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悪臭を好む人間なんて、世界で何人ぐらいなんでしょうか?
いや、世界規模で考えれば、何十億人もの人間がいるから、何万人かはいてもおかしくないのでしょうか?
それより、悪臭の基準とは何なのでしょうか?

そもそも、どうして匂いと臭いで区別されているのでしょう?
読み方はどちらも『におい』で通りますが、意味合いを辞書で調べると差別化をされているのが分かります。

人によっては特定の臭気に対し、それを悪い臭いと捉える事もあれば、良い匂いと捉える人もいます。
そして、一般的に良い匂いと思われるものが、一部の人間には悪い臭いと捉えられる事もあるでしょう。

何が良くて何が悪いか、それは個人個人の価値観で決まると言っても過言ではありません。

では、料理の香りは必ずしも、全ての人間に高評価を頂けるのでしょうか?
乾酪チーズや納豆、榴蓮ドリアンの香りを嫌う人間は多いはずです。

それは口に入れる物から放たれる臭気でありながら、人体に害が及ぶと連想されるようなレベルです。
臭気が放たれる食べ物は、確かに強烈なものを感じますが、それを好む人もこの世界には必ずいるのです。
全ての臭いには価値があるのです。

ですが、この世界では誰が見てもただの悪臭でしかないようなものもあります。

では、女性の付ける香水がいい香りだって誰が決めたのですか?
あんなの、周りがそう言っているから、流されているだけじゃないのでしょうか?

そして、排泄物が臭いって、誰が決めたのでしょうか?
多分、周りが嫌な顔を浮かべてくるから、流されているだけじゃないのでしょうか?

ただ、この排泄物とは、下品な単語の最上級クラスに君臨するような言葉です。
安易に公共の場で使用すれば、周囲から嫌われてしまいます。
他にも、性器を使った言葉も、殆どの場合、それらは下品な言葉として認識されてしまいます。

桃毛猿は、恐らくそれらを全て凝縮させたような汚い怪物です。
排泄物や性器、汚物を妙に巧みに扱う憎い奴です。
どう考えても、女性からの人気を得るのが難しそうな怪物です。

だから、通常は女性のハンターが最も戦いたくないと候補に挙げられるようなモンスターだ。
それが今、このダンダリオンタウンにいるのだから、それは悪夢としか表現する事が出来ない。

 

     それでは、早速本題へと戻っていこうか……

 

 

 

 

γγ 桃毛猿はバランスを崩し、屋根から地面へと落下してしまう

『グァオォオ!!』

きっと、桃毛猿もこのような形で地面へと降りると思っていなかっただろう。
身体と擦れて砕けた建物の破片と共に、その巨体が落ちてくる。

 

――地震を思わせる轟音サウンドが、2人の視界に入る……――

 

ただ唖然としながら、落下した姿を見ていた2人であったが、油断はしていなかった。
それぞれ刃の閃く武器を持ち、いつ襲われても良いようにと、構えている。

「落ちるなんて、結構ドジな奴なんですね」

「お前がモンスターになったらああなんじゃねぇのか?」

仰向けに倒れていた為、身体を横に回し込みながら起き上がった桃毛猿の姿を見ながら、
コーチネルはその相手の鈍い姿に向かって嫌みったらしく言いながら、クルーガーを横目で見た。

クルーガーからは、直接悪口に近いものを言われる羽目になってしまったが、少女はどう捉えるのだろうか。

 

――ξξ 眉間だけでは無く、大きな鼻の周りにもしわが寄り始め…… / EFFLUVIUM BATTLE!! ■▼

落下の失態トライフリングフォールを見られた事に羞恥心でも感じたのかもしれない。
羞恥心を痛憤に転換させ、誰も知らない主の命令ルーラーズコントロールに従い相手を叩き潰すのだ。

命令には絶対服従なのかは分からない。しかし、目の前には先程逃してしまった少女の姿がそこにある。
町中であっても、そこに獣の規則ダウトフルオーダーは無い。相手がいれば、ただ叩き潰す、それだけだ。

そうである……

叩き潰す……

叩き潰すビーストビート……

叩き潰すロックビート……

 

◆υ 2人目掛けて襲い掛かった!! / FAT DEATH!! δ◆

『ウゴォオォ!!』

野太い猿のような鳴き声を散らしながら、前足も使って2人目掛けて接近する。
接近するとは言っても、殆ど突進のようなものと見て全く間違いでは無い。

 

―― 待機→突進直撃 = あの世送りザ・ワースト・ヘビー・イクエイション ――

それが分からなければ、武器を持つ資格は無い。
資格がある者達は、その後どうすべきなのかを知っている。

「来たか猿野郎!!」
「ゲームの始まりね!!」

クルーガーとコーチネルは、桃毛猿から逃げる所か、真っ直ぐ立ち向かい、それぞれの得物を光らせる。
ぶつかって相手に対抗しようという愚かな意識は持っていない。
正面からずれるように動き、両者とも、すれ違うように相手を斬りつける。

αα 1人は、鬼神斬破刀を使い、大きな切り傷を作り上げ……

ββ 1人は、イノセントブレードを使い、小さくも、華麗に相手を攻撃する……

まともに正面を見ていなかったから、直進しか出来なかったのだろうが、それは相手への攻撃の許可のようなものだったのだ。
脳天を使って頭突きでもしようとしていたのかもしれないが、届かぬ願いだった。

 

「案外よえぇかもしんねぇなぁ! でけぇだけでいい気になんじゃねぇぞ!」

右の前足を斬りつけたクルーガーは、橙色の目で背後を睨み付け、同時に地面に倒れ込んだ桃毛猿を甘く見始める。
過去に戦った経験は無かったのだろうか。見るからに脂肪で溢れている桃毛猿に恐怖を感じる気にはならなかった。

「でもあいつ汚い攻撃してきますから注意して下さいね!!」

両手に持った双剣を両手それぞれで起用に回転させてこびり付いた血液を振り払いながら、
コーチネルは自分の経験を踏まえた上で、あの桃毛猿の脅威を教え込んだ。

 

――いつまで桃毛猿は尻を向けているのだろうか……

 

『ウゴォウ……』

不細工な声を出しながら、前足後ろ足をドタドタさせながら振り向いてくる。
身体に傷を付けられているが、桃毛猿にとっては致命傷では無いのである。

振り向いた場所には、あの憎い人間の姿があったのだ。
もう桃毛猿が再び狙い直す対象は決定した。

 

「っつうかあいつら遅せぇ……ってやっと来たか」

クルーガーは、爪の鋭い前足を地面に叩き付けながら歩き始める桃毛猿を見て、ふと仲間を思い浮かべたのだ。
しかし、やや遠くに建てられていた2階建ての民家の窓を見るなり、そんな不安は一気に消え失せてしまった。

ρρ さて、再び斬りかかるべきか…… μμ

『グオァゥ……』

鋭角な爪ディバウアーハンドを使って斬りかかろうとも思っていたかもしれない。
桃毛猿は腹部に力を入れ始め、それを意味する未来とは……

 

υυ 腹部を風船のように膨らませる!! / STOMACHACHE CRISIS? οο

脂肪に包まれていながらも、柔軟な皮膚ソフトシステムで出来ているのか、空気が溜まったかのように膨らんでいく。
その膨張具合スウェリングレベルはただ膨らんだ、程度のレベルでは済まされない。

元々肥満化している腹部の2倍は下らない領域にまで、空気を溜め込んでいるのだ。
胸を突き出すような体勢を作り、腹部を膨らませ、そしてそのままじっとしている。

κι 攻撃準備でも溜め込んでいるのか……

 

 

――しかし……――

ドスゥン!!

グァウ!!

背中に何かが突き刺さったのだ。
桃毛猿は折角膨らませていた腹を縮ませてしまい、同時に前のめりにバランスを崩しそうになるが、倒れなかった。

戦闘の場面ディスグレイスバトルでは神経も敏感になるからか、どこからその異物が発射されたのかを把握すると同時に、
一瞬でその発射された場所をあまりにも的確に発見してしまう。

 

(スキッドの奴よくやるぜ……)

金髪を携えたクルーガーは、建物の中から桃毛猿を射撃した仲間を眼中に入れながら、口元をにやつかせる。
近距離には近距離にしか出来ない戦い方があるが、遠距離ならではの長所もあるのだ。

 

ベージュの煉瓦レンガで作られた建物の窓に姿を見せていたのは、グレネードボウガンを持った少年だったのだ。
きっと、その家の持ち主から緊急の許可でも貰って入ったのだろうが、黒い帽子を後ろに向けた姿はどこか格好が良い。

「やっべぇなぁ……。気付かれたか……」

スキッドの事だから、命中ヒットさせた事に喜び、と言うよりは喜んだりすると思われていたが、
2階にいると言うのに、桃毛猿と目を合わせてしまい、何故か只ならぬ恐怖を感じ始めていたのだ。

視線自体アイズプレッシャーが、もう武器になっているかのような威圧感が流れ込んでいたのだ。

 

βω 獣の視線が物語をほざく…… / GOBLIN STORY ωβ

戦いに特化した獣は、主に脚力が発達するものだ。
何故なら、平面地帯フラットランドからしか攻撃が飛んでこないとは限らないのだ。

Zの値リリーフプレーリーを限定しないのなら、高所に立ち向かう能力も不可欠となる。
白い目玉はスキッドを見続けている。それは、後に彼の精神驚愕ハートバウンスを呼び覚ます事となるのだ。
鎧の甲殻で作られた白いボウガンを構えているスキッドは、猿に睨み付けられても、恐怖は覚えても攻撃の手は止めようとしない。

 

通常弾を即座に装填するスキッドの下では、両脚に力を込め始めている猿の姿があったのだ。
獣の脚力ビーストパワーはこういう場面でも脅威を放つものなのだ。

 

ウゴゥ!!

一度屈んだ桃毛猿は、真っ直ぐスキッドを眼中ターゲットに捉える。
窓から姿を見せているスキッドの高さなら、決して届かない距離では無い。

――茶色のジャケットを着た少年を仕留めたい……――

ベージュの煉瓦が美しい印象を持つ建物も、桃毛猿にとっては邪魔なる城壁クリーンランパートでしかない。
だが、獣はその程度で戸惑ったりはせず、ただ本能に従いその肥満体を動かす。

 

『ウォオォ!!』

 

ρρ 巨体を跳び上がらせる!! / FLYING BLUBBER!! μμ

太った身体からはやや想像し難い高さまで跳び上がり、山形やまなりを綺麗に描く。
その狙った場所は、スキッドの射撃位置フィクセイションガネリーだったのだ。

 

ψο 不細工な顔が顔面に向かって飛んで来る!! / STRANGE FACE!! οψ

猿のように、鼻の下が伸び、そして濃い茶色に染まった顔は、人間と比べるととても美形とは呼べない。
服の色であれば良いものの、それが顔の色であれば、とても恋愛等も出来るものではない。
狙われている側にとっては、それは溜まったものではないのだ。

「うわっ!! 危ねぇ!!」

桃毛猿から目を離していなかったスキッドは、すぐに行動を取る事が出来たのだ。
今まで戦ってきた精神は、どんな時でも無駄にならない。

 

――咄嗟に建物の内部へと隠れ、被害を最小限に!――

被害とは言っても、それはスキッド自身の話である。
桃毛猿を相手に、建物の被害を抑え込むのは難しい。

υυ 桃毛の身体が窓の間に突き刺さる!!

―ガシャァン!!

―バキィイ!!!

窓は激しく割れてしまい、周りに敷き詰められた木材や煉瓦に大きなひびが入り込む。
そのまま窓の内部へと侵入してしまおうとも考えていたのかもしれないが、
巨体が引っかかり、肩がぶつかりそのまま下へと落下していってしまう。

 

 

κ■■ 建物の内部では安堵の気持ちが流れていたが…… ■■κ

「こっわ……。大胆な事すんなぁあいつ……」

再び窓に近寄り、外の様子ラウンドセーフティをスキッドは確かめに行く。
さっきはそのまま建物の内部に侵入してくるのかと思ってしまったが、大丈夫だったのだ。

窓の下を覗き込めば、背中から地面に落ちてもがいている敵対者の姿イディオットファッティーが存在した。
スキッドはこの後どう戦略を取るべきかを考えている。

(やっぱここらにいた方がいいかもなぁ……)

迂闊に外に出ようとは考える事が出来なかった。
遠距離から狙えるのなら、わざわざ接近するメリットも無いと意識する事が出来る。

スキッドはその場を維持キープする事を決める。

 

 

▲▲ IN THE ROUND…… ▲▲

(他はまだ来ねぇのかぁ……)

崩れた体勢を整え、前足を握り締めながら桃毛猿は真っ直ぐとクルーガーを見つめている。

クルーガーは残りの仲間を考えているが、桃毛猿は敵対者に接触する事を望んでいる。
まだ時間が経っておらず、桃毛猿もまだ大した攻撃はしていない。

ならば、今度こそはと再び身体を走らせる。

 

ζζ 眠っていた燃料を搾り出す!! / REST FOOD σσ

目の前に石造りの塀ストーンウォールがあろうと、破片が散らばっていようと関係無いのだ。
あれば、破壊し蹴散らせば良いのである。

障害物を無視しながら突き進む為に、無駄な脂肪を蓄えているのだ。

―ドゥァン!!

石の壁を砕きながら、クルーガー目掛け……

 

◆ρρ◆ 豪胆な猪突を開始する!! / DIRTY BATTER!! ◆ρρ◆

『グオォオ!!』

前足と後ろ足が地面を叩く音が耳障りだ。
その不恰好な踏み鳴らしとは不釣合いな程に、真っ直ぐとクルーガーを狙っているのだ。

 

「来てぇんならさっさと来いや!!」

鬼神斬破刀を握る腕に神経を注ぎながらも、突進から回避する為に、目の前に来た瞬間を見計らい、左へとずれる。
銀色のピアスと、水色のジャケットもそれに付いていく為に、多少風に揺られながらも主の元へと戻っていく。

―ズズゥッ!!

桃毛猿は避けられた事に気付き、前足を強く地面に突き刺すように振り落とし、力任せに巨体の前進を食い止める。
続いて、停止によって安定性を手に入れた桃毛猿は、爪を制裁の槌クラウディアンガーへと変化へんげさせる。斬と打の連斬重打アトモスフェアトリミング ■γ――

 

――γ■ 

鈍く太い爪ヌートリションゴッドセンズ金髪の男オブスティネイターを見て無色の涎ニック・オン・ブレイズを垂らしている。
人間が相手を殴り飛ばすような動きで右の前足が持ち上げられ、瞬時に準備が整えられる。

「来やがったか……」

いつもは双角竜の武具を纏って戦っているが、今日はその防具は存在しない。
普段よりも身軽に動く事の出来るクルーガーは、攻撃を恐れず、後退をせず、その逆の方向へと踏み出した。

κμ 防御バックではなく、攻撃アクセッションの為の根性がそこにある! μκ

■□ 迫り来る太い爪ゼア・ソーズ・クラッシェド!!

上から下へ滑り流すように降りてくる爪には恐怖を覚えず、クルーガーは太刀を下から振り上げる。

キィン!!

戦士の刀ファイターパワー獣の爪インスティンクトが強い衝撃を伴いながら、接触する。
ぶつかる場所に角度があった為、雷の帯びた刃は桃毛猿の爪を受け流す事が出来たのだ。

腕に微弱な電撃が走る程の振動が走ったものの、クルーガーは今までの激戦を潜り抜けた精鋭である。
力を受け流し、太刀の勢いを殺さずに、桃毛猿の横腹を狙う。
流れるように、長い刀身を使い猿の身体を傷付ける。

 

――僅かに斬れ痕を残された猿は……――

 

『グゥアウゥ!!』

斬られた事にも動じず、続いて左前足をクルーガー目掛けてぶつけようとする。
もし接触すれば、クルーガーの身体には太い爪の傷ガッシュクレストが残されてしまう。

ブゥウン!!

狙い方が悪かったのか、クルーガーの背後にある空間を斬っただけで終わってしまった。
クルーガーの橙色の目ダイレクションは、次の攻撃を連想させている。
すぐに刃が鈍く煌く!!

「やっぱ鈍いじゃねぇかぁ!!」

掛け声が力の源となり、ほぼ向かい合った桃毛猿の腹部を次の攻撃目標とする。
ただ身体が大きいだけで、それ以外は劣っていると悟ったクルーガーの低い声がそのまま威力と化す。

 

κχ 茶色の腹部が斬り付けられる!! / STOMACHACHE OR PAIN? χκ

だが、怪物とも称させる強さクラスを誇るのだから、重症を負わせるには至らない。
それでも、身体に刃が通されたその精神的な打撃アタックフリンチは強かったかもしれない。

数秒ほど、その傷にたじろいでいたが、人間の目つきが気に入らなかったから、
悪臭の篭っていそうな息を漏らしながら、右前足を握り始める。

 

 

「ワタシの事忘れてない!?」

クルーガーの視界に入っていない場所から、聞き覚えの無いはずのない声が響く。
クルーガーは一体どこから声が聞こえているのかと迷ったが、突如桃毛猿がバランスを崩しかけたのである。

――予測は付いているが、まずは後退だ!――

まるで背中から突き飛ばされたかのように、前に数歩強制的に歩かされる桃毛猿であるが、二本足で立っている状態を崩さない。

(誰だよ……。ってコーチネルか……)

今この戦場にいるのは自分とあの少女しかいない。
だとすれば、もう直接確認を取る必要もそこにはない。

 

――少女の先に映るものは……――

 

(余所見ばっかするからよ!)

太刀と比較すれば、軽量でもある双剣を両手に握りながら、
振り下ろした右手に持った剣の上で、誇った笑みと瞳を作り上げる。

コーチネルは桃毛猿の背中を切りつけ、桃色の毛セキュリティーファーズに僅かな傷を作り上げてやったのだ。
毛皮に僅かながらの血液が滲んでいるが、まだ動きを押さえ付ける事は出来ない。
これでやられていては、町にまで繰り出した意味が無くなってしまうのだ。

 

『ブオッ……』

桃毛猿が背後を振り向き、身長差のある相手と目を合わせる。

「ちょっと……何よ……?」

灰色の瞳ダーク・キュートと、白の目玉ノー・ピグメントが互いに直視されており、片方はやや怯え、もう片方は怒りに満ちている。
無駄に厚い唇ボルガーリーチを自分の息でビラビラと揺らしながら、黙っているようにも見えるが……。

 

ηη 突然息を吸い込み始め…… / HALITOSIS CHARGE!! ▽▼

自慢の肺活量を見せ付けるとして、そこに戦闘面での長所があるのかは本人にしか分からない。
コーチネルを決して逸らさず見続けている目玉からも、囂囂ごうごうたる警告が飛ばされていそうである。

β◆ 身体もコーチネルを向き……

敵対者を精神的に苦しめるのも、獣の脅威というものだ。
息を吸い込んだのは他でもない。

 

 

――≪内臓物質からの変化気体ブレスケア・アスキング≫――

体内に溜め込まれていた臭気が口から吐き出される。
口の不健康カンタミネイション等が総合し、強さも決まっていくが、この獣の場合はそのレベルが異常だ。

一体どんな食生活を送っていたのか、どれだけ口内を掃除していなかったのか。

汚い茶色の気体ディケイブラストが口から放たれ、その汚辱のガスが少女に命中してしまう。

 

――外傷こそは受けなかったが……――

 

「うっ!!」

コーチネルは鼻に突き刺さるような異様な悪臭ファントムブレスをまともに浴びてしまい、自分を防衛する事で精一杯になってしまう。
臭いというレベルを通り越した激臭のせいで、次の攻撃を浴びせる事も出来なかった。

(臭っ!! こいつ息まで臭いっての!?)

好きで嗅ごうと思う馬鹿は普通いない。
恐らく、異性に求めたくない要素の一角として君臨するであろうその要素。

悪臭の篭った息セントクラッシャーを受けてしまい、戦闘中である事も忘れ、思わず硬直してしまう。

その硬直した少女を見逃さなかった桃毛猿は、攻撃の対象として外す事をしなかった。

 

――BROW!!――

 

桃色の前足ティックパレイドは、硬直していた少女を力任せに殴りつけようとする。
コーチネルは悪臭で悶えているが、何とか開いたその瞳は全てを悟ってくれた。

 

――σ 少女の瞳が咄嗟の行動を教えてくれる!! / GRAY CRYSTALS!! σ――

(ヤバッ!! 来るっ!!)

自分の武器と、装備の強度を信じ、イノセントブレードを交差させる。
それは自分を護る為に、咄嗟に思いついた愚策ではあるが、何もしないよりはましである。

それでも、ぶつかった時の衝撃は凄まじいものがあり……

 

「あう゛!!」

桃毛猿の腕力をそのまま受け止められるはずも無く、力にそのまま従うかのように、吹き飛ばされ、倒されてしまう。
武器こそ手放さなかったが、腕の痺れに悶えながら、だらしなく仰向けに倒れ続けている。

路地に向かって払い除けた桃毛猿は、恐らく頭を両端の建物にぶつけずに済んだ少女を恨めしく思っているかもしれない。

 

――ζζ クルーガーの目に映るものは…… / SWORD MASTER'S EYES ζζ――

「てめぇ! オレの子分に手ぇ出しやがってぇ!!」

背中を向けている桃毛猿を目掛けて、鬼神斬破刀を握る手に力を入れながら、眉間にも皺を寄せる。
桃毛猿は、コーチネルに打撃を負わせた事に満足でもしているのか、クルーガーには見向きもしていなかった。

これは良い機会ナイスタイムなのかもしれないが、クルーガーが喜んでいるとはとても思えない。不届き者クライマーに制裁を!!  ▽▲

 

◆□ 刃が

少しは桃毛猿を怯ませてやろうとも考えていたクルーガーであるが、桃毛猿は背後をまるで気にしていなかったのだ。
寧ろ、捻っていた身体をそのまま真っ直ぐに直すが、それはコーチネルと真っ直ぐ向かい合う事を意味していた。

――2足立ちから、4足立ちになり……――

普段は持ち上げていた上半身を、倒れ込ませるように地面へと叩き付ける。
クルーガーから見れば、茶色で汚い色を見せた臀部を突き出したような姿が見える事になるが、
攻撃を行う戦士の視線で考えると、姿や体勢ポスチャースタイルなんかに気をかけている必要なんて無いのである。

刃は臀部を横に斬りつけるが、何故かクルーガーの内心では少し気まずい気分が生まれていた。
最も、外観はただ脂肪が無駄に溜まった大きな部位であり、大して魅力すら覚える事はしないのだが。

 

ββυ 桃毛猿にも、その格好には明確な理由があり…… / JET THE REEK υββ

身体に力を込めたからか、思わず余計な場所にまで力が入ってしまったらしく、
体内に残留していた汚濁気体ノーズデモリッシャーが、排泄物を捻り出す穴から放射状に噴き出されたのである。

「うわっ!! こいつっ……!!」

クルーガーも、雑食と思われる獣のガスを受けてしまい、思わず鼻に左手が行ってしまった。
男であるから、流石にその臭気で失神する事は無かったのだが、桃毛猿はクルーガーを攻撃対象とはしていなかったのだ。

 

―― 桃毛猿は跳び上がり…… μμ

4本の足を使い、肥満……とまではいかないように見えるが、それでも痩せているとは絶対に思えない巨体を、
桃毛猿は跳び上がらせ、身体の部位全てが地面から離れた状態となった。

当然、真上に跳んだ訳ではなく、潰す相手を目掛けて、身体を宙に舞わせているのだ。

κ 目を開いた少女はと言えば…… κ

「随分な……馬鹿……ぢから……ね」

恐らく地面に向かって倒された時に強い力が加わってしまったのだろう。
背中と両腕の痛みに堪えながら、コーチネルは路地の入り口付近でようやく灰色の瞳を開いたのだ。
もう顔面及び、胴体を中心とした全身には黒い影シェイドバンダーが縫い付けられていた。

もしそのまま倒れ続けていたら……と考えると、動かずにはいられなかった。

上から降ってくるのは……太った桃色の毛を持った猿だったからである。

 


ξξ 茶色の腹が自分に迫り……

「げっ!! ヤッバ!!」

すぐに体勢を一度うつ伏せに変え、そのまま両手両脚を使いながら前に向かって突き進む。
その先は路地の奥であるが、そちらに逃げなければ桃毛猿の下敷きとなってしまうのだ。

倒れていた最中、両脚の状態に意識を向けている余裕なんて無かったから、恐らくは……
なんて考えている余裕も無く、すぐに路地に向かって飛び込む事しか出来なかった。

路地は人間一人が入るにはいくらか余裕のある幅を持っているが、
逆に桃毛猿であれば、頭しか入らない程の狭さなのだ。
逃げるなら、ある意味絶好の場所でもあったのである。

 

――本能だけを使い、飛び込んだ!!――

 

胴体は見事なまでに赤い鱗で護られた武具を纏っているとは言え、重たい装備ではなく、飛び込む事は困難ではない。
薄暗い路地に飛び込み、その細い身体が地面へと落ちるよりも早く、桃毛猿の身体が路地間近に落ちてきたのだ。

ドゴォオン!!!

ガシャァアン!!

巨体が地面を叩く音と、太った身体が路地の両端にある建物にぶつかり、煉瓦が崩れる音が順に響き渡る。
生暖かい体温から放たれた風圧が逃げたコーチネルの下半身を襲い込む。しかし、大きな打撃には至らない。

 

γγ 逃げた少女の行き先は…… / LUKEWARM STRESS γγ

「!!」

何も考えず、路地に飛び込んだ為、無造作に置かれていた木材とか、バケツとか、その他よく分からないような塊とか、
それらに邪魔をされながら、ようやく地面に身体が接触した、と言った所である。

おまけに、桃毛猿から放たれた生温い風圧は、コーチネルの下半身を襲い、スカートの中にまで侵入していたのだから、
違和感と言うべきか、不快感とも言えるべきものを感じていた可能性も高い。

 

――しかし、背後も確認しなければいけない――

 

「そうだ……あいつは?」

近くに転がっていた錆びたバケツを右手で払い飛ばしながら、立ち上がらずに後ろを見るが、
その瞬間に、コーチネルの表情が固まってしまう。

 

―◆◆ 目の前に、桃毛猿の顔があり……

ブゥオォオオ!!

顔しか通らない事に腹を立てているのか、悪足掻きでもするかのように右の前足を無理矢理伸ばしているが、
それがコーチネルに対する2発目の打撃手段になったのかもしれない。

コーチネルだって、伸ばされていた前足に気付いていなかった訳ではなかっただろう。
しかし、反応は遅かった為に、1つの悲劇ミドルワウンドがそこに生まれたのである。

 

桃毛猿の爪は太いが、先端は当然のように鋭い。
コーチネルを掴もうとしたのか、意図は不明だが、その伸ばされた前足が少女に悲劇を運んだのだ。
爪が少女の脚を掠る。

「痛っ!!」

直接脚に切り傷を付けられ、太股に走った痛みにコーチネルは思わず叫んでしまう。
ブーツの部分は強固な甲殻で護られているが、それより上の部分は剥き出しなのだ。
護られていないのに、攻撃されて傷が付かないはずが無い。

 

それでも重傷という段階には程遠い傷であった為、切り傷をまずは堪え、桃毛猿の手が届かない範囲まで、
一旦素早く立ち上がり、走りながら距離を取ったのである。

逃げる事ばかりを意識していた為、裏路地に転がっていた空き缶とかを蹴飛ばしていたが、気付いていなかったかもしれない。

ブオォオ!!! ブオォオオ!!!

逃げる少女ヒューマンズクオリティを何としてでも捕まえたかったのか、身体が路地に引っかかり、
これ以上奥へ進めない事を分かっていながら、右の前足で入り口周辺を引っ掻き回している。

 

■■ψ 少女はそこで一息を吐く事が出来るが…… / BREAK IN SHADOW ψ■■

「最悪……。なんてことしてくれんのよあいつ……、いったっ……」

黄ばんだ歯を剥き出しにしながら、厳つい顔付きで前足を振り回し続けている桃毛猿を遠くから見ながら、
コーチネルは左脚を同じ方向にある手で押さえ込んだ。
出血が酷い訳ではないが、あの鋭い爪で引っ掛かれれば、無痛として放置するのも厳しい。

しっかりと脚も護ってほしいとか、自分の纏っている装備を恨みながらも、
すぐに目の前の獣を大人しくさせなければと、すぐに気持ちを切り替える。

 

――イノセントブレードを再び強く握り……――

 

「でも……早く仕留めないと……!!」

脚の傷を一度忘れ、もがいている桃毛猿に向かって走り出す。

敵対者の爪インソレントパワーと対等にぶつかり合う為に、双剣の強度も高く精製されている。
肥満体質な相手フラッシーボディに負けていては、副隊長としての誇りプライドも腐敗してしまう。
それに、赤い鱗で作られたこの武具だって、実際は副隊長としての証拠でもある装備なのだ。

 

λλλ 横顔が語っている間にもう時は……

「いつまで……」

もうすぐ桃毛猿に到達するコーチネルであるが、近づけば近づく程、脚に傷を付けられた時の怒りが湧き上がってくる。
右の前足を伸ばしている姿があまりにも憎たらしかったようだ。

 

φφ イノセントブレードが静かに輝き……

「そこにいんのよぉ!!」

まるで自分を閉じ込めるかのように立ち塞がっていた桃毛猿があまりにも憎たらしく、
そして、桃毛猿の爪を狙い、薙ぐようにと、右手に攻撃命令ファイトコマンドを放つ。

ゆっくりと、路地の両端に位置していた建物を爪で引っかいていたのだが、
爪はイノセントブレードの一撃を受け、僅かに欠けてしまう。
まるでコーチネルの怒りがそのまま爪の損傷を意味したかのような光景であった。

 

『グオッ!』

しかし、爪には強度という防御面での武器も備わっているのだから、簡単には機能を失わせる事は出来ない。
近くに少女が寄ってきた事によって、仕留める為の労力や時間も減ったと錯覚し、今度は顔まで突っ込ませようとしている。

桃毛猿の猿そのものの顔が路地の奥、少女のいる場所にまで届くはずもないが、それでも望み続けているのだ。
路地の両端をすり減らしながら、徐々に少女へと辿り着こうとするが……

 

――仲間を忘れてはいけないのだ……――

 

「後ろも確認しろよこいつぅ!!」

桃毛猿の背後、即ち路地の外にはまだ金髪の太刀使いが残っていたのである。
水色のシャツを靡かせながら、狙い放題の背中を斬りつけたのである。

先程は、あの放屁による悪臭で多少苦しんでいたらしいが、もう復帰出来たのだ。
金髪が装着しているピアスも、たかが臭気程度では輝きを失わない様子だ。

 

▲▲ ρρ それは立派なご挨拶である / HELLO BY FORCE!! ρρ ▲▲

グァアアァアオウウ!!!

気まぐれな性格なのか、どちらにしても力そのものを暴力的な目的だけに使われては危険極まりない。
桃毛猿はたった今斬り付けてきた相手に照準を変更させ、力強く振り向いた。

桃色の毛で覆われた身体を大きく捻り、脂肪の溜まった身体を何とかクルーガーの場所へと向けるなり、
まるで天空から力でも溜め込むかのように、両方の前足を空へ向かって伸ばし始める。
ただ伸ばしているだけではない。後ろ足でバランスを取っているのは勿論、意味ありげな雄叫びすら挙げている。

 

「来るかっ……!?」

斬撃を浴びせられる近距離にまだいたのだから、そこで黙っていられるクルーガーではない。
ここで言う黙るというのは、相手の攻撃に怒りを抑える事ではなく、黙っていれば大きな打撃を負ってしまうという意味だ。

両腕、ではなく前足を伸ばしている姿は相手に長身の錯覚ポーズミラージュを見せ付ける。
錯覚を見せ、相手を怯ませている隙を狙い、本当は上から襲い掛かるはずだったのだ。

 

――全体重をそのまま武器にしようと……――

 

―◆◆ 一気に倒れ込む!! / FALLING PRESS!! ◆◆―

桃毛猿自身も痛みを受けているだろうと思ってしまうぐらいに、地面から激しい衝撃音が鳴り響く。
上半身を力強く地面に叩き落し、本当であればクルーガーを巻き込んでいたはずだった。

叩き付けた衝撃により、後ろ足が遅れて跳び上がり、力無く地面に落ちる。

後退したクルーガーには危害は加わらなかったが、目の前で激しい様子を見せ付けられれば、
心に何かを縫い付けられる事だろう。

 

「っつうか誰も来ねぇのか……。何して――」
「フレンド!! 遅れてソーリーだぜ!!」

うつ伏せに、攻撃目的で倒れ込んだ桃毛猿を目の前に、なかなか来ない仲間達に苛立ちや焦りを覚えてしまう。
クルーガーだって、1人で戦うよりはもっと数人と戦いたいという気持ちがあるだろうが、
そこにようやく現れたのは、赤い髪を持った仲間であり、そして親友でもある男だったのだ。

 

――建物の屋根の上から、声の主が現れる……――

両手には、コーチネルと同じタイプの武器、双剣を持っている。
名称は、紺角蟲こんかくちゅう黄甲蜂おうこうほうの翅を使って作られた武器、インセクトスライサーである。桃毛猿モンキー!!」

2階建ての屋根から助走を殺さずに飛び降り、日除けに作られた箇所に身軽に降り、更にそこから助走を一切殺さず、
今度はその日除けから、桃毛猿の背中を目掛けて飛び降りたのだ。

ただ降りるだけでは無く、両手の双剣を逆手に持ち、重力も味方に付け、自身に回転も加え、そのまま背中を攻撃対象とする。

 

「ハローだぜ

深紅の長髪と、龍の印刷された黄色のジャケットを重力加速で激しく流しながら、
その双剣使いは桃毛猿の背中を的確に突き刺したのだ。

特徴的な台詞と同時に刃は、桃毛猿の分厚い毛皮に突き刺さり、桃毛猿を更に動揺させてくれる。

 

――恐らく、現時点では最も高い攻撃力を誇っていたかもしれない……――

 

「よっと!」

いつまでも背中の上に降りている訳にもいかず、男性でありながら長髪を携えていた男は、跳躍なんかをしながら、
桃毛猿から降り、そして金髪の男の隣へと進んだ。

「ジェイソン遅っせぇって! 何やってたんだよ!?」

このままでは、ずっと後輩であるコーチネルと共に戦い続けるのだろうかと不安だったクルーガーだったが、
ジェイソンという心強い仲間が来てくれたから、一気に安心感に包まれたようだ。

決してクルーガーの表情は完全な怒りには支配されていなかった。

 

「バッドだったんだよ。ランアウェイしてた人間どもに梃子摺てこずってなぁ。コーチネルはインタクトなのか?」

その褐色の肌である横顔には、とてもだらけていたからとか、そんな理由が見えてくる事は無かった。
左手の上で、双剣を回転させているが、それはこれからの戦いの緊張感を自分なりに崩す為の手段だ。

町民達が何か大変だったらしいが、クルーガーと同じくジェイソンにとっても後輩に当たる存在である、
あの少女の事が気になってしまう。

「知らねぇよ。でもあいつ路地の方行ったからどうかは分かんねぇけど」

ジェイソンは大らか且つ、柔らかな雰囲気も持つ立派な男性ではあるが、
対照的にクルーガーは威圧感と信頼性を持つ立派な男性だ。

多少返答には威圧感や、冷たさも混ざっていたが、戦場ではこれくらいが普通かも分からない。

 

 

υυ 傷が付いた桃毛猿と言えば…… ββ

背中に走るものは、背中から湧き上がる呻き声トゥローブである。
もう1人の厄介者が来てしまったと考えながらか、立ち上がり出す。

しかし、桃毛猿の白い目玉を見る2人の男の視線は、怖気付いた色を見せ付けない。

当然である。クルーガーとジェイソンはもう年齢的にも、精神的にも他を圧倒するだけの実力を備えている。
逃げ出すような臆病者として評価を下せば、下した者に罰が落とされる。

 

――桃毛猿の動きに対し、クルーガーは……――

 

「やべっ! また来るぞあいつ!」

ジェイソンと二手に分かれるように、クルーガーは左へと素早く移動する。

「デリヴァーかもなぁ!!」

僅かに首を縦に一度だけ振るなり、ジェイソンもクルーガーよりも素早く右へと走り抜けていく。
長髪が靡き、これが少女のものであれば素早さの中に可愛らしさも映り込むのだろうが、
ジェイソンの場合は素早さと力強さの両方の評価が同時に渡されるような雰囲気がある。

 

ιη 手近な物を見つけたその時は…… ηι

桃毛猿は路地の付近に積まれていた木箱を、前足を使い持ち上げる。
頭の上で構えたその木箱クリークケージは、確実に男達を狙っている。

桃毛猿の腕力さえあれば、一般人であれば持ち上げるだけでも息を切らす程の重量を軽々と持ち上げられるのだ。

 

「やれるもんならやってみろや!!」

狙われていたのはクルーガーであったようだ。
左へと逃げていたクルーガーは、桃毛猿の動きを見取り、自分の場所に物が飛んでくる事を察知した。

走り続けていたが、後ろを確認していて正解だったのだ。

きっと、木箱自体はクルーガーとの接触を望んでいた事だろう。
だが、両者の意見が一致しない限り、それは実現されたとしても幸福とは呼べない。

拒む男こと、クルーガーは進行方向に対し、左に向かって飛び込む事で、木箱との接触を回避する。

 

―ガスン!!

地面に接触した木箱は、砕けこそしなかったが、硬い音を響かせながらしばらく地面を転がっていった。
その後はどうすべきか、まだクルーガーは考えていなかった。

 

―◆χκ いつまで路地にいるつもりなのだろうか? / COME BACK THE GIRL

赤い鱗の防具と、白いスカートが少女らしい姿をしたコーチネルは、
路地から出るなり、すぐにジェイソンの近くへと駆け寄った。

「やっとジェイソンさん来てくれたんですね!」
「その前に、お前のキャパシティ見せてみろよ? フューチャー決めたお前の姿をルックアットだぜ?」

コーチネルは、褐色の肌を持つ知り合いと戦場で再度出会えた事によって、1つの希望を灯らせる。
だが、ジェイソンもいちいち少女の感情に構っている暇は無かったのか、
笑顔よりも戦場での実力を最優先させたのである。

コーチネルの成長を祈りながら、ジェイソンはインセクトスライサーを回転させる。

 

α▲ 回転とは、彼の原動力に等しいものがある / QUICK SWORD BRAVER!! ▲α

『グオゥ!!』

狙いを外し、まるでジェイソンに八つ当たりでもしているかのように、突然桃毛猿は振り向く。
まだ近くには他の木箱が残っており、それを両前足で軽々と持ち上げてしまう。

一方、向かい合う2人の双剣使いの内、1人は上体を後方へと逸らしていたが、もう1人は余裕な顔を浮かべている。
また桃毛猿から木箱で攻撃されると意識したのだろうが、もう1人はそれに耐えているのだ。

 

――持ち上げられた木箱を見た少女は……――

 

(こっちに投げてくる……かなぁ??)

本当であれば、銀色のポニーテールを揺らしながら突撃したかったコーチネルであるが、
木箱の直撃を恐れ、避ける事を優先させていた。

ぶつけられた時の打撃に耐えられる自信が無かったからか、避ける事に神経を集中させていたのだが、
ジェイソンはその恐怖に見事に打ち勝っていたのである。

 

γγ ◆ 深紅の流星の如く、双剣を開き…… / JASON’S FLUTTER!! ◆ γγ

「コーチネル!! アームを緩めるな!!」

ジェイソンは曲線を描くように桃毛猿へと走り向かい、両腕も開く事で黒い刃ディンジーシザーを広げてみせる。

茶色の腹部サブスタンティアルシニューを見せながら2本足で立っている桃毛猿は、頭上に木箱を持ち続けながら、
単独で襲ってくるであろうジェイソンを見下ろし続けている。

ψ 狙いは、ジェイソンしかいない!! ――

白の目玉ミケスボールはそのように、桃毛猿の脳バードブレインに信号を送りつける。
持った木箱を上から落とし、人間としても引き締まった体躯を持った敵対者を静かにさせてやりたかったのだ。

 

ευ 直下させる為に、木箱を投げ落とす!! υε

―ガシャァン!!

それは、人間ではなく、地面に当たった事を意味する効果音である。
すぐ隣で木箱が砕け散るのを横目で確認したジェイソンは、その相手の腹部に向かって、
武器ではなく、足を先に突き出したのである。

攻撃する為に刃を突き出すのではなく、腹部から上へ登る為に、両足を使ったのである。

決して壁を登るように両手も使うような手間をかける事はしない。
両足と助走だけを使い、腹部の上を軽々と登っていったのだ。

 

σσ 腹部の僅かな段差によって登られ…… / FLAME CLIMBING!! σσ

飛び跳ねるような要領で、ジェイソンは自分の身長の倍はあるであろう猿の頭部の高さにまで到達する。
そこで時間を使っている余裕は無い。
じっと立っていられるような場所ではないし、桃毛猿も黙って立っているとは考えられない。

その短すぎる時間の中で、ジェイソンは武器を即座に奮い立たせたのである。

「ディーサイドだぜ!!」

δΔ 頭部に一撃を加え…… Δδ

ザスゥ!!

登る事で始めて桃毛猿と同じ視線に辿り着いたジェイソンは、
体勢的にも長い時間を使えないこの場所で、頭部に向かって一度だけインセクトスライサーをぶつけ、
足に接していた桃毛猿の胸部を踏み台にし、後方宙返りを加えながら地面へと戻っていく。

 

(よし! ワタシだって!!)

コーチネルに宙返りとかは出来るのだろうか。

ジェイソンの動きに見惚れる前に、ジェイソンによって怯んでいた桃毛猿に近寄る事を選択する。
頭部はどの生物にとっても弱点に該当する部分なのだろうか、両目を閉じ、硬直している。

その隙を狙ったのがコーチネルだったのである。

 

「はぁああ!!」

隣でコーチネルの気合なんかを聞いているジェイソンも、次なる攻撃を計画していたのである。
後輩に該当する少女に負けぬよう、そこから前へと、速度を入れて突き進む。

 

(おれもさっさとやるか……)

コーチネルと同じ箇所を狙えばただの邪魔にしかならない。
だから、左脇を狙うのだ。

落下の衝撃は既に和らげており、もう過去の後遺症はどこにも無い。

κ―― 斬れ味を試す時が、ここに!! ――κ

 

―ザザァッ!!

ジェイソンは擦れ違い様と言わんばかりに、怯み続けていた桃毛猿を斬りつける。
桃色の毛皮には傷が付くが、それは反対側にいたコーチネルにとっても同じ話である。

攻撃を加え、丁度桃毛猿の背後に当たる場所に進んだジェイソンは、振り向きすぐに次なる反撃を試みようとしたが――

 

 

(ディソーダーか……)

隣にはやや遅れてコーチネルがやってくるが、それを意識しながらも、ジェイソンの紺色の目が別のものも捉える。
異変か何かに気付いたのかもしれないが、コーチネルはそれに気付いていなかったようにも見えた。

「ジェイソンさんこのまま行っ――」
「バックしろ! サドンリーしやがった!!」

桃毛猿の姿を見ていたジェイソンは、状況の異変を察知したというのに、コーチネルは再度攻撃を仕掛けようとしていた為、
ジェイソンはその陽気そうな声を荒げ、自分自身はすぐに後退する。

きっと、言葉の調子でコーチネルに状況を理解させようと考えていたのだろう。

 

「え? 何かあった――」

突然ジェイソンに言葉による妨害を受け、反射的にその場で身体を硬直させるコーチネルであった。
まだ観察眼が未熟だったからなのだろうか、コーチネルには異変が分からなかった様子だ。

 

▲ζζ▲ 感情が変わると、性格も変わるものだ……

腹部と同じ色をしていた茶色の顔も、今は真っ赤に染まっており、
そして、毛皮を切り抜かれたかのように曝け出されている魅力皆無の臀部も赤く染まっている。

外見的に変わっただけではなく、鼻息も非常に荒くなっており、息も大量に吸い込んでいた。
その後に……

 

『グオォオオォオオオ!!!!』

掠れたような鈍い雄叫びを挙げ、両前足を空に向かって持ち上げ、そしてオプションで放屁までしたのである。
身体の一部が赤く染まった事が、この桃毛猿の感情を劇的に変化へんげさせてしまった事を意味したのである。
同時に、腸内も活発になったのか、距離は取っていたはずだというのに、その悪臭は2人の戦士にも軽々と届いていた。

 

 

 

★★★ ЮЮ RAMPAGE GRAZING!! ЖЖ ★★★

    腐敗臭に包まれながら、喜びを得るのか?

      生物であれば、当たり前の行為にさえ憎悪を覚える

☆☆☆ ÅÅ LITTLE TWAT AND DIRTY BUTT!! ∇∇ ☆☆☆

    殺すのではなく、生理的な苦痛を浴びせる事で人間を倒せ

      怒りに満ち溢れた後は、汚物だらけの臭い戦いとなるのだ

    ―― Grin poo changed from rather mad to gold shit!! ――
   ―― Excretion and eliminating will evolve excessive blunt instruments!! ――

 

 

                    READY……GO!!

 

 

 

 

「ジェイソン、あいつキレ出したんじゃねぇのか?」

距離を取っていたクルーガーがジェイソンの元に戻ったが、顔面を真っ赤に染めた桃毛猿を見ながら、
既に分かり切った事を深紅の髪を持った、仲間でもあり、親友でもある男に聞く。

「バトルスタイルも変わるぜ? このシチュエーションだとなぁ!!」

仲間が来てくれたとしても、桃毛猿の機嫌は変わらないし、状況もそこまで緩くはなってくれない。
それでも、ジェイソンの表情にはこれから激しくなる戦場に向けた期待が籠もっていたような気がしてしまう。

 

χβ 桃毛猿の突進が始まった!! / OPENING HATE!! βχ

『グオォオオ!!!』

尖った爪インジュリースパイクが地面を突き刺し、浅い傷跡ランドプルーフを残しながらもまずは敵対する金と深紅ソルジャーズ猛接近ギガ・アプローチする。
しかし、以前とは比べ物になるはずもなく、前足が地面を叩く音も、白目を剥いたような目玉も、威圧的の一言で済んでしまう。
男2人に近づく
コンマ単位ミニマムスペースの秒毎に、殴り飛ばす喜びが内側から膨れ上がっていく。

――ββ 本当にこれで終わらせられるのか?

――λλ これで終わるのは簡単すぎるだろう……

「やっぱてめぇはそれしか出来ねぇかぁ!?」

金髪のクルーガーは、まるで見飽きたような光景に、一度そんな威勢ある台詞ロバーストワードを飛ばしてやる。
それと同時に、桃毛猿の為に道を空けてやる事も忘れない。

――紺色の目はまた1つ捉え……――

「ただのダッシュとはディファーだな……」

深紅の髪であるジェイソンも、道を空ける事は忘れていなかったが、その回避の間トランスファーモメントに、危機を感じ取る。ただ打撃性の強い突撃をしているとは考えられず、桃毛猿の怒り出した表情からそれを察知したのである。

 

――あっと言う間に距離は縮まっていくが……――

 

ブオオォオオ!!

残り数メートルの所まで来た途端、突然その乗っていた速度を殺してしまう。
桃毛猿の不細工な雄叫びノーポピュラーボイスにはどんな意味が込められていたのか、そして今は息を吸い込み始めている。

のんびりと吸っているはずもなく、一瞬で腹部が外から見て分かる程に大きく膨らむ程の速度を扱っていたのだ。

そして、例の如く脂肪の多い尻スラークンバットに力なんかを入れ……

 

 

――≪≪肛内からの臭散爆裂砲バッドエフルヴィアムフライター≫≫――

瞬時に体内に空気を溜め込み、その数十パーセントが腸内細菌フィルフバクテリアによる作用を受けていく。
体内を潜り抜けた大気群は、そのまま腸内を潜り抜け、最終的に下劣な出口ディスチャージポットへと辿り着く。

放屁の力を強める為に、括約筋かつやくきんが大きく緩み、その力は、桃色の巨体を前へと押し出すだけの出力を誇っていたのだ。
粘膜を激しく振動させる事により、毒々しい効果音ファートアイロニーを激しく鳴らす。
聴覚的な迫力ノイズインパクトを漂わせる事により、噴出による本体の激動をより過激に映し出す。

その放屁の力は凄まじく、なんと、全力で走り出している速度よりも速く、桃毛猿を前へ押し出す事が出来たのだ。

 

■■ 爆裂放屁の力ノンプライドグレネードによって、桃毛猿は豪速を一時的に手に入れ…… / FAST FAT FIRE!!

ブオォオ!!!

激しい放屁音クラーマースナーヴァーと同時に、その丸々太った巨体がクルーガーにぶっ飛んでくる。
地面を前身で摺りながら、倒すべき相手に襲い掛かる。

と言うよりは、放屁に振り回されているように見えるが……

「うわっ!! なんだこいつ!?」

放屁の力インワードフォッグで突撃してくる無茶振りに気持ち悪さと危機を覚えながら、クルーガーはその突撃地点ランニングオーバーランドに入り込む事をしなかった。
放屁の力インワードガスで通常とは考えられないような速度で突撃してきていたが、微妙な調整は出来なかったらしい。

クルーガーを通り過ぎてようやく放屁が収まり、同時に桃毛猿も投げ出されるように前のめりに倒れ込むが、
足跡のように残されたのは、獣の悪臭ダートマークであり、放屁が残した爪痕が、背後の者達を精神的に追い詰める。

 

「そんなバッドパフォーマンスが通用するとスィンクするなよ!!」

ジェイソンの華麗な舞と同時にそんな声がクルーガーの頭上から響く。
深紅の双剣使いデュアルブレイダー・オブ・クリムゾンは、クルーガーが狙われている最中に、巧みに足場を見つけ、1階の屋根の上を駆け抜けていたのだ。

立ち上がろうとする桃毛猿の真上を狙っているのが、インセクトスライサーを持った男性である。

 

――屋根から飛び降り、重力を自分のものにし……――

 

いやっはぁああ!!

逆手に持たれたインセクトスライサーが、再び桃毛猿の背中を強く突き刺した。
深く刺さったと思われるその刃であったが、桃毛猿は優しい獣とは訳が違う。

『グオァォオオゥ!!!』

背中に肉厚があったからか、まだ致命傷には至ってくれず、逆に桃毛猿の立ち上がりを混ぜた逆上により、
上に乗った状態であったジェイソンを軽々と高く舞い上がらせる。

威勢を保っていたジェイソンに僅かな感情変化トラブル・ダイレクトヒットが出てきてしまう。

 

(まだ通らねぇのか……)

剣技に自信があったであろうジェイソンだが、攻撃がまだ通っていなかったのは紛れも無い事実モーティフィケイションシードである。
宙に投げ出されていながらも、自分の着地に対する不安よりも自分の実力ブルンダーを優先させるのは、なかなかの戦闘心を持っていると言える。

だが、着地を目前に控えるジェイソンの前に、更なる危機がそこに来る。

 

グオォオオオ!!!

まるで降りてきた人間を待ち構えるかのように、着地地点キリングポイントに向かって走り出す桃毛猿。
意外とあの背中に刺された傷が響いていたのだろうか。

どちらにせよ、怒りを見せている桃毛猿に対し、あの攻撃は不味かったのかもしれない。

(不味い事……へっ!)

自分の生命を心配に思っていたものの、すぐにそれは無くなってしまう。
桃毛猿の横から、1人の姿が素早く現れてくれたから、それ以外に理由は無い。

それは、親友の姿ではなく、後輩の姿であったから、妙に笑みさえも出てきてしまう。

 

θθ 足止めぐらい出来ないでどうする…… / MAKE THE OBSTACLE!! ◆◆

「一発受けろぉお!!!」

気合エネルギーを入れ込む為にはこの台詞しか無かったのだろうか、赤の鱗と白の布地の色合いが目立つ装備の少女は、
白と青に輝く双剣ジャスティス&ピースで桃毛猿に攻撃を見事に加えるのである。

少女でありながら、声が掠れる程の音量をブッ飛ばした訳なのだから、
その時の斬撃場面も実に派手であり、そしてしなやかだ。

■φφ▲ 顔面を横切り、横切りながら、斬ったのだ ▲φφ■

駆け抜ける桃毛猿の真ん前を、コーチネルの持つ瞬発力が横切り、そして刃が猿の顔面を斬りつけた。
ゆったりなんてしていられなかった1つの場面ワンシーンであり、注意を斬り崩す事によって仲間を護ったのである。

斬撃によって怯んだ桃毛猿の横で、コーチネルは言いたかった事を言ってやった。

 

「ざまぁみろっつの。それと、下品な奴はモテないって知ってる?」

瞬発力を使い、目の前を斬り付ける事に神経を使っていたが、今はそれを解除していた為に、緩い台詞を飛ばす事が出来たのだ。

人前で放屁をするような獣は、どう考えても女性及び少女なんかに気に入られるはずが無い。
わざと真正面を向かず、背後を睨むような格好で言い捨てている辺り、素直な形で言いたくなかったのかもしれない。

 

――だが、桃毛猿に人間の言葉なんて通じるはずが無い……――

 

「コーチネル! お前カッコ付けた事言ってねぇで……!!」

まだコーチネルの戦闘能力を信用する事が出来ないのかもしれないクルーガーは、
コーチネルの隣に来るなり、あの変な台詞ジェンティールモーションを言っている暇があるなら体勢を整え直せとでも言おうとしたが、
桃毛猿の動作に釘付けになってしまい、コーチネルに構っている暇が無くなってしまう。

なんと、桃毛猿は汚らしい尻を向けると同時に、突き上げたのである。

 

――確実に、見てもらう事が目的ではない…… σσ

桃色の凶暴な猿バイオレンスキラーは、飛び上がるようにして身体の向きを変えたのだ。
一度の跳躍によって、臀部を敵対者2人に向け、固定式砲台メタリックバッテリーのように前足後ろ足を固定してしまう。

爆発と異臭を併せ持つ兵器が、この膨らんだ腹部に備わっていたと見て、間違いはなかったのだ。

 

尻の筋肉アイアンデリケートが硬直するのを見たクルーガーは……

「逃げた方がいいか……」

やけに冷静な対応に見えているが、それとは対照的に後退する足の動きは非常に速かった。

「これってまさか……うわぁ!!」

コーチネルは想像すらしたくなかったが、黙っていれば想像から生まれた悪夢トラジェディーに包まれ、やがて死に至ると分かったのだ。
見たくない部分の口が開きかけたのを確認してしまった訳だが、逃げる為の理由に出来たのだから、
それは戦闘中を考えれば立派な証拠確認と言えただろう。
 

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