「って早っ! 決まんの!」
数秒もしない内にメンバー分けが終わり、思わずアビスはそのあっさりとした光景に驚きを見せるばかりである。とは言え、時間との戦いとも言えるハンターの世界では俊敏な決断が必須になるのかもしれないが。
――即座に決まったメンバー アビスとミレイ スキッドとクリス――
「それよりさぁ、決めた時の基準って……何?」
クリスの横に立ちながら、何故か誇らしげに笑みを浮かべているスキッドが気になったミレイは、何を元に決定したのかを聞こうとする。当然、ミレイの想像の中にはスキッドのまともな考え等微塵も含まれておらず、淫らな内容ばかりが中を埋め尽くしている。
「どうせお前ただ女の子と組みた……」
「違ぇよ! 遠距離と近距離で組んだ方がバランスいいだろ? だから敢えてこう言う組み合わせにしたって訳だぁ! おれってあったまいい〜!」
アビスから事実にも近いばれてはいけないその言葉を乱暴に何とか遮ったスキッドは、近距離専門で戦えるハンターと、遠距離から援護や牽制の出来る遠距離専門のハンターで分かれれば、非常にバランス良く戦えるであろうと、自分を誉める。
――
今回、二人ずつ
近距離同士なら― ― ―確実に狙う場所によって邪魔になる。
遠距離同士なら― ― ―攻撃場所で邪魔になる事は無いが、その代わり、残された二人が同じ属性となり、結果は悪い。
ここはやはり、遠近のバランスは保つべきであろう。選択肢は、近距離と遠距離に限定する方がこの先の都合は良いであろう。
「何自分の事誉めてんのやら……。それだったらあんた、アビスと行けばいいじゃん。アビスだって立派な片手剣使いよ?」
ミレイはどうせスキッドの事なのだから、女の子と二人っきりになりたいだけだろうと、ほぼ正解とも言える予測をしており、そうはさせまいと、男チームと女チームで分けるように、勧める。
「お前バッカだな〜。世の中なぁ、互いに理解し合うってのも大事だって分かってねぇなぁお前って奴はぁ。おれはさぁ、まだクリスの事あんまり理解してない訳だから、こう言う時に共に戦って、して相手を理解し合う! これぞまさに狩猟の醍醐味って奴だぜ!」
スキッドは数歩進んでミレイに近寄り、バカにするかのように指を突付くように差し続けながら、ある意味ハンターの心得とも言えるような、説得力があるのか無いのか分からないような説明を、自信ありげに言い放つ。それに対してミレイは何か口を挟もうとしたが、スキッドはミレイを無視するかのように、再びその口を動かそうとする。
――確かに互いを
少女相手に
「あのさぁ……」
「けどアビスは残念だけど、クリスとは行けないんだよなぁ。だってお前、片手剣だろ?」
さっきまでミレイの事ばかり見ながら喋っていたスキッドは、突然その目線をアビスへと向け、勝手にクリスとの同行を禁止するような事を、どこか嫌味のように言った。
「お前絶対クリスと行きたいだけだろ?」
突然嫌味事みたいに言われたアビスは、スキッドの考えを見通し、伺った。少し呆れたように目を細めながら。恐らくはミレイも同じ事を考えており、それを言おうとしたが、アビスが代わりに言ってくれた、と言った感じだろう。
――アビスの発言は大正解である。流石はスキッドの幼なじみであり、友人である。
「そう言う訳じゃねっつうの。相性がいいから、おれはこう言うメンバーはどうだ? って言ってるだけだぜ。こんなとこで時間食ってんのも不味いから、さっさと行っちまおうぜ。なぁ?」
アビスにも引き下がる事無くスキッドはとことん自分の意見を押し通し、そしてすぐ右にいるクリスの肩をやや乱暴に叩く。
「う、うん、そうだね……。私はスキッド君とい……っしょでも大丈夫だから! そこまで心配しなくても大丈夫よ!」
クリスもスキッドを庇うように、焦るように頷いた。咄嗟の事だった為に口調が途中途切れ途切れになるが、何とか言い切った。その途切れ振りがスキッドに対する嫌気でなければ良いのだが。
「まあいんじゃない? こっちはアビスと一緒に怪鳥の方行くから。スキッド、あんたクリスに変な事したら許さないわよ」
スキッドのその妙な気合にもう匙を投げたのか、ミレイはアビスと共に怪鳥討伐の方を受け入れ、そしてスキッドに忠告を投げかける。その時の声はどこか、力の抜けたような、疲れた印象を与える。
「お前ぇ、おれの事疑ってんなぁ?」
ミレイのその態度に、スキッドは少しだけ眉間に皺を寄せ、ミレイに近寄るが、ミレイの隣のアビスに一言、付け足される。
「誰だって疑うだろ?」
それを聞いたスキッドは、固まったような表情を見せるも、クリスのフォローがそこに走る。
「いや大丈夫! スキッド君はそんな事しないから! きっと私のピンチも助けてくれるよ! だからそんなに心配しなくても大丈夫だから、ねっ? スキッド君」
アビスとミレイの疑ったようなその目に気付いたクリスは、両手を差し出してスキッドを追い詰めるような視線を何とか遮り、スキッドの地位を守り通そうとする。
「ほら、クリスだってこう言ってんだぜ! そっちもちゃんと頑張ってくれよ!」
クリスに守られたスキッドは、クリスに便乗しながら、そして右親指を立ててその拳を力強く前に突き出しながら、アビスとミレイに応援の言葉を投げかける。
「分かったわよ、ったく……。クリス、スキッドの事頼むわね。それと、スキッド、これ」
ミレイは一度溜息を吐いて諦めるように納得すると、クリスにスキッドを任せ、そして、スキッドにある程度の重量の誇る樽爆弾の入ったザックを押し付けるように渡そうとする。
――
小型の爆弾ではあるが、今回の
これが最終的な決断を下し、あの
小さいが、人間が出来ない事をしてくれる。それが、爆薬と言うものだ。
「はいは〜い、これで洞窟爆破させんだよ……ってちょい重いな」
片手で受け取ったそのザックは、重力とそのザックが持つ重量の影響で、スキッドの右手を地面の方向へと引っ張る。思わずスキッドはそんなやや重苦しい雰囲気を出した声をうっかり出してしまうも、それに対して特にミレイは何も言ってこなかった為、スキッドもわざと惚けるようにそっぽを向く。
「じゃあスキッド、そっちは頼んだぞ。俺達は怪鳥んとこ行ってくっから」
「OK! じゃ、合流はここでいいな?」
アビスはザックを右肩に下げているスキッドに、一時的な別れの言葉を告げる。スキッドも、今四人が立っている場所、崖の隅に生えている巨大な大木が目印に出来るであろうその場所、地面に左手の指を差しながら、それぞれ二つのペアは、目的の為に怪鳥の待つであろう草原の奥、そして、
*** ***
アビスとミレイは、視界の確保、前進に殆ど支障の出ないほどに点在する木々の間を歩き抜けながら、その林とも呼べるその大地を進んでいる。
「まだ鳴いてるわね……。アビス、なんかあの怪鳥ちょっと妙だと思わない?」
未だに音量的には他の飛竜に遥かに劣るが、その鳴き声とも呼べる咆哮を未だにあげ続けている怪鳥に何か違和感を覚え、ミレイはアビスにそれに対してどう思うかを訊ねる。
「鳴いてるって……。んと、どうだろ? ごめん、分かんねぇや……」
アビスは首を傾げて一瞬考えるが、生態について深く考えた事の無いアビスにとってはその問題は難問に等しく、期待を裏切った事に対して軽く謝罪する。
「はぁ……。相変わらずね。分かったわよ、でも元々飛竜ってのはさぁ、鳴くタイミングっつうのかなぁ、鳴くのって大抵誰か敵が目の前に現れた時にするものなのよ。だからもし今鳴いてるって事は……」
「今誰か怪鳥と戦ってる奴がいるって事か?」
元々怪鳥、それを含めた飛竜と言うのは、単独で動いている場合は、よほどの事が無い限り、鳴き声や咆哮を発する事は無い。鳴き声や咆哮は、人間で言う言葉のようなものなのだから、それを伝える相手がいないと言うのに、その行動を行うのは通常はあり得ない事と言えよう。
しかし、今は二手に分かれたその時からずっと鳴り止まず、まるで狂ったように、それは止まらずにいる。
「多分、まさかバウダー君とダギ?」
アビスのその『誰か』と言うのは、恐らくはクエストとしてやってきたあの二人であろう。もし誰かがここにいるとしたら、それ以外はありえないとミレイは考える。
「だとしたら嬉しいよな」
今回の目的はその二人の救助でもある。その二人が現れれば、即座に任務の内の一つが成功する事になる。それを思い浮かべながら、どこか呑気に空を見ながら口に出す。
「でもそろそろ鳴き声も大きくなってきた、って言うより近くなってきたわね。アビス、そろそろ準備した方がいいわよ」
ミレイは一度その鳴き声の言及に対して自分で訂正を加えた後、すぐ隣にいる異性の仲間に、武器を構えるように言った。本人も背中の畳まれている弓を開きながら。
――相手は飛竜最弱とも名高いあの怪鳥、即ち、怪鳥。
だが、
だとすれば、最弱と言う汚名は既に払拭されているだろう――
「ってかさぁ、こうやって二人だけで戦うのって、始めてだよな」
アビスは背中のデスパライズを構えながら、隣の少女に横目で見ながら聞く。
「確かにね。クリスやスキッドも頑張ってるだろうから、あたし達も本気でやらないとね」
ミレイは一瞬笑みを浮かべながら、今洞窟方面へ向かっているであろう、スキッドとクリスを思い浮かべる。
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