アビスは昨日、予定をしていた通り、毒鳥竜を狩る為にカウンターで手続きを済ませようとしたのだが、1つ、ふとした事に気付く。

 数日前に何度か翠牙竜すいがりゅう、そして、そのリーダー格の大型の固体を狩猟していたのだ。翠色の鱗を持ち、2本足で歩きながら獲物に対して集団で容赦無く襲い掛かる小型ながらも危険な肉食のモンスターだ。

 その牙から分泌される麻痺毒は恐ろしく、下手に噛み付かれ、体内に毒が回れば忽ち動きを封じられてしまう。しかし、その牙自体が武器を作る上で有効な素材になる事にもなるのだ。

 牙だけでは無く、麻痺毒を体内から牙へと伝達する麻痺袋さえも溜められており、それを使う事でより強力な麻痺毒を扱う事も出来るだろう。

 そして、砂泳竜さえいりゅうと呼ばれる、砂の中を優雅に泳ぎ回る魚に後ろ足とヒレを備え付けたようなモンスターから手に入れた鋭いヒレも素材として自宅に在った為、それらの素材を使い、自分の愛用の剣を強化しようと考えたのだ。



 その素材を、自分の愛用の片手剣≪サーペントブレイド≫と一緒に工房へと持ち込み、そして刀身の役割を果たす牙の部分が更に鋭く、そして、麻痺毒も追加された上位武器≪バインドファング≫に強化する為、早速工房の婆さんに依頼をした。



「あんたかい? この調子だと、完成するのに夜までかかるかもしれんよ。それでも大丈夫なのかい?」

 サーペントブレイドといくつかの素材を受け取った緑色の服を着た婆さんは、素材と武器を見渡しながらかかるであろう時間を見積もった。小柄とは言っても、アビスと比較するとその差は激しく、まるで幼児を思わせるような体型をしているのがその婆さんなのだ。

 だが、工房の技術だけは人間を遥かに超越しており、そして、鍛える為の体力も腕力も常人を遥かに凌ぐ。

「勿論だよ。って言うか時間がかかるもんだろ? 鍛えるのって」

 アビスは武器の小難しさをある程度は理解しているからか、まだ武具を纏っていないその青いジャケットを着た姿で、ズボンのポケットに手を入れながら笑顔で対応した。



 時間が余ったアビスは、これから戦う毒鳥竜どくちょうりゅうの生態書を自宅で読み、戦闘の為の対策や、相手の攻撃手段をよく読んでいた。

 その毒鳥竜は毒々しい赤の鱗に包まれた2本足で行動する鳥竜である。捕食する獲物に向かって、口から毒を吐き、ゆっくりと獲物を弱らせた上で食す、なかなか狡猾なモンスターである。

 そのモンスターのおさは、体格は勿論の事であるが、紫色のまるで刃を思わせるような鶏冠とさかを備えており、そしてその吐き出す毒の濃度も子分と比較すると格段に増している。

 下手をすれば、それだけで毒死するハンターだっているのだ。



 気が付けば、既に夜になっており、アビスはすぐに工房へと足を運ぶ。既に防具を纏っており、いつでも狩場には赴ける状態だ。

 工房で手渡されたのは、黄色い鱗に包まれた牙が刀身の役目を負った片手剣≪バインドファング≫である。完成し立てであったから、まだ微熱が残っていたが、アビスはこれを持ち上げるなり、1つの喜びが込み上げてくるのを覚えた。

「これって、えっと……確かバインドファング、だっけ?」

 持ち上げたはいいが、名称を忘れかけていた為、婆さんの前でその確認を取った。

「そうじゃよ。これを受けた相手は身体が痺れるんじゃよ」

 穏やかな表情ではあるものの、婆さんの説明は、狩猟の世界では相当残酷なものがあるだろう。麻痺してしまえば、動けなくなっている間に他のモンスターに襲われたり、逆にハンターに攻撃のチャンスとして狙われてしまう可能性があるのだから、決して無視出来ない要素だ。



「分かったよ、ありがとな婆さん! じゃあ俺はもう行くから!」

 辺りが暗くなっていたから、アビスはそろそろ急がなければいけないと感じ、婆さんに手を振りながらカウンターへと走っていった。



 そのタインマウスの沼は、ドルンの村に近い場所に位置している為、馬車で行けばそんなに時間はかからなかった。

 しかし、夜の沼地は恐怖で埋め尽くされていると言っても過言では無い地帯である。

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