――◆
普段から片手剣を使い、なかなか手馴れた手つきで扱っているアビスは、無数に現れる青鳥竜に対応しながら、
何か違和感のようなものを感じ始め、すぐ隣でグレネードボウガンを使っている少年に訊ねる。
「スキッドぉ! なんかずっとここいてもなんも解決出来なさそうじゃねえ?」
紫の髪を汗で濡らし始めているアビスは、バインドファングを力強く振りながら、
近くで弾丸を発射させているスキッドに喋りかける。
「解決だってぇ!? じゃあお前どうしよってんだよ? まあ一生終わんねえのもあれだけどよぉ」
被っている帽子の下にある緑色の目でアビスを横目で見ながら、スキッドはその普段の高いテンションとはやや対照的な
その命中率で青鳥竜を絶命させながら、話を聞き続ける。
事実、スキッドだって出来ればこの青鳥竜の山を何とか
「とりあえず……奥行ってみようよ!!」
アビスは単純な考え方を持ち出すが、その単純な思考の中に、非常に真剣なものさえ浮かべている。
もしそれが実行出来た時に、確実に状況を変える事が出来ると自分自身を信じている。
「ホントにそんな事して思い通りなんのかぁ!?」
スキッドはアビスを疑い続けながら、目の前から走り寄ってくる青鳥竜を射撃し、息の根を止める。
しかし、スキッドの方としては、ただ敵を倒す事しか意識していない様子である。
「分かんねけど……とりあえず出来る事あったらやってみるに限るだろ!?」
ハンターという肩書を持ちながらも、そこまで爆発的な体力は持ち合わせていないアビスは額を汗で滲ませながら、
自分の意見を決して曲げずに青鳥竜に向かって片手券を振り落とした。
――よろめきながら、やがれ崩れ消滅していく青鳥竜……――
「なんかお前ちょい強くなったんじゃねえ?
今までは情けない姿も見せていたアビスだったのに、今となってはまるで自分から勝利に導かせるように動こうとしているのだ。
何故かスキッドはそんなアビスの横顔が少しだけ成長したように見えてしまった。
いつまでも弱いイメージを持たれていては、アビスもこれから良くない方向へと進んでしまうはずだ。
「どうだっていいだろ!? それより早く行くぞ!」
何だかまた馬鹿にされたかと勘違いしたアビスは、手を止めずにスキッドに大声で言い返した後、
空間の空いた場所を狙い、そこを目がけて走り出した。
――行動的なアビスの背中を見ながら……――
「張り切り過ぎだなあいつ……」
スキッドは近寄ってきていた2頭の青鳥竜を弾丸で仕留めた後に、一度周囲を素早く確かめた後、アビスの後を追うように走り出した。
後ろに向かって揺れていく茶色のジャケットがスキッドの髪の色と合わさり、彼なりの強さも映されているように感じられた。
――π 先鋭の爪を持つ、独立した戦士は…… / IS IT A HUMAN’S SKILL? π――
『グアォァア!!』
『グォァァア!!』
『グォァォオ!!』
両手から爪を出した単独の亜人によって、瞬時に3頭の青鳥竜が崩れ落ちていく。
まるで一瞬で何かがすれ違い様に斬り倒していくかのような音速技であった。
「全く数が減らないな……。どうなってる……」
シヴァは次の攻撃対象を定める為に体勢を低く構える。
異様な空気さえも感じ取りながら、再度、攻撃を開始する。
――上から飛びかかってくる青鳥竜だが……――
「邪魔だ……」
短い冷徹な言葉を吐いた後、シヴァはあまりにも短過ぎる時間の中で、照準を定める。
定めるとは言っても、彼はガンナーでは無いのだ。
そして、相手は宙にいる最中である。では、どうしようと言うのか……
ββ シヴァ自身が跳躍するまでだ!
人間の世界ではまるで考えられない程の跳躍を行い、
そして空中で小型鳥竜と亜人の爪が交差する。
―ガキィン!!
『グアァァォオァア!!!』
■■ 空中で青鳥竜は燃え尽きる!! / INCONCEIVABLE BURNING!!
宙で悲鳴を上げながら燃え尽きていく青鳥竜を背後に、シヴァは華麗に地面へ着地する。
その高さは、通常の人間ならばまず辿り着けないだろう。
亜人と人間は比較出来ない部分が多いらしい。
「操ってる奴でもいるのか……?」
シヴァは背中を塀に向けて、未だに周囲を取り囲んでいる青鳥竜達を見回した。
まさかその中に親分格の青鳥竜が紛れているのでは無いかと悟る。
しかし、その体勢を見ると、いつ攻めてこられてもすぐに対応出来るよう配慮されているのが分かる。
(いや、ここは違うようだな……)
シヴァの黄色い眼の色が変わる。
すぐ正面にいる集まりの中には該当する者は存在しなかったらしい。
彼は素早さがあるだけでは無く、勘も鋭いようだ。
――背後へと集中し……――
(後ろか!!)
即ち、それは石造りの塀を意味している。
シヴァは鋭く後ろを振り向くと同時に、塀から距離を取るように飛び上がる。
――塀の裏から現れたのは……――
青い鱗、背中の黒いライン、後部に向かって伸びた赤い
そうである。これらの特徴を備えた鳥竜こそが、≪青鳥竜の長≫である。
最も意識しなければいけないのは、塀の上に登ってきたのでは無く、塀を飛び越えて現れたのだ。
元シヴァのいた地面に青鳥竜の長は降りてくる。
「やっぱりお前だったのか。青鳥竜と言えば、で考えれば予測は出来てたがな」
確実に通じていないであろうその言語で、落下中のシヴァは青鳥竜の長に台詞をぶつける。
着地と同時に再度、自分の爪の力強さを見せつけるかのように構える。
青鳥竜の長も
しかし、わざわざ爪同士をぶつけあう戦いはしないだろう。
一度品定めのようにシヴァを見詰めていた青鳥竜の長であるが……
『グアォォオオ!!』
――
細身だからこそ身軽に鍛えられた後ろ足が青い身体を突き動かす。
シヴァを噛み殺す事が出来れば、それは捕食者としての究極の名誉となり、そして今日の空腹を癒せるのだ。
ψψ 点在する
シヴァの仮面のような顔面に食らい付こうと、青鳥竜の長は棘のように生えた牙で構成された口を大きく開く。
「甘いぞ!!」
シヴァにとってすれば、正面からの攻撃を回避する事はあまりにも容易い話だ。
右へ地面に沿って滑るように動き、そして距離さえ取る。
――攻撃を外した青鳥竜が眼を向けてくる――
脚を互い違いに動かすのが苦手なのか、青鳥竜の長は飛び跳ねるように方向を正し、シヴァの方向へ正面を向ける。
その方向転換の仕方がどうであれ、結局はシヴァが狙われている事に変わりは無い。
それでも捕食される側として位置しているであろうシヴァの表情は曇る事を知らなかった。
最も、外見上での判断は出来ないが。
「いつでもかかって来い。お前程度なら怖くないぞ?」
冷静ではあるが、シヴァは自分の爪を見せつけながら相手に言い放つ。
まるで自分の爪の方が強いとでも誇っているかのようだ。
―シュン……
「ん?」
シヴァの間近、と言う程の距離でも無いが、シヴァの横を通り過ぎる1つの何かが気になった。
回転を加えられながら
『グアゥ!』
青鳥竜の長の胴体に浅くではあるが、突き刺さったのは鉄のナイフだった。
鱗に突き刺さった際の衝撃と痛みで青鳥竜の長は僅かな鳴き声を飛ばす。
「シヴァさん!! わたしが援護します!!」
やってきたのはネーデルである。まだシヴァの位置までは辿り着かなくても、すぐに隣まで行こうと走ってきているのが分かる。
「あたしも協力させて下さい! って……邪魔よあんたは!」
スカート姿のネーデルとはあまりにも対照的な服装と言えるミレイもネーデルの隣で走ってきているのが見えた。
そのズボンの姿は少しだけ少年のような印象を見せつけてくれるが、ネーデルの反対側、即ち左側に近寄られてはいけない存在がやってくる。
――まずは左蹴りで青鳥竜の顔面を狙い……――
――回転の反動を使い、右手のナイフで薙ぎ払う!――
蹴り自体は威力的には高い数値を叩き出せていなかっただろうが、2撃目のナイフで
当然、それはネーデルに向かって飛ばされた暴言では無い。
――ミレイの姿を見て安心したシヴァは……――
「助かる。こいつだけに集中出来ると都合がいい……からな!!」
シヴァは相手に過剰な表情を見せる事無く、ミレイとネーデルを見る為に後ろに視線を向けながら頷くが、
青鳥竜の長は敵対者同士のコミュニケーションの為にわざわざ時間をくれたりはしない。
走り寄り、そして体当たりを仕掛けてこようと迫る青鳥竜の長を回避する為に、シヴァは垂直に跳躍する。
人間ならばそんな発想自体考えないかもしれないが、シヴァには戦略があるからこそそれを選択したのだ。
κκ 空中で爪を広げ……
ιι 両腕の爪を1つに合わせる!!
◆◇ 真上からの
―ガィイィ!!
鋭利に作られている爪の先端が青鳥竜の長の青い鱗を傷つける。
重力加速により速度を手に入れた爪が、鳥竜の生命力を奪い取る。
『グアォォ!!』
血が流れ出す胴体に、青鳥竜の長は痛覚に襲われた事を示す悲鳴を飛ばし、
そんな状況でありながら、まだ隣にいるシヴァに真っ赤な爪を振り
―シュン!!
「どこを狙ってる!? しっかり狙って来い!!」
動きさえ見ていれば回避行動くらいは容易く出来るその青鳥竜の長の赤い爪を、
シヴァは身体を横に向け、そして軽く反らすその簡単な動作で避けてしまう。
回避した後に右腕に力を入れ、下から
―ブシュッ!!
『グアォオオ!!』
引き剥がされるような痛みに青鳥竜の長は再び悲鳴に近い鳴き声をあげる。
そのシヴァの背後では燃える音と崩れる音が絶え間無く聞こえ続けるが、シヴァはいちいちそれを直視しない。
(案外弱いなこいつ……。いや、妙に弱すぎる気が……)
強すぎても怪我等の
シヴァはその弱さが非常に気になってしまっている様子だ。
それでも手を止める事はせず、シヴァは爪で直接殴るように、真っ直ぐ爪を突き刺す。
――▲▲アビス達はやがてミレイ達の元へとやってくる……、もう時期に……▲▲――
「ねえネーデル!? そろそろ……なんか飽きてきたりしない!?」
襲い掛かってくる無数の青鳥竜達をなかなか力強く、そして的確なナイフ捌きで倒していくミレイは、
近くで同じように戦っているネーデルに少しだけ不謹慎に近い質問なんかを渡す。
「青鳥竜だけを相手にする事がですか!?」
ネーデルは丁寧な言葉遣い、と言うより敬語を使い、詳しい意味を聞きながら、目の前の青鳥竜の頭部にナイフを突き刺す。
「そうよ!」
ミレイもナイフで迫る青鳥竜を斬りつけ、そしてたった一言だけの返答を飛ばす。
結局ここでミレイは何を問い質したいと考えていたのだろうか。
「所で、どうしてそんな事聞いてきたんですか!?」
ネーデルはやはりミレイが何をしたかったのか理解出来なかったから、手を止めずにそこについて言及する。
「いつまで経っても青鳥竜いなくなんないからよ!!」
ネーデルを見るとまるで息が上がっている様子が見られなかったが、ミレイは僅かに額を汗で滲ませている。
きっとミレイはずっと同じ鳥竜を相手にし続ける事に
この状況そのものに苛々し始めたのかもしれない。
「でも、大丈夫です……! シヴァさんが青鳥竜の長を止めてくれますから!!」
危うく青鳥竜にその青い服ごと引き裂かれそうになってしまったネーデルだが、即座に身体を横へと回避させ、
そしてナイフを
――やがて現れた、少年2人……――
「あれって……ミレイだ! おい、ミレイ! ミレイ!」
木の隣を通って現れたアビスは、ナイフを振り回す暗い赤色のジャケットを着た女の子の姿が目に入ると同時に名前を呼んだ。
アビスはナイフでは無く、片手剣であるから、その鋭さも、威力もナイフとは比べ物にならないだろう。
――呼ばれた方もすぐに反応し……――
「ん? あ、アビス……」
かなりの数の青鳥竜を消していったであろうミレイは、その青い瞳を一瞬は以後へと向けるが、
近寄ってくる紫色の髪を持った少年の姿に覚えがあったから、呟くように少年の名前を出す。
だが、実際は青鳥竜との相手が最優先であるから、そこまで少年側に意識を注いでなんていられない。
「なんかそっちで分かった事あったかぁ!?」
アビスは無難な動作で近寄ってくる青鳥竜をバインドファングで払い除けながら、ミレイへ接近すると同時に
得られたものを聞き出そうとする。
「青鳥竜の長さえ黙らせられればいんだってさ! まあ今シヴァさん戦ってくれてるけど!」
ミレイは周囲の青鳥竜が相当減り始めた事に安心したからか、ナイフを持っている右腕の動きに落ち着きを見せ始めるも、
それでもまだ残っている事には変わりない為、ナイフを振る動作そのものは決して
「あぁ! あそこで戦ってんのがかぁ!?」
スキッドもアビスの隣にいた訳だが、ミレイの指差した場所へ目をやると、確かにそこには亜人と鳥竜の
きっとスキッドの事だから、思い切った作戦でも思いついたのだろう。
「そうだけど、あたしらはここで足止めしてんのがいちば―」
「じゃあおれちょい行ってくるわ! さっき取っておき装填したからよぉ!」
ミレイは自分達の役割を理解すると同時に、それを持続させようと意識していたのだが、
それを伝える前にスキッドは突然走り去ってしまう。
「ってちょっスキッド!!」
グレネードボウガンを持ったまま走ってしまったスキッドを呼び止めようとしたミレイだったが、遅かった。
出来ればシヴァの邪魔をさせたくなかったが、スキッドのその強い意志を口で止める事は出来なかった。
ρρ▲ 爪が描く
「大体弱らせたか……」
シヴァは余裕を見せた態度で、爪によって傷だらけとなった青鳥竜の長を凝視する。
仲間には優しいが、敵対者に対してはその爪の恐ろしさを見せ付ける一面が垣間見える。
それでも青鳥竜の長は倒れず、その鋭い牙を鳥のように出っ張った口の間からちらつかせる。
噛み千切る事さえ出来れば身体の傷なんか安いものであると言い聞かせているかのように、低く唸っている。
「そろそろお前も本気で黙っ……ん? スキッドか……」
シヴァにとって自慢の1つでもあるだろうその爪で一気に飛びかかってしまおうと、一瞬身を屈めたが、
背後から少年の気配が感じ取れた為、攻撃を中断する。
――グレネードボウガンを携えながら、
「シヴァ! そいつにおれの
スキッドはシヴァの隣にまで進む前にその
しかし、シヴァの戦いに割り込むような形で大丈夫なのだろうか。
「何の弾撃つつもりだ!? 通常弾程度じゃあ効かないぞ!」
スキッドに視線を向けようとするシヴァであったが、目の前にいる青鳥竜の長が赤い爪を振り落として来た為、
ボウガンを構える少年に忠告をかけながらも、自分自身は身を横に飛ばす事で回避行動を
「分かってるって! こいつ使うんだよ!! 見てろよぉ!!」
―バスゥウン!!
―バスゥウン!!!
―バスゥウン!!!!
スキッドの気合と同時に放たれるのは、3発の弾丸だ。
それが連続で放たれる。
―ドスッ……
―ドスッ……
―ドスッ……
まるで減り込むように青鳥竜の長の鱗に突き刺さり、そこで停止する3発の弾丸。
その弾丸はそこで止まって役目を終えた訳では無い。
「援護はありがた―」
シヴァは半ば勝手ながらも後方から支援をしてくれているスキッドに感謝を覚えるが……
(?)
その放たれた弾丸から妙な気配を察知し、青鳥竜の長の方へと視点を戻すが、気配の正体をすぐにシヴァは捉える。
(
弾丸の正体を感覚で理解したシヴァは、付近にいれば自分も負傷してしまうと察知し、即座に跳躍を開始する。
自分の身長の何倍もの高さにまで上昇していくが、空中にいる間に、その弾は1つの変化を起こす。
◆◆οψ 小規模なる火炎爆発!! / POWDER SMOKE!! ψο◆◆
―ドォオゥン!!
『グアォァアァア!!』
物体が弾ける音が青鳥竜の長の身体から響き渡り、そこから炎、そして煙までもが立ち上がる。
3発の
(なかなか派手だが、流石に死ぬって事は無いか……)
未だに空中に身体を預けた状態であるシヴァは、爆炎に包まれる青鳥竜の長の姿を見下ろしながら、
弾の威力に耐えているであろう鳥竜の姿を連想し続ける。
弾の威力自体は認めているだろうが、それでも青鳥竜の長の鱗は飛竜には劣るものの、それでも充分頑丈な作りであるから、
一度
――徐々に煙が消えていく……――
(あいつ……どうな、ん? 倒れて……)
重力に従いどんどん地面へと落ちていくシヴァは薄くなっていく煙の中から倒れている何かを目にする。
青い身体で、そして地面に血液を流しているものがあったのだ。
――その意味は、少年の言葉が全てを証明してくれる――
「よっしゃぁあ!! 仕留めたぜアビスぅ! 見ろよ!」
弾丸を放った張本人であるスキッドは、周囲に響き渡るような歓声をあげながら横たわる青鳥竜の長に近寄る。
子分の青鳥竜達と戦っていたアビスもスキッドに釣られてやって来る。
「あれ? お前もうこいつ倒したのか?」
アビスもそのあまりにも呆気無い青鳥竜の長の最期が信じられなかったのか、その時間の早さを訊ねるかのように
青鳥竜の長に指を差した。
「そうだってんだろ? ってか他の青鳥竜とかどうなったんだよ?」
よほど自分が青鳥竜の長を最終的に仕留めた事が嬉しかったのか、スキッドはその事実を決して捻じ曲げる事はしなかった。
だが、やはり気になるのはあの大群である。
「あ、いや、なんか少なくなったからそんで余裕出来たからここ来たんだけど……ってあれ? なんかいなくなってんだけど……」
どうやらアビスは青鳥竜の数が減ったからそれで少しだけ余裕を持ちながらスキッドの隣に現れたらしいが、
後ろを振り向くと、そこにはもう青鳥竜の姿は1頭も存在しなかったのだ。
――やがて、降りてきたシヴァも……――
「いや、終わったのはいいが、いくらなんでも簡単過ぎじゃないか?」
シヴァもゆっくりと、横たわる青鳥竜の長に近寄り、そしてそれを見下ろすが、これでも一群を指揮する者の最期と考えると
どうしても違和感から開放される事が出来なかった。
「でもいいだろう? こうやって倒せたんだからよ」
難しい事ばかり考えるシヴァに納得がいかなかったスキッドは、緊急事態をこうして回避出来たのだから、
そこをまずは喜ぶべきだと、グレネードボウガンを足元に置きながら言った。
――少女2人もやって来て……――
「あ、シヴァさんとうとうやったんですね! でも気になった事ちょっとあったんですけど……」
「そうだおいミレイ、こいつ仕留めたのおれだぞ!? シヴァじゃねえぞ!」
ミレイはシヴァの隣に走り寄り、倒れている青鳥竜の長を見下ろすが、ミレイの方で何か気がかりになる事があったようだ。
シヴァにばかり集中するミレイの気を引かせようとしたスキッドは、騒ぎ立てながらミレイの肩をやや乱暴に引っ張った。
「分かったわよいちいち煩い奴ねぇ! それにあんたって最後の最後しか攻撃してなかったじゃん?」
ミレイは苛々した表情を作りながら、自分の肩を少し乱暴に掴んでいるスキッドの右手を振り払う。
案外ミレイも周囲の状況はよく見ているのか、あまりきつく言い過ぎればスキッドの名誉が崩れ去ってしまうような事を言い出してしまう。
「いや……確かにそうだけどな、でもおれのおかげでそいつは倒せたんだぜ? シヴァだけだったらまだ続いてたかもとかそう言う風に思わね?」
スキッドも一瞬反撃の手段を失いそうになるが、何とかその手段を頭の中から叩き出し、
結果的に青鳥竜の長を仕留める事が出来た事実を強く表に押し出した。
「あ、所でシヴァさん。実はですけど、さっきいきなり青鳥竜達全員消えた、って言うか……えっと、なんかいなくなった……って
ミレイは一度スキッドを放置し、今まで目の前にうじゃうじゃと存在していた青鳥竜達の話をするが、
その時の光景を上手く説明する事に苦労している様子である。
「ん? 青鳥竜達がか? 立ち去ったって言う事か?」
ミレイの台詞を聞いたシヴァは、自分なりにミレイの目の前に映っていたであろう光景を構築し、その自分の考えを確かめる。
「立ち去った……って
ミレイはもうすぐ夕方に近づきつつある空に軽く目を向けながら、あの時の情景をどう説明すれば良いかを
自分のボキャブラリーの中にあるものを必死で引っ張り出しながら答えていく。
その中で、架空の世界で超人的な能力を発揮する職業をふと思い浮かべ、その人間が消える際の効果音も
言葉で表現してよりそれらしい空気を作る。
「ああなんか大体予測は出来るが……。どっちにしても今気になるのは、こいつだな。青鳥竜の長についてだ」
シヴァは再び青鳥竜の長を見下ろすが、もっと調べたいという一心があるのか、しゃがみこんだ。
δ◆◆δ 騒動はそれで終わり? / LOVABLE GIRL?? δ◆◆δ
青鳥竜の長は他の青鳥竜とは異なり、死んでも尚、その遺体が燃え尽きる事は無かった。
結果としてアビス達にそのまま形として残される事になってしまう。
気になる部分が多すぎる今回の戦いだったが、青鳥竜の集団だけで今回は終わらせてくれなさそうである。
よく見てみると分かる。青鳥竜の長の周りに集まるアビス達を物陰から覗くように見ている人間の姿があったのだ。
そう、ただ、それだけの話ではあるのだが……
「あれぇ〜? もう倒されちゃったんだけど〜、どうしますか〜?」
周囲に誰もいない建物の影で、右の爪先だけを地面に立てながら何かに話しかけている人間の姿があった。何だか少しだけ生意気そうな印象の見える女の子の声であり、その人間自体も女の子である。
しかし、最も注目すべき点は性別では無かった。話しかけている
――黄色く燃え上がる不気味な球体がそうである……――
まるで人魂のように燃え上がるその黄色い炎が、胸元ぐらいの高さにまで持ち上げられた漆黒の手袋に覆われた右手の上で宙に浮いている。しかし、そこで驚いたり、疑問を抱いたりするのはまだ早すぎるだろう。
『オルゲゥテュウレイット』
その黄色い炎の塊は、この世界の人語とは到底思えないような言語を放ち、同時にその発音に合わせて黄色い球体が光ったり、暗くなったりする。その炎はもしかすると1つの意思を持っているのかもしれない。声色自体は非常に低いものを感じ取れるが、女性のような雰囲気があるのがやや不思議である。
「え〜そんなぁ〜。いいじゃないですか〜最近ワタシ全然仕事してなかったですし〜、お願いですよ〜」
驚く事に、その少女は
右手を黄色い火球の下から離し、奇妙な色合いを見せた黄緑の背中まで伸びた長い髪を弄り出す。どうやらその火球は
『バールメィイル!!』
再び解読出来ないような声が火球から放たれるが、声そのものに重みも乗せられた雰囲気が漂い、きっとこの少女の発言が何かに背いた証拠なのかもしれない。
「……はいはい分かりましたよ〜。でも夜まで待つのって案外しんどいんですよ〜? どうやって暇潰しすればいいんですか〜」
恐らくは高度な学者でさえ理解出来ないであろうその言語を平気で読み取るこの少女からは非常に異質な空気が放たれるものの、黒い手袋と袖のやや短い濃い緑をイメージした服の間から見える腕の色は案外白く、結構可愛い部類に入るのかもしれない。
ただ、今はまだその容姿を窺い知るまでに至らないが。
『ジャリルミルビックルベイケッド……。バシュライル……』
きっとこの黄緑の髪の少女が出してきた質問に答えているのだろう。黄色い火球は点滅を続けながら、再び異世界を思わせる不思議な言語で喋り続ける。
「え〜? この前だって深緑竜2
きっと少女は飛竜の相手でもしたらどうだと火球から提案を下されたらしいが、その余裕な態度が、今話している内容の奥深さと物騒な光景を送り出す要因を作り出している。
先程の青鳥竜達は彼女が送り出したものであるらしいが、とてもこの世界で通用する能力とは思えない。
『シェンベイクィリマイベイキルヘェル……。センヴェエルバイナィス
再び黄色い火球は点滅を繰り返しながら、まるで何かを強く意識させるような感情を込め、やがてその火球は燃え尽きるかのように消滅した。
「あ、消えちゃった……。でも任せてね、ワタシだって
目の前で消滅してしまった火球を見て一度少女は呟くようにそう言った。
完全に話す相手がいなくなった少女はまるでこれからの自分の予定を振り返るかのように、独り言で建物に寄りかかりながら喋り出す。予定の上では、ネーデルを単独にさせようとしているらしい。
「じゃ、ネーデル。今日の夜中、じっくり楽しもうね?」
そして少女はゆっくりと建物から背中を離し、青鳥竜の長の周りに群がっている人間達から遠ざかっていく。
ネーデルの丈とほぼ同じである濃い緑のスカートが少女らしさを見せており、まるで内側に
しかし、その歩く後姿から感じ取れるものは、これからの余興だけである。
■κκ■ 終わらない夜が始まるよ…… // NIGHTMARE IN THE MIDNIGHT…… ■κκ■