―■ογ■ 地獄の番人、そして、天国の聖女/GUARDIAN ANGELS ■γο■―
友人のデイトナを右の座席に乗せて敵から奪ったオレンジ色を帯びた小型トラックで逃走中だ。
普段は本場のアルテミスと同じように、狩場にその身を晒し、弓を扱うミレイであるが、今はハンターの雰囲気を感じさせてくれず、
まるで敵の組織から過激に逃げ出す工作員の一人としての錯覚を覚えさせてくれる。
操縦桿を激しく操作し、やや汗を見せ付ける緑色のショートヘアーを揺らしながら、背後に迫る
緊張と死と誇りを賭けた疾走劇は、これからが本番だ。
「真面目にしつこい連中ね……」
ミレイは背後から嫌と言う程に伝わる連中の気配に、小さく声を洩らす。
ι 相手は幼い少女二人……
――喰らいたい……――
適当に捕らえて、殺してしまうか……、処女を奪い去ってしまうか……、
いっその事、仲間に引き入れてしまうか……、他の人間を誘き寄せる為に、吊るし上げるか……
――食い千切りたい……――
δδ
既に停車する事は認められない。諦める訳にもいかない。寧ろ、デイトナに迷惑をかける訳にもいかない。
そんな、神経を恐ろしく集中させたミレイの青い瞳に映るものが、更なる神経を要求させる。
▼μμ ドラム缶で造られた
塞ぎ込んでしまうのは圧倒の一言だ。一応端を通ればギリギリでぶつかりながらも何とか通り抜けられそうであるが……
「つっ……何よあれ……」
距離はあるものの、それでもミレイの視力がそれを確認出来ないはずが無い。
詰まれたドラム缶がいくつも横に並んだ光景を見るなり、ミレイは舌打ちしながら青い瞳を細める。
隣に座るデイトナはそのミレイの険しい表情をやや怖く感じ、何一つコメントを渡せない。
――
曲がろうと試みるものの、そのミレイの行動は止められた。
曲がり角には左右どちらにも、敵の車両が待機しており、見事にミレイ達を遮ってくれている。
隙を突かれる事を恐れたのか、ミレイは否応無しに直進せざるを得ない状況を渡されてしまう。
どんどんドラム缶との距離が縮まっていく。
――そして、背後に付く連中は……
「ミレイ! 追いかけてた奴らがなんか止まり出してる!」
デイトナは出来るだけミレイの
内容は決して重厚とは言えないが、ミレイならデイトナの気持ちを分かってやれるはずだ。
「じゃあいい機会ね!!」
相変わらず、ミレイは正面にばかり全神経を注いでおり、デイトナには目を向ける事は出来ないものの、
多少の笑顔を浮かべる事でデイトナに対して間接的な礼を渡す事が出来た事だ。
(ってかなんであいつら追って来ないのよ? なんかあんの?)
それでもミレイの心の中で、ドラム缶の詰まれた地帯に近づくなり、何故あの連中が追いかけて来なくなったのか、気になり始める。
崩されたドラム缶に巻き込まれたくないから、なんてのは向こうも予め分かっているはずだ。
このような幼稚な考えがあの
ρ 考え、戸惑っている余裕は無い ρ
すぐにミレイはドラム缶の大群の端へ進むように
トラックを左へと寄せながら、それでも
――再びミレイの瞳が
中央付近を走っている時はドラム缶の大群が壁となり、
見事にすり抜ける事が出来たのである。
κ やや遠方に配置された敵の小型トラックが二台…… κ
恐らくドラム缶を突破したミレイ達の車両を付け狙う気でいるのだろう。
もうその時は近い……。
ο 更に、その敵車両の中で…… ο
「へっ……馬鹿が……」
車内に乗っていたバンダナマスクの男が漆黒の拳銃を持ちながら、右のドアの窓から顔と腕を出し、
そしてその銃口をドラム缶の大群へと向ける……。
■◆ ミレイ達の
「とりあえず一気に抜け……ん?」
デイトナに一言浴びせながら、ドラム缶の脇を通過しようとしたが、その建物とドラム缶の隙間から映るものに
非常に妙な違和感をミレイは感じ取ったのだ。
遥か前方に映るトラックから男を軽く身を乗り出し、片手で持てる武器を文字通り、片手で持っているのだ。
ミレイの青い瞳がそれを的確にキャッチする。
――時間は……、既に迫り……――
その瞬間、少女二人を絶望の底へと叩き込む!!
―ズォオオオォオオオオォオオオオオォォォオオオンンンン!!!!!!!!!
―ドゴォオォオオォオオオオォォォオオォオォオオンンンン!!!!!!!!!
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
乗せてもらっている方のデイトナはその激しい爆音によって悲鳴を飛ばし、緑色の瞳を閉じ続けながらそのまま塞ぎ込む。
原因はただ一つ……
△△ ドラム缶が内部破裂を引き起こしたのだ △△
その結果として至近距離にいたミレイ達の乗車するトラックに被害が走ったのだ。
一部始終がまさに、ミレイとデイトナの悲劇の映画として表現出来るだろう。
「まずっ!! デイトナ注意して!!」
それでもミレイは
―ββ―
元々は敵組織が精製した車両だけあって、ある程度の高温や衝撃には耐えられる造りにはなっているであろうが、
それでも内部にいる少女二人にとっては恐ろしい程の恐怖であるに違いない。
地面に立ち上がる
しかし、そんな
「デイトナ、大丈夫だから! そろそろ顔上げていいわよ!」
まるでほぼ最下層クラスに位置する八大地獄、≪炎熱地獄≫を思わせる炎塗れの空間を走らせながら、
ミレイは震えて
「ほ……ホント?」
―ガン!!
トラックの屋根に響く硬い音……
「きゃあ!!」
折角持ち上げたデイトナの頭だと言うのに、その音のせいで再びデイトナを悲鳴の底へと叩き落す。
「デイトナ、大丈夫よ! 今のドラム缶の破片だから!」
どうやら爆発の影響で高く跳ね飛ばされた破片の一部がトラックの屋根に直撃しただけらしい。
流石にその程度ではトラックは壊れたりはしないだろう。
ミレイは緊張も混ぜた笑顔を浮かべてデイトナにその事を伝える。
「そ……そう?」
ミレイを信じたデイトナはゆっくりとそのオレンジ色のセミロングの髪を持った頭部を持ち上げる。
雰囲気や外見から分かるかもしれないが、やはりデイトナの精神力はミレイのそれにはまるで敵わないようだ。
ηη ≪炎熱地獄≫を思わせる炎の中を抜け出したはいいが…… ηη
ドラム缶によって周辺の建物が炎にやられてしまったのは街にとっては大きな損害。
だが、ミレイ達は直接的な打撃を負う事は無く、それについては素直に喜べるだろう。
トラックの窓には
「なんとか……助かったね……」
炎上地帯を抜けた事によってデイトナの小さめな口から安堵の息が漏れる。
頬を伝う汗が先程の炎がいかに熱かったかを見せ付けているが、その漏れた息は非常に冷たそうである。
「でもまだ油断出来ないわよ? 後ろ!」
ミレイの包帯やガーゼが
ドラム缶の大群の前方部分に待機していたあのトラック達を警戒していたのは真面目に言って大正解だったのだ。
δδ
「逃がさねぇぞあのガキどもがよぉ」
オレンジ色に染まったトラックに乗車している男二人の内、
加速装置を力強く踏み込みながら
「血だらけんしてやっかんなあ」
同じ車両に乗っている男の内、
前方を走るミレイ達の車両を鋭く睨みつけている。
υε きっと、もう一台のトラックも同じ想いを抱いているはずだ ευ
「あいつらマジどうしよ……」
ミレイは背後から迫る二台のトラックを
それでも、先程の
逃げながらも、巻き込まれないよう、トラックを疾走させ続ける。
「えっと……曲がり角に行くって……のはどうかなぁ?」
デイトナは状況的に追い詰められているであろうミレイを何とかフォローしてあげようと考えたのか、
それでもどこか邪魔でもしてるのでは無いかと思いつつも、そんなアドバイスを渡してみた。
「それもいいけど、待ち伏せとかされてるって計算もしないとね」
やはり単純な策だったようであり、それはミレイも理解してた様子である。正面から決して目を逸らさず、
ミレイは単純であってもそれでも何とか頑張ってくれているであろうデイトナに対して頷くぐらいの反応はして見せる。
――とある覚悟を決めたミレイは再び口を開き……――
「早速来たわね……!!」
それを合図にするかのように、ミレイは一気に
タイヤが勢い良く右へと向き、ミレイの
――その後……――
―バァアン!!
γγ
それは後方を走る敵のトラックから
思えば、あの
ρ
「こんままマジで殺してやっぜ……」
トラックにその
μ しかし、ミレイは…… μ
(後ろなんか付いたわね……)
ミレイの青い瞳はしっかりとドアミラーに映るものを捉えており、ただ後ろに付きっ切りになって終わるとは感じれなかったようだ。
折角だから、一つ飛びっきりな
とある場所へと踏み込ませる。
決断力と大胆な発想がこの場を切り抜ける為の材料と化す事があるのだ。
εε
速度を持っていたミレイ達のトラックは一気にその加速度を低下させ、背後から槍を持って襲いかかろうとする獄卒達に
背後から衝突して見せる。速度を持った存在は、減速を始めた存在によって大きな打撃を受ける事となる。
「これでも喰らえっつの!」
――ミレイの車両が一気に減速を始め……――
――背後のトラックへと激突する!!――
―ガシャン!!
「うわっ!!」
後方のトラックに乗車していた
そのままミレイの操作する車両の後部へと激突し、
χχ 一台目は、きっと撃破した事だ!! χχ
「ざまぁ見ろっつの。デイトナ、大丈夫?」
ミレイは速度を戻す為に
オレンジ色の髪を持った少女の安否を確かめる。
「な……なんとか……。意外と過激なとこ、あるんだね……」
なかなか強いものがあったはずだ。シートベルトが無かったら反動で前方へ投げ出されていたかもしれない。
それはミレイも一緒だが、ミレイだってシートベルトは忘れてはいない。
「追っ払うんだったらこれぐらい当たりま――」
π デイトナの横が
残ったもう一台のトラックはミレイ達の右側へと付き、そして一気に近寄ってくる。
近寄ると言っても、文字通りに意味を捉えていてはまだまだ緊張感の世界では子供と言える。
「一回死んでみろやガキめが」
――■ 地獄篇≪インフェルノ≫は今に始まった話では無いが…… ■――
だが、名前とは裏腹に、救いを意味する歌では無いのはお分かりだろうか?
証拠は、少女二人の状況を見れば普通分かるに決まっている。
「いやっ!!」
デイトナの真横から
ミレイとの距離を僅かに縮め始める。
「うっさい連中……!!」
車両をぶつけられる事によって
包帯やガーゼで多少荒れているとは言え、ミレイの青い瞳はどちらも正常に動作しており、それが捉えたものは……
θ 建物の影から
左右から、まるで巣を
相変わらず全てがオレンジ色と言う固定色で構成されているものの、大群となった時、それは凶暴な軍隊と化す。
まるで上官の指一つで行動全てを見せ付けるかのような風貌だ。
「つっ!!」
ψψ 一台が真っ直ぐとミレイ目掛けて突っ込んでくる!!
回避されたトラックはしばらく直進するも、すぐに
残りを忘れてはいけないのが、ミレイの役目。すぐに
――横に付いた一台のトラックが……――
まるで縋り付くように、右へとしつこく曲がり始め、ミレイ達のトラックと密着状態となり始める。
その間に、他のトラックは絶妙とも言える
まるで
「何すん――!!」
■■ 迫る大型の
□□ ミレイ目掛けて振り落とされる!!
「死ねやぁ
敵車両の右部ドアガラスは開いており、そこから攻撃側の男が黒く輝くハンマーを片手に、左部座席に座るミレイに向かって
叩き落としたのだ。
視界の確保と、ある程度の衝撃の吸収の役割を果たすはずであったガラスは砕け散り、同時にミレイにも様々な災厄が降り注ぐ。
「きゃあ!!」
ミレイにしては珍しく、
ハンマーがミレイの身体に直撃する事は無かったが、割れたガラスの破片がミレイへ降り注ぎ、
それもミレイが悲鳴を飛ばす原因を作ったのかもしれない。
割れたガラスの触感に恐ろしさを覚え続けながらも、何とかミレイは脅え始め、おまけに涙さえも見え始めた青い瞳を開け、
運転へと戻るものの、小型ハンマーを持った男は情けと言う文字を脳内辞書に持ち合わせていないらしい。
――再び振り下ろされる
「泣いてんじゃねぇぞガキがよぉ!!」
再度、ハンマーが振り落とされる。ドアの
どうやら外から見ても分かる程にミレイの瞳から涙が流れていたらしく、それをからかうかのように、
バンダナマスクを装着した男はわざとミレイを狙わず、トラックの屋根部分を強く叩きつける。
「ミレイ……」
デイトナはミレイと反対方向にいる為、ハンマーの被害を全く受けずに済んでいる。
だが、今までずっと護ってくれていた人が単独で酷い目に遭っているのを見ていると、デイトナは
自分の無力さが込み上げてくるような心境になるが、やはり物理的に迫る恐怖心により、ただ声をかける事しか出来ない。
κ だが、ミレイの中でとある何かが込み上げ…… κ
「あったま……来た……」
ミレイは突然のハンマーの強襲により、思わず涙なんかを流してしまった事に恥じらいを今頃覚えながら、
すぐ左に映る、大笑いをかましている男を歯を食い縛って睨みつける。
「はっはっはっは~!! なんだあいつ!? ビビって泣いてんぜぇ!? まさかションベンちびったりすんじゃねぇかぁ!? はっはっは~!!」
携帯用ハンマーを右手に持った
同時に
笑い始めた時点で
だからこそ、再度攻撃でも仕掛けてやろうと、再びミレイの車両の真横に付き始める。
φφ そして、嫌がらせのようにハンマーを振り回し始めるが……
「ちびんのは……」
接近してきたこの機会を決して逃さなかったミレイは……
――右手を強く握り締め……――
――いざ……――
「たんこぶ作ってや――」
「あんたの方よ!!!」
■□ω ぶっ飛ぶミレイの右ストレート!! ω□■
運転中の身でありながら、ミレイは右腕を自分の操作する車両のドアガラスを経由させ、隣に付いたハンマー持ちの男の顔を
少女ながらも爆発的な威力を秘めた力で殴りつけたのだ。
赤いジャケットの袖で右腕は覆い尽くされているが、その裏ではハンターとして鍛えられた腕力が
びっしりと巻きつけられているに違いない。
左へ向かって攻撃するのに対し、使った腕はその反対方向に位置する右のそれだったのだから、
攻撃の際に操縦桿から両手が一瞬離れるが、
「ぐっ!!」
男はミレイの
油断し過ぎていたが為に、突然の少女のグーによる攻撃に対応出来なかったに違いない。運転側はその様子に驚いているようだが、
寧ろそれはミレイにとっては好都合であり、再び
「いい気味だっつの」
ミレイは自分を襲おうとした獄卒に仕返しを出来た事に満足を覚えたのか、涙は既に消し去っており、
(相変わらず……強いん……だね……)
隣でその殴撃の様子を見ていたデイトナはあまりにも大胆なその反撃手段に対して、関心と、もっと別の感情を
抱きながら苦笑なんかを浮かべている。
先程の反撃が気力回復に繋がったのか、大胆にも包囲し続けているトラックにぶつかり、強引に
■■■ 囲う駆動車達を強引に押しのける姿は…… □□□
まさに
受け取らなければいけないのか、まさか、このアーカサスを疾走する行為そのものに罪が存在するのだろうか。
等とは言っていられない。
――■ 煉獄篇≪プルガトリオ≫を再び始めようか…… ■――
「ミレイ、大丈夫だった?」
今はミレイ達の車両を囲んでいたトラック達から抜け出したのだから、それに安心したデイトナは
やや手遅れながらも、ミレイの容態を聞き出そうとする。
しかし、デイトナの
「あたしは大丈夫だけど……」
ミレイも多少荒げた呼吸をしながら、ふとデイトナに視線を向けそしてすぐに正面へと向き直す。
包帯やガーゼから分かるように、ミレイは元々体力的にも消耗していた事だろう。そこに更に覆い被さるかのように襲ってきた
あの連中からの逃亡によって更に体力を削られてしまっている。
γγ しかし、気は一切抜けない…… γγ
「外は全っ然大丈夫じゃないわよ!!」
二度目の発せられたミレイの声に一気に力、と言うよりは何か叱り付けるような威圧的な空気が含まれ始める。
確かに
それは、相変わらず
ξ 右隣の建物の壁が破壊される!! ξ
―バリリィンン!!
「いやっ!!」
まるで何かに叩き付けられたように壁が破壊され、そして周辺にその破片を飛び散らせる。
もし駆動車にその何かが直撃していれば、ほぼ一撃で大破されるだろう。
その轟音を聞いたデイトナは思わず車内で悲鳴を上げてしまう。
「多分あれよ! なんか白くて四本脚の変なのいたじゃん! きっとそいつよ!」
ミレイは心当たりがあったのだろう。まるで大砲のように建物を破壊するその光景を車内から確認するなり、
すぐにその
運転に加え、背後から迫り続けている敵車両からの逃亡、そしていつ襲ってくるか分からない砲撃の回避に専念している為か、
その身体的描写の説明がやや雑に感じられるものの、きっとデイトナなら分かるはずだ。
――案外、それはすぐ近くにいるものであり……――
「あの変なのって、あれ! あそこ!!」
デイトナも一度、目撃していたのだ。あの白い
ミレイの顔を見ようと、左を向くが、その生物はミレイを通り越し、割れたドアガラスを更に通り越し、
そして左側遠方に位置する建物の間に立っていたのだ。
ミレイに何としてでも確認してもらおうと、その場所に右の人差し指を力強く差しつける。
「ん? ってやっぱあれだった――」
ω 再び、砲撃!! ω
―ズゴォン!!
―ガララァン!!
トラックのすぐ真横に響く、爆音と崩音。
「ひっ!!」
ミレイは真横に響く破壊音によって再び肩を竦めてしまうものの、何とかその破壊音から離れようと、
「嘘っ! まだ他にいるの!?」
今の地面を
戸惑うように口に出す。
「そう頭に入れといた方いいわね!!」
デイトナのその言葉は当たり前のものだったのか、それとも的確なアドバイスとして成り立ったのか、
ミレイは頷きながら
ιι 背後からは……
―バン!!
「!!」
速度の低下したミレイ達の車両目掛けて背後のトラックが体当たりを嗾けてきたのだ。
鉄と鉄がぶつかり合う重苦しい音が車内に響き、背後への配慮を
「ミレイ、後ろから!!」
前方に意識を集中させているミレイのフォローとして、デイトナはハッキリと背後を見て、今の音の正体が何なのかを直接確かめ、
一体何がぶつかってきたのかをうっかり言わないで終わらせてしまったものの、それでも彼女なりのフォローは伝わったはずだ。
「
ミレイは奥で『ありがとう』と言っているような
右へと続く曲がり角に向かってトラックを曲がらせる。
速度を落とさずに無理して曲がった為か、曲がり角の端に設置されていた資材にうっかりトラックの角をぶつけてしまい、
そのぶつけられた資材を崩してしまう。しかし、それが背後から迫ってくるトラック達の障害にもなり、
ある意味でその
ミレイは他人の財産を傷つけた事を心で反省し、それでも
突然デイトナから要望の声をかけられる。
「ミレイ、頼みあるんだけど……ちょっといい?」
かけられた方も何か重要な作戦でも思いついたのかと、十字架のピアスの映る耳を傾ける。
「頼み? 何?」
やや年期による汚れの目立つ建物の間を走行しながら、手早くそれを確認しようとする。
「あのさあ、えっと、ここの通りに弓売られてる店あって、えっと、そこの道左曲がって!」
偶然逃げ込んだこの裏道に入った瞬間にふと思い出したのはいいが、デイトナも簡単にはその場所を伝える事が出来なかった様子だ。
常に走り続ける車内で何とか時間を無駄にせずに到着させる為に、慌てて右の人差し指を左に見える曲がり角に乱暴に差す。
「あそこ? 分かった、ってかデイトナって弓使えたんだっけ?」
ミレイも要望通り、
――□ 鬼達の思考回路は今……/DEMON COMMUNICATION □――
これはあくまでも一瞬の
すぐ終わるのは覚悟しろ。
足止めを喰らっても尚、強引に崩れた資材を押しのけて進もうとするいくつかのトラックが見えたが、
諦めて遠回りを始めるトラックの内部での、ほんの僅かなお話ですよ。
「なあ、今思ったんだが、あのデカブツ随分少なくなかったか? ホントはもっといたと思わねぇか?」
オレンジ色に染まった小型トラックを運転するバンダナマスクの男が隣に座る男にそんな話を投げかける。
「ああオレもたったさっき思ってたんだよ。あのデケェのホントだったらまだゴロゴロいたはずだよなぁ?」
右手に小型ながらも殴られればただでは済まなさそうな黒いハンマーを持った男も、
その生物らしき存在がもっと数を持っていたはずであると意見を述べている。
「まっさか、殺してっ奴とかいんじゃねぇだろうなぁ?」
運転する男は正式名称すら貰えていない生物の存在を消している何者かが存在しているのでは無いかと、
元々細く威圧的な目を更に細め始める。
――■ 光の剣士の如く……/GOLD AND SILVER ■――
ここはとある住宅区である。
しかし、当然のように民間人の姿はどこにも無く、ほぼ
人々の話し声なんて当たり前のように聞こえはしないし、響きもしない。
その代わりに、至る場所に茶色い何かが転がっており、そして真赤な鮮血を流しながら
或いは全く動かなくなっていたりと、全て纏めて言ってしまえば、
更に、耳をよくよく澄ましてみると、
η そうである、音源を見てみれば…… η
「はぁああ!!」
――
αβδ 左手に持つ
単純に近づいて斬るのでは無く、この赤い装備を纏った少女は持ち前なのか、
そのまま四本脚の生物の砲台状の頭部にまで、足だけで駆け込むように登り詰め、その頭部を真上から突き刺したのだ。
―ン゛ン゛ンンォオ゛オオォ゛オ……
鳴き声として表現しても良いのか分からないような野太い奇妙な音を立てながら、四本の脚の力を崩して倒れ始めるが、
少女はただ普通にこの崩れ始める生物からただ単純に降りる様子は見せなかった。
「ふっ!」
軽い気合と共に少女は生物の砲台状の頭部、即ちこの生物の身体部分の中で最も高い場所に君臨するその場から、
背後に向かって跳躍し、同時に宙返りを行いながら綺麗に足から着地する。
少女の身長の二倍はあるだろう高さから降りたのだから、衝撃を吸収する為に細くも、
なかなかの脚力を見せてくれるだろう両脚を強く曲げるも、すぐに更なる気配を少女は感じ取る。
「あれで……最後だね……はぁ……はぁ……」
出っ張ったような形状を見せる赤い赤殻蟹ヘルムの下で、水色に澄んだ瞳を背後へと向けながら、
一度深い呼吸を行う。
深呼吸で開いた口から純白の歯が輝くように映るものの、着地した少女の背後に現れるその存在は
確実に少女に休憩の時を与えてはくれないに違いない。
σσ 砲台状の頭部が黄色く光り出し……
■■ この場は天国篇≪パラディーゾ≫として考えても良いだろうか? ■■
今、放たれた
きっと、愛らしい容姿を持ち合わせながらも、きっと野心、名声を求めるハンターに代わりは無い。
そう決め付けた
―ドォオオゥウン!!
「はっ!!」
赤殻蟹装備の少女は素早く背後へ振り向き、そして左へ跳躍して砲台の攻撃を見事に回避する。
跳躍した後も、その華奢ながらも力強い身体を地面へと落とすのでは無く、側転の要領で立った状態を保ち続ける。
回避後は、そのまだ残っている
――φ 神風のように……、神速のように……/DIVINE WIND φ――
ハンターと言う、
赤殻蟹の甲殻の強度だけを貰い、重量だけは捨てたかのような
未だに
―ドオォォオウゥン!!
「ふっ!!」
少女は再び回避を見せ付ける。右へと身体を飛ばし、そしてそのまま設置されてあった樽の上に跳躍だけで飛び乗り、
更にそのすぐ右に
塀の上は広いとは言えず、足を合わせてやっと二本分乗る程度の幅であり、バランスを保つのは相当厳しく見えるが、
それでもこの少女はそれをまるで感じさせず、寧ろ高度を手に入れた事を誇ったようにも見えるのが不思議だ。
εε もう決着の時はすぐそこに!! ρρ
―グォオォオ……
再び砲台状の頭部に力が溜められ、黄色く輝き始める。
≪木星天≫のように、地上で偉大な名声を手に入れた存在が置かれる世界に相応しいのか、この少女は今そこへと
送り届けられようとしているのだ。狙われ続けたその身体がいかにそれを証明している事か。
●○○ CHARGE LEVEL Ⅰ !!
準備段階/Gymnastics
――ゆっくりと黄色く光り出し……
●●○ CHARGE LEVEL Ⅱ !!
拡散の予兆/Exterior
――黄色の濃度が更に濃くなり……
水色のその愛らしくも、今は凛凛しく、鋭くなった瞳が正確に敵対者を捉え……
●●● CHARGE LEVEL Ⅲ !!
最後/The End
――濃度が
危機を察知したのか、既に敵対生物との距離を充分に縮めた少女は両脚に力を注ぎこみ、一気に相手へと飛び掛る。
★★★ Counterattack !!
締め括り/Finish
―ドォオオウゥウン!!
――重たい轟音を響かせ、遂に発射される砲撃!!
着弾地点には既に少女の姿は無く、跳躍と同時に
そして、狙われた場所は……
μμ あの、塀であり……
笑ってしまえる程にあっさりと塀は崩され、素材の大半を占めていたであろう
しかし、少女の存在を忘れてはいけないのだ。
「はぁああああああ!!」
そのまま
少女は左手に持つ銀色の剣を後方へ引き、力を込める。
――間近へ迫ると同時に……――
空中で引いていた左手を一気に突き出し、剣の切っ先を生物の砲台状の頭部目掛けて刺し込み、
的確に
ηη そこへ向かって再び跳躍し……
一応その塀は先程破壊されたそれと同じ直線上のものだったが、破壊されていなかった部分の角に上手く両足を着地させ、
そのまま滞在せず、再びそこで股関節と両膝を曲げて、崩れ始める生物の背後へと着地する。
――だが……――
急所を的確に攻撃され、生命力を失い地面へと崩れ始める四本脚の生物であったが、
その背後に着地した少女も突然両膝を地面に付き、左手に持った銀の剣も無造作に地面に落とし、そして両手を地面についたのだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
周辺にはこの少女の呼吸音が大きく響き、何とか地面に突っ伏してしまわずに頑張っている少女の細い肩も大きく上下している。
よく見れば少女の明るい茶色の髪からも数滴の汗が流れており、少女の容姿と照らし合わせれば
何故か一種の
ιι Niemand kennt das einsame Meer, das eine tiefe blaue Farbe gefärbt wird.
ψψ 誰も知らぬ孤独の海を深い青に染めていく。
――この疲労
ここまでの
絶望と言う各印を押されてしまった
そんな色に描き直すのはハッキリと言えば強靭な
しかし、結局の所、今のこの少女にそこまでの
「そうだ……早く……皆と……会わなきゃ……」
少女のこのなかなかの
外の人間にそれは分からないが、きっと掛け替えの無い存在が浮かばれた事だろう。
極限まで使い尽くしたであろうその両脚をガタガタと震わせながら、何とか立ち上がり、落としていた
赤殻蟹装備と言う武具の構造上、太腿部分は直接曝け出されており、汗と、僅かな掠り傷がチラチラと映るものの、
それでも束縛を解いたこの構成がこの少女にハンターらしかぬとんでもない
ιι Ihr Lächeln über eine warme Liebe.
ψψ 柔らかい愛を、届けに行く。
――きっと、この少女を誰もが求めているだろう……――
今は極限の疲労状態のせいで、その整い過ぎた容姿には笑顔と言った、人を
この戦いが終われば、愛嬌を撒き散らす
優しげな
そんな雰囲気と香りを漂わせてくれる。
だが、
「スキッド君……も……きっと……心配……して……いっ!!」
先程のハンターとは思えない軽やかな荒業が消耗した体力に響いていたのか、ゆっくりと歩いている途中で
全身に何か痺れるものが走り、一瞬だけ声のトーンが最大近くにまで上昇した悲鳴を上げ、
水色の瞳を一瞬強く閉じた後にそのまま真正面へと倒れこんでしまう。
赤い甲殻と地面がぶつかる硬い音を一度だけ響かせたが、少女は再び立ち上がる事は出来なかった。
人を心配させていると言う立場にいながらも、身体の疲労には逆らえず、左を向いた状態で倒れた姿を継続させてしまっている。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
汗で多少汚れてしまった顔に苦痛の表情を浮かべ、立ち上がれずに再び苦しそうな深呼吸を行い始める。
水色の瞳は徐々に細くなり始め、輝きも徐々に消失し始めている。危険な状態なのだろうか。
流れる風が顔面を通り過ぎ、心地良い涼しさを覚えるも、少女は赤い甲殻に包まれた身体を、
まるで最後の力を振り絞るかのように動かし、仰向け状態へと
「私……ちゃんと……戦ったから……多分……いんだよね……?」
少女は夜空に点在する
まるで夜空に問い質すかのように、弱々しく口を動かした。
「もう……敵も……近くに……いないし……少し……休憩……いい……よね……?」
確実に少女は先程のあの四本脚で歩く奇妙な生命体を
だから、その賞与として休む権利でも頂こうと思いついたのかもしれない。
ただ、そこには肯定権を持つ者も、否定権を持つ者も一切存在しないのだが。
β 徐々に水色の瞳が閉じていく…… β
決して
しかし、閉じていく瞳がそれらの
「スキッド……君……後は……任せ…………」
遂に少女の水色の瞳が完全に閉じ、その後に続く言葉は無かった……
――しかし、少女は知っていたのだろうか?――
これから始まる、永遠の処女神≪アルテミス≫と、冥界の裁判官≪
神聖なる
そこから新たな絶望を生産する。目を覆いたくても、背中を見せてはいけない。
■ο■ Innocent Starter ■ο■
決して、罪を背負わされる事は無いのだから……
もうお分かりだろうか? もう近くにまで来ているのだ。もう来ているのだ。来ているのだ。
そう……
χ Pain... χ Blood... χ