそうになった姿を見て、ミレイは反射的にクリスの身体を支えようと両腕を伸ばすが、
その前に自分自身で体勢を整えてくれたからゆっくりと両腕を引く。

「あ、うん……私、大丈夫だから……。ちょっと……闘い続きだった……んだけどね……」

再び深い呼吸を何度も続けながら、笑みを崩さずにミレイに自分の安否を必死に伝える。
上体が前のめりになっており、単独で闘わせ続けていたら最後はどうなっていたのか、無意識に連想出来るのが多少恐ろしい。



――二人の仲間に護られたクリスに対し、あの男・・・が……――



「ふん。てめぇらが揃ったとこでてめぇらの最期なんてもう決定してんだよ。強がんじゃねぇぞガキどもが」

既に立ち上がっているノーザンは、赤殻蟹キャップと言う白い仮面が特徴的なその部分の裏で目をぎらつかせながら、
三人の少女に向かって汚い単語がずらりと並ぶメッセージを飛ばす。



「あいつって、さっきワタシ達の事付け狙ってた男だよね?」

デイトナは素直に怖いと言う表情を作りながら、その緑色の瞳をミレイへと向ける。
彼女のオレンジ色のセミロングの髪も夜の風に揺られるが、髪自体も恐怖に煽られているかのように重たく揺れている。

「そうよ……、そんでもってあたし達、もう逃げられないわね……」

ミレイは赤殻蟹の武具を纏った凶悪な男、ノーザンから目を離さずに、デイトナへの返答として、ゆっくりと頷く。
そして、もう男を無視して脱出口を探す手段が存在しない事も伝えておく。



「おいてめぇ、強がってんじゃねぇよ。それよりてめぇにはあの牙・・・の借り、しっかり返さんきゃなんねぇしなあ。泣いたってこっから逃がしてやんねぇかんなあ」

純粋にあの時の状況と、犯罪性を少しでも考えれば、どちらに罪があるのかはもう目に見えているが、
ノーザンからしてみればミレイは自分に危害を与えた重罪人のような存在であるのだ。

「逃げる気なんて全然無いわよ。それに、クリスにも散々手ぇあげたみたいだしね」

ミレイは昔自分の友人を殺害した相手から逃げる様子を見せず、逆に正式に出会えた事を喜ぶかのように、
両手を持ち上げ、それぞれの手を握る。
まるで構えるかのように。

やはりミレイの青い瞳に映るのは、クリスの傷跡である。

「だけどミレイ、私は大丈夫。あの人単独じゃあ何も出来ない人だから、何も怖がる事は無いから!」

顔や脚に生傷を負っているクリスではあるが、ノーザンの性質を素早く掴んでいたらしく、
外見に似合わず戦闘力は決して高いものでは無いと自信ありげにミレイへと伝える。



――最も、一度地下施設で顔を合わせた事があったのだが……――



「なんも出来ねぇだとぉ……。お前マジで潰すぞてめぇ……」

一体自分がどこまで見下されているのだろうか。
それを思い浮かべたノーザンは怒りに身を震わし、力任せにクリスを始末してしまおうと両手を強く握り始める。

だが、距離が空いているのだから、襲って来られたとしてもすぐに反応出来るはずだ。

「潰せるものなら潰してみたらどう? たった今私に投げ飛ばされたくせに」

もう既に言葉だけでクリスを威圧するのは不可能に近い状態であるらしい。
クリスはその小さめな口で大きく呼吸を続けながら、離れた場所で、そして正面にいるノーザンを睨み続ける。



「ああなるほど、あんたってクリスに反撃されたって訳ねぇ。一応この際だから言っとくけど、クリスは優しそうな顔してるけど本気出したらそこら辺のチンピラぐらい簡単にぶちのめせんだからね? あんたのような乱暴者がいるせいで、あたしがそうやって色々教え込まなきゃいけなくなんだから」

クリスの強さに溢れた返事を聞いていたミレイはここにいるノーザンが何をされたのかを簡潔に悟ってみた。
やはりクリスのなかなかの鋭さを感じさせる体術はミレイの指導から得ていたようである。

ハンターのくせに人間との闘いもほぼ難なくこなすミレイらしい姿なのかもしれない。

(あ、そうだったんだぁ……、だから、クリスさんも……)

近くにいる狩猟用装備の少女こと、デイトナも上空から見ていたクリスの姿にようやく納得したかのように苦笑なんかを浮かべる。
多分デイトナはハンターではあるものの、確実に素手での闘い方等学習はしていないはずだ。

だからこそ、武器が無くても余裕で悪漢を払い除ける事の出来るこの二人に嫉妬を覚えると同時に、
やや乱暴さすらも感じ取れたのだろう。

だが、クリスは今回初めて見る顔だったのかもしれない。



「でも私なんかよりミレイの方がずっと強いんだけどね」

果たしてそれが事実かどうかはよく分からないが、ミレイよりも劣っている事を自分の口で言いながらも、
特にクリスの表情には悔しさと言うものが映っていない。
逆に、何故か爽やかな笑顔を浮かべている。

「糞どもが揃って自慢なんかぶっこぎやがってぇ……。ってやっと来たか……」

ノーザンの目の前で恐怖も弁えない発言を続ける少女達が原因で徐々に怒りが蓄積されていく。
しかし、何が来たのだろうか?



――何か大きな火器を担いだバンダナマスクの男……――



建物の影から、この空き地へとやってきた男を確認するなり、ノーザンは満足したかのようにそんな声を小さく洩らす。

「ノーザンさん、これであいつらに穴空けられますぜ? 一発お仕置きでも加えてやりましょうよ?」

バンダナマスクの男は火竜製猟銃スパルタカスブレイズを両手でノーザンへと渡しながら、
生意気な少女達を一瞥する。

「言われんでも分かってるって。こいつがありゃああの糞どもなんか……」







――ミレイは弓の弦を引き……――

いつの間にかデイトナから受け取ったのだろうか、弓を構えたミレイはまるで無言で
狙うべき対象にやじりを合わせ、重苦しい思考を捨てたかのようにあっさりと弦を引いていた右手の力を抜く。



ηη 矢は発射主アーチャー動作コントロールに素直に従い…… ηη



―ガィイン!!



□■ 矢が男の得物を弾き飛ばす!!/GUARD BRAKE!! ■□

「うあっ!!」

目の前に飛んできた一筋の矢がその細めな形状に似合わず、大きくて硬い印象を強く与えるボウガンを弾き飛ばす。
手元から離れた際の衝撃によってノーザンは低い声を張り上げる。

そのボウガンを渡したバンダナマスクの男は既に何歩か下がっていた為に直接衝撃とかの被害に遭う事は無かったが、
きっと、彼も驚いているに違いない。



「もうあんたなんかに人殺しなんかさせないからね!」

左手に持った弓をゆっくりと下げながら、ミレイはボウガンを使って遠距離殺人ファー・マーダープレイを開始しようとしたノーザンに一言罵声を飛ばす。
無色透明の汗の流れる横顔を見ると、もうこれから何が来ようとミレイが負けるような気がしないように見えるのは気のせいか。

今までの場面パストタイムを見ると、ミレイは対人戦や駆動車の操縦と言ったなかなか様々な才能を見せ付けているが、
これでもミレイは正真正銘の射撃手アーチャーであり、狩人ハンターであるのだ。

「ワタシはあまり貴方の事情は知らないけど、もう本当にやめにしようとか考えられないの!? 殺し合いなんかしてもなんも始まんないと思うわよ!?」

まるで今のミレイの射撃で本当のミレイの姿が弓使いであるかを改めて確認し直したデイトナは
思い切って無差別に街を破壊し続けていたノーザンを説得しようと試み始める。

前に出ながら必死に声を張り飛ばすデイトナのオレンジの髪が踏み込んだ反動で小さく揺れる。



「ふっ、てめぇ何生意気そうな事ほざいてやがんだよ? この俺に指図でもする気かぁ? 俺が本気出しゃあてめぇのそん腐ったづら一発で潰してや――」

バスゥン!!

ノーザンはきっとデイトナを殴り殺そうとでも考えていたに違いない。
一歩踏み出したのだが、直接ぶつかればただでは済まないであろうとある塊・・・・が地面へと深く突き刺さる。

迫力に押されたノーザンはその場でロクに進ませていなかった足を止める。



「ん? 誰よ今弾みたいなの撃ったの」

その地面に減り込んだ物の様子そのものはミレイだってしっかりと確認はしていたらしい。
まるで発射源を予め理解していたかのように、ミレイは後ろを向くが、







――少年の声が唐突に響き……――







「クリスぅ!! そこにいんだろぉ!? もう安心しろ!」

岩竜製の狩猟銃グレネードボウガンを抱えた蒼い装備の少年が石造の塀から飛び降りながら、
少女達三人の元へと駆け寄ってくる。

まるでこの少年がこの場の救世主であるかのような物言いである。

「スキッドさんったら……、えっと、来るの遅れてすいません!」

どうやらこの蒼い装備の少年の正体はスキッドであるようだ。
狩猟用の武具を纏った薄い赤髪の少女こと、ディアメルもスキッドと同じ石造の塀から降りながら謝罪をする。

少女の方はボウガンを持ってはいないが、スキッドの仲間として今は大切な存在位置にいるのは間違いないだろう。



――危うく撃たれかけた男はと言うと……――



「って……てめぇがやったのかぁ!? こん糞ガキがぁ!!」

武器も無く、ただ距離のある場所に立っているノーザンは発砲してきた人間の正体が少年スキッドであると知り、
怒鳴り声をぶつけてスキッドを震わせようとする。



「ああそうだよ、今撃ったのおれだよ。文句あんのかぁ!? ってかさっきの爆発のおかげで場所分かって良かったぜぇ」

スキッドは敵対する相手に一度蒼鎌蟹のキャップ裏で睨みつけながら、皆が集まっている場所を知った理由を説明した。
あの剛蟲の最期バーニングシーンが周辺への知らせのような役割を負ったのだろう。

「ありがと! スキッド君とディアメル。それと、私は大丈夫……だから!」

きっとクリスは突然離されてしまった二人の仲間に心配をかけていた事だ。
ここで謝罪の意味も混ぜた礼を渡し、一瞬疲労によって息を詰まらすも、すぐに整える。



「ふふ、スキッドったらちょっと見ない内に結構たくましくなってんじゃないの? ってか意外と近くにいたってのは都合良かったわ」

近寄ってくるスキッドに対してミレイは何故か無意識ながら、男らしさを感じてしまう。
地味にスキッドと再会するまでの時間は意外と長いものがあり、その影響影響だろう。

だが、アビスはどうなのだろうか。

「ってかあいつってなんかおれら捕まった時いきなしやってきたすげぇ奴だったんだよ。なんでこんなとこいんだよ!?」

赤殻蟹装備の殺し屋、ノーザンはスキッドにとっては面識のある存在だ。
そうである、その場所とは……



――ハンター撲滅委員会の地下施設……――



だが、今はここで詳しく記載している余裕は無い。

「あたしらもいきなり会ったのよ、あいつに。あいつのせいでアビスともはぐれるし、さっきまで街中無理矢理走らされてたしでもう散々よ」

ミレイも好きでノーザンと出会った訳では無いはずだ。
だが、結果として出会ってしまっている。

その結果として仲間とも離されてしまうし、体力を一気に持っていかれてしまった逃走劇カーチェイスまでさせられてしまう始末だ。
スキッドに対応しているミレイの現在の状態は一応は疲れを押し殺しているものの、
額や頬には汗の流れた後が残っており、直接触れれば簡単に手が湿ってしまいそうな様子である。



「そっかあ、ミレイの友達だったんだぁ、この人達」

近寄ってきたスキッドとディアメルをその緑色の瞳で、横目で確かめながらデイトナは手を貸してくれる存在が増えて一安心する。
厳密にはミレイと面識のあるのはスキッドのみではあるが、今は増えた人数に安心する方が先だろう。

ディアメルの話は後でゆっくりと聞けば良いのだから。

だが、デイトナは再びあの赤殻蟹の武具を纏った男、ノーザンに話し掛け始める。

「あ、それより……、えっと、貴方の名前はワタシ分かんないけど、正直言うともう貴方完全に追い詰められてると思うわよ? なんかさっきクリスさんの事集団で追い詰めてたみたいだったけど、結局本気出したクリスさんにあっさりやられてるし、武器無くなった途端になんか単純に怒鳴ったりしてるだけじゃん? なんかもう貴方に気ぃ使う気失せちゃった」

最初に話しかけていた時に比べると、現在のデイトナの感情はやや薄暗いものを覚えさせてくれる。
説得しよう、と言うよりはもう手を出そうと言う意識すらどこかへと飛んで行ってしまっていると言った所だ。
ミレイと同年齢のその歳相応な、どうしようも無い相手に対する放置処分なのだろうか。



「あぁ? お前さっきから随分偉そうな態度取ってんじゃねぇかぁ、あぁ!?」

ここで直接会ってからの時間は決して長くは無いものの、デイトナの態度はノーザンを愉快にさせるものでは無かったらしい。
特に最後に聞いたデイトナの言い捨てたような言葉は尚更不愉快にさせる威力を持っていたのかもしれない。

「あのさあ、多分あんたのそうやって、なんか『あぁ!?』みたいな感じでやってくるとこについてデイトナ言ってんだと思うわよ」

ミレイは怯みさえせず、逆にその怯ませる要素を兼ね備えたであろうその一部分ポイントに視点を置き、
デイトナの態度の変貌ぶりをやや面倒そうな表情で男に言った。

男の台詞を再現する時だけ、声の高さを少しだけ上げる。

腕を組み、首を僅かに左へ倒しているその体勢が面倒そうな様子を説明している。



「お前もかぁ。こりゃあ殺し甲斐あるってもんだぜぇ。マジムカついてきたしなぁ」

ミレイまでもどこか偉そうな態度になったと察知したノーザンはその分だけあやめてしまった時の快感も
確実に全身を震えさせてくれるだろうと、何故かゆっくりとミレイ達の場所へと歩き出す。



――そう……、接近されればそれだけミレイ達にも危機が訪れるのだが……――



――しかし……――



「ってちょちょちょぉストォオオップ!! 何ちゃっかり近づこうとかしてんのよ? あんた単独で来たらどうなるかちゃんと分かってんの?」

ミレイは力強く右手をノーザン目掛けて差し出し、歩行を止めるようにとやや砕けたような対応を見せ付ける。
さり気なく近寄ろうとしてきた男を素早く止め、男の行動パターンを読み取る。



――それでも男は止まらず……――



「へっ! 今頃ビビったって逃がさねぇぜ」

怖がっているであろうミレイをこの場から帰さぬ為にと、どんどん一人と、そして少年少女の距離が縮まっていく。
その時間間隔が通常時よりも非常に長く感じられる。

「いや、そうじゃなくてさあ、あたしらの状況ちゃんと把握してる? 武器も無いのに遠距離近距離両方揃ってるこっちに呑気に近づいてみなよ。一瞬であんたアウトになんじゃないの?」

どうやらミレイはノーザンと言う、いつ殺戮活動マーダープレイを再開させてもおかしくは無いこの男に対して別に恐怖を
抱いている訳では無いようだ。

逆に自分達のある意味で整った装備状況を伝える事で、男の無謀と表現出来るかもしれないその行為を
事前に止めてみようと言う意気込みも見える。



「私だって……、ミレイには同感だよ。別に私は正直貴方の事……、武器でどのこのしようとかは思ってないけど……、貴方の行動次第じゃあ考え、変わるよ?」

ノーザンと同じ名前を持つ赤殻蟹と言う武具を纏ったクリスは、今までの疲労を堪える為に上体を前屈みにさせながら
ミレイに続くかのように苦しそうにその口を動かした。

きっとクリスは自分の得物で例え相手がノーザンであろうとも、人間を斬ろうとは考えたくないだろう。
それに、この銀色に輝く剣は……



――親友リージェから受け取ったものなのだから……――



狩猟の為に授かったはずの武器を単なる殺し合いの道具としては扱いたくないに決まっている。
しかし、世の中には本当にどうしようも無い時があるものなのだ。
そこがあまりにも残酷過ぎる……。



「だぜ? それにこっちゃあしっかりこん中に弾装填してんだから、襲ってきたって準備は万全なんだぜ?」

スキッドはグレネードボウガンの銃口マズルを持ち上げてノーザンへと狙いを定めながら、
脅しを混ぜて男の足を止めようとする。

スキッドだって少年でありながら、実質的には≪男≫と言う属性を持っている。
行動の大胆性ならば女性陣よりも強いものがあるのだろう。

「スキッドさん……、ホントに撃っちゃ、駄目ですよ?」

隣にいる狩猟用装備の少女であるディアメルは、スキッドが本当に発砲してしまうのでは無いかと一瞬悟り、
赤いその瞳を僅かに動揺させながらまるで確認するかのように、言葉を渡す。

「心配すんなって。保険だよ、保険」

スキッドだって今の状況は理解しているはずだ。向こうノーザンは武器も無しに近寄ってきているのに、
いきなり銃殺するのも人間として異常性があると思われる事を。

ただ、相手が予想もせぬ事態を引き起こしてきた時の為の備えであると多少静かげに返答する。



――しかし、男はいつその力強そうな足を止めてくれるのだろうか……――



「おっと、お前ら程度の臆病もんが俺ん事本気マジで殺せっと思ってのかぁ?」

ノーザンは初期に比べれば歩行速度を相当に落としているが、それでも完全には止めているとはまだ言えない。
少年少女を試すかのように口振りでスキッドの銃口マズルにも恐れる姿を見せつけない。

「臆病? あんたらがさっきクリスにしてた時と同じ状況じゃない? 今のこれって。集団で一人だけ狙うって言う、そう言うシチュエーション?」

ゆっくりと近づいてくるノーザンに向かって、ミレイは少し前に繰り広げられていたクリスの暴行の様子を思い出し、
今の自分達の立場が弱者(となりかけているであろう男)を陥れている側にいつの間にかなってしまっていると余裕げに口に出す。



――ミレイから勇気を受け取ったか、デイトナも……――



「だけどワタシ達は貴方達と違って簡単に相手の事殺して自分の力で支配するような真似はしないから。貴方達と同類だって周りから思われるのも御免だし、それに本当に殺し合ってそれで全部すぐに終わらせるよりは貴方の後ろにあるものもじっくり見てみたいし。きっと貴方の後ろにいる連中って、相当な人材揃ってるんでしょ?」

理性を捨て、本能気侭きままに他者の命を奪うやり方をデイトナは決して選択しなかった。
ノーザンの背後にいるであろう巨大な何か・・・・・を探ると同時に、一応は人間であるこの男を説得しようと言う意識も垣間見える。

今までの闘いの影響で肩をゆっくりではあるが、傍から見ても分かる程に上下に動かしながら深呼吸をしており、
肌を多少光らせている汗も額から頬に向かって流れ続けている。

「殺し合いかぁ!? それってテメェらもいっつもやってる事じゃねぇかぁ。飛竜しょっちゅう殺しまくってるくせしてよぉ。それと、俺の後ろかぁ? そりゃあすげぇいんぜぇ? 簡単に街一個ぐれぇ灰ん出来る奴とか、軍隊だろうがギルドだろうが簡単に皆殺しん出来る奴も、それに飛竜ん事操る奴だって、死んだ人間操る奴だってこっちにゃあいんだぜ? 下手にお前ら手ぇ出したら明日どうなってっか分かんねぇぞぉ?」

ようやくノーザンはゆっくりと動かしていた足を止めた。
その距離は手を前方に伸ばし、そこから駆け足で進めば数秒とかからずに辿り着ける幅である。

彼ら、彼女らがハンターである事を外見上の装備から判断し、飛竜を狩っていると言うその行為を、殺害行為と同類にする。
確かにそれは深く見れば誤りとも言えないのかもしれないが、そこに含まれる意味合いは確実に異なるものだ。

そして、実際に男の背後には強大な力が潜んでいる様子である。
相当に自信があるのか、腕を組み始めるが、その白い仮面の裏で笑っているように見えるのも実に不思議である。



――しかし、組織と、この男の言動を照らし合わせると……――



「って事はじゃあ結局お前ってバックに誰かいっから威張り散らしてるだけじゃねぇかよ?」

スキッドは背後の力を利用して自分の強さを誇張表現しているだけだと考え、
この場の状況と合わせると非常に挑発的な意見を飛ばす。

周辺に燃え移っている建物の炎とは別の明かりが遥か遠方から現れ始めている事はきっとスキッドは知らないだろう。

「自分だけじゃあ何も出来ないただの臆病者って訳ね。まあボウガンで狙われちゃあ溜まったもんじゃないけどさあ」

ミレイもまるでスキッドに付けたしでもするかのように、弓を左手に握ったままそう言った。
まるで他人の力に頼るかのような構えを気に入る事が出来ないに違いない。

だが、武器で物理的に狙われれば背後がどうであれ、恐ろしい事には代わりないのだろうが。



「へっ! 馬鹿が。所詮お前らだって同類なんだよ。仲間が横にいるからそうやって偉そうにほざけんだろ? もう言い合いも飽きてきたぜ……。もうそろてめぇら誰でもいいから思っきし殴ってやりたくなってき――」





――何故この男は突然口を止めてしまったのだろうか?――

やはり、攻撃を加えた瞬間にボウガンと弓の餌食になってしまう事を恐れてか?
それとも、背後にいるであろう仲間を引き連れてもっと大胆な仕返しでも考えたのか?
或いは、単純に反撃を受ける前に全員の動きを止める自信が無かったのか?

しかし、これはノーザン本人しか分からない事……
こちらが考えている余裕はきっと無いに違いない……





κκ その理由が今、ここで……



「……。てめぇらぁ、また仲間呼びやがったのかぁ……!」

一体その予兆はどこから響いてきたのか、ノーザンは更に増えていくであろう相手の仲間によって、
抑えられていたかのように思われていた怒りが再び込み上げるのを覚える。



「何? またなんか変な因縁つけてくる気? 別にあたしらテレパシーとか持ってないから特定の場所に呼び出したりなんて出来ないんだけど?」

ノーザンの態度には慣れてしまったのか、ミレイは多少その青い瞳を細めながら
勝手に決め付けられたその行為に対して反論する。

「でもなんか聞こえてこねぇか? なんか聞き慣れたようなぁ……エンジン音みてぇな?」

スキッドはまるで正体を知っているかのように、周辺を軽く見渡しながら、その正体を口に出す。
確かに聞こえなくも無いのかもしれない。



―ブォオオオン……

小さいが、確かに気体が小さく揺れるような低重音が響いている。
恐らく、そのスキッドの予想は間違っていないのかもしれない。



――しかし、音の正体を説明したスキッドが引き金となり……――



「やっぱてめぇら仲間呼んでたんじゃねぇかぁ! この卑怯もんがよぉ!!」

恐らくはノーザンはスキッドが音源の正体を知っていた事により、そこから召喚していた事を悟ったのだろう。
しかし、呼ばれて困る程、男の実力は低いものなのだろうか。



――結構な至近距離で罵声を浴びせられているものの……――



「ってなんでいきなりそこで怒鳴んのよ? 仲間なんてそっちにもいたじゃん? まさかいきなり形勢逆転でもされて怖くなったりした? 案外弱いんじゃないのあんた」

何故か一瞬、ノーザンの本当の本性を見抜いたかのように、思わず笑い出しそうになるのを堪えながら、
ミレイは首を軽く傾げながら平然と怒鳴り出したノーザンを青い瞳で捉え続ける。

「散々俺ん事コケにしやがってぇ……!」

そこに含まれる感情はきっとノーザンにしか分からない。そして・・・、知られてはいけない。
何があったのか、折角距離を縮めていたと言うのに、ミレイ達から離れるように、ゆっくりと後退する。



「やっぱり、全然弱いんじゃん……」

デイトナもここで久しぶりに口を開くが、ノーザンにとって好ましい台詞では無いのは確実である。
きっとデイトナにとっては外見だけで、実際はその外見に似合ったものでは無かったと思ったのだろう。

「……」

ここで何故かノーザンは一言も言い返して来なかったのだが、理由はある意味で明白過ぎたのかもしれない。



――男は拳を握り締め……――







ψψ 飛び込んでくる!!/FIRE ATTACK!! ψψ



やっぱ死刑んしてやらぁ!!

ノーザンはきっとデイトナを気に入らない存在として密かなリストに登録していた事だろう。
もう情け等必要無い。

「!!」



――伸ばされる右腕……――



狙われたデイトナは短い時間の中で自分の行為を恨むも、唐突に自分に向かって飛んでくる暴力行為バイオレーションに対し、
何故かけようと言う意識選択を取る事が出来なかった。

ただ、両目を強く閉じるだけだ……



まるで集団に飛び込むかのようだ。
後一秒と経たない内にデイトナに傷が付けられてしまう事だろう。

男の本性がここで一気に曝け出される……



「やめて!!」

その声はデイトナの制止の叫びでは無い。
クリスの勇気の籠った叫びである。

この≪叫び≫と共に表に現れた一つの行動。
これが言葉の通り、男の一撃を受け止めたのだ。



――クリスは男に反応して素早く目の前へ現れ……――



λλ 赤殻蟹の甲殻を信用するかのように……
οο 両腕に力を注ぎ込み……



―ガァン!!



硬い物がぶつかったようなその音は、その場のシチュエーションを良く観察さえすればすぐに原理が分かるものである。



βββ

クリスはまるで顔面を両腕で保護するかのように覆い、その状態で男の拳を防ぎ切る。
武具によって威力を底上げされていたであろうそのノーザンの拳は呆気無くクリスの両腕で止められてしまっている。
男はまるでたかが少女相手すらも押し退ける事が出来ない事に絶望しているかのように、右の拳をぶつけたまま、
身体を硬直させている。

クリス一人の力がデイトナへの攻撃を防いでくれたのだ。

δδδ



「危ないよ……。なんで突然殴りかかってきたかよく分かんないけど、もう力だけじゃあどうしようも無いよ!」

クリスは両腕で自分自身の顔面を隠すと同時に、男の拳を受け止めたその状態のまま、
赤い甲殻の纏われた両腕の隙間から、ノーザンを強く睨みつける。





―ブォオオン……



空気を震わすような低重音がより近づいてくる。
やはり、近くに来ていた何よりもの証拠だったのだろう。

いや、近づいている・・・・・・、と言うよりは……



この広場の入り口とも言える場所から入ってくる、濃い緑色の駆動車が一台。
屋根は取付けられておらず、座席が外に曝け出された特殊な造りだ。

そこに乗っているのは、単刀直入に言えば、六人である。

―― 猫が一匹

―― ハンターらしき人間が四人

―― そして、ハンターかどうか疑わしい人間が一人……



それらを乗せたジープは排気エンジン音を響かせながらクリス達の元へと、速度スピードを緩めずに迫ってくる。
だが、確実に轢死れきしさせる事が目的では無いのは確かだ。
操縦しているのは、猫であるが、きっと物騒な意識を持っていないだろう。



「クリスぅ!! お前今までどこ行ってたんだ!?」

ジープを停車させず、走らせたまま、操縦している猫が多少低めな声を張り上げながら、
一人の少女に向かってある意味で怒りも混ぜたようなものを飛ばす。

小さな前足ながらも、力強く握られた操縦桿ハンドルが微調整の如く、左右に小刻みに曲げられている。
夜と言う光源の少ない地帯である為か、クリスからはその猫の表情を窺い知るのは難しいかもしれないが、
多分怒った表情を作っているであろう。



「あ! エルシオさん! そちらも無事だったんですね!」

クリスは両腕でノーザンの拳を受け止めたままの体勢で乗車しているアイルーこと、エルシオに明るい笑顔を見せ、
そしてその拳を伸ばし続けているノーザンを力強く押し飛ばす。

「けっ!」

いきなり少女らしかぬ力で押され、クリスの思い通りに後退させられたノーザンは思わず舌打ちをする。



――やがて、ジープはクリス達の隣にまでやってくる――



軽く地面にタイヤが擦れる音を響かせながら、ジープは完全に停車し、
運転手ドライバーであったベージュの毛並みを持つアイルーであるエルシオは止まったジープから軽やかに飛び降りる。

「ホント心配したんだぜぇ? お前、いきなり姿消しやがって。連中にやられたかと思ったんだぞ? 事件ってのは大抵女は危険だから、あんま心配させんな」

アイルーと言う猫のような種族と言う都合上、エルシオにも視覚的な愛嬌は充分に備わっているとは言え、
今の言動を見る限りはとても可愛いとは言い切れない。

地面に降りたエルシオの身長は人間としては多少小柄であるクリスでさえも比べるべき対象にはならず、
上に向かって見上げた体勢で叱り付けるような台詞を飛ばすも、迫力さに多少欠けている。



「あ、ミレイ! お前もこんなとこいたんだな! 良かった良かったぁ」

アイルーであるエルシオを除くと人間は五人と言う計算にはなるが、ミレイに対して反応したのはアビスである。
事情がどうであれ、他の四人は武具で身を固めていると言うのに、アビスだけは青いジャケットなんかである。

明らかに戦う格好では無い。

だが、ミレイと再開出来た事がうれしかったのか、そのままジープの荷台から飛び降りる。
とは言っても大した高さでは無いのだが。



「あぁ良かった……。とりあえずあんたは無事だったのね……。まあフューリシアさんがいたからね」

ミレイもアビスと再開出来た事に一種の喜びを感じたようではあるが、
それよりも、ミレイにはこの油断の許されない空間で無事でいたアビスに安堵感が込み上げるのも覚えた様子だ。

表情を緩めたものにしながら、きっとまた誰かに助けてもらっていたのだろうと想像してしまう。



「途中でその男の仲間が攻めてきたが、簡単に仕留めておいた。わたしの方は心配する必要は無いぞ」

同じくジープの荷台に乗っていた一角獣の武具を纏った女性、フューリシアも降りながら
ミレイに自分達が無事であったその事実を伝える。
だが、この場に来たと言う時点でそれが充分な証明であるとも言えるが。

それでも大分だいぶ前のバイオレットとの戦闘で傷ついたその身体、特に肌の露出箇所の多いこの防具が原因で、
肌そのものの傷も多く、至る所にガーゼや包帯による処置が施されている。
身軽さを狙った故の代償か。

「所で、そこん奴、前オレらが会った奴じゃねえか。あん時ゃオレらん事ボウガンなんかで殺そうとしやがって。でももうオレらも容赦しねぇぞ?」

ある意味ではジープに乗っていたハンター達の中では外見的に相当な威圧感を誇っているであろう、双角竜装備を装備した男が
ゆっくりとジープの荷台から降りながら、ノーザンと言う名の赤殻蟹装備のガンナーを鋭く捉える。



λλ ノーザンはその目で嫌々ながらも、捉えてしまうのだ…… λλ



――双角竜装備フローリックの背中にある、鬼神斬破刀……

――雪獅子装備ジェイソンの両手に握られた、インセクトエッジ……

――恐らくは認識が薄いであろう、黒色鎧壁竜装備ギルモアに背負われた、ブラックアーツロア……

――一角獣装備の女性フューリシアに背負われた、レックスタンク……



今、まるで武器を持っていないノーザンにこれら武器を持った四人の狩人ハンターズが牙を向けば、
もう彼の運命は考える必要も無くなる事だ。
簡単に予測すら出来てしまうのかもしれないのだから……。



きっと恐怖なんかを覚え始めてしまったであろうノーザンに対して、この街の惨劇全てを償わせるつもりであるのだろう。
その第一歩を感じさせるかのように、一人目の男がそのノーザンに対して飛竜用双剣デュアルエッジを向けながら、近づいた。



「またミートしたなぁ、この赤フェチよぉ。この前はおれらボウガンでキルしようとしてたみてぇだが、ここで形勢逆転、ルックさせてやるぜぇ?」

ジェイソンは両手の刃を空中に軽く投げて回転させながら、まるでノーザンにあの時の仕返し・・・でもするかのように見詰める。
雪獅子ヘルムを嵌めたままである為、その表情は残念ながら窺い知る事は出来ない。

赤い甲殻に身を包んだ姿を見て、きっと偏った嗜好を持っていると読んだのだろう。



――やはり、地下施設アンダーグラウンドでの銃撃戦スクリームを忘れられなかったに違いない……――



「えっと……、おれはあんまり事情は理解出来ないんだが、まあとりあえず平和に! そして話し合いで平和に解決しようでは無いか!」

黒く、そして横にも迫力を添えた幅を誇るグラビドD装備を纏ったガンナーのギルモアは、
その外見的な迫力を打ち消すかのようなやけにオドオドした感じの態度でノーザンを説得しようとする。

ブラックアーツロアと呼ばれるヘビィボウガンは敢えて展開せず、手振りだけの動作を見せる。



「何だか一人狙いと言うのも気が引けるが、こいつの仲間のせいでわたしは手負いの姿になった訳だ。しっかりと話を聞かせてもらいたいものだな」

女性なのに男性に近い喋り方をするフューリシアも背中のライトボウガンを発動出来る状態にはさせていないものの、
よほどバイオレットに付けられたほぼ全身に浸透している傷に怒りを覚えているのか、
それを全てノーザンにぶつけるかのように指なんかを鳴らしている。

腹部や太腿に巻かれた包帯も何故か傷の手当ての証拠では無く、ある意味で装飾品の一つとしても見受けられてしまう。

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