ここに1つの古い日記が置かれている……
誰がここに残していったのだろうか?
日付は、○○○○年 △△月 □□日……
大抵、日記は3日で放置される事が多いのだが……
――他人の日記を覗くのは良くない事である……――
――他人の日記が見付かるのは良くある事である……――
――内容は想像してみるものなのか……――
――内容は創造しながら考えるのも面白いのか……――
■■では、早速覗いてみるとしましょうか……■■
△△月 □□日
今日、僕は思わず今まで仲良く遊んでた友人を刺し殺してしまった。
理由は僕が大切にしていた割り箸鉄砲を壊したからだ。
井戸に死体を投げ捨てたが、次の日の朝、死体は無くなってた。
○○月 ●●日
今日は偶然知り合った女の子を偶然絞殺してしまった。
理由は僕が変な所を触ったとか触ってないとかで些細な喧嘩になって、僕が馬乗りになったのだ。
井戸に死体を投げ捨てたが、次の日の朝、また死体は無くなってた。なんでだ?
▲▲月 △△日
今日はムカつく上司を毒殺してしまった。
いつも僕の営業成績に文句ばかりつけてくるから、紅茶に毒薬を入れておいたのだ。
井戸に死体を投げ捨てたが、次の日の朝、死体は綺麗に無くなってた。そろそろ怪奇現象と思うべきだ。
□□月 ○○日
今日は居酒屋の帰りに出くわした不良を銃殺してしまった。
いきなりカツアゲしてきたから、正当防衛で頭を撃ち抜いてしまったのだ。
井戸に死体を投げ捨てたが、次の日の朝、死体は消えていた。まさか、沈んでるだけなのか?
△△月 ■■日
今日は長年付き合ってきた彼女を撲殺してしまった。
理由は彼女が浮気をしたからだ。僕は怒りを抑えられずに椅子で殴りかかった。
井戸に死体を投げ捨てたが、次の日の朝、死体は残っていた。
次の日の朝も、更に次の日の朝も、数日経っても、数ヶ月経って腐敗が進んでも尚、消滅しなかった。
どうして『彼女』だけが消滅しなかったのか、想像は出来ますか?
そして、想像が出来た時に、貴方はどのように感想を決定しますか?
感想を決定した時、恋人が出来た時にまさか……と考えたりしますか?
そうですよ。ふと考えれば分かる事なのかもしれません。
死体は自分の意思で這い上がってくる真似はしません。
井戸の中に肉食水棲動物が住み着いている訳でもありません。
どうして殺人を放置していたのか、疑問に思いませんか?
その疑問は、何故そのような答を導いたのでしょうか?
きっと答は、人間としてあり得ないものが出たはずです。
案外、知人は貴方をしつこく観察しているのかもしれません……
だって、彼の後始末を続けていたのは、彼女なのですから……
始末屋が殺されてしまった時、もう誰も始末してくれないのです……
率直な答は、教えませんよ?
きっと理解されている方々が多数であるとは思いますが……
――――
■■ 意味あり気な、不思議な日記はおしまいです ■■
――――
――――
◆◆ それでは、本編へと戻りましょう…… ◆◆
――――
昼食と同時に、会話すらも交えさせていた宿の中で、1つの緊張が走っていた。それに一番最初に気付いたのは、亜人のシヴァであった。茶色い色を帯びた仮面のような顔の間から覗く黄色い両眼が、強く何かを見詰め続けている。
後頭部もまるで人間が被るヘルムのように重なった甲殻で構成されているが、そこからうっすらと食み出ている短い黄土色の髪がこの亜人の性別及び、密かな格好の良さを見せ付けている。
「シヴァ、結局正体は何だ?」
ベージュの毛並みを持っているエルシオは、シヴァの後姿を強く凝視しながらここに近づいて来ている者の正体を聞き出す。
「青鳥竜だ。それも集団で向かってきてる。たかが青鳥竜でも油断は出来ないぞ。皆、すぐに準備してくれ」
その数を考えれば、普段は大した事の無い青鳥竜であっても、その空気は普通の流れを見せてくれないはずだ。それでもシヴァは平常心を保ちながら、背後を振り向きテーブルの周りにいる人間達に敵の正体を伝え、そして戦闘体勢の準備を施した。
「青鳥竜かぁ? 俺らならどうって事ねぇだろうけど流石にこんな格好じゃあ危ねえだろ? その時間あんだろうなあ?」
テンブラーは立ち上がりながら、自分達が今着ている服を見回してそう聞いた。その紫のスーツは防具では無いのだから、あの青鳥竜の小振りながらも鋭い爪や牙を防ぐ事は出来ないだろう。
「悪いが、その時間は無い。武器を取り出してるだけで奴らは到着する! 兎に角互いを守りながら戦うんだ! 時には自分の回避能力も信じろ!」
即答だった。シヴァは一度自分の右手に装着されている爪を持ち上げて一瞥した後、全員に言い聞かせる事をモットーにさせ、そしてシヴァ自身は窓を開け、そしてそこから足も付けずに飛び出していく。
――■ BLUE SCALES WILL BITE!! ■――
――■ ACTION!! ■――
太陽がそろそろ沈み始めるかと思われる時間帯に、町の至る場所から悲鳴が上がる。
同時に集団の足音すらも地面を伝わって周囲に放たれる。
だが、その集団の行動には1つだけ奇妙な箇所が存在している事に、まだ誰も気付いていないだろう。
無関係者は一切襲わず、ただただその外見だけで周囲を脅えさせているだけだ。
■□ こいつらには
シヴァは両手から3本で構成された爪を伸ばし、全方向に対応出来るよう脚を広げ、そして両腕も構えの体勢を作りながら、
これから戦う仲間達全員に声を飛ばした。
「皆! 一旦散らばれ! 固まってたら動き辛くなる! 連中もどこに潜んでるか分か――」
―その時、シヴァの眼の色が変わる……
「……来たかぁ!!」
右手――厳密には手の甲――から伸びた爪が、飛び掛ってきた
殴り飛ばすように振られた右腕によって、その
「グェァアアァア!!」
喉元を斬られた1頭の青鳥竜は、そのまま絶命するのだが、1つだけ異様な部分があり……
――■◇ 燃え尽きるように、
(なんだこいつら……?)
それしか考えられないが、背後から迫る2頭の青鳥竜に気付き、シヴァは再び音速の爪を
■□ □ ■ かなりの
質素な住宅に挟まれた道の中で、少年2人は背中を合わせながら、向かってくる青い怪物に対抗をしている。
自分を護る為、町を護る為、名誉を守る為、自分のこれからの未来を守る為、そして、全てを護る為……
「こいつら……! ウザいけど……! 弱い……!?」
アビスは前方、
その牙の並んだ刀身を青鳥竜達へとぶつけていく。
普段は
それが過剰にアビスに回避能力を提供してくれる訳でも無い。だが、それなりに攻撃を避けられているから、良しと言っておこうか。
力強く斬り付けられた青鳥竜達が、一瞬で燃え尽き、そして消滅していく。
「なんか撃ち放題みてぇで楽しいけどなあ!!」
アビスのすぐ後ろにいるスキッドは、グレネードボウガンを両腕でいつものように構えながら、
目の前から襲ってくる青鳥竜に向かって1発の
―ドスッ!!
『グアェァアア!!』
頭部を撃たれた青鳥竜は、地面に崩れ落ちながら、その身体を燃やして消滅させる。
茶色のジャケットが弾の発射時に吹き起こる
「アビスぅ!!
スキッドはガンナーである以上は、ボウガン内から弾が無くなってしまったら
武具で護っていても非常に弱い強度であるが、今回は武具自体が無いのだから、襲われればおしまいだ。
後ろにいる紫色の髪を持った、親友であり、そして幼馴染の少年に護衛を無理矢理求める。
「いきなり頼んで来んなよ!!」
頼まれたからには無視する訳にはいかないとアビスは考え、茶髪の幼馴染を短時間の間護る為に、
バインドファングで横から迫ってきた青鳥竜を薙ぎ払う。
だが、一度の攻撃では青鳥竜は倒れず、胴体に傷を付けただけで倒す事は出来なかった。
「速くしろよ!!」
スキッドを急かしながら、アビスは止めの一撃を目の前に青鳥竜へと振り落とす。
やがて崩れ落ち、
υυ スキッドの
「アビスサンキューな! 今度
下がっていた銃口を持ち上げたスキッドは、腰に装着していた弾薬ポーチに入れていた弾を信じながら、
目の前で牙を剥き出しにして近寄ってくる青い鳥竜に
スキッドもガンナーである以上は、集中力と命中率は鍛えられているのだ。
■■ ■■
青鳥竜達によって、無残にも荒らされてしまった花畑の周辺にいるのは、太刀と双剣をそれぞれ持った男2人である。
外見通りの力強い動きで、
「なんだこいつら!? 消えやがんぞ!?」
フローリックはその重たい太刀、鬼神斬波刀を横に振り払いながら、目の前で燃え上がるように消滅する
その異様な青鳥竜にある種の恐怖を覚えた。
それ所か、きっと
その消滅する姿は、何か異型の者を感じさせてくれる。
「来んじゃねえこいつら!」
水色の半袖シャツを
悲鳴と燃え尽きる音を同時に響かせながら、消滅していく。
「ニュータイプの鳥竜だぜこいつらきっと!」
フローリックのように力強さで立ち向かうのでは無く、ジェイソンは武器のいくらかの軽量さと、自分自身の能力を足し合わせ、
身軽さを前面に出したような戦闘体勢で周囲を囲んでいた3頭の青鳥竜を正確に斬り倒していく。
勿論ジェイソンも体格は相当鍛えられている部類に入るから、スピード勝負では無くても充分に張り合えるはずだ。
武具を纏っている時も上半身は何も纏わないジェイソンであるが、私服の時もその印象は消えていない。
「新種……っつうかこれ異常
―ブゥン!!
『グアァォオァ!!』
太刀を横に振り、そして隣にいる青鳥竜の首元を斬りつけ、絶命と消滅を押し渡す。
フローリックにとって、今の光景は
「ウィークな連中だから、考察はアフターにしようぜ!!」
数は多くても、ジェイソンにとっては決して脅威にも値しない青鳥竜達について考察をするのは、
この戦いが終わってからにしようと1つ提案を飛ばした。
龍のプリントされた黄色の短いジャケットを着た深紅の長髪の男を背後から襲おうとした青鳥竜に、
2本で1つの双剣、インセクトエッジが突き立てられた。
◇◇◇◆
「はぁあ!!」
愛らしさと甘さを混ぜ合わせた気合が、立ち並ぶ木々の付近で響き渡る。
無論それは少女の声であり、そこをよく凝視すれば、
剣の動きに対応し、白いパーカーと黄色いミニスカートがやや激しく揺れる。
1頭を倒して安心出来る空間では無い事を、クリスは理解しているはずだ。
『ギャオォ!!』
ββ 遠方から飛び掛る
「!!」
鳴き声に対して反射的に振り向き、反動で揺れた茶色のツインテールが元の場所へ戻る間も与えず、
クリスはそこで今、何をすべきかを脳内で巡らせる。
υ◆
その
一瞬だけ膝を曲げ、その僅かの間に溜めた力で身体を華麗に飛ばす。
―ドン!!
▲ そこに降り立つ青鳥竜であるが、
背中から転がるが、何の束縛も無いかのように素早く、そして綺麗に立ち上がり、速度を保ちながら一気に青鳥竜へと接近する。
同時に銀色に輝く相棒を青鳥竜へ向かって振り落とす。
『グアァォオ!!』
鈍さを感じさせない軽やかな剣
赤殻蟹の武具を纏っている時もハンターとは思えないような身体能力を見せてくれるが、
今回は重量らしい重量が無いせいで、更に軽やかなものが期待出来そうである。
――案外近い場所で、1つの音が響く……――
―ドォオォオゥン!!
ρρ 地面を激しく砕く破壊音!! / DESTRUCTION VOICE!! ππ
紫のスーツを纏い、同じ色のパナマ帽を被った男が刀身にうっすらと緑色を帯びた大剣≪ジークリンデ≫を地面に振り落としていた。
その下では、地面が砕け、そして何かが燃え尽きるかのように、僅かに黒い色をした煙が大気中に消えていく。
「こいつら一体何なんだよ……?」
テンブラーは地面に軽く減り込んだ愛用の大剣を持ち前の腕力で持ち上げながら、
今自分の大剣の下敷きとなって消えていった青鳥竜に異様な疑問を覚え始める。
この囲まれている状態で考えても、それは苦慮となるだけであるから、持ち上げた力を利用してジークリンデを振ろうと意識する。
「まいいやぁ!! まずは……」
――鍛えられた腕力を信じ……――
「掃除だなぁコラァ!!」
自分の周囲に誰も近寄らせないかのように、自分自身が横に回転をしながら、その大剣を振り回す。
一度だけの横回転ではあるものの、それによって愚かにも接近した青鳥竜2頭が
斬られる前に撲殺に似た原理によってそのまま絶命と消滅をする事となった。
「テンブラーさん後ろです!!」
――クリスとは別の声が響き……――
「あぁ? なん――」
テンブラーが後ろを振り向くと、そこにいたのは……
◆牙を剥き出しにした青鳥竜……◆
しかし……
―ドスゥ!!
『グアォァ!!』
突然横から飛んできた大型の弾が青鳥竜の頭部を貫き、一撃で青鳥竜を絶命、消滅させたのだ。
背後の配慮を怠っていたテンブラーにとって、その弾丸は
発射地点と思われる場所に顔を向ければ、そこには砂泳竜の鱗や
「良かったです……。もうちょっと遅かったら――」
テンブラーを助けられた事に安心を覚えたはいいが、その赤いニット帽を被ったディアメルはそこで油断をしてしまっている。
真後ろから襲ってくる青鳥竜に気付かずに……
――テンブラーは右手でスーツの裏ポケットから拳銃を取り出し……――
勢い良く右腕を伸ばし、真っ直ぐディアメルの背後に狙いを付けた。
―バスゥン!!
『グアォァ!!』
銃声と
テンブラーは助けられた側であったものの、すぐに助ける側へと切り替わってしまう。
「そっちも注意しなさいよ? ってかやっぱこっちの方いいかもしんねえなあ!!」
サングラスの裏で笑みを浮かべながら、大量の敵が相手であるならば、威力と重量が半端無い大剣よりも、
小回りでそれなりの威力を持った、本来ならば対人用の拳銃の方が都合がいいと今気付いた。
このまま黙っていれば他者を助けて硬直してしまっていたディアメルの二の舞になると思ったテンブラーは、
すぐに視界の左端から入ってきた青鳥竜に向かって再び発砲する。
的確な命中率はディアメルもなかなかではあるが、テンブラーはきっとそれを上回る。
◇ テンブラーとディアメルが互いに助け合っている間、クリスはと言うと…… ◇
(なんで消えてくのこの青鳥竜……? 誰かに狙われてるの私達……)
クリスは冷静にこの青鳥竜達の目的なんかを分析しながら、
自分に向かってくる青鳥竜達を俊速でその片手剣を使って崩していく。
元々
◆◆◆◆ 緑と青の髪をそれぞれ持った少女達は…… ◆◆◇ ◇
宿の入り口の前で奮闘しているのは、緑色の髪と、青色の髪をそれぞれ持った少女2人であった。
青い鳥竜に囲まれているのだから、そこから離れる事は不可能に近い。
「結構……使い辛いわね弓って……!!」
緑色の髪の方の少女であるミレイは、弓を持って戦っているものの、もう少し正しく説明をすれば、
弓で、では無く矢で戦っていると言える状態でいるのだ。
目の前から迫ってくる青鳥竜に対し、矢を上から叩くように突き刺し、その鋭さで絶命させる。
だが、見栄えはお世辞にも良いとは言えない。
――後ろから、気配を感じた……――
意外と肉体的にも鍛えられているミレイの鋭い神経であれば、背後の捉え方も常人とは異なるものだろう。
両手に握られている矢そのものは今の状態では上手く使えない。
かと言って、黙っていては暗い赤のジャケットごと背中を切り裂かれるのも事実だ。
――だから……――
「甘いっつの!!」
それしか言う事が思い浮かばなかったらしいが、ミレイの右脚は後ろ蹴りを計画したのである。
青鳥竜に対して物理的な
人間が受ければ身体の大きな男性でさえ黙っていられない威力である。
『グアォ!!』
ほぼ顔面を蹴り付けられた青鳥竜はその衝撃により、僅かながらよろけるが、その隙が青鳥竜にとって命取りとなる。
脚を引っ込めたミレイは握っている矢に力を込め、そしてその矢を突き刺した。
因みに弓自体は宿の入り口前に放置している。近距離戦となる可能性が高い以上、弦を引いている余裕は無いだろう。
(ネーデルだったらこいつらの事情分かんのかしら?)
ミレイは心中でほぼ近くで戦っている少女に話を後で伺おうと、その青い瞳で隣から迫ってくる青鳥竜を睨んだ。
――青い髪の少女の方はと言うと……――
「これって……まさか……!」
双剣では無く、殆ど護身用にも近い
ネーデルはまるで何かに感付いたかのように呟きながら、青鳥竜達の一切の接近を拒んでいる。
噛み付こうものならば、速度と鋭さと正確さの3つが合わさった斬撃によってあの世へと昇天させられる。
青鳥竜のその攻撃を向かえる為に一瞬動きを止めて力を溜める行為は、ネーデルにとっては絶好のチャンスとしかならない。
δ 1頭目は…… δ 首元を薙ぎ払われ、天に向かって絶叫し、消滅……
ε 2頭目は…… ε 脳天を突き刺され、状況を把握する器官を破壊され、消滅……
σ 3頭目は…… σ 胴体を裂かれ、痛みでよろけている所に急所の首を斬り裂かれ、消滅……
(アイブレムの霧状の具現体!?)
ネーデルの頭に一瞬ではあるが、元いた組織で誰かが1つの実験を試行していたのが浮かび上がる。
しかし、ここで実現されている以上はもうそれは成功を意味しており、頭で考えながらも、
目の前からやってくる青鳥竜達を散らしていく事を決して忘れはしない。
青一色の服と、青い長髪が剣の流れに同一して揺れている。
その色彩はまるで本来は戦いたくない相手と戦っているような、そんな悲しみをチラチラと見せてくれている。
しかし、アイブレムとは一体誰なのだろうか?
■■ ミレイはあまりにも使い難い武器で苦戦しており……
「いつまでやって来んのよ!?」
ミレイは矢を逆さに持ち、半ば無理矢理突き刺すといった感じで青鳥竜の頭部を狙っていく。
しかし、思うように力が入らない上に、無理に力を入れている為に体力の消耗もやや早かった。
早急に始末をしてしまいたいと思いながらも、武器としての性能があまりにも悪すぎる
望みを叶えるのは恐ろしく厳しい事だ。
「しつこ過ぎ!!」
左から迫ってきた青鳥竜に思わず罵声を飛ばしながら、裏拳の如く、左腕を振り飛ばす。
顔面に突き刺された矢によって、その青鳥竜は燃え尽きていく。
――正面からもやって来る別の青鳥竜……――
「はぁあ!!!」
正面から迫ってくる青鳥竜もさっさと始末してしまおうと、ミレイは気合を威力に加算しながら矢を頭部目掛けて叩き落す。
暗い赤の袖に包まれた右腕は少女とは思い難い腕力で作られているだろう。
―ボキッ……
上手く当たらなかったからか、それとも
こうなってしまってはもう武器としては使えない。
(げっ……)
ミレイはまるで世界規模の不幸でも背負ったかのように、その青い瞳から生気を失わせ、そして罰が悪そうに苦笑いをする。
当然、目の前の青鳥竜が同情してくれるはずも無く、加減も無しに再び向かってくる。
「餌になるかっつの!!」
γγ 伸びるミレイの右ストレート!!
殆ど
一応は青鳥竜は仰け反っているものの、威力として考えれば高い数値は叩き出せていないはずだ。
その証拠として……
「
周囲を一応確認した後、ミレイは使った右手をブラブラと振りながら痛みを紛らわせる。
青鳥竜は人間よりはやや大きく、そして飛竜に比べれば相当小さい部類に入るが、
かと言って人間と同類として考えればこのように痛い目を見てしまうのだ。
――違う青鳥竜がまた現れる……――
「ってうわぁあ!!」
ふと右を見ればそこには6本の爪をぶら下げている前足を持ち上げた青鳥竜の姿があり、
まさに今ミレイは引っかかれる瞬間に直面していたのだ。
規模の小さい刃物を何本も合わせたようなその爪であっても、人間が食らえば黙っていられる状況では無くなる。
ミレイは反射的に飛び込み、その鋭い爪の集まりから回避する。
「ってこれどうしよ……」
ある意味、ミレイはこのメンバーの中で最も危険な状態となっている。
武器が無い以上、きっと素手でも出来なくはないかもしれないが、威力の面では大きく劣るはずだ。
立ち上がりながら、自分の身体だけしか信用出来るものの無い状態であるミレイはこれからどうすべきか考える。
弓の置き場所に行くにも青鳥竜の量があまりにも邪魔だ。
「ミレイさん! これ使って下さい!!」
ミレイの耳に入ってきたのは、青い髪を持った少女の声だった。
台詞を読み取ると、ただ声だけが聞こえておしまいでは無いだろう。
ω 放物線を
(ネーデルありがと!)
小型の
空いている左手で
―シュンッ!!
『グォアァォァ!!』
普段は弓を扱うミレイも、剣を扱う技術にも結構長けているらしく、的確に青鳥竜の喉元を掻き斬った。
威力が格段に上昇したこの場所で、ミレイの表情も勝気に溢れた明るいものへと変わっていく。
「ミレイさん大丈夫でしたか!?」
2頭の青鳥竜を蹴散らしたミレイの
そのネーデルの周囲に対する配慮を見せた構えが崩れない体勢の、その両手にはそれぞれ短剣が握られており、
きっと予備があったから、ミレイにも余裕を提供出来たのかもしれない。
「あた……じゃなくて勿論よ! 援助物資どうも……ね!」
ミレイは事実上ネーデルの事を完全には受け入れていないから、『当たり前』とでも言い返そうと思ったが、
命を助けてもらったのが事実であるから、上目線に立った発言は取り消す事にした。
空いている左手で親指を立てる辺りが、ミレイの性格に似合っていると言える。
そしてすぐに、左にいるネーデルの反対側から現れた青鳥竜に向かって再びその短剣の鋭さを味わわせる。
――もう既に2人は立ち止まっている事は無く……――
「はい! どういたしまして!」
緑色の髪を持った少女に対して敬語で返答しながら、もうその少女こと、ミレイとは顔も合わせておらず、
目の前からやってきた青鳥竜を斬り倒す事に力を注いでいた。
性格が丁寧なネーデルであっても、その実力は劣るものを見せ付けない。
ハンターとして本気で武器と防具を纏えばどれだけの力を見せてくれるのだろうか。
「あ、所でネーデル! この状況どうすればいいか分かったりしない? どうせ連中の仕業でしょこれ?」
ミレイは青鳥竜を散らしていきながら、何とかネーデルへと近寄り、何か知っているのでは無いかと考える。
もし何か対策さえ分かればミレイも真っ先に実行したいと考えていると、そう信じたい。
「一応、あります! 指揮者さえ倒せれば、終わります!」
ミレイとは目を合わせられない状況でありながらも、ネーデルは青鳥竜を斬り払いながら、
意外と口だけでは簡単そうな解決策を伝えた。
――目の前で燃え尽きていく青鳥竜の前で……――
「指揮者ぁ? 誰か人間みたいな奴でもいるってんの?」
そのネーデルの言い方から、ミレイはふと人の姿を連想し、その
だが、話し合っている間も、青鳥竜に対してその手を止める事は絶対に出来ない。
今も、1頭の青鳥竜がミレイに斬り倒されたのだ。
「回りくどい言い方すいませんでした! 青鳥竜の長です! 青鳥竜の長を見つけられればすぐに静まるかと思います!」
どうやらその指揮している者は、
ネーデルの話が正しければ、もうこの後の行動選択は決定されるだろう。
「青鳥竜の長……かぁ。じゃああたし達で探し出す? 食後の運動は結構身体に悪いって言うしさあ」
ミレイはこの青鳥竜の集団の事情を最も詳しく知る人間となった今、折角だからネーデルと共に力を入れようかと考え始める。
ネーデルと組めばなかなか強いペアになれるはずである。
「分かりました! でも油断は禁物ですよ!」
ネーデルは
だが、ミレイが相手の場合、注意をする必要性はきっと無いだろう。