終止符を打たれた獄炎世界での竜王との激闘ザ・フィールド・オブ・ザ・カーネージ・ケイム・トゥー・アン・エンド



――竜王との戦いは終わりを告げた。
元々はハンターに対して絶大な脅威を与える存在。
それは元々飛竜の事を指すが、火竜はその中でも頂点に達する存在。

だが、その頂点に達する存在エンペラーインザスカイは儚く崩れ去った。
対戦相手のハンター三人の連携プレイ、そして、道具の有効的な使用の前に、
惜しくも破れ去ってしまったのだ――





「あのさぁ……クリス、こんな時に聞くのもあれだけど、あの動きって……」

 アビスは絶命した火竜の目の前で、クリスにあのアクロバティックで身軽な動きを聞こうと、ある程度息を切らしながら、クリスの隣にやってきてそれを聞こうとする。

「ああ、あれね。火竜って結構甲殻が堅いからさぁ、ちょっと落下速度と合わせて突き刺せばちゃんと甲殻突き破れるかな〜って思って」

 クリスはあの飛び上った攻撃は、あくまでも重力加速を剣の威力に上乗せしようと言う考えであると、アビスとは違い、殆ど息を乱す事無く、平然と笑顔で答える。

「でもハンターって結構防具の重みとかもあるからあんな動きとかしたら滅茶疲れんじゃないのか?」





――ハンターを保護する防具アーマー、それは、大抵頑丈であり、そして高重量である――



モンスターの力強い攻撃に備える為に、頑丈且つ高重量な物が多い。
その為、一般人の体力では、纏っているだけで相当な体力消費が予測される。

だからこそ、アビスにとってはあのクリスのアクションはとても考えられないのだ。





「それ? 大丈夫。私のこの防具って凄い頑丈で上手く使いこなせばこんなちっちゃい盾ででも大体の一撃は殆ど怪我とかしないで防げちゃうぐらいだし、それにこの防具って見た目よりずっと軽いから、あれぐらいの動きはへっちゃらなの」

 まるで自分の付けている赤と言う色彩を持った、少女らしさをアピールしたような脚部を露出させた、そんな防具を自慢するかのように、時折自分の防具の胸元を指で差しながら、その防具の持つ特性や長所を説明する。

 だが、いくら防具が軽量とは言え、アクロバティックなアクションは凡人には到底出来る事ではないだろう。

「まあ……それは分かったけど、クリスってさっきまで火竜と一人で戦ってたんだろ? それにしてはちっとも疲れてないように見えんだけど……」
「ああ、それの事だけど」





――目の前のクリスは、全く息を切らしていない――



アビス達が来るまでの間、単独シングルで火竜と激闘デスマッチを繰り広げていたであろう。
飛竜との戦いとなれば、怪鳥相手でも、いくらかは呼吸を切らしてもおかしくは無い。
アビス達もある程度の呼吸を今も切らしている状態だ。
ミレイもアビスほどでは無いが、僅かに疲れの色を表情で表している。

だが、クリスは……





 それに関心を覚えていたアビスの後ろから、クリスと別の女の子が後ろから、何か付け足すように、やってくる。

「クリスはこう見えても体力は凄いのよ。ちょっと走ったり武器振り回したりしたぐらいじゃあ全く息一つ荒げたりしないからね。ちょっとあたしもそこは羨ましいんだけど」

 ミレイは左の頬を伝って細い顎に垂れた数滴の汗を左手で軽く拭いながら、クリスの全く疲れていないであろうその余裕気な様子を見る。

「マジで? 人って意外と見かけによらないもんなんだなぁ」

 アビスはクリスを少女と言うその外見的特徴だけで、勝手に多少貧弱な部分があると判断していたようだ。疲れを一瞬忘れたかのように、両手をそれぞれの腰に当てる。

「何よ、その見かけによらないって」

 アビスのその少し妙な言い方に、ミレイはそれを聞こうとする。特に怒っている様子は無いものの、逆に興味をその苦笑の裏に隠しているような表情をしながら。

「いやぁ、だってさぁ、クリスってかわい……あぁ!! いやいや! じゃなくて結構頑張るとこあんだなぁ……って思ってさ!」

 ミレイのその質問にだらだらと答えようとするが、途中でとてもアビスのその脆い精神では言えそうも無いある意味爆弾発言とも呼べるかもしれない事を言おうとしてしまい、慌てて左手を乱暴に突き出して、そして例の発言に訂正を即席でしながら、言い切ると同時にゆっくりと左腕を下ろす。

「はぁ……あんたも所詮はスキッドとちょっと似てるって訳ね……」

 アビスのその必死の訂正も、ミレイには既に手遅れだったようだ。アビスのその素直とも言える感情を少しだけではあるが、それを聞いてしまった事により、男性が持つであろう異性に対する何かしらの関心を改めて思い知る。多少溜息を吐くが、スキッドとは非常に大きく異なり、多少の羞恥心や制御力は弁えている為、それ以上言及はしなかった。





――スキッドと同類に見られないだけ、アビスは幸せ者だろう。恥じらいを持つだけまだマシなのだ――





「スキッド君と似てるの? ってあっ! そうだ! スキッド君なんだけど……」

 突然話にその場にいないスキッドの名前が出た事により、何かその彼に対してミレイは妙な感情でも持っているのだろうかと、クリスはミレイに呟くように首をかしげながら尋ねようとするが、咄嗟にその煩く、そして明るい少年の事情を思い出して話題を変えようとする。

「あ、そうだよな、スキッドいないけど、あいつどうしたんだ?」

 アビスもようやく何故かその場にいないスキッドに気づき、やや妙な空気を覚えた彼は、改めて先程のおかげで崩れかけていた気持ちを落ち着かせ、真相を訊ねる。



「実は……さっきあの洞窟に入った時にバウダー君とダギ君は一応見つけたんだけど、途中でなんかよく分かんない変な人達がやってきて、その時にスキッド君も捕まっちゃって……私は何とか逃げ切って、洞窟から出たらさっきのそこの火竜とばったり会っちゃって……」

 クリスは洞窟での出来事がよほど恐ろしかったのだろうか、少しだけそのいつも明るさを保った表情をやや暗くしながら、今回のクエストのメインとも呼べるその洞窟内部の経緯を話した。

「そう……火竜はもういいとしてそれでスキッドは、まさかクリスの事逃がす為に身代わりになったみたいな感じで捕まっちゃった……の?」

 一瞬、ミレイはスキッドの勇敢な姿を想像してしまい、それを少しだけ疑いながらも、クリスだけが戻ってきた事実を噛み締めながら、途切れ悪く言い切った。

 流石に自分だけ逃げず、女の子を優先して助けると言う精神もあったのだと、関心させる。



「あ……ああ、そうなの! あの時スキッド君がいてくれなかったらきっと私も捕まってたと思う! 折角こうやって三人揃った訳だから、早くスキッド君助けに行こ!」

 元々スキッドは無鉄砲に洞窟の奥まで走り去ってしまった為に途中で後ろから現れた謎の連中の事をスキッドに伝える余裕も無く、殆どこれと言った活躍もせずにあっさりと捕まってしまったのである。だが、今回はミレイにその変な光景を読み取られていなかった為、その僅かに驚いた気持ちによって一瞬戸惑いで口元から安定が崩れるも、何とか表情を明るくしながらスキッドの雄志、とは言っても多少誇張はしているものの、それを伝えながら、今度はその誇張された雄志のスキッドを助けようと、火竜との戦いによって少し距離が開いてしまった洞窟を指差しながら、笑顔になる。

 そしてそのスキッドの話から逸れようとしてなのか、クリスは先頭を走るように、洞窟へと駆け足で進んでいく。

(どうせスキッドったらまた変な事したのね……)

 ミレイの目は、どこか鋭かった。クリスの焦り具合から、確実にクリスはスキッドを庇ってあの説明の仕方になってしまったと、見事に読んでいた。しかし、今はスキッド達を助け出す事が最優先である。後でゆっくりと事情を聞こうと思いながら、クリスの後をついていく。アビスと共に。無論、アビスもスキッドを疑っている事に間違いは無いだろう。



*** ***



「これでひとまずここに生えているジャガーヘッドは全部採取完了って所です」

 スキッド達三人を縄で束縛したままで、火竜の装備をした男達三人は、周辺に生えている毒草を全て摘み終わり、恐らく今手に持っているその毒草が最後の草であろう、それらを木箱に入れ終わった後、三人の男の内の一人が、今いる大広場の入り口とも呼べる場所で通路の奥を見張っているのだろうか、黒い皮膚の男に任務の完了を伝える。

「終わったか。にしても今日も随分な量だなぁ。ここの環境じゃないと芽ぇ出さんからなぁ、早くあっちでも栽培出来るようにせねばなぁ」





――彼らの目的の内の一つは、自分の組織にも、栽培出来る環境を作り上げる事――



猛毒草ジャガーヘッドは、この洞窟の特別な環境下でしか咲かない。
効力が強いとは言え、いちいちここまで来るのは面倒以外の何者でも無い。
ならば、手近な場所に同じ環境を作り上げてしまえばいいのだ。





 黒い皮膚の男は、その毒草の特別な環境下でしか咲かないと言う条件に僅かに苛立ちを覚えながら、自分の組織での研究が早く捗ればいいなと、洞窟の天井を眺める。恐らく天井越しに、直接は見えない空を見上げようとでも思ったのだろう。

「さて、もうすぐ迎えも来る頃ですよね。そしてお前らはもうすぐ組織に運ばれて、実験材料になっていく。仲間はあっちには沢山いるぞぉ。もう廃人だがな」

 火竜の装備の男は一度黒い皮膚の男の隣に立ち、これから来るであろう同組織の仲間を考えた後、今度は縛られている三人の元にゆっくりと近寄り、再び三人を恐怖に陥れるような威圧的な事を言い放つ。

「うっせぇよ。お前らの趣味なんかに付き合ってられっかよ」

 スキッドはなかなか来てくれない仲間達に、どこか絶望を覚えてしまい、先程までの決して弱気を見せないようなその振る舞いも、消えてしまっている。その今の抵抗にも、既に心の強さが失われてしまっており、諦めたような心境も窺い知れてしまう。

「どうした? さっきまでの勢いはどうした? ん、まさか誰も助けに来てくれないから、悲しいのか? まあ、当然の結果だろう。外に置いといたのは、空の王こと、火竜だ。きっと今頃お前と一緒に歩いてた小娘はもう屍になっちまってんだろうなぁ。きっとあいつからは逃げようとはしただろうが、きっと追いつかれてそのまま殺されたんだろうなぁ! はっはっは!」

 ボウガンを持った火竜の装備の男は、スキッドの仲間であるクリスの動かなくなった姿を想像しながら、わざとスキッドに嫌味をぶつけるような言い方で、大笑いをし始める。





――男達は、火竜の恐ろしさを充分に熟知している。並みのハンターでは討伐等無理に等しい――





 火竜は多くのハンターを梃子摺らせる非常に驚異的な能力を持った飛竜だ。単独での討伐は非常に困難を要すると言う事で非常に有名だ。実際の討伐は見事にペイントボールの臭気を嗅ぎつけてやってきた仲間二人と共に果たせたのだが、その事は洞窟内部にいる者達は敵味方共に気付いてはいない。

「勝手にクリス殺すんじゃねぇよ! あいつはなぁ、きっと強ぇぜ! ぜってぇ火竜ぐらいぶっ倒してるっつうの!」

 スキッドはその男の話してきた勝手な死亡想定に腹を立て、失われていた心の強さが再び発動する。実際のクリスの狩猟行為は見た事は無いが、それでもスキッドはクリスの実力は非常に高いものであると、信じたかった。外見的な魅力だけでは無く、力量も無ければハンターは勤まらない。仲間として、クリスは見事に火竜を討伐し、そしてここへ戻ってきてくれると、信じたかった。

「おお、テンションが戻ったようだな。でももうお前達は実験台になるってのは決まった事だ。さて、そろそろ迎えも来たか。にしても静かな音だ」

 突然怒鳴るような声を出したスキッドに、黒い皮膚の男はそれに対して何故か笑みを浮かべながら、ゆっくりとスキッドの元へと近寄り、見下したような視線で、通路の方から聞こえてくる足音に期待を寄せる。ただ、静粛な音と言うのは非常に気懸かりではあるが。

「よし、お前ら、そろそろそれ運ぶ準備でもしておけ。してこいつらも乗せる準備をしておけよ」

「はっ!」

 再び黒い皮膚の男は喋り、今度は自分の背後にいる火竜装備の男三人に、これから来るであろう迎えに備えるよう、命ずる。男三人は一斉に敬礼と共に声をあげる。

(でもホントにおせぇよ……。クリス、ホントに、死んだってこたぁねぇよなぁ?)





――実力と言う姿バトルアクションを直接見ていない以上、火竜相手に単独で勝てたかどうかの不安が付きまとう――



謎の連中達男どもの前では強気で振舞っていても、心中は素直であった。
実際、火竜は凶暴の一言。機動性、攻撃力、どれを取っても一流の実力者である。

クリスにはそこまでの実力があるのかどうか、不安で溜まらない。





「所で、お前達二人はなんも喋んないみたいだが、諦めてんのか?」

 大剣を背負った火竜装備の男の一人が、スキッドが加わってから一度も口を開かない二人に喋りかけるも、その聞かれた二人は、短い言葉をそれぞれ放つ。

「きっと助けは来るさ……」

 まともな声の方の男は、仲間が来ると信じ、それを静かに待つ。

「早く助けに来て……」

 変な声の方の男は、最初に言った男の言葉を真似するような、絶望感に溢れたような小さい声で、来るであろうスキッドの仲間を待つ。

「やっぱりビビってるだけか……。でももうすぐ迎えが来てもうそんな感情も消してやるから、安心しろ」

 火竜装備の男、大剣を背負ったもう一人の男が、回りくどく、精神の破壊を意味したような恐ろしい言葉をぶつけながら、無理矢理に宥めようとする。恐らくそれで宥められる事は無いとは思うが。

(やっぱマジでクリス……やられちまったのかよ……)

 スキッドはその少女がなかなか来てくれない以上、やはり嫌でも残酷な事実を受け止めなければいけないのかと、強く目を瞑った。折角会った究極とも呼べる可愛らしさを誇った少女が今日、土と化してしまうなんて……。

 だが……

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